風祭文庫・アスリートの館






「トランクス」



原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-029





それはあたしの大学一年生の初めての夏休みに起きた話だった。

ごくありふれた暑い夏の午後だった。

ガチャッ!!

市営プールの監視のアルバイトを早く終えたあたしがドアを開けると、

ムワッ

夏の陽によって熱気と化した部屋の空気があたしに容赦なく襲い掛かってきた。

「キャーッ、暑い暑いっ!!」

あたしは声を上げて大慌てで窓を全開にすると、

篭っている部屋の熱気を追い出し始めた。

サワッ…

窓からドアへと抜けていく風で、

熱気が外へと流れていくのを肌で感じ取りながら、

あたしはエアコンのスイッチを入れた。


「ふぅ〜

 あ〜ぁ、キャミソールもびちょびちょ。

 汗いっぱいかいちゃった」

あたしは汗を拭いながら不快感を感じつつ

エアコンから噴出す冷気に当たっていた。

すぐにでもシャワーを浴びたかったが、

まずは体の熱気を冷ましたかった。

十分ほど経ったちようやく冷めてきた体に一息つきをつくと、

あたしは冷蔵庫から麦茶を作り置きしたペットボトルを取り出すなり、

それを一気飲みした。

「ふぅ…」

あたしは軽くなったペットボトルをテーブルに置くと、

全開にしていたカーテンを閉め、

そして、いつものようにシャワーの準備を始めた。

そう…

それまでは…

いつもと変わらない夏休みの日のはずだった。



「さ・て・と…」

バスタオル、着替えを整え、

びちょびちょになったキャミソール、スカート、ブラ、ショーツを脱ぎ捨て

あたしは生まれたときのまんまの姿になると浴室へと入ろうとした。

そのときだった。

スーッ

「?」

いつもと違う風を感じた途端、

あたしの体が思わず止まった。

スーッ

「……風?」

あたしは目を動かしながら髪を撫でる風の出所に探した。

すると

脱衣所兼トイレのすぐ上にある天井板がなぜか半開きになっていて、

そこから少し涼しい風が流れ込んでいた。

「?…なんであんなところが開いてるんだろ?

 開けた覚えはないし…

 地震とかがあったわけでもないのに…」

あたしは訝しげにそれを眺めながら不安を感じた。

「そういえば、この近くで痴漢が出たっけ」

先日、近所のアパートで起きた痴漢の事件のことを思い出すと、

ガタッ!!

あたしは半開きの天井板の下に椅子を持ってくるとその上に登った。



「ふーっ!」

覗き込んだ天井裏はすぐ上がコンクリートの天井からだろうか

夏なのに冷めた空気が溜まっている空間は真っ暗で

あたしの部屋一角分の天井が広がっていた。

「ふーん、天井裏ってこうなってるんだ…」

あたしがくるりと回って反対側を見たとき

キラッ

一瞬、何か光るものが見えた。

「ひっ!?」

あたしは反射的にびっくりしたが、

よく見ると何かの布みたいだ。

「なんだぁ、びっくりしたぁ〜」

あたしは胸を撫で下ろしながら

手を伸ばしてその布切れを取ってみた。

「あれ?

 なんだろ?

 服?」

手触りから他にも何かありそうだったが、

取り合えずそれを確認しようとあたしは

手にとったそれを握り締めると椅子から降りた。

「いっ…なにこれ?」

広げたその布切れは一見ズボンのようだったが、

しかし、よく見ると幅広いゴムと赤地に白のストライプが入ったサテンで出来たそれは

ボクシングのトランクスの様にも見えた。

「…もしかして

 これ、ボクシングのトランクス!?

