風祭文庫・アスリートの館






「強化合宿」
(第2話:拓人の変身(後編))



原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-040





「お、おい…都。開けてくれよ」

病院から戻ってきた俺達を待ち受けていたのは、

性別が変わってしまっているという事実だった。

その衝撃に、都はすぐに部屋に篭りきりになってしまった。

無理もない。

俺達はあの謎の世界で…男女の逆転した世界で、

自分達も徐々にそれに適応されていっていたはずなのに

現実には一日すら経っておらず、

事故の起きた一瞬の間に体がおかしくなってしまったと周りには思われているのだ。

特に女の子である都にとっては、

心が壊れてしまいそうになるくらいのショックだったに違いない。

「都…」

俺はすっかり女の子の声音になった声で扉の向こうの都に呼びかけた。

都は、病院から戻ってきてからもう四日も部屋の外へ出ようとしていなかった。



俺は、女の子になってしまったことはショックだったが、

意外と淡白なものだった。

いや、多分…元男であるからこそ、

女の体に興味があるとか、そういうやましい気持ちもあるおかげで、

男としての気持ちを保てているのかもしれない。

それはともかくとして、

今都を助けられるのは俺だけのような気がして、

俺は必死に都に呼びかけ続けた。



それをどれくらい繰り返していただろうか、

「…ひっくひっく…拓人?」

中の嗚咽がようやく、俺の声に反応してくれた。

「都っ!開けてくれよ。

 俺と都の仲だろう?

