風祭文庫・アスリート変身の館






「部屋を継ぐ者」
(第1話:弥生の場合)

作・風祭玲

Vol.011





「何であたしが!!」

壁に掛かるセーラー服を軽く揺らがしながら、

香川弥生の怒鳴り声が部屋中に響き渡った。

「もぅ弥生にしか頼る相手はいないのだよ、

 頼む!!」

その弥生の足下で床に頭がめり込むくらいに頭をつけ懇願しているのは、

弥生の父親でもあり、

この相撲部屋「男山部屋」の親方でもある香川大介であった。

「弥生ちゃん、この部屋を潰さないためにもお願い、

 ひと肌…じゃなかった、一つお父さんの力になってあげて」

大介に続いて弥生に向かい頭を下げているのは弥生の母でもあり

また「男山部屋」おかみさんでもある香川良子だった。

「何度、頼まれてもイヤと言ったらイヤよ」

両親に懇願されてもかたくなに拒み続ける。

香川弥生は現在17才、西和女学園高等部2年に在籍し、

水泳部のキャプテンとして部を引っ張って、

じり貧だった水泳部を全国大会へと導いた功労者であった。

しかし、その弥生に青天の霹靂といえる事態が発生していたのであった。



「なにも言うな、力士になってくれ…」

こんな突拍子もないことを弥生に頼み込んだのは

彼女の父である香川大介であった。

大介はこの男山部屋に所属してた大関・男錦であったが、

しかし、ここ一番に弱く、

その結果、幾度も優勝を逃し横綱にこそなれなかったが、

でも、5回の優勝を経験を持つ経歴は誇っていいものであった。

そんな大介がどういう縁があってか

先代親方の娘であった良子を娶ったために引退後、

この男山部屋の親方になったが、

しかし、その頃を境に部屋の勢いは徐々に下がり始め、

先代から引き継いだときには幕内力士を幾人も擁していた名門・男山部屋も、

ついに一人の力士も居なくなってしまい、

棟続きの稽古場から四股を踏む音が途絶えて

かれこれ1年以上が経とうとしていた。

もしもこのまま新弟子を獲得しなければ、

ついにはこの男山部屋は閉鎖、

大介に与えられていた年寄り株を返上しなければならない。

まさに大問題に直面していたのであった。

無論、大介もじっと手をこまねていたわけではなかった。

全国を渡り歩き、有望な人材を集めたのだが、

相撲部屋での生活はいまの気風に合わないためか、

一人逃げ二人逃げとその結果は惨憺たるものだった。

そして、追いつめられた大介は

ついに一人娘である弥生を男山部屋の力士にすることで

この危機を乗り越えようと考え始めていた。

無論、この話を大介から聞かされた妻の良子は最初大反対をしたが、

しかし、弥生の体格の良さや

水泳の傍らでやっている柔道での実績を考える内に

その考えを徐々に変え、

最近では大介と共に頼み込む始末であった。

だが、弥生自身は学校を辞め、

水泳を捨て、

男と偽り、

そして裸に廻し一丁の出で立ちで屈強の男達と相撲を取るのは

とうてい受け入れられる者では無かった。

当然、弥生は大反対だった。



結局両親の説得はひと月続いたが、

しかし、弥生の姿勢は一向に変わらなかった。

が、その弥生が態度を変えたのは、

約ひと月続いた大介の説得を振り切った翌朝、

トイレに起きた弥生が、

ふと誰もいない稽古場を覗いてみたとき、

稽古場で首をくくろうとしている大介の姿が目に入ったのあった。

「ぱっパパ!!」

それを見た弥生は大慌てで

大介のもとに駆け寄りやめさせようとしたが、

「離せ!!

