風祭文庫・アスリート変身の館






「神頼み」


作・風祭玲

Vol.736





「おいっ、

 立ち退け。ってどういうことだよっ」

人気の無いレスリング部練習場に怒鳴り声が響き渡ると、

イガグリ頭にユニフォーム(吊パンツ)身に着けたレスリング部主将・大城太陽ゆっくりと起き上がり、

前に立つ二人を睨みつける。

「どういうことも、

 そういうことも無いわ、

 今日からここは新体操部の練習場として使うって事よ」

「生徒会の決定は知っているでしょう?

 もぅここはあなたの場所ではないのよ、

 さぁ、荷物を纏めて出て行って頂戴っ」

そんな太陽に向かって髪をシニョンに結い上げ、

練習用レオタードにジャージの上着を羽織った姿の新体操部部長・香澄美和と

副部長の長岡久美子は負けじと言い返すと。

「なにぃ?」

二人の言葉に太陽は青筋を立てながら詰め寄り、

「デタラメを言ってんじゃねぇっ!

 期限は今週いっぱいのはずだ。

 ここはまだレスリング部の練習場だ。

 お前達こそとっとと出て行け!!」

と追い払おうとするが、

「だって」

「まだあの決定をひっくり返せると思っているのぉ」

それを聞いた美和と久美子は小さく笑い互いに顔を見合わせた。

「なんだとぉ?」

二人のその態度に太陽がキレ掛かかろうとした時、

キッ!

美和はキツイ視線で太陽を見据えると、

「同じ部を率いるものとして忠告をするわ、

 現実を素直に認めなければダメよ、

 あなたのレスリング部がどんなに歴史があっても、

 先輩達がどれほどの功績を残していたとしても、

 現在在籍している部員があなた一人になった時点で廃部。

 本来ならあの生徒会が開かれた時に廃部宣告をするはずだったのよ、

 でも、栄えあるレスリング部をいきなり廃部するのはOBの方々の手前、

 あたし達から申し出て、

 温情で一ヶ月の期間を設けたのよ。

 だけど、生徒会から今日まで3週間が過ぎて、

 新入部員は集まって?

 このガランとしている練習場に居るのは

 いつまで経ってもあなた一人じゃない。

 それに対してあたし達の新体操部には5人も新入部員が入ったわ、

 狭くて満足に練習もできないあたし達にとって

 これだけの空間を遊ばせていくわけには行かないのよ。

 判ったでしょう?

 だったらスグにここを立ち退きなさい。

 ふふっ、

 後片付けだけはしておいてあげるわ」

と落ち着いた口調で告げた。

「くっ」

美和の言葉に反論ができない太陽は歯軋りをすると、

「はいはい、

 さっさと行くっ

 もぅ、いつまでも汗臭い格好で立ってないでよ」

太陽を追い払うようにして久美子が声を張り上げるが、

「手前ぇら…

 いいかっ、

 期限はあくまで今週いっぱいだからな、

 今週中に部員を倍増、

 いや、この練習場に入りきらないくらいにしてやるからな、

 その時になって吼えズラかくなよ」

太陽は捨て台詞を吐くと、

着替えもせずに表へと飛び出してしまった。

一方、

「あらら…」

「素直じゃないのねぇ」

そんな太陽の後姿を見送りながら美和と久美子は呆れた顔をすると、

「さて、

 邪魔者は居なくなったし」

「みんなを呼んでここの片づけをしましょう」

「うふっ、

 広い練習場が手に入ったし、

 みんな喜ぶわ」

と笑みを浮かべながらレスリング練習場から出て行った。



「ちくしょう

 ちくしょう

 ちくしょう」

啖呵を切って練習場から飛び出した太陽だったが、

新入部員獲得の妙案も浮かぶはずも無く、

ただひたすら校内を走り回っていた。

そして、

学校内に残っていた男子生徒を見つけると、

「なっお前、

 俺と一緒にレスリングをやらねーかっ」

「お前、レスリングに向いていると思うけど」

「格闘好きか?

 レスリングにやらねーか?」

と手当たり次第に声を掛けていく、

だが、

「えーっ

 レスリング?

