風祭文庫・アスリート変身の館






「翔太」


作・風祭玲

Vol.984






「きりーつっ」

「礼っ!」

その日の授業を締めくくるホームルームが終わり、

ザワッ

部活動に出る生徒や帰宅する生徒で教室はごった返してくると、

「芝崎ぃ」

教壇で名簿などを纏めていた担任は翔太の名前を呼ぶ。

「なんですか、先生」

その声に芝崎翔太は面倒くさそうに立ち上がると、

「ちょっとこっちに来いっ」

と手招きで翔太を呼びつけ、

その呼びつけに翔太はふてぶてしく向かうと、

「芝崎ぃ、

 お前、いつまで髪を伸ばしたままにしておくんだ、

 さっさと床屋に行ってこいっ」

と後襟にまでかかる程に伸びている翔太の髪を注意する。

「えーっ?

 まだそんなに伸びてませんが?」

教師の指摘に翔太は髪の毛の一部を引っ張ってそう主張すると、

「向こうの学校ではどうだったかは知らないけど、

 ここでは男子は坊主頭が基本だ。

 お前1人が伸ばしたままだと他の生徒に悪影響が出るんだよ」

日に焼けた顔を翔太に近づて教師は警告をすると、

「先生、

 それって古くないですか?」

と翔太は呆れた顔で教師を見下ろしてみせる。



教師の身長は173cm、

一方、翔太は184cmと教師と翔太の慎重さは歴然であった。

それどころか、痩身かつ長身の翔太のスタイルは、

芸能人を思わせるイケメンのルックスも手伝ってか、

この学校に転校してきて以来、

女子生徒達の関心の的となり、

彼の靴箱には毎朝告白の手紙が置かれるようになっていたのであった。

「古いって、

 お前!」

翔太が掛けた言葉に教師は不愉快そうな表情を見せると、

「用件は以上ですか?

 では、失礼します」

そんな教師に向かって翔太はそう言うと

さっさと自席へと戻り、

机の上で準備してあったカバンを手に取るなり教室から出て行く。

「あっこらぁ!

 今週だぞ、

 今週いっぱいまで待ってやる。

 来週、その髪をしてきたら問答無用で刈り上げてやるからな」

カバンを持った手を肩に掛けて去っていく翔太に向かって教師は怒鳴ると、

「さて」

成り行きをじっと見ていた制服を窮屈そうに着た巨漢の男子が腰を上げ、

「先生、あまり声を上げると血圧が上がりますよ」

と教師に向かって一言告げた後、

労うようにポンと肩を叩くと廊下へと出て行く。



「まったく、これだから田舎者供は…」

振り向いて立ち止まり、

頬を赤らめて自分を見送る女子生徒達を一瞥しながら翔太は廊下を進み、

そして、靴箱のところまで来るなり、

「はぁ、

 さっさとオヤジが転勤してほしいよなぁ」

とぼやいてみせる。

ここは東京から遠く離れた県の沖合に浮かぶ静かな離島。

漁業と観光が主な産業のこの島に国家公務員の父の転勤に伴って

翔太の一家が移り住んできたのはひと月前のことだった。

渋谷や六本木まで電車で一本。と言う立地条件に住んでいた翔太にとって

これら繁華街とは全く縁のないこの島への引っ越しはまさに青天の霹靂。

引っ越しを喜ぶ妹は対照的に翔太は東京に1人残ることを主張したものの、

金銭的な余裕がないこと、

現在住んでいる自宅を父親の知り合いに貸すことが決まっていたために、

翔太は嫌々ながらこの島に連れてこられてしまったのであった。

「オヤジがまた東京に転勤になれば俺は…」

あまりにもの辺鄙さにへきへきしている翔太はそう決心を新たにすると、

ヌッ!

そんな翔太の前にいきなり黒い影が立ちはだかったのであった。

「ん?」

まるで通せんぼをするかのような影に翔太は不愉快そうな顔をすると、

ムンズっ

いきなり影から伸びた腕が翔太の後襟を掴み上げた。

「なっ、何をしやがるっ」

突然の事に翔太は影に向かって怒鳴り飛ばすと、

パッ!

