風祭文庫・アスリートの館






「環の決意」


作・風祭玲

Vol.052





「せいっ!!」

かけ声と共に、

円形のマット上で赤と青の吊りパンツ姿の男が

互いに牽制しながらに相手の懐に飛び込もうとする。

やがて一瞬の隙をついた赤の吊りパンツを穿いた男が

相手の懐に飛び込むとあっと言う間にくみ伏した。

勝負有り。


「やったぁ」

あたしは思わず飛び上がって喜んだ。

「ちょっ、ちょっと環ぃ、はしゃぎすぎよ」

横で一緒に観戦している知子が注意した。

「え?」

思わず周囲を見ると、

少ないギャラリーの中であたし一人が浮いた存在になっていた。

「もぅ、恥ずかしいわねぇ」

「ごめん」

「それにしてもあんたって物好きよねぇ」

「なんで?」

とあたしが訊ねると知子は、

「毎日のようにこうして人気のないレスリング部の練習を見に来るんだもの

 よほどの物好きでなきゃぁね」

と言いながら肩をすくめた。

「だってぇ…」

知子のその様子を見たあたしはプッつ頬を膨らませると、

「お目当ては、あの人?なんでしょう…」

と言いながら知子はあの赤い吊りパンツを穿いた人を指さした。

「…………」

あたしは顔を赤くした。

「千住広也、2年3組、

 レスリング部のホープ、
 
 今度のインハイでの優勝間違いなし」

知子が次々と彼のデータを言うと、

「で?、告白はしたの?」

と尋ねてきた。

「え?」

「告白よ、こ・く・は・く」

その問いに、

「それが…」

あたしが口を濁させると、

「なに、まだしていないの?」

と知子は驚きの声を上げた。

「だって、恥ずかしいんだもん!!」

目を瞑りながら反論すると、

「あんたってぇ…」

知子は一瞬呆れた顔をした後、

「よし、それでは今日やろう」

とあたしに言った。

「え?

 だって…まだ心の準備が」

そう言っていると

「何言ってんのっ

 今日やらなかったらあんた、一生出来ないわよっ!!」

そう叫ぶと知子はあたしの腕を握るなり体育館から引きずり出した。



日が落ちあたりが薄暗くなった頃、

「よし、月並みだけどラブレターは書いたわね」

と言う彼女の問いにあたしは黙って頷いた。

「それでは、アタック開始と行きますか」

知子のその一言であたし達はレスリング部の部室へと向かった。

部室にはまだ明かりがついていて中に人の影が微かに動いていた。

「ふむ…情報によると、

 千住先輩はこの中に一人でいるそうです」

何処で仕入れたのか知子は室内の様子をあたしに告げると、

「え?、じゃぁあの影は」

「おそらく千住先輩でしょう」

「さぁ、そうと決まればアタック開始、グッドラック!!」

と知子は言うとあたしの背中をドンと押した。

とととととと…

あたしはよろめくように部室のドアへと向かっていた。

そしてドアの前に立つと、

コンコン

っと思い切ってドアをノックしたが中から返事はなかった。

一瞬、

「帰ろうかなぁ」

っと思ったけど、

すぐ後ろには知子の目があるので、

あたしは覚悟を決めるとドアのノブを回した。

カチャリ

とドアが開く

フワッと男の汗の香りがあたしを包み込んだ。

トクン…

緊張が身体を突き抜けていった。

「あっあのぅ、せっ千住先輩、いますか?」

あたしは思いきって声を上げた。

「………」

返事は帰ってこなかった。

「あれ?居ないのかなぁ?」

あたしは部室に足を踏み入れると、

先輩の姿を探すように部室の中を歩いた。

とその時、

「だれだ?」

と言う男の声がすると更衣室から先輩が顔を出した。

初めて間近に見る先輩の顔。

でも、先輩は部活が終わって時間がたっているというのに

汗をびっしょりとかき、また荒い息をしていた。

「せっ、先輩、あっあのう…

 勝手に入ってすみません、
 
 じっ実は先輩に渡したいものがあって」

ドギマギしながらあたしはそう言うと思わず手紙を差し出していた。

千住先輩が手紙を受け取るのを確認すると、

「そっそれでは、失礼します」

と言ってあたしが部室を出ようとしたとき。

「おい、ちょっと、待て…」

先輩があたしを呼び止めた。

ドキッ!!

