風祭文庫・アスリート変身の館






「螺旋」
(第6話:放課後の事件)


作・風祭玲

Vol.1042





・・・・・・・・・・

その事件が起きたのは梅雨も晴れ間が広がった夕方のことでした。

当時高校1年生だったわたし・日進雪乃は

姉のように慕っていた1つ上の上級生・的場彩(…後のAYA)とともに

生徒会の活動をしていて、毎日忙しい日々をすごしていたのです。

「あのぅ…彩様。

 今日、神無月会長はどうして会議に出席しなかったのでしょうか」

久方ぶりとなる夕日を浴びながら、

わたしは生徒会長である神無月初音が生徒会の会議に姿を見せなかったことを尋ねると、

「そうですわねぇ…」

わたしとともに会議室で出た彩様は考える素振りをして見せ、

「何か急な用事があったかもしれませんね。

 幸い今日の議題は会長の判断を仰ぐ必要の無いものでしたし、

 明日、理由を聞きましょう」

と笑顔で答えてくれました。

「そうですか…」

ずっと抱えていた胸の支えが取れた気持ちと、

これまで会議を欠席しなかった会長が会議に欠席をしたことへの一抹不安を感じつつ、

わたしはそう返事をすると、

「ねぇ…雪乃さん。

 なにか騒がしくなくて?」

不意に立ち止まった彩様が耳を澄ますような仕草をしつつ、

わたしに話しかけてきました。

「え?

 そうですか?」

返事をしながらわたしも聞き耳を立ててみますと、

確かに校庭の方より一糸乱れぬ掛け声のような声が響いてきます。

「校庭の方ですわ。

 なんでしょう。

 なにか怖いです」

この学校ではまず起こりえない異常事態が発生しているのがすぐに判ると、

わたしは身を小さく構えて震えだしてしまいました。

すると、彩様はそんなわたしの気持ちを落ち着かせようとしたのか

右の肩に自分の手を載せ、

「大丈夫ですよ」

とにこやかに笑って見せたのです。

「はっはいっ」

彩様の笑顔と言葉に元気付けられたわたしは勇気百倍で返事をしますと、

響いてくる掛け声は次第に明瞭になり、

「…どすこい…どすこい…」

と聞こえてきたのでした。

「あの…彩様。

 どすこい…どすこい…

 って聞こえますが」

それを聞いたわたしは再び彩様に向かって話しかけると、

「どすこい?

 これってまさか…お相撲?」

同時に彩様の耳にもその声が届いたらしく、

突然、わたしを置いて廊下を小走りに走り始めたのです。

「しっ彩様ぁ?」

廊下を駆けることは校則で禁じられています。

日ごろからどんなに些細なことでも校則を破ったことがなかった彩様が

廊下を走り始めたことにわたしは驚きながらも、

その後をその追いかけていきます。



「彩様ぁ、

 待って下さい!」

ハァハァ

息を切らせながら走る彩様を追い駆けていくうちに、

「どすこいっ!」

「どすこぃっ!」

響いてくる掛け声はどんどんと大きくなっていきます。

そして、階段を駆け下り、

正面玄関口より表に出た途端、

わたしと彩様の目の前には信じられない光景が広がっていたのでした。

「どすこいっ!」

「どすこいっ!」

「どすこいっ!」

「どすこいっ!」

広い校庭を埋め尽くす裸体にフンドシを締めただけの女子生徒たちが

腰を落とし、引いた腕を交互に突き出しながら行進をしていたのです。

「なっなにこれ…」

衝撃の光景を眺めながらわたしは呆気にとられていると、

「そんな…みんな…お相撲さんになっている…」

わたしの横で彩様は呆然と呟きます。

「みんな…どうしちゃったの…」

目を見開いてとてもこの世のものとは思えない光景をわたしは見ていますと、

行列の中に見知った顔が幾人もありました。

間違いありません。

同じクラスの女の子です。

「!!っ」

それを見つけた途端、

わたしは飛び出そうとしましたが、

「出てはダメ、

 こっちに来るのです」

咄嗟に彩様はわたしの腕を掴むと、

そのまま物陰へと引っ張っていきます。

「離してくださいっ、彩様っ

 わたしのクラスの子がいるんですっ」

半泣きになりながらわたしは抵抗をすると、

ピシャッ!