 しかも男の人の!!」

あたしは、”根性”と”郷田剛”と言う力強い書体で描かれた刺繍を見て

これがボクシングの試合をする男の人が付けているパンツであることに気付くと

思わずびっくりして放り投げてしまった。

パサッ

あたしの手から離れたトランクスは軽い音を立てながら床の上に舞い落ちる。

「やだぁ、なんでこんなのが…」

そう言えば…

ここのアパートの下には昔ボクシングジムがあったって聞いていたけど、

そう思いながらも、

なぜかあたしはそのトランクスから目が離せなかった。

「ふぅ〜ん、

 この剛って人、強かったのかな…」

トランクスを眺めながらあたしはちょっぴりドキドキしていた。

そう、まだ高校生のころ、

駅前にあったボクシングジムで練習に汗をかいている男の人を

横目で見ながら通っていたことを思い出した。

そして、その男の人の腰にはこれによく似たサテンのトランクスがいつも光っていた。

「でも…

 これが前の住人さんのだとしたら

 これって前の住人さんが練習の時に使ってたのかな?」

そう思っているとあたしはなぜか興奮してきて、

床に落としたトランクスを何時の間にか両手で握り締めていた。

「はぁはぁ…

 って、あたしにどうしちゃったんだろ?」

不思議だけど胸の奥がドキドキして胸の高鳴りが押さえられない。

ふとトランクスを顔に近づけると、あたしは妙なことに気付いた。

「あれ…

 なんか…

 このトランクス濡れてる。

 しかも、なんか汗の匂い…がする?」

あたしは思わず心臓が張り裂けそうになった。

だってそのトランクスがいまさっき脱がされ、

この天井裏に隠されたとしたら、

近くにこれの持ち主がいて、

あたしを観察しているかもしれないと思ったからだった。

…でも

部屋に帰ってきたとき鍵は掛かっていたし、

誰も入った形跡もなかった。

しかも、天井裏は部屋ごとに区切られていて、

隣から来ることは無理な上誰もいる気配はなかった。

だとすれば…

「はぁはぁ…どういうことなの?」

あたしは息を荒くしながらトランクスに鼻を当てていた。

トランクスはまるでさっきあたしが脱いだキャミソールやショーツのように

べったりと汗を染み込んでいて暖かみすら感じられた。

さらに、練習中にトイレにでも行ったのだろうか、

トランクスの股間がさっきおしっこを済ませてきたかのように少し濡れていた。

…

「ええっ!?

 あ、あたしってば…

 な、何てことしてるわけ?」

あたしは慌ててトランクスを引き離すと肩で息をしていた。

「うそ、でしょ…

 あたしってそんな趣味あったの?」

あたしは自分でも変なことしてると思いながら動揺していた。

でも…

汗をかいた裸でいる自分になんともいえない気分が

心の奥から湧き上がってくるのをあたしは感じていた。

それは…

このトランクスを肌身に感じたい…

そんな気持ちだった。

「あ、あたし、変だよ。

 変だよね?

 でも…

 なんか我慢できない」

あたしは息を荒く吐きながら

トランクスを両手で持つと下へと移動させていった。

(あたし…これを履くつもりなの?)

そう思う間もなくあたしは片足を上げると

すっと

トランクスの中に突っ込み片方の穴から足を出していた。

「あ…」

そして違和感と興奮と嫌悪感が渦巻く中あたしはもう一方の片足を上げると

またすっと

トランクスへと足を入れる。

「あっ、あっ…」

自分でも心臓が爆発しそうで、

顔が真っ赤になっているのが手に取るように分かる。

でも、

あたしは両手に力を込めると一気にトランクスを持ち上げた。

ドッドッドッドッ

心臓の鼓動が最高潮になる中、

トランクスのヒヤリとした布地があたしに触れた。

トランクスに染み込んだ汗がべったりとあたしに張り付き

あたしの汗と混ざり合う。

その温もりと湿り気があたしを更に興奮させた。

「あたし、これの汗と温もりを感じてるんだ…」

自分でも何いってるか分からなかったけど

とにかくあたしはドキドキしていた。

トランクスの太いゴムが腹回りに張り付き

これを穿いていたであろうボクサーの体臭があたしにくっついた。

あたしはたまらなくなって

ぬとりのあるトランクスの上から手を当てて

トランクスの布地を自分の肌へと宛がった。

「あんっ…

 いやっ、何やってるの?

 あ、あたし!?

 でも感じてしまう。

 気持ちいい。」

それは紛れもない事実だった。

トランクスの汗があたしの体に逆に染み込んでいく。

そんな感覚すらするような気がした。

それがとてもうれしいような気すらした。

「あ、あっ

 駄目よ。

 やめて」

あたし必死にトランクスを自分の体へくっつける。

そして、自分も顔ごとトランクスに近づけると

それを全身で感じようとしていた。

「あたしっ

 なんか変っ!?

