風祭文庫・アスリート変身の館






「奉納相撲」
(第4話:佳苗のマワシ)


作・風祭玲

Vol.1006





「どすこいっ」

「どすこいっ

 どすこいっ」

遅い初夏の夕暮れ、

武道場や体育館から響いてくる相撲稽古の音を背景にして、

「ふぅ…

 残っているのは主に球技系や文化系だけど…

 みんな帰っちまったし、
 
 こっちは明日にするか」

マワシを締め腕を組むあたしは満足そうに頷くと、

「ごっつぁんですっ!」

これに応えるようにして

背後に立つマワシ姿の各部のキャプテン達は声を揃えて張り上げる。

「おやおや、

 すっかり力士気分だなお前達…」

腰に締められたマワシの力によって肉体どころか心まで力士に染め上げられた

キャプテンたちを横目で見ながらあたしはほくそ笑んで見せると、

『はぁいっ、

 その調子その調子』

成り行きを見守っていた相撲の神様はフワリとあたしの前に浮き上がり、

『全てはあなたに掛かっています。

 この調子で明日もよろしくお願いしますよぉ。

 明日は大払の日。

 奉納相撲本番ですからね』

と目を細めてあたしの両肩を叩いて見せる。

「任せろってぇ、

 なぁんだ相撲を取らせるって簡単なことだったじゃないか、

 変に悩んでいて損をしたぜ。

 こんなことだったら、

 明日、学校中の連中にマワシを締めさせて、

 盛大に奉納相撲を挙行することも出来るって

 ふふふっ見てろぉ

 この俺がみぃんなにマワシを締めさせて、

 くっさい精液を奉納してやるぜ」

男口調であたしはそう決意してみせると、

『そうです、もっと励んでください。

 あなた達が放つ”精”はわが主の糧となのです』

と神様は呟くが、

あたしにはその言葉の意味が理解出来ず、

「はぁ?

 何を言っているんだ神様?

 俺が判るように言えよ」

神様に向かってタメ口を叩く、

とその時、

「ちょっとぉ、

 そこの変態力士っ!」

聞き覚えのある声が響いた。

「この声は?」

響き渡った声を聞いてあたしは振り返ると、

「あなたねっ、

 みんなを相撲取りにして回っている変態力士は!」

ぴっちりとしたレスリング・ユニフォームを身につけ

怒り心頭顔の夏川弘美があたしを指差している。

「ん?

 弘美じゃないか?」

その姿を眺めつつあたしは彼女の名前を呼ぶと、

「あんたなんかにぃ

 気安く名前を呼ばれる筋合いは無いわ!!」

あたしに気づかないのか弘美はそう叫びながら、

「みんなを元に戻せぇ!

 この野郎!」

と殴りかかってきた。

けど、

「ふんっ」

あたしは弘美の拳を軽く避けてしまうと、

「昨日はソフトボール、今日はレスリング…

 そして、明日はボクシングかな?

 ホント、弘美って運動バカなんだな」

と軽蔑をした視線で彼女を見る。

「なっ、

 変態野郎にバカ呼ばわりされる謂れは無いわ」

あたしの言葉に怒りの炎をさらに燃やして弘美は殴りかかってくると、

「ふんっ、

 いくらスポーツ万能の弘美でも相撲は取ったことがないだろう?」

繰り出される拳をよけながらあたしはそう指摘した後、

軍配をマワシに挟み込むと、

パシッ!

左右それぞれの拳を受け止めてみせたのであった。

「なっ」

自分が放った放った拳が軽々と受け止められてしまったことに弘美は驚くと、

「ふふっ、

 格闘技も自在にこなす夏川弘美っ

 さぞかし強い力士になってくれるであろう。

 お前にはでっかいチンポが生えるように

 念入りにマワシを締めてあ・げ・る。

 どすこいっ」

そう声をかけつつあたしは声をかけた途端、

シュルンッ!

