風祭文庫・アスリート変身の館






「空き教室の中で」



原作・nao(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-291





「おい、博康。

 空き教室の噂って知っているか?」

「空き教室の噂?」

それは昼休みのことだった。

給食を食べ終えて教室の外に出ようとした塚本博康に向かってクラスメートの伊達薫が声を掛けると、

いきなり旧校舎にある空き教室の噂について話し出した。

「その空き教室にな、

 女子が20人前後集まって何かをしているみたいんだ」

「ふーん、そうなんだ。

 それで?」

煽るようにして言う薫の話を博康はつまらなさそうに聞いていたが、

「でさっ

 3組の仁科唯ちゃん、

 4組の工藤政恵ちゃんに荻原琴美ちゃん、あとは…」

と薫が話したところで、

「え?

 荻原…琴美?」

空き教室に出入りする女子生徒の中に幼馴染みの荻原琴美の名前が出た途端、

「琴美って荻原琴美の事だよね?」

と聞き返した。

「そっそうだよ」

「なぁその話、詳しく話してくれよ」

「あっあぁ」

その後の薫の話によると旧校舎の2階にある空き教室に女子生徒が集まるのだが、

どういう訳か中から響く声は男の声ばかりで女子生徒の声がちっともしてこないらしい。

中学校に入ってクラスが別々になったとはいえ、

幼稚園から小学校までずっと一緒だった琴美がその空き教室に出入りしていることに

博康はだんだん心配になってくると、

「よし、僕がその空き教室の真相を暴いてやる」

と腕を捲り気勢をあげた。

「え?

 マジ?

 いやぁ止めた方が良いと思うけど」

博康のその言葉を聞いた途端、

散々煽っていたはずの薫が止めに入るが、

「なんだよっ、

 止めたって無駄だよ」

と博康は聞く耳を持っては居なかった。



そして迎えた放課後、

女子生徒が次々と空き教室に入っていくのを見届けた博康は、

「なるほど、

 男なんて一人も居ないか」

と空き教室に女子しか入ってないことを確認する。

そして、

「で、

 この後、男の声が教室から聞こえてくるんだったよな」

昼休み、薫が言っていたことを思い出すと、

そっと空き教室へと近づいていくが、

「セイッ!」

「ヤッ!」

「まわせっ!」

「動け動け!」

薫の言葉通り、

空き教室から野太い男の声が響いて来るではないか。

「えぇ?

 確かに男の声がする」

それらの声を聞いた途端、

博康の頭は混乱し頭を抱えてその場に蹲ってしまうが、

直ぐに立ち上がると、

「よっよしっ

 とにかく確認をしないと」

不審に思いつつもそっと扉を開けて中を覗いて見た。

「え?

 これが教室の中?」

覗き込んだ博康の目に映ったのは4・5倍程広く感じる教室の中で、

女子用水着のようなユニフォームを身につけた屈強な男達が取っ組み合いをしており、

ある者は抱き合うように相手を引き倒し、

またある者は引き倒した相手に固め技を掛けているところであり、

またある者は教室の端で柔軟運動をしている真っ最中であった。

「なんれこれは?

 それにしてもおかしいな、

 入っていった女子達はどこへ行ったんだ?」

女子の姿の欠片もない教室内の様子に

博康は身を乗り出すように覗き込んでいると、

「お前、そこで何をしている?」

と言う声が響き、

ムンズッ

博康の襟首が掴み上げられるのと同時に教室の中に引きずり込まれた。



「お前、俺達の秘密を探ろうとしていたな」

「覚悟はできているな」

「いや、

 あのぅ…」

教室の真ん中に引きずりだされた博康に向かって、

ユニフォーム姿の男達は代わる代わるのぞき見をしていたことを糾弾し、

それらの男達に囲まれた博康は言い返せずビクビク震えているだけであった。

するとリーダー的な存在である男が立ち上がり、

「レスリングで勝ったら君を見逃してあげるよ」

と提案したのである。

「え?

 レスリング?」

その言葉に博康は改めて男達を見ると、

女子用の水着と思っていたユニフォームはレスリングのシングレットであり、

この部屋にいる20人ほどの男達は皆このシングレットを着ていたのであった。

「さぁどうする?

