風祭文庫・アスリート変身の館






「螺旋」
(第3話:初土俵の日)


作・風祭玲

Vol.1059





「そんな…

 これが、あたしなの?」

クリスマスの朝は日の出が遅く、

朝といえども外はまだ真っ暗です。

力士達の朝稽古前にあの狭い部屋から開放されたあたしは

一夜で変貌した自分の姿を見ながら涙を流していました。

「くふっ

 力士らしくなったじゃない、

 と言っても、

 見た感じ昨日と比べてちょっと太った程度、

 体重、身長共に新弟子検査の基準に全然足りないけどね」

そんなわたしを見下ろしながらAYAは笑います。

「くっ!

 AYAっ、

 あなたはなんてことをしてくれたのよっ、

 ステージでの体型を維持するのに

 みんなどれだけ苦労していると思っているのっ」

AYAに向かってあたしは怒鳴りますが、

「はぁ?

 ステージ?

 何のことを言っているの?

 力士であるあなたが立つのは

 ステージじゃなくて土俵よ。

 土俵に立ってお相撲を取るの。

 それがあなたのお仕事、

 勘違いしないで」

とAYAは言い返します。

「勘違いって…

 大体、

 あたしが約束をしたのは

 あなたとお相撲勝負をするのであって、

 力士になるとこじゃありません」

「でも、

 そのお相撲勝負から逃げようとしたのは鞠乃山っ、

 あなたでしょう」

「逃げようとしてはいませんっ」

「よく言うわねぇ、

 シコ踏み程度で音を上げて、

 わたしの顔に泥を塗ったのはどこの誰よっ、

 いいわっ、

 あなたがそういう気構えで居るなら、

 こっちも容赦なしないわよ」

不愉快そうな顔でAYAはそういうと、

徐にスマートフォンを取り出し、

その画面を操作し始めます。

すると、

ウニッ…

ウニウニヌニ…

あたしの股間の奥で何かが蠢き始めたのです。

「ひやっ!」

言いようも無い不快感にあたしは飛び上がりますと、

ムリムリムリ!!

萎えていた作り物のオチンチンが硬くなりながら伸びて行きます。

「あはは…

 効果覿面!」

それを見たAYAは声を張り上げて笑うと、

「なっ何をしたんです」

オチンチンが飛び出した股間を押さえながら

あたしは声を上げます。

しかし、

「くふっ、

 あなたに付けたオチンチンにはねぇ、

 生体モーターが付いているの。

 それをこうして操作すると…」

AYAがそういいながらスマフォの画面を弄ると、

ウニウニウニ

あたしの膣をふさいでいるオチンチンの根元が激しく動き

「ひゃぁぁぁぁぁぁ!!!

 止まってぇ」

あたしは突き出すオチンチンを鷲づかみにしながら、

そう声を張り上げます。

「あははは…

 このスマフォで操作できるのは

 モーターのスタートと動きのコントロールのみ。

 止めたかったら、

 そのオチンチンをしごいて溜まった精を抜く、

 つまり射精をしないとだめよ。

 ほらほら、手が止まっているわよ」

オチンチンの仕掛けをAYAは言います。

「そんなぁ…

 あがぁぁぁぁ」

根元が動くオチンチンを鎮めるために、

シュシュシュシュシュ

「止まってぇ

 お願いだから」

あたしはオチンチンをしごき始めます。

そして、

「あふっ、

 んくっ

 あっ
 
 あっ

 あぁっ

 でっでるぅぅぅぅぅ…」

体の奥から付きあがってくる感覚にあたしは身悶えると、

ブシュッ!

シュシュシュ!!!