大勢の部員達にマワシを締めてきたあたしのマワシは前袋を解き弘美に襲い掛かる。

ところが、

「はっ」

「このぉ」

「こっちに来るんじゃねぇ!」

両手を封じられているにもかかわらず、

弘美は持ち前の身軽さを武器に襲い掛かるマワシを何度も蹴落としてしまうと、

マワシは弘美に近づくことが出来ず、

その周囲をウロウロと廻し始めた。

「まったく…

 往生際が悪い」

それを見たあたしは弘美の手を離し、

すかさず軍配を持ち替えると、

「はっけよぉーぃ」

と声を張り上げかけたとき、

「弘美ぃ」

「夏川さぁん」

の声と共に野原葵とテニス部顧問の新任教師・玉追久美が声を上げて校舎から出てくると、

こっちに向かって駆けて来るのが見えた。

「葵、

 玉追先生…」

テニス部の顧問をしながらも生徒会の活動に熱心で

生徒会と学校側との橋渡し役を引き受けてくれている玉追先生が葵と共に近づいてくる姿を見て

あたしはつい動きを止めてしまうと、

「スキあり!」

それを弘美は見逃さずすかさずあたしの腕を蹴り上げてきた。

バシッ!

「あっ」

カァンッ!

カラカラ…

弘美に蹴り上げられ、

手から離れた軍配が転がり落ちて行くと、

「おのれっ」

痛む腕を庇いつつあたしは軍配を拾い上げようとする。

だが、

「させるかっ」

落ちた軍配を拾い上げるべく弘美はダッシュで飛び出すと手を伸ばす。

しかし、

バチーン!

弘美の指先が軍配に触れようとしたその時、

まるで拒否をするかのように軍配は弘美の手を弾いてしまうと、

「痛ぅっ」

弘美は痛む手を庇いように蹲ってしまったのであった。

「弘美っ」

それを見たあたしは思わず声をかけると、

『ふふふっ、

 この軍配はわたしが許した者しか触れませんよ』

弘美の真上に浮かぶ神様が不機嫌そうな笑みを浮かべつつそう警告をし、

『さぁ、

 この無礼者にマワシを締めてお上げなさい。

 お前のような者は新弟子として徹底的に可愛がってもらいなさい』

とあたしに命じてきた。

「…いっ言われなくても判っている」

神様に向かってあたしはそう言い返した後、

「どすこぉぉぃっ」

と掛け声を上げつつ自分のマワシを叩こうとすると、

「…やめなさいっ!」

それを止めるかのように翠の声が響いた。

「翠?」

それを聞いたあたしは腕を止め辺りを見回すと、

『何をしているんです』

キョロキョロと周囲を見回すあたしに神様は苛立って見せるが、

しかし、

「翠…どこにいる?」

翠の事が気になるあたしは彼女の姿を求めて視線を動かしていた。

すると、

「どこの誰かは知りませんが、

 何でこんなことをするんです」

あたしの近くに来るなり、

厳しい表情の玉追先生は声を上げた。

「先生…」

ジッとあたしを睨み付ける先生の表情を見たあたしはついそう口走ってしまうと、

「気をつけて、

 こいつの他に目に見えない奴が近くにいるぞ」

と弘美が声を上げる。

「えぇ!

