風祭文庫・アスリート変身の館






「変心」
-第3話:染まる心-


作・風祭玲

Vol.478





2年目の春がきた…

あの事故から1年が経ち、ぼくのここでの生活も1年が経ったことになった。

そして、6歳になったこの日、ぼくは小学生になった。

「由紀夫、何しているの、

 早くしなさーぃ」

ママの声が響き渡ると、

「はーぃ」

ぼくは新品の椅子から立ち上がると元気良く返事をする。

子供部屋に置かれた真新しい机と椅子のすわり心地にぼくは戸惑うが、

でも、いまは慣れるしかない。

そう、ぼくは小学生なのだから、

トタトタと足音をあげながらぼくはママが待つ玄関へと向かっていくと、

「由紀夫…

 オシッコはちゃんとしてきたの?」

とぼくの姿を見たママはそう注意した。

「あっ

 いけね」

ママの注意にぼくは回れ右をすると、

そのままトイレに駆け込み、

そのまま便器に座ろうとした。

すると、

『由紀夫、お前はもぅ小学生なのだから

 いつまでも座ってオシッコをするのはやめなさい』

と、昨日ママから注意されたことを思い出すと、

「あっいけねっ」

ぼくはペロっと舌を出して腰を上げると小便器に向かい立つ。

そして、

「んしょっ」

おぼつかない様子でズボンを下げ、

モゾモゾとオチンチンを取り出した。

血が通わなく掴んでも感覚のないぼくのオチンチン…

去年、ぼくにこのオチンチンが付けられたときはイヤだったけど、

でも、1年が経ち、なじんで来たのか、

このオチンチンが付いてないとなんだか不安に感じてくるようになっていた。

グッ!!

ぼくはオチンチンに向かって意識を集中させると、股に力を入れた。

すると、

ジワジワジワ…

ぼくの体の中からオシッコがオチンチンに向かって動きだし始め、

ポチョッ

ポチョッ

っとオチンチンの先からオシッコの雫が滴り落ち始めた。

「くはぁ」

そこで一旦、力尽き

ぼくは大きく深呼吸をすると、

シュルシュルシュル

折角途中まで出掛かっていたオシッコがぼくの体の中に入ってしまい。

「あっあぁ…」

その感覚にぼくは小さく声を上げた。

そして、

「ふんっ」

もぅ一回気張ると、

さっきので弾みがついたのか、

ジュルジュルジュル!!

勢いをもってオシッコはオチンチンの中を通り、

ジョボジョボジョボ

っと便器に向かって流れ落ちていく。

「はぁ…」

ジョー…

ぼくの股間から垂らすように伸びる黄色い水の流れを眺めながらぼくはホッとすると、

「由紀夫っ

 何時まで掛かっているの」

とママの呼ぶ声が響いた。

「あっ待って、

 いまオシッコが出たところ」

ママの声にぼくはそう返事をすると、

「早くしなさーい」

とママの返事が返ってきた。

「そんな事言ったって…」

ママの返事にぼくは口を尖らせながら

ピッ

ピッ

っとオシッコを出し終えたオチンチンを振ってオシッコを切ると、

モゾっ

っとパンツの中にオチンチンを仕舞い、

そしてズボンをあげた。

実はこのオチンチン、

昨日、メイドの美麗お姉さんから新しいのをプレゼントされ、

お姉さんの手でぼくの股につけてもらったばかりだった。

「ふぅん」

新しいオチンチンの感触を味わうかのように僕はパンツの上からオチンチンを触ってみると、

この新しいオチンチンは前のよりも一回り大きくて長くなり、

立ってオシッコをするときは手で支えて狙いやすくなっていた。

「調子はどう?」

オチンチンをつけてもらった後、

ぼくに使い心地を美麗お姉さんがそう尋ねてくると、

「うん、使いやすいよ、

 立ってのオシッコの仕方のお勉強、

 ぼくこっちでやりたかったよ」

とぼくは美麗お姉さんに向かって元気に返事をしていた。



「はいっ

 君たちは今日から晴れて小学1年生になりました」

ぼくが通うことになる小学校で入学式、

体育館でぼくはじっと校長先生の話に耳を傾けていた。

無論、ぼくの周りに座る新・1年生達はぼくよりも遥かに小さく、

ぼくは1年生の中から聳え立つように座っていた。

そして、入学式のあと、

ぼくは担任となる女の先生に率いられて教室へと入っていくと、

教室に並べられた机のひとつに

「きじぬま ゆきお」

と書かれた紙と、授業で使う教科書がまとめて置かれていた。

「これが、ぼくの席かぁ」

そう思いながらぼくは席に着くと教科書の一つを取り

ペラペラとめくってみた。

ところが、

「あっあれ?」

教科書に書かれている言葉の意味が判らず、

しばしの間ぼくは固まってしまった。

「そんな…

 小学1年生の問題なのに…」

1年間、赤ちゃんから幼稚園児として生活してきたためだろうか、

ぼくの頭は幼稚園児と同じくらいに退化していたみたいだった。

「………

 本当に小学生になってしまったの?