彩様の手がわたしの頬を叩き、

「落ち着きなさいっ!」

と怒鳴り声が響いたのでした。



「しっ彩様…」

熱を持った頬を押さえながらわたしは彩様を見つめますと、

「よく見るのです。

 お相撲さんになってしまった女の子は他にも大勢います。

 あなた一人が飛び出してもどうにもならないのです。

 まずは、原因を調べないと…」

と彩様は自分の胸を手で押さえながら諭したのでした。

「彩様…」

その時、わたしは彩様の凛々しいお姿に感激するのと同時に、

強い恋心を持ってしまったのです。

思えば…それがいまわたしが置かれている状況へと繋がったのでしょうけど…

「それにしても

 これって何事ですか?」

「ごめんなさい、

 わたしにもさっぱりわかりません」

わたしの質問に彩様はそう答えますが、

その時の彩様はなぜか頬を赤らめ瞳は潤んでいました。

そして、

「お相撲さん…」

と恋焦がれるような声で呟いたのです。

「彩様ぁ?」

そんな彩様の姿に不安を覚えつつ話しかけると、

ハッ

彩様は我に返り、

「とっとにかく、

 ここから離れましょう」

とわたしに言って

そのまま玄関に戻ると、

校舎の中を反対側へと抜けて行きます。

彩様が向かっているのは学校の北側にある裏門であることは明白です。

「彩様、

 わたくし、カバンを教室に置いたままですが、

 それに先生方にこのことを報告しなくても良いのですか?」

裏門へと急ぐ彩様に向かってわたしは話しかけますが、

「おそらく無駄でしょう…」

そう返事をするとわたしの手を引いて行きます。

そして裏門にたどり着き閉じられている柵扉に彩様が手を掛けたとき、

「奉納相撲に出ようとしない悪い子、

 みぃーつけたぁ」

と女の子の声が響いたのでした。

「え?」

その声に彩様とわたしは振り返りますと、

ニィ…

夕焼け空をバックにして人影が立っていました。

「だっ誰ですか?」

人影に向かってわたしは声を上げますが、

立ち位置の関係で逆光になってしまい人相まではよく判りません。

ただ、背の高さと声から女性…わたし達と同じくらいの年齢の女性であることと、

彼女が着ている服は制服とは違う浴衣のようなものであり、

さらに纏め上げられた頭には時代劇などで見る丁髷が結ってありました。

「なっなんです…その格好は!!

 あなた、この学校の生徒ですか?」

人影に向かって彩様が叫びますと、

「わたしは…神…相撲の神。

 ふふふ…

 この学校の者たちはみなマワシを締め奉納相撲に出ることになった。

 さぁお前たちもマワシを締め奉納相撲に出るがよい」

と人影は手にしたいるもので自分の肩を叩きながら返事をします。

「彩様…

 この人、おかしいです」

人影の異様な姿に怯えたわたしはスグに彩様の後ろに隠れますと、

「あなたねっ、

 この学校の子をおかしくしたのは」

と彩様は人影に向かって声を上げたのです。

「それって本当ですか?」

それを聞いたわたしは彩様に確かめますと、

「よく見なさい、

 あの子が手にしているのは相撲の軍配。

 頭には相撲力士の髷を結い、

 着ているのは同じく相撲力士が身に着けている藍染の浴衣」

と指摘してゆきます。

「でも、それだけで犯人って言い切るのは…」

ただのコスプレイヤーの可能性が頭をよぎっていたわたしは困惑してみせると、

「見つけたぞ!」

の声とともに剣道防具で身を固めた剣道部員が一人で人影の背後に立ったのです。

そして、

「剣道部のみんなを…元にもどせぇぇぇ!!!」

の声とともに竹刀を振り上げて人影に飛び掛かりますが、

「ふんっ、

 どすこいっ!」

人影のその一言ともに妙に膨らんでいる腰を叩くと、

シュルンッ!