 透明人間さんがいるのですかぁ?」

それを聞いた葵が驚きの声を上げると、

『ふむ…』

話を聞いた神様は小さく頷き、

スッ

あたしの背後に立つなり、

『くくくっ

 はははは!!!』

と笑い始める。

すると

「はははは!!!」

それに併せてあたしは笑い声を上げてしまうと、

『「そう、

 わたしはお前達に相撲を取らせるためにこの地にやって来た」』

と神様と言葉を合わせながらあたしは玉追先生を指差す。

「えぇ!」

「あたし達に相撲を?」

『「そうだ。

  お前達はわたしが鬼を封じた恩を忘れ、

  奉納相撲を疎かにしている。

  だから、誰のおかげでいまの生活が出来るのかを思い知らせるため、

  こうして降臨したのだ」』

驚く3人に向かってあたしは神様は声を揃える。

そして、軍配を差し出しながら、

『「さぁ、我が弟子たちよ、

  この者たちを可愛がってあげなさい」』

とマワシ姿のキャプテン達に命じると、

「ごっつぁんですっ」

キャプテンたちは一斉に返事をし、

「どすこいっ!」

その掛け声と共にマワシ姿のキャプテンたちはマワシを叩いた後、

「どすこいっ」

「どすこいっ

 どすこいっ」

と掛け声を上げながらシコを踏み始める。

すると、

「どすこいっ」

「どすこいっ

 どすこいっ」

その声に応じるようにして、

体育館や武道館などからマワシを締めた剣道部や柔道部員達がゾロゾロと出てくると、

ザザッ

ザザッ

すり足の足音を響かせながら迫って来る。

だが、マワシの魔力による洗脳にばらつきがあるのか、

揺れる乳房を気にせずにすり足をする者も居れば、

恥ずかしげに顔を赤らめてすり足をする者も居る。

しかし、マワシを締め髷結う女力士達が迫ってくる光景に

弘美たちは何も出来ずに取り囲まれ追い詰められてしまうと

「みんなっ

 正気に戻ってぇ!」

「そんな格好をして恥ずかしくは無いの?

 馬鹿なことはやめなさい」

葵と玉追先生は迫る部員達に向かって声を張り上げる。

だが、

「どすこいっ」

「どすこいっ

 どすこいっ」

部員達は一切聞く耳を持たず、

なおもすり足をしつつその包囲網を狭めていくと、

「葵っ

 まともに話が通じる相手ではないわ」

説得しようとする二人に向かって見切りをつけた弘美は声を上げ、

「ここは逃げるのよっ!」

と叫ぶや、

「どけぇぇぇぇ!!!」

の声と共に包囲網の輪の中にですり足をしている一人の部員に飛び掛って行く。

その途端、

「ふんっ」

「どりゃぁぁぁ!!」

マワシを叩いた部員と弘美との相撲勝負が始まり、

持ち前の運動神経で弘美は部員を投げ飛ばしてしまうと、

「ここから…脱出よ」

と次々と部員を投げ飛ばして脱出路を作っていく。

『おやおや、

 なかなかの腕前ですね』

その光景を見ながら神様は驚いてみせると、

「夏川弘美…

 お前には絶対にマワシを締めさせてやる」

軍配を片手にあたしは呟き、

「お前達に命じるっ、

 これより各々の土俵に戻り、

 土俵上にて”精”を奉納するのだ」

部員達に向かってそう命じて立ち去っていく。

『よろしいのですか?

 あの者たちを放っておいて』

校舎に戻ったあたしに向かって神様は弘美たちのことを指摘すると、

「問題は無い。

 明日、学校の生徒を皆力士にしてしまえば良いのだろう?」

とあたしは返事をし生徒会長室のドアを開ける。

そして、

「翠っ、

 居るのか?」

と声をかけながら部屋の中を覗いてみたが、

しかし、翠の姿はそこにはなかった。

「翠?

 どこにいるんだ?」

消えた翠の姿を探してあたしは声を上げるけど、

けどいくら呼んでも探しても翠を見つけることは出来ず、

「まさか…先に帰ったのでは…」

一抹の不安を抱えながら、

「どすこいっ」

と軍配を振って見せると、

シュルンッ

たちまち腰に締められていたマワシは外れて、

巻き取られるようにして軍配の中へと吸い込まれていくと、

結い上げていた髷もほどけ、

あたしはマワシ姿の力士から元の生徒会長の姿へと戻っていく。

しかし、

「どうしよう…

 翠がみんなにあたしの正体をばらしてしまったら…」

最悪の事態を想像しつつ廊下に出たあたしは

窓の下に見える武道館へと視線を落とすと、

「どすこいっ、

 どすこいっ

 どすこいっ」

武道館やその周辺では各々の部活の部員達がマワシを外し、

掛け声を上げて股間を扱いている様子が見える。

「明日登校してきた子達は全員制服を脱がし。

 マワシを締め。

 髷を結わせる。

 でも翠は…

 とにかく彼女の家に行って…」

胸騒ぎを覚えつつ学校を飛び出したあたしは彼女の自宅へと向かっていくが、

「え?

