風祭文庫・アスリート変身の館






「変心」
-第2話:目覚め-


作・風祭玲

Vol.477





ユラーリ…

ユラーリ…

『ん…なに?』

ユラーリ…

ユラーリ…

『あぁ…なんか、とても気持ちいい…』

ユラーリ…

ユラーリ…

深い眠りの底から徐々に意識を取り戻してきたあたしは

その心地よさにしばし体を預ける。

ユラーリ…

ユラーリ…

ユラーリ…

ユラーリ…

あたしはまるでゆりかごに寝かされているみたいで、

前後に大きく揺れる中に静かに寝かされていた。

「うっうん…」

次第に意識が戻り、

そして、ハッと目を覚ますと、

あたしの視界に飛び込んできたのは

周囲を囲むような籐で出来た壁と、

日よけの様に覆い被さってくるレースの飾りだった。

「え?

 なんなの?
 
 ここ…」

それらを見上げながらあたしはキョロキョロしながら周囲を見回し、

そして、記憶をたどり始めた。

「えっと…

 えっと…
 
 雪が降って…

 隆にかわって…
 
 あたしがクルマを運転して…
 
 そしたら…

 そしたら…
 
 あっ!

 そうだ、
 
 事故!!
 
 そっそうだわ、
 
 それから、いろいろあって、

 で、弁護士がやってきて
 
 あたし…
 
 はねた人の家に…
 
 そしたら、
 
 そこの息子さんの代わりになれって言われて、
 
 で、訳のわからない部屋に閉じこめられて…」

と順を追って記憶を取り戻すと、

「隆!!」

あたしは夫の名前を叫んで飛び起きようとした。

その途端、

「あら、目が覚めたの?

 由紀夫?」

とあの夫人の声が聞こえると、

「あっ奥様、

 私たちがいたします」

あたしを妙な部屋に閉じこめたメイドの声が追って響き、

ヌッ

っとあたしの視界にメイドの顔が入ってきた。

「!!

 ちょっと!!」

その顔を見た途端、

あたしはメイドに向かって怒鳴ろうとすると、

ムグッ

メイドはいきなりあたしの口を塞ぎ、

「由紀夫ちゃん、

 あなたはいま赤ちゃんなのですよ、
 
 しゃべったらおかしいでしょう?」

と優しく話しかけてきた。

『え?

 それってどういうこと?』

口をふさがれながらもあたしはそう言おうとすると、

「いいですか?

 あなたは、由紀夫ちゃんなのです。
 
 そして、由紀夫さんはいま1歳になったばかりなの赤ちゃんなのですよ、
 
 言葉を喋ってはダメ…
 
 いまあなたが出来るのは
 
 笑う
 
 怒る
 
 泣く
 
 とあたしがいまから教える単語以外言っていけませんよ、
 
 良いですね」

と念を押すように言いながらゆっくりと手を離した。

そして、

「由紀夫ちゃん、

 どうしたのですかぁ?
 
 お腹が空きましたか?」

とあたしに優しく話しかけてきた。

「え?

 えぇ…」

その言葉にあたしは混乱しながらも、

「こくり」

と頷くと、

再びメイドの手が伸び、

「それも、ダメ」

と告げた。

「うっ」

何もかも禁止されたことにあたしの目がにじみ始めると、

「あらあら、

 泣かないでぇ」

それを見たメイドはオーバーに驚きながら、

乳児用のおもちゃをあたしに見せガラガラと鳴らし、

さらに、あたしを抱きかかえると左右に振りながらあやし始めた。

「なっ」

そのときになってはじめてあたしはいま自分が居る部屋の様子を見ることが出来た。

『こっ子供部屋?』

口には出さなかったモノの、

あたしのいま居る部屋の壁にはレースの飾りが掛けられ、

床に敷かれるピンク色の分厚い絨毯、

そして、至る所に置かれた大きめのぬいぐるみ達…

そう、まさしく赤ちゃんが眠る子供の部屋という部屋だった。

さらに何よりも驚いたのはあたしに着せられている服だった。

サイズこそは大人用であったが、

でも明らかにデザインはベビー服で、

花柄のゆったりとした服があたしの全身を包み、

胸元にはしっかりと涎掛けが掛けられていた。

「なっなんで?」

ベビー服姿になってることにあたしはに驚き

体をじたばたさせると、

「あら、由紀夫ちゃん

 ハイハイしたいのですか?」

メイドはあたしにそう言いながら、

「奥様、どうしましょう」

と部屋に居る夫人に対応を尋ねた。

すると、

「あらあら、

 さすがは男の子ね…

 美麗さん、

 由紀夫を下ろしてあげなさい」

と指示を出した。

「はいっ」

夫人の指示に美麗と呼ばれたメイドはゆっくりと絨毯の上にあたしを下ろした。

そして、下ろすのと同時に、

「いいですか?