人影から得体の知れない何かが伸びてゆき、

それと同時に

「いやぁぁぁ……」

竹刀が落ちる音と同時に剣道部員の悲鳴が響き渡り、

そして、

「奉納相撲…

 そうだ奉納相撲にでなきゃぁ…

 ど…どすこい。

 どすこいっ

 どすこいっ」

道着・防具を失い裸にフンドシを締めた姿になってしまった剣道部員が

中腰で腕を交互に突き出しながら校庭へと向かっていったのです。

「酷い…」

衝撃の光景にわたしはそう呟くと、

「大丈夫よっ」

彩様はキツクわたしの手を握ってくれます。

すると、

「ふふっ、お待たせ。

 おや、震えていますね。

 このわたしが怖いのですか?

 大丈夫…

 あなた達もスグに彼女と同じように奉納相撲に出ることになりますよ」

わたし達に向かって人影はそう言います。

「奉納相撲?

 なんですかそれは!

 それに、どこの誰だかわからない人に指示をされる謂れはありません」

彩様は果敢に言い返しますと、

「そっそうよっ!」

わたしも一緒になって言い返します。

しかし、

「ふふっ、

 みんな最初はそう言う。

 でも、その次に問うた時は皆喜んで参加してくれる。

 さっきの子みたいにね」

と人影は言った時、

沈み行く陽の光が人影の横顔を照らし出しました。

その途端、

「!!っ

 あなたは!」

「神無月会長!」

剣道部の子をお相撲さんに変えてしまった人影が、

生徒会長である神無月初音様であることに気がついたのです。

「なんでこんなことを!」

初音様に向かって彩様は問い尋ねますが、

「的場彩、日進雪乃

 お前たちも奉納相撲に参加するのだ」

それには答えず、初音様は再度命じたのです。

「だから奉納相撲って何のことですかっ

 どうしてそれに参加しないといけないのですか」

その言葉に彩様が言い返すと、

「さっきの子も校庭の子達もみんな戻してください。

 あの中にはわたしのクラスメイトも居るんです」

1・2歩前に飛び出してわたしも声を張り上げます。

しかし、

ニィ…

初音様はまた笑い、

「ほぉ、そんなことも判らないのかっ

 特にお前には相撲の心を理解させてやる必要があるな」

とわたしを指差して告げたのです。

「相撲の心?

 そんなものを理解する必要はないわ」

その言葉にわたしは不機嫌そうに言い返すと、

「はっ!

 日進さん逃げて!」

と彩様の声が響くのと同時に、

「どすこいっ!」

パァァン!

初音様は掛け声と同時に妙に膨らんでいる腰を叩きました。

すると、

シュルンッ!

相手の浴衣の裾から黒い布帯が顔を出してくるなり、

わたしに向かって伸びてきたのです。

「逃げて!」

「あっあっあっ

 あぁぁぁぁぁぁ!!!」

彩様の怒鳴り声が響きますが、

でも足が竦んでしまったのでしょうか、

迫ってくる布帯を見つめながわたしは立ち往生していると、

シュルンッ!

布帯は瞬く間にわたしの体の取り付き、

制服のスカートもろとも股間をT字型に締めてきたのです。

「やだぁ!

 締めるぅぅ

 締めるぅぅ

 彩様ぁぁぁ!

 フンドシが締めてきますぅぅぅ!」

今となっては当たり前…

いえ、それが一日の始まりとなっている感覚ですが、

でも、”マワシ”という言葉も知らず、

”マワシ”というものを締めたことすらなかったわたしにとって

それは衝撃的な感覚でした。

「フンドシではない。

 マワシというものだ。

 覚えておけ」

初音様のその言葉と共に、

プツンッ

初音様とつながっていた”マワシ”が切れてしまうと、

切れた端がわたしに締められたマワシの中へと潜り込んできたのです。

「あぁ。そんなぁ」

「あーはははははは!!!!」

呆然とするわたしをあざ笑うかのように初音様は高らかな笑い声を上げ、

その声を聞きながらわたしはその場に座り込んでしまうと、

ボロッ

ボロボロボロ

着ていた制服が崩れていくように砕け始めたのです。

あの剣道部の子の時と同じです。

「あっあぁぁぁ」

見る見るわたしは白い肌を曝け出してしまうと、

「あぁぁぁ

 いっいやぁぁぁぁ!!!

