風祭文庫・アスリート変身の館






「美沙緒の中」



原作・風祭玲

Vol.963





放課後間近の6時限目

教壇に立ち熱弁をふるう教師は別として、

その教師から授業を受けている生徒達は

教師同様気合十分な一部を除いて

皆、睡魔との闘いの真最中であった。

「ふわぁぁ…

 眠い…」

そんな中、

皆と同じように机に立てた教科書を盾としながら、

篠田俊哉は大きなあくびを一つした後、

「なんだよ、

 まだあと…30分もあるのかよぉ」

と正面黒板上の時計を恨めしそうに眺めてみせる。

そして、

「はぁ…

 本当に午後の授業はかったるいなぁ…

 あぁ、早く終わって部活で汗を流してぇぇ」

頬杖をつきつつ俊哉は放課後の部活のことを考えていた。

と、そのとき、

「篠田君、

 篠田君」

と俊哉に向かって囁く声が響いた。

「ん?」

その声に気づいた俊哉が小さく振り向いて見せると、

「俊哉君…

 なんか…

 体がおかしいの」

と彼の右斜め後ろの席に座る君津美紗緒が頬を赤らめながら話しかけてくる。

「えぇ?」

それを聞いた俊哉は困惑したような顔をして見せると、

「急に変になってきちゃったのっ

 おっお願い…

 いつもこういうときにお願いすると篠田君が何とかしてくれるでしょ。

 だっだから…」

と美紗緒は肩をすぼめ、

両腕を股間に押しつける仕草を見せながら懇願してくる。

「わかったよっ、

 もぅ!」

彼女の請いに俊哉が返事をすると、

「そこっ、

 なにさっきからコソコソ話をしているんだ」

と教壇から注意が飛ぶ。

すると、

「先生っ!

 君津さんが具合が悪いそうなので、

 保健室まで付き合っていいですかぁ」

と俊哉は立ち上がって尋ねると、

「ん?

 保健委員は居ないのかぁ」

それを聞いた教師はクラスの委員を呼び出してみせる。

だが、

「今日は休みでーす」

と保健委員の欠席を知らせる声が響くと、

「仕方がないな…

 篠田、じゃぁお前が連れて行け」

俊哉に向かって指示をしながら教師は背を向けてみせる。

その途端、

「よっ、ご夫婦そろってサボリですか」

「授業中、堂々とは恐れ入ります」

「いやぁ、スケールが違うね」

などとヤジが飛びまくり、

「うるせーっ、

 保健委員が欠席だから付き合うだけだ」

そんなヤジに向かって俊哉は言い返して見せるが、

「さっさと行けよぉ!」

「待たせるなよぉ」

と周囲はまったく俊哉の話を聴いてはいなかった。



「で、どうなんだ?

 持ちそうか?」

ヤジを掻き分けて教室から出た俊哉は後に続く美紗緒に尋ねると、

「持ちそうって?」

と堪えるようにして美紗緒は聞き返す。

「えーっと、

 まぁ…

 なんていうか、

 その…

 辛くは無いか。と言う意味…

 とは違うな」

その質問に俊哉は返答に困っていると、

ビキッ!

美紗緒の体から何かが切れる音が響いた。

「!!っ

 なにいまの音?

 この間もこんな音がして…」

それを聞いた美紗緒は困惑した表情を見せると、

「仕方がないっ

 急げっ!」

時間が差し迫っていることを認識した俊哉は

美紗緒の手を握ると一気に走り始めた。

「ちょっと、

 どこに行くの?」

手を引っ張られて廊下を走る美紗緒は行き先を尋ねるが、

「この先だ!」

俊哉はそう答えるだけで、

詳しい場所の名前は出さない。



そして、

「え?

 レスリング部って、

 篠田君の?」

と美紗緒は俊哉に連れて行かれた場所が、

俊哉が所属するレスリング部の部室であることに当惑してみせると、

「いいんだよ、

 ここで」

そんな美紗緒に向かって俊哉は告げ、

ガラッ!

部室のドアを開けて見せた。

「よそは6時間目の授業中だから静かでいいや」

汗の匂いがこもる部室を覗き込みながら俊哉はそう呟くと、

「うぐっ!」

いきなりその背後で美紗緒の声が響き渡ると、

部室の前に立つ俊哉を突き飛ばし、

ドタタタッ!