いきなり掴まれていた後襟が離され、

翔太は自由になった。

だが、

その直後、

スッ

目の前の影がいきなり下に下がったと思った途端っ

ドォッ!

がら空きの翔太の胸に強烈な一撃が食らわせられ、

バンッ!

者の見事に吹っ飛んでしまった翔太は靴箱に叩き付けられてしまったのであった。

「ぐほっ!」

翔太の口から思わず声が漏れ、

ズズズズ…

崩れるように座り込んでしまうが、

「てめーっ」

ギラッ

復讐心に燃える目が自分を吹き飛ばした影を睨み付けると、

ダッ!

「このぉ!」

と影に殴りかかった。

だが、

「ふんっ!」

バァァン!

影は慌てることなく腰を落とし

飛び出した翔太の顔面に向かって次の一撃を喰らわせると、

ドカッ!

またしても翔太は靴箱に叩き付けられてしまったのであった。

「うぐぐぐ…」

二度の衝撃で受けた痛みに翔太は蹲って耐えていると、

「おいっ、

 下山ぁ、

 あんまりマジになるな」

と影に向かって話しかける声が響く、

「し、下山だとぉ」

聞こえてきた名前に翔太は聞き覚えがあった。

「おめーっ、

 クラスの下山かぁ?

 舐めたことをしてくれるじゃねーかよ」

呼吸するのもやっとの痛みの中、

翔太はよろめきながらも立ち上がるが、

「ほぉ、

 見た目とは違って

 根性はあるみたいだな」

とまた別の声が響く。

そして、

ユラリ…

翔太の目の前に立つ影が2つに3つにと分裂していくと、

クラスの中で一番の巨漢である坊主頭の下山隆と、

同じ坊主頭で名前はまだ知らない隆よりやや小さめの男、

そして、背は翔太と同じくらいなれど、

骨太で厳つい肩を持つこれも坊主頭の男の姿があった。

「だれだ?」

初対面の男を睨み付けながら翔太は尋ねると、

「あははっ、

 君とこうして話をするのは始めだよね」

それを聞いた厳つい肩の男はからを揺らして笑い、

「僕の名前は角田力、

 君と同じ2年だ」

自分を指さしてそう自己紹介をすると、

「1年の田原本克美」

と隆よりやや小さめの男も追って自己紹介をして見せる。

「許さねぇ…

 お前等全員ぶちのめしてやる」

隆達3人に向かって翔太はそう声を上げると、

「ふむ、いいだろう。

 だが、ここでケンカをすると他に迷惑が掛かる。

 君の気が済むまで暴れるところに連れて行ってやる」

と隆は言うと、

ゾロゾロと3人は歩き始めた。

「あっ待てよ、

 逃げるのか」

それを見た翔太は怒鳴ると、

「逃げる?

 だから俺たちの後についてこい、

 1対1でぶちのめしてやる」

と翔太を睨み付け隆は嗾けえる。

「待てよ!」

去っていく3人を翔太は追いかけていくと、

3人は校舎に沿って歩き、

程なくして四隅から立ち上がる4本の柱にさせられた粗末な屋根が掛かる土俵が姿を見せた。

「なんだこれは?」

はじめて見る土俵に翔太は小首を捻ると、

その土俵に人影が有り、

「ふんっ!」

バシーン

「ふんっ!」

バシーン

と日に焼けた裸を晒し、

土色の褌を腰に締めた男がひたすら足を上げては下ろしているのが目に入ってきた。

「なんだコイツは

 こんな裸の格好で何をやって居るんだ?」

男を怪訝そうな目で翔太は見ると、

翔太達に気づいたのか褌の男は動きを止め、

「なんだ?」

翔太を指さし隆達に尋ねる。

「え?