 見ないでぇぇぇ!!」

彩様の前でわたしはマワシ一丁の姿になっしまったのです。

「あはははは、どうだ。

 マワシ一丁、

 フンドシ担ぎになった感想は!」

そんなわたしに向かって初音様は感想を尋ねます。

「くっ!

 なんてことをしてくれたのです。

 元に戻してください」

曝け出された胸を片腕で隠しながらわたしは言い返しますと、

「ふんっ」

初音様は鼻で笑い。

そして、

「さぁ、マワシを締めた以上、

 お前は力士だ。

 さぁじっくりと稽古をつけてやろう」

とわたしを指差して言うや、

バッ!

羽織っていた浴衣に手を掛け放り出したのです。

すると、

わたしと同じマワシが締めている股間とともに、

女性とは違う筋肉質で男性的な肉体が姿を見せたのです。

「会長…

 あなたは…おっ女の人ではないのですか?」

それを見た彩様が声を上げると、

「ふふふっ、

 あたしは…女だった。

 でも、今は力士…

 そう、奉納相撲を成功させるための力士」

と初音様は返事をし、

「さぁ、まずはシコ踏みからだ」

と言いながら足を開いて腰を落とすと、

ざっ!

高々と片足を上げたのです。

そして

「はっ」

パァァァン!

気合を入れる声とともに腿を叩きますと、

ズンッ!

と地面を揺らすかのごとく足を落としたのでした。

「ひっ」

「うわっ」

気迫のあるシコを見せられたわたし達は思わず飛び上がってしまうと、

「なにをビビッているっ、

 お前もするのだ!」

とわたしを見据えて声を張り上げます。

「わっわたしがですか?」

その言葉にわたしは顔を青くしてしましますと、

「さっさと、シコを踏まないかっ、

 何ならわたしが無理やりさせるぞ」

と初音様は言い、

ギンッ!

一瞬、眼光が光りました。

するとどうしたことでしょうか、

「あっあっ

 かっ体が…

 勝手に…」

まるで操られているかのようにわたしの手足が動き始め、

「ちょちょっと」

わたしは困惑しながら立ち上がってしまったのです。

そして腰を落とし、

「はっ!」

喉の奥から飛び出すように掛け声を上げてしまうと、

パァンッ!

腿を叩いて足を上げてしまったのです。

ペタン!

「はっ!」

パァァン!

ペタン!

「はっ!」

パァァン!

ペタン!

「はぁはぁ

 はぁはぁ

 なんで、わたしはこんなことを…」

汗を噴出し、

荒い息を吐きながらわたしは黙々とシコ踏みをさせられます。

そして、そんなわたしの姿を彩様はジッと見ていたのでした。

「しっ彩様に…

 こんな姿を見られているだなんて…」

慕っている彩様の前でマワシ一丁、

汗を振りまきながらシコ踏みをさせられていることに

わたしは恥かしくて逃げ出してしまいたかったのですが、

しかし、自分の体は言うことを聞きません。

そしてそのまま右と左、

それぞれ100回近くシコ踏みをさせられ、

息も絶え絶えになったとき、

「もぅ、やめてください。

 このまま続けていたら死んでしまいます。

 この通りです」

見かねた彩様が懇願したのでした。

「彩様…」

他人に対して懇願をすることなど滅多にない彩様の言葉を聞いたわたしは

彩様の慈悲と何もできない自分の不甲斐なさを感じたのか、

涙が頬を伝っていきます。

そう…自分が強かったら…

自分が強くてこんな奴を叩きのめす事ができたら…と

その時、わたしは自分が女であることを呪ったのでした。



「よかろう…」

彩様の言葉から一呼吸置いて初音様の声が響くと、

「その代わり…

 お前が奉納稽古をするのだ」

と彩様を指して告げたのです。

「いっいけません、

 彩様っ」

それを聞いたわたしは声を上げますが、

「どうする?