 興味ないなぁ」

「いやぁ、そういうのは」

「悪い、他を当たってくれ」

と太陽が期待するような返事は返ってこなかった。

「ちくしょーっ

 レスリング部存続の危機に手を上げる奴はいねーのかよっ」

悲鳴に似た叫びを上げながら太陽は壁を叩き、

そして、

「こうなったら…

 あれに頼るしかないのか…」

と代々先輩から高配へと受け継がれてきた

伝説に最後の望みをかけて校外へと飛び出していく、



「ハァハァ…

 ヒィヒィ…

 ハァハァ…」

迫る夕闇に追われるように太陽は

吊パンツを噴出す汗でぐっしょり濡らしつつ

山道を登っていく。

運動部員ならスタミナアップを目的として、

学校の背後に聳えるこの山を登らせられるのだが、

だが、今の太陽の目的は違っていた。

この山の頂の手前、

山道から少し離れたところに小さな祠があり、

その祠こそ、太陽の目的地であった。



「はぁひぃ

 はぁひぃ

 学校内を走り回った後だとさすがに堪えるなぁ…」

全身から汗を流しながら太陽は山道を外れると

やがて姿を見せてきた祠の前にたどり着く、

そして、息を整えながら跪いた。

御山の祠…

そう呼ばれる祠には不思議な力が宿っていて、

一生涯で一度だけ、

ピンチのときに力を貸してくれると、

言われ続けてきたのであった。

「はぁはぁ…

 あの噂が本当なら…

 はぁはぁ…

 おっ俺に力を貸してくれ、

 はぁはぁ…

 祠の神様よっ

 俺に力を貸してくれ。

 頼むっ

 俺のレスリングを潰されないようにしてくれ。

 多くは望まないからさ、

 試合でビリでもいいからさ(…それは…ちょっと困るけど)

 だから、あの新体操部の連中をひっくり返すだけの部員を…

 その…

 お願いしまぁす!!」

周囲に誰も居ないと思ってか、

太陽は思いっきり声を張り上げると、

祠に向かって手を合わせながら頭を下げた。



長い沈黙の時間がゆっくりと過ぎていく…



サワサワ…

吹き抜ける風が湯気が上がる太陽の体を冷やしてゆくと、

「…って…俺何をやってんだろう…

 まるで悪あがきじゃねぇかよ」

体と同時に頭も冷えた太陽はガックリとうな垂れ、

そして、

「いくらお願いをしても部員が増えるわけ無いよな、

 レスリングを好き好んでやろうなんて奴が居たら、

 とっくの昔に入部しているもんなぁ…

 …帰ろう…

 帰って片づけをしないと…

 新体操部の奴らに任せておくと、

 みんなゴミにされてしまう…」

とそう呟きながら腰を上げて祠を見た。

と同時に

「!!!!」

太陽の目が大きく見開かれた。



『なによっ

 そんなビックリした目で見つめて』

いつの間に立っていただろうか、

白衣に白銀の髪、

吸い込まれそうな碧眼の目で

太陽を見つめる少女が不愉快そうに聞き返すと、

「うっ嘘だろう?

 おっお前は誰だ?」

と太陽は聞き返した。

『あらっ、

 見ず知らずの者に尋ねるときは、

 まず自分から名乗るものよ、

 ふんっまぁいいわ、

 あたしは白蛇堂。

 人間の心の闇の奥から響く願いをかなえてあげる、

 行商人って所かしら…』

太陽よりも1・2才年上であろうか、

白蛇堂と名乗る女性は

この世のものとは思えぬ妖美な魅力を振りまきながらそう告げるが、

「…うっ

 くっ…」

彼女から発せられる強烈なオーラに押されているのか、

太陽は一歩も動くことはできず、

また、女性を見ると敏感に反応してしまう股間も

このときは膨らむことは無く縮こまったままだった。

ジッ

そんな太陽を白蛇堂は見据えると、

『ふーん、

 お前、面白いね。

 強烈な叫び声が聞こえたのでここに来てみたんだけど、

 お前の望みはレスリング部とかいうものを守りたいのか?』

と尋ねる。

彼女のその声に太陽はハッとし、

「なぁ、

 おっ俺のレスリング部を守る何かをしてくれるのか?」

と聞き返すと、

『何かって?

 お前、あたしをドラなんとかって言う

 不細工なネコロボットと勘違いしてないか?

 まぁ、いいわ。

 今日は仕入れた品物が全て裁けたので気持ちがいい。

 ちょっとだけ付き合ってあげるよ』

そういうと、

一枚の紙を取り出すなり

ヒュンッ

太陽に向けて軽く投げる。

「これは?」

ゆっくりと舞い落ちてきた紙を手に取り尋ねると、

『一枚多く仕入れていた。

 それをお前にやろう。

 その紙にお前の願い事を書き、

 名前をサインしな。

 そうすれば願い事は叶う』

と白蛇堂は太陽に告げる。

「そっそうか、

 あっでも、

 俺、ペンなんて持ってきてない、

 なぁ、学校まで取りに戻っていいか?」

太陽は吊パンツをレスリングシューズのみの姿で

ここに着てしまったことに気づき尋ねると、

『ペン?

 そんなものはいらない。

 指で書きな。

 お前の魂が紙に書いてくれる』

と白蛇堂は言う。

「指で?」

その説明に太陽は半信半疑になりながら、

人差し指で

『レスリング部に新入部員を

 新体操部をひっくり返してしまうほどの部員を入れて欲しい』

と書いてみた。

すると、

ふわぁぁぁぁぁ…

見る見る無地の紙に赤い字でその文字が浮かび上がって来た。

「すげーっ

 どういう仕掛けなんだ?」

太陽は目を見開きまじまじと紙を見つめるが、

『ほらっ、

 手が止まっているよ、

 さっさとサインして』

白蛇堂は太陽の手が止まっていることを指摘すると

「うっうん」

太陽は白蛇堂の言うがままに大城太陽とサインをしてみせる。

『よしっ、

 じゃぁ発動ね…』

太陽がサインをするのを見届けた白蛇堂は

パチン!

