風祭文庫・アスリート変身の館






「水泳部の男の娘」



原作・猫目ジロー(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-314





『あぁ神様…

 これは一体何の罰ゲームなんですか?』

日が昇り、人々はいつもと変わらぬ朝を迎える中、

心の中でそう呟きながら杏は暗い気持ちで目を開けた。

寝起きにもかかわらずなぜ杏はこうも暗い表情をするのだろうか?

一見すると杏は容姿は整っているし、

家もそれなりに裕福である。

一体何が不満なのだろう。

「なっ……何で今日も大きくなってるのよ!」

突然、杏の怒鳴り声が響き渡ると、

バンッ!

自分の股間に向けて枕を思いっきりぶつけた。

そして、少しの間をおいて、

「いったぁ…」

痛みをこらえる声が追って響くと、

股間の枕がどけられ、

それと同時にパジャマを押し上げている膨らみが姿を見せる。

「もぅ嫌だよこれぇ」

その膨らみを見ながら杏は涙声でそう呟くのであった。



木之下 杏

中学2年生

水泳部所属

性別は…男

だが、杏自身は自分は男ではないと思っている。

だからと言って杏は性同一性障害などではなく、

ほんの一ヶ月前までは正真正銘の女の子だったのだ。

そう、あの悪夢の日までは……



全ての始まりは1ヶ月前の春・4月。

社会科見学で訪れた製薬会社での事故だった。

一口に事故といっても轟音とともに炎が噴出し、

人々が阿鼻叫喚に陥る大事故の類ではなく、

生存権を求めてハンガーストライキをする実験動物に食べさせるため、

研究中の新薬を練りこんで作られた飴玉が偶然と手違いの見事な3重奏の結果、

偶然、通りがかった杏の口の中に納まってしまった。という極めて平和的かつ、

杏にとっては世紀末級の大事故が発生したのであった。

ちなみのこの新薬というのは新薬開発中に調合ミスから偶然出来上がってしまった薬であり、

いったい何の新薬なのかを調べるための実験なのであったが、

薬品を摂取をした杏の性器を女性器から男性器へと変貌させる効能があることが判明したのは

それから間もないことだった。

が、杏にとっては悪夢の始まりでもあった。



女性器が男性器に変貌してしまった。

人はこれを”性転換”と言う。

そしてその言葉が意味しているのは女の子だった杏が男になってしまった。

と言うことだった。



この事実に製薬会社側は多額の賠償金を杏に支払い。

数年で元に戻る薬を開発することを約束したが、

しかし、杏には到底納得出来る話ではなかった。

何故なら杏はいま14歳で青春真っ盛りの楽しい時である。

その青春を男性として過ごすことが杏にとって納得出来ないのは無理からぬこと、

しかも、杏の不幸はそれだけでは終わらず、

その後の学校側の決めた対応に杏は激怒したのであった。



「え?

 男子として登校って

 嘘でしょう」

学校側は杏が元に戻るまで彼女を男子生徒として扱うことを

決められたことを知った杏は両親と共に猛抗議したが、

しかし、肉体的に男子になってしまった杏に

これまで通り女子トイレや更衣室を使わせることを

他の女子生徒の保護者が許さず、

結果、杏には真新しい男子の学生服が与えられたのであった。

そんな杏に同情する女子生徒や男子生徒もいたが、

中には転性した杏をあからさまに気味悪がる者もおり、

半ば無理やり着せられた形の学生服と、

心無い女子からの仕打ちに杏の乙女心は大きく傷つけられ、

あんなに楽しかった学校がすっかり憂鬱な場所に変貌してしまったのである。



「はぁ〜早く収まらないかな…

 トイレ行きたいのに」

杏は大きなため息を吐きつつ、

パジャマの膨らみが収まるのをじっと待っていた。

そう思春期女子特有の”性への潔癖症”を持つ杏にとって

天をつく勢いで伸びる股間の膨らみは触るだけでも辛いモノであった。

しかし、このままではトイレに飛び込んで用を足すことはできないので、

杏は収まるまでジッと堪えるのが彼の日課であり、

乙女心を持つ杏は未だに立ってすることが出来ないのであった。



「ふぅ……」

トイレの中で杏はリラックスして用を足していた。

女性の時と違い尿がホースを通る感覚に未だに戸惑いは隠せないが、

やはり、人になれるトイレは杏にとって落ち着く場所なのだろう。



「はぁ……本当は触りたくないのに……」

用を足し終えた杏は羞恥心で耳まで赤くなりながらも、

股間から下がる肉の棒をトイレットペーパーで丹念に拭き始める、

無論女性と違い拭く必要はないのだが、

未だに女性用のショーツを頑なに履き続けている杏には

やはり染みが気になるのだろう。



「杏!

 アンタ毎朝トイレに何分かけるのよ!

 男ならタチションしなさいよ!」

「なっ、

 アタシは女よ!

