風祭文庫・アスリート変身の館






「チェンジ」
(前編)


作・風祭玲

Vol.702





キュッ!

キュキュッ!!

「ちゃんとよく見ろ」

「動けっ」

「止まるな」

天井から煌々と照らし出される水銀灯の真下。

その真下に敷かれたマットの上では

赤いレスリング・シングレットに身を包んだ選手と

青いレスリング・シングレットに身を包んだ選手が向かい合い、

ある時は相手をたぐり寄せ、

またあるときは間を開けながら、

それぞれにとって相手のバランスを崩すポイントを責めていく。

そして、

キュッ!

ダンッ!

一瞬の隙をついて赤いシングレットに身を包んだ東海林哲行が、

無防備状態になった相手の足に飛びつくと、

「うらぁ!」

その足を思いっきり引っ張り、

相手を引き倒した。

その途端、

「よしっ!」

「いいぞ」

「そのまま押さえ込め!」

このレスリングの試合にエントリーしている、

柴田正次、

金藤祐二、

田端勝正、

丹羽三郎達が一斉に声を上げると、

「判っているよっ」

その声に向かって哲行は心の中で怒鳴り返しながら、

「うらっ」

引き倒した相手に固め技をかけようとした。

だが、

「ちっ」

哲行の動きよりも相手は素早く動くと、

「しまったっ」

有利なポジションについていたはずの哲行は逆に

ひっくり返されてしまい、ピンチに陥ってしまった。

ピッ!

相手にポイントが与えられる笛の音が鳴るのを聞きながら、

哲行はかけられてしまった固め技を解きに掛かるが、

しかし、なかなか上手く外すことが出来ない、

「くそぉ」

次第に広がる焦燥感の中で哲行は藻掻いていると、

「がんばれーっ、東海林っ!

 コレに勝つと優勝よぉ」

とマネージャである後藤照美が床を叩きながら声援を送る。

彼女からの声援に受けながら、

「んなろっ」

哲行は思いっきり身体に力を込めると、

メキッ!

鍛え上げてきた腕に力瘤が膨れあがり、

ググッググググ…

掛けられていた固め技を強引に外しはじめる。

そして、

ついに掛けられていた技を力ずくで解いてしまうと、

そのパワーをぶつけるようにして一気に相手を押し倒し、

さっきのお礼にとばかりに怯んだ相手に固め技をかけると、

相手の背中を床へと押しつけた。

ピピーッ!

哲行のフォール勝ちを告げる笛の音が響き渡るのと同時に、

「おっしっ!!!」

哲行は立ち上がると、

声援を送ってくれた照美に向かってガッツポーズをしてみせた。



「終わったね…」

表彰式の後、

シングレット姿のまま更衣室に続く階段に座る哲行の隣に

Tシャツ・ジャージ姿の照美が座るとそう話しかける。

「そうだな…」

照美の言葉に哲行はそう返事をし、

握っていた手を開くと、

じっとそれを見つめる。

哲行の手はこれまでの練習や試合で、

負傷と治癒を繰り返し、

皮膚は厚くゴツゴツとした形へと変わっていた。

「やっとココまで来たね」

手を見つめる哲行に照美はそう話しかけると、

「あぁ…」

哲行は言葉短く返事をする。

そんな哲行に哲美は小さく微笑むと、

「廃部しかけたレスリング部に

 東海林君と柴田君が入ったのが2年前、

 そして、やる気の無かった顧問の佐々木先生を呷ってその気にさせて、

 さらに部員を集めて、

 あたしがマネージャで入って…

 とっても頑張ったね」

とコレまでの労をねぎらうかのように呟くと、

「そうだな…」

哲行もまたこれまでのことを思い出しつつ感慨深げそう呟く。

だが、

その視線は決してゆるむことなく、

「まだだ、

 今日の試合は練習試合だよ」

とまもなくやってくる大会に向かって闘志を燃やす。

「うん、

 本番は来週の大会でしょう?」

再び握った拳に思わず力を入れてしまう哲行を見ながら

照美は微笑むと、

「あぁ…」

哲行は小さく返事をした。

すると照美は哲行に身を寄せ、

「来週の大会、頑張ろうね」

と呟くが、

その直後、

「痛っ」

突然、哲行が声を上げた。

「どっどうしたの?」

哲行の声に驚きながら照美が尋ねると、

「てててて…

 なんだよぉ」

何かに刺されたのだろうか、

文句を言いながら哲行が右腕を引き上げ、

そして、捻ってみると、

丁度、肘の辺りがほんのりと赤くなっていた。

「なに?

