風祭文庫・アスリート変身の館






「GAP」



原作・inspire(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-287





その日、東京ドームに設けられた特設リングの上では

いままさに今世紀最強と評される覆面レスラー・イツゴーXのデビュー戦が行われようとしていた。



試合開始時刻

ウォォォォォッ

このときを待ってましたとばかりの大歓声を受けて、

タッ

真紅のマントに身を包みリングシューズを輝かせながらドーム内に躍り出たイツゴーXは

己の戦いの場であり対戦相手が待つリングめがけて風のごとく駆け抜けていく。

そして、

タンッ

驚異的な跳躍力でリングに飛び乗るや、

フワッ

スクッ!

四角く張られたロープの上にまるで鳥のごとくとまって見せる。

「おぉぉぉっ」

「すげーっ」

「さすが、メキシコ仕込みと言われるだけはあるな」

ポール上ならともかく揺れ動く不安定なロープの上に

つま先で立つイツゴーXの雄姿に皆は目を見張るが、

バッ!

さらに驚いたのは纏っていた真紅のマントを剥いだその姿であった。

「なっなんだあれは?」

「うむっ」

マントを剥いだイツゴーXの肌の色はまるで女性のごとく白いものの、

しかし全身筋肉ムキムキに隆起し、

穿いている黒ビキニの大きな膨らみ方は誇らしげである。

歌舞伎役者のごとく繊細さと狂気を併せ持つデザインのマスクと相まって、

底知れぬパワーで周囲を圧倒してみせる。

しかし、イツゴーXのいでたちは裸マントということには代わりはなかった。



カァンッ!

試合開始のゴングが鳴り響くのと同時に

タンッ

イツゴーXは小鳥のごとく華麗に舞い上がり、

そして、鷹のごとく対戦相手に容赦なく襲い掛かる。

まさにあっという間の出来事であった。

カァンカァンカァン!!

テンカウントゴングが鳴り響く中、

対戦相手を瞬殺したイツゴーXの興奮は多くの観客をとりこにしたのであった。
 


試合終了後、

興奮気味に話しかけるスタッフを尻目にイツゴーXは自分の支度部屋に戻るや、

部屋に入らないように忠告すると部屋に鍵をかける。

それを確認した後、彼は自分自身の覆面、

観客にも対戦相手にも知られることのないその覆面をはずしたのである。

すると、そこから現れたのは長髪でまゆ毛は細く、

まるでか弱い美少女のような顔だった。

彼がこのようになったのは1年前にさかのぼる。

そう1年前、高校のミスコンテストに優勝した美少女・河本理奈、

彼女はミスコン終了後、控え室にいたのだが、

だが何の手違いか、その日は高校のボディービルコンテストの日でもあった。

そして、控え室を間違えたとても高校生とは思えないボディービル部員で、

優勝候補間違いないといわれた男が入ってきた。

(うわ…ムキムキで男臭い…よくこんなのいるわね)

男はこことぞばかりに裸になり、自分の筋肉を見せ付けてきた。

だが・・・・その日、その高校は何者かの襲撃を受け、

偶然にも控え室をはじめとする学校の数箇所で爆発が起こってしまった。

爆発事故から数週間が過ぎ、理奈は目を覚ました

「…ここは…そうか、爆発が起きて…でも、あたし助かったんだ…」

安堵しつつふと鏡に目をやると、

首から上は理奈そのものだったが、

しかし首から下がなんとあの男臭いボディービル部員のものになってしまったのであった。

「ひっ!」

衝撃の事実に理奈は固まってしまうと、

「目を覚ましたようだな」

なにやら不思議な雰囲気を持った女医が姿を見せるや話しかけてきた。

「先生…これはどういうことなんですか…」

問い尋ねられた女医は口を開いた。

「おぬしは、あの爆発事故でまず首は無傷だったのじゃが、

 首から下が粉々に砕け散った。

 そして、変な男の首から上は無残にもつぶれた、

 そしてその衝撃でおまえさんとその男の体がくっついてしまったのじゃ…

 じゃが、不思議なことにその男の体はなぜかお前さんと同化しちまって、

 こうして何事も無かったのかのようになってしまったのじゃ…」

さらに、現代ではどうやっても理奈の体を基の女性にすることは難しいという…

こうして、彼女は何の後遺症も無く退院できたわけではあるが、

首から上は美しい少女、

首から下は逞しい男のボディビルダー、

という姿は明らかなギャップがあった。

そのようなギャップを感じながら自分の首から下にあるペニスをしごき、

少女の声で喘ぎ声を上げる…

いつの間にかそれが日課になってしまっていた。

このままでは生活は出来ないと考えた彼女は覆面レスラーとしてデビューすることとなったのだ。
 
楽屋でオナニーに励む理奈の携帯に一通の電話が来た。

「もしもし…」

「俺だ…お前の彼氏の和彦だ」

電話の声は彼女がまだ女性の体だったときに付き合っていた少年、和彦だ。

「…あたしはちょっと忙しいの…」

こんな姿を和彦には見られたくない、そう思った理奈だった。

「…わかっている…だが…」

和彦はどうやら理奈が男の体になっていることを知ってはいるようだ。

しかし、和彦はどうしても理奈に会いたいらしく、

日時と場所を指定してきた。

指定された日時、彼女は町外れの安ホテルの指定された部屋にいた。

(和彦…まだこないかな…)

理奈がそう思っていたとき、ドアのチャイムが鳴った。

理奈が扉を開けると、理奈は目の前にあったものに絶句した。

なぜなら、目の前にいたのは首から上は和彦そのものだが、

首から下はまるで妖艶な美女の体だったからだ。

「…和彦…どうしたの…」

理奈は自分の姿を見られたことよりも、和彦の姿に目が行っているようだ。

「俺もお前と同じ理由さ。

 あの日、俺は偶然お前のライバルに連れ込まれたんだ。

 ミスコンで優勝したお前の弱みを握りたいらしく…

 そしたら、例の爆発で…気がついたら首から下がそいつになっていたというわけさ…」

「和彦…そうだったの…」

それを聞かされた理奈は頬を紅く染めていた。

その一方で全身の筋肉がピクピク痙攣し、

巨大なイチモツが大きくなっていたのである。

一方、和彦もりりしい顔つきになる裏で、

自分の割れ目をぬらしていたのである。
 
かくして、ギャップを持った二人は結ばれることとなった。



おわり



この作品はinspireさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。