風祭文庫・アスリート変身の館






「マワシファイター」
(第3話:反抗の者達)


作・風祭玲

Vol.1015





どすこぃっ!

どすこぃっ!!

どすこいっ!!!

「ふぅ…

 ちょっち手こずったかな」

学校中より響き渡る豪快なシコの音に耳を傾けつつあたしは満足そうに頷くと、

「ごっつぁんですっ」

周りを取り囲むマワシファイター達は声をそろえて返事をしてみせる。

運動部のみんなも、

文化部のみんなも、

無論、帰宅部のみんな(在校していた子のみ)も、

片っ端から廻しを締め髷を結うマワシファイターにしてしまったのだ。

もぅこの校舎の中にはマワシファイター以外の人間は居ない…

全ては奉納相撲のため。

全ては奉納相撲を心待ちにしている神様のため。

巫女としてあたしは当然の務めをしたまで、

そうあたしは正しいことをしたのだ。

マワシファイターになったみんなも喜んで協力してくれたから、

こうしてシコを踏んでくれているんだ。

軍配を見つめながらあたしはそう自分に言い聞かせると、

「ふふっ、

 ふふふっ」

あたしの口から笑い声が漏れ始め、

そして、

「ぶわはっはっはっ!

 神様っ

 見てください。

 あたし、みんなをマワシファイターにしてあげました」

と声を張り上げる。

そして、

「あははははは!!!

 みぃんなマワシファイターになっちゃったよぉ!

 みぃんな、

 みんな

 みんなマワシファイターに…

 あはは、これって傑作よね。

 ねぇ神様もそう思うでしょう?

 このあたしが、

 この手で、

 神様からいただいたこの軍配を使ってマワシファイターにしてあげたの。

 誉めてください。

 称えてください。

 神様から授かっ力で皆に廻しを締めてあげたのはこのあたし、

 神条初音なのよ!」

校舎を真っ赤に染める夕日に向かってあたしは声を上げると、

「ごっつぁんですっ」

あたしがあげた声に答えるようにして周囲を取り囲んでいた弓道部員…

いえ、マワシファイター達が一斉に返事をしてみせる。

「そう…それでいいのよ。

 とっても嬉しいわ。

 ねぇ、いまのあたしってそういう顔をしているでしょう?」

ニコリと笑いながらあたしは振り返ってみせると、

「どすこいっ!」

マワシファイター達は声を揃えてみせる。

「くくっ

 くくくっ

 これで達也さんはあたしのもの。

 くくくっ

 幸せ…ゲットだよぉ!」

夕日に向かってあたしは握った拳を上げていると、

「ちょっとぉ、

 そこの変態力士っ!!」

その声を断ち切るようにして背後から怒鳴り声が響く。

「ん?

 この声は?」

聞き覚えのあるその声にあたしは振り返ると、

「邪魔よっ、

 退きなさいっ」

再び怒鳴り声が響くとマワシファイター達の一角が崩れ、

その中から美紅がよろめきながら飛び出してくるなり、

あたしに向かって蹴躓くようにして倒れ込んだ。

「美紅乃山…

 どうした」

突然のことにあたしは驚くと、

「美紅に何て事をしてくれたのよっ」

その美紅の後から制服姿の矢吹恵が姿を見せると、

怒りの表情であたしを指さした。

「恵ぃ

 あれ?

 どうしたの?

 まだマワシファイターになってなかったんだ。

 ごめんねっ

 除け者にしたわけじゃないのよ」

あたしは親しそうに話しかけ、

そして、軍配を持ち換えると

「なっ

 馴れ馴れしく名前を呼ばれる筋合いは無いわ」

と恵は普段使わないような口調で叫び、

「美紅を…ううん、みんなを相撲取りにしてしまうなんて、

 あんた、なんてことをしてくれたのよ。

 さっさと元に戻しなさい!」

と命令しながらあたしに向かって恵は飛びかかってきたのであった。

しかし、

「おっとっ」

あたしに向けられたその拳を軽く往なしてしまうと、

「恵いっ

 いまのその気合凄かったわよぉ

 その気合い、ぜひ土俵の上でそれを発揮してほしいな。

 あたしが念入りにマワシファイターにしてあげるからさっ」

と彼女に向かって提案をする。

「なっなにを言うのっ」

その言葉に恵は驚くと、

「ふふっ」

あたしは手にしている軍配でトントンと肩を叩き、

「そうれっ、

 チェインジ・マワシファイター・ビートアップ!」

と掛け声を上げながら軍配を仰いでみせた。

その途端、

シュルンッ!

