風祭文庫・アスリートの館






「キノコ」
(栞の巻)



作・風祭玲


Vol.391





ビュォォォォッ!!

未明まで吹き荒れていた台風が過ぎ、

その台風が持ち込んだ熱気によってまるで夏を思わせる初秋の朝。

「はーぃ、時間ですよぉ!」

寝静まるレスリング部合宿所に高城栞の声が響き渡った。

すると、栞のその声に反応するかのように

「ふわ…」

一人、また一人とレスリング部員が布団から起き上がりはじめると、

「ほらっ

 起きて!!

 もぅ、いつまでもあたしの手を煩わせないで」

左右に分けて三つ編みにした髪型に

Tシャツにパンツ姿の栞は両手を腰にあて急かすように声を上げる。



「せやっ」

「おらっ潰せ」

「音を上げるな」

「気合だ気合!!」

それから程なくしてR大レスリング部合宿所に部員達の声が響き渡り、

マットの上では吊パンツ姿の部員たちによる朝練が始まったが、

しかし、栞はマットの上で練習する部員達の姿を横目で見ながら

「はぁ…」

と思わずため息をついた。

すると、その途端、

「どうした?

 ため息なんてついて」

「あぁ、守?」

不意に掛けられた声に栞が振り返ると、

そこにはレスリング部のキャプテンであり、

栞の交際相手でもある加藤守が吊パンツ姿で立っていた。

「何だよため息なんかついて」

笑顔でため息の理由を守は尋ねると、

「いえねぇ…

 いつもこれくらい真面目に練習をしてくれれば…
 
 って思ってね」

やや皮肉とも取れる台詞を栞は言い、

そして、

「で、こんどの餌はなんなの?」

っと守に詰め寄った。

「餌?」

「そうよ餌、

 あの連中がこれだけ真面目に練習をするってことは
 
 それなりの餌を撒いたんでしょう?
 
 で、なんなの?
 
 どこかで合コンでも予定しているの?」

栞は汚れ物を洗濯籠に詰めながらそう守に尋ねると、

「あははは…

 そんなことする理由がないじゃないか」

と守は笑顔で答えるが、

「うそ…」

栞は一言そう呟くと、

「じゃぁあたしは洗濯に行ってきます」

と言い残して合宿所から出て行き、

「はぁ…

 真面目に練習をしている相撲部を少し見習って欲しいわ」

そう文句を言いながら栞は共同の洗い場へと向かっていく、



R大レスリング部…

かつてはオリンピック選手を輩出するなど学生レスリングのトップに立っていたが、

しかし、昨今の男子学生の体育系離れなども手伝って部員は年々減少、

いまではキャプテンを務める加藤守を筆頭に5人の部員がいるだけの

かろうじて団体戦に出場が出来る小さな部になってしまった。

無論、小さな部でも部員達の意欲が高ければ問題は無いのだが、

しかし、部員の減少とともに、

部員達のやる気も少しずつ薄れ、

こうして練習場を支配しているこの緊張が維持できるのも

交換条件によって維持されているだけにしか過ぎなかった。



「おはようございます」

「あっ、おはようございます」

部員達から集めた汚れ物が入った洗濯籠を抱えて栞が洗い場に行くと

そこにはすでに相撲部のマネージャである三瓶恵が洗濯をしていた。

「お互い、大変ですね」

よいしょ

の声と共に洗濯籠を洗濯機の横に置き、

「相撲部さんは個人個人目標を持って稽古をしているのが羨ましいわ」

と愚痴を零しながら洗濯を始めた。

すると、

「えぇ?

 そんなこと無い無い、

 うちなんて、自主性をいいことにだらけていますよ、

 それこそレスリング部の熱心さを分けてもらいたい位よ」

栞の言葉に恵はあわてながらそう返事をすると、

「いえいえ、

 うちの熱心さはあくまで表向きだけ、

 コーチがいなくなった途端にだらけますよ」

そんな恵に向かって栞は愚痴を言う、

「でもコーチがいるだけでも良いじゃないですか」

「でも、ウチのコーチ、女性だから…

 いくらオリンピック経験者だからといっても

 ウチの部員達、心の中では完全に舐めきっていますよ」

レスリング部と相撲部

二人のマネージャは洗濯をしながらお互いに問題点を指摘し合うと

「はぁ…」

とため息をつく

するとそのとき、

ぶわっ

吹き返しの風が洗い場を吹き抜けていくと、

その風に煽られた栞が置いた洗濯籠がバランスを崩し、

ガタン!!