オチンチンから溜まっていた精を吹き上げ、

と同時にゆれていた根元は静かに止まったのです。

「はぁはぁ

 はぁぁぁぁぁ…」

汗をびっしょりに掻いてあたしは虚脱感を感じていると、

「くふっ、

 いまの射精すごかったわよ、

 気分爽快でしょう。

 それが射精後に男性が感じている賢者タイムと言うものよ」

そうAYAは説明します。

「うぅっ、

 いやっ、

 もぅこんなのイヤ」

顔に手を押し当ててあたしは泣き出しますが、

稽古場ではすでに幕下力士達の稽古が始まっていたのです。

「ほらっ、

 いつまでも泣いていないのっ

 朝稽古が始まったから、

 さっさと廻しを締めて行く」

AYAは泣いているあたしの尻を叩くと、

富嶽部屋から去っていきました。



「おらぁ!

 まだまだぁ!」

「鞠乃山っ

 腰が据わってないぞ。

 もっと押せっ!」

稽古場に罵声が飛びかい、

廻しを締めたあたしは汗だくになって、

小山のような肉体の力士をひたすら押していました。

しかし、昨夜飲まされたプロティンのおかげでしょうか、

あたしの足は昨夜と違いシコ踏みでは音を上げずに、

最後までシコを踏み続けることができましたが、

でも、土俵上での稽古は今日が始めて、

押し相撲すら満足に出来ないあたしが

相撲部屋の稽古についていけるはずがありません。

すぐにへたばってしまうと、

バシャッ!

頭から冷水を浴びせられ、

「気合を入れろ!」

の声と共に

パァンッ!

剥きだしのお尻が竹刀で叩かれるのです。

「ご…ごっつぁんです」

お尻の痛みをこらえながらあたしは立ち上がりますが、

「なんだ、

 その気の抜けた返事は!

 力士なら腹に力を入れて返事しろっ」

と注意を受けながら、

パァン!

また一発竹刀を喰らうのです。

つい昨日まで、

あたしは煌びやかなステージ衣装に身を包んで、

スポットライトを浴び、

センターに立って

ファンの声援を受けていました。

でも、たった一夜で、

男にされ、

力士にされて、

汗にまみれ、

砂まみれになって、

竹刀で叩かれる相撲の稽古。

まさに天国から地獄へ向かう螺旋階段を下りていくような悪夢の中、

あたしは相撲の稽古を続けさせられたのです。

パンッ

稽古場に拍手が響きますと、

朝稽古の終わりです。

「はぁはぁ…

 はぁはぁ…

 終わった」

稽古が終わっても、

あたしはその体を休ませることはできません。

相撲部屋の家事・雑務から、

兄弟子達の身の回りの世話は

新入り力士の務めと言い渡されたあたしは、

稽古で傷ついた体を鞭打って、

それらをこなしていきます。

そして、それらが終わると、

あの部屋での肉体改造がまっているのです。



「はぁ…

 あたしどうなっちゃうのかな…」

風呂場であたしは体を洗いながらそうこぼします。

鏡に映る自分の体は誰が見ても大きく太り、

細い身体に合わせたステージ衣装を着ることはもはや絶望的でした。

「もぅ、

 ステージには戻れないよ。

 こんな体じゃぁ…

 センターにも立てないし」

あの部屋で飲まされるプロテインによって

手も足も、

そして顔までも膨れだした自分を哀れみながら、

あたしは一人風呂場で泣いていました。

とその時、

誰かが風呂場に入ってきたのです。

「はっ」

その気配にあたしは慌てて湯を浴びますと、

「入っていたのは”鞠”か」

とあたしに声がかかりました。

「あっ」

あたしの声をかけてくれたのは兄弟子の美麗山です。

美麗山の体は太い力士のイメージとは程遠い筋肉質の軽量級力士で、

中性的なイケメンも手伝ってか幕下力士でありながら人気があります。

あたしも力士になるならせめて美麗山のような細い力士になりたいのですが、

どうもそうはならないようです。

「泣いていたのか?」

そう尋ねながら美麗山はあたしの肩を叩くと、

「すっすみませんっ、

 ご迷惑をおかけしてしまって」

と謝ります。

「気にする事はないよ、

 この部屋の力士達は皆君と同じような境遇だよ」

「境遇…ですか?」

「あぁ」

「それって、

 誰かにここに連れてこられたってことですか?」

「まぁそういう事かな」

「はぁ…

 あたし以外にもいらしたんですね。

 でも、美麗山さんは男だから…

 まだ…」

そうあたしが皮肉交じりに言うと、

「女…だったよ」

と美麗山は返事をしたのです。

「え?

