風祭文庫・アスリート変身の館






「杏の夏」



原作・猫目ジロー(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-315





「やっぱり、

 いまの木之下って男なんだな…」

「ほら例の子よ…

 男の子になったって言う」

「本当だ、ぺったんこ。

 マジで男の胸になってるじゃん…」

「やだ…

 水泳部のパンツ、もっこり膨らんでるよ」

『全部聞こえているわよ。

 内緒話ならもっと小声で話しなさいよ…』



夏を迎えた7月。

男子の競泳パンツを履き上半身裸の杏は

プールサイドの注目の的になっていた。

水泳部に所属する男子のみが授業でも穿くブーメラン型の競泳パンツは、

学校指定の授業用水泳パンツよりも際どく、

この時期、水泳部とは無縁の女子の間で話題になっているものであった。

その競泳パンツを穿いた杏は恥ずかしくて仕方がなかったが、

だが、それは仕方のないことだろう。

いくら男子になったと言葉では言われても、

男子となった杏の体を裸で見た者は居ないし、

第一、杏の性転換という事件そのものを本気で信じていない者が大勢居るのも事実だ。

だからこそ、まっ平らになった胸を晒し、

競泳パンツの局部を膨らましてる杏の姿は、

ある意味衝撃的と言っても良いだろう。



『みんなに見られている。

 やっぱり恥ずかしいよ。

 こんなことなら休めば良かったな…

 でも体育を休むわけにはいかないし、

 はぁ

 幸司君にまでこんな体を見られちゃうなんて…』

周囲の皆の視線が自分に向けられていることに、

思春期を迎えた杏の心は羞恥心で一杯になっていく。

だが、それも無理からぬことだろう。

女性だった杏にとって競泳パンツはまさに異性が身に付けるものであり、

それを自分が履いて皆に向かって晒すなど恥ずかしくて堪らないのだ。

しかも、

『やだ、幸司君。

 ずっとあたしを見ている…』

一人の男子の視線が自分に向けられていることに気づくと、

杏の羞恥心はさらに高まってしまったのであった。



『やっぱり男子更衣室って、

 男臭いな…』

晒し者となった水泳の授業後、

杏は女子更衣室との違いに戸惑っていた。

競泳パンツに着替えるときは今まで通り男子トイレで着替えていた杏だったが、

しかし、濡れた体のままトイレで着替えるわけにもいかず、

着替えが入った袋を持ってこのとき初めて男子更衣室に足を踏み入れたのだ。



「よぉ、やっとこっちで着替えるのか」

「うるさいわね」

「これで、木之下も立派な男子だな」

「余計なお世話よ」

「なぁ木之下、

 お前ってオナニーしてんの?」

「なっ、するわけないでしょ!!」

「じゃあ溜まったらどうしてんの?

 まさか夢精するまでそのままにしとくわけ?」

「あんたたちねぇ…」

競泳パンツ姿で杏が男子更衣室にはいってきたことに、

皆は杏が男になったことを実感したのか、

容赦のない質問が浴びせてきた。

すると、

「おいっ、

 小西。

 酷い質問すんなよ…」

すると、

見かねたのか杏と同級の遠山幸司が割って入ってくると、

「なに言ってるんだよ、

 幸司。

 コイツもう男じゃん。

 お前も見ただろ、

 木之下のパンツ姿」

「だからどうした。

 木之下は迷惑しているじゃないか」

と言い合いをはじめる。

「もういいよ、幸司君。

(やっぱりこれからもトイレで着替えよ…)」

いきまく幸司を抑え、

競泳パンツに手をかけた杏はそう呟いた。

やはり少なからず傷付いたのだろう。

何せ彼の心はいまも女子のままなのだから。



ガチャガチャ

「えっ、何で開かないのよ、

 まさか故障中なの!?」

中学校は元々築年数が高く、

さらに他の男子に見られたくないので、

杏はもっぱら体育館の近くの古いトイレで用を足していたのだ。



『ウソでしょ

 もう、我慢の限界なのに…』

学生服に着替え終わった杏は

水泳の授業で冷えたためかキツイ尿意を感じていて、

既に別のトイレに行く余裕が無くなっていた。



「こっ、ここなら誰も見てないよね…」

しばらく悩んだ末、

いまにも破裂しそうな膀胱に背中を押された杏はようやく決心がついたのか、

小便用のアサガオへと近付いく、

そして、意を決してチャックを下ろすと、

アサガオに向けて放物線を描き始めた。



『ふぅ〜

 ”立ちション”って嫌だけど、

 こういう時はやっぱり便利よね…』

あれだけ嫌悪していた立ちションであるが、

しかし、尿意は限界はその嫌悪感を押しのけてしまい、

杏は初めての立ちションをしてしまったのである。



「やっぱり、水泳の後は冷えるよな」

「おっ、木之下じゃん」

「なんだかんだ言っても立ちションしてんのお前?」

「でもさ何かコイツの小さくね、

 皮被ってるし包茎じゃん」

「うるさいっ!