 由紀夫ちゃん、
 
 立つことはあたし達が許すまで出来ません、
 
 あたし達が立たせるまで、
 
 おとなしくハイハイをするのですよぉ」

と言い聞かせると、

グイッ

あたしの体を床に押し付けそして手を離した。

「うっ…」

美麗のその仕草に

『逆らえない…』

と感じたあたしは黙って右腕を前に出し絨毯の上をハイハイしてみせる。

その途端。

「奥様!!

 由紀夫ちゃんがハイハイを…」

美麗はオーバーに驚き、

「あらあら…

 まぁまぁ…」

夫人もそれに吊られる様に目を細め喜びの声を上げた。

『なっなんで、

 赤ちゃんのまねをしないとならないの?』

夫人の前でベビー服に身を包み、

ハイハイをしてみせるあたしは

そんなことを思いながらひたすら腕と足を動かし続けていた。

そして、しばらくハイハイをし続けていると、

さすがに腕や脚が疲れ、

その場であたしはハイハイをやめると、

「ふぅ…」

と息を吐いてしまった。

すると、

ダッ

美麗が飛んでくると、

「由紀夫ちゃんっ

 疲れたの?

 そうしたら、こう座るのよ」

と言いながら、

グイッ

っとあたしの身体を起こすとお尻を床に着けさせ、

足を投げ出させる体勢にさせた。

そして、

「赤ちゃんはこう座るのですよ」

と言いつけると手を離した。

とそのとき、

クニッ!

あたしの股間から何か奇妙な器物の感触が伝わってきた。

『ん?

 なにかしら?』

まるであたしの性器に食い込むようにして存在するその器物と、

腰周りに付けられたゴムのようなベルトにあたしが気づくと、

反射的に腰に手を持っていく、

すると、

グィッ

美麗の手が伸びてあたしの腕を掴み上げ、

「由紀夫ちゃん

 お腹が空きましたか?」

と尋ねると、

「奥様っ

 ミルクのお時間です」

とやさしく夫人に告げた。

「え?

 ミルク?」

あたしは股間のことを忘れてその言葉に驚いていると、

程なくしてあたしの目の前に哺乳瓶を持った夫人がやってくるなり、

あたしを抱きかかえると、

「さぁ、

 由紀夫

 ミルクですよ」

と言いながらあたしの口に哺乳瓶を押しあてた。

「うっ(ゴクン)

 (ゴクン)」

口の中に入ってきたしゃぶり口をあたしは吸うと、

生暖かいミルクがあたしの口の中に入ってくる。

味のしない、なま暖かいミルクだったが、

しかし、空腹を覚えていたあたしはそのミルクを全て飲み干してしまった。

「まぁ…

 すごい」

瞬く間に空になってしまった哺乳瓶を見て夫人が驚くと、

「奥様っ

 由紀夫ちゃんは丈夫に育ちますわ」

と美麗は夫人に進言し、

「そうそうよね

 由紀夫、

 立派な大人になるですよぉ」

美麗の言葉に夫人は喜びながらあたしに話しかけた。



食べ物を食べたり、飲んだりすれば

当然出るものがある。

ブルッ!!

ミルクを飲まされてしばらくして

尿意を覚えたあたしは、

「あっ

 あっ」

っと美麗を呼んだ。

しかし、美麗は

「あら、おねむですかぁ?」

と声をかけるとあたしを揺り篭へと連れて行ってしまった。

「ちっ違う…

 とっ、トイレ…」

揺り篭に寝かせようとする美麗にあたしはそう訴えようとすると、

グィッ

美麗はあたしの口を塞ぎ、

「由紀夫ちゃん、

 あなたはこれからおねむをするのですよ、

 トイレはオムツをしてあるのでそれにしてね」

というと揺り篭を左右に揺らせ始めた。

ユラーリ

ユラーリ

前後に揺れる揺り篭の中であたしは必死に尿意に耐える。

そして、

『お願い、

 トイレに行かせて、

 もっもれちゃう』

っと呟いていると、

「赤ちゃんはオムツにするのですよ」

と美麗はあたしに話しかけた。

「うっ」

その言葉にあたしはギュッと目を瞑ると、

プルプルと腰を震わせ、

「だめ、出ちゃう」

と小声で叫び、
 
膀胱を押さえていた筋肉を微かに緩めた。

すると、

ジワッ

膀胱より暖かいオシッコが溢れてくると、

あたしの股間へと動いていった。

「あぁしちゃった…」

動いていくその感覚にあたしはさらに力を抜いたとき、

プクッ!!