と足音荒く部室の中へと飛び込んでいく、

そして、

素早く着ていた制服を脱ぎだすと瞬く間に下着姿となり、

さらにその下着も乱暴に取ってしまうと、

美紗緒は全裸になって見せる、

だが、

モリッ!

全裸となった美紗緒の体は少女の肉体と言うより、

妙に筋肉質の肉体となっていて、

さらに、

モコッ!

っと股間の割れ目辺りが盛り上げっていたのであった。

そして、

バッ!

全裸となった美紗緒が首筋に向けて腕を伸ばすと、

その皮を引っ張り始め、

やがて、

ベリッ!

ベリベリベリ!!!!

っと自分の皮を剥ぎだしてみせる。

「おーぉ、

 とても他人には見せられないな…」

まるで蛹から成虫へと脱皮していく虫のごとく、

美紗緒は首の皮を剥いでいくと、

ズルン!!!

頭の髪の毛が一気に前に落ち、

「ぷはぁ!」

の声と共に髪の後ろから汗を輝かせる短髪の男の顔が姿を見せた。

「よぉ、美沙男!」

姿を見せた短髪男に向かって俊哉は笑いながら挨拶をして見せると、

「おいっ、なにが”よう”だ」

と文句を言いながら美沙男は剥いだ皮を自分の胸元まで押し下げ、

さらに両腕も皮から剥いてみせる。

すると、

美沙男の肩から胸元にかけて

汗に光るレスリングのユニフォーム(吊パン)が光っていたのであった。

「おぃおぃ、

 美沙男っ

 お前、吊パン着たまま美沙緒になっていたのかよ」

それを見た俊哉は呆れて見せると、

「あぁ?

 なにを言って居るんだよ、

 こうしていた方が直ぐにアマレスの練習が出来るだろう?」

俊哉の言葉に美沙男はそう言い返し、

続いて両足の皮も脱いで見せると、

ヒタッ!

裸足の足を床に着けてみせる。

「ったく」

美紗緒の皮を脱いだ美紗男を横に見ながら、

俊哉は小言をつぶやくと、

「ん?

 何か言ったか?」

と聞き返しながら美紗男はロッカーに掛けてあったレスリングシューズを履き、

キュッ

キュッ

っとシューズの音を鳴らしてみせる。

そして、

「ほらよっ」

の言葉と共に美沙男は皮だけの姿になった美沙緒を俊哉に放り投げると、

「ぐわっ、

 汗臭せぇぇ!」

と美沙緒の皮の中から漂ってくる臭気に顔をそむけて見せる。

「仕方がないだろう、

 俺がシャワーを浴びれるのはこの部室のシャワー室だけなんだし、

 一日中それを着ていれば汗臭くもなるって」

そんな俊哉に向かって美沙男は呆れたように言うと、

「はぁ…

 美少女・美沙緒ちゃんの皮を一つ下には、

 こんなゴッツクって汗臭いアマレスラーが居るだなんて、

 クラスの奴が知ったらなんて言うか」

と俊哉は嘆く。

すると、

「おぃおぃ、

 ”中の人”にされているこっちへの同情は無いのかよ」

と美沙男は不機嫌そうに文句を言うと、

「それにしても、

 ややこしい関係だな、

 お前達兄妹は…」

そう俊哉は指摘する。

「母親の体の中で俺は姉貴に飲み込まれちゃったからな」

その指摘に美沙男はそういうと、

「なぁ、

 こんな皮だけの姿になっても美沙緒ちゃんは生きているんだろう?」

と俊哉は尋ねる。

「あぁ、

 寝ているんじゃないかな?

 なんせ中身が無いんだからね」

その質問に美沙男は笑って答えると、

「さぁ、

 せっかく出てきたんだ、

 いまからアマレスの練習しようぜ」

とシューズを鳴らしながら美沙男は腰を落としてみせる。

「おぃおぃ、

 練習よりもまず先にシャワーで汗を流せ、

 いくら俺でも汗臭い奴と稽古する気は無いぞ」

そう美沙男に告げると、

「仕方がないな、

 チャイムは鳴ってないけど、

 これから練習をするか」

そう言いながら着ていたYシャツを脱ぎ、

ロッカーに放り込んあった吊パンに手を通したのであった。

 

おわり