 見事このわたしを満足させる事が出来たら、

 お前達を解放するぞ」

と初音様は交換条件を出したのです。

「判りました。

 受けて立ちますから、

 日進さんを呪縛からときなさい」

初音様に向かって彩様はそう命じますと、

「ふふんっ、

 良い心がけだ、

 どすこいっ!」

余裕の表情で手にしていた軍配を振ります。

すると、

フッ!

その途端、わたしの体は自由が利くようになり、

ドサッ!

その場に崩れ落ちるようにして座り込んでしまったのです。

そう、呪縛から解かれた途端、

シコ踏みの疲れが襲ってきたのでした。

「もぅ、動けない…」

汗まみれの体を地面につけてわたしは必死に顔を起こしますと、

「さあ、どうした?

 さっさとやれ」

初音様の声が響きます。

「なっなんですか、

 この格好でいいんですか?」

マワシ一丁にされたわたしとは違って、

彩様の制服には手を出さずに腕を組んだまま立っていました。

そんな初音様の姿に彩様は何をしていいのか戸惑って見せますが、

「わっ判りました」

すぐに小さな声で返事をすると、

「はっ!」

の掛け声とともにわたしの真似をするようにして、

ぎこちなくちょこちょこと四股踏みモドキをしてみせたのでした。

「あははは、

 それでシコを踏んだつもりか?」

それを見た初音様は笑って見せますと、

「じゃぁ、次は突っ張りだ!

 わたしが見本を見せるから、

 真似をするんだ」

と言いつつ、

「どすこいっ!」

「どすこいっ!」

と腰を落として力強く腕を突き出して見せますが、

「…どっどすこい」

「…どすこい」

彩様のそれは弱弱しく、

まさに突っ張りの真似にしか過ぎませんでした。

「ほらほら、

 そんなんじゃ、相撲なんて取れないぞ。

 もっと力をこめろ」

ヘタヘタと相撲稽古の真似をする彩様の姿に

苛立つようにして初音様は声を掛けますが、

しかし、

「よいしょ、よいしょ」

「どっどすこい、どすこい」

彩様は相変わらず弱弱しく恥じらいを漂わせながら稽古を続けていたのです。

「つまらん。

 まったくつまらん」

自分の思い通りの稽古が出来ないことについにキレたのか、

初音様は額に片手を当てて肩をすぼめて見せると、

「もぅいい、

 お前達。

 わたしが満足できるまでずっと稽古をするんだ」

と突き放した言葉を告げたのです。

「えぇっそんなぁ!」

それを聞いたわたしは思わず悲鳴に近い声を上げますと、

「待ってください!」

汗を滴らせながら彩様は初音様の手を掴んだのです。

「なんだ。

 わたしは忙しいんだ。

 いつまでも関わっている暇はない」

と初音様は文句を言いますが、

「お願いです。

 お願いですから」

彩様は幾度も頭を下げ懇願してみせると、

「ふん…」

初音様は考える素振りを見せ、

「そこまで言うのなら、

 お前の本気度を見せろ」

と告げたのです。

「うっ」

その言葉に彩様は言葉を詰まらせ、

そして、マワシ一丁で座り込んだままのわたしをチラリと見ると、

「ふぅ…」

彩様は大きく息を吐き、

パンパン!