 熱いっ。熱いよ」

あたしは異常だと感じながら

トランクスをベタベタと自分の肌に押し付ける。

その度に肌が熱くなり

トランクスに染み込んだのと同じ汗があたしの体からも

出てくるような気がした。

「駄目っ!

 やめて…」

ついに熱さが股間に移る。

あたしはトランクスに付いていた

おしっこの染みを必死に自分の股間へと押し当て擦り当てていた。

「あ…あ、ん。

 こんなの変…変だよ」

おかしいのは分かっているけど

でも、あたしはやめられなかった。

「このおしっこが…

 あたしのおしっこで

 …い、やんっ!

 このトランクスはあたしのトランクスで…

 この染み込んだ汗があたしの汗で」

体が震えていた。

何かしてはいけないことをしているという罪悪感で。

とんでもないことをしているという不安感で。

でも震える口からはとんでもない言葉を口走り

あたしは、トランクスの上から手で上下に股間に擦り合わせていた。

シュッ

シュッ

女の子のアソコまで感じてきたのか

トランクスがあたしのアレで黒く濡れていく。

トランクスには想定されていない濡れる場所が濡れていく。

それにあたしは興奮していた。

「あたしのここに…

 あたしのここに…

 あたしのチンポが…

 チンポがあるはず…

 な、なの、なんだよなっ」

あたしは訳のわからないことを叫ぶと

トランクスの上からギュッと

勃起したクリトリスを握った。

「ひっ、ああんっ!?」

その普段と違う感じに…

自分のしている変なことにあたしは声を上げた。

「あ、あたしのクリが…

 なんか飛び出してる?」

あたしは呆然としながら

指先で掴んでいるクリというには大きすぎる肉芽に驚いていた。

しかし、

手は止まらない。

「あたし…

 あたしのチンポ」

あたしの手は両側からそれを押し出すように

スッ

スッ

と擦り出す。

「あ、あっ!

 んんっ!?」

それと共に信じられないような感覚があたしの股間に現れた。

ニュニュッ

「えっ?

 あ、んんっ!!」

まるで粘土の塊を引き伸ばしていくかのように

あたしの手はクリを押し伸ばし膨らませていくのが分かる!

(なんで…

 ウソよ、ウソ!?

 なんでこんな感覚がっ)

あたしは冷や汗を流しながら必死に自分の手の感覚と股間の感覚を確かめた。

でも

間違いなくあたしの股間に肉棒というべき物体が

ニュクニュク

と伸びていく。

そして、

くすぐったいような気持ちいいような感覚がクリを襲った。

「あ、あああっ!?」

あたしが思わず口を思い切り開いた瞬間

クリの先が一気に膨らみ

プチュリ

という音と共にその先端が弾けた。

「は、はぁんっ!??」

あたしは喘ぎ手で何かを引き剥くように肉棒の表面を引っ張る。

それとともに肉棒の素肌がトランクスに当たり

その敏感さにあたしは身を捻った。

「はぅぅぅぅ…」

『ふはははは…

 とうとう生やしちゃったな、英美ちゃん。

 どうだ、自分のチンポの感覚は?』

そのときだった。

あたしの耳に…

いえ、

というよりあたしの頭に直接男の人の声が聞こえてきたのだった。

「だ、誰っ!?」

あたしは動揺して辺りを見回すがそれでも誰も見えなかった。

「どこに…

 どこにいるの?」

『馬鹿だなぁ。

 お前の傍にさっきからずっといたのに…

 やっと俺の声が聞こえたか、

 それよりどうだい自分のチンポの感覚は?』

おどおどするあたしに馬鹿にするように彼がいうと

あたしは腰を屈め、手が勝手に動くとトランクスを引き摺り下ろした。

「あ、え?

 やっ、やめてっ!」

スス…

そしてあたしの目の前に飛び込んできたものは

プルン

とした肉の棒…

いえ、男の人の大事なもの…

そうペニスだった。

それが大きく膨らみ、あたしの股間に生えていた。

「…ひ、ひっ!!」

あたしは姿勢を変えられず、

目も閉じられないまま唖然として震え、

信じられない光景を眺めていた。

『どうだ?