 帰っていない?」

応対に出た翠の姉から彼女がまだ帰宅していないことを告げると、

「どこに行っちゃったのかしら」

日が落ちた街の中をあたしは翠を探しながら歩きはじめた。

と、その時、

「初音さぁん」

不意にあたしを呼ぶ声が響き渡った。

「あっあら、佳苗」

その声にあたしは立ち止まると、

手を振りながら駆け寄ってくる来る彼女の名前を呼んで見せる。

「いま帰りなのですか?」

ツインテールの髪を揺らせながら

駆け寄ってきた晴海佳苗は学校の制服ではなく私服である。

「えぇそうよ、

 そう言えば…朝、弘美からTVのお仕事があって休むって聞いたけど…」

佳苗を眺めながらあたしはそう尋ねると、

「えぇ…そうです。

 あっでも、お昼前には学校に着て午後の授業は受けました。

 そういえば葵さんや弘美さん達とは一緒ではないんですね。

 あたし、早く帰っちゃったので…」

と佳苗は遅れながらも登校したことを言う。

「あっそうなの」

その言葉を聞いてあたしは笑みを浮かべながらも、

そうか、先に帰ったのね。

だからあそこに居なかったのか。

と佳苗が葵達と共に騒ぎに巻き込まれていないことに納得をする。

ところが、

そんな佳苗の姿を見ているうちに、

”どすこぉぉぃっ!!”

あたしの脳裏に化粧マワシを締め髷結う佳苗が豪快に土俵入りする光景が浮かんだ。

ハッ

あまりもハッキリと浮かんだ佳苗の姿にあたしは驚いてしまうと、

「初音さん?」

とあたしの名前を呼ぶ声が響く。

「え?

 あっあぁ」

その声にあたしは我に返ると、

「そう言えば初音さん元気がないって…

 葵さん達が心配していましたが、

 お体の具合はいかがなんですか?」

と佳苗はあたしのことを案じてみせる。

「あっあぁ…

 大丈夫よ」

心配顔の佳苗に向かってあたしは両手を小さく左右に振って答えると、

「そうですか、

 それなら良いのですが」

あたしの答えを聞た彼女は胸をなで下ろす仕草を見せつつ安心してみせる。

「ところでその格好だけど、

 どこかに出かけるの?」

ちょっとそこまでお使い…

って感じではない佳苗の服装を見てあたしは尋ねると、

「えぇ、これからまた収録があるんです。

 だから今日は早く帰ったんですよ。

 そうだ、初音さん。

 驚いてください。

 今度の収録ではあたし文字通り体当たりのレポートをするんですよぉ」

と自信満々に彼女は言う。

「体当たり?」

その言葉を聞いてあたしは小首をかしげると、

「そうですっ、

 隣町にある金星部屋っていう相撲部屋にお邪魔しまして、

 丸一日、お相撲さん達と共に過ごすんですよぉ

 とっても楽しみなんですこの取材」

頬を紅潮させながら佳苗は取材の内容を話す。

「へぇ…相撲部屋に…」

彼女の口から出た”相撲”と言う単語を聞いた途端、

ピクリッ

あたしの股間が反応し、

と同時に、

『どすこぉぉいっ!』

と豪快に掛け声を上げるマワシ姿の佳苗がまた頭に浮かぶと、

「(ゴクリ)

 ねっねぇ、佳苗…

 相撲部屋に行くのはいいけど、

 あなたお相撲はとれるの?」

見る見るそそり立ってくるオチンチンを股で押さえながらあたしは尋ねる。

「え?

 お相撲ですか?

 それは無理ですよぉ、

 あっひょっとして

 あたしが褌締めてお相撲さん達と共に相撲を取るって思ちゃったんですか?

