風祭文庫・アスリート変身の館






「白アシの香織」
(第22話:新入部員)



作・controlv(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-249





それはある日のことだった。

新水泳部のメンバーはキャプテン・水上香織からの一斉召集により集められると、

「今日はまたどんな話ですか?」

「まさか…

 また直樹が勝手に男子を女子に?」

「もぅその話は終わったじゃない」

などと召集の理由を話し始める。

すると、

「いいえ。

 今日は違うわ」

競泳パンツにトップレス姿の水上香織は嬉しそうに言うと、

「今日から新しい部員が来ることになりました。

 しかも…元女子のね」

と告げてみせる。

確かにこのところ元男子の女子ばかり入ってきたので

元女子の男子が入ってくることはいささか新鮮であった。

笑みを浮かべる香織がドアの前に立ち、

そして、そのドアを開けて見せると、

新水泳部のメンバーの前に一人の少年が姿を見せる。

黒い髪に黒い瞳、

少女のような端正な顔立ちをしているが、

穿いている黒い競泳パンツがよく似合うかのように

筋肉が十分についた逆三角形の体を見せていた。

「黒川リョウです…

 よろしくお願いします」

新メンバーであるリョウは皆に向かってぺこりとお辞儀ををしてみせると、

「この子はね、

 私のところへ男の子になりたいっていって来たのよ、

 ちょっと半信半疑だったけど、

 でも薬を与えたら、

 すぐにこんなに立派な体になったわ。

 それに、すごく男の体にもなじんでるみたいだし、

 誰かさんとはえらい違いよね」

と言うと香織は懲罰室から出されたばかりの潤をチラッと目を配らせる。

そして、

「…今日は嬉しいことにさらにもうひとりメンバーが来てるわ」

と言うともう一人の少年が現れた。

その少年は金髪碧眼でこちらも端正な顔立ちをしている。

こちらも見事な逆三角形の体型で

穿いている青い競泳パンツがよく似合っている。

「白田アキラ、

 よろしく頼むぜ」

新メンバーのアキラはなれなれしく自己紹介を行うと、

「なんか生意気だな…」

新水泳部のメンバー・田沢瑞穂は少し怒りを混ぜていた。

「この子も黒田さんが来たすぐ後に私の元へ来たわ。

 この子もすぐ男の子であることになれたみたいね。

 生意気かもしれないけど仲良くしてあげて。

 それじゃあ練習を始めるわ」

紹介を終えた香織はそう皆に向かって言うと、

新水泳部のメンバーは新入部員二人を交えた練習メニューに取り掛かる。



リョウとアキラが入部してから数日が過ぎた。

真面目に練習メニューをこなしているリョウに対し、

アキラは練習もサボりがちであった。

「アキラのやつ…

 また今日も練習サボりやがった。

 はじめてあったときから生意気な奴だとは思ってたけど」

元女子だったメンバーの一人はこう言うと、

「でもあいつ凄くタイム早いし、

 フォームも綺麗なんだよな。

 そこはリョウも一緒だけど…

 まあ、期待の新星が入ってきたって事じゃないか」

と別の元女子メンバーはそう話す。

すると、

「どうかしましたか?」

二人の会話にリョウが入ってきた。

「いや…なんでもない。

 お前ががんばっているって話しただけだ。

 ただ、気をつけろよ。

 あんまり筋肉をつけると女子の制服入らなくなって

 大きいのを用意しなきゃいけなくなるぜ。

 お前初日から結構筋肉ついてたけど大丈夫か?」

とリョウに向かって尋ねると、

「心配ありがとうございます…

 でも、オレそこはなんとかやってきましたから」

リョウは少し苦笑いをしながら返事をして見せる。

「そうか…

 ならいいんだが…

 お前も新水泳部の一員だから知っておいたほうがいいことだと思ったから…」

「…知ったほうがいいことなら、

 もうひとつあるわ…」

元女子の男子部員の間にわって入ってきたのは元男子の女子のトップ・青葉俊輔だ。

「…青葉さん…いま、その話は」

元女子の男子部員は止めようとするが…

「いいえ、

 これは新水泳部としても大問題なのよ」

俊輔は元女子の男子部員の静止も振り切って話し続け、

「あそこにいる女の子…

 有馬直樹さんっていうんだけど…」

と俊輔は競泳水着・白アシ姿の直樹を指差してみせる。

「名前は知っていますけど、

 あの子がどうかしたんですか?」

小首を捻りながらリョウは尋ねると、

「有馬さん…

 男の子から女の子になったのはいいんだけど…

 あの子は私たちよりもっとおかしくなっちゃったのよ」

「それは…またどういう…」

「今は収まっているみたいだけど、

 あの子のおっぱいから出るミルク…

 あれを飲んだ男の子はみんな女の子になっちゃうの。

 それも白アシの似合うね」

「そんなことってあるんですか…?」

「にわかには信じられないことだと思うけど本当なの。

 この問題は香織様も相当頭を悩ませてるわ」

「そうなんですか………?」

「このことについて協力できることがあれば、

 あなたも協力してほしいわ。

 無論、いま来てない白田くんにも伝えてほしいんだけど」

俊輔の頼みに一見するとリョウは信じられないような表情をしてみせるが、

すぐに

「わかりました…

 やれるだけのことはやってみます」

と答えると、

「どうもありがとう」

そう礼をいい残して俊輔が立ち去っていく。