と自分の頬を2度叩きますと、

「判りました。

 わたしの気持ちをお見せします」

と眼光鋭く返事をしたのです。

「彩様?」

覚悟を決めた。と言うより、

やる気を出した…と言った方が合っているかもしれません。

おもむろに彩様は胸のリボンを外し、

さらに制服の上着を脱いで見せます。

「しっ彩様…なにを」

唖然と見ているわたしの前で彩様はさらに上着を脱いでスカートを取ると、

下着姿になってゆきます。

そして、靴とソックスを脱いで裸足になると、

プルンッ

形の良い乳房を揺らしながらパンツ一枚の姿のなって見せたのです。

「そんなぁ、

 彩様が…」

まるで女神のごとく凛と立って見せる彩様の姿にわたしは喚起のあまり涙を流していると、

彩様はゆっくりを腰を落とし、

「はっ!」

の掛け声とともにシコ踏みを始めたのです。

それも、先ほどのときとは打って変わって気合の入ったものでした。

「ほぅ」

彩様の気合の入ったシコ踏みを見せられて相手は感心した口調の言葉を漏らします。

そして、その視線を浴びながら、

彩様は綺麗な足を交互に上げて

ぺったんぺったんと地面を踏みしめ続けたのでした。

右と左、20回程度のシコ踏みを終えて、

「はぁはぁ

 はぁはぁ」

汗を滴らせながら彩様は顔を上げますと、

「まっまだまだですっ、

 まだ、わたしの本気を見せてはいません。

 これより…相撲取りさながらの相撲稽古を披露してみせます」

と顔を真っ赤にしながら決意を宣言して見せたのです。



ザザザッ

ザザッ

彩様は自身が地面につけた仕切り線を前にして、

パァンッ!

パンツ一枚の姿のまま自分の両腿を叩きますと

グッ!

と腰を落として蹲踞をして見せます。

そして、そのままつま先立ちで脚を開きますと、

パァンッ

と拍手を打ち、塵手水。

そのままさっと両手を開いてすっと伸ばします。

「彩様…

 まるでお相撲さんみたい…」

TVの相撲中継などで見たことがあるその所作を

彩様がこなして見せたことにわたしは驚きますが、

初音様もまた驚いているようでした。

そして、

「よいしょっ!」

その声とともに立ち上がると、

そのまま仁王立ちになり、

「これよりシコを踏みます」

と宣言をして見せたのです。

「…シコ踏みならさっきしたばかりなのに」

その言葉を聴いたわたしは小首を傾げますが、

彩様は厳かに腰を落とすと、

ガニ股気味に両脚を開きます。

そして、両腕を右に揃えて伸ばし、

「よっ」

とポーズを決めると、

右足を高々と上げ、

「どすこぉぉぉいっ!」

と豪快に踏み下ろしたのです。

「うわっ!」

明らかにこれまでとは違うシコ踏みにわたしは驚きますが、

ごしごしっ

と彩様は下ろした足の裏を地面に擦りつけ、

そのまま腰を落としてどっしりと構え直すと、

「そぉれ、もういっちょーーーうっ」

の声とともに反対の足でもシコ踏んで見せたのです。

それどころか地面に拳を着いて、

「はっけよーーーい」

と仕切りの構えを取ると、

「のこったぁっ!」

の声ともに姿が見えない相手に向かって立ち会いを見せたのです。

そう彩様は髪を振り乱して独り稽古をしているのです。

「いよぉっ!」

「はっ」

「どすこいっ」

「いよぉっ!」

「はっ」

「どすこぉぉいっ!」

彩様は一人腰を落とし、

汗を振りまき、

虚空をビシバシ突っ張り、

荒い息を上げて稽古を続けます。

そしてすり足というより地面を足の裏全体で踏みしめるように

体重をかけて動いて見せます。

やがて、がっぷり組んだような格好に移ると、

腰を振りながら、

「そらそらそらそら!」

「ほれほれほれほれ!」

「おらおらおらおらぁ!」

と架空の相手に向かって大一番を仕掛け、

「ふんっ、ふんっ

 むおぉぉぉ、

 ぬおぉぉぉ」

と鼻の穴を広げて息荒く奮闘します。

そのままの勢いで

ぐっと

踏ん張ったかと思えば、

相手のマワシを釣りながら寄りかかり、

「どぉだ、このこのぉ……」

と声を上げますと、

「ぬおぉぉりゃぁぁぁっ!!」

と投げを打って見せたのでした。

そうです、彩様は架空の相手との大勝負に勝ったのでした。

「わぁぁぁぁ!