忘れていた器物が小さく膨らんだと思った後、

ジワジワジワ…

腰に当てられたオムツに暖かいのが広がっていった。



「なっなんなの?」

オムツにおしっこをしてしまった。

そのショックよりも小さく膨らんだ器物のことがあたしは気になった。

ところが、

ブスッ

オシッコを流してしまった直後、

今度は便意をもよおすと、

「うっうっうぅ」

あたしは涙を流しながら、

ムリムリっとオムツにウンチをしてしまった。

「あら?

 ウンチをしちゃったのですか?」

臭いでそのことに美麗が気づくと、

『だったら早くトイレに連れて行ってよ』

とあたしは小声で抗議しようとした。

しかし、美麗はそんなあたしに構わずにテキパキをベビー服を脱がせ、

悪臭を放つオムツを手際よく交換した。

そして、その日の夕方、

美麗達の手でお風呂に入れられているとき、

あたしはあたしの股間に付けられている器物のことをようやく見ることが出来た。

それは…

小さなオチンチンだった。

「え?

 なにこれ?」

あたしは美麗ともぅ一人のメイドの手で湯気が立つ浴槽に体を浸けさせられたとき、

股間から飛び出している肌色の器物の存在に気づくと、

その正体を探ろうと手をそこへ持って行こうとしたが、

「ダメ」

という美麗の一声であたしの手を持ち上げられ、

「お風呂に入るときは、こうするのよ」

とあたしにそう話しかけながらあたしの腕を構えるポーズにさせた。

しかし、じっと腕を構えながらもあたしがその器物を見ていると、

それに気づいたのか美麗は、

「あら、かわいいオチンチンね」

とワザとらしく言いながらあたしの股間に付けられている器物を軽くさわってみせた。

「え?

 おっオチンチン?」

美麗のその言葉にあたしはギョッとすると、

「そう、

 オチンチンよ、
 
 由紀夫ちゃんは男の子なんだからオチンチンがないとおかしいでしょう?
 
 だから、神様にお願いして付けて貰ったのよ」

美麗はあたしにそう説明をすると、

クリクリとそのオチンチンを弄って見せた。

そのオチンチンの動きが直接あたしのクリトリスを刺激すると、

「うっ

 くぅぅ!!」

あたしは顔を赤らめながら身体を反らせた。

そして、それに呼応するかのように

ジワッ

あたしの膀胱が開くと、

プクッ!!

オチンチンは見る見る膨らみ、

まるで水鉄砲の様に

ピュッ!!

っとオシッコを吹き上げてしまった。

「あぁ…」

それを見させられたあたしは挫折感に囚われると、

「うふふふ

 元気なオチンチンね」

美麗は笑いながらそう言いながら、

ピンッ

っとあたしのオチンチンを指で弾いた。


あたしの股間に付けられたオチンチンはクリトリスを支点に、

両腿に巻かれたベルトで固定されている代物のようだった。

けど、揺り篭に戻されて後に改めて触れようとしても、

「だめですよぉ」

という美麗のその声で禁止され、

あたしはひたすら赤ん坊として扱われているこのの境遇が終わることを祈っていた。

しかし、

次の日も

また次の日も…

あたしは赤ちゃんの由紀夫として振る舞わされた。

そしてその間にあたしは自分の髪が赤ん坊同様に切られていることに気づかされた。

そして、

「おぎゃほぎゃ!!」

あたしは赤ん坊の泣き声を上げさせながら股間に付けられたオムツに排便させられたり、

離乳食といってペースト状にさせられた食事を無理矢理食べさせられたりと

まさに泣き通しの毎日が続いた。

でも、慣れとは恐ろしいものである。

次第にあたしは「あぶー」とか「ぶぶぶ」と言う赤ちゃん言葉で

美麗たちメイドとの意思の疎通が出来るようになり。

まるで、本物の赤ちゃんになってしまったような錯覚に陥ってしまっていた。

しかし、梅雨の香りが漂い始めた頃から、

あたしは片言の言葉を使うように指導され、

食事のことを”マンマ”

トイレのことを”ンー”