 自分で生やしちゃったチンポだよ。

 ほら、いってごらん。

 自分のチンポだ』

「あ、あたしのチ、チン、チンポ…」

あたしの口は勝手に喋り、

あたしは思わず顔がカッと熱くなるのを感じた。

『そうだ。

 英美ちゃん、お前のチンポだ。

 でも、それは俺のチンポなんだ。

 本当はな。

 元は確かに英美ちゃんのクリトリスだし

 今は英美ちゃんの股間に生えてるけど

 それは俺のチンポと全く同じものなんだぜ』

「こ、これがあなたのチ、…ものなの?」

あたしは体を震わせながら尋ねた。

『そうだ。

 お前は随分変態さんだなぁ。

 俺のトランクス履いたりして、

 だから生えちゃったんだよ、

 俺のチンポが。

 今やお前の股間は俺の股間と全く同じさ。

 チンゲの生え方も、匂いも、精液も、チンポの長さも

 そして気持ちよさもな』

「やめてっ!!」

あたしは耳を塞ごうと思った。

でも、あたしの手はいうことを聞いてくれなかった。

『お前も馬鹿だな。

 興味をもたなければ、そんなことにならなかったのに…

 ま、俺にとっては好都合だったんだけどな。

 さぁ、これで作戦通りだぜ。

 お前にも俺の絶頂を体験してもらおう。

 そして、俺と同じ気持ちを味わうんだ。

 その英美ちゃん、お前のチンポから思う存分精液を吐き飛ばすといい』

「な、何をいってるの?」

『どうだい、なかなか逞しいだろう?

 俺のチンポ。

 それでお前も同じ快感を味わうがいい。

 そのとき、お前の体に俺は乗り移ることができるんだから』

頭の中の声は意地悪そうあたしにいった。

あたしは体も動かせない中、

どうしようどうしようとただうろたえるしかなかった。

(あたしが、…その絶頂を感じちゃうと

 この人に乗っ取られちゃうの?) 

あたしは荒く息をしながら

ドクンドクンと脈打つチンポを眺めていることしかできなかった。

『乗っ取られる?

 それは違うな。

 一つになるんだよ、俺とお前はいずれ。

 ま、俺は体を無くした浮遊霊にしかすぎないんだけどさ、

 お前が俺と同じ体験をすることで、

 お前の体に寄生して生霊となることができるのさ。

 あとはお前の魂を中から犯していって同化するだけだね。

 そうすれば、

 君の体をどうとでもできるからね』

「や、やめてっ!」

あたしは必死にそう叫んだ。

怖かった。

こんなお化けと一緒になっちゃうなんて…

しかも、こんなチンポまで生やして

それで…そ、そんなことまでしちゃうなんて。

まだ彼氏とデートしたこともないのに

あたしが男になっちゃうって思うと心が潰れそうだった。

「お願い、こんなことやめて。

 あ、あたしの体を元に戻してっ!!」

あたしはそう訴えるが

『聞き分けないなぁ。

 じゃあさっさと君に取り付かせて貰うことにしようか。

 お前だって気持ちいい思いをするんだから、悪いことじゃないさ』

と男はあたしにいうと

あたしの体はトランクスをポイッと籠に脱ぎ捨てて

バスルームへと入っていった。

「え、なんで…

 体が…」

『さぁ、英美ちゃん。

 俺の快感を味わってごらん。

 そして、俺のペニスの気持ちよさと射精をするっていう感覚を覚えるがいい。

 君と俺は同じ感覚を共有するんだぜ』

と男が囁いた途端

ドクンッ

あたしの心臓が激しく打った。

ドクンドクン

あたしはそのまま腰掛けに座ると

俯いてじっと

脈打つチンポを見つめ続ける。

(こ、これから、あたしどうなるの?)

あたしが不安になって脈が上がるに連れて

それに呼応するようにチンポもビクンビクンと跳ね上がる。

そのグロテスクな物体にあたしは吐き気を覚えた。

「や、やめて…

 あたし、こんなことしたくないっ!」

『何をいってるんだ?