 ぼく…」

教科書を手にしながらぼくは言いようもない恐怖感に駆られていた。



キーンコーン…

チャイムの音が鳴り響く中、

ぼくは先生に送られて校舎から出てくると、

「由紀夫君」

と言う声と共に、ぼくの夫・隆が声を掛けてきた。

ハッ!

「隆…」

突然の夫の登場にぼくは驚くと、

「仕事を休まれてわざわざ駆けつけてくれたのよ、

 ほらっ

 由紀夫、

 お礼は?」

と夫の隣に立つママがぼくに言った。

「あっありがとう」

ママの言葉にぼくは顔を真っ赤にしながら礼を言うと、

「いえいえ、

 良いんですよ、

 それよりも由紀夫君と二人っきりで話をしたいんですが、

 いいですか?」

と夫はママに言うと、

「そうね」

ママは少し考えた後、

「えぇ、よろしいですわ」

と笑みを浮かべて返事をした。

「え?

 いいの?」

ママの返事にぼくは驚いて聞き返すと、

「えぇ…

 いってらっしゃい」

とママはぼくの背中を叩いた。



カラン…

夫に連れて行かれたのは学校からそう遠くない喫茶店だった。

「なにがいい?」

メニューに目を落としながら夫が尋ねると、

「うっうん、

 ぼく…

 パフェでいい…」

メニューを食い入るように見つめながらぼくはそう返事をすると

そのまま俯いてしまった。

「どうしたの?」

「なんでもない」

意味は判らない、

グッ

僕は指に填めてある指輪を隠すように手を握ると、

その様子を見た夫は、

「あっちょっと」

っとウェイトレスに声を掛け、

「コーヒーを一つと

 チョコパフェを一つ」

と注文をした。

「はいっ

 畏まりました」

夫の注文にウェイトレスは静かに返事をすると、

そのまま厨房へと向かっていった。

店内に流れるクラシック音楽と共に無言の時間が過ぎていく、

「なにか、言わなくっちゃ」

去年の幼稚園での運動会以来となる夫との再会にぼくは会話のネタを探す。

しかし、頭の中に浮かぶのは

昨日見たの○面ライダー痔軽度に出てきた敵役のこととか、

アニメのこと、そしてゲームの事ばかりだった。

「……」

ぼくがしきりに冷や汗をかいていると、

「去年の運動会、大活躍だったね」

と夫の方から話しかけてきた。

「そっそう…」

「うん、

 ぶっちぎりで1等賞だったじゃないか」

恐縮をしたままのぼくに夫が褒めると。

「うっうん

 ありがとう」

ぼくはそう返事をすると、

目の前に置かれた水の入ったコップに口をつけた。

そして、ふとガラス越しに表を見ると、

通りをはさんで反対側のショーウィンドゥにテーブルを挟んで向き合うぼくと夫の姿が映り、

そして、そこに映し出されるぼくの姿は小学生というより、

小学生のコスプレをしている怪しげな大人といっても過言ではなかった。

「……恥ずかしいな」

そんな自分の姿を見ながらぼくはふとこぼすと、

「由紀夫君の家ってすごいねぇ」

と夫が呟く。

「え?」

夫の言葉にぼくは再び夫も見ると、

「あそこを走る○×鉄道に

 △△不動産、□□商事に…

 □○大学…」

と夫は大手企業や名前の通った大学の名前を次々とあげ、

そして最後に、

「それらの大企業のオーナーであり、

 そしてこの街を作った…

 君の家はそう言う大事業を成し遂げたんだよ」

と驚きながら言った。

「そっなんですか?」

なぜ、夫がそんなことを言い出したのか意味が判らずにぼくはそう返事をすると、

「だから、

 この街の人は皆、君のお母さんの言うことを良く聞きいて、

 そして、その通りに動く

 うん、たいしたお母さんだよ」

と夫はぼくに言う。

「え?」

夫の思いがけないその言葉にぼくは驚くと、

「そう、由紀夫君が入ったあの小学校は幼稚園から大学までのエスカレータ式の学校で、

 入るなんてとても難しいんだ、

 でも、由紀夫君はその小学校に入ることが出来た。

 それも、お母さんの力なんだよ、

 お母さんに感謝しなくっちゃね」

と夫はぼくに言うと肩目を瞑ると、

「あっ…」

夫のウィンクにはある意味があった。

それは、”ここでは言えない事がある”