 スカウトですよ、

 キャプテン」

男に向かって力は事情を話すと、

「なるほど」

男はニヤリと笑い、

土俵脇に置いてあったタオルを手に取りながら、

「これから土俵を使うんだろう?」

土俵から降りていく。

「なるほど、

 ここでタイマンをしようってか

 受けて立つぜ」

そう言いながら翔太は土俵に向かおうとすると、

「おいっ、

 土俵に上がるのなら靴を脱げ」

と隆が翔太に指示をする。

「んだとぉ!」

その指示に翔太は怒鳴り返すが、

「靴を脱いでくれないか、

 素足の方が暴れ易いからね」

気迫のこもった凄みのある声が響くと、

「うっ」

彼の気迫に押されか翔太は靴を脱ぎ素足になると土俵に立った。

「うん

 じゃぁ僕たちも…」

それを見た力は笑みを浮かべて頷くと、

「克美くんっ、

 準備はいいかい?」

と土俵に着いてから姿が見えなかった田原本克美を呼び出した。

すると、

「うっすっ」

その返事と共に小屋の中から制服を脱ぎ土色の褌を締めた克美が出てくるなり、

ポンッ!

っとその腰に巻かれた褌を叩いて見せる。

「はぁ?」

それを見た翔太は呆気にとられると、

「さっき自己紹介したばかりだけど1年生の克美君だ。

 君はどんな方法でも構わない。

 彼と思いっきり勝負してくれ、

 この克美君が負ければ僕たちの負け、

 どんなお詫びでもしよう。

 だけど、僕たちが勝ったら僕たちの言うことに従って貰うからね」

克美を紹介しながら力は提案をすると、

「いいのかい?

 俺を甘く見ると痛い目に遭うぜ」

気合い満々の翔太は息を吐き、

「ふんっ、

 弱い奴ほど五月蠅いんだよ」

と言いながら克美は土俵に上る。

そして、その直後、

「じゃぁ遠慮無く」

ダッ!

翔太は克美に襲いかかるが、

「ふんっ!」

バシーンッ!

突進してきた翔太目がけて克美は張り手を一発喰らわせると、

その動きを止め、

さらに左から

右から、

左右左右と腕を回転させるように繰り出す猛烈な張り手を翔太に浴びせ始めた。

「おぉ、早速出たか、

 克美君、お得意の張り手」

まさに棒立ち状態で克美の猛攻を喰らう翔太を眺めながら

力達は笑うと、

ドサッ!

崩れるように翔太は克美の足下に崩れ落ちてしまう。

「ん?

 もぅ終わりか?」

イケメンの顔を真っ赤に腫らして倒れている翔太に向かって力達は問い尋ねると、

「くっ、

 なんだよ、

 ちくしょう!

 年下ごときに…」

よろよろと膝を立て、

翔太は立ち上がると、

「おいっ、

 俺をぶん殴ってみろ」

と克美は翔太に話しかけながら仁王立ちになり腕を下げてみせた。

「くっ、

 気に入らないな、

 そういう俺を見下げた態度がよっ!」

それを見た翔太は克美に向かって殴りかかり、

バシッ

ガシッ

バシッ

ガシッ

克美の胸や腹、そして顔を幾度も殴りつける。

そして、

ガシッ!!!

強烈一発をお見舞いすると、

「はぁはぁはぁ

 ざまーみやがれ」

肩を揺らしながら笑うが、

「んー?

 それでお仕舞い?」

翔太の猛攻を受けたはずの克美は表情一つ替えずに頬を掻くと、

「殴るっていうのはこうするんだよ」

と言う言葉と共に克美の腕が動くと、

パァァァァン!!!

翔太の横面が叩かれ、

まるで吹き飛ばされるように翔太は土俵から放り出されてしまった。



「うっ」

どれくらい気を失っていたのか翔太は目を開けると、

「やぁ、気づいたかい?」

と力が話しかけてきた。

「俺は?」

力の顔を見ながら翔太は飛び起きると、

土曜脇で寝かされていたのか

「ふんっ」

バシーン

「ふんっ」

バシーン

横の土俵の中では翔太をはり倒した克美が足を上げ腰を落とす四股を踏み続けているのが目に入る。

「いたたた

 なんだよ、アイツは…」

頬の痛みを抑えながら四股を踏み続けている克美を見た翔太はぼやくと、

「さて、勝負だけど、

 君の負けで良いかな?