 気持ちいいんだぜ。お前だって一度知ったら病み付きになるさ』

「でも…

 体験したらあなたに取り付かれるのでしょ?」

あたしが脂汗を流しながら聞くと

『そうだな。

 まあ君にとっては知りたくない禁断の味ってとこだろーけどよ。

 俺にとっては知ってもらわなきゃ困るのさ』

「そんな…」

『さぁ、

 精液をその綺麗な体から吐き出してみろよ。

 英美ちゃん、気持ちいいからさ』

彼がそういった途端だった。

ドクドクドク

頭が急に熱くなったかと思うと

あたしの中に今まで感じたことのない強い衝動が起こった。

「あ、あっ!」

体の奥から乱暴で強い欲望が沸き起こり

それが股間の突っ張った感覚に反映されていく。

それは堪らなく強烈で耐えがたいものだった。

「はぅっ、はぁはぁ…」

そしてその欲望に答えるかのように

あたしの手はそっとチンポに添えると

シュッ

シュッ

と擦り始めた。

この行為がどういう意味なのかはなんとなくとしか分からなかったが

でも、快感としかいえない気持ちよさが

ゾクゾクと背筋を震わせあたしの頭を埋めていく。

「い、いっ、ややっ!?」

『ふふ、初めての男の感覚は女の子に強すぎたか?

 ま、精液を女にぶち込みたいという衝動は女の子にきついだろな?』

「や、やめてっ!

 こ、あ、あんっ

 んんっ!」

あたしは必死に止めさせようとするのに手は快感を貪ろうと必死に動いていく。

それと共に下半身が熱くなり何かが溜まってくるのをあたしは感じ始めていた。

『ほら

 溜まってきただろう?

 俺の精液だ。お前の精液でもある。

 それを吐き出してみろよ。お前と俺は一つになるんだ』

「そ、んな、ことっ!

 あんっ、あんっ!」

あたしは歯を食いしばっていたが

チンポに向かって何か漏れようとする感覚が強くなっていくのは否定できなかった。

「漏れ…漏れる。

 あ、あんっ!

 んん、漏れちゃうの?」

『ふふ、おしっこじゃないぜ。

 お前の性欲の塊さ。精液だよ。

 そして俺の精液さ。お前は俺になるんだ。

 俺はお前になるんだ。

 ほら、興奮してるのだろう?』

「やめ、漏れ…ちゃうっ!

 い、いやっ!

