風祭文庫・アスリート変身の館






「美緒の秘密」



原作・@wolks(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-361





11月

秋から次第に冬の装いへとなっていく頃

杏はいつものように

黒字にストライプの入った競パン姿だった。

しかし、今日はいつものようにプールサイドではなく、

油絵のような匂いが充満する空間であり、

さらにバラの花をくわえて

女性のグラビアアイドルのようなポーズをとっている。

「ふう、少し休憩するか」

こういったのは杏の悪友の涼介だ。

しかも涼介は同じ水泳部なのに水着ではない。

そう、杏は涼介の絵のモデルになっているのだ。

「なんでボクがモデルなんだよ」

杏は不満そうに涼介に質問する。

「だってさあ、

 キミほどの肉体美はいないからね」

たしかに杏は水泳と筋トレで鍛えられ、

細身ながら見事なまでの筋肉がついている。

「それに、顔だちも整っている」

もともと可愛い女の子だった杏が

それをかろうじて維持できているためだろうか。

「さらに、ここも…」

そういいながら涼介は

杏のパンツのもっこりに手を触れようとする。

「なんだよ!

 好きでこんな体になったんじゃないぞ!」

杏はそんな涼介の手を払いのけると、

「冗談だって。

 いやあ、フリーで絵を描けって言われても

 何を書けばいいかわからなくて、

 で、結局人の体でも書こうと思って」

と涼介は言う。

「そうかい、

 じゃぁ、今度はボクが描くから、

 涼介、お前モデルな」

杏はそう提案すると、

涼介に競泳パンツを突きつける。

「おいっ、

 なんでこうなるんだよ」

攻守交替、

競泳パンツ姿の涼介をモデルにして杏が絵を描き始めるが、

「うーん」

これと言うデッサンが決まらないらしく、

杏は考えこんでしまう。

「なにやっているんだよ」

業を煮やした涼介が杏の絵を覗き込むと、

「んー、

 それでいいんじゃないか?

 それにしても、

 お前は以外に女っぽい絵を描くんだな」

涼介は冗談半分で言う、

「…悪かったな」

それを聞いて杏は半分むくれている。

しかし、これでもまだ女の部分が残っているということなのだろう。

「いやあ、こういうギャップがまた女受けする。

 俺には到底そんな真似はできないよ」

「…覚えてろよ。

 …時が来たら」

杏はぼそっとつぶやいた。

「…なんか外が騒がしいな」

「さあ、他所のことは知らないよ。

 さっさと絵を終わらせて、帰らせろよ」

「じゃぁ、交代な」

再び攻守交替、

再び競泳パンツ姿になった杏がポーズを取り、

涼介が油絵具で色を塗りはじめたとき、

「ところで、お前、

 特務委員に選ばれたんだって?」

「ああ。

 何をするかは全く聞いてないよ」

「しかもあの柵良先生の推薦だってな、

 女子はあの長野だぜ。

 オカルト研究会の」

「ああ、あの子か…」

杏の中で嫌な思い出が蘇ってくる。

「そう考えると、

 特務委員会ってイロモンが多いよな。

 まあ、柵良先生自体イロモンだけど」

「柵良先生聞いたら怒るよ」

「だって、

 神社の巫女さんの家系かなんか知らないけど、

 若くて美人なのにあんな喋り方してるんだもん」

「うーん。

 たしかに柵良先生は謎が多いよね」

杏は相槌を打っていた。



「腹減ったな…」

「食い物買って来てあるから食べるか?」

「いつになったら終わるんだよ」

「こりゃぁ、遅くまで掛かるな」

「ここの使用許可取ってあるのかよ?」

「うんにゃ」

「おぃおぃ」

「警備員さんが来たら説明すればOK」

「競パン1枚で叩き出されたくないぞ」

そんな話を交わしながら、

絵描きは夜遅くまで続き、

試行錯誤しながらもなんとか涼介が絵を描き終えると、

東の空が少しづつ明るくなってきていた。

「ふぅ出来上がった」

「いま何時よ

 (ってやばっ、

  もうこんな時間。

  でも今日は休みだからいいけど)」

「じゃぁ、

 帰るから」

「お疲れさん」

徹夜をしてしまった杏は慌てて学校から帰ろうとした。

しかし徹夜に近い状態で帰ろうとしたためか

注意力が散漫になっていた。

そして、廊下の角を曲がったとき、

目の前に姿を見せた女子生徒とぶつかってしまうと、

「わっ!」

「きゃっ!」

バランスを崩した二人は互いに転んでしまったのであった。

「どこ見てるのよ!