しかし、そのときリョウは何かを確信したような表情をしたのであった。



その日の夜。

さすがの新水泳部でも夜が更ける頃には練習が終わっているのだが、

しかしプールにはリョウがひとりだけ泳いでいた。

「黒川君、あなたもがんばるわね。

 そんなにがんばると体を壊すわよ」

リョウの姿を見かけた香織は少し心配そうに話しかける。

「いえ、オレ…泳ぐの好きですから。

 それに、オレ、男の体になって…

 本当に先輩には感謝してます」

プールの中からリョウは笑みを浮かべながらこう返事をして見せる。

「あなたは本当にいい子ね…

 あたしはもう帰るから、

 後はよろしくね」

プールの中にリョウに向かって香織はそう言い残し立ち去って行く。

そして香織が帰ってから1時間後、

ザバッ

プールからあがったリョウは競泳パンツ姿のままの姿で、

部室とは別に香織が占有して使用している部屋へと向かっていく。

カラ…

(誰もいないな…

 よし、ちょっと調べてみるか…)

部屋の中に人の気配が無いことを確認したリョウは

まず戸によって閉じられている棚を開けてみた。

すると中にはいくつかの薬の瓶があった。

(この薬は…香織がオレに渡した薬

 …どれもそれと同じものだな。

 この薬を使って女子は男子に、

 男子は女子になった…)

そう呟きながら棚を調べていると、

ふと部屋の奥にあるゴミ箱に目が行く。

(ゴミ箱か…

 意外と…)

とリョウはすぐにゴミ箱の中に手を入れてみた。

すると中からいくつかの瓶が出てきた。

(この瓶はさっきの薬と一緒…

 いや、待てよ、

 ひとつだけ瓶の色、形、大きさが…

 誰が見ても見間違えるぐらいの誤差しかないけど…

 違ってる薬…まさか…)

そう呟きながらリョウは見つけ出したひとつの瓶を握り締める。

とそのとき、

「いっけなんいんだ。

 こんなところでなにをやってるんだよ?」

の声が響くと部屋のドアの前に一人の少年が姿を見せたのであった。

「お前は…アキラ!?」

ドアの前に立っていたのは金髪碧眼で青い競泳パンツをはいた少年・アキラ

リョウが新水泳部に入った日に一緒に入部してきた少年だ。

「お前…練習には出なかったのに、なぜ?」

「練習?

 あんなかったるいことにつきあってられるかよ。

 ほかにも楽しめることはあるし、

 練習はそのおまけみたいなもんだぜ。

 オレはお前が一人残ってるのが怪しいと思ってずっと隠れてみてたんだぜ」

驚くリョウに向かってアキラは笑みを浮かべながら話す。

「リョウ…

 女キャプテン…いや香織の部屋勝手に漁るだなんて?

 お前にそんな趣味があったのか?」

「違う!

 決してそんなんじゃないぞ!」

アキラの指摘にリョウは声を張り上げる。

すると、

「それともなんだ…リョウ、

 まさかあの直樹って女が気になってるんじゃねえよな?

 勝手に男を女にできるおっぱい出すなんて奴はそういないからな?

 それについて調べてたんだろ、

 リョウ…いや、ブラック」

とアキラはリョウの正体を指摘しつつ尋ねると、

「アキラ…お前、なぜオレの本当の名前を知っているんだ?

 お前…まさか、ホワイト?」

そう…リョウこと黒蛇堂は、

「女性になった男が、男を勝手に女にできる」

という話を伝え聞き、

なぜそのような事態が起こったのか?

はたまた誰かの陰謀なのか?

それを調べるため目の色を変え、

さらには性別も変えて新水泳部に潜入していたのであった。

「…ホワイト、あなたはなぜここに潜入したの?」

リョウはぬれた髪を手でぬぐいながら質問をする。

「あたしはただそういう奴が凄く楽しいと思ったのよ。

 だからそいつが男を女にするのを生で見てみたかったってわけ」

「そのためにわざわざ金髪にしたの…?」

アキラの正体に気付いているリョウはあきれ返って見せると、

「ブラック、あんたこの話どっかの誰かに報告するんでしょう?

 まったく、そんなことをしたらあたしの楽しみがなくなっちゃうわ。

 どうせあんたは報告したらすぐ帰っちゃうんでしょうけど」

とアキラはふてくされたようにして言う。

「あら…あたし、

 この件が解決するまで時々この姿になって新水泳部に来る予定なのよ。

 おかげでだいぶ忙しくなるけど…」

「フンッ…」

リョウに向かってアキラはそう言うとリョウを一人残して部屋を出て行った。



『ただいま戻りました』


自分の店に戻ってきた黒蛇堂は従者に迎えられていた。

『お帰りなさいませ、黒蛇堂様。

 なにか収穫はございましたか?』

『ええ、これなんだけど、

 単に男性を女性に変えるだけでなく、

 それをゾンビのように増殖させる薬みたいなもの…』

そう言いながら黒蛇堂は香織の部屋で見つけた薬瓶を従者に渡してみせる。

『わかりました。

 これについて少々調べてみましょう。

 それにしても黒蛇堂様、随分と逞しくなられましたな』

『え…?』

その指摘に黒蛇堂は慌てて自分の姿を鏡で見ると、

自分がまだ男の姿で、

しかも競泳パンツ1枚であった。

そのことに気がつくと、

そんな自分の姿を見ながら

『あたしとしたことが

 元に戻るの忘れてただなんて…』

と呟きながら黒蛇堂は少し顔を赤らめていたのであった。



つづく



この作品はにcontrolvさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。