軍配より漆黒の布帯が飛び出して恵に襲い掛かるが、

「やだ!

 こっちにっ

 来ないで」

と声を上げながら、

布帯から逃れるようにして体をかわし、

一目散に逃げ出して行く。

「うそっ、

 あれを避けただなんて、

 お待ちなさい!」

布帯をかわされたことにあたしはショックを受けながらも、

「みんなっ、

 恵を追いかけるのよ」

マワシファイター達に向かって声を上げすぐに追いかけはじめた。

と同時に

シュルンッ!

目標を見失っていた布帯も同じように恵を追いかけ空を駆けていく。

しかし、恵は振り返りもせずに一目散に校庭を駆け抜けて行くと、

体育館と校舎の間に伸びる路地へと入っていく。

そして、

シュルンッ

布帯もその間へと潜り込んで行くのを見届けると、

「くくっ、

 お馬鹿さん。

 その先は行き止まりよ。

 もぅ逃がさないわよっ、

 あたしがマワシファイターにしてあげるわ」

誤ったルートを選んだ恵を哀れみつつ路地へと踏み込んだとき、

グッ!

先に進んだ布帯が恵を捕らえたらしい手ごたえが返ってきた。

「くくっ、

 ぶわはっはっはっ。

 恵ぃ、

 マワシファイターになった気持ちってどんなかな?」

確かな手ごたえにあたしは笑いながら進んでいくと、

カラン

ガシャンッ!

突然、あたしの目の前に廻しを締めた人体模型が倒れてきたのであった。

「キャッ!

 って、えぇ!?」

思いがけない事態にあたしは驚いていると、

バッ!

あたしの頭の上にいきなりネットの花が咲くや、

頭の上からネットが降り掛かり、

「ぎゃっ!」

あたしは悲鳴と共にそのネットの下敷きとなってしまった。

「うわっ、

 なにこれぇ!」

落とされたネットの中であたしはもがいていると、

すると、

「やったわっ!」

「やったぁ!」

喜びに沸く声が響くと、

「変態力士、召し取ったりぃ!」

得意満面顔の恵の他、

白い道着姿の女子数人が姿を見せる。

「あっあなた達…

 どっどうして」

彼女達の姿を見ながらあたしは声を上げると、

道着に書かれている文字が目に飛び込んできた。

「空手?

 そっかまだ残っていたわね。

 空手同好会が!」

確かに部活は制圧したものの、

うちの学校には部に昇格されていない同好会と言うのが若干あることに気づいた。

そして恵はその同好会の一つである空手同好会と共同戦線を張っていたことに気づくと、

「ふふっ、

 ちょっと手違いで空手同好会の先輩達はまだここには来ていないけど、

 でも、あたし達で十分だったわね。

 いくら変態力士でもネットの中ではどうすることも出来ないでしょ。

 さてどうしようか」

そんなあたしを見下ろしながら恵は考える素振りを見せると、

「考えることなんてないわ、

 さっさとみんなを元の姿に戻させるのよ」

と恵に向かって女子が声を張り上げる。

それを聞いたあたしは

「ふふっ、

 これで罠に掛けたつもり?

 往生際が悪いわね」

と言い返すとネットの中から軍配を掲げ、

「はっけよぉーぃ」

と声を上げた。

すると、

「どすこいっ」

「どすこいっ」

ザザッ

ザザッ

稽古の掛け声が響き渡ると、

美紅を先頭に続々とマワシファイター達がすり足で入ってくる。

「なにっ!」

続々と姿を見せるマワシファイターを見て恵達は悲鳴を上げると、

「みんなっ、

 あなた達をそんな姿にした変態力士は捕まえたわ。

 正気に戻ってぇ!