 ここを潰すくらいなら死んだ方がマシだ」

と叫び弥生の言うことを聞かなかった。

そして、騒ぎを聞きつけた良子も駆けつけると、

やっとのことで大介を引きずりおろし、

土俵の上で大介は肩をふるわせて泣いた。

初めてみるそんな父の様子に弥生はついに決心をすると

「わかったわ…あたし…力士になる…」

とひとこと告げ、

そのまま自分の部屋へと戻って行った。



その日、弥生は学校を休んだ。

そして翌日、

大介は弥生の代理として学校へ弥生の退学届けを提出した。

勉学と相撲との2足草鞋は出来ないことはないのだが、

しかし、女であることと隠して力士になるのためには、

弥生をこのまま学校へ通わせるわけにはいかなかったためであった。

無論、学校関係者は弥生の突然の退学届けに一応に驚き、

そして真意を大介に尋ねたが、

しかし、大介は弥生の一身上の都合を押し通して受理させた。

こうして、弥生は力士への道を歩み始めたのであった。

学校から戻ってくるなり、

大介は

「弥生…稽古場に来なさい」

と言葉短く弥生に告げ、

スタスタと稽古場のほうへと向かって行く。

「はい」

そんな大介の後姿に

弥生は元に握った拳をつけながらクッと何かをこらえた後、

険しい顔をして稽古場へと向かっていった。

もぅ今日以降、

着ることが無くなるであろうセーラー服を靡かせながら

弥生は稽古場へと向かうと、

稽古場の桟敷には大介と良子が並んで座り

そして、大介の前に黒い布束が置いてあった。

「うっ」

布束を見た弥生の表情が見る見る硬くなっていく。

弥生のその表情を見た大介は大きく頷き、

「いいか、弥生、

 これは今日から力士として稽古していくお前と共にするものだ」

と低い声で告げる。

「………」

弥生がじっと見据える布束とは、

力士が腰に締めるあの”廻し”であった。

「ま・わ・し」

布束の名称が弥生の脳裏を駆け回り、

と同時に相撲場で髷を結い

汗と砂まみれになって稽古をしていた力士達の姿を思い出すと、

「あっあたし…

 あの人たちと同じ姿に…」

弥生は廻しを締め、大銀杏を結う力士となった自分の姿を思い浮かべる。

「いっいやっ…」

汗と砂まみれの力士になる…

この現実に弥生は恐怖するが、

しかし、

「覚悟は出来ているな、弥生。

 今日からお前はこの部屋の力士だ。

 父さんは親方、

 そして、母さんはおかみさんと呼ぶように、
 
 さぁ、その女の制服を脱げ」

威圧するような声で大介は弥生にセーラー服を脱ぐようにと告げる。

「うっ…」

大介の言葉に弥生は一瞬ためらったが、

「さぁ」

大介に促されると、

「は…はぃ」

まるで大介に背中を押されるかのように

弥生は震える手でセーラーのタイを掴んだ。

シュルリ…

弥生の胸からタイが取り外されると、

弥生の手は上着を手がける。

そして、スカートを脱ぐときには一瞬ためらったものの、

弥生は制服をすべて脱いでしまうと、

「……」

下着姿で大介の前に立った。

しかし、

「何をしている。

 下着もすべて脱ぐんだ。
 
 力士は廻し以外なにも身に着けてはいけないんだ」

と諭されると、

「は…い」

弥生は泣きそうな声で返事をしながら下着に手を掛けた。

その途端、

「なんだ、その声は!!

 力士が泣き言をいうなっ」

大介の容赦ない声が響くと、

クッ

弥生は歯を食いしばりながら下着とブラを取り、

大介の前にその肉体を晒す。

水泳で鍛えられ、

出るところと、引っ込むところが明確な

プロポーションのいい肉体が大介の前に晒されると、

「うっくっ(かぁぁぁ)」

親とはいえ一糸纏わぬ裸体を晒していることに

弥生は歯を食いしばり、目を背けるが、

しかし、大介はそんな弥生の事情など構うことなく

折りたたんである廻しを手に取ると、

「股を開け」

と命じる。



シュルッ…

弥生の股間に廻しが通る。

「あっ」

ヒタッ

下着しか当てたことが無い弥生の股間に硬くごわごわした廻しが当てられると、

「これを持て」

と大介は弥生に命じて廻しの端の片方を持たせると、

黙々と弥生の身体に横廻しを巻いていく、

そして、良子の見守る中、

弥生の腰に一重二重と廻しが巻きついていくと、

最後に

グイッ!!

ギュッ!!

大介の手で廻しが締め上げられた。

ミシッ!