すると、あたしの身体は金縛りにあったように身体の動きを止めた。

先輩は受け取った手紙を開くと目を通し始めた。

あたしは今にでも逃げ出したかったけど、

身体が動かずじっと先輩の姿を見ていた。

やがて、読み終わると手紙を再び折り畳むとあたしに返した。


「君の好意は判るが、残念だが君とはつき合えない」

先輩の口から出た言葉は冷たくあたしに突き刺さった。

「え?そんなぁ…

 あっ、あのぅ…
 
 部活のじゃまはしません、
 
 傍にいるだけでいいんです」

と言ったが、先輩は首を横に振ると、

「ごめん、君とはつき合えないんだ」

と言う。

「あっ、あたしのどこが悪いのでしょうか?、教えてください」

となおも食い下がると、

「それは……君が女の子だから」

と先輩は呟いた。

「え?」

あたしが聞き返すと、

「おいっ、広也、話は終わったか早く続きをやろうぜ」

と言う声とともに青の吊りパンを穿いた男の人が出てきた。

3年の小早川先輩だ。

小早川先輩はあたしの姿をみると、

「ん?、まさか広也に告白か?、ずいぶんと大胆だなぁ」

と笑いながら言うと、

「よせよせ、広也には恋人が既にいるんだ」

とあたしに言う、

「え?」

「だから君がいくら迫っても駄目だぞ」

「そんなぁ」

あたしは千住先輩を見ると、

「千住先輩、好きな人がいるんですか?」

と尋ねた。

コクン…

先輩は黙ってうなずいた。

すると、小早川先輩が、

「ははははは、広也が好きな奴を教えて上げようか」

と笑いながらあたしに言う。

「やめてください」

千住先輩が声を上げると、

「広也が好きなのは……この俺だ」

小早川先輩が自分をさしてそう言った。


「……えっ」

あたしは最初その意味が分からなかった。

そんな様子を見た小早川先輩が

「広也はなぁ、女の子を愛することが出来ないんだよ、だから、諦めな」

と付け加えた。

「女の子を愛せない?