 いまなんて…」

「あたしも女だった。

 そう言ったんだ」

「うそっ」

信じられないその言葉にあたしは驚くと、

「なら証拠を見せようか」

美麗山そう言って立ち上がり、

「ほらっ、

 これが男の股間か?」

と尋ねながらあたしの前で股を開いて見せたのです。

「…………」

声は出ませんでした。

でも、美麗山の股間から伸びるオチンチンは

一見すると本物に見えますが、

でも、あたしと同じ作り物であって、

その根元の陰毛を掻き分けて見せると、

突き出ているオチンチンを咥え込んでいる”陰の口”が姿を現したのです。

「美麗山…あなたは…」

「…高麗川久美ってアイドルが居たの知っている?」

とあたしに向かって美麗山は問い尋ねます。

高麗川久美…聞いたことがある名前でした。

けど、なかなかその顔を思い出せないでいると、

「モーフィング娘ってアイドルグループがあるでしょう」

美麗山はヒントのようなことを呟きます。

「あっ」

それを聞いて思い出しました。

モーフィング娘はあたしが所属しているKGS48の先輩格となるグループで、

確かに高麗川久美は1年ほど前までそこのリーダーをしていました。

けど、グループの中で内紛があって、

その責任を取って彼女は卒業と言う形の引退をしたのです。

当時、芸能ニュースなのに大事件並みの報道していたので良く覚えています。

「…その、高麗川久美がどうかしたのですか?」

美麗山に問い返した途端、

「はっ」

あたしは思わず口をふさぎました。

「判った?」

「まさか…」

「そう、あたしはその高麗川久美よ、

 もっとも今は美麗山と言うシコ名の三段目・力士だけどね」

と美麗山は自傷気味に言います。

「あなたが…

 あの高麗川久美さん?

 なっななんで?

 まっまさか、AYAに…」

衝撃の告白にあたしは驚きますと、

「ちょっと話し変わるけど、

 いまの真相撲には本物の男性力士がどれくらい居るか知っています?」

と尋ねてきたのです。

「え?

 本物の男性力士って…

 まさか、あたしや久美さんのような人がもっと居るのですか?」

美麗山を見据えてあたしは問い返すと、

「ちょっと前に起きた不祥事で大相撲は壊滅的になったことは覚えているでしょう。

 でも、少し時が経ったら真相撲に模様替えして何事も無かったかのように復活した。

 何でだと思う?