 俺だって女になっちまってるんだ。だから、な。開けてくれよ」

「…でも、でもぉ」

「苦しいのはお前だけじゃないんだ。

 俺だって同じさ。だから、俺にも話を聞かせてくれよ」

俺の説得にようやく都は固く閉ざされていた扉を開けてくれたのだった。



都と会うのは、四日ぶり…

病院で退院するとき以来だった。

部屋の様子は女の子のときのまま、合宿に出掛ける前と同じだった。

壁にはうちの学校の女子の制服が掛けてあるし

半開きのクローゼットも、女の子の服が並んでいる。

ただ、ベッドの上にだけ、男物の下着…

トランクスや大きな柄のTシャツがたたんで置いてあった。

多分都の両親が用意しておいてくれたのだろう。



「都…」

一瞬暗い部屋の中を眺めた後、俺は四日ぶりの都を見つめた。

ポニーテールの髪、女の子の都のまま顔。

なのに首から下は、四日前と同じく女の子よりかは遥かに筋肉質になった体だった。

「都…」

そして、都に一歩近づくと

都から男の体臭がすることに気が付いた。

多分風呂に入っていないせいもあるのだろう。

余計に男の匂いが強く立ち上っている。

あまり違和感に俺は一瞬くらっとした。



「拓人。あたし…あたし、どうしたらいいのぉ?」

都は女の子のかわいい目に涙を浮かべながら訴えた。

そして、力強く俺に抱きついてきた。

都の変質してしまった汗の匂いがきつい。

男になって体質も変わったのだろう。

鼻の頭も脂汗が浮かんでいた。

そして、少し硬くなったような髪。

「都っ。苦しい」

俺は必死にもがいたが、都は俺の柔らかい体を味わうように

ぎゅっと抱きしめる。

「都っ!!」



「ああっ、拓人が女の子になってる…

 そして、あたしは男の子に…」

都は魘されるように呟くと

右手を股間にやって弄り出した。



「ああっ、んんっ、くっ」

都の股間から肉棒が持ち上がってきて俺の太ももに当たるのを感じて

俺は思わず都を突き飛ばした。



「キャッ!」

都は女の子の悲鳴を上げた。

でも、声は変声期の男の子のようだ。

都はスカートに手を突っ込んでショーツを持ち上げているペニスを弄っていた。



「…都。お前、まだ女の服着てるんだ…」

そんな俺の驚いた声に都は恥かしくなったのか、

ぺたんと座り込んでいた。




「…だからね、パパもママも暫くは女の子のままでいてもいいとはいってくれたの。

 でも、男の子の服も着ることに慣れなきゃいけないって、これを買ってきたのよ。

 なんか、こんなの見せ付けられたらショックで…

 …だって、あたし、まだ女の子のままのつもりなんだもん」

落ち着いてきた都は、

涙でぐじゅぐじゅになったまま、

俺に堰を切ったように話し出した。

やはり、都としては男になってしまった自分を認めたくないのだろう。

俺は、早速とばかり女の…その、色々を調べてしまったが、

都にはそんな余裕があるはずもない。

「なのにね、女の子の服、きつくなってきてるんだ…

 男の子になってまだこっちでは一週間も経ってないのに。

 ウェストなんかきつくなっちゃって制服は、長時間着てられないし

 スカート履いてると、オチンチンが飛び出しちゃうし…

 えぇ〜ん、なんであたしがこんな目に遭わなきゃいけないのっ」

なんだか、スポーツ少女で活発な都の意外な一面を見たような気がした。

いつも突っかかってきて馴れ馴れしい奴だとは思っていたが

やはり内面はそれなりの乙女だったのだろう…

と女になった俺は思った。



「ねぇ、拓人。

 あたしの体、見てくれる?」

一通り話し終えた後

都は思い詰めたように立ち上がっていった。

「…え!?

 ああ、ていうか、都がいいなら構わないけど」

「そう…」

都は、ちょっと目を細めるとブラウスを脱ぎ始めた。

プチプチ

ボタンを外すたびに逞しくなった胸板が見えてくる。

とはいえ、都はまだブラジャーはしていた。

「あ、ん…

 な、なんか変態みたいだね、あたし…」

都は作ったような苦笑いを浮かべてブラジャーのホックも外す。

すると、

ムキっとした胸板と小さく縮こまった乳首が見えた。

「…ほんとに男になってる」

俺は都に聞こえないように呟いていた。

そして、都は驚いている俺の前でスカートに手を掛ける。



パサッ

軽い音と共にスカートは崩れ落ち

ピクッ

まるで棒でも入れているようなショーツが姿を現した。

俺は都が女の子だったことを分かっているからまだいいが

知らない人間が見たらただの女装している男だ。

俺の視線に羞恥心を刺激されたのか、

都は視線を逸らすように横を向くと

静かにショーツを脱ぎ始めた。



ピョコンッ

その途端、空中に飛び出すペニス。

前見たときは…ただのクリトリス(…大きさはペニス並みだったが…)のに

今はカリが張り出し、鈴口の付いた完全なペニスへと変貌していた。

「あ、うっ」

それを見た途端俺はなぜか恐怖心を感じて後ろに引き下がった。

多分、女の子としての本能が危険を察したのだろう。



「あ、ごめん。

 今、拓人は女の子だったもんね。

 …いきなり見せて、ごめん」

都は顔を真っ赤にして俯いた。

でも、男性化した肉体と女の子っぽい仕草がミスマッチだった。

「はぁ…まったく、前はいきなり襲われたからな、俺」

「ごめん、拓人。

 あたしも…そんなつもりじゃなかったんだけど…

 拓人がいきなりあたしのクリトリス握ったから…」

都もさすがに申し訳なさそうだ。

確かにあのときはマジでびびった。

都が野性の男という感じだったからな。



「あ、あのね…拓人。

 実はあのときだったんだ。

 あたし…あたしが本当の男になったの」

都は自分のペニス化したクリトリスを見ながら打ち明けた。

「ふ〜ん、そうだったのか」

「あの、意識飛ぶ前ね。

 あたし、クリトリス…その、なんていうか…

 拓人の中に入れてたでしょ?