とひっくり返ってしまった。

「ぎゃっ!!」

それを見た栞は思わず悲鳴を上げ慌てて零れ落ちた汚れ物の回収に走る。

すると、

それを見ていた恵も手を休めて手伝いはじめた。

「あっすみません」

恵の協力に栞はそう礼を言いながら汚れ物を追って洗い場の裏側に回ると、

「なっなにこれ?」

洗い場の裏側の光景に思わず目を見張ると、

「ねぇねぇ

 ちょっとちょっと」

と恵を呼んだ。

「どうかしたの?」

栞の声に恵が裏側に回って来ると、

「うそっ

 なにこれ?」

目に飛び込んできた光景に恵は思わず驚きの声を上げた。

そう、洗い場の屋根を支える柱にキノコがびっしりと生え、

日の光を受けてキラキラと輝いていた。

「毒キノコ?」

恐る恐る顔を近づけながら恵はそう尋ねると、

「ううん、違うわ」

キノコを一本採った栞はそれをじっくりと眺め、

そして匂いをかぎながらそう答える。

「え?判るの?」

「うんまぁ

 よく、家族とキノコ採りに行ってたから…」

恵の疑問に栞はそう返事をすると、

「これ、シメジよ」

と説明をしながら手にしたキノコを恵に手渡した。

「ふぅ〜ん…」

手渡されたキノコを恵は興味深そうに眺めると、

「あっこれ、スーパーで見たことがある

 へぇ…シメジってこういうところに生えているのね」

と感心しながらそう呟いた。

「うん…

 でも、普通はもっと違うし

 いまどきに生えるなんて…」

感心する恵の言葉に栞は頭を掻きながらそう返事をすると、

「よっ」

突然、恵は柱に生えているシメジに手を伸ばすと、

汚れ物が消え空いている洗濯籠へと放り込み始めた。

「なにを?」

その様子に驚いた栞が思わず理由を尋ねると、

「決まっているでしょう?

 今夜の夕食に出すのよ、

 まったく、大して稽古もしない癖に食べているんだから…

 少しは節約をしないとね」

栞の質問に恵は片目を瞑りそう返事をした。

「なるほど…」

恵の答えに栞はハタと手を叩くと、

「じゃっあたしも採ろうっと」

栞も恵と同じようにこのシメジを合宿所の夕食に使おうとシメジを採り始めた。

こうして洗濯籠にシメジを入れた栞と恵は合宿所に戻ると、

夕食の支度へと取り掛かかった。



そして迎えた夕食…

「うっ」

食卓の上に山盛りの盛られたシメジ料理に部員達は皆一斉に身を引いた。

「さぁ、食べて、

 腕によりをかけて作ったんだから」

割ぽう着を脱ぎながら栞がそう言うと、

「なにボサっとしているっ

 折角マネージャがみんなのことを考えて作ってくれたんだ。

 さっさと食べないか」

率先して席に着いた守がシメジの山に箸をつけ

「んっんまいよこれ」

と言いながらパクパクとシメジを食べて見せる。

しかし、

「あのぅマネージャ?

 このキノコはどこで買ったものですか?」

一人の部員がシメジを指差しながら尋ねると、

「あぁ、洗濯をするところがあるでしょう、

 あそこに生えていたのよ」

と栞はアッケラカンと答えた。

「!!」

その答えを聞いた部員達は皆一斉に驚くと、

「………」

黙黙とシメジを食べてみせる真一を不安げに眺めるだけで、

決してシメジに箸をつけることはなかった。



「折角作ったのに…」

食後、部員達が席を立った後のテーブルの上には守が幾分食べたものの、

だが、しっかりとシメジ料理だけが残され、

栞はそれを眺めながらため息をついていた。

そして、

「仕方が無い」

栞は膝を叩きながらそう呟くと残されたキノコ料理を口に運んだ。

「あら、時間が経っても美味しいじゃない」

「もぅ、なんでみんな食べなかったのかな」

「いいわっ全部食べちゃおう」

そう言いながら次から次と栞はシメジを口へ運び食べていく、

そして、すべて食べつくすと、

「はぁ美味しかった!」

っと満足そうに膨れたお腹を叩いた。



翌朝、

「うぃーす」

と言う声と共に率先して部員達が起きてくると、

「おーすっ」

キッチンに立っていた栞はそう返事をした。

「は?」

栞のその声に部員達が一瞬驚くと、

「あらっ

 やだ、あたし何を」

自分の言葉に気づいた栞は慌てて自分の口に手を当てた。

「まぁ

 俺達と一緒に合宿をしてきたから、言葉が移ってしまったかもな、

 気にすることは無いよ」

栞の様子に部員達は軽く笑っていると

「おはよー」

とまるで少女を思わせるような声の挨拶をしながら守が起きてきた。

「なっなんだよっ、守っ

 その声は?