結婚前、夫と付き合っていたとき、

僕達の仲を嗅ぎまわる友人達をケム撒くためにそんな約束事を決めたのであった。

「あっぼく、

 オシッコしたい」

夫のウィンクを見たぼくはそう言うと、

「あっそうか、

 じゃぁわたしも付き合うよ」

と夫も席を立ち、トイレへと向かっていった。

そして、トイレに入った途端、

グィ!

夫はぼくの手を引き個室へと連れ込んだ。

バタン!!

小さな音を立ててドアが閉められると、

「会いたかったよ、友里恵!!」

夫はそう言いながらぼくを抱きしめる。

「あっ…うっうん」

そのときぼくは”あなた”と言いかけたが、

しかし、その寸前、ママの顔が浮かぶとその言葉を飲み込んだ。

そして、

「辛かっただろう、

 1年良くガマンしたな」

夫はぼくに構わずにクシャクシャと坊ちゃん刈りの頭をなでる。

「うん…」

夫のねぎらいの言葉にぼくは涙を流しながら夫の胸に自分の顔をうずめると、

「隆ぃ、会いたかったよぉ」

と言いながら泣いた。

そして、長くて短い抱擁の後、

お互いに身体を引き離すと、

「友里恵、あの婆はとんでもないヤツだぞ」

と夫はママのことを言った。

「え?」

夫の言葉にぼくは驚くと、

「まったく、恐ろしいというか凄いというか、

 だってなこの街の連中はみんなあの婆の言いなりなんだよ、

 あの婆が俺の女房を自分の息子だといえば、

 みんな大の大人を幼稚園児として扱い、

 そして、小学校に入学といえば、

 ホイホイと入学させやがる。

 友里恵、あの婆は間違いなく、

 お前に自分の死んだ息子の人生を歩ませようとしているぞ」

と夫はぼくに警告をした。

「でも、

 そんなに悪い人じゃぁ」

夫の言葉にぼくはそう返事をすると、

「まぁ確かにな、

 一見人の良さそうなヤツに見えるが、

 でも、一皮剥けばとんでもないヤツだ」

「でも…」

「あぁ判っている、

 俺だって今すぐお前を連れ出して逃げたいよ、

 でも、それをしたらこの街から出ることすら出来ない。

 友里恵…あと2年…

 頑張ってくれ、

 3年経てば俺は堂々とお前を迎えに行くからな…」

夫はぼくにそう言うと、

静かに口を寄せてきた。

「うん」

口を寄せる夫にぼくはそう返事をするとお互いに唇をあわせた。

お互いに握る指に2つの指輪がキラリと輝く。



「じゃぁな」

「うん、ありがとう」

チョコパフェを食べ終わったぼくを待っていたママに引き渡すと、

夫は僕の頭に手を置き、

「小学校、頑張れよ」

と言い残して夫はクルマを走らせると帰っていった。

次第に小さくなっていく夫のクルマをぼくは思わず追いかけようとしたが、

しかし、

ギュッ!!

そんなぼくをつなぎ止めるかのようにママは力いっぱい僕の肩を掴んでいた。

そして、翌日からぼくは小学1年生として元気良くランドセルを背負うと学校へと向かって行った。

夫の言った通り、

誰一人、大人の身体を持つ小学生に眉一つ動かさず、

他の1年生と同等に扱う。

そんな環境の中でぼくはいつの間にか普通の小学生としてクラスに溶け込んでいた。



夏…

キャー!!

プールサイドに歓声が上がると、

ピピーッ!!

