風祭文庫・アスリート変身の館






「螺旋」
(第3話:彼女の素顔)


作・風祭玲

Vol.1032





「おらぁ!

 まだまだぁ!」

「鞠乃山っ

 腰が据わってないぞ。

 もっと押せっ!」

翌日も…

そのまた翌日もあたしは猛稽古に汗を流し、

砂まみれになり、

傷だらけになります。

そして、

パァン!

柏手の音共に激しい稽古が終わると

今にも倒れてしまいそうな体を引きずり、

兄弟子達の世話や相撲部屋の雑事をこなしますが、

そしてそれらが終わる頃、

ムズッ

「うっ」

股間に溜まったモヤモヤが蠢き出します。

そして、あたしはあの部屋に向かうと椅子に座り、

日課となってしまったAYAのポスターを眺めながらのオナニーをするのです。

「くはぁ

 はぁはぁ

 はぁはぁ」

以前は汚らしいものとしか見ることが出来なかった男のオナニー。

けど、いまの私はAYAの胸や局所に視線をクギ付けにしながら

硬く伸びるオチンチンを扱き、

汗だくになりながら顎を上げます。

初めての時には兄弟子によって拘束されたいた手足は、

自ら進んでオナニーをするようになると拘束されることはなくなり、

あたしは一人でオチンチンを扱き続けます。

そして、

「うっ、

 あっあっあっ、

 出るっ

 出るっ

 出るぅぅぅぅ!!」

ブッビュビュッ…

彼女に向かって生臭い匂いに変わりつつある精液を吹き上げてしまうと、

体の求めに突き動かされるようにして特製のプロテインを飲み干すのです。

そして、体の中に取り込まれたプロテインが疲労している体内組織を作り変え

膨らんでいく筋肉や脂肪が堅固な鎧となって体を覆っていきます。

こうして日々あたしの体は変身を続けていくと、

次第に心が変わり、

やがて女であったことを一刻も早く忘れたい。

一日でも早く強い力士になりたい。

そう念じるようになってしまいました。

もぅあたしは以前のあたしではありませんでした。

そしてあたしのその思いに応えるかのように

手足が太くなり、

丸く張り出していた乳房は横につぶれ、

膨れていくお腹は前に突き出して行きます。

そして顎の周りも膨れてしまいますと、

筋肉が盛り上がる肩と当たり、

首を見分けることができなくなってしまいました。

こうして身長165p・体重50sそこそこの

女性らしいラインを描いていたあたしの身体は、

日を追うごとにその美しいスタイルを崩して行き、

体重は3桁の大台に乗った頃には

身長が再び伸び始めたのです。



それから半年が過ぎ、

序の口力士・鞠乃山として国技館の土俵を踏んだあたしは

力士として日々稽古に精進し、

猛稽古と筋肉の鎧が重ねられていく事によって、

体重は180kg台へと増加し、

また身長も190cmと言う巨体へと変貌していきました。

鏡を見てもそこに映し出されるのは女性ではなく、

紛れもない力士の姿でした。

そして、

シュッシュッ

シュッシュッ

「あっあはっ

 あっ

 あっ

 でるぅ…」

日課になっている稽古後のオナニーは

あたしは陸の上で暴れるトドのごとく、

自分のオチンチンを握りしめながら身を震わせると、

粘り気が強くなった精液を吐き出すようになってしまったのです。

「はっはっはぁぁ…

 はぁぁ…

 はぁぁ…」

シュシュッシュッ…

喘ぎ声とともにAYAに向かって射精をしていると、

ガラッ

いきなり兄弟子が部屋に入ってきました。

あの晩、土俵で倒れているあたしを担いでこの部屋に運んでくれた兄弟子・美麗山です。

筋肉と脂肪の肉塊と化してしまったあたしとは違い、

美麗山の体は体脂肪は少なく筋肉質で、

中性的なイケメンも手伝ってか幕下力士でありながら人気があります。

「あっ、

 ごっつぁんですっ」

突然入ってきた兄弟子の姿に

あたしは慌てて椅子から腰を上げて野太い声で挨拶をすると、

ポンッ

美麗山は盛り上がったあたしの肩を叩き、

「稽古もそこそこにオナニーか」

冷やかすようにして話しかけます。

「………」

その言葉を聞いて急に恥ずかしくなったあたしは黙って頷きますが、

オチンチンを握っている手には射精したばかりの精液が垂れていたのでした。

「あぁ…」

それをみたあたしは慌ててティッシュでふき取りますと、

「ふぅ…」

美麗山は大きく息を吐き、

「あたしも…

 ここで男に…力士になっていったのよ」

と女言葉で呟いたのです。

「!!っ」

衝撃的なその言葉にあたしは驚き、

「あのぅ…

 兄弟子、

 兄弟子も元は女なのですか?

と問い尋ねます。

「あら?