 AYAの実家が裏で動いたのよ。

 知っていると思うけど、

 AYAの実家は旧大名家から連なる名家でね。

 明治の昔から大相撲を支えてきたわ。

 そして起きたあの不祥事。

 大勢の有望な力士が相撲界を去り、

 いくつもの相撲部屋が閉鎖の危機に瀕したとき、

 AYAの実家が資金面・人材面で支援したの。

 でも、お金はともかく、

 人材面で相撲部屋を支援なんて簡単にはいかないわ。

 なにしろあの騒動で

 新弟子希望の男子が居なくなってしまったのですから、

 でも、AYAの実家はそれをやってのけた。

 目をつけたアイドルを言葉巧みにだまして、

 力士に改造してしまうって方法でね」

「そんな…」

美麗山の口から出た衝撃の事実に

あたしは声を失ってしまうと、

「すべては一人娘のAYAのためよ。

 箱入りのお嬢様なのに、

 無理言って芸能界デビューを果たし、

 アイドルの仲間入りをしたAYA。

 だけど、芸能界なんて…

 特にアイドルは女の欲望が渦巻く世界。

 裏切り、

 蹴落とし、

 嫌がらせ、

 人間の暗黒面が牙を光らせて待っているところに

 何も知らないお嬢様が足を踏み入れれば、

 どうなるか判るでしょう。

 そして、案の定、

 AYAは毒牙に掛かかり、

 デビューからわずかひと月でボロボロにされたわ。

 その時だったよ。

 AYAをもっとも苛めていた子が姿を消したのは。

 本当に突然消えてしまったわ。

 無論、家族や事務所は彼女の所在を探したけど、

 でも、どこに行ったのかは判らなかった。

 週刊誌には芸能界の暗部を示す1エピソードとして、

 小さく掲載されたけど、

 そんなものはスグに忘れ去られてしまったわ。

 そして、消された彼女が居たのは潰れかかった相撲部屋。

 髷を結って、

 廻しを締めて、

 泣きながら鉄砲柱に向かっていたそうよ。

 お股にオチンチンを付けられているので、

 逃げ出すこともでず、

 彼女は力士にされてしまった。

 まさにAYAの犠牲者よ。

 その一方でAYAにとっては大きな収穫を得られたわ、

 自分にとっての邪魔者を処分する方法としてね。

 そして起きてしまった大相撲の不祥事。

 AYAは実家にお願いして大相撲を立てて直させ、

 真相撲に模様替えさせたわ。

 そして、AYAの逆襲が始まったわ。

 自分にとって邪魔となった女の子を

 次々と消しに掛かったのよ。

 彼女の毒牙に掛かった彼女は

 言葉巧みに相撲部屋へと放り込まれると、

 作り物のオチンチンを無理矢理着けさせられ、

 次々と力士へと変身させられていったわ。

 AYAにとって邪魔になった女は例えマネージャであっても許さなかった。

 でも、AYAのお陰で力士が居なくなった相撲部屋に活気が戻り、

 さらに実家の後押しもあって真相撲は大ブレークして今に至るわけ、

 そうそう、最初の問いかけだけどね。

 真相撲で相撲を取っている本物の男性力士は…居ないわ、0よ。

 もぅみんな女力士にすり替わっているのよ。

 当然あの大横綱も元女性と聞いているわ。

 髷を結って、

 廻しを締めて、

 土俵の上で相撲を取っているのはみんな元アイドルの女性力士なのよ。

 だけど相変わらず周りは誰もそのことを知らない。

 大相撲のときと何も変わらない巨漢の力士達が

 髷を結って廻しを締めて相撲を取っている。

 これって滑稽でしょう。

 巨漢の力士がみな女性であって、

 しかも、アイドルだったんだから」

と美麗山は真相撲の本当の姿を告げたのです。

「そんなことが…」

衝撃の告白にあたしは驚きますが、

【やれやれ、

 男らしいか…

 お嬢ちゃんにはそう見えるか。

 そうだなあの土俵に立つ者が

 本当に男の中の男だと言うなら、

 その言葉の価値はあるだろうけど…】

千秋楽で出会ったお爺さんの声があたしの頭の中で響きます。

「そっか…

 あのお爺さんはみんなの正体を見抜いていたんだ…」

あたしはお爺さんの言葉を思い出しつつ呟きます。

「そっか、

 あたし達の正体を見抜いている人はちゃんと居たんだ

 それだけでも嬉しいわ…」

それを聞いた美麗山は少し嬉しそうに笑みを浮かべていました。



「真相撲の力士に本物の男性力士は居ない、

 あの大横綱も元は女性…」

日々の稽古後、

あたしは美麗山を含めたこの相撲部屋の力士達が流した汗と涙が染み込んだ椅子に縛り付けられると、

「あっあぁっ

 んくっ」

元アイドルの力士達の手によって、

シュッシュッシュッ

AYAのヌードをオカズにしたオナニーをさせられます。

そして、

「でるぅ!!」

の声と共に、

ブ…シュシュシュー!!

