風祭文庫・アスリート変身の館






「奉納相撲」
(第2話:マワシの魔力)


作・風祭玲

Vol.1004





月曜日の朝。

「いってきまーす」

制服に身を包んだあたしは普段と同じように学校へと続く坂道を降りて行く。

あたしが通う学校は神社の崖下に広がる沼ノ端女学園。

急な坂道一本降りていけばすぐに到着する見近い道のりだけど、

「はぁ…

 やっぱり夢ではないのか」

周囲の目を誤魔化すために詰め物をつめた胸、

土俵上で幾度も射精をさせられ、

未だにジンジンと痛むオチンチンの感覚を感じてしまうと、

次第にあたしの足取りは重くなっていく。

そして、

『…男根は担保ですよ。

 あなたが見事、この場にて百人相撲を奉納すれば男根を消し体は戻してあげましょう。

 しかし出来なければマワシを締め力士となってここで百番勝負を取ることになります…』

昨日、相撲の神様からいわれたその言葉があたしの頭の中を駆け巡っていくと、

「とはいってもねぇ…」

とあたしは呟いてみせる。

そう、あたしが通っている学校は女の子しか居ない女子校であり、

学校で奉納相撲をしてくれる人を100人も集めるなど最初から無理な話なのだ。

途方に暮れつつあたしは神社から伸びる坂道を降り切り、

学校へと向かう通学路に合流した途端、

「神無月さん。

 おはようございます」

制服姿の少女達が声をかけてきた。

「おっおはよう…」

彼女達の声に何事も無かったかのごとくあたしは返事をするが、

しかし、その声には力は無かった。

そんなあたしの声を悟ってか、

「?」

少女達は不思議そうな顔をしてみせると、

「!!っ、

 なっなんでもないわ、

 ちょっと考え事をしていたの」

あたしは慌てて尋ねられてもいない理由を言う。

そうあたしが女でないことを彼女達に悟られるわけには行かない。

軽く手を振って先を急ぐ少女達を見送った後、

「うっうん…

 男みたいな声になっていないみたいだし。

 大丈夫」

これ以上男性化が進んでいないかを確認するため、

喉に手を当ててあたしは歩いていくと、

『いまの方々は奉納相撲には出さないのでよろしいのですか?』

突然、あたしの声が別のところから響いた。

「いっ」

その声に驚いてあたしは振り返ると、

なんとあたしの斜め上の後ろで髷を結い、

力士が着る青染めの浴衣を羽織るもぅ一人のあたし…

そうあの相撲の神様が宙に浮いていたのだ。

「かっ神様っ

 何でこんなところに」

目を丸くして尋ねると、

『あなたがどうやって参加者を集めるのか、

 ちょっと興味がありましてね。

 こうして付いて来たまでです』

と神様は平然と答えてみせる。

「興味がって…

 それって思いっきり迷惑ですっ。

 付いてくるのは勝手ですが、

 神社を出ましたらあたしに話しかけないでください」

握った拳に力を込めてあたしは言い返した時、

「おはよう、

 初音」

不意にあたしの名前が呼ばれた。

ギクッ!

その声にあたしは顔を引きつらせると、

「おっおはよう、

 翠ぃ」

作り笑いをしながら返事をしてみせる。

秋山翠。

本が好きで小説家を目指している彼女はあたしにとって無二の親友。

「誰かと話しているの?」

あたしの周囲に目を配らせながら彼女はあたしを見るが、

彼女のその素振りからどうやら神様の姿が見えない事を悟ったあたしは

「え?

 いっいやなんでもない、

 なんでもないの

 ただの独り言」

冷や汗を掻きつつ返事をしてみせる。

すると、

「そうなの?

 てっきり誰かが居るのかと思ったわ」

と翠は不安そうにあたしを見つめた後、

「ねぇ初音。

 顔色が悪いみたいだけど、

 何か悩み事でもあるの?」

と心配そうに聞き返してきた。

「えっえぇ、

 さっきも言ったとおり、

 なんでもないし、

 大丈夫よ

 うん、本当に大丈夫なんだから」

彼女の不安を吹っ切ろうと、

あたしはわざとガッツポーズをしてみせる。

翠には言えない。

いまこの体が男になっていること、

そして、褌を締めて奉納相撲を取ってくれ。なんてこと。

「翠は論外よね…」

首を横に振りつつあたしは彼女を候補から消すと、

「おはよう、初音さぁん」

「おはようございます」

元気で明るい声が続いて響いた。

「あっあなたたち…」

野原葵と夏川弘美である。

彼女達は1年下の後輩で、

特に弘美は運動神経が良いために運動部から引っ張りだこ。

部室争奪球技大会で知り合いになって以来、

こうして挨拶を交わすようになったんだけど…

「あれ?