と指を鳴らすと、

ビクン!!

一瞬、太陽の体が小さく飛び跳ねた。

「うっ、

 なっなに?」

突然自分の体の中で始まった変化に、

太陽は思わず内股になると、

思わず吊パンツが覆う股間を手で隠した。

ドクン

ドクン

ドクン

心臓は乱れ太鼓のように力強く乱打を始めだし、

風に当たって冷えていたはすの体が急速に火照り始める。

「くはぁ

 はぁはぁ

 はぁはぁ」

静まっていた息がみるみる荒くなっていくと、

「体が…

 俺の体がなんか変な…

 うっ…

 体が変になって行く…

 だっダメぇぇぇ

 あっあぁ〜」

急速に変化を始めだした体に身悶えるようにして

太陽は自分の体を抱きしめながら声を上げてしまった。

だが、

ニヤッ

そんな太陽の姿を白蛇堂は笑みを浮かべて眺めていた。



レスリング部に入部以来

鍛えて来た太陽の胸板が急速に萎んでいくと、

ジワッ

小さかった乳輪が徐々に大きくなり、

プクッ!

その乳輪を頂に掲げながら太陽の胸が膨らみ始める。

「あぁ…

 なに…

 おっオッパイがぁ

 オッパイが膨らんでいくぅ」

と同時に全身の筋肉が削ぎ落ちてゆき、

濃かった体毛も次第に薄くなっていく、

そして、太かった手足が細く白くなっていくと、

太陽のペニスは急速に萎縮し、

体の中に入り込んでしまうと、

一筋の割れ目と化してしまった。

「あぁ〜ん」

「あぁ〜ん」

吊パンツの両側から膨らんだ乳房を揺らせつつ、

一方で膨らみを失った股間を大きく開きながら太陽が悶えていると、

ジワッ

今度は彼が着ている吊パンツがレオタードへと変形をし始める。

むき出しの肩が隠されると袖が手を覆い、

一方で膝上まで覆っていた裾が這い上がっていくと、

ムッチリと変化してしまった太陽のMラインを美しく表現する。

そしてさらに、

イガグリ頭の髪が伸びていくと、

シュルッ!

見事なシニョンに結い上げられていった。

「あっ

 うっ

 こっこれは…」

変身が終わりようやく正気に戻った太陽が

トーンの高い声を上げながら

新体操選手になってしまった自分の姿に驚いている頃、



「キャー、何これ?」

「やっだぁ!!」

「おっオチンチンがぁぁぁ」

「いやぁぁぁ!!

 やめてぇぇぇ!!」

レスリング部の後片付けに来ていた新体操部員達の体に

異変が起こっていたのであった。

モリモリモリ!!

突如彼女達の股間がモッコリと膨らみはじめると、

部員全員の体中の筋肉が物凄いスピードで発達してゆく、

胸筋が膨らみ、

腹筋が平らな腹部を凸凹にしてゆく、

腰の括れが消え、

手足が太くなっていくと、

彼女達…いや”彼”らの体は見事な逆三角形を描くようになっていく。

そして、肉体の変身が終わった者から身に着けていたレオタードが

レスリングのユニフォーム・吊パンツへと姿を変え、

「あぁ…

 おっ俺達…」

「何をしていたんだっけ」

「そうだ…

 俺達はレスリング部員だ…」

「おうっ、

 マットを引き直せ!

 稽古だっ

 稽古っ」

と野太い声を上げながら、

筋骨逞しい部員達はレスリングの練習を始めだすと、

久方ぶりに練習場に男どもの声が響き渡った。



「はぁはぁ

 はぁはぁ

 一体、何がどうなってんの?」

すっかり新体操部員になってしまった太陽は慌てて山を降り、

レスリング部の練習場へと向かっていくと、

その練習場から煌々と明かりが漏れ、

その奥から男どもの声が響き渡っていた。

「練習場から人の声が…」

その声に驚きながら太陽が練習場に飛び込むと、

ムワッ!

と来る汗の臭いと共に吊パンツ姿の野郎供が練習をしている最中だった。

「うそぉ!」

夢にまで見た光景に太陽が驚いていると、

「よう!」

と何者かが太陽に声を開ける。

「え?」

その声に太陽が振り返ると、

「ちょうど良かった。

 お前の新体操部、

 部員が居ないんだろう?

 明日から俺達・レスリング部が使うことにしたからな」

とレスリング部のジャージの上着を羽織り、

毛脛が覆う足を見せ付けるようにして、

レスリング部部長の香澄美和が話しかけてきた。



『ふっ、

 お前の望は叶ったみたいだな。

 レスリング部と言うのが続くことになって

 よかったじゃないか。

 あたしの仕事はここまで、

 じゃぁなっ』



おわり