 虫にでも刺されたの」

赤くなっている患部を見ながら、

照美が心配そうに尋ねると、

「あいたっ!」

今度は照美が悲鳴を上げた。

「照美?

 大丈夫か?」

彼女があげたその声に哲夫は振り返ると、

ツツー…

腕を押さえる照美の腕より真下に向かって透明な糸が伸び、

その先で、小さなクモがいまにも逃げだそうと体勢を整えていた。

「きゃっ、

 クモ!!」

それを見た照美が小さく悲鳴を上げると、

「あっ、

 コイツの仕業か

 ていっ!」

ガッ!

哲行は穿いていたレスリングシューズでクモを踏みつぶし、

ズズーとその足を擦っていく。

「へへっ

 やったぜ」

痛む腕を庇いながら哲夫はほくそ笑むと、

「だっ大丈夫?

 医務室に行った方が…」

と照美は心配するが、

「クモに刺されたぐらいどうって事ないよ、

 ツバでも付けとけばいいさ
 
 それよりも照美っ
 
 お前の方は大丈夫なのか?」

と逆に尋ねた。

「うん…

 あたしは平気…」

心配顔の哲夫を脇目に見ながら照美はそう答え、

笑みを見せた。



「まずは、今日の試合おめでとう」

試合会場を引き上げ、

合宿場に戻ってきた東海林哲行、柴田正次、金藤祐二、

田端勝正、丹羽三郎のレスリング部のメンバーに向かって、

顧問兼コーチの佐々木光貞が褒め称えた。

「はいっ」

光貞の言葉に5人は声をそろえて返事をすると、

「しかし、

 今日の試合は来週の大会の前哨戦にしか過ぎません、

 来週の大会では今日負かしてきた相手も反省をして来るでしょう。

 くれぐれも気を緩めずにね」

選手を1人1人見ながら光貞はそう告げ、

そして、

「まぁ試合の後ですし、

 今日の練習は休みましょう」

と言い残すなりそそくさを去って行ってしまった。

「………」

予想されたとはいえ、

光貞のドライさに皆が顔を合わせていると、

パンパン!

合宿場に手を叩く音が響き渡り、

「はいっ、

 今日はご苦労様でしたぁ、

 だけど、佐々木監督が言っていたとおり、

 今日の試合はあくまでも練習です。
 
 来週の本番に向けてみんなっ
 
 がんばろうね」

と照美は声を張り上げると、

「うっすっ!」

合宿場に選手達の声が響き渡った。



その後の自由時間。

居ても立っても居られない哲行は誰もいないレスリング場で、

ジャージを脱ぎ、

レスリング・シングレット姿になると、

「ちっ、さらに赤くなっている」

と呟くと、

クモに刺された跡はさらに赤みが増し、

熱を帯びていた。

それを見ながら

「このぉ」

とばかりに

グイッ!

っと患部を指で押すと、

ビリッ!