 俺達とレスリングで勝負をするのか、しないのか」

提案をした男が選択を迫ってくると、

コクリ

博康は首を縦に振って返事をして見せた。

すると、

「判った。

 じゃぁ、これを着ろ」

と言いながら男は博康にシングレットを手渡すが、

「でも、

 ぼ、僕、レスリングなんてしたことがないんですが」

渡されたシングレットを眺めながらそうこぼす。

その途端、

「博康、頑張れ」

「エッ?」

突然、どこからか自分を応援する声がすると、

それに驚いた博康は周りをキョロキョロしてみせるが、

しかし、彼の目に入るのは屈強の男ばかりであった。

けど、その言葉に勇気づけられた気がした博康は制服を脱ぎ、

手渡されたシングレットを身に着けたのである。



「あんな細い体で勝てるのか」

「怪我しないうちに止めとけ」

そんな様々な声が飛び交う中、

博康の前に一際背の高い男が立ち、

「手加減をするつもりはないからな」

と言うなり瞬く間に男は博康の体を抑え込んで見せる。

「く、苦しい」

「どうだ、まいったか」

「負けるもんか」

博康は無我夢中で男の体を振り解いて見せると、

「ほぉ」

それに感心する声が教室内に響いた。

「なかなかやるな」

「ハアハア」

「これでお終いか」

「まっだま…」

一回目の勝負であるが、

レスリングなんてしたことがない博康の体力はすでに限界に達していた。

「よーしよし、

 いいよ、その根性。

 じゃぁ今度は手加減なしでいくぜっ」

「くっ」

疲れ等全く感じないらしく男は一瞬構えて見せた後、

ハンターの如く博康を捕まえてしまうと、

一気に引き倒して見せる。

「おらおら、

 固めに入ったぞ。

 このまま一気にフォールしてやろうか」

「くっ苦しい」

さっきとは違ってガッチリと固め技が決まり

博康は男の体から染み出してくる汗とその臭いに包まれていく。

「ぐぐぐぐ…」

万事休す。

力で押さえ込まれた博康に逃げ出す術など無くただもがいていると、

「ほらっ

 背中を床に着けない。

 このままだったら負けになっちゃうよ

 こういうときは首の力で背中を上に上げる」

と言う声が博康に耳に響いたのであった。

「え?」

またしても響いた応援の声に博康は驚きつつも言われた通りにしてみせると、

「おっ、

 ブリッジか、

 生意気だな。

 つぶしてやるぜ」

それを見た男は背中を上げた博康に体重を掛けて潰し始める。

「ぐぅぅぅ」

叩き付けるようにして潰しに来た男の攻撃に博康は必死に耐えていると、

「手が留守になっているよ。

 相手が体を上げたときに逆に抱きついて、

 思い切り体をよじるのよ」

とまたしてもアドバイスの声。

「うっうん」

もはや疑うことなど無かった。

男が体を浮かせた瞬間を捉えて、

博康は男に抱きつくと渾身の力を込めて体をよじってみせる。

すると、

グリンッ!

博康の体が半回転してしまうのと同時に、

ダンッ!

男の上に出た博康が今度は男を潰す格好になってしまったのであった。

「さぁ、

 そこで一気に潰す。

 手加減しちゃダメ」

耳に響いてくるアドバイスに博康は頷くと、

「うらっ」

全身の体重を掛けて背中を上げて耐える男を思いっきり潰し始めた。

「くぅぅぅぅ…」

まさに我慢比べである。

そして、ついに男が力尽きたのか、

体から見る見る力が抜けていくと、

「フォールっ」

と言う声が響いたのであった。



「うそっ

 僕、勝ったの?」

腕を上げさせられながら博康は呆然としていると、

「いやぁ、

 さすがだね」

汗だくの男が起き上がるなり話し掛けるが、

突然、

プクゥゥ

男達の胸が膨らみ始めたのである。

「ダメ、元に戻っちゃ

 あぁ力が抜けていく」

鍛え抜かれた男の筋肉が削がれる様に落ちていくと

手足が華奢になり、

引き締まったお尻が丸みを帯び、

股間の膨らみが消えていく。

「こ、これは…」

「あーぁ、戻っちゃった。

 でも頑張ったじゃない、博康」

驚く博康の目の前にブカブカなシングレットを身に着けた琴美が立っていて、

ニッコリと博康に微笑みかけていた。

「こっ琴美?

 え?

 えぇ?」

思いがけない展開に博康は困惑してみせつつ、

「じゃっじゃぁ、

 さっき声を掛けたのはお前なのか?」

と問い尋ねると、

「えぇそうよ」

琴美は頷いてみせる。

その直後、

「いっ一体、

 なにが、

 どーして、

 こーなっているのか、

 判るように事情を説明してくれ!」

と言う声が教室に響いたのであった。



「なるほど…

 レスリング部再興のためねぇ…

琴美達から事情を説明して貰った博康は感慨深げに頷いてみせると、

「そういうことなの

 これも、まぁ人助けってことよ」

と琴美はあっけらかんと答えてみせる。

「そっか、そう言うことか。

 レスリングなんてとても出来ないと思っていたけど、

 実際にしてみると結構簡単なんだな…

 これも琴美のアドバイスのお陰かな?

 いろいろ応援してくれてありがとう」

「ううん、

 私こそ心配かけてごめん」

「でも、男に変身してレスリングをするなんて、

 やっぱり変人じゃないか」

「男でなきゃダメなのっ

 それに変人で悪かったわね」

琴美とそんなやりとりをした後、

「キャプテンに舞さん」

背後に向かって尋ねながら博康が振り返ると、

そこには2年生の斎藤幸奈と江原舞が一糸纏わぬ姿で立っていて、

「すいません、変人なんて言って」

と詫びつつ頭を下げて見せる。

「確かに私達のしている事は変わっているわね」

「それにしても、私相手によく闘えたわね」

感心しながら舞は返事をすると、

博康は華奢な自分の腕を掴み、

「まぐれですよ」

と謙遜してみせる。

そして、

「いいえ、あなたには才能があるわ」

「そうかな」

「博康、もっと自信を持ちなよ」

「うっうん」

等と励まされてしまうと、

博康自身も次第に自信を持つようになったのである。



それから数週間後、

「うらぁ」

「まだまだ」

教室の中ではシングレットを身に着け、

全身汗だくになってレスリングの練習に励む博康の姿があった

「少しは逞しくなったね」

「みんなに鍛えられたおかげだよ」

そう言って博康が腕を曲げて見せると、

立派な力瘤が隆起しており、

「ここも盛り上がっているみたいね」

と琴美がシングレット越しに盛り上がっている博康のペニスに手をやると、

「やめろよ」

博康はいやがって見せる。

「なぁに言っているの

 こんなに大きくなって、

 エッチな事を考えているのかな」

「この、お返しだ」

博康が琴美のシングレットを脱がし二人とも裸体となって絡み合い始めた。

その様子を見ていた幸奈と舞は、

「うふふ、

 男同士で絡み合っちゃって」

「でもあの二人、楽しそうね」

「今はそっとしておきましょう」

そう言うと空き教室の扉を閉めたのであった。



おわり



この作品はnaoさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。