「うっ」

弥生の股間はきつく締め上げられ、

ついに弥生の股間に力士の象徴である廻しが締められてしまった。



大介によって締められた真新しい廻しは幕下力士用の黒染めされた木綿の廻しで、

廻しは堅いのが普通だが、

しかし、この廻しは染めの工程が入っているために若干柔らかくなっていたために、

弥生の柔らかい肌には負担がかからないモノであった。

無論、弥生にとって廻しはかつて部屋が活気に溢れていた頃、

興味を持ったことがあったが、

しかし、女の子である弥生には簡単に触れるモノではなく、

いつも眺めているだけの存在だったことを、

自分に締められた廻しを見てふと思いだした。

「あっありがとうございました」

廻しを締めた後、

弥生は大介に向かって頭を下げると、

「よしっ

 では髷を結う、
 
 そこに座りなさい」

と大介は弥生に力士の証である髷を結うことを告げた。

「はい…」

廻しを締められて開き直ったためだろうか、

その時の弥生には大介の言葉に反発はせず、

背を向けその場に正座をした。

すると、

「力士なら胡座をかかないか」

と大介の声。

「はいっ」

その声に弥生は慌てて胡座を組むと、

ヒタッ

弥生の肩まで伸びた髪に大介の手が触れた。

ビクッ!!

その感覚に弥生は一瞬身体を強ばらせると、

ギュッ!!