 まったく気味が悪いな」

女の子を思わせるその挨拶に部員達は驚き、

そして、一斉に守を小突くと、

「仕方が無いでしょう、

 声の調子がおかしいんだから」

と守は文句を言うが、

その声色と言葉遣いに部員達の背筋に冷たいものが走った。

「じゃぁ出かけてくるけど

 稽古サボっちゃだめよ」

そういい残して守が監督が運転する車に乗ろうとすると、

「だーから、その言葉遣い止めてください」

ジャージ姿の部員達から一斉に非難の声が上がる。

その日、合宿の報告に守とコーチは一度学校へ戻ることになっていた。

そして、守とコーチが合宿所から姿を消した途端、

ぐでー…

部員達は一斉に練習を休み、

みな好き勝手な事を始めだした。

「まったく、主将がいなくなった途端にダラけるんだから」

そんな様子に栞はそう文句を言いながら片づけをしていると、

壁に立てかけてあった紙袋に栞の手が引っかかり

バサバサ!!

と言う物音ともに、

紙袋の中からヨレヨレになりかけている吊パンツが出てきた。

「やだっ!!

 もぅ!!

それを見た栞は文句を言いながら吊パンツに手を伸ばそうとしたとき、

ドクン!!

栞の心臓が大きく脈を打った。

「!!

 なに?」

ドクン…

ドクン…

次第に速度を上げていく胸の鼓動に栞は伸ばしていた手を自分の胸に当てるが、

ドクン!!

さらに大きな鼓動が脈打つと

「うっ」

うめき声を上げながらその場に両手をつき蹲ってしまった。

ハァハァ

ハァハァ

蹲る栞の呼吸は次第に荒くなり、

そして、小刻みに体が痙攣を始める。

「ひょっとして、

 昨日食べたシメジが当たった…?」

即座に栞の脳裏に昨日食べたあのシメジのことが思い出される。

すると、

ドクン!!

一際大きく心臓が脈打つと、続いて襲ってきた津波のような苦しみに

「うぐうぅぅぅぅ」

栞は歯を食いしばり、

クハァ…

クハァ…

肩で息をする。



ハァハァ

ハァハァ

ボタボタボタ!!

荒い息をする栞の顔や身体全体から滝のように汗が噴出し、

着ていたTシャツがまるでシャワーを浴びたかのようにずぶ濡れにしてしまうと、

そこから滴り落ちた汗が黒いシミを身体の下に広げていく。

ハァハァ

ハァハァ

「くっ苦しい…

 誰か…助けて…」

痙攣する腕を伸ばしながら栞美が必死で助けを呼ぶが、

しかし、彼女の弱弱しく擦れた声は部員達に届くことは無かった。

「だっ誰か…」

カッと目を見開き、栞がもがき苦しんでいると、

メリメリメリ!!

と言う音が栞の体のあちらこちらから響き始めた。

メリッ!

「うっ」

メリッ!

「うっ!」

身体の中から音がする度に栞の身体は小さく飛び跳ねるように動き、

ミシッ!

栞のお腹のあたりから一際大きい音が響き渡ると

ミシミシミシ!!

まるで引き裂くような音が続いて響いた。

「う…」

「うぐぅぅぅぅぅぅ!!」

歯を食いしばり必死で苦しみに耐える栞…

すると、

ムクッ

ムクッ

っと栞の身体が少しずつ、そして確実に大きくなりはじめた。

「ふぐぅぅぅぅ!!

(なっなんなの?

 きっ筋肉が膨れていくぅ!!)」

膨張していく筋肉の感覚に栞は驚いていると、

ムリッ!!

そんな栞の胸が見る見る膨らみ、

左右の胸が大きく前に突き出し、

着ていたシャツがパンパンに張っていく、

「あっ

 あぁ…
 
 おっぱいが…
 
 無くなって行くぅ」

乳房を吸い取るようにして厚みを増していく胸板に栞は悲鳴をあげるが、

しかし、さらなる変化が彼女を襲い始めた。



ムリムリムリ!!