 佳苗はいないの?」

いつも彼女達とつるんでいる春海佳苗の姿が無いことを尋ねる。

「あぁ…佳苗はTVのお仕事」

と弘美は駆け出しアイドルでもある佳苗の事情を伝えると、

「そう…

 それは大変ね」

姿の無い彼女のことをあたしは労うが、

ふと頭の中に、マワシを締め土俵入りをしてみせる彼女の姿が思い浮かんだのだ。

「!!っ、

 何て事を考えるのっ」

即座にあたしはその光景を打ち消して見せると、

「?

 どうしたんです?」

それに気づいたのか弘美が話しかけてくる。

と同時に、

「ねぇ初音さん、

 なんかやつれているみたいだけど、

 大丈夫?」

と葵が心配そうに覗き込んできた。

「えぇ、なんか様子がおかしいの、

 あたしもそれを心配しているんだけど…」

それを聞いた翠は再び心配顔をしてみせると、

「だっ大丈夫よっ、

 さっ遅刻にならないうちにいきましょう」

これ以上詮索されないようにするためにあたしは声をあげるが、

あたしの頭の中にはマワシ姿になり汗だくで奉納相撲を取る彼女達の姿が

次々と浮かんでは消えていくのである。



「どうしちゃったのかしら、あたし」

洗面所で手を洗いながらあたしはそう呟いていた。

1時間目も

2時間目も

3時間目も

あたしの頭の中をクラスの女の子達が

マワシを締めて相撲を取る光景が次々と浮かんでは消えていく…

「なんでこんなことを考えるのあたしは…」

そんな妄想をする自分が次第に許せなくなってくると、

キッ!

あたしは後ろで浮かんでいる神様をにらみつけ、

「神様っ、

 あたしに何か変なことをしましたか?」

と問い尋ねる。

しかし、

ツンッ

朝の注意にへそを曲げてしまったのか神様は何も言わず、

ただ無言でフワフワと浮いているだけだった。

しかし

「もぅいい加減にして!!」

時間が経つごとにさらに褌姿の女の子達で埋め尽くされていく自分の頭の様子に

髪の毛を掻き毟りながらあたしはつい怒鳴り声をあげてしまうと、
 
「初音っ!」

翠の声が響き、

あたしの体が大きく揺すられた。

「え?」

彼女のその声に我に返ると、

「…………」

あたしは一人自席から立っていて、

クラス中の視線を一身に浴びていた。

「どっどうした。

 神無月…」

教壇に立つ教師が心配そうに話しかけてくると、

「え?

 あっいえ、なんでも、

 なんでもないです」

顔を真っ赤にしてあたしは返事をし、

ストン

と座ってみせる。

ところが、

「先生っ」

今度は翠が声を上げ、

「神無月さん、

 ちょっと熱っぽいみたいですので保健室に連れて行ってもいいですか」

と問い尋ねたのであった。



ガラッ

閉じていた教室のドアが開けられると、

「痛い、

 手を離して、

 大丈夫だって」

必死に断るあたしの手を引いて翠は飛び出してくる。

すると、

「初音っ

 あなたは疲れているのっ、

 保健室でゆっくり休むのっ」

と彼女は振り返らずに言い、

そのまま引きずられるようにしてあたしは保健室へと連れ込まれる。

「過労。

 睡眠不足。

 自律神経も失調しておるようじゃし、

 顔色も悪い。

 心身共にボロボロじゃ、

 どうした。生徒会長職がそんなにキツイか、

 悩みを抱えているのなら聞いても良いぞ」

白衣の保健医は冗談交じりに尋ねてくると、

「えぇまぁ…」

あたしは視線を落としてみせる。

すると、

「どれ、胸を出してみろ、

 風邪をこじらせていないか診てやろう」

聴診器を耳につけながら保険医はそう指示してくると、

「!!っ、

 いえっそれは結構です」

その言葉に驚いたあたしは胸に手を押し付けて断ろうとするが、

グッ

あたしの両肩を翠が抑えてしまうと、

「初音っ、

 あなた何を隠しているの?」

と問い尋ねてきた。

「翠っ」

じっとあたしを見据える翠の視線にあたしは耐え切れなくなってくると、

「ごめんっ!」

そう声を上げて彼女を突き飛ばし、

あたしは保健室から駆け出していく。



だめっ、

翠にはこんな体、見られたくない。

男にされ、

さらに土俵の上で精を捧げてしまった自分の体を恥じながら

あたしは廊下を駆け抜けていくと、

バンッ!

