風祭文庫・バレリーナ変身の館






「芭蕾館」



作・風祭玲

Vol.009





「じゃぁね」

「うん、また明日」

学校帰り、ガールフレンドの頼子と別れると

僕は山を下り始めた。

僕の街は昔っからある通称”下の原”と

バブルの頃に開発された”上野原”とに分かれ、

学校と彼女の家は上野原に僕の家は下の原にあった。

鬱蒼と木が茂る坂道を降りながら、

「そう言えば最近この辺で人が失踪する事件があったなぁ…」

っと最近街をにぎわしている謎の失踪事件を思い出した。

なんでも、黄昏時道を歩いていた人が忽然と姿を消す言うモノで、

一時、TV局がカメラを担いでいる姿を目撃した。

”工事中につき通行止め”

下水道工事を示す看板を見た僕は

「ちぇっ仕方がないな…」

と思うと

子供の頃よく使った回り道を久々に歩いた。

何年かぶりに歩く山道、

記憶をたどりながらの道中だったためか、

途中で道に迷ってしまい、

いけどもいけども山道が続いていた。



やがて日が完全に暮れ空が夜空に変わった頃、

あたりに霧が漂いだした…

「まずいなぁ…」

辺りを見回しながら僕が呟くと

何処からかピアノの音が聞こえてきた。

「あっ近くに家があるんだ、

 ちょっとそこで道を教えてもらおう」

と思ってピアノの音の方向へと道を急いだ、

すると霧の中から1軒の洋館が浮かび上がってきた。

”芭蕾館”

とかかれた表札を横目に見ながら、

僕は玄関に立つと、

「すみませーん」

と声をあげた、


♪〜♪………

しばらくするとピアノの音が止み、

「はい」

と言う声とともに玄関の戸が開き人が出てきた。

出てきた人の出で立ちは

黒のレオタードに白いタイツそして

バレエのトゥシューズを履いた女性だった。

僕は目のやり場に困りながら、

「あのぅ、道の迷ってしまって……」

と言うと、その人は急に、

「まぁ、入団希望の方ですか?。

 ちょうどよかったわ、さっ入って入って…」

っと言いながら僕の腕を引っ張ると

強引に建物の中へと押し込んでいった。

突然のことに僕は、

「えっ、ちょっとちょっと…」

と叫びながら、

その人の手をふりほどこうとしましたが、

グイグイと中へと連れていかれた。

「なっ、なんですか…」

訳が分からない僕は

やがて稽古場のようなところに連れてこられると、

色とりどりのレォタードに身を包んだ女性達が

一斉に僕に注視した。

「!!!」

驚いている僕に引っ張ってきた女性が前に立つと、

「実は今夜、私たちのバレエ団による”白鳥の湖”の公演があるのです。

 ただ、困ったことに私たちの中では
 
 主役のオデットをこなせる者がなく、

 誰か頼りになる人を探していた時、
 
 運良くあなたがこちらに見えられて…

 それで、ぜひお願いがあるのですが、

 私たちのプリマ・バレリーナとして舞台に立ってください。」

っと言って頭を下げた、

「ばっバレリーナ?…僕に?」

僕は驚きの声を上げると

「っちょちょっと、

 僕はバレエなんて知らないし踊りもできませんよ、
 
 それに…」

っと言ったところで、

「あっ、御心配には及びません。

 私たちが責任を持って、
 
 あなたを立派なバレリーナにしてあげます」
 
と言うと

「さっ、この方に衣装の準備をしてあげて…」

と指示を出した。

するとレオタード姿の数人の女性が僕に近づき、

たちどころに学生服から下着まで着ているものをすべて脱がされれた。

「うわっ、何をするんですか!!」

と僕が叫び声をあげると、

一枚の大きな鏡が僕の前に据えられ、

「まずは、そのお体を直します」

と言うと、

すると、どうしたのだろうか

僕の髪の毛がススス…っと急に伸び始めると、

手はどんどんと細く白くなり、

広い肩幅は彼女達と同じ程度に狭まった。

さらに、胸に風船のような乳房が盛り上がると、

腰がキュっと絞まり、

そして最後に臀部がググっと大きくなっていった…

最後に、股間からオトコのシンボルが消えオンナの唇が現れると

僕の身体はオトコからオンナへと変身した。

「そっそんなぁ…」

あまりのことに驚いていると

「お綺麗ですよ…」

っと彼女達はすっかり女性化した僕の身体をほめると、

今度は稽古場の奥からバレエ衣装を持って来て、

バレエ用のアンダーショーツ

白のバレエタイツ

ピンク色のトゥシューズ、

そして真珠色のクラッシックチュチュ

と言う順番で丁寧に着せた。

「それでは、メイクをします。」

と別の女性言うと、

手際よくテキパキと僕の顔にオデット姫のメイクを施すのと同時に、

伸びた髪の毛をまとめ、

頭に白い羽根飾りと王冠をつけると

彼女たちは僕の側から離れて行った。

「いかがですか?」

僕を連れてきた女性が僕の横に立ってそう言うと、

目の前の鏡に映った僕の姿は

白タイツに真珠色のクラッシクチュチュを身にまとい、

頭には羽根飾りと王冠をつけ、

足先にはピンク色のトゥシューズを履き、 

舞台用の濃厚なメイクを施した、

何処から見ても

”バレリーナ”

と言う言葉がピッタリな出で立ちになっていた。

僕がバレリーナと化してしまった自分の姿を呆然と見つめていると、

突然「白鳥の湖」の音楽が流れはじめた。

すると僕はスクッとつま先立ちをし、

知らないはず「白鳥の湖」を踊だした。

「そっそんなぁ、僕はバレエなんて知らないはずなのに…」

僕は驚いたが、でも僕の身体は音楽に合わせて踊るのをやめなかった。

女性達は稽古場を所狭しと踊っている僕の姿を見て満足そうに頷くと、

音楽が止まった。

「あなたはもぅ立派なバレリーナ…

 このバレエ団のプリマ・バレリーナです。

 さぁ、もぅすぐ幕が上がりますので、
 
 どうぞ、こちらへいらしてください。」

言うとようやく踊るのを止めた僕の腕をつかみ

隣の建物へと連れていった。

そこは大きな劇場だった。

僕が到着すると、そのまま舞台そでへとつれて行かれた。

そこには、このバレエ団の他の団員達が既に待機していて、

僕たちの到着を待ちわびている様子だった。

「みんな聞いて、

 この方が今回のオデット姫です。
 
 さぁ舞台を成功させましょう。」

と言うと、僕は舞台へとつれて行かれ、

そしてスポットライトの光と闇が支配する中、

僕は流れる音楽に乗って僕は白鳥全幕を踊り通した。

やがて幕が下り、あふれんばかりの拍手の中で、

「どうもありがとうございました、

 貴方のおかげで私どもの公演は大成功でした。

 あなたは、もぅ、何処から見ても一流のバレリーナです。

 これからずっとバレリーナとして生きていってください。
 
 では…」

と言う言葉とともに、

あたりはフッと暗闇になった。

ハッと我に返ると、

僕は工事を知らせる看板の前に立っていた。

「あれは夢なのか?」

と思って自分の身体を見ると………………


そぅ、僕はクラッシックチュチュに身を包んだバレリーナの姿のままだった。

「あぁ…そうだ…ばくは、

 バレリーナ…
 
 バレリーナなんだ…

 次の舞台を探さなくては」

そう呟くと僕は夜の闇の中へと消えていった。



おわり