 彩様すごいです」

我を忘れてわたしは歓喜の声を上げますと、

「どうだ、

 これがわたしの本気だ!!」

と彩様は胸を張り初音様に向かって言ってのけたのです。

わたしには判ります。

このわたしを助けるために恥かしさを堪え、

羞恥と屈辱を感じながら独り稽古をして見せたことを…

彩様の思いにわたしはさらに心を打たれてしまうと、

「彩様ぁ

 ありがとうございます」

とその場で泣き出してしまったのでした。

しかし、

「なるほど…

 ではもぅ一回、

 シコを踏むところを見せてみろ」

と初音様は言ったのです。

「なっ」

彩様の思いを踏みにじるその言葉に、

「ちょっと!

 それって!」

わたしが怒鳴り声を上げかけますが、

サッ

彩様の手が伸びるとわたしを制したのです。

そして、

「なにがお気に召さないのですか?

 神様?」

と聞き返したのでした。

「彩様…」

その言葉にわたしは不安げに彩様を見ますと、

「気合はわかった。

 ただ、その格好では相撲の心が入っていないし、

 力が無い…」

と初音様は理由を言います。

「心が入っていないって、

 それに力もと言われても…

 初音様、

 あなたは彩様の心の内が判らないのですかっ」

それを聞いたわたしは食って掛かると、

「やめなさい」

と彩様は嗜めます。

「だってぇ!」

その言葉にわたしは口を尖らせてしまいますと、

「判りました。

 この下着が気に入らないのですね?」

と彩様は自分が唯一身に着けている下着を指差し、

「ならばわたしにもその”マワシ”というものを締めていただけませんか?」

そう初音様に告げたのでした。

「ほぅ…自ら進んでマワシをつけるか」

彩様の言葉に初音様の表情が動きます。

すると、

「雪乃にしたのと同じように、

 わたしにもマワシを締めてください。

 あなたが興ざめせず、

 そして唸らせるような

 最高のシコを踏んであげます」

と続けたのです。

「彩様…

 本気で言っているのですか?」

思いがけない言葉の連続にわたしは顔を青くして聞き返しますと、

「大丈夫よ」

と彩様は話しかけます。

すると、

「よかろう…

 どすこいっ!」

と初音様が自分のマワシを叩いたのです。

それからはわたしのときと同じ展開でした。

初音様が締めているマワシの一端が解けて伸びてくると、

彩様の股間へと絡みつき、

穿いていた下着を砕きながら巻きつき締め上げていきます。

「あっ

 うぅっっ」

締め上げてくるマワシの感触が辛いのか、

彩様は眉間に皺を寄せて見せますが、

しかし、その手は腰に巻かれたマワシの感触を確かめるように動き、

そして、

パァン!

気合を入れるようにマワシを叩きますと、

「これが…

 マワシというもの…なの

 わたし…マワシを締めたんだ」

と恍惚とした表情でにつぶやいたのでした。

「彩様…

 ひょっとして嬉しいのですか?」

そんな彩様の姿を見てわたしは心の中でつぶやいていると、

プツンッ!