 何でお姉ちゃんはアタシを男扱いするのよ!」

「何を言っているの、

 いまの杏は男でしょ…」

「ぐっ」

姉のデリカシーのない言動は杏の心を傷つける。

無論姉の紅とて杏が嫌いな訳ではないが、

しかし、彼女は杏に四六時中男らしくしろと言い続ける。

それには紅なりの理由があり、

これから数年間男として暮らす妹が苛められないように

男らしさを身に付けてほしいと願っているのだ。

全ては妹が好きだからこその愛の鞭なのだが…



「杏!

 おはよー」

「うん……

 おはよ……」

「どうしたの、

 朝から暗いよ。

 もしかしてまた体のことで悩んでるの?」

「まぁね……」

『どうしよう……

 また、大きくなってきちゃった……』

教室に入ってきた友人の乙葉は

自席に座る杏の元気の無い姿を見て積極的に話しかけるが、

しかし、杏は心ここにあらずといった雰囲気だった。

杏自身は否定するものの、

しかし、杏の体は思春期真っ盛りの男子、

杏は乙葉の甘い匂いや柔らかそうな体に無意識の内に股間が反応してしまうのだ。

事実机の下の彼のズボンは小さく盛り上がり主張していた。

だが、それらは仕方のないことなのだろう。

何故なら未だに杏は入浴中、股間を洗う時でさえも嫌悪感が隠せず、

男性化してから自慰行為を一度もしていないのだから…

しかし、思春期の男子である以上

その性欲から逃れることなど出来ず。

溜まっているためか敏感に反応するようになってししまったのだ。



「はぁ……

 何でアタシがこんな所で着替えなきゃならないのよ……」

体育の時間前、

杏は男子トイレで男子用の短パンに足を通しつつ思わずため息を吐いていた。

女子更衣室を使えなくなった杏はここで一人着替えるのが習慣になっていたのである。

無論、学校側は”男子更衣室”を使う許可はくれたものの、

しかし、膨らみを失い平らになったとはいえ、

元々Cカップの乳房があった胸を男子の前で見せる気になどなれず、

ましてやもっこりと膨らんだショーツは杏にとって一番隠したい部分だった。



「なっ、何で女子がここで着替えてるんだよ!」

「バカ、こいつ一組の木之下じゃん。

 ほら、例の事故で男になった奴だよ」

「あぁ、アレかぁ…」

「でも、どっから見ても女じゃん。

 本当にチンポ付いてるのかよ」

「どーだかなぁ」

「でもさ、

 よく見ると胸なくなってるし、

 ブラの線も見えないじゃん」

男子トイレに入ってきた男子達の心ない言葉に

杏は羞恥心を刺激されみるみる内に赤くなっていく。

男性化して乳房がなくなった杏は現在確かにブラジャーをしていないのだが、

それは杏自身が一番気にしていて、

絶対に話題にしてほしくない話なのだ。



「よし、確かめてやる」

ギュッ

「キャッ!

