鬱蒼と木々が茂る神社の境内… その境内の一角に設けられた土俵を大勢の観客が取り囲み、 そして、その土俵の上では廻し姿の二人の男が睨みあっていた。 「はっけよーぃ」 男と男の間を割り込むように行事が声を上げると、 ゆっくりと軍配が下げられる。 グッ その軍配を睨みつけながら二人は体に力を込め、 互いに軍配の向こうに居る相手を意識する。 1秒 2秒 何事もなければ瞬く間に過ぎていく時間を長く感じながら そのときが来るのを辛抱し、 そして 「のこった!!」 の掛け声と同時に放たれた弓の如く二人は飛び出し、 相手よりも早く互いの廻しを取りに行く。 ドォッ! 「勝負あり、 東ぃ!」 一瞬の間を置いて勝負が決まると、 「うしっ!」 野島雄太は勝ち名乗りを受けていた。 「よしっ あと一つ勝てば優勝決まりだな」 優太は地元高校の相撲部に所属し、 その豪腕から地区大会、県大会などでの優勝は当たり前、 国体ですら上位を伺う選手であった、 無論、この相撲大会ではどの勝負も開始から20秒以内に勝利という文字通り快進撃を続け、 当然の如く優勝を確信しているのであった。 「ふっ、 貰ったな」 悠然と腕を組み優太は自信満々いそう呟いていると、 「果たしてどうだか?」 の声と共に雄太とは幼馴染の葛生久美子が姿を見せ、 雄太の快進撃に疑問を投げかけてきた。 「あぁ? なんだ、久美子っ お前も見に来ていたのか」 未だに土が付いていない廻しをパンパンと叩きながら雄太が話しかけると、 「相撲馬鹿の雄太が負けるところを見たくてね」 と久美子は鬱陶しそうに言い返す。 「まったく素直じゃないなぁ、 今年も俺が勝つに決まっているだろう? 小学校の頃から数えて… 5回目の優勝だな」 あくまで勝つ気で居る雄太は余裕の表情で言うと、 「ふ〜ん、 じゃぁあの人に勝つつもりなんだ」 久美子は意地悪そうに聞き返した。 「あの人?」 久美子のその言葉に雄太はぐるりと土俵を見ると、 「え”?」 一瞬その表情が硬くなった。 「あら、気づいてなかったの? あの人が決勝の相手よ、 うふっ、 本職に勝てるかなぁ?」 そんな雄太を小馬鹿にするように久美子がささやくと、 「へっ、 何を言っているんだよっ、 相手が誰だって、 俺が勝つっ!」 空元気を装っているのか、 雄太は大きく胸を張るが、 だが、 「どせいっ」 ズシッ! 次の決勝戦で雄太が相手にするのは、 鍛え上げた肉体に濃紺の廻しを締め、 そして、頭に髷を結った本職の力士であった。 「近くの街に巡業に来ているそうだ」 「ほぉ幕下って聞いているけど、 いやぁ、なかなかの体じゃないか」 「こんなところで大相撲を見られるとはねぇ」 「相手は野島の小僧なんだろう? あはは、 吹っ飛ばされてお仕舞いだよ」 見物人たちの間からそんな声が漏れ響いてくるのを雄太は耳にすると、 「ちっ、 これじゃぁ負けられないじゃねぇかよ」 持ち前の負けん気が表に出てきて闘志を奮い立たせる。 「まったく馬鹿なんだから…」 そんな雄太を久美子は不安げに見るが、 だが、雄太は久美子に目もくれずに土俵へと向かっていった。 「はっけよーぃ」 決勝戦。 土俵の雄太は小山ほどもある力士を睨みつける。 だが、 ゾクッ… これが本職の迫力なのか、 力士から立ち上ってくる闘気に思わず掬われそうになるが、 「のこったぁ!」 行司のその声と共に雄太は力士に向かって飛び込んでいった。 フンッ バシィィ!! 飛び出し雄太の動きを止め張り手に、 「だぁ!」 雄太は土俵間際まで飛ばされるが、 「なろぉっ」 スグに体制を立て直すと 自分の相撲スタイルである相手の懐へと飛び込んでいく、 ズシッ! 「しめた」 雄太を見くびり 最初の張り手で土俵外まで吹き飛ばす作戦だったのか、 本職という割にはがら空きだった正面より雄太は飛び込むと、 力士の廻しを掴んだ。 一度掴んだものは絶対離さない。 スッポンの如く雄太は廻しにかじりつく。 一方、力士も真剣である。 「このぉ」 スグに雄太の廻しを掴むと、 ズンッ! 雄太を押しつぶしにかかった。 「くぅぅ、 堪えろぉ、 このまま向こうの腰は浮かせるんだ」 ズシッ ズシッ 「うっ うぐぐぐ」 体重をかけ、 押しつぶしてくる力士を