初音様から伸びていたマワシが切れ、

それぞれの切れ端は互いのマワシの中へと潜っていきます。

「希望通りにマワシを締めてあげたぞ。

 それに力も付けてやった。

 お前はもぅ力士だ。

 さぁ、わたしが満足するシコを踏んで見せろ」

マワシの感触に浸っている彩様に向かって初音様は催促をしますと、

「あの…

 丁髷もお願いします」

と事もあろうか彩様はそう言いながら自分の髪を指差したのです。

「彩様っ、

 本気で言っているのですか」

それを聞いたわたしは声を上げますと、

「髷を結いたいだとぉ…

 悪いがこれ以上手間をかけたくない。

 そのままでやれ」

と初音様は突き放したように言います。

「そうですか、

 判りました」

その言葉を聞いて彩様少し落胆して見せますと、

自分で髪をアップに纏めていきます。

そして、改めて初音様を見据えますと、

「これより彩関がシコを踏んでご覧に入れます。

 どうか、最後まで見ててください」

と宣言して独り稽古を再開したのでした。



「はっ、どすこい。

 はっ、どすこーいっ」

初音様の見ている前で、

マワシ姿になった彩様はまずさっくりと両脚のシコを踏んで見せます。

そして、

「ふぅ…

 さぁ、ここからが本番です」

息を整えてそう言うと、

緊張していた表情が急に緩み

「ふふふ、

 うふふっ」

と綺麗な笑みを見せながら、

両腕を揃え、

それを伸ばすと、

「どすこいーっ」

と勢い良くシコを踏み、

さらに逆に腕を取り直して、

「いよぉぉっ

 どすこぉぉぉいっ!」

と反対の足でシコ踏んで見せます。

するとどうしたことでしょう。

彩様の足元の地面が大きく振るえ、

砂埃が舞い上がったのです。

「これは…」

その事に真っ先に驚いたのは彩さまでした。

「どうした?

 力を付けてやったのだ。

 満足するシコを見せてみろ」

そんな彩様に向かって初音様は催促をしますと、

パンパンと彩様は自分のマワシを叩き、

「神様、ありがとうございます。

 マワシを締めると気合が入りますし、

 それに力がみなぎってきました」

と言うや、

「ぃよいしょおおぉっ!」

掛け声を上げて強めに一踏み。

さらにしなやかな美脚を高々と上げると、

足の裏で地面を豪快に踏みしめてみせたのです。

「すごい…

 すごいです、彩様」

気合十分のシコ踏みを見せられたわたしはただ感動していると、

「さぁ、いくぞぉぉぉーーーっ!

 はっ!

 どすこい。

 どすこいぃっ!」

とわたしの視線を意識してか交互にシコを踏み、

そして踏ん張って見せると、

「まだ

 まだいきますよぉ」

と告げるや、

パァン!

拍手を打ち、

「ほら、

 いくぞ、

 いくぞぉっ」

さらに荒々しくシコ踏みを続けたのです。

「はっ!

 まだぁ!

 うりゃぁ!

 まだまだぁ!」

綺麗な髪を振り乱し

彩様は豪快なシコ踏みをひたすら続けます。

そして荒くどこか興奮したような息遣いをしながら、

時折、拍手を打ったり、

足の裏を地面に擦ってせり上がってみたり、

はたまたむき出しのお尻を打って気合を入れたりとしながら、

「神様、どうですか、

 わたしの本気のシコは如何ですか」

と初音様に問いかけます。

「なるほど、お前のそのシコに免じて…」

そう言いながら初音様はわたしの方を向きます。

「ひっ」

初音様から投げられる視線にわたしは縮み上がりますが、

「初音様っ、

 わたしを見てください。

 どすこいっ!

 ほら、どすこい。

 どすこい!!」

そんな初音様の気を引くかのように彩様は強くシコを踏んで見せます。

「判った!

 お前は帰ってよいぞ」

初音様はわたしに向かってそう告げると、

「どすこいっ」

と軽い掛け声を掛けて、

手にしていた軍配を振って見せたのです。

すると、

シュルン

これまでわたしの股間を締め上げていたマワシがはずれ、

初音様が締めているマワシへと帰っていったのです。

と同時に、

シュワワワ…

朽ちてしまったはずのわたしの制服が戻ると、

「彩様…」

元の姿に戻ったわたしは

汗だくで息も切れ切れになってもシコ踏みを続ける彩様を見ますが、

しかし、彩様はわたしが解放されたことに気づかないのか、

それどころかわたしに自分の稽古姿を見せ付けるように独り稽古を続けのです。

そして、

「よいしょっ。

 よいしょっ。

 どすこぉぉぉおぉぉいっ!!」。

と右に左に交互に腕を揃えて大きくシコを踏んで見せると、

「いよぉぉぉおぉぉぉっ!!」

の掛け声とともに両腕をさっと開いて伸ばし、

足の裏を擦りながら不知火型のせり上がりを見せたのでした

・・・・・・・・・



つづく