 あ、ああっ!」

固く熱く滾るあたしのチンポ。

こんな感覚は生まれて初めてだった。

これが男の子の感覚なのかとあたしはどこかで陶酔していた。

感じてはいけない感覚。

それなのに…

いえ、だからこそあたしは感じまくっていた。

おれのチンポから精液を吐き出そうとしている自分に…

「あ、あ、あ…」

声にならない、

止められない何かが

体をプルプルと振るわせる。

そして、堰を切って熱い何かが溢れ出すのをあたしは感じた。

あたしの頭が真っ白になって

…

「ンッッッ!?」

ピシュ

ピシュッ

シュッ

シュッシュッ

軽い音を立てて

あたしの中から液体が飛び出していく。

ただ、それだけのはずなのに

それは麻薬のように気持ちよくて

あたしは顎を上げてその感覚に身を任せた。



「やめて…

 お願い、いくら依り付いてるからって」

あたしは必死に懇願した。

でも尿意はそう簡単に収まりそうになかった。

いくら女の子の構造より耐えられるといっても限度はある。

『駄目だ。

 立ってしょんべんするんだよ。

 俺のチンポでな。俺と同じ開放感が味わえるんだ。

 さあ、さっき射精したばかりだろ、やってみろよ』

「そ、そんな…」

あたしは震えながら

まだ固くなっているチンポを眺めていた。

さっきからあたしは何も着ていない。

あたしは裸に彼のチンポを生やした姿のまま脱衣所にいた。

『ほら、もう漏れそうだぜ。

 俺のチンポでしょんべんしてみろよ』

「う、うううっ…」

あたしは顔が真っ赤になっていくのを感じながら俯いていた。

確かにもう我慢はできない。

もう選択してる余地はなかった。

「も、もう…

 だ、駄目っ!」

あたしは射精に続いて生理的な欲求折れると

生えたばかりのチンポを握って便器の前に立っていた

『そうだぜ。

 どうだ、立ってしょんべんするのは、俺のチンポのおかげだぞ』

「あ…」

こんな風にしたことは今までなかったけど

でも、あたしはそれっぽく立つと、

止めていた何かが緩みおしっこが出てくるのを待った。

長い。

そして、管の中を、チンポの中をおしっこが流れていくのが分かる。

「は、はうっ!」

彼のチンポにしろ、あたしの…女の子のにしろ、

おしっこを出す気持ちよさは同じだけど

立ってするというのにあたしは興奮していた。

ジョバジョバジョバ

まだ固くなっているチンポからまっすぐ飛び出たおしっこは

放物線を描いて長い距離を飛んでいく。

「あ、あたし…」

あたしはチンポを掴んでいる右手に意識を集中させながら

本来あり得るはずのない体験をしている自分に驚いていた。

そして

おしっこを出し終えると

「はぅ!」

思わず立ったままの体がぶるぶると震えた。

『気持ちよかったろ。

 お前は俺のチンポでおしっこする感覚を知っちまったんだ。

 これからお前は少しずつ俺と一つになっていくんだぜ。

 これでちょっと分かったろ?』

「そ、そんな…

 あたしが、あなたとなんて…」

『あなたも糞もあるか、

 俺はお前の一部になるんだ。

 一部になったら自分は自分で嫌いも糞もなくなるんだぜ。

 けっけっけ』

彼の言葉にあたしは耐えがたい不安を覚えつつも

彼と同じ体験を共有していることに感じていた…



シッシッ

シッシッ

「はぁはぁはぁ…

 なーんかなぁ…
 
 なんであたしがボクシングのまねごとをしているんだろうって思うんだけど…」

トランクスを穿いたあたしはシャドウボクシングを終えると、

無意識に自分の股間に生えたチンポに手を伸ばすとそれを扱きながら

もう一人の自分に話し掛けていた。

『そりゃそうさ、

 お前が絶頂に達して俺と交わる度に

 俺とお前の魂はセックスしてるんだ。

 お互いに自分を射精してるのさ。

 お前は俺の中に英美としての自分を

 俺はお前の中に剛としての自分を…

 だからお前の魂の中には剛の魂が交じっている。

 俺の記憶、性格もお前に少しずつ交じっていってるんだぜ
 
 お前がボクシングを始めだしたのもそのせいさ』

「それって怖いことよね?

 でも、あたし全然怖くないんだよなぁ。

 性格も変わってきてるみたいだし。

 マジで交わるのって気持ちいいしさ。

 自分が溶けていくっていうのかな?」

トランクス越しの倒錯感にあたしは身を委ねながらチンポを激しく扱く。

その気持ちよさはあたしだけの特権だと思う。

他の女の子は絶対に味わえない感覚だからだ。

ほんと、取り付かれたあの日、

嫌悪していた自分が不思議に感じてきてしまう。

「あたしのチンポって気持ちいいなぁ。

 さすがは剛のチンポだぜ」

もちろんあたしは我ながら何てこといってるんだとも思う。

でも剛が自分の中に混ざっていく快感には変えられなかった。

「う、出るぜ。

 んんんっ!」

ブチュ

チュピ

ピピッ

あたしのチンポから激しく精液が噴出すと頭が一瞬白くなる。

これが魂の交わりというやつらしい。

(ああ…

 あたしの中に男の子の心が入ってくる…)