体育担当のセンセイが笛を吹いた。

「やべっ」

プールに入っていたぼくはその音に慌ててプールサイドに上がると、

他の小学生達と共に並ぶと腰を落とした。

プールサイドに男子たちの赤い褌がT字の花となって夏の日を受ける。

そう、この学校は小学3年生以上の男子は

赤褌で水泳の授業を受けることが決まりとなっていたのでった。

梅雨明け直前、ぼくは小学3年生として扱われるようになり、

そして、その最初の授業でぼくは褌の締め方を男の先生より教えられたのであった。

「えっえぇっと」

家に帰ってから僕は幾度も褌を締める練習をしてきただけに、

僕の腰にはキリリと褌が締められ、夏の日差しに輝いていた。

そして、梅雨明け以降、

連日の晴天でぼくは真っ黒に日焼けし、

ぼくの腰にはT字型の褌の跡がくっきりと刻まれていた。



「よーし、今日はリレーをするぞ」

先生はそう僕たちに言うと、

「よしっ

 雉沼はぼくの班だ」

と言う声共にぼくの肩にクラスメイトの手が乗せられた。

「うんっ

 頑張ろう!!」

クラスメイトの声にぼくは声を張り上げると、

「みんなで一等賞を取ろう!!」

と気勢を上げた。



ピッ!!

バシャーン!!

先生の笛の音共に赤褌の小学生が一斉に飛び込むと、

「いけー」

「負けるなー」

ギャラリーから一斉に声援が飛び、

そして、

タン!!

2番手を任されたぼくは1番手がぼくの足元にタッチすると同時に、

バシャッ!!

勢い良く飛び込んだ。

バシャバシャ!!

飛び込んだぼくは無我夢中になって25mを泳ぎきり、

タン!!

反対側に到着したときはトップになっていた。

その後は後に続いたものがぼくがつけた差を守って見事一着となり、

ぼく達は皆抱き合って喜びに沸いた。



「なんか…

 段々、友里恵が男の子になっていくなぁ」

夏休み…

久々に姿を見せた夫とぼくは会っていると、

ふと、夫はぼくを見ながらしみじみと呟いた。

「しょうがないだろう?

 ここでは小学生の男の子なんだから」

とそれを聞いたぼくはそう言い返す。

「それは、判っているけど、

 でもなぁ…」

夫は奥歯に物が挟まった問うな言い方をしたのち、

「あの婆さんを騙すのもいいけど、

 でも、あんまり馴染むなよ」

と小声でぼくに忠告をした。

「そっそんなに母さんのことを悪く言わないでよ」

夫の忠告にぼくは頭を掻きながら言い返すと、

「その仕草」

と夫は指摘をする。

「え?」

「女性はそんなに大胆に掻かないだろう?」

「あっそうか」

「それと、

 席に着くときはちゃんと座る」

「うっうん」

次々と下される夫の指摘にぼくは次第に苛立ってくると、

「いいじゃないかよ、

 なぁ、それよりもゲームしよう、

 いま友達の間で流行っているゲームがあるんだ

 昨日、母さんに買ってもらったんだよ」

と切り出すと、

席を立ち、ぼくは夫の手を引くと家へと向かっていった。



「じゃぁ、これで」

夕刻になり夫が帰るために腰を上げると、

「えぇ!!