 この変態!」

最初に怒鳴り声を上げたのは美緒だった。

「わあ…ごめんごめん…」

彼女の剣幕に押されて杏は急いで謝るが、

しかし、目を上げた途端、

美緒のスカートの中が見えてしまっいたため、

つい杏は顔を赤らめてしまう。

「まったく…

 気をつけてよね」

立ち上がって廊下を美緒は走っていく。

「なんでこんな時間に来たのかしら。

 それに、スカートの中って…」

美緒を見送りながら杏はそう思う。

スカートの中から見えたのは、

黒い下着のようにも見えたが、

ロゴマークと思しきものや、

紐と思えるものまで見えていた。

「あれって、まさか…」

心当たりのある杏は密かに美緒のあとを付けることにした。



早朝のプールの中を電灯もつけずに泳いでる人影があった。

珍しくスイミングキャップやゴーグルを身につけず、

長い髪を晒していた。

その人影が1コースを泳ぎ終えると、

後ろから別の人影が肩を叩いた。

「だーれだっ」

「きゃっ!

 なによこの変態!」

美緒は大きな声で叫んだ

「まあ、変態なのはお互い様だよ。

 だって、美緒が履いてるのって男物じゃん。

 しかも上は丸出しだし」

そう、美緒は競パン1枚で泳いでいた。

「それ、お兄さんの競パン?」

杏はさらに抉るように聞く。

「…そうよ。

 兄が女装してるから、

 こっちだってその気分を分かろうとした。

 そうしたら…」

「そうだよね、お兄さん…」

杏は少し哀れみの目で見ていた

「そうよ、

 あたしは密かに兄の競パンを履いて、

 兄の幻影を追って秘密特訓を繰り返してタイムを伸ばした。

 それに…性別なんか関係ないわ。

 記録さえ出せれば、

 別に男物だって女物だっていいじゃない

 それなのに、

 兄の高校では妙に男らしく女らしくとか、

 そういう目で見るし、

 それに兄はたまたま罰ゲームで女装させられていただけ…」

つまり、美緒の兄は女装趣味とかいう以前に陥れられていたのだ。

おそらく、そのあとで本当に女装趣味になってしまったのだろう。

「そう、じゃあボクが女装したって別にいいよね」

杏はこう続けた。

「なによ。

 あんたにもそんな趣味があったの?」

美緒は続ける。

「ボクが元々は女の子だって言っても?」

杏は大きな声を出してしまった。

「それじゃあ、

 あんたがこの間言ってた子って…」

それを聞いた美緒は驚きの声を上げる。

「でも、今のあんたは男。

 それに女とか男とかどうでもいいって言ったでしょ。

 今日こそ勝負よ」

「ああ、望むところだ」

杏は美緒と久々に勝負をした。

めきめきと力をつけてきた美緒、

そして徹夜明けの杏。

徹夜明けで少し体力が落ちていたのか、

タッチの差で負けてしまった。

プールサイドに二人は上がると、

「あーあ、ついに負けちゃったね」

「じゃあ、あたしが勝った代償として、

 あんたの競パンくれない?

 たくさん持ってるみたいだし、

 1着ぐらいいいでしょ?」

と美緒は言う。

「わかったよ」

そういうと杏はロッカールームに向かった。

「これ、あげるよ」

そう言って杏が取り出したのは、

杏が中学時代の指定水着だった。

まるで赤フンを思わせる真っ赤な競パンだ。

無論、杏の中学の名前も入ってる。

「この競パンにはボクの嫌な思い出といい思い出が詰まっている。

 これをキミが受け止められるのかな?」

「いいわ、どんなものでも受け止めてやるわよ。

 言い忘れてたけど、

 もっこりがでかくなってるわよ」

「え?

 やば」

その指摘に杏は顔を赤らめる。

「ついでに言っておくわ。

 あんた、女のままでいたより男になって良かったんじゃない?」

「…なんだって!!」

杏は少し怒り気味になった。

「あんた、ほかの女子からおかずにされているわよ。

 それに、なんて言ったってこのあたしから…って何を言わせるのよ!」

そう言うと美緒は顔を赤らめながら怒鳴ってみせ、

「一回、あんた自分が女のままだったらどうなってたか考えてみれば?」

その言葉を残して美緒は女子の更衣室に戻った。

美緒が帰ったあと、

シャワールームで杏は改めて鏡を見た。

「あたしがこのまま女だったら…

 もっと胸も大きくって、

 体もくびれてて、

 すごい美女になっていたのかも。

 男になる前はあんなに可愛かったから…」

そう想像すると杏は目の前のパンツを大きくふくらませていた。

「はっ…

 女の自分を考えただけでムラムラするなんて…」

自分は女だったという感覚と

今の自分は男だという感覚が混在する。

「…でも、

 今のあたしって、

 こんなにイケメンだし、

 ムキムキだし、

 おちんちんも大きいし…」

杏はついに自分の大きくなったソレをしごき始め、

やがて

「はうっ」

その声と共に射精してしまった。

「ああ…男になって良かったのかな。

 ならもうちょっと楽しまないと…」

徹夜明けと泳いだ疲れのためか、

杏はそのまま眠ってしまいそうだった。


つづく