 元の女の子に戻って!」

迫ってくるマワシファイター達に向かって恵は声を上げるが、

「どすこいっ」

「どすこいっ」

マワシファイター達にはその声に耳を傾けるわけでもなく、

恵やあたしの周囲をグルリと取り囲むと、

「ふんっ

 どすこいっ!」

「どすこぉいっ!」

「どすこぃいっ!」

その場でシコ踏みを始めだした。

「みんなっ

 お願いだからあたしの話を聞いてぇ!」

シコを踏むマワシファイター達に向かってなおも恵は悲鳴に似た声を上げていると、

「無駄よ、

 マワシファイターは横綱であるあたしの命令には絶対服従なの。

 さぁ、マワシファイター達よっ、

 この不届き者達を懲らしめてあげなさい」

ネットの中より脱出したあたしはそう言いながら軍配を恵達に向けると、

「ごっつぁんです…」

マワシファイター達は声をそろえて返事をし、

「どすこいっ」

「どすこいっ」

すり足で恵達へと近づき始めた。

「美紅…

 お願いだからあたしの話を聞いて、

 美紅っ

 あたしの声が聞こえないの?

 ちょっと、

 こっちに来ないで、

 いや、来るなぁぁ」

プルンと胸を露にして先頭に立つ美紅に向かって

恵は必死になって説得しようとしたものの、

しかし、美紅は耳を貸さず上体を倒して前屈みになるや、

一気に突進をしてきた。

そして、

「どすこいっ!」

と逆に恵を突き押してみせると、

「きゃぁ!」

強烈な突き押しを食らった恵の体は吹き飛び、

ドスンッ!

っと後方で尻餅をついてしまった。

「うふふっ、言ったでしょう。

 マワシファイターはあたしに絶対服従だって、

 さぁあなたも廻しを締めてマワシファイターとして奉納相撲に出なさい。

 これは横綱であるあたしの命令。

 そうだ、恵なら西の横綱にしてあげるわ」

体の痛みか蹲る恵に向かってあたしは冷たくそう告げると、

「どすこーぃ」

の掛け声ともに恵はマワシファイターたちに羽交い締めにされ、

無防備となった体をあたしにさらけ出す。

「やめてぇ!、

 お願いだからあたしの話を聞いて!

 悪いのはあたしじゃなくて目の前の変態力士よ!」

なおも恵は抵抗して見せると、

「ふふっ、

 無駄よ、

 無駄っ、

 そうれっ

 チェインジ・マワシファイター・ビートアップ!」

と声を張り上げて軍配を煽って見せると、

シュルンッ

再び布帯が軍配から伸び、

「いやぁぁぁぁ!!」

泣き叫ぶ恵の股間に容赦なく襲い掛かかると、

制服のスカートもろとも彼女の股間をきつく締め上げていく。

そして、きつく締め上げた後、

ボロッ!

まるで砂を崩すかのように恵の制服が崩れ、

白い肌が姿を見るや、

プルンッ!

形よい乳房が顔を出したのであった。

「あっあっあぁぁ」

裸に廻しを締めただけの姿になってしまった恵は顔を引きつらせるが、

そんな彼女にお構いなく廻しの淵よりサガリが下がると、

頭に髷が結われていく。

そして、

「ふんっ!

 くっ黒い廻しは…力士のシルシっ!

 うっ…

 あっ浴びせてどすこいっ…

 (ぱぁんっ!)

 マワシファイター・大恵力ぃ!」

マワシファイターに変身させられた恵が立ち上がると、

苦しそうに名乗りを上げてシコを踏んで見せた。

「あれ?

 マワシファイターに染まりきってない?」

言葉に切れが無く、

未だにあたしを睨み付けてみせる恵の姿を見てあたしは小首を傾げると、

「また菜摘と同じパターン?

