風祭文庫・アスリート変身の館






「杏とコンテスト」



原作・@wolks(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-359





10月

秋が深くなろうとする頃

「聞いたか?」

「女装コンテストのことだろう」

「まじでやるのか?」

「あぁ、

 校長の鶴の一声でな

 今年もこの学校で誰が一番女装が似合うか

 競うんだってさ」

昼休みの教室で何人かの男子生徒が集まり

話題にしている女装コンテスト。

それはしばしこの学校で行われるコンテストである。

元々は某大物司会者による番組のような仮装大賞だったのだが、

時代とともに変化し、

今では女装コンテストとなっていた。

各クラス、各部活動などを通じて推薦者を募り、

容姿・ルックス・立ち振る舞い、

さらに学力や生活態度等などが審査され、

最終選考に残った男子生徒が

本コンテストへの出場できるのである。

もっとも、昨年、

同コンテストの廃止を求め、

生徒会内に組織された”学内清浄化連合(GSR)”と、

コンテストの実施を求める生徒有志による

”多様性価値観堅持同盟(TKK)”との間で内戦が勃発し、

学内を二分しての戦いが繰り広げられた。

当初は1週間もすれば飽きるだろうと思われた抗争だが、

両者は一歩に引かず、泥沼の展開となっていった。

事を重く見た校長の聖断により、

GSRは活動停止・解散させらされ、

さらに実戦投入されたぷりきゅあ・ふぁい部が

TKK内の強硬派・光画部に打撃を与えたことによって、

戦いはようやく沈静化したのであった。

そのような経緯もあり、

今年の同コンテストの開催は危ぶまれたのだが、

どうやら校長はやる気満々らしい…



さてそのコンテストに水泳部からも

メンバーが選ばれようとしていた。

「ええ?

 女装コンテストに出場?」

話を聞かされた杏は大きな声を張り上げた。

「そう。

 木之下って顔も女の子みたいだし、

 声も男子の中では高いし、

 髪も伸ばしてるみたいだし、

 この際だから出てみないか?」

「いいんですか?」

杏ははやる気持ちを抑えながら答えた。

男になってから今まで

公然と女装することは避けてきた杏だったのだが、

コンテストにかこつけて公然と女装できると思ったのだ。

「じゃあ、決まりだな。

 お前の名前書いておいたから」

一部の男子生徒がよく使う強制出場の手段だが、

それでも杏にとっては内心嬉しかった。

「(奈緒さんにつくてもらった服、

  どれも捨てがたいし、

  今からでも選んでおこうかしら)」

その様なことを杏は早速考えていた。



さて、女装コンテストの書類選考であるが、

これには高校の実行委員だけでなく、

教職員の意見で10人ぐらいの生徒に絞られる。

その中には杏を含め、

元から女の子のような顔立ちの少年や、

どこかおねえキャラのような、

あるいは某デラックスのような

ネタキャラに近いものまで様々であった。

ここからこの生徒の女装姿が見たいかどうかの人気投票が行われる。

この結果は怖いもの見たさのようなものから絶対似合う、

あるいは絶対崩れるからやめろという意見まで様々だった。

さて、美少年と評判の杏の投票結果はというと

「かっこいいから女装しても似合うと思う」

「多分女でも通用しそう」

「あの子の女装見てみたい」

という肯定派の意見から

「かっこいいイメージが壊れる」

「水泳部だし、かなりごつそう」

「一般論として女装は気持ち悪い」

などの否定的な意見まで寄せられた。

結果は、

賛成票が反対票を大きく上回り、

杏はコンテストに出場が決まった。

「おめでとう、

 コンテストの出場が決まったよ」

「本当ですか。

 ああ、服を用意しておかないと」

杏は半分嫌そうな演技をして見せながらも、

「(これで公然と女装できるってことじゃないの…!)」

杏は心の中でガッツポーズをしていた。



さて、不穏分子の噂があるため

厳重な警備が敷かれたコンテスト当日。

杏は身につける服を用意した。

そして、控え室の中ですべてを確認すると

一旦全裸になる。

用意してある衣装は、

奈緒が杏にデザインした服の中から選んできたもの。

杏はまず裸になると、

色が目立たないように白いスイミングサポーターを着用した。

最近大きくなってきた男の象徴でもあるモノを

なんとかサポーターに収める。

次は女性用のショーツを着用し、

さらに次にパッド付きのブラジャーを装着した。

そして、コンテストにふさわしいピンクがかったワンピースの衣装。

一見すると普通の衣装だが、

内部に特殊加工がされており、

杏の筋肉質な体すらも覆い隠してしまうように見えるものであった。

そして、

もともとの髪にエクステをつけ、

最後にバラの花を髪に飾った。

杏は鏡に映った自分の姿を見た。

メイクをしてないにもかかわらず、

女の子にしか見えないようだった。



開始された迎えたコンテストの本番

杏の他に数名の男子生徒がいた。

そこにいる男子生徒はオーソドックスなものから

アニメコスプレまで様々なものがあったが…

ノーメイクでも女性に見えようとしたことなどから、

結局杏が優勝することとなった。

「うーん、

 まあうちのはネタキャラだったしまあいいか」

「あんまり出場者も乗り気じゃなかったみたいだし」

「っていうか、やっぱりもとの顔なのかな?」

など様々な意見が浴びせられたが、

なんとか平穏無事にコンテストは終了した。



コンテスト終了後

「(ふう…でもなんで女装しただけで疲れるのかしら)」

杏には今までに感じたことのないものがこみ上げてきた。

すると、控え室で休んでいる杏の前に幸司が現れ、

「木之下、

 優勝おめでとう!」

と称える。

「幸司くん、来てくれたの?」

「…やっぱり君って女らしい、かわいいよな…」

驚く杏に幸司はそう言うと肩を握る。

「幸司くん…これって…」

目の前にいるのは、

中学校からの思い人。

しかも、もうすぐ自分と顔を合わせる距離に居る。

杏の胸は高鳴ってていた。

もうすぐ自分の思い人と…

しかし、杏は思った。

もしここでキスでもしてあらぬ疑いをかけられたら、

自分だけでなく幸司もかなり傷ついてしまうことになるかもしれない。

「…ごめんなさい、

 やっぱり今は男だし…」

そう告げると杏は幸司の前から去っていく。

「そうなんだ…

 でもいつかキミが女に…」

走り出した杏の耳に幸司の言葉さえ耳に入ってこなかった。

さっきまでは女装していたのが夢のような時間、

しかし急に現実に戻ったのだ。

気がつけば杏は無人のプールに来ていた。



杏は女装していた衣装、

エクステや下着を取り外しサポーター1枚になると、

ロッカーに用意していた黒い競パンに足を通した。

鏡の前には十分に発達した筋肉に覆われ、

パンツの下にはほかの男子より一回り大きいソレがあった。

「…これが現実か…」

見下ろしながら杏はため息をつく。

そして、複雑な気分を紛らわすべく

杏はプールに飛び込むと、

1時間ぐらい泳いでプールからあがった。



翌日−

「木之下くん、

 優勝おめでとう」

「あたしもやっぱり木之下くんが

 優勝すると思ってたんだ」

女子生徒が黄色い声を上げてきた。

「だって木之下くん超かっこいいし、

 女装とかも絶対似合うと思ってたし」

どんなに完璧な女装をしたところで、

美少年の女装にしか受け取ってもらえなかったこと、

「これもまた現実か…」

そして女子生徒に囲まれて内心嬉しい自分を思い返し、

杏はため息を付くのだった。



おわり