 それで、いく寸前にね…

 クリトリスの先が割けるのを感じたのよ、あたし。

 それで、あっあって思ってたら

 我慢できなくなってクリトリスの根元が何か沸きあがってきて…」



「それで、初めて射精したってわけか」

俺の声に都は恥かしそうにコクコクと首を動かした。

「まさか、都が男になっちまうなんてな。

 …俺も女になっちまったけど」

「ねぇ、あの世界ってやっぱりあったんだよね?」

「何いってんだよ。

 だから、今、俺達がこうなっちまってるんだろ?」

「そうだよね…

 …ちょっと安心した。
 
 あたし、自分だけおかしくなっちゃったのかと思ったから」

「…でもさ、変な世界だったよな。

 女と男が逆転した世界か…」

「そうだよねぇ…」

「顔は女なのに体は男な『女』で、顔は男なのに体は女な『男』か。

 まさか俺達までそうなっちまうとは…」

「そうだよねぇ。

 あたしも着いたそうそうびっくりしちゃった。

 いきなりトランクスとか短パンに履き返させられるんだもん。

 しかも男物の…」

「都、そういや風呂ってどうだった?」

「う、うん…その話はしてなかったっけ。向こうで…

 それなんだけど、女の子が股間にクリトリスを伸ばして生やしてて

 大きさ競い合ってたりしたんだよ。

 あたしなんか…全然だったし、馬鹿にされちゃった。

 それで次第に向こうでいてる間にクリトリスが大きくなってきて、

 どうしようかと思ってたら、拓人に会えたのよね」

「しかし、あのとき俺達会ってなかったらどうなってんだろうな」

「…多分、向こうのいうところの『女』にあたしはなってたでしょうね。

 心の中もこっちの男みたいになってきてたし。

 ほんと、やばかったよ。

 でも…体がこんなになっちゃうなんて」

都の声が急に詰まる。

さすがに男の肉体になったことはショックなようだ。

「まあまあ、俺だって女になってんだから。

 お互い様だろ。

 都だって、俺を見てれば気持ちが落ち着くさ。

 こうして同じ境遇の奴がいるんだから」

「…そ、そうかもね」

都は真面目な口調だった。

「ね、ねえ。

 拓人は…その、向こうであんなことしちゃったこと怒ってる?」

「あ?うーん、まあショックではあったかな。

 でも、処女を奪われはしなかったからまだ大丈夫さ。

 それに相手が都だったし」

「…あたし?」

「あ、ああ。悪いかよ」

そう…

女の子になってから、俺は都のことが気になりだしていた。

鬱陶しい存在だと思っていたのに、

女の子になってから急に胸がキュンとし始めていたのだ。

…ふう、どうせ好きだと気付くなら、

 俺は男のまま、都は女のままの方がよかったのだが…

「そっか。ありがとう」

「ああ」

「ね、ねぇ。

 あたしも拓人だから、相談なんだけど…

 あたしを男の子にしてくれない?」

「……

 な、何っ!?」

突然の都の願いに俺は素っ頓狂な声をキンキン張り上げた。

「あ、あたし…

 拓人の前なら、その男の子になる決意ができるかもって思ったの。

 あたし、男になりたいわけじゃないけど…

 でも、拓人のためだったら…」

「都…」

そういう都に、俺はなんかいい雰囲気という奴を感じていた。

やっぱり女の子になってムードというのか、

そういうのに敏感になってしまったようだ。

「だから…ね。お願い」



そのときだった。

キーン

何か変な音が響いたのは…

「な、何?」

そうまるで俺がトンネルの中で感じた…

あの世界へ入ってしまったときのようなその感じ。

でも、光は溢れてくることなく頭の中にだけ響いてくる。



「あっ、いや、何!?うぐっ」

はぁ…

はぁ…

突然都は苦しみ始めると

股間に生えたペニスを扱き始めた。

「いやっ、やめてっ!

 あたし、こんなことしたくないのにっ」

都は必死に首を振るが、

シュッ

シュッ

筋肉質に変質した都の手は慣れた手つきでペニスを扱く。

「都、何を…」

俺は思わず叫んだが、

都は、顔を真っ赤にしたまま、

次第に恍惚とした表情になりつつあった。

「ああっ、あたしが…あたしが変になっちゃう…

 んんっ、くぅ。

 こ、この感覚が…

 なんか当たり前のような…

 あた、あたしぃ。

 いや、なんか…何これ

 何なの、これ?

 あ、俺、俺は『女』だっ。

 違う、あた、あた…お、俺…

 いやっ、なんかがあ、お、れに混ざってくるっ」

俺は感じていた。

そう俺達が侵食した世界…

あのパラレルワールドに逆転した性で現れた俺達の存在で

多分向こうの本来の俺達との接点がおかしくなって

向こうの俺達の精神が流れ込み始めているようなのだ。

でも、俺はまだ体を無理に拒絶していなかったから

まだ影響は少ない。

しかし、今の肉体を拒絶している都には、

向こうの世界の『都』の精神が宿ろうとしている。

そう俺は感じていた。

「あ、あんっ。

 んんっ、駄目。

 感じちゃ駄目。このままじゃ、あ、お、俺、

 男になっちまう。

 ああっ、頭の中が…

 か、かき乱されてるっ!」

都はペニスを激しくせんずりしながら悶えていた。

「ああん、気持ちいいっ!