偽りのオチンチンから精液を吹き上げてしまいますと、

ウゴワァ

ゴクゴクゴク…

身体の力士化を促すプロテインを飲まされるのです。

アイドルの道を絶たれた絶望と

身体を変えられていく苦しみに泣きながら、

あたしはこの部屋の力士達がみな通ってきた道、

その道を

「ふごぉぉぉ!!」

ボコッ

メリメリィィィ…

あたしは進んでいるのです。



翌日もそのまた翌日も

あたしは兄弟子達と猛稽古に汗を流し、

身体の傷はどんどんと増やしていきます。

そして、

パァン!

柏手の音共に激しい稽古が終わると

今にも倒れてしまいそうな体を引きずり、

兄弟子達の世話や相撲部屋の雑事をこなし、

それらが終わる頃になると、

ムズッ

「うっ」

股間に溜まったモヤモヤが蠢き出します。

あたしの体はいつしかオナニーの催促をするようになったのです。

そして、あたしは自然とあの部屋に向かうと椅子に座り、

狂ったようにオナニーを始めだします。

もぅ止まりません。

「くはぁ

 はぁはぁ

 はぁはぁ」

最初の頃は汚らわしいとしか見ることが出来なかった男のオナニー。

けど、いまの私はAYAの胸や局所に視線をクギ付けにしながら

硬く伸びるオチンチンを自分で扱き、

汗だくになりながら顎を上げます。

兄弟子によって拘束されたいた手足は、

すでに拘束されることはありません。

あたしは一人でオチンチンを扱き続けるのです。

そして、

「うっ、

 あっあっあっ、

 出るっ

 出るっ

 出るぅぅぅぅ!!」

ブッビュビュッ…

彼女に向かって生臭い匂いに変わりつつある精液を吹き上げてしまうと、

体の求めに突き動かされるようにして特製のプロテインを飲み干すのです。

そして、体の中に取り込まれたプロテインが疲労している体内組織を作り変え

膨らんでいく筋肉や脂肪が堅固な鎧となって体を覆っていきます。

こうして日々あたしの体は変身を続け、

肉体の変化は次第に心を変えて行きます。

やがて女であったことを一刻も早く忘れたい。

一日でも早く強い力士になりたい。

そう念じるようになってしまいました。

もぅあたしは以前のあたしではありませんでした。

そしてあたしのその思いに応えるかのように

手足はさらに太くなり、

丸く張り出していた乳房は横につぶれ、

膨れていくお腹は前に突き出して行きます。

そして顎の周りも膨れてしまいますと、

筋肉が盛り上がる肩と当たり、

首を見分けることができなくなってしまいました。

こうして身長165p・体重50sそこそこの

女性らしいラインを描いていたあたしの身体は、

日を追うごとにその美しいスタイルを崩して行き、

体重は3桁の大台に乗った頃には身長が再び伸び始めたのです。

すべてはAYAの望むままに…



春場所…

あたしは新弟子検査に合格しました。

これで一人前の真相撲力士・鞠乃山となりました。

「これでお前も堂々と真相撲の土俵で戦えるな、

 鞠ぃ」

上機嫌で親方はあたしの肩を叩きますと、

「ごっつぁんですっ」

着流し姿のあたしは髷が結われた頭をぺこんと下げます。

初場所のときはまだ検査基準に達していなかった、

身長・体重もこの数ヶ月間の成長もあって、

身長は190cm

体重は180kg

と重量級の力士の貫禄が出ていました。

誰が見てもそこに居るのはかつてのアイドルではなく、

紛れもない巨漢の力士であり、

シュッシュッ

シュッシュッ

「あっあはっ

 あっ

 あっ

 でるぅ…」

日課になっている稽古後のオナニーでは

あたしは陸の上で暴れるトドのごとく、