 いくら体当たりのレポートでもそんなことまではしませんよ。

 第一、あたし女の子ですし」

あたしの問いに佳苗はそう答えるが、

「…でも、例え一日とはいえども相撲部屋にお世話になるなら、

 お相撲もとれるようにしないといけないわ。

 それと締めるのは褌ではないわ。

 マワシと呼びなさい。

 お相撲さん達に失礼よ」

佳苗に向かってあたしは注意をしてみせる。

「はーぃ、

 でも、鷲羽さんは相撲を取ることまではしなくても良い。って言ったけどなぁ」

あたしの注意に頷きながらも彼女はマネージャからの言伝を呟くと、

「さてと…

 じゃぁちょっとお相撲の稽古でもしましょうか?」

佳苗の手を引いて通学路から外れたあたしは神社には戻らず、

近くの市営公園へと向かい始めた。

「あっちょっと、

 相撲の稽古って」

あたしの言葉にとまどう声を佳苗は上げるが、

ムクッ

スカートの前を持ち上げながらあたしは佳苗に構わず公園へと入り、

屋外にある野外土俵へと進んでいく。

「勝手に入っていいんですかぁ?」

不安そうに周囲を見ながら佳苗は尋ねると、

「大丈夫よ、

 この土俵を使い人なんて殆どいないし、

 それにこの時間ではフリーも同然」

とあたしは頷いてみせる。

すると、

「ところでお相撲の稽古って言いましたけど、

 初音さんはお相撲が出来るのですか?」

振り返りつつ佳苗はあたしを見ながら尋ねると、

「ふふっ、

 お相撲なんて簡単よ」

あたしは軍配を手にしながらそう呟く。

「あっそれって、

 お相撲の軍配ですね。

 初音さんがそう言うものを普段持ち歩いているなんて知りませんでした」

軍配を見た途端、

目を輝かせながら佳苗は軍配に手を伸ばしてみせると、

あたしは軍配を軽く振って拒否を示し、

「さぁ、土俵に登りなさい」

と香苗に指示をする。

「ちぇっ」

軍配にふれることが出来なかった佳苗は少しがっかりした面持ちで土俵に向かうと、

そのまま靴を履いたまま上がろうとする。

それを見た途端、

「お待ちなさい」

とあたしは声を上げた。

「なんです?」

あたしの言葉に上げかけた足を元に戻して佳苗はあたしを見ると、

「土俵にあがるには裸足になること、

 基本でしょう?」

とさりげなく注意する。

「あっそうでした」

その指摘に佳苗はペロッと小さく舌を出して自分の頭を叩き、

改めて靴を脱ぎ裸足になると、

「あっ初音さん。

 女の子が勝手に土俵に上がっちゃっても良いのですか?」

と聞き返してきた。

「えぇ…大丈夫よ」

その問いにあたしは笑みで答えると、

「はーぃ、

 うわっ、つめたぁーぃ、

 これが土俵なのですねぇ」

と土の感触を足の裏で感じながら佳苗は興味津々そうな声を上げる。

「えぇ…

 とても冷たくて、そして柔らかいでしょう」

ズルズルと軽く足を擦らせながら土俵上を動いていく佳苗の姿を横目で見ながら、

「どすこいっ」

あたしは手にした軍配を軽く振ってみせる。

その途端、

バッ

あたしが身につけていた制服はたちまちかき消えてしまうと、

シュルンッ!

裸体となったあたしの腰に無粋なマワシが絡まり締め上げていく、

そして、マワシの縁よりサガリが垂れ下がり、

ギュッ!

と頭に髷が結い上げられていく。

「はぁぁぁっ」

自分自身が力士になっていく感覚を体全体で感じた後、

「どすこいっ」

パァンッ!

力士姿に変身したあたしはかけ声高く足を上げてシコを踏み出すと、

「え?

 はっ初音さん?」

その声を聞いて振り返った香苗は驚きの声を上げた。

「ふふっ、

 あたしは初音力…

 春海佳苗っ、

 これから相撲部屋に行くお前が恥を掻かぬよう俺が相撲を仕込んでやる」

手にした軍配を佳苗に向けつつあたしは次第に口調を変えてそう言い放つと、

「どすこいっ」

とかけ声を上げながらマワシを叩いて見せる。

すると、

ぴくっ

マワシの前袋が蠢き始め、

シュルンッ!

たちまちマワシから外れてしまうと、

その先端が土俵上で呆気にとられる佳苗へと突き進んでいく、

そして、彼女のスカート下をくぐり抜け、

シュルシュルシュル

瞬くに腰に巻き付くや、

ギュッ!