 駄目、駄目なのに〜、俺、俺っ。

 拓人。お願い、俺を止めてくれぇ。

 ああ、だんだん俺が染め上げられていくぅ。

 このままじゃ

 このままじゃ、あ、おれが俺でなくなっちまう。

 や、やめてくれぇ」

都はすっかり男の声音で叫び始めた。

そして、都のペニスは今まで最大の大きさに勃起すると

ぬらぬらと我慢汁を光らせながら血管を浮き立たせていた。

シュッ

シュッ

シュシュッ

次第に激しくなっていく手淫。

そして、魘される都。

俺は頭痛の中ただ呆然としてそれを見ていた。

「ああ、出ちまう。

 これ、が…ぁ

 ううっ、俺が都でなくなっていくぅ!

 ああっ!!!」

その叫び声と共に都は精液をその巨大なペニスから吐き出した。



その日を境に都は変わった。

むろん、俺も精神の女性化は進んでいるが、それほどひどくはない。

しかし、都は一気に男性化の道を歩んでいた。

多分向こうの『都』との精神の接触で一部の記憶さえも入れ替わってしまったようだ。



「ああ、なんか俺、女だったことが信じられねぇ。

 この下着。

 俺が履いていたのか…ああっ、たまんねっ」



この間見てきて時、都は女だった自分の持ち物をオカズにオナニーしていた。



「おい、都。いい加減にしろよっ」

「う…分かってるって。

 五月蝿いなぁ。

 これでもイヤなことはイヤなんだ。

 男になっていく俺が…

 ほ、ほんとは変だって分かってるの。

 でも、男のあ、あた、俺が…出てきちゃって

 それに、気持ちいいの。

 俺、マジで男に目覚めちまったのかもしれない」

「都…」

「だってさ。

 女だったあたしが射精してるんだよ。

 立ちションもできるだぜ。なんか感動ものじゃねぇか。

 自分が自分でなくなっていくのが気持ちよくってさ。

 興奮して、チンコもおったっちまってよ」

都は嬉々として話していたが、突然顔色が変わった。

そして、目をパチパチとすると、慌てて口を右手でふさぐ。

「…やだ、やだ…

 あたし、また何勝手にしゃべってんの?

 また、あたし、男に…なっちゃってたの?