哲行の腕にまるで棒かなにかで叩かれたような痛みが走り、

「つぅぅぅ」

その痛みに哲行は顔を歪ませながら腕を押さえてしまった。

「参ったなぁ…

 これじゃ練習にならないか…」

響くように痛む腕を庇いながら哲行はそう呟くと、

「仕方がない、

 柔軟だけして上がろう」

と軽く柔軟運動をこなしただけで、

そそくさと引き上げてしまった。



「うっ…うーん」

翌朝、哲行が目を覚ますと、

「すー」

「ぴー」

同じ部屋で寝ている正次や祐二の寝息が聞こえてきた。

「ふぅ…」

もぅ2年近く寝食を共にしてきた仲間達の寝息を聞きながら、

哲行は腕をさすってみると、

いつの間にか腕の痛みは消えていたが、

その代わり、

ズーン…

いつもなら疲れが取れて身軽に張っているはずの身体が酷く重く感じた。

「なっなんだ?」

どんなキツイ練習を終えた後でも感じたことがなかった身体の重みに

哲行は困惑しながらも布団の中で身体を移動させていると、

プルンッ!

今度は胸の辺りで何かが揺れる。

「え?」

予想外の揺れに哲行は自分の胸に手を這わせると、

フニッ!

這わせた手のひらで丸くて柔らかい膨らみを感じ取る。

「?

 なっなに?」

予想もしなかった自分の胸に出現した膨らみの感覚に、

哲行は慌てながら手の位置を動かしてゆくと、

フニッ

また別の膨らみの感触が走る。

「えぇ?

 なんだこれは?」

左右対称に膨らんでいる胸に哲行は困惑しながら、

バッ

布団から飛び出し、

慌てて下を見下ろすが

だが、哲行の目に飛び込んできたのは

プリン!

寝間着として着ていたTシャツの胸の所を

突き上げるようにして飛び出している

二つの膨らみであった。

「なっなっなっ

 なんだこれはぁぁ!!!」

プルンと揺れる膨らみを揺らしながら哲行は悲鳴を上げるが、

だが、その声も昨日までの声とは違い、

甲高い女性を思わせる声へとなっていて、

部屋中にその声が響き渡っていく。

その途端、

「んなに?」

「なんだぁ?」

「女の悲鳴!?」

哲行があげた悲鳴に仲間達が次々と飛び起きてしまうと、

「おっおいっ、

 女だ!」

と布団の上で胸を押さえる哲行を指さし

驚いた表情を見せた。

「え?」

仲間達が上げた声に今度は哲行自身が驚くと、

「なっ、東海林の野郎、

 俺たちに無断で女を引っ張り込むとは!!」

と哲行を見ながら正次が悔しそうに拳を振り上げ、

「東海林っ

 てめぇ、

 マネージャが居ながらこんな事をするなんて

 俺を紹介しろ!」

と怒鳴り込みながら布団に飛び込んできた。

だが、

「何を血迷って居るんだっ、

 俺だ、俺ぇぇ」

飛び込んできた正次の腕を哲行は掴みあげると、

グイッ!

っとねじ上げ、

そのまま正次の肩を布団に押しつけると、

背中から全体重をかけてのし掛かる。

「いてぇぇぇぇ!!!」

途端に正次の悲鳴が響くと、

「なぁ…

 彼女が着ているシャツとパンツって

 夕べ東海林が着ていたものだよなぁ」

と遅れて起きてきた三郎が指摘した。

「え?」

三郎の声に祐二達が振り返ると、

「そういえば…」

「髪は刈り込んでいるし」

「顔つきも東海林に見えないわけでもない」

「ん?」

肩がずれ、ダブダブになっているシャツに構わず、

布団上で固め技をかける哲行を指さして、

祐二や勝正たちが顔を見合わせていると、

「いやぁぁぁぁ!!!」

今度は照美が寝泊まりしている部屋から野太い声が響き渡った。

「ん?」

「この声は?」

「男の声?」

「しかも…マネージャの部屋からだ」

響き渡った男を思わせる声がマネージャの部屋から響いたことに、

皆が驚き、そしてダッシュで飛び出そうとすると、

「照美ぃぃぃ」

甲高い叫び声をあげながら、

たわわに膨らんだ乳房を揺らして哲行が真っ先に飛び出し、

”男共・立ち入り禁止”

の札が掛かるマネージャ室へと飛び込んでいった。

すると、

「いやいやいや」

その部屋に置かれている布団の上では

ムキッ!