と締め上げる。

「痛ぁぃ」

身につけていた私服をボロボロに崩しながら佳苗は悲鳴を上げ、

マワシが締め上げる股間に手を当てしゃがみ込んでしまうと、

ヒタっ

「どうした、佳苗山っ、

 しゃがみこんでは相撲が取れるか」

マワシを切り前袋を戻したあたしは佳苗に向かって声を上げる。

「そんなことを言っても、

 褌が食い込んで…」

締め上げられる股間の痛みを訴えると、

「褌ではない、マワシと呼べ、

 それにその痛みはまもなく変わる」

と腕を組みながらあたしは言う。

すると、

ビクッ

「あうっ」

オチンチンが生えたらしく佳苗は体を震わせ小さく声を上げた。

「チンポが生えた気分はどうだ?」

それを見たあたしは彼女の身に起きた変化を指摘すると、

「チンポっておっ男の人のオチンチンのこと?

 そんなぁ…

 あっあたしが男に?」

出来たばかりのマワシの膨らみをいじりながら佳苗は驚きの声を上げる。

「そうだ、

 女人禁制。

 土俵にのぼれるのは男のみ、

 故にお前は男になった。

 ほら、俺の体をよく見る」

驚く佳苗に向かってあたしはそう言うと、

組んでいた腕をおろし、

彼女に力士姿の自分を見せつける。

「はっ初音さん。

 その体ってまるで男の人の体じゃないですか」

あたしの体を眺めながら佳苗は驚くと、

「そうだ…

 見ての通り俺は相撲取り、初音力だ。

 ちゃぁんとチンポもついているぞ。

 さぁ、佳苗山っ、

 お前もチンポを生やしマワシを締めた以上、

 一人前の力士だ」

と言いながら、

土俵脇にあるテッポウ柱に向かうと、

パァン

パァン

と見せ付けるようにテッポウを打ち始める。

「こっこんな事になるなんて」

黙々とテッポウを打ち続けるあたしを佳苗は後悔する口調で言うが、

しかし、

「どうした、佳苗山っ、

 見てないで向こうの柱でテッポウを打たないか」

そんな佳苗に向かってあたしは声を上げると、

「うっ」

佳苗はあたしに背を向けて土俵向こうのテッポウ柱に向かって

ペチペチ

と頼りないテッポウを打ち始めた。

「腰が据わっていない」

「はっはいっ」

「もっと体をだせ」

「はっはいっ」

汗を流しテッポウを打つ佳苗はあたしの指摘に通りに体勢を変えていく、

「よーしっ、

 テッポウはもういい、

 シコを踏め、

 俺が手本を見せる。

 いいか、シコ踏み100回だ」

ハァハァ

と荒い息をする佳苗に向かってあたしはそう声を上げると、

パァン

露わになっている自分の尻を叩き、

「どすこぃっ」

と足を上げてシコを踏み始める。

そして、そのあたしの動きに佳苗もついていくと、

「どすこいっ」

「どすこいっ」

と二人声を合わせてシコ踏み続けた。



時は進み、

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

100回のシコ踏みを終えたあたしと佳苗は文字通り汗でずぶ濡れになり、

その流れる汗をマワシは吸い込み重くなっていく。

「よぉしっ

 どうだ佳苗山っ」

荒い息を吐きながらあたしは佳苗に感想を聞くと、

「はっはいっ、

 とっとっても気持ちいいです」

股間を締め付けるマワシの効能か、

少女の膨らみを見せる棟を臆することなくさらけ出して返事をする。

「そうか…

 だいぶ力士らしくなってきたぞ、

 よぉし、

 今度はすり足だ、

 俺がお前のマワシを押さえるからその姿勢で土俵を回れ」

佳苗の腰に締めている廻しに手を掛けると、

下に向かって力を入れる。

「うっ、

 重いですぅ」

押さえつけられる力に佳苗は悲鳴を上げるが、

「辛抱、我慢っ」

あたしはそう言いながら佳苗を後ろから押す。

ズズッ

ズズッ

すり足であたし達は土俵を何周も周り、