 それとも、彼ともう1勝負をするかい?」

と力は尋ねてきた。

「うっ」

力の言葉に翔太は返す言葉を失ってしまうと、

「ちっ、

 ちくしょうっ、

 俺の負けだよ。

 どうにでもしろって」

とやけになりながらその場に仰向けになってしまった。



「なるほど、

 君は負けを認めた。と言うわけだね」

それを見た力は大きく頷き、

「じゃぁ、僕たちの言うこと…いや、お願いをを聞いてくれるね」

と念を押す。

「あぁ、なんでも聞いてやるよ!」

その言葉に翔太はやけになると、

「じゃぁ、この書類に名前を書いて」

と一枚の紙とボールペンを翔太の前に差し出した。

「ん?

 なに?

 入部申込書?」

出された紙に書かれた文句を読み上げると、

「そう、

 君はこれから相撲部に入部して貰う」

と力は言う。

「えぇ!」

それを聞いた翔太は驚いた声を上げるが、

「なんでも願いを聞いてくれるって約束…」

と力は指摘すると、

ジロッ!

翔太の背後に褌を締め日に焼けた肌を晒す隆とキャプテンの新島益男が音もなく立ち。

「うっ」

もはや入部申し込み書に自分の名前を書くしか翔太に遺された道はなく、

「くぅぅぅ…

 なんで相撲なんて」

と悔し涙を流しながら翔太は紙に名前を書いたのであった。

「よーしっ、

 ご苦労だったな、

 隆に力、そして克美」

翔太が名前を書いた申し込み証紙をひったくるようにして益男が取り上げ労うと、

「これで団体戦が出来ますね」

と克美は弾んだ声で尋ねた。

「まぁな、

 人数なら揃ったけど翔太はまだ相撲が取れてない。

 おいっ、翔太ぁ、

 早速特訓だ。

 お前が満足に相撲が取れないと俺たちに要らない負担が掛かるからな」

と益男は座り込んだままの翔太に向かってそう言い放つと、

「そんな格好じゃぁ相撲は取れないな、

 翔太に廻しを締めてやれ」

と益男は隆達に命令をした。

「え?

 え?

 廻しって?」

それを聞いた翔太は目を丸くして驚くと、

「これのことだよ」

と言う克美の言葉と共に翔太の前に砂と汗の臭いが漂う布束が差し出され、

「さぁ、制服を脱いで、

 廻しを締めて上げるから」

そう言いながら翔太に迫る。

「やっやめろ、

 だれが褌なんて!」

迫る克美を押し退けて翔太は逃げだそうとするが、

「おいおいっ、

 お前は相撲部員だろう?

 相撲部員が廻しを締めないでどうするんだよ」

と言う言葉と共に隆の腕が背後から翔太を担ぎ上げると、

「翔太を脱がせぇ!」

と言う声が響き、

「うわぁぁぁ、

 やめろぉ!」

翔太の悲鳴も虚しく彼は素っ裸に剥かれてしまうと、

「おっ、結構でかいな」

「あっ固くなてきた」

「廻し締められるのがそんなにうれしいんか」

の声を浴びせられながら、

ギュッ!

翔太の色白の股間をしっかりと廻しが締め上げてしまったのであった。

「うわぁぁぁ…」

自分の股間を覆う土色の廻しを見下ろしながら翔太は愕然とすると、

「さぁ、廻しを締めたら稽古だ稽古!」

翔太が廻しを締めたのを見届けた益男は声を上げ、

「しっ!」

「しっ!」

「しっ!」

「しっ!」

土俵の中で廻しを締めた4人と1人の男達は四股を踏み始める。

そして、激しいぶつかり稽古を経て、

パンッ!