逆三角形を描く見事な上半身に、

絞り込まれ、鍛え上げた腹筋、

そして、太い血管が蔦のように絡まった、

力強く太い手足を晒す男が泣き叫んでいた。

「なっなんだぁ…」

引き裂けた女物のパジャマを身体に絡ませながら

泣きじゃくる男の姿に皆が唖然としていると、

「みっみんなぁ!!

 あっあたし…
 
 男の人になっちゃったぁ!!」

と股間から大きく盛り上がるイチモツの膨らみを見せつけながら、

ウワッ!

っと男は正次達に跳び掛かってくるなり、

ワンワンと泣き始めだす。

「いっ一体なにが?」

「さっさぁ?」

突然の出来事に皆の思考が止まってしまう中、

泣いていた男が

チラリと哲行を見るなり、

ピタリと泣きやむと、

「ところで、

 あんた、誰?」

と尋ねた。



「つまり、何が起きたのか纏めてみると、

 朝、起きてみたら東海林君は女の人に、
 
 後藤君は男の人になってしまったのですね」

レスリング場に座り込む照美と哲行を見ながら光貞はそう言うと、

「それにしても…」

「朝起きたら性別が逆転していただなんて…」

「まるで物語のようだな…」

と正次、祐二、勝正の3人が興味深そうに2人を見る。

「しらねーよっ

 朝起きたら女になっていたんだから」

その言葉に哲行はむくれながら言い返すと、

「えっえぇ…

 あっ…はいっ」

照美は頷きつつも、

直ぐに言い直した。

「ふむ、

 原因は不明ですか?」

そんな2人を見ながら光貞いつものように

妙に醒めた口調でそう尋ねると、

コクリ

2人の頭は同時に上下に動いた。

「さぁて、どうしたものか」

その返事に光貞は考え込むと、

「病院に行って医者に診て貰った方が良いのでは?」

とこれまで黙っていた三郎が声を上げる。

「ふむ」

三郎の提案に光貞は大きく頷くと、

「おっおいっ、

 そんなコトしている暇はないだろう、
 
 来週には大会が迫って居るんだ」

プルン

と乳房を揺らせながら哲行がくってかかる。

「でっでも…

 はやり医者に見て貰わないと」

そんな哲行に三郎はなおも食い下がると、

「あぁっもぅ

 練習練習!」

哲行は声を上げ、

そして、シャツを脱ぐが、

「あっ」

「わっ」

シャツを脱いだ途端飛び出したツンと上を向く乳首に、

皆の視線が一斉に集まっていった。

「なにを見て居るんだよ」

突き刺さってくるその視線に哲行は笑いながら自分の胸を見ると、

カァァァァァッ

急に恥ずかしく感じてきたのか、

その顔が真っ赤になり、

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

悲鳴を上げながら両手で乳房を隠しながら、

その場に座り込んでしまった。

「(うぅっ、

  なんで?
  
  胸を晒すなんて恥ずかしくなかったのに、
  
  なんか、すっごく恥ずかしいよぉ)」

心の奥底からわき上がってくる差痴心に

戸惑いながら哲行は蹲っていると、

「こりゃぁ、練習にならないね」

と正次が呆れたポーズをしながら言う。

「なっなんだとぉ!」

その言葉に哲行が反論すると、

「じゃぁ、練習するから、

 吊りパン姿になって見ろよ」

と勝正が哲行のシングレットを差し出し、

そう命令をすると、

「わかったよっ

 吊りパンを着ればいいんだろう?
 