自分のオチンチンを握りしめ

身を震わせると、

粘り気が強くなった精液を吐き出すようになっていました。

「はっはっはぁぁ…

 はぁぁ…

 はぁぁ…」

シュシュッシュッ…

喘ぎ声とともにAYAに向かって射精をしていると、

「鞠はいるか?」

の声と共に美麗山が入ってきたのです。

「あっ、

 ごっつぁんですっ」

バツの悪い思いをしながら

あたしは慌てて椅子から腰を上げて野太い声で挨拶をすると、

ポンッ

「オナニーも程ほどにしろよ、

 じゃないと身体が持たないぞ」

と美麗山は注意をしながらあたしの肩を叩き、

「そうそう、

 親方が呼んでいるよ」

そう告げたのでした。



「何か用ですか、

 親方」

オナニーを早々に引き上げて、

あたしは親方の下に行くと、

「おうっ、

 お前の初土俵の相手が決まったぞ」

と届いたばかりの番付表を見ながら親方は言います。

「初土俵…

 相手…」

新弟子検査に合格したときから

その時がくるのを覚悟していました。

初土俵を踏むことで、

あたしは正真正銘の力士となります。

「で、相手は…」

正座しながら親方に尋ねますと、

「細かいところは他の者に聞け」

親方はそういいながら番付表をあたしに渡したのです。

「これが…

 真相撲の番付表」

びっしりと全ての力士の名前が記載されている番付表を眺めながら、

そこに書かれている力士一人ひとりに

あたしと同じようなドラマがあると思うと目頭が熱くなってきました。

「…こんなに

 …こんなに沢山の女性が犠牲になっているんだ」

まさに女を奪われ力士にされた女性達の怨嗟が、

その番付表から聞こえてくるようでした。



春場所は国技館から離れての地方開催場所。

あたし達、富嶽部屋はすでに地元に入っていて、

あたしも宿舎の土俵で汗を掻く日々を送っていたのです。

「あそこで、

 イベントをやったなぁ…」

宿舎から見えるドーム球場を眺めながら、

あたしはKGS48を率いて、

あの球場で行ったイベントの事を思い出します。

結構昔の事かと思えば、

まだ1年半前のことです。

けど、その1年半の間にあたしは何もかも変わってしまったのです。



初日、

前相撲に出るため、

あたしは着流しに身を包み、

廻しと下がりを風呂敷に包み込んで宿舎を出ます。

そして、駅へと向かいますと、

否応無く駅に張られているポスター類が目に飛び込んできます。

ほとんどのポスターは現地の利用客向けであって、

よそ者のあたしにとっては意味の無いものでしたが、

しかし、その中の1枚のポスターの前で立ち止まってしまったのでした。

KGS48の公演を知らせるポスターです。

見知ったメンバーの顔が並ぶポスターの正面には、

あたしではなく、

なんとAYAが飾っています。

「なんで、AYAが…」

彼女の顔を見た途端、

あたしは無性にそのポスターを引き裂きたくなりましたが、

しかし、いまは昼間。

いたるところで視線が光っています。

無理もありません、

年に一度この場所にやってきた力士の姿は、

否応無くても目に付く存在なのですから。

「まったく…

 誰のせいだと思っているのっ」

腹いせにあたしはポスターのAYAにデコピンを食らわせると、

そのまま立ち去っていきます。



初めて入る支度部屋は、

様々な部屋の力士達で混んでいました。

その中をあたしはもぐりこむ様にして富嶽部屋の場所へと向かうと、

「おーきたきた」

と先に到着していた兄弟子…

(本当は姉弟子と言った方がいいかもしれませんが)