 もぅ面倒臭いなぁ」

と小言を言呟き、

「悪いけどちょっと後回しにさせてもらうわ。

 先にこの子達を片づけさせて」

とあたしは恵に言うと震え上がっている空手同好会の女子を見据えた。

「ひぃ」

あたしから向けられた視線を受けて彼女達から小さな悲鳴が上がると、

「やっやめてぇ」

恵は廻しを締められた体を起こすと彼女達の前に立ちはだかり、

「まっマワシファイターはあたしで十分でしょう。

 この子達は解放してあげて」

と懇願してみせる。

「なにっ、

 マワシファイターの癖にあたしに説教?

 そこをどきなさい」

立ちはだかる恵に向かってあたしはそう命じるけど、

「いっいやよっ」

恵は髷を結う頭を横に振ってみせる。

「ふぅん

 このあたしに楯突く気?」

と恵に向かって問い尋ねると、

「うっうるさいっ

 この子達を解放するまで、

 絶対にここからどかないからね。

 どっどすこいっ!」

と言いながら恵は高く足を上げてシコを踏んで見せる。

「判ったわ、

 やはり恵を先に片づける必要があるわね」

恵を見つめながらあたしはそう呟くと、

「のこったぁ」

と掛け声を掛けながら

ブンッ

軍配を振って見せる。

すると、

ズゴゴゴゴゴゴ!!!

「え?

 わっわっ」

驚く恵を乗せるようにして土俵が持ち上がっていく。

「恵…ううん、マワシファイター・大恵力の為に土俵を作ってあげました。

 さぁ、マワシファイター達。

 大恵力を可愛がってあげなさい」

土俵上の恵を軍配で指してあたしは命じると、

「ごっつぁんですっ」

周囲を取り巻いていたマワシファイター達は一斉に返事をするや、

「どすこいっ」

「どすこいっ」

の掛け声と共に土俵へと上り、

瞬く間に恵を取り囲んでみせる。

そして、

「おっしゃ、三番相撲、

 始めっ」

あたしの声が響くのと同時に

「どすこぉぉぉぃっ!」

勇ましい声が上がると、

ズンッ!

大地を揺らすようにシコを踏み、

シコを踏み終えた者から容赦なく恵を相手に稽古を始めたのであった。



「どすこぉぃ!」

バシーン!

「どすこぉぃっ」

パンッ!

「どすこぉーいっ」

ドスンッ!

相撲部屋の稽古さながらの激しいぶつかり合いの音が響き、

その音共に恵は土俵に突っ伏させられたり、

転がされたり、

押し出されたりする。

そして、次第に彼女の体が砂にまみれ傷ついてゆくのを見ながら、

「恵ぃ、

 あなたマワシファイターでしょう。

 負けっぱなしでいいの?