 着れば!!」

文句を言いながらも哲行は

勝正が差し出したシングレットを受け取り、

その場でそれを身につけると、

「どっどうだ、

 吊りパンを着てやったぞ」

と顔を赤らめながら、

シングレットからはみ出てしまう乳房を

手で隠しながら立ち上がった。

だが、赤いシングレットに包まれた哲行の身体は、

厳つさがすっかり消えてしまったなで肩の肩。

乳房が見事に膨らんだ胸。

大きく張り出し安産型の腰、

ムッチリと膨らんだ腿、

そして、股間に浮き出る縦に伸びる溝…

と何処をとっても女性であることが明白になっていた。

そんな哲行の姿を見ているウチに、

「うっ」

勝正達は急速に自分たちの股間が硬くなってきたことに気づくと、

慌てて股間を押さえ込んだ。

「なっなんだよっ、

 お前らっ
 
 俺を見てチンポおっ勃てたのかよっ」

彼らのその姿を見て哲行はあきれかえると、

「やっぱ、無理だよなぁ…」

「あぁ」

と股間を押さえつつ、

皆は哲行のシングレット姿には否定的な事を呟いた。

そして、その後では、

「ふむ、

 これは女子用のシングレットを買ってくるようでしょうか」

光貞もまた大きく頷く、

すると、

「あっあの…

 東海林君の代わりに後藤さんが出てはダメなんですか?」

三郎が手を挙げ尋ねた。

「えぇ?

 あたしがレスリングを?」

三郎が言った言葉に照美が一番驚くと、

「無理無理無理」

と照美は拒否をしながら三郎に迫るが、

だが、

「ふむ、それも仕方がないか」

と光貞が頷くと、

「どっどうしてです?」

今度は光貞に向かって哲行は迫った。

「仕方がないだろう?

 東海林、

 お前、その姿でマットに立つ気か?

 どういう理由でそうなったのか判らないが、

 女の身体になってしまったお前が

 いくらシングレットを着込んで、

 レスリングシューズを履いて

 さぁこいっ!
 
 と騒いだところで誰も相手をしてはくれないし、
 
 第一、大会の運営側がそれを許さないぞ」

とズバリ問題点を指摘をする。

「そんなぁ…」

光貞の指摘に哲行はがっくりとうなだれると、

「哲行ぃ〜」

うなだれる哲行を照美が抱きしめた。

そして、少しの間をおいて、

「照美…」

と哲行が声をかけると、

バッ!

逞しく筋肉がついている照美の腕をどかし、

「照美っ

 こうなってて仕方がない、

 お前、いまから男になれ、

 俺は女になる…」

と真剣な表情で告げた。

「えぇっ」

思いがけない哲行の声に照美は驚くと、

「いいか、良く聞け、

 4人では団体選に出られないんだ、

 ウチは俺も含めて5人しか選手が居ない小さな部だ、

 1人でも欠けただけで大会の出場資格は無くなるんだ。

 俺が…女になってしまって、お前が男になった。

 男のお前が正次や祐二と共に吊りパンを着てくれて、

 マットに立つのなら試合は出来る。

 頼むっ照美っ
 
 男になってくれ、
 
 そして、アマレスラーになってくれ!」

と頼み込みながらその場に土下座をしてしまった。

「ちょちょっと、

 哲行っ
 
 何をするのよ、
 
 第一、あたしはマネージャで
 
 レスリングなんて出来るわけがないでしょう?」

と困惑しながらひれ伏す哲行に迫ると、

ポンポン!

といきなり背中が叩かれた。

「ひゃっ!」

背中を叩かれた感覚に照美は飛び上がると、

「ふむっ、

 なかなかのガタイをしているようだな、
 
 まっ、
 
 長年マネージャをしてきてルール当は判っているし、
 
 知識だけだがレスリング技についても知っているう?
 
 まっ筋肉の使い方や試合運びの感までは判るわけはないが、
 
 これだけの筋量があれば木偶の坊にはならないだろう…」

と光貞はだめ押しをし、

さらに、

「柴田ぁ、

 今日から後藤にレスリングの手ほどきをしてあげろ、
 
 そして、東海林、
 
 お前は後藤の代わりにマネージャだ、
 
 いいなっ」

キツイ視線を放ちながらそう言うと、

「よしっ、

 じゃぁ早速練習を開始だ、
 
 来週の大会まで時間はないぞ」

と一方的に指示を出すだけ出した後、

そそくさと立ち去っていってしまった。



つづく