20回近く回ったところで、

「よぉし、

 すり足終わり、

 ぶつかり稽古だ
 
 さぁかかってこいっ

 可愛がってやるっ」

マワシから手を離したあたしは土俵の真ん中で胸を突き出し声を上げる。

「ごっごっつあんです」

これまでの稽古で力士の精神を植えつけられた佳苗は元気よく返事をすると、

「はっ」

パァンッ

待ちかまえてみせるあたしに渾身の力でぶつかってくる。

「はっなんのっ」

パァンッ

「まだまだぁ」

ズザザザ…

「うりゃぁ!」

激しいぶつかり稽古を行っているうちに

ツインテールだった佳苗の髪は気がつけば鬢付けの香りが漂う髷となり、

さらにマワシにはサガリも下がっている。

あたしとのこの稽古によって一人の力士が誕生しようとしていたのであった。

「はぁぁぁ〜っ

 どすこぉぉぉいっ」

ぶつかり稽古も終わりにさしかかったとき、

佳苗は強烈な張り手をあたしに食らわせると、

「おらおらおら」

一気に体を押し始める。

「くぅぅぅぅぅ」

勢いよく滑っていく足にあたしは焦りつつ腰を落とし、

ガッ

やっとの思いで俵に足をかけると、

「おりゃぁぁぁ!」

のかけ声と共にあたしは投げ技を打つ、

すると、

「あぁぁ」

どすんっ

声と共に佳苗は土俵の外へと投げ出され、

大きく尻餅をついてみせたのであった。

「勝負を掛けたつもりでしたが、

 負けてしまいましたね」

佳苗は潔く敗北を認めると、

「ふっ俺をここまで追い詰めるなんて、

 金星部屋でも恥を掻くことはない。

 よしっ、

 最後の仕上げだ。

 ここで”精”を奉納するのだ。

 どすこいっ」

そうあたしは命じると、

ハラリ…ストン!

と佳苗のマワシは落ち、

オチンチンが生える股間が露になる。

「あぁ…」

突然マワシが外れてしまったことに佳苗は頬を赤らめると、

「力士がそれくらいのことで恥ずかしがるなっ、

 さぁ、ここで己のチンポを扱き、

 ”精”を奉納するのだ」

とあたしは迫る。

「わっ判りました…」

迫るあたしに向かって佳苗は恥ずかしげに返事をすると、

土俵内で蹲踞すると並の大きさのオチンチンを手で包み、

シュシュッ

シュシュッ

っと扱き始める。

そして、

次第に手の動きを早めながら、

「あっあっあっ、

 なにかが出てきますっ、

 あぁっ、

 ダメです。

 そんなっ、

 もっもぅあたし…

 あぁぁぁ出るぅぅぅ」

顎を上げながら佳苗が訴えた直後、

シュシュシュシュッ…

弧を描くようにして佳苗は射精してみせる。

『おぉ、これこそ極上の”精”』

それを見た神様は興奮した声を上げ、

佳苗が出した精を全て闇の中へと吸い込ませていく。

「見事だ、

 さっこれを着て行ってこい」

射精を終えた佳苗に向かってあたしは浴衣を差し出すと、

「あっありがとうございます」

そう返事をしながら佳苗はマワシを締め直し浴衣を受け取る。

そして、

「あぁ、もぅこんな時間。

 では金星部屋に行ってきます。

 初音力っ

 ありがとうございました」

と浴衣を羽織ながらたしに向かって手を振り駆けだして行った。

「良いか、

 明日の夕方、

 奉納相撲を行う。

 それには参加するんだ」

去っていく佳苗の後ろ姿を見送りながらあたしは声を掛けると、

「判っています」

の声を残して佳苗は消えて行く。

『なかなかの力士振りですね。

 とても楽しみです』

とこれまで成り行きを見ていた相撲の神様が話しかけてくると、

「はい…

 明日の奉納相撲が楽しみです」

神様のその言葉にあたしは大きく頷くと、

パンッ!

腰に締めているマワシを力強く叩いて見せるが、

手がかりがつかめない翠のことを思うとあたしの心の中は晴れなかった。
 


つづく