そして夫人のことを”マーマ”と言うように教えられ、

また移動もハイハイから掴り立ちを許されると、

「ほらほら」

「しっかり」

美麗ややマーマに見守られながらあたしは二月ぶりに立ち上がった。

久々に自分の足で立ち上がったあたしは改めて部屋の様子を眺めてみるが、

しかし、

グラッ

「あっ」

長い間、横になっていた生活のためかあたしの足の筋力は衰えていて、

バランスを崩してしまうとその場に尻餅をついてしまった。

すると、

「由紀夫!!」

それを見たマーマが飛び出すと、座り込んでしまったあたしを抱きしめ、

「大丈夫?」

とあたしに声をかける。

その途端、

ジワッ

あたしの目から涙が溢れかえってしまうと、

「ふぇぇぇぇぇん!!」

と大声をあげながらあたしは泣き出し、

そのままマーマの胸の中に顔をうずめてしまっていた。



そして、暑い夏がやってきた、

3歳児となったあたしは屋敷の中を歩くことが許され、

髪を坊ちゃん刈りにされたあたしは変身ヒーローのプリントがされた木綿の半袖シャツに

デニム地の吊りパンツを穿かされた姿ですごしていた。

そんなある日、

「さぁ、由紀夫ちゃん。

 今日は海に行きましょうねぇ」

蝉の鳴き声を背にして美麗達はあたしにそう言うと、

あたしは余所行きの服を着せられ、

そして、お抱えの運転手が運転するクルマに乗せられると、

1時間程度の所にある海水浴場へと連れて行かれた。

ザザーン…

久方ぶりの海…

もし、何も起こらずに夫・隆と新婚旅行から帰ったあたしは

今頃沖縄の海あたりで水着姿になっていたはずであった。

しかし、いまのあたしは子供用のしかも男の子用の大きな海水パンツを穿かされ、

プルンと揺れる胸を晒しながら、

赤いバケツを持ち砂浜でおもちゃの熊手で砂を掘っていた。

ザッ

ザッ

砂を掘っているあたしの薬指でキラリ…と指輪が光る。

「あっ」

赤ちゃんをさせられていたときには気づかなかったが、

結婚式で夫・隆に填められた指輪が健在だったことにあたしは気づくと、

「あなた…」

と指輪が填められている腕をそっと胸に持っていくと、

「帰りたい…

 あなたの元に帰りたい…」

と呟いた。

そして、ふと気がつけばあたしの目には涙があふれていた。

「なんで…

 どうして…

 あたしはこんなところで

 こんなことをしているの…」

そんなことを思いながら再び熊手で砂をかいていると、

ポタポタ

焼けた砂にあたしの頬からこぼれた涙が黒染みを作るとすぐに消えていく、

そんなとき、

「ぼく」

突然、男の人の声が響くと、

あたしはハッと顔を上げた。

すると、

「ほらっ、

 帽子をかぶらないと日射病になるよ」

と言う声と共に、

あたしの夫・隆が大きな麦わら帽子をあたしに差し出した。

「隆さん…」

予想外の夫の登場にあたしは思わず駆け寄ろうとすると、

「あら、すみません」

と言う声と共にマーマが夫に声を掛けた。

「いえいえ、

 そのボクが熱いんじゃぁ無いかなって思いまして」

マーマの言葉に夫はそう返事をすると、

「(そんなぁ…

  隆さんまで、あたしのことをボクって言わないで)」

それを聞いていたあたしは心の中でそう叫んでいた。

しかし、

「じゃぁ私はこれで」

夫はマーマに向かってそう言うと、

「ボクも元気でな」

とあたしに声を掛けながら

「元気そうで良かった…

 いろいろと大変かも知れないけど、
 
 がんばれ、俺はお前が帰ってくる日を待っているからな」

と小声であたしに言い残して去っていった。

ハッ!!

夫のその言葉にあたしはあわてて立ち上がると、

「あなた…」

とあたしは去っていく夫に向かってそう呟いていた。



そして、秋…

あたしは幼稚園へと入園させられた。

20年近く前に着た、園服に袖を通し半ズボンを穿かされたあたしは

迎えに来た送迎バスに乗せられると、

雉沼家から10分ほど離れた幼稚園へと送られていった。

「はーぃ、

 みんなぁ

 今日からみんなと一緒にお勉強をする

 雉沼由紀夫君でーす」

あたしとそんなに年が変わらない保母が

あたしを由紀夫として園児たちに紹介をすると、

「はーぃ」

椅子に座るちびっ子は一斉に返事をした。

そして、休み時間になると、

「ねぇ、きじぬまくん

 一緒に遊ぼう!」

とあたしに声を掛け、あたしを運動場へと引っ張っていった。

遊んだのは変身ヒーローゴッコ…

無論、変身ヒーローには疎いあたしは、

彼らが言っている技の意味などがチンプンカンプンで、

彼らの遊びに溶け込めることが出来なかった。

すると、

「もぅ、きじぬまクンって何も知らないんだなぁ」

とリーダー格の子があたしに向かって小ばかにしたようなことを言うと、

「ほんと、面白くないや」

そう言いながらまるで潮が引くように他の子達もあたしの周りから消えていった。

「あっあの…」

去っていく子にあたしは戸惑うと、

その日の夜、あたしはマーマに買ってもらった変身ヒーローのビデオでひたすら勉強をし、

そして、翌日にはみんなに溶け込むことができるようになった。

また、時をあわせるようにあたしに補助輪つきの自転車が与えられ、

あたしは次第に活発な幼児として染められていったのであった。



つづく