風祭文庫・アスリート変身の館






「ふたりの秘密」



原作・inspire(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-345





ここは”とある”高校の”とある”水泳部。

その”とある”水泳部を率いる”とある”男子キャプテンは

女子生徒にとって憧れの的だった。

そんな”とある”キャプテンの名は山野正人。

端正な顔立ちと鍛えられた肉体、

着用するオリジナルの競泳パンツを膨らませて、

魚のごとく華麗に泳いでみせる…

誰もがそんな正人の才能をうらやみ、惹かれていた。

まさに彼は完璧の超人であった。

しかし、

その正人が”とある”一人の少女と付き合い始めた頃から

完璧と思われていた彼の人間像が

少しづつ崩れ始めていたのであった。



「おいっ、

 聞いたか」

「聞いた聞いた」

「水泳部の山野と付き合っている奴がいるんだってよ」

「なにっ、それって本当?」

「お前、知らないのか?」

「付き合っているって女か」

「女に決まっているだろう」

「果たしてそうかな?」

「なぬっ」

「奴の肉体美にほれ込む男が居てもおかしくはない」

「キモッ、こっちに寄るなモーホー野郎!」

「俺じゃないって」

「うるせー、

 ズボン膨らませて否定するな」

「これは…

 さっき、新体操部の朝練を見てきたからだ、

 はぁ、由佳里様のレオタード(くんかくんか)」

「お前、それは!」

「男子生徒憧れの女神様、由佳里様のレオタード!」

「よこせー」

「汚い手で触るなっ、

 由佳里さま汗の臭いが穢れる」

「センセー、

 ここに変態共がいまーす」

学園の片隅でそんな会話がなされると、

次第にそれは噂となって静かに広がっていく。

そして、

「号外だよ!

 号外だよ!

 さぁさぁさぁ

 聞いてらっしゃいっ

 見てらっしゃいっ

 あの水泳部の完璧超人に熱愛発覚!

 これを取材しなければ女が廃るっ

 沼ノ端通信編集部が送る

 気合のレシピをとくとご覧あれ」

その翌日には

噂を嗅ぎつけた校内新聞が号外を緊急発行するにいたって、

もはや噂の域を越えてスキャンダルへと発展してしまったのであった。

その結果、

「いたいたいた、

 木之下君っ

 この記事ってどういうことなの?」

「記事?」

「水泳部キャプテンの熱愛発覚って

 コレ本当なの?」

「はぁ?」

「知らないの?

 水泳部なんでしょう」

「そんな事言われても…」

「もぅ、

 木之下君じゃ埒が明かないわ、

 桜庭さんに聞いてみよう。

 あの子も水泳部だから」

「そうねっ」

「行こう、行こう」

「なっなんだ?」

スキャンダルの真相を求めて

山野と最も距離が近いであろう

水泳部員たちに女子生徒が押し寄せる事態へと

ハッテンしてしまったのであった。



この事態を重く見た生徒会は学園校長に対し、

緊急職員会議の開催を申請し、

翌朝、国際宇宙ステーションに滞在中の理事長が

ビデオ会議にて臨席の元、職員室にて緊急午前会議が開かれた。

本事件に対する学園の方向性がすぐに決まるであろうと思われていた会議であったが、

しかし、新体操部顧問より急遽提出された

レオタード盗難事件犯への処罰強化の嘆願書の扱いについて紛糾、

新体操部の練習を非公開にしているからこのような犯罪が起きるのだと言う練習非公開否定派と、

このような犯罪を防ぐためには男子の体操服を新体操部と同じレオタードにすれば良い。

と言うレオタード統一派とが鋭く対立、

校長を交えて幾度も調整が行われることになった。



その調整の過程で水泳部男子の競泳パンツの扱いについて言及があり、

特定水泳部員が見せるモッコリがあまりにも性的すぎる。との意見に対し、

モッコリは男の特権である。と言う水泳部顧問の返答に反対派が噛み付き、

またしても議論が暗礁に乗り上げてしまったのである。

この事態を解決するため理事長が宇宙での滞在を終えて帰ってくるまでの間、

議題は校長が預かることで午前会議は終了となり、

結局何も決まらなかったのである。



さて、場面は代わって

人気のない水泳部のシャワー室。

そのシャワー室で競泳パンツ姿の正人と

競泳水着姿の少女…中田友美が抱き合っていた。

二人は数ヶ月前から人気のないところで付き合い始めていて、

恋愛進捗度は既にAを済ませていた。

「…キャプテン」

「…友美…」

二人は絡み合うようにお互いに接吻を交わし、

お互いに抱き合ったまま時は過ぎていた。

数時間後…

「(…いけない…寝ちゃったのかしら…)」

友美が目を覚ますると、

「…え…」

彼女の前に居たのはまったく別の人間だった。

正人が穿いていた競泳パンツこそ身に着けていたものの、

パンツのふくらみはなく、

代わりに胸は大きく膨らみ、

くびれも出ており、

髪も長くなっていた少女であった。

「…あなたは…

 真実さんなの?」

「ええ…今までだましていてごめんなさい…」

彼女の名前は山中真実。

普段は女子水泳部員だったのだが、

部活のないときは何をしていたのかまったくの謎だった。

それがまさか誰もがうらやむ男子水泳部のキャプテンをしていたとは…

「…あたしはもう、

 あなたとは一緒にいられないわ…」

悲しそうな顔をする真実。



しかし、友美はひるむことはなかった

「…ふーん、じゃあ、

 あたしも何をしていたのか言っちゃうわ」

そういいながら彼女は競泳水着を脱ぐと、

真実が着用していたのとは別の競泳パンツを着用し、

さらに全身に力を込める。

すると、

メキメキメキ!

見る見る友美の姿が変わり、

ある者へと変身していくではないか。

「…!?」

「あ…あなたは和友?」

友美が変身した姿…

それは男子水泳部における正人のライバル・川中和友だった。

「…じゃあ、今度はあたしがあなたに入れる番ね」

和友はパンツを大きく膨らませながら真実に迫っていく。

実は男子水泳部の人数が圧倒的に足りないため、

女子水泳部や他の女子の有志が男に変身して

人数を補っていたのだが、

彼女たちはそれを周囲の者に明かすことはなかったのである。



「なぁ、木之下」

「ん?」

「先輩達、なんか少なくないか?」

「そういえば…

 用事でもあるのかな?」

「しょうがないから1年だけで部活するか」

「そうだな」

「をーぃ、幸司ぃ

 先輩待っていても仕方が無いから、

 さっさと泳ごうぜ」



おわり