この時間無人になっている生徒会長室へと駆け込みドアに鍵をかける。

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

詰め物で膨らませた胸をずり落としながらあたしは肩で息をしていると、

『ふふふっ、

 辛いですか?

 苦しいですか?』

これまで黙っていた神様が閉じたドアからすり抜け話しかけてきた。

「神様っ、

 お願いですっ

 この体を元に戻してください。

 これ以上、翠たちにウソをつくのが辛いんです」

あたしを同じ姿の神様に向かって跪きながらあたしは訴えるが、

『昨日、あたなはわたしになんて言いましたか?』

と神様はすまし顔で問い尋ねる。

「それは…」

その問いかけにあたしは窮してしまうと、

『100人なんて簡単に集められる。

 っておっしゃいましたよね。

 さぁ、その言葉通り、

 100人集めてもらいましょうか』

額同士をくつけるようにして神様はあたしに迫る。

「そっそれは…」

迫る神様にあたしは困惑して見せると、

ドンドンドン!

「初音っ

 そこに居るんでしょう、

 このドアを開けて」

とドアの向こうから翠の声が響く。

「翠…」

彼女の声にあたしは振り返ると、

『ほぉ、

 よほどあなたのことを心配しているみたいですね。

 いかがです?

 彼女に奉納相撲に出てもらうよう頼んでみては?』

それを聞いた神様はドアに視線を送りながら言う。

「翠を巻き込まないで」

神様に向かってあたしはつい怒鳴ってしまうと、

『ふふっ』

神様は笑みを見せつつ浴衣の懐から軍配を取り出し、

『どすこいっ』

と小さく声をかけながらその軍配を軽く振ってみせると、

バンッ

鍵をかけていたはずのドアがひとりでに開き、

ドア向こうに立つ翠が姿を見せた。

その途端、

「!!っ」

翠は驚いた表情を見せると口に手を当て、

「なにこれ…

 初音が二人いる?」

呟いてみせる。

『はじめまして秋山翠さぁん。

 神無月初音さんの姿と声をお借りしていますが、

 わたくし、彼女のお社に奉られております相撲の神様です。

 どすこいっ』

そんな翠に向かって神様は自己紹介し、

浴衣下の黒いマワシを叩いてみせる。

「相撲の神様?

 それでそんな格好をしているの?」

あたしの姿ながらマワシを締め、浴衣を羽織り、髷を結う神様に向かって翠は聞き返すと。

『はぁぃ、

 実は初音さんよりあなた様にお願いがあるそうです』

と神様は返事をした後そう続ける。

「初音からのお願いって」

それを聞いた翠はあたしを見ると、

「だめよ、翠っ、

 この話は無かったことにして」

とっさに首を振りあたしは声を上げる。

しかし、

『おやぁ、よろしいのですかぁ?

 彼女が奉納相撲に参加していただければ、

 あなたのご負担が軽くなるのでしょう』

神様はそう言いながら翠を見る。

「それは…」

その言葉にまたしてもあたしは声を詰まらせると、

「初音…

 相撲ってなに?

 負担ってどういうことなの?

 まさかこのことで悩んでいたの?」

と翠は話しかけてくる。

「うっ」

自分のことを心配してくれる彼女の言葉一つ一つが胸に突き刺さり、

ついに耐えられなくなったあたしは拳を握ると、

「それだけじゃないのっ!」

と声を上げてしまった。

「それだけじゃないって…」

あたしの口から出た言葉に翠は驚いてみせると、

しまった…

彼女のその表情を見た途端後悔をしたけど、

もぅこうなっては仕方が無い。

翠の前に立ったあたしは

「あっあたし、

 相撲を取らなくっちゃいけないの。

 神様っ、

 ぼさっと見てないであたしをさっさと相撲取りにしてよ」

振り返らずに神様に言う。

すると、

『ほほぉ、

 自らマワシを締めたいと申しますか。

 関心関心、

 それではご希望通りに…

 そうれっ、どすこいっ』

と神様は言い、

バッ

軍配を掲げると掛け声とともに仰いでみせた。

その途端、

ブワッ!