 どうでも良いでしょう」

アサガオを覗き込みながら

杏のモノを品評し始めたクラスメイトに向かって杏は怒鳴り声を上げるが、

『さっさと出て行ってよ小西…

 あぁ早く終わってよ…』

杏は一刻も早くこの場から立ち去りたかったが、

水泳で冷えたために相当量の尿が溜まっており、

杏のホースは今だ放水を続けていた。



「大変だったね杏、

 嫌だったでしょ。

 水泳部のパンツ姿で泳ぐのって…」

「ありがとう乙葉、

 でも今の私は男子だからしょうがないよ…」

「杏…」

『何か乙葉いい匂いがするなぁ〜

 あっ、女子更衣室のシャワーでリンスしてたんだ…

 ブラの線も夏服で透けてるし…

 てっ、何妄想してんのよ、アタシ…』

“元女子”の杏は女性の体を熟知しており、

男子には出来ない生々しい妄想も可能なのだ。

そして、そんな妄想にソレは敏感に反応してしまうと、

股間から起立してしまったのである。

『何でアタシ、

 乙葉のブラに興奮してるのよ…

 ブラなんてアタシも付けてたのに、

 もう…早く収まってよ…』

杏はショーツを突き上げ痛みを伝えてくるソレを手で押さえて必死に隠した。

恐らく今だ自慰の出来ない杏のソレは溜まっているのだろう。



「アタシ、女の子に見えるよね…」

杏は自室で女子の時使用していた競泳水着を着てそう呟いた。

余程今日の競泳パンツ姿が堪えたのだろう。

だって男子になってからは杏は競泳水着を一度も着ていなかったのだから…

「はぁ…

 でもやっぱり、アタシ男なんだよね…」

水着の股間にできた膨らみを見つめつつ切なそうにため息を吐く。

そう、競泳水着は女子が着ることを前提に作られているので、

男子である今の杏が着ると男子の象徴の膨らみが隠せず目立ってしまうのだ。

事実、恐らく無意識の内に杏自身も興奮しているのだろう…



「これって、女装なんだよね…

 ははっ…

 アタシ正真正銘の女の子だったのに…

 何で女装男子になっちゃったんだろう…」

杏はこの数ヶ月の想いが抑えきれなくなったのか、

水着の上に女子の制服を着ると目に涙を浮かべた。

確かに今の杏は男子だし

彼が女子の制服を着ることを世間の人は女装と呼ぶのだろう。

だが、思春期の女子である杏にその現実はあまりに辛く重たいものだった。



「あぁ…早く女の子に戻りたいよ…

 いつ出来るのよ解毒剤は…」

やりきれない想いに呑み込まれながら、

杏はベッドですすり泣きを続けていた。

だが、そんな杏のセンチメンタルな心情を裏切る様に、

ソレはスカートとショーツの中で膨らみを増していく。

恐らく久しぶりの女子の制服に杏自身が興奮しているのだろう…



「ねぇ杏

 風邪引いたの?