 なっ、何すんのよ!」

「本当だ確かにチンポ付いてるよ、

 …小さいけど」

「でもさ、男の体で女言葉って、

 何かオカマみたいじゃね」

「酷いこと言うなよ、

 大体お前、木之下のこと可愛いって言ってたじゃん」

「それはコイツが男になる前の話だろ」

嫌悪している股間を男子に握られ酷い言葉を言われた杏は

いたたまれない気持ちになると、

涙を浮かべて男子トイレを飛び出していく。

そう、杏の心は今も女の子ままなのだ。

そんな杏にとってこの現実はあまりに過酷なものなのだろう。



「はぁはぁ…」

「はぁはぁ…」

体育の授業中、杏はずっと息をきらしていた。

元々杏は水泳部に所属していて体力には自信があったが、

しかし、杏の男性化は今だ完全ではなく

体力や筋力は女子のままなのである。

そんな杏に男子と同じメニューはキツいのは当たり前であるが、

一番体育の授業に集中出来ない理由は恐らくアレのせいだろあろう…



『う〜、

 揺れて落ち着かないよ……』

そう杏の股間には男性の象徴である肉棒と袋がぶら下がっているため、

走る度にソレが揺れるのだ。

それが杏の羞恥心を刺激し集中力を欠く原因になっていた。



「はぁ……

 何でアタシが男子トイレで用を足さなきゃならいのよ」

昼休み、杏はこの一ヶ月で慣れてきた男子トイレで用を足していた。

杏自身は今も女子トイレを利用したかったが、

しかし、女子の許可は誰も得られず、

仲の良い友人もそのことには同情はしても賛成はしてくれなかった…

やはり思春期で難しい年頃だし、

色々と思うところがあるのだろう…



「本当に元に戻れるのかな……

 アタシ……」

尿を放水している先っぽを見つめながら杏は儚げに呟く。

やはり女子だった杏にとっては

男子トイレしか使えない現実は辛いのだろう。



「そういえば男子トイレって個室なのに、

 ゴミ箱ないのね……

 って、そうか今のアタシには必要ないんだよね……」

女子が杏にトイレを使わせたくない最大の理由はソレの存在だであろう。

男子トイレには生理用のナプキンを入れるゴミ箱などなく、

それを意識する度に杏は暗い気持ちになっていく、

無論杏自身も生理は嫌がっていたが、

しかし、いざ無くなってみると、

心に穴の空いた様な虚無感が杏を襲うのだ。

今の自分が男子だと嫌でも実感するからだろう。



「なぁ木之下。

 お前、このまま水泳部を辞めるつもりなのか」

「先生はアタシに男子の前で胸を丸出しにしろ。

 と仰るんですか?」

「何言ってるんだ。

 いまのお前は男子だろう。

 夏からは水泳の授業があるんだぞ。

 いつまでも恥ずかしがってる場合じゃないだろう。

 これを機会に水泳部に顔を出せ。

 いいじゃないか、男子部員であっても。

 お前はお前なんだし。

 みんな待っているんだから」

「はぁ…

 もうすぐ水泳の授業が始まるんだ……」

男性化してから杏はずっと水泳部の部活を休んでいたが、

しかし、そういつまでも休んではいられないのも事実である。

部の顧問からの言葉に

自分が男子であることを認めなくてはならない時が迫っていることに気づかされると、

帰宅の徒についた。

そして一日の疲れを湯槽で流しながら大きなため息を吐くのだが、

杏にとって豊かな膨らみが失われ、

まっ平らになった貧弱な胸板など誰にも見せたくないのだ。

そんな杏に男子の水泳パンツを履き胸を見せろというのは、

あまりに酷な話というものだろう。



「あぁ……早く元に戻りたい、

 大体何でアタシがコレを洗わないといけないのよ……」

苦虫を噛み潰した様な表情で杏は股間から伸びる男性の象徴の袋と棒を洗っていた。

触りたくないのだが、

しかしまだ皮を被っているソコは蒸れやすく

キチンと洗わないとバイ菌が入ると父親に注意されたため、

しぶしぶ洗う様になっていた。



「うっ

 やっぱり恥ずかしいよ……

 こんな姿で泳ぐなんて……」

顧問から半ば押し付けられるようにして、

水泳部男子が穿いている男子用競泳パンツを受け取ってしまった杏は

そのパンツを穿いた姿を自室の姿見で見ながらそう呟く。

男子になるまで杏は女子用競泳水着を誇らしげに着て見せていたのだが、

しかし、男子となったいま杏に許されているのはこの競泳パンツである。

でも、思春期の女子だった杏にとって、

股間だけを覆うブーメラン型の競泳パンツ1枚で泳ぐことは

羞恥プレイ以外の何物でもないのだろう。



「やっと綺麗な胸に膨らんできたのにこんなにまっ平らになって……

 それにしても、やっぱり競泳パンツと膨らみ目立つな……」

杏は競泳パンツの膨らみが目に入るや、

嫌悪感に包まれた表情になっていた。

そう、いくら中身が女子でも杏は立派な男の子。

競泳パンツの前は見事に膨らんでいて、

とても女子用競泳水着が着れないのは明白だった。



「これからどうなるんだろ……

 アタシもやっぱり髭が生えたり声変わりするのかな……」

杏の声はまだ女子の時と同じ可愛い声のままだったが、

既にクラスの男子の殆んどが声変わりが始まっていて、

杏自身もいつ声変わりしてもおかしくなかったのである。

事実、杏の可愛い声は最近よく掠れるようになり、

声変わりの前兆は既に始まっているのだか、

杏は認めたくないのだろう。



「ムダ毛の処理も増えてきたし、

 やっぱりアタシの男性化進んでるよね……」

確かに杏のすね毛は男子としては薄い方だし、

よく手入れもされているので女子の時と同じ綺麗な足のままだったが、

最近処理する度に濃くなっているのは気づいていた。

やはり、男性ホルモンが増えているのだろう、

よく見ると鼻の下の産毛も目立ち始めており、

これから先はムダ毛の処理も忙しくなるはずである。

男の体になって色々ストレスも感じている杏だが

疲れも大きいのか、

「もぅ、面倒だ」

の声ひとつで競泳パンツの上にパジャマを着てしまうと、

そのまま睡魔に呑まれ眠ってしまっていたのである。

そして、

「はぁはぁ

 ……あっ

 ……はうっ……」

眠ってしまった杏は不思議な夢の中へと入っていく。

女の子に戻った体で好きな男子とキスをする夢。

いわゆる婬夢と呼ばれる夢であろう。

いくら否定しても杏は思春期の男子。

声変わりが始まり、

男性として精通を迎えようとしているのだ。

ひょっとしたら履いたままの競泳パンツの締め付けが

杏を男子の世界へ導いているのかもしれない……



「はぁはぁ

 幸司君……

 あっ、はぁはぁ……

 はうっ、あん」

婬夢が激しくなっているのか杏のソレは膨らみ続け、

既に先走りの涙で競泳パンツどころかパジャマにまで染みが拡がり始めていた…



「幸司君ダメ……

 はぁはぁ……

 こんなところで……

 あっ、あぁぁぁぁ……」

杏の一際高い声と共に染みは一気に拡がっていく。

恐らく精通を初めての射精を迎えてしまったのだろう。

しかし、当の本人はそのことに気付いておらず、

パジャマの染みから青臭い匂いを放ちながら、

杏は気持ち良さそうな恍惚の表情で眠り続けていた…のであった。



つづく