生徒会長室のイスや机が崩れるようにして消えてしまうと、

ズゴゴゴゴ

代わりに土色の土俵が床からせり上がってくる。

「そんな…」

見る間に相撲の稽古場のような佇まいになっていく部屋の様子に翠のみならず、

あたしも驚いて見せると、

シュルンッ!

今度はあたしが着ていた制服も崩れるようにして消えてしまい、

詰め物をつめて誤魔化していた平たい胸が露になると、

さらに股間からオチンチンがプルンと飛び出してみせる。

「初音っ!

 それって」

女性のものではないあたしの胸と股間を見て翠は声を上げるが、

「翠っごめんなさい。

 見ての通り、

 あたし、もぅ女の子じゃないの、

 土俵の上で精を捧げる相撲取りなの…」

と顔を伏せながら言うと、

ギュッ!

ビシッ!

あたしの股間を無粋な黒マワシが締め込まれ、

マワシの下からサガリが下がっていく、

そして、さらに頭に髷が結われていくと、

「はっ、

 どすこいっ!」

と声を上げてあたしは腰をかがめ足を高く上げると、

翠に向かってシコを踏んでみせたのでした。

「そんな、

 そんな!

 初音がお相撲さんに…」

力士となったあたしの姿を見て翠は悲鳴を上げてしまうと、

『ふふふっ、

 力士と呼ぶにはまだまだですが、

 さぁ、次はあなたの番です』

そう言いつつ神様は軍配の矛先を翠へと向ける。

「だめっ」

それを見たあたしは即座に翠を突き飛ばして神様の前に立ちはだかると、

『ほぉ』

神様は感心した表情をみせる。

そして、

『あなたがわたしのお相手をしてくださるのですね』

と言うなり羽織っていた浴衣を剥ぎ取ってマワシ一本の姿になり、

パァン

マワシを叩いた後に大きく片足を上げて、

ズンッ!

勢い良くシコを踏んで見せる。

ところが、

ガタタタタ…

神様が足を下ろした途端

校舎が音を立てて揺れたのであった。

「うっそぉ」

あたしと同じ体格で華奢な姿のはずの神様が引き起こした揺れに驚き、

「こっこんなところで本当に相撲を取ったら校舎が壊れてしまう…」

とっさにそう考えると、

「待って、

 判ったわ。

 いっいまから人を集めに行くから、

 ここでシコを踏むのはやめてください、

 相撲はあたしの神社で取りましょう」

と神様に懇願する。

『おやおやぁ、

 てっきりここで奉納相撲ができると思いましたが、

 出来ないのですかぁ?』

それを聞いた神様はガッカリした表情を見せた後、

『それではまずこの者を力士に…』

と言いながら軍配を突き飛ばされ気を失っている翠に向ける。

すると、

「かっ彼女は文化系よっ、

 運動なんて苦手なのっ

 すっ相撲を取るなら運動神経がいい体育系にお願いするのが早いでしょう』

とあたしは声を上げた。

『ふむ、

 確かに…』

それを聞いた神様は考える素振りをした後、

笑みを浮かべると、

『それでは、参りましょうか』

と嬉しそうに言う。

「判ったわ、

 判ったから、

 この格好を戻してよ」

小さく舌打ちをしながら、

あたしは腰に締められたマワシを指差すが、

『何を言うのです?

 いまのあなたは立派な力士。

 その姿を解くわけにはいきません。

 さぁ参りましょうか』

と神様は言うやあたしの背中をトンと押してみせると、

キーンコーン!

授業の終わりと部活動の始まりを告げるチャイムが静かに鳴り響いたのであった。



『さぁ、どうなさったのです?