 知らなかったの?」

と美麗山はあたしを見つめます。

コクリ

その言葉にあたしは頷きますと、

「…三条久美ってアイドル知っている?」

とあたしに向かって美麗山は問い尋ねます。

三条久美…聞いたことがある名前でした。

しかし、その顔を思い出せないでいると、

「NMH48ってアイドルグループがあるでしょう」

美麗山はヒントのようなことを呟きます。

「あっ」

それを聞いて思い出しました。

数年前、AYAもデビュー当時そのグループに所属していて、

確かリーダーを決める投票で三条久美と言う子とAYA競っていました。

芸能ニュースなのに大事件並みの報道していたので良く覚えています。

「…その、三条久美がどうかしたのですか?」

あたしは問い返すと、

「AYAは怖ろしい女よ」

と美麗山は言い、

「あなたを含めてAYAに消された女は何人いると思う?」

とあたしに尋ねました。

「…AYAに消された女…」

美麗山の口から出た言葉と共に、

あたしの脳裏にあの夜、黒スーツの男がAYAに囁いた言葉が蘇ります。

「…まさか…」

それを思い出したあたしは思わず美麗山を見ると、

「くすっ」

美麗山は乾く笑い、

「そう、あたしもAYAに作り物のオチンチンを着けられた元・女…

 その三条久美よ」

と告白したのでした。

「あなたが…あの三条久美…

 なっななんで?」

衝撃の告白にあたしは驚きますと、

「ところで、

 いまの大相撲には本物の男性がどれくらい居るか知っています?」

と尋ねます。

「え?

 本物の男性って…

 まさか、あたしや久美さんのような人がもっと居るのですか?」

美麗山を見据えてあたしは問い返すと、

「ちょっと前に起きた不祥事で大相撲は壊滅的になったことは覚えているでしょう。

 でも、少し時が経ったら何事も無かったかのように復活した。

 何でだと思う?

 AYAの実家が裏で支えたのよ。

 知っていると思うけど、

 AYAの実家は旧大名家から連なる名家でね。

 明治の昔から大相撲を支えてきたわ。

 そして起きたあの不祥事。

 大勢の有望な力士が相撲界を去り、

 いくつもの相撲部屋が閉鎖の危機に瀕したとき、

 AYAの実家が資金面・人材面で支援したの。

 お金はともかく、

 人材面で相撲部屋を支援なんて簡単にはいかないわ。

 でも、AYAの実家はそれをやってのけた。

 女の子を力士に改造するって手法でね」

「そんな…」

美麗山の口から出たその説明にあたしは声を失ってしまうと、

「キーワードはAYAよ。

 お嬢様の癖に芸能界デビューを果たし、

 アイドルの仲間入りをしたAYA…

 当然、風当たりは強いし、イジメにもあったわ。

 だけど、AYAは奥の手でそれを跳ね返した。

 ふふっ、

 自分にとって邪魔な女を次々と消しに掛かったのよ。

 そして、彼女の毒牙に掛かった女達はみな

 作り物のオチンチンを無理矢理着けさせられ、

 相撲部屋へと放り込まれると、

 無理やり男のオナニーを覚えさせられて力士へと変身させられたの。

 AYAにとって邪魔になった女は例えマネージャであっても許さなかったわ、

 AYAのお陰で力士が居なくなった相撲部屋に活気が戻り、

 さらに実家の後押しもあって大相撲は大復活。

 ウチの部屋にも居るけど、

 いまの大相撲人気を煽っているイケメン力士達…

 彼らはみな元女の子よ。

 まぁ元がアイドルばかりだから、

 力士にされてもイケメンになってしまうんだけどね」

と美麗山は相撲界で密かに進んでいる事実を告げたのです。

「そんなことが…

 じゃぁ、デブな力士は」

とあたしはイケメン力士達とは正反対の力士の存在について尋ねると、

「あぁ、あれは…正真正銘の男性力士達よ。

 子供のころからお相撲の稽古をしているとあぁなっちゃうのよ。

 もっともごく一部の例外も居るけど」

そう美麗山は答えます。

「そうですか…

 じゃぁ、あたしはその例外なのですか」

その答えを聞いたあたしはショック受けつつ

鏡に映る自分の姿を見つめると、

「くす…」

美麗山は自傷気味に笑い。

「あなたAYAと結婚したあのシロクマケータイの社長と良い仲だったんだって?

 ご愁傷様ね。

 あの男が社長で居られるのもAYAの実家のお陰。

 AYAの父親に才を認められ、

 AYAの夫になることで順風満帆の人生を送れるのに何を血迷ったのかな。

 まったく、兆単位のお金を借りてケータイ会社を買収なんて事、

 一介の男が出来るわけないでしょうに」

美麗山は彼のことを言うと、

「彼の悪口を言わないで!」

とAYAのものになってしまった彼を庇おうと声を荒げます。

すると、

「さぁ、廻しを締めなさい鞠乃山。

 AYAに勝ちたいんだろう」

と言葉を次第に男言葉に切り替えながらあたしに声を張り上げます。

「え?」

美麗山の豹変振りにあたしは驚いていると、

「おらっ、

 可愛がってやる」

ぱぁん!

締めた廻しを大きく叩き、

土俵に上った美麗山は気合を入れて見せます。

「はぁ…

 これじゃ、

 前門の狼、

 後門の虎だよ」

そんなボヤキを呟きながらあたしは腰を上げると、

ぱぁん!

「おねがいしますっ」

廻しを叩き土俵に上って行きました。



つづく