が手を上げて招いてくれます。

「遅くなってすみません」

「まぁいいって」

「さっさと仕度しろ、

 もぅ前相撲は始まっているぞ」

と催促をされます。

「はっはいっ」

その返事と共にあたしは大急ぎで着流しを脱ぐと、

廻しを締めはじめます。

そして、廻しを締め終わると、

床山があたしの髷を整え始めたのです。

鬢付け油を丁寧に塗りこみ、

乱れの無いように髷が整えられると、

「うっしっ」

パァン

あたしは気合を入れるために

両頬を自分の手で思いっきり叩きます。

そして、

ビタンッ

ビタンッ

とシコを踏み、

軽く汗を流したのです。

「おーっ、

 鞠は気合が入っているな」

「ちゃんと勝てよ」

その様子を見た兄弟子達はあたしを励ますと、

「では、行ってきます」

気合十分のあたしは横回しに下がりをもぐりこませると、

鼻息荒く支度部屋を後にしたのです。



しかし、鼻息が荒かったのは

富嶽部屋のみなに見送られて支度部屋を出たところまで、

そこから先は全くの未知の領域です。

行きかう人や力士に見知った顔はありません。

それもそのはずです。

ここはあたしが始めて踏み込む処女地です。

すると、不思議と気持ちが落ち着いてきたのです。

そして勝って気合の上がる力士や、

負けて気弱になっている力士を見ると、

「この人たちってみんな…

 元アイドルだった人たちだよね。

 ステージに立っていたときはみんなどんな感じだったのかな…

 でも、力士にされて顔が変わっているし、

 体つきも全く違っているから、

 誰が誰だか判らないよ」

花道に続く廊下を進みながら、

あたしは行きかう力士達の元の姿を想像しますが、

けど、みんなあたしと同じように、

見た目も変わっているはずですので、

元の姿と名前は全く判らないのです。



直前の取り組みが終わって、

いよいよあたしの番です。

行事がいつもの調子であたしのシコ名と、

対戦相手のシコ名が読み上げると、

「ふんっ」

あたしは気合を入れて土俵に向かいます。

考えてみればこれらは全てAYAの手の中の話、

あたしはAYAの掌の上の土俵で闘い続けなくては行けないのです。

でも、それから逃れるすべはありません。

今のあたしができるのは、

教えられた手はずどおりに、

土俵に上り、

相手とにらみ合い、

蹲踞をして見せた後、

清めの塩をまく。

そして、仕切り線で対峙した後、

ゆっくりと呼吸を合わせて、

タンッ

互いに合図をあわせて飛び出すのみ、

「ふんっ!」

バシッ!

土俵の真ん中、

あたしと相手は互いに体当たりをぶちかまします。

あたしは体重180kg、

相手は120kgほどの小兵力士。

最初のぶちかましで相手を怯ませれば、

勝ちは見えます。

しかし、

「うりゃぁぁぁ…」

なんと相手の力士はあたしのぶちかましに見事耐え抜き、

廻しをとって見せたのです。

「くそっ、

 つぶしてやる」

あたしは全体重を相手の上にかぶせます。

これを外されてしまえばこっちが土俵に落ちてしまいます。

「のこった

 のこった」

「のこった

 のこった」

あたし達の周囲では行事が声を張り上げて戦いの行方を見守ります。

長い相撲です。

あたしの潰しに耐える相手力士は見事です。

前相撲ゆえか観客はまばらで、

響く歓声も迫力がありません。

しかし、あたしと相手の力士は精一杯の相撲を取っています。

「はぁはぁ

 はぁはぁ

 こいつ…

 女の癖に根性あるな」

もぅ3分近く彼女、

いや、”彼”は耐えていました。

おそらく、足腰と肩を相当鍛えているはずです。

あたしも見習わないと…

そう思ったとき、

グンッ

下の”彼”は腰を捻ると、

素早く動いてあたしの加重を横に反らせたのです。

「そうきたかっ」

あたしもこのままやられるわけには行きません。

足を出して身体を支えると、

すぐに相手に向かって身体を起こします。

そして、

そこからは互いの腕を繰り出してのテッポウの打ち合いです。

激しい打ち合いの末、

「ふんっ」

ドッ

あたしは相手の胸元に一発打ち込むことができると、

そのまま一気に押し出したのです。

「鞠乃山ぁぁ」

行事の勝ち名乗りを聞きながら、

「…かっ勝った…

 勝つってこういうことだったのね」

あたしは勝利を実感していたのでした。



つづく