 参りましょう』

チャイムが鳴り終わっても動こうとしないあたしに神様は迫ると、

「……くっ」

歯を食いしばりつつあたしは廊下に出る。

幸い廊下には人影がどこにも無く、

それを見届けた後、

ホッ

と胸を撫で下ろしつつ

ヒタ

あたしはマワシ姿のまま第一歩を踏み出した。

人影が無い廊下をマワシ姿のあたしとあたしと同じ姿をした神様は音も無く移動していく、

すると、

『おやぁ』

いきなり声がかけられると、

『なぜ、人の居ないところばかりいくのです』

と神様はあたしに質問をしてきた。

「…くっ鋭い」

さすが神様だけのことはある。

歩みを止めたあたしは振り返ると、

「相撲を取るって言っても、

 体育系なら誰でもいいって訳ではないでしょう?」

と聞き返すと、

『んーんっ、確かに…』

言われた神様は考える素振りを見せ、

『判かりました。

 あなたが推挙するものが居ると言うのなら、

 その者の所に参りましょう』

と言う。

「あっありがとう…」

あっさりと神様が引き下がったことに礼を言いつつ

ヒタヒタとあたしは廊下を進んでいく。

はっきり言ってこんな格好、

もぅ他の誰にも見られたくは無い。

容姿端麗、

成績優秀、

スポーツ万能の生徒会長がこともあろうか男の体になり、

さらにマワシを締め髷結う力士になっているのである。

翠以外に見せられるわけではないのである。

けど…

トクン…

なぜか知らないけど…

トクン…

ガラスに映る力士となった自分の姿を見ているうちに、

あたしの胸の奥に黒いモヤのようなものが湧き上がってくると、

次第に気持ちが昂ぶってくる。

「何かしら…この昂ぶる気持ち…

 あたし、こんな姿にされているのに…

 でっでも…

 取りたい…

 お相撲を取りたい…」

昂ぶる気持ちに耐え切れず思わず立ち止まってしまったあたしは、

「どすこいっ」

「どすこいっ」

と声を上げてシコを踏んでしまうと、

その場ですり足、

さらに壁を相手にテッポウをはじめだす。

『おやおや、

 昂ぶる気持ちに耐えられず、

 相撲の稽古ですか。

 関心関心、

 それでこそ力士と言うものです』

体中から汗を滴らせながら一人稽古をするあたしを見ながら神様は感心して見せたのち、

その視線を外へと動かしていくと、

『奉納相撲では土俵入りをしなくてはなりません。

 そして、土俵入りの前には弓取り式…

 そう、弓取りを行うものが居ないなりませんね』

と呟いてみせる。

「え?

 弓?

 確かに弓取り式は大事な儀式…」

再びシコを踏んでいたあたしは足を止めてそう返事をしながら振り返ると、

『そうです、弓取りの者がいります…参りましょう』

神様はカッと目を見開き、

その目であたしを見据えながらそう囁いてみせる。

それを見た途端、

ドクン!

あたしの胸は大きく高鳴り、

胸の奥で湧き上がっていた黒いモヤは堰を切ったようにあたしの心を覆っていく、

そして、

ムクムクムク!!!

心を覆っていく黒いモヤと歩調を合わせるように、

マワシに押さえつけられているオチンチンが硬く痛くなってきた。

「うっ、

 オチンチンが…」

射精の痛みを尾を引きながらも硬く痛くなってくるオチンチンの感覚に

あたしは思わず股間を押さえ込んで中腰になってしまうと、

『どうされました?』

と神様は問い尋ねる。

「なっなんでもありません」

その問いにあたしはそう返事をすると体を紅潮させたまま弓道場へと向かっていく、

そして、

バンッ!

閉じられていた弓道場のドアを思いっきり開けながら、

「たのもうっ!」

勇ましく声を張り上げてしまったのであった。



「え?」

弓道場に居たのは弓道部のキャプテン・弓長菜摘ただ一人であった。

「だっ誰です、あなたは?」

弓道着姿で弓道部の稽古後の片づけを一人でしていた菜摘は

弓道場に乗り込んできたのが生徒会長であることに気がつかないらしく、

菜摘は目を丸くして問いかけてくる。

あっあたしに気づいていない…

彼女の表情からそれを読み取ったあたしはさらに気持ちが大きくなり、

「『弓道部キャプテン・弓長菜摘っ、

 お前を奉納相撲の弓取り役に任ずる。

 いざ勝負っ』」

横に立つ神様の声に併せるようにして声をあげ、

パァン!

締めていた黒マワシを叩いて見せる。

「?

 相撲?