精液が吐き出されるたびに

ドクンドクン

と剛の魂があたしの中に打ち込まれていく。

あたしがあたしでなくなっていく。

あたしからあたしが漏れていく。

そして、あたしが別の色になっていく。

「う、ううっ。

 へ、へへっ…

 なんかまた自分が変わった気がするぜ」

『そうだな。

 英美、最近だんだん男になってきてるみたいだね』

「あたし…

 あ…

 そんな…

 うっ、ううんっ」

そう

今がそう…

あたしの中に剛が解けこけ瞬間、ものすごい恐怖が襲ってくることがある。

多分、それが正しいあたしの気持ち。

でも交わる快感にあたしはすぐにそれを忘れてしまうのだ。

チンポをギュギュッと絞り、精液を吐き出している間に…



「はぁはぁはぁ…

 あたし、何て顔してんだろ」

あたしは信じられないことをしていた。

でも押さえられなかった。

あたしは朝起きるなりネグリジェを脱ぎ捨て裸になっていた。

胸の感覚がおかしい。

まるで今まで付いていなかったかのように、違和感に感じる。

しかも胸に欲情してしまう。

こんな胸たまらねーとか思ってる。

これは間違いなくあたしじゃなくて剛の気持ち。

でも今のあたしの気持ち。

「あ、あんっ!」

あたしはいきなり胸を押ししだくとムニムニと自分の胸を揉みだした。

本当に自分の胸が自分のものじゃないみたいだ。

「気持ちいいぜ」

自分の赤い顔にあたしは激しく興奮している。

あたしは鏡台に写る場所までベッドの上で移動すると

またを開いて横たわった。

「あ、あはぁ…」

あたしは既にチンポを握っている。

あたしは男として性欲に目覚めている。

『なんて様だよ。

 お前、ほんとに英美だったのか?』

彼はいった。

「そんなこといってもよ…

 自分でも変だとは思うけど…

 今まで剛だってこんな写真見て射精してきたんだろ。

 それを俺の中にぶちまけやがったから、

 俺も我慢できなくなってきたんだよ」

(あたし、男言葉になってる…

 しかもどんどん剛になってきてる…

 どんどんエッチな男になってきてるんだ)

「ほんとに…

 まるでこの体を今日初めてゲットしたような気がするんだ。

 そうだ。

 そうだぜ、今当に男から女になったような感じだぜ。

 でも、俺のチンポは捨てられないよなぁ」

あたしはすごいことをいいながら

鏡の中の自分に興奮して

あたしのチンポを扱いていた。

「あ、ううっ!

 くるっ!」

シュッ

白濁した精液は宙を飛び

フローリングの床にピチャピチャと飛び散った。

一体全体、こんな日がくるなんて

剛に取り付かれる前のあたしは想像できただろうか?

でも、気持ちいいんだぜ、剛の…俺のチンポはよ!

「はぁはぁはぁ…

 ああっ、また俺の中が変わっていく…

 俺がお、あ…あたしでなくなる…

 ううっ」

俺は精液を搾り取りながら

女の匂いのついたネグリジェに顔を埋め

再び勃起しはじめるチンポを撫でていた。



「俺…

 英美だったんだよな?

 剛だったのか?」

ある日、

ボクシングジムから帰宅した俺は、

恒例となっているオナニーのあとふと考え込んでいた。

『ふふふ…

 あたしたち、ほとんど溶け合っちゃったな』

頭の中で彼女の声がした。

俺の記憶は次第に剛のものが占めていき

俺は英美に興奮していた。

なんとなく自分が英美だったことは覚えている。

でも実感がないのだ。

剛の魂と交わる度に俺から英美が吸い取られ

剛をぶち込まれたから

俺はほとんど剛になりかけていた。

そして

俺は剛がいま通っているボクシングジムで

練習をしていたボクサーだったことや、

英美が学校帰りに自分の練習を見ていたこと、

そして、試合中の事故で死んでから、

英美を浮遊霊として眺めてきた気持ちまで知ってしまった。

「ほんとに分かるぜ。

 俺ってほんとにたまらないもんな。

 剛が浮遊霊になって俺をどう思って見てきたか分かってしまうから。

 今俺鏡に映る自分を見て奪い取りたいって思っちまうぜ」

俺はほんとうにそう思ってしまうようになっていた。

鏡に映るまぶい女子大生。

英美という女の体。

それに欲情してしまう男の気持ちがよく分かる。

そして、

当に俺は剛と一つになろうとしている自分を感じていた。

「あ、あはぁん」

俺はなんの抵抗もなく胸をもみ

下着をばら撒いてそのたまらない匂いを嗅ぎながら考えた。

俺はもう剛に乗っ取られてるんだなと…

そう…

あのときいった通り、

俺は英美ではなく、剛になっているのだから。



おわり



この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。