手打ちと共に稽古が終わったときは

「はぁはぁはぁ」

翔太は半ば意識がもうろうとしていたのであった。

「ようっ、

 翔太ぁ、お疲れ」

土俵の中でグッタリとしている翔太に克美が話しかけると、

「都会育ちなのに僕たちの稽古に着いてきただけでも立派立派」

と力は翔太の気力を褒め称える。

すると、

「おいっ、

 翔太ぁ」

益男が翔太の髪を鷲づかみにして顔を持ち上げると、

「この髪は相撲には邪魔だぞ、

 相撲部員だったらツルツルのゾリゾリの五厘狩りにして貰わないとな」

と話しかけ、

「帰りに床屋に寄って刈って貰え」

そう命令をしたのであった。



翌朝、

「え?

 うそぉ!」

「なんで?」

「あらら」

全校の女子達の注目を浴びながら、

「邪魔だ、

 どけ」

「通してくださいな」

廻し姿の相撲部員が恒例となっている朝練ランニングを行うと、

その列の最後尾には廻しを締め、白い肌を晒す翔太が、

五厘に刈り込んだ頭までを真っ赤にしてその列に着いていたのであった。

「なんで、こんな事に…」

まさにさらし者となってしまったことを恥ずかしく感じながら翔太は走り、

「まぁ、翔太ったら相撲部に入ったの?」

「なんでまた、

 でも相撲だなんて格好悪いよ、お兄ちゃん」

「父さんは良いと思うけどな

 とにかく頑張るんだな」

昨夜、相撲部に入ったことを知った家族が見せた反応が脳裏に浮かぶと、

「はぁ…

 こんな格好、向こうの連中には見せられないな」

と翔太は東京を去るときに自分を見送ってくれた友人達の事を思い起こす。

しかし、

そんなことを思い出している暇もなく、

「うりゃぁ!」

バシーン!

「せいっ!」

ズシッ!

「悔しかったら押し返せ」

翔太は相撲部の猛稽古に飲み込まれてしまうが、

元々翔太の身体も相撲に向いていたのか、

力達も驚くほどにスタミナとパワーを蓄え始め、

合宿などを重ねていく内に翔太の肉体は大きく変化していたのであった。

そして、

「ふんっ!」

バシーン!

テッポウ柱を大きく揺るがすほどになった翔太の肉体は

屋外での稽古のおかげで見事にまで日に焼け、

身長は少し伸びて187cm、

体重は2倍近い138kgと増えてしまい、

また、猛稽古によって流れた汗と砂で肌の色と同化してしまった廻しを締めたその姿は、

かつてのイケメンの面影はなくなり、誰が見ても相撲部員としか見えなかったのであった。

また日中の授業は翔太にとって稽古と稽古の間の休憩時間となり、

翔太は廻し姿のまま机に突っ伏すようになってしまうと、

「あーぁ、

 せっかくのイケメンだったのに…」

「すっかり、相撲部に染められちゃったね」

「あぁなっちゃうとねぇ…」

そんな翔太を横目で見つつ女子生徒は残念そうに話し合う。

しかし、そんな声は翔太に届くことはなく、

朝に夕方にと翔太の稽古は続き、

あの日ボロ負けした克美との三番稽古では

「まいったぁ!」

ついに克美が降参を宣言する程までになったのであった。



「ふーっ」

「ふーっ」

稽古後、

土色の廻しを締め直し、

吹き出した汗をながしながらしきりに肩を肩を動かして息を整えていると、

「よう、翔太ぁ、

 お前もすっかり強くなったなぁ」

と力は話しかける。

「あっありがとうございます」

その言葉に翔太は太い声でそう返しながら、

「でも、妹に汗臭いから寄るなっ

 言われてます」

と続けると、

「あはは、

 その言葉は相撲部員の勲章だ。

 とは言ってもちゃんと身体を洗えよ」

それを聞いた力は笑い飛ばしてみせる。

そして、

「今度の大会みんなでがんばろうな」

と言うと、

「はいっ」

翔太は大きく返事をしたのであった。



おわり