 あたしがですか?」

あたしが言った言葉が理解できないのか菜摘はキョトンとして見せると、

『のこったぁ』

と神様は軍配を振ってみせた。

すると、

ズズズズズズッ

木張りの弓道場の床に土俵がせり出してくると、

「なっなにこれぇ?」

磨き上げられてきた弓道場に突如土俵が出てきたことに菜摘は驚き、

唖然として見せた。

「『ははは、

 土俵に決まっているだろう。

 さぁ、お前もマワシを締めろ、

 マワシを締めてここであたしを勝負をするのだ。

 それ、どすこいっ』」

驚く菜摘に向かってあたしは締めていたマワシを再度叩くと、

シュルンッ

マワシの前袋が解かれて伸び、

「あぁっ」

菜摘の股間へと巻きついていく、

そして、

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

弓道着をボロボロに崩しながら

ギシッ

マワシが彼女の股間を締め上げたとき、

「うっ」

菜摘は体を硬直させると、

その股間にオチンチンが生えたのであった。



「いやだ、

 なにこれぇ」

プルン

と形の良い胸を震わせながら、

マワシの中でその存在を誇示し始めたオチンチンの感覚に菜摘は困惑して見せると、

「さぁさぁさぁ、

 男なら女人禁制の土俵に登ることができるぞ、

 相撲を取ろうか」

と座り込む菜摘を見下ろしてあたしは言う。

すると、

「お相撲なんてとれませんっ」

泣きべそをかきながら菜摘はそう訴えるが、

笑みを見せつつあたしは菜摘のマワシの結び目に手をかけると、

彼女を無理やり土俵の中へと放り込んでみせる。

「痛ぁい」

土俵に放り込まれた菜摘が痛そうに腰を摩って見せると、

追って土俵に上ったあたしは菜摘の前で腰を落とし、

パンッ

と拍手を打ってみせ、

『見合って見合って

 はっけよーぃ!』

それを見た神様は蹲踞するあたしと菜摘の間に割って入り、

腰を上げてゆっくりと構えるあたしの前に軍配を掲げて見せる。

しかし、相変わらず神様が見えない菜摘は

「イヤですっ」

なおも構える素振りを見せないと、

『ここまで用意しても相撲を取らないのなら構いません。

 思いっきり行ってください』

と神様はあたしに言い、

『のこったぁ!』

の声と共に軍配が上がった。

それを合図に、

トンッ!

あたしは床を叩き菜摘に向かって突進していくと、

「ひっ」

逃げようと腰を上げかけた菜摘のマワシに手をかける。

そして、

『うらぁ!』

の声と共に彼女を軽く投げ飛ばそうとするが、

しかし、

ズンッ!

どういうわけかまるで石のごとく菜摘の体は重く、

簡単に投げることなど出来なかったのであった。

それどころか、

『えいっ』

突然菜摘は体勢を変えると彼女の腕があたしのマワシを取り、

今度は菜摘があたしを投げ技を仕掛けてきた。

『そんな…』

思いもよらない菜摘の反撃にあたしは驚くと、

『残った残った。

 ははは、

 相撲は両者拮抗ほど面白いものはないですねぇ』

と菜摘の背後に立ち、

さらに彼女の肩に手をかけている神様の声が響く。

「いやだ、

 なんであたしがお相撲を…

 誰?

 誰かがあたしの中からあたしを動かしている…

 やっやめてぇ」

神様に操られていることに気づいたのか、

菜摘は困惑した口調で訴えると、

『そんな…神様が菜摘の見方をしているの』

菜摘に肩入れする神様の態度にあたしは腹立たしさを感じたとき、

ドクンっ

胸の鼓動と共にオチンチンが硬くなると体中に力が漲ってきた。

そして、

ガシッ!

『くぅおぉのぉ、

 神様なんてぇぇぇ!!!

 うりゃぁぁぁ』

菜摘のマワシをしっかりと持ったあたしは自分のマワシを握る彼女の手を切り、

顔をパンパンに張って持ち上げようとする。

『なんと』

あたしのその反撃に神様は驚くと、

『ぐっ

 ぐっ

 ぐぐぐぐ…』

菜摘の体がゆっくりと持ち上がり、

『だぁぁぁ!』

ついにあたしの絶叫と共に

ドスンッ!

弓道場に菜摘の体が落ちる音を響かせたのであった。

『初音力ぃぃ〜っ』

神様の勝ち名乗りを聞きつつ、

ハァハァ

ハァハァ

あたしは肩で息をしていると、

ドロ…

マワシに締めこまれたオチンチンの周囲が生暖かい精に包まれていくのを感じる。

そう、この取り組みの中であたしは射精をしてしまったのだ。

「こっこれが相撲なの…」

先ほどの腹ただしさも忘れて快感を味わっていると、

『ほぉーっ、

 あなたはわたしにも勝ってしまったわけですね、

 いやぁ天晴れ天晴れ』

そう言いながら神様は嬉しそうにあたしの肩を叩いて見せ、

「はぁぁ…

 なんだかとっても気持ち良い…」

あたしは次第にその感覚に酔いしれていく。

そして、

「はぁぁ…

 もっと…もっと相撲をとりたい、

 もっと…精を出したい…

 あぁその為には相撲を取ってくれる仲間を集めないと」

そう呟きながら、

「どすこいっ」

声を張り上げてあたしは一人シコを踏み続ける。



つづく