 このままじゃFUKOだよ」

あたしはそう声を掛けたとき、

バシッ

ついに恵は飛び込んできたマワシファイターを受け止めてしまうと、

「うりゃぁぁぁぁぁ!!!」

の掛け声と共に土俵外へと押し出してみせる。

「おぉぉっ」

満身創痍の姿で1勝を勝ち取った恵の姿を見てあたしは驚きの声を上げると、

「はぁはぁ

 はぁはぁ

 ぱぁんっ

 次ぃ」

恵は乱れた髷に構わず廻しを叩き、

「どすこぉぉぃっ」

突撃してきたマワシファイターと見事な相撲を取ってみせる。

「あらら、

 やれば出来るじゃん。

 大恵山っ、お前は立派なマワシファイターだよ」

その姿を満足げに眺めながらあたしは声を上げると、

「はっ」

恵はいま自分が相撲に取ったことに気づいたのか、

その表情が大きく変わる。

すると、

「ほらほら、体を休めない。

 稽古、稽古」

とあたしは嗾けると、

「どすこーぃ」

控えていたマワシファイターたちが一斉に襲いかかる。

「恵は…もぅ十分にマワシファイターだよね。

 さぁ、次はあなた達の番よ」

そう言いながらあたしは改めて空手同好会の女子生徒たちへと視線を向けると、

「チェインジ・マワシファイター・ビートアップ!」

の掛け声と共に軍配を振って見せた。

「きゃぁぁぁぁ!!!」

悲鳴が周囲に響き渡り、

軍配から伸びる布帯は震え上がる女子生徒達へと突き進んでいく、

もはや逃れる術はなし。

「さっさとマワシファイターになってしまえ」

そうあたしが思ったそのとき、

いきなり空手着姿の女子2人がその間に割って入り、

「ていっ」

「せやっ」

の掛け声勇ましく布帯を叩き落としてみせる。

「誰?」

突然の展開にあたしは驚きの声を上げると、

「遅れてゴメンっ」

「ちょっとフンドシ連中の相手に手こずったもので」

女子生徒達に向かってそう事情を話したのは、

空手同好会の主催者である宮本静香他2名であった。

「せんぱぁいっ」

「遅かったですよ」

女子生徒達は泣きべそをかきながら静香に縋り寄ると、

「矢吹さんは?」

と恵のことを案じてみせる。

それを聞いたあたしは、

「あぁ、大恵山ならマワシファイターとして汗を流しているわ」

そう言いながら土俵上で大勢のマワシファイター達の相手をしている恵を指し示して見せる。

「なんてことを…」

髷を結い廻しを締めた姿で汗まみれ砂まみれになっている大恵山を哀れむようにして見つめた後、

スッ

あたしを指さすと、

「お前の野望。

 空手同好会の名に掛けて、

 あたし達がうち砕いてみせる」

と勇ましく宣言をし、

と同時に

「押忍っ」

他のメンバーも気合いを入れて見せる。

「あらら…

 なんかすっかり悪役になっているんですけど。

 でも、まっいいか、

 そう言うのって」

まさかの攻守逆転劇にも拘らずあたしは平然と答えると、

「おいっ」

静香は視線で下級生に命じるや、

「はいっ」

悲鳴を上げていたさっきまでとは打って変わって気合十分に土俵内へと割り込み、

「でやっ」

「はっ」

稽古中の美紅達マワシファイター達に襲いかかると、

空手技を駆使して土を付け始めた。

「あぁ!

 なんてことをしてくれるのよ!

 土俵に登るのなら廻しを締めなさいよ。

 それとちゃんと四八手で相撲を取りなさい!」

土を付けられた美紅の姿を見たあたしは大声で怒鳴ると、

「あははははは!!!

 バカ真面目に相撲ゴッコにつき合わう必要なんてないわ。

 あたし達はあたし達の方法で戦わせてもらうから」

と腰に手を当て胸を張って静香は言う。

「おのれぇ〜」

大事な稽古を邪魔されたあたしは瞳に闘志を燃やして静香を見据えると、

「おや、

 あたしと勝負をしようと言うの?

 うふふ。

 このあたしに勝てるかしら?」

と彼女は余裕の表情で返事をする。

「ふふっ

 あたしを舐めないで欲しいわね。

 言っておくけどこの廻しは伊達じゃないのよ」

と言いつつあたしは化粧廻しを剥ぎ取り、

ふんっ

ふんっ

四股を踏みつつ気合いを入れた後、

ゆっくりと土俵へと上っていく。

そして、

「さぁいらっしゃい」

廻しを叩きながら声をかけると、

「いいわ」

静香も追って土俵へと踏み入れた。

廻しと空手着が対峙し、

スッ!

あたしはゆっくりと拳を土俵に下ろすと、

スッ!

静香もまたゆっくりと構える。

一瞬の間合いを置いて、

タンッ!

あたしは拳を土俵につけると、

「うぉりゃぁぁぁ」

静香に向かって突進する。

そして彼女の空手着…いや、彼女が締めている黒帯めがけて手を伸ばすが、

「甘いわね、

 丸見えよ」

の一言が降りかかるや、

伸ばした手が彼女の手刀で弾かれ、

「お前もさっさと土を付けなさい!