弥生の髪は強く引っ張られ、

その髪に瓶付け油と蝋を練り合わせた力士用の油が塗られ始めると、

やがて弥生の髪に満遍なく行き届いた。

すると、大介は弥生の頭に髷を作り上げていく。

キュッ

髷が結われ、

そして、きれいに髪が切りそろえられると、

弥生の頭には力士の象徴である髷が出来上がっていた。

「うんっ

 立派な力士だ」

廻しを締め、

髷を結った弥生の姿に大介は満足そうにうなづくと、



「あっあの…

 ちょっと、すみません…」

突然、弥生はそういい残して桟敷を飛び出すと、

そのままバスルームへと飛び込み

洗面台にある鏡に自分の体を映した。

すると、そこには見慣れたせーラ服や、

水着姿の自分ではなく

黒廻しを腰に締め、

そして頭には髷を結う力士の格好をした女が映し出されていた。

「こっこれがあたし…

 あたしなの…」

衝撃的な自分の姿に弥生は呆然とすると、

幾度も鏡の中の自分に向かって手を伸ばす。

そして、

いま自分の腰を締め付けている廻しと頭の髷を手で触ると、

ジワッ

鏡の中の自分の目に涙が浮かび上がった。




「うくっ

 あたし、お相撲さんになっちゃった。
 
 うぅっ
 
 お相撲さんになんてなりたくないよぉ」

自分の衝撃的な姿に弥生は鏡の前で座り込み、

そして、髷が結われた頭を振りながら泣き続けていると、

「弥生ちゃん…」

そんな彼女に声を掛けたのは他ならない母親の良子であった。

「まっママ…」

良子の姿に弥生はなみだ目で見上げると、

「辛いのはみんな一緒よ」

良子はそう言いながら弥生の露になっている肩をたたき、

「今は思いっきり泣きなさい。

 でも、ここを出たらもぅ泣いてはだめよ」

と囁きながら弥生を思いっきり抱きしめた。

「あたし…」

「うん大丈夫、
 
 弥生は強い子だから、

 どんな相手でも投げ飛ばしてしまうわ」

「そっ

 そぅ?」

「そうよ、

 これまでの弥生は偽りの姿よ、
 
 本当の弥生はどんな相手でも負けることの無い強い子」

「うん…

 でも」

「なぁに?」

「あたし…お相撲さんになっちゃうのよ。

 女の子じゃ無くなっちゃうのよ」

そう弥生は女でなくなることを強調すると、

「そうねっ

 お父さんよりも強くなってくれるんでしょう?」

と良子は尋ねた。

「いっいいの?」

「えぇ…

 その代わり、お父さんよりも強くなって、
 
 必ず横綱になるのよ、
 
 約束ね」

良子はそう言うと小指を差し出し、

弥生の小指と固く握り合う。

「さぁ、

 柴田さんが待っているわ…
 
 一日も早く立派なお相撲さんになって、

 パパに…親方に見せてあげなさい。

 この部屋はあたしが守っていますってね」

弥生に向かって良子はそう告げると、

目から流れていた涙をふき取った。



「じゃぁ、ママ…

 じゃなかった、おかみさん、

 行ってきます」

「はいはい、

 頑張るのよ」

立ち上がった弥生はそういい残すと、

廻しを締めた尻を晒しながら稽古場へと戻っていった。

そして、弥生が稽古場に戻ると、

この間に着替えたのか、廻し姿の大介が土俵の上に立ち、

そして戻ってきた弥生に向かって

「良いか弥生、
 
 いまから女であることを忘れろ。

 相撲以外のことは考えるな。
 
 勝つことのみを生き甲斐にしろ」

と力士としての心得を告げ、

「土俵に上れ!!」

弥生に向かって命じた。

「はいっ」

大介の言葉に弥生はそう返事をすると、

一歩…

彼女の細くて白い足がこれまで入ることを許されなかった土俵の中へと踏み込んだ。

シャリッ…

巻かれた砂が弥生の足を軽く刺激する。

「あっ

 あたし…
 
 土俵に入ったんだ」

その瞬間、弥生は一線を越えてしまったことを実感すると、

もぅ昨日までの生活に戻れないことも実感する。

しかし、大介は感慨にふける弥生にそんな暇を与えることなく、

「なにをぼさっとしている。

 稽古をするぞ!」

と言い放つと、

「四股50回!

 すり足50回!
 
 テッポウ50回!」

と弥生に告げ、四股を踏ませはじめた、

そしてそれが終わると、

「よしっ

 こぃっ!」

と土俵に仁王立ちになると弥生に向かって三番稽古を告げた。

「はいっ」

大介の声に突き動かされるようにして、

弥生は腰を落とすと大介に向かって渾身の力を込めてぶつかった。

しかし、引退して時間がたっているとはいえ、

大関まで行った大介を弥生が一歩も動かすことが出来なかった。



こうして、新弟子・弥生がこの相撲部屋に誕生したが、

けど、弥生に相撲を取らせることに成功した大介達の次の悩みは

弥生を新弟子検査にパスさせることだった。

そう、新弟子検査をパスさせるには

身長170cm・体重70kg以上なくてはならないのだが、

ただ、弥生は身長では何とかクリアしているものの、

しかし、体重が不足している上に水泳で鍛えているとはいえ、

女である弥生の胸には女の証である

2つの膨らみと隆起した乳首が目立っていたのであった。

「仕方が無いな…」

一計を案じた大介は弥生の食事に密かにある薬剤を混ぜて彼女に与えた。

そして早速、弥生の体に薬剤の効き目が現れると、

「あっ熱い…」

激しい稽古が終わった後、

弥生は体の中から湧き出してくるような熱さに悶え苦しみはじめだした。

「うっくっ

 熱い…
 
 熱いよぉ
 
 かっ体が燃えるみたい
 
 それに、
 
 ちっ力が
 
 あぁ沸いてくる
 
 うっうぅ…
 
 だっだめっ
 
 我慢が出来ない」

稽古後の休息にもかかわらず、

弥生は湧き出してくる熱さから逃れようと、

一人稽古を始める。

そして、体を動かせば動かすほど弥生のパワーは沸き、

それを消費させるためにまた弥生は稽古を続けていた。

そして、それに併せるように弥生の食欲は旺盛さを増し、

以前の数倍の食事をすべて平らげるようにまでなってしまうと、

「はぁはぁ

 はぁはぁ…
 
 うしっ」

バァァン!!

弥生は廻しを自分の汗でずぶぬれにしながらも稽古をし続けた。

もはや、その姿は相撲に狂っているとしか言いようが無いくらい

猛稽古に打ち込んでいたのであった。

また、

ミシッ…

メリッ…

ムクッ…

旺盛な食欲と連日の猛稽古は弥生の骨格は再び成長させ、

膨れあがる筋肉と共に弥生を作り替えていったのであった。

「あっあぁ…

 こんなに…
 
 太って…
 
 手も…
 
 足も…」

弥生は日に日に太くなっていく自分の身体の姿に恐れ戦いたが、

しかし、変化していく自分の身体の姿は最初は弥生に恐怖を与えたものの、

その一方で彼女の心の中に確実に闘争心を確実に植えつけていき、

やがて、湧き上がる闘争心が恐怖感を飲み込んでいった。

こうして、弥生の華奢な女の体は大介との猛稽古と相まって

力士特有の骨太なガッチリした身体へと変貌していった。

この弥生の変貌ぶりは大介をも驚かせるモノだった。

「よしこいっ!」

「ぅしっ!!」

バシン!!