 もぅ?」

とパッドを握るぼくが声を上げる。

「こらっ

 由紀夫っ

 失礼でしょう」

そんなぼくに母さんがすかさず注意をした。

「あっいえっ

 お構いなく、

 じゃぁな、由紀夫君

 また会おう」

と言い残して夫はぼくの前から去っていった。

こうして、小学生としての夏休みは過ぎ、

そして9月、

2学期の始まりと同時に僕は4年生になった。

「はぁい、新しいオチンチンですよ」

という美麗さんの声と共に僕の股間に新しいチンポが取り付けられた。

「どんな感じ?」

興味深そうにつけた感覚を尋ねる美麗さんに、

「いっいいじゃないかよ」

僕はそう口答えをすると背を向けた。

「あら、何恥ずかしがっているの?」

「まだ、4年生なのに恥ずかしがっちゃってぇ」

そんな僕の姿に美麗さんや小百合さん達メイドはケタケタと笑うと、

「うっうるさいっ」

僕は思いっきり声を上げた。



そして、秋になってから僕はサッカーを始めだした。

理由は大したことは無い

ただなんとなくしたくなったから…

というのは母さんや美麗さん達への言い訳に過ぎず、

本当の理由はクラスで一緒になった桂美和子という女の子の気を引くためだった。

「はいっ

 今日からみんなと勉強をすることになった

 雉沼由紀夫君です。」

担任の先生にそう紹介されて僕は4年生の教室へ入って行くと、

「うわっ

 でけぇ!!」

と言う声が教室のあちこちから囁かれた。

「こらっ」

その声に担任の先生がすかさず注意をすると、

「いえ、いいんです」

僕はそう言い、

そして、

「あのぅ僕の席は?」

と担任の先生に自分の席の場所を尋ねた。

「あっあぁ、

 真ん中の後ろに座りなさい」

僕の質問に担任の先生はそう答えると、

僕は指示された席に腰掛ける。

すると、

「よろしくね」

隣の女の子が僕に笑みを浮かべながら挨拶をした。

その瞬間、

「どきん」

僕の心臓が高鳴ると、

「あっあぁ、

 よろしく…」

ドキドキとときめく胸に戸惑いながら僕は返事をした。



「へぇ…ヤスが好きなの?」

「そうなんだよ、桂のヤツ、

 Jリーグのヤスの大ファンなんだよ」

給食の時間、自己紹介を兼ねた会話に花が咲き、

僕はクラスの面々の情報を得ることが出た。

そして、その中でも桂さんが興味を持っていることに集中して質問をすると、

「あっ

 雉沼っ

 お前、桂さんが好きなんだろう」

と一人が声を上げると、

「ちっちがうよ!!」

僕はそれを否定するかのように声を上げた。

すると、

「ダメだよ、

 桂はヤスにぞっこんなんだから」

と言う声が上がり、

「そっそうなの?」

その声に僕は小声で桂さんに尋ねてしまった。

「うん、そうねぇ…

 あたし、サッカーの選手が好きなの?」

僕の質問に桂さんはサラリと答えると、

「うっ」

僕はそのまま返す言葉がなかった。

そのとき、

「それなら、サッカーのクラブに入ったら?

 雉沼クンの背丈なら、

 大丈夫だと思うけど」

とアドバイスされると、

「え?」

そのアドバイスに僕の顔がわずかに引きつった。

サッカーなんてしたことが無い…

そんなことが頭の中を駆け回る中、

「期待しているね」

という桂さんの一声で、僕は地元のサッカークラブに入ってしまった。



「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だって」

心配顔の母さんに僕はそう言うと、

「じゃぁ行って来ます」

とユニフォームを詰め込んだバッグを片手に僕はクラブへと向かっていく、

しかし、そのとき僕の指には指輪が填められては無く、

指輪は僕の部屋の片隅に静かに置かれ、

また、毎月来ていた生理もその月を最後にパッタリと途絶えてしまた。

そしてその日から僕は学校帰りと、休日、

サッカーボールを追う日々が始まりを告げた。

これも、あの桂さんを振り向かせるためのことだった。

しかし、それはほんのわずかの時間で終わりを告げることになった。

秋も深まった学芸会の練習で僕は今度の試合に出ることを教えると、

「うっうん

 そう」

桂さんはなんか寂しそうな顔をした。

「どうしたの?」

そんな桂さんのように僕は訳を尋ねると、

「実はね…」

と桂さんは訳を話し始めた。



「え?

 引越し?」

「うん、そうなの…

 パパの仕事の関係でね、

 外国に行くことになって…

 先生には言ってあるんだけど、

 でも、みんなにはなんか言いづらくって…」

桂さんはすまなそうな顔をしながらそう説明をしてくれた。

「そんな…

 いっいつなの?」

「金曜日には…」

「えぇ!!

 金曜って…

 明日じゃないか」

「うん…」

「そんなぁ…」

「ごめんね、

 あたし、

 ずっと応援しているから、

 サッカー頑張ってね」

青天の霹靂とはまさにこのことであり、

こうして、由紀夫としての文字通りの初恋は終わったのであった。


そして、その頃を境に僕は夫と会うことが次第に苦痛に感じるようになってきた。

会うごとに僕を女扱いする夫に不快感を感じ始めると、

僕はいっそう男の子らしく振舞うようになり、

そして、6年生になった1月…

寒風が吹きすさぶ中にもかかわらず僕は髪を5分狩りにすると、

「おっおいっ」

驚く夫に僕は自分の姿を見せつけた。

「どうも、反抗期らしくて申し訳ありません」

夫に対してそう母さんは謝ると、

「そんなにぺこぺこするなよ」

と僕はそういい、

プイッ

と部屋へと入っていった。

そして、実質1年間であったが、

でも、6年分の成長をして僕は小学校を卒業した。



つづく