 それって」

硬直しているあたしの目の前で、

小早川先輩は千住先輩を後ろから抱きしめるとキスをした。

「うそ!!!!」

あたしは目のまで起きている事実が信じられなかった。

千住先輩の股間が見る見る膨らみだし、吊りパンツを下から押し上げ始めた。

やがてクッキリとペニスの形が浮き出てくると、

小早川先輩はそっと手をその上に置き

女性の乳房を弄ぶようにそれをしごき始めた。

長いキスが終わると、千住先輩の口から喘ぎ声がこぼれ始めた。

そして

「先輩っ、入れてください、我慢できません」

と千住先輩が言うと吊りパンツをずり下ろし始めた。

「やめて…」

あたしは思わず叫び声を上げた。

「わかったろう、これが俺だ、だから君とは」

と言ったところで、小早川先輩が挿入を始めた。

「ああぁっ、あっ」

千住先輩は汗だくになって喘ぎ声を上げた。

「というわけだ、残念だけど、こいつのことは忘れな」

と言う小早川先輩の声がしたと同時にあたしは部室を飛び出していった。



「ちょちょっと、環っどうしたの?」

外で待っていた知子が追いかけてきた。

「信じられない、何もかも…」

あたしは泣きじゃくりながら走った。


どこをどう走ったのかは判らない、

気がついたときには

駅の近所の繁華街の隅にある小さな公園のベンチに腰掛けていた。

しばらくの間繁華街のネオンをボンヤリと眺めていると、

「隣よろしいでしょうか?」

と言う声がした。

「え?」

っと振り向くと、

腰の曲がったお婆さんが大きな荷物を背負って立っていた。

「あっ、どうぞ…」

あたしは少し端に寄って場所を空けると、

「すみませんねぇ」

と言いながら、

「どっこいしょ」

とお婆さん座った。

「いやぁ、久しぶりにこっちに来たら

 まぁ街の様子がすっかり変わってしまって、
 
 道に迷ってしまいましたわ、わははは」

と笑いながらあたしに話しかけてきた。

「はぁ、そうですかぁ…」

あたしは適当に答えると

「そうだ、あんた、外山神社ってお社知らないかね?」

と尋ねてきた。

「外山神社ですか?、

 それなら駅の向こう側、
 
 あのでっかい赤いネオンの看板がある方ですよ」

と駅の向こう側でひときわ輝く大きなネオンを指さしていった。

「なんだぁ、あたしゃは反対側にきちまったのかい」

お婆さんは驚きの声を上げた。

「ありがとよ、これで帰れるわ

 いやぁ最近の若いのは冷たいって言うけど、あんたは違うねぇ」

お婆さんはあたしを誉めると、

「どこいしょ」

と腰を上げると、

「そうだ、お礼にあんたにこれをあげよう」

と言うと包みの中からピンポン玉ほどのビー玉を出して渡した。

「なんですかこれ?」

あたしが怪訝そうに訊ねると、お婆さんは人差し指を立てると、

「一つだけ、どんな願いを叶えてくれる、魔法のビー玉さ」

と真顔で言った。

「魔法のビー玉?」

あたしがシゲシゲとそれを眺めながら言うと、

「あぁ、そうさ、まぁ信じる信じないはあんた次第だけどね」

「なんでも一つだけ願いを叶えてくれる魔法のビー玉…」

あたしはしばらくそれを眺めたのち

「ねぇ、お婆さん?」

と言いながら顔を上げると、そこにはお婆さんの姿はなかった。



「ただいまぁ」

「環、あんた自分の鞄を学校にホッポリ出してどこに行ってたの?」

家のドアを開けると同時に母さんの声が響いた。

「え?」

「知子ちゃんがあんたの鞄届けてくれたのよ」

そうだ、気が動転してあたし学校から飛び出してきたんだっけ

「あした、知子ちゃんにお礼言うのよ」

と言って母さんは鞄をあたしに渡した。

「うん」

あたしは鞄を受け取ると、

トントントン

と自分の部屋に駆け上がっていった。

バタン!!