ズザザザザザ…

先日まで大介を一歩も動かすことが出来なかった弥生が、

身体が力士化して行くにつれ少しずつ大介を動かし始め、

体の筋肉が出来上がると、

大介と互角の相撲を取ることが出来るところまで成長した。


      
また、水泳部時代はパッチリした二重瞼で周囲の人気者だった弥生の目が、 猛稽古によって一重に潰されてしまうと、 吹っ切れたかのように心も男性化していった。 こうして大介からランニングを命じられても 廻し姿のままで稽古場から出るのを躊躇っていた弥生だったが、 しかし、その廻し姿でのランニングを平気でこなすようになり、 タッタッタッ!! 廻し姿で町内を巡る力士の姿はいつの間にか景色の中に溶け込んでいた。 無論、近所の人たちも廻し一つでランニングしているこの力士が、 ほんのこの間まで水着を身に纏い、 まるで妖精のごとく舞っていた少女だったという事に気づく者は誰も居なかった。 こうして、力士へと変貌していった弥生は新弟子検査の前日には体重は90kgを超え、 また乳房も厚く盛り上がった胸板に溶け込み目立たない程度になってしまっていた。 その甲斐あって弥生は無事新弟子検査に合格し、 力士として次の場所でデビューすることになった。 しかし、それからも毎日のように弥生の猛稽古は続いた。 そして向かえた場所初日、 大介は弥生と軽く稽古を付けると国技館へと向かった。 国技館の支度部屋にはすでに大勢の新弟子達が訪れていて、 廻しを締めたり四股を踏んでいたりして準備をしていた。 大介と弥生はあいている一角に落ち着くと、 弥生は早速着流しを脱ぐと、大介の手伝いで廻しを締め始めた、 弥生の廻しはこれまでの稽古による汗と砂ですっかり色が落ち白灰がかっていたが、 それは弥生の猛稽古の証でもあった。 やがて、新場所1日目が始まり支度部屋で待機していた新弟子達は 2人づつ土俵に向かい、そして勝者と敗者に分かれていった。 時間が過ぎついに弥生の番になった、 大介は土俵に向かう弥生の肩をパンッとたたいて送り出した。 『東・香川弥生・東京出身・男山部屋』 これが、水着を脱ぎ捨て、 廻しを締めた少女が大相撲にデビューした瞬間だった。 弥生の初場所の結果は、 初日相手に土俵際までに攻められたが、 すかさず下手投げで初白星。 2日目は残念ながら黒星になってしまったけど、 場所としては9勝6敗とまずまずの成績だった。 それから数場所後再び国技館に戻った場所から弥生が帰る途中、 セーラー服姿の東女の女の子達が乗り込んできた。 弥生は反射的に目をそらしたが、彼女たちは弥生の大柄の身体に気づき、 「わっ、見てみて、おすもうさんよ」 と一瞬ざわめいたがすぐに別の話題へと移ってしまった。 弥生は窓ガラスの反射した彼女たちの姿を眺めているうちに、 彼女たちの中に知っている顔を2・ 3見つけた、 弥生は懐かしさに一瞬話しかけようとしたが、 手に持っている廻しの入った包みに気づくと彼女たちに背を向けた。 やがて、電車は弥生の下車駅に着くと 弥生はそそくさと電車から降りようとしたとき、 女の子の一人が 「ねぇ、香川さんのその後誰か知ってる?」 と言った。 弥生はハッとして振り向いたが、 電車のドアは閉まり彼女たちの答えを聞けないまま電車は走り去っていった。 弥生は部屋に戻ると、 もぅ着ることができなくなった、 東女時代のセーラー服や水泳部の水着を取り出して そっと「あたしはここにいるよ」とつぶやくと キュッ っと水着を握り締めた。 そして、それから5年後、 弥生はついに相撲界の頂点に上り詰めることが出来たのであった。 おわり