 声が掠れているよ」

「ううん…最近よく声が掠れるの…

 もしかして声変わりかも…」

「そっか…今の杏、男の子だもんね…」

「うん…そうだよね…」

「はぁ…やっぱり喉仏が出来始めてるよ…」



杏は保健室の鏡を見ながらそう呟く。

確かにそれは喉で目立ち始めていたし、

触るとコリッとした感じがして更に杏の気持ちを憂鬱なものにしていた。



『本当に、アタシどんどん男子になってるよ…

 タチションもしちゃったし、

 乙葉を見てるとドキドキするし…

 でも、アタシちゃんと女の子に見えるよね』

確かに学制服を着てはいるが

セミロングの黒髪は綺麗だし

顔も女子の時と同じく目が大きい可愛いらしい顔のままだったが、

しかし、第二次性微に突入した杏の体は男性ホルモンが染み渡り始め、

少しずつ女の子らしさを失い始めていた。

それを肯定するかのように杏の性欲は女子の時より格段に強くなると夢精の回数は増え、

すね毛も処理する度に確実に濃くなっていた。

また、最近は鼻の下に髭の様な産毛が生え始め、

それもまた杏の悩みの種になっていたのである。



『最近関節が痛いし、

 身長もまだまだ伸びるよね…

 こないだきた女子の制服もきつく感じたし…』

日を追うごとに杏は体格も確実に男性化しつつあった。

実際156cmで伸びが悪くなっていた身長はここ数ヶ月で再び伸び始め、

杏の身長は既に161cmになっていた。



「杏も保健室に来てたの?」

「ごめん葵、起こしちゃった?」

「そんな気にしないでよ、

 二日目で調子が悪いだけだから…」

「あっ…アタシ…」

「ごっ、ゴメン、

 今の杏にこの話題は辛いよね…」

男子になった今の杏には生理は無縁のものになっており。

杏自身も自分の生理予測日が来る度にそのことを自覚して苦悩していた。

しかし、今の杏はドラッグストアでナプキンを見る度に、

自身が男子だと実感して心が締め付けられていたのである。



「早く元に戻れるといいね…」

「うん…ありがと葵…」

「はぁ…本当にアタシ元に戻れるのかな…」

杏はシャワーで汗を流しながら自身の変性した体つきを見つめていた。

「またすね毛濃くなってるよ…

 処理したばかりなのに…」

杏は濃さを増しているすね毛を手で触り泣きそうになる。

男子としては物凄く薄い方だが、

今まで処理する必要がないくらい体毛の薄かった杏には

やはり気になって仕方ないのだろう。



「はぁ…今のアタシは男子なんだよね…」

当初は戸惑っていた袋と棒を慣れた手つきで洗い杏は湯槽に入っていた。

しかし、どうしても目に入る男性の象徴に杏は複雑な感情を隠す事はできず、



『今日も幸司君、優しかったな…

 てっ、何で反応してんのよ』

そんな純粋な恋心を嘲笑うかの様に杏のソレは膨らみ始める。

恐らく幸司に対する想いに反応しているのだろう。



『はぁ…結局収まるまで長湯しちゃったよ、

 でも、アタシの汗男臭くなり始めてるし…

 よく洗った方がいいよね…』

以前は男子更衣室で他人事の様に思っていた男子の体臭に杏自身も近付き始めているのだ。

無論、杏はそれを認めたくなかったが、

体操着の染み付いた汗は明らかに以前の匂いと違い甘い匂いではなくなっていたし、

自分の部屋から男子の匂いがするのは杏も否定出来なくなっていた。

そんな、自分を否定したかったのか、

杏はその日も競泳水着を身に付けそのまま眠ってしまったのである。



「はぁはぁ…

 あっ、はうっ…

 あん…

 あぁぁぁぁ…」

杏の体はもう一ヶ月以上夢精をしていないのでもう既に限界だったのだろう。

杏は声変わりしたためオカマの様に聞こえる女言葉で喘ぎながら精をとき放っていた。

余程溜まっていたのか染みは競泳水着の股関部分に一気に拡がり、

その上に着ている制服のスカートまで杏は己の精で汚し続けていた。



「はぁはぁ…

 また出しちゃったの…

 アタシ…」

夜中に目覚めた杏はその惨状に驚きを隠せなかった。

だが、それは無理からぬことだろう。

杏はあれだけ嫌悪していた男子の精で自身のスカートやスクール水着を汚してしまったのだから、

また、そこから立ち込める青臭い臭いが今の自分の性別を実感させ、

杏の乙女心を砕くようにヒビを入れていく。

そして、

「アンタまた夢精しちゃったの、

 この前言ったでしょ、

 下着を汚したくなかったら自分で処理しろってさ」

「そんなこと出来るわけないじゃない…アタシは女の子なのよ」

「男の声で女言葉使わないでよ、

 オカマみたいじゃない…」

「うっ…ひっぐ…何でそんなこというのよ…お姉ちゃん…」

姉の言葉に涙しながら、杏の夜は明けていった。

だが、姉の紅の心配とは裏腹に杏は男らしさを身に付けつつあった。

そんな彼のセンチメンタルな乙女心を嘲笑う様に、

彼のスクール水着は、青臭い臭いを放ちながら濡れ光っていたのであった。



つづく