ドアを閉めると

「はぁ〜っ」

大きなため息を吐き、ベッドの上にそのまま倒れ込んだ。

「はぁ、あこがれだったの先輩があんな趣味だったなんて、ショック〜っ」

あたしはあの部室での光景を思い出していた。

そして、スカートのポケットからおばあさんに貰ったビー玉を取り出すと、

それをじっと眺めていた。

「本当に願いが叶うのなら、これで先輩を…」

と言うと思わず首を振り、

「先輩のことは忘れよう」

と心に誓った。



「環ぃ、夕御飯食べるでしょう?」

階下から母さんの声が響く、

「はぁ〜ぃ」

あたしはビー玉を机の上に置くと部屋をあとにした。



入浴後、濡れた髪を拭きながら部屋に戻ると、

ふと机の上のビー玉が目に入った。

あたしは、再びビー玉を手にとってベッドの上に座り込むと、

「先輩はあんな趣味をしているけど、

 でも、先輩にも理想の女性がちゃんといるはずよ」

と思うと

「だから、あたしが先輩の理想の人になれば…

 そうだ、願いが決まったわ」

そう決意するとあたしはビー玉を目線の高さまで持っていくと、

「あたしの願いは千住先輩の理想の人になること」

とビー玉に話しかけた。

するとビー玉はまぶしい光を発しあたしを包み込んだ。



「せいっ」

放課後、レスリング部の男達が組み合いを演じている体育館に彼女の姿はなかった。

「広也、昨日の彼女、もぅ来ていないな」

「え?」

いつの間にか僕のすぐ後ろに小早川先輩が立っていた。

「仕方がないですよ、あれを見れば女の子はみんな逃げ出しますよ」

僕はそう言うと湧き上がってきた罪悪感から逃れようと、

自分の肩で先輩の胸をトンとついた。



部活後、先輩は用事があるというので先に帰ったので、

一人で着替えを始めようとしたとき、

カチャ

部室のドアが開いた。

「?、誰だろう、」

更衣室から顔を出すと、

部室の中にジャージ姿の彼女の姿があった。

「なんだ、また来たのか」

僕は呆れた口調で彼女に言うと

「なんど来ても一緒だ、俺は女には興味がない」

と言って、彼女を追い出そうとしたとき

彼女の身体が昨日より大柄にまた男っぽくなっていることに気づいた。

「?」

僕は彼女の様子に妙な感覚を持ったとき

「先輩」

ずっと黙っていた彼女がようやく声を発した。

まるで男のような低い声になっていることに気づくと、

「キミ…その声は…」

僕は驚きながら訊ねると、

「先輩…あたし、先輩好みの人になってきました。」

と彼女が言う、

「僕好みの?」

僕は彼女の台詞の意味が良くわからなかった。

「見てください、あたしの身体を…」

と言うと、彼女は着ていたジャージを脱ぎ始めた。

そして、ジャージを脱ぎ終わった彼女の姿を見て驚愕した。

「なっなに?」

ジャージの下からは、青い光沢を放つレスリングの吊りパンツが姿を現し、

そして顔は昨日までの少女のままだが、

身体の筋肉は逞しく盛り上がり、

手足も太く、

そして股間には大きく勃起した肉棒の姿がクッキリと浮かび上がっていた。

「きっきみは、男?」

僕は信じられない気持ちで彼女に尋ねた。

彼女は僕に一歩近づくと、

「先輩、責任をとってください」

と言う、

「え?」

「あたし…いや、俺…

 先輩の好みの奴になりたくて、この姿になりました。

 だから、責任をとってくれ…」

再び一歩近づいた。

僕は一歩下がると

「責任をとれって?」

と訊ねると

「俺とつきあってくれ、

 そして愛してくれ…」

と彼女は言うとまた一歩近づいた。

僕が一歩下がろうとしたとき、

「にっ逃げるなよ…先輩…

 見てくれ、
 
 俺のガタイは小早川先輩よりも逞しいし、チンポも太くて大きいです」

と言うと、股間に手を持っていった。

そして股間の膨らみをさするとさらに彼女のペニスが大きくなる。

ゴクン…

僕は生唾を飲み込んだ。

「先輩、好きだ」

彼女はそう言うと吊りパンツを脱ぎ捨て、たくましい男の裸体をさらけ出した。

「…………」

僕は何も言わず彼女の裸体を眺めた。

そしてしばらくすると、無性に彼女のペニスを愛撫したくなってきた。

そんな僕の様子を見た彼女は、

「先輩、我慢しなくてもいいんだぜ…俺のをしゃぶっても…」

と囁いた。

僕はその言葉を待っていたかのように彼女の前に跪くと

太くて長いペニスを両腕で握りしめ、そっと自分の口の中に入れた。

チュバ・チュバ

僕と彼女しかいない部室の中を淫乱な音が支配した。

「あぁ先輩…いい…」

グイっと彼女は腰を僕の前に突き出すと喘ぎ始める。

「お前のちんぼ、うまいぞ」

チュバ・チュバ

「はぁ、はぁ、あぁ、出るぅ…」

「早く出せっ、全部僕が飲み干してやるから」

と言うと彼女のペニスをくわえ直して、出てくるモノへの備えを施した。

そして徐々に彼女の息づかいが荒くなった頃

「うぐぐぐぐ」

といううめき声とともに

ドクドク

と彼女の熱い体液が僕の口内に発射された。

「はぁ、先輩…」

彼女がそっと僕を見ると

「旨いな、お前のセーエキ」

と僕は囁くと彼女が出した体液をすべて飲み干した。

「先輩…」

「環…」

僕は彼女の名前をはじめて呼ぶと、

着ている吊りパンツを脱ぎ捨て、

自分のケツを彼女の前に突き出した。そして

「お前の一物で僕を突いてくれ、たのむ」

と懇願した。

「いいんですか?」

「あぁ」

「判りました」

彼女は僕の腰にそっと手を当てると

「じゃぁ行きます」

と言うと再び

ビンビン

に勃った己の一物を僕の体の中へ挿入した。

「くぅ〜っ」

僕は喘ぎながら堪える。

「しっ閉まります先輩」

「うっ」

「先輩、俺…先輩と1つになれたんですね」

彼女のうれしそうな声がいつまでも心に残った。



おわり