 はっ!」

の声とともに強烈な一打があたしの左膝を直撃した。

「ぐぅぅぅ!!!」

熱湯を浴びたような激痛にあたしは歯を食いしばりつつも踏ん張ると、

「なに?

 耐えた?」

膝が折れなかったあたしに驚いている静香を見据えつつ、

「はっ!」

その顔にめがけて張り手をぶちかます。

そして、

パァンッ

パァンッ

パァンッ

立て続けに張り手をぶちかまし続けると、

「あぐっ」

今度は静香の方がよろめきだし、

そのまま

ドンッ!

と空手着の下履きが覆うお尻を土俵につけたのであった。

「しまった!」

相撲と空手の異種格闘は一瞬のうちに決着し、

自らが土を付けてしまったにとに静香は驚きと悔しそうな顔をしてみせる。

そして、

「なんのっ

 まだまだよ」

負けを認めようとせずに静香が立ち上がるのを見たあたしは素早く軍配を手に取り、

「これで終わりよっ、

 マワシファイター・ビートアップ!」

の掛け声とともにその軍配を一気に仰いで見せた。

すると、

シュルンッ

軍配から布束が一気に吹き出し、

一直線になって静香に襲い掛かった。

「いやぁぁぁぁ!!!」

静香の悲鳴が辺りに響き渡り、

ギュムッ!

彼女の股間を廻しが締めこんでいく。

「あぁぁぁぁ」

下穿きを食い破られるようにして股間を締めていく廻しの感覚に

顔色を真っ青にして静香は声を震わせると、

「ふふんっ、

 神聖なマワシの締め心地はどうかしら?

 身も心も引き締まる思いでしょう?」

とあたしはあざ笑うようにして彼女に向かって言う。

そして、土俵の上から残っている同好会員達を見下ろすと、

「さぁ、お前達もマワシファイターになりなさい」

そう言いながら

「マワシファイター・ビートアップ!」

と掛け声を上げ軍配を掲げてみせる。

すると、布束がいっせいに伸びるや、

「きゃぁぁぁぁ!!!」

「いやぁぁぁぁ!!!」

いくつもの悲鳴が響き渡って行ったのであった。



「これで、ジ・エンドね」

廻しを締められ、

屈辱と羞恥に打ち震える静香たち空手同好会員達を見下ろしながらあたしは腕を組むと、

「さぁ、美紅乃山っ

 この者たちに相撲の稽古をつけてあげなさい」

と美紅に向かって指示する。

すると、

「どすこぉいっ!」

先程のお返しとばかりに美紅が襲い掛かり、

「どすこい、

 どすこい、

 どすこぉいっ」

土煙を巻き上げながら、

美紅は猛然と静香達を相手に稽古をつけ、

「あぐっ」

「ひっ」

「うぐっ」

その猛攻に成す術もなく、

皆、美紅に突き飛ばされ、

投げ飛ばされ、

惨めな敗北をしたのであった。



「もういいでしょう」

砂だらけになった彼女達を見ながらあたしは止めると、

「さぁ、お前達っ、

 今からすり足で学校一周だよ。

 大恵山も付いていくのよ」

と命じてみせる。

そして、

「どすこいっ」

「どすこいっ」

美紅を先頭にして静香達は校舎内をすり足で歩き始めるが、

しかし、ところどころで、

美紅は動きを止めると、

パァンッ!

その場で拍手を打ち、

「よいしょっ」

「よいしょっ」

とシコを踏み始める。

すると、

静香達もそれにあわせてシコを踏むものの、

「ううっ」

「ちくしょうちくしょう」

涙を流しながらシコを踏んでいたのであった。

「ふふっ

 あたしに楯突いた度胸は買ってあげるわ」

その様子を満足げに見たあたしは腕を組み、

空手着の下から廻しを覗かせる静香を見下ろしてみせ、

そして、

「あーはっはっは、

 ぶわぁーはっはっは」

とあたしは高らかに笑い声を上げたのです。



つづく