 ね、ねぇ、拓人。答えてよ、拓人っ!」

いきなり女の子に戻ったような口調の都に俺はただ唖然としていた。



「お前…まさか二重人格とかじゃないよな?」

「…分かんない」

ようやくいつもの都らしい都になった彼女に俺は恐る恐る尋ねた。

「分かんないって…」

「お前、男みたいだったり、女みたいだったりして…

 まるで人格が入れ替わっちまってるみたいじゃないか?」

「それは…そうなんだけど。

 だから、その…気持ちが勝手に入れ替わっちゃうのは自分でも分かってるのよ。

 …でも、入れ替わり始めたら自分でも止められなくって。

 気持ちが男になっていっても、それはそれで当たり前みたいな感じで…

 でも、でもね、いつものあたしに戻ったら怖いのよ。

 変わっていっちゃうあたしが…

 だって、気が付いたらオナニーしてるし

 あたしの下着嗅いでたりするし…

 それにね、

 あたし、男の子になってる自分に興奮しちゃったりするの。

 あたし、トランクス履いて男になってる自分に興奮して、オナニーするの。

 それで、イっちゃったら、今度は女装して男の気持ちになって

 ああ、俺女だったんだ、とか思ってまたオナニーするんだぜ。

 へへ…

 そうそう、この間、俺、エロ本買ってきたんだ。

 やっぱり、女の裸見てするのが一番だよな。

 まあ、でも、女のこいつに男のオナニーさせるのが一番萌えるよな、新鮮で。

 こいつ、『ああやめて、やめて』とかいいながら射精するんだぜ。

 気持ちはいやがってても、気持ちいいのは気持ちいいんだよ、やっぱり。

 射精した後、

 こいつさぁ『はぁはぁ』いいながら自分の精液を手に取って眺めてるんだ。

 それで『あたし、男の子になっちゃったよぉ』とかいって泣き始めるんだ。

 そこで俺が入れ替わってやって、

 今度はあいつの服とか着て女装オナニーして楽しむんだ。

 なんか倒錯的だろ。

 男の俺と女の俺が同居してるんだ。

 こんな面白いことはないぜ」

次第に顔付きも変わり、口調も変わっていく都に俺は言葉が出なかった。

「この間、こいつ女装してるときに

 エッチな気分にさせてやったんだけどさ。

 『駄目ぇ』とかいってこいつショーツぱんぱんになるまで我慢してたんだぜ。

 いい加減男になってるのを認めればいいのに…

 それでショーツが我慢汁でべとべとにさせてから

 ベッドの下に隠していたエロ本を見せてやったんだ。

 そして、こいつ、マジで反応してやがるの。

 女の癖に、もう男の性に目覚めてるんじゃないか、ハハハ。

 『ああ、女の子の体ってこんなになってたんだ』とか呟いて

 チンポ扱き始めたんだぜ。

 だから俺、囁いてやったのさ、

 『お前、やっぱ男じゃねぇか、女に反応してるなんてな。

 ほらほら、もっともっと興奮しろよ』

 ってな。

 そしてあいつ、慌てて耳塞いで『やめて、やめて』って叫ぶんだぜ。

 だから、もっとエッチな気持ちになるように

 男の気持ちを流し込んでやった。

 そしたら、『はぁはぁはぁ』とかいいやがってよ。

 『頭がおかしくなるぅ』っていってから、急にやらしくなってよ。

 自分からオナニーし始めやがった」

『都』はまるで別人のように話していた。

俺は、そんな『都』に思い切って尋ねた。

「お前…向こうの世界の都だよな?

 なんで、こっちの都にそんなことするんだよ」

「向こうの世界の都?

 そんなことワカンネェよ。

 そんなことより、俺はこいつをさっさと取り込んじまいたいのさ。

 俺は男なんだからよ」

『都』は、そういうとペニスを握った。

「ああっ、こいつの体にこれが生え始めた頃から

 俺は芽生えたんだけどさ。

 女を男にするのってたまらねぇ。

 女のこいつが戸惑いながら、男に染まっていくのは面白いぜ」

『都』はそういって、舌をペロリと出すと笑った。



『都』の言った『俺は芽生えたんだけどさ』という言葉に引っかかりを覚えながら

また時間は過ぎていった。

そんな中、都は男の気持ちに飲み込まれつつある。

「あたし、女の子のままでいたいのに…」

たまに元に戻ったとき、都は必死に訴えるが

また気持ちは男に戻っていき、最近は男の『都』でいることが多かった。

そして、内面も男女が逆転した『都』は、性格も趣味も変わり始めた。

多分、これが都が男として生まれてきたときの『都』なのだろう。

その分、女として生まれ育ってきた都は消え去りつつある。

いや、ある意味、

向こうの世界で『女』として生まれていた『都』になりつつあるのかもしれない。

どちらにしても、そんな『都』を見ているのは俺自身辛かった。



「ごめんね、拓人。

 あたし、もう多分元の自分には戻れないよ。

 もう、気持ちがさ、ほとんど男になってきちまってんだ。

 女としての自分の方が実感が湧かなくてさ。

 チンポの感覚が当たり前だし、生まれつき男だったような気がして来るんだ。

 だから、さ、悪いけど…

 俺、あ、あたし、先に行ってるよ。

 もう男になっちまおうと思う。

 夢の中でさ、男の俺に誘われるんだ。

 夢の中では女の子だったあたしも、

 とうとう夢の中でもチンポ生やすようになっちまったし

 もうすぐあいつと一つになっちまうと思う。

 でも、気持ちいいんだぜ。

 自分が溶けていくのが、

 女でなくなっていく、都でなくなっていくのがたまんねぇーんだ。

 あの事故に遭うまで普通の女の子だった俺がチンポ生やして

 気持ちや性格、趣味まで変わっていくなんて刺激的だろ。

 自分が自分でなくなっていくのがわかるんだぜ。

 ああ、また変な気持ちになってきちまった」

そういって今まで都でいようとし続けていた都は

『都』に飲み込まれていってしまった。



それから一ヶ月。

あたしも、女の子の自分を受け入れつつあった。

でも、男の気持ちの方が強かったのだろう。

意外と平静でいられるし、自我が崩壊なんてこともない。

侵食というより、男の方が女を吸収したという方が正しいのかもしれない。

『都』は別の高校で男子高校生として通っている。

あたしもまた女子高へと転校した。

『都』は精神の変化が激しくて、

あまり女の子だった自分を覚えていないようだ。

でも、あたしは覚えている。

男だったあたしが密かに魅力的に感じていた彼女のことを。

『都』が都だったときに付き合えなかったのは悲しいけど

あたしがその都の立場に立ったのだから、

今度は、都の代わりに『都』に告白したい。

そう思った。



おわり



この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。