細く白い腕に幾筋もの筋肉の陰影が浮かび上がると、

見る見る腕は太くなり、

また両足も同じように筋肉が膨れあがると、

穿いていた短パンがピチピチに張り詰めていった。

すると、

ムリッ

栞の股間から小さな突起が姿を見せると、

まるで成長していくキノコのように大きさを増し、

瞬く間に短パンにテントを張っていった。

そして、そのテントの出現によって、

栞の短パンは悲鳴をあげ、

至る所から引き裂け始めた。

「あっあっあっ

 だめっ
 
 でも、
 
 あぁ…
 
 いっいい…
 
 いっちゃう!!」
 
栞を襲う苦しさはいつの間にか快感へと変わり、

そして、古い自分の引き裂くようにして生まれてくる新しい自分を迎えるかのように

栞は太くなった腕を自分の股間に這わせると、

その真中で硬く勃起しているそれを短パンの上から握り締め、扱き始めた。

「うっ」

「うっ」

シュッシュッ

シュッシュッ

最初は腫れ物に触るような扱き方が、

次第に大胆に、そして激しさを増してくる。

シュッシュッ

シュッシュッ

「うっ

 でっでるっ」

扱いているうちに溜まってきた何かを吐き出すようにして栞が身体に力を入れた途端、

ベリベリベリ!!

栞が着ていたシャツと短パンが引き裂けてしまうと、

その中からまるで葡萄の房のようにゴツゴツとした盛り上がりを見せる肉体と、

棍棒のようなペニスが股間から起立し、

「うっ!!」

栞のその一言ともに、

シュッ!!

その先より白濁した粘液を空高く吹き上げた。



「ふぅ

 ふぅ…」

次第に落ち着いてきたのか、

栞があげていた荒い息が徐々に落ち着いてくると、

「はぁ…」

苦しさから開放されてた栞が薄っすらと目を開け、

「あっ、

 あたしどうしたんの…」

天井を見上げながらそう呟いた。

そして、

ゆっくりと起き上がって自分の下半身を見た途端、

「ひっ!!」

栞の表情が一気に引きつった。

「なっなに?

 こっこれってどういうこと?」

ビクン!!

栞の視界にはゴツゴツとした筋肉が盛り上がり、

そして股間には棍棒のように勃起したペニスがそそり立っている自分の身体が映る。

「そんな…あたし男の人になっちゃったの?」

文字通り男の肉体を見せ付けられた栞は

「そんな…」

と呟きながら股間でそそり立つペニスに手を伸ばそうとしたとき、

紙袋から出てきた吊パンツが目に入った。

「あっ」

ドクン!!

その吊パンツを栞が見た途端、

栞の胸は再び激しく鼓動をし、

「あっあぁ…

 そうだ、俺は男…なんだ
 
 男なら…俺、レスリングできるじゃないか」

と呟きながら栞は吊パンツに手を伸ばし、

そして、それを手にしながらゆっくりと立ち上がった。

ムキッ!!

鍛えられた男の肉体がシルエットとなって浮かび上がる。

「おっ俺が

 奴らを鍛え上げてやる」

キッ!!

栞の口からその言葉が漏れると、

シュルリ

栞の身体に吊パンツが静かに覆った。



「キャプテンとコーチ、

 今日は帰ってきて欲しくないですね」

「おいおいそれは言いすぎだぞ」

「あははは」

そう言いながら練習場のマット上で部員達がのんびりとしていると、

ドスドスドス!!

合宿所の奥から足音を響かせ、

「おらっ

 何をしている!!」

と怒鳴りながら栞が稽古場に入ってきた。

「うわっ」

「まっマネージャー?」

「どっどうしたんですか?

 その身体?」

首から下はまるでギリシャの彫刻のような男性の肉体を晒す栞の肉体に部員達がみな驚くと、

「ごちゃごちゃいうなっ

 いいか、たった今からこの俺がお前達を鍛えてやる、
 
 覚悟しろ!」

栞はそう怒鳴ると

ムキッ!!

筋肉で膨らんだ肉体をさらに膨らませた。




「ひぃぃぃぃ!!」

合宿所から部員の悲鳴が響き渡ったとき、

守とコーチは…

「やっ止めてください、コーチ!!」

「あら、なにがイヤなの?」

「だって、こんなことはいけない事だと…あん(ビクッ)」

「ふふふ…

 あなたのこと狙っていたの

 ねぇせっかく女になったんだから楽しまなくっちゃ」

とあるモーテルの一室で全裸の女性が絡み合っていた。



それから1年後…

栞の猛練習によってR大レスリング部はインカレで優勝をするくらいに強くなり、

一方、守とコーチはそんなレスリング部を影で支える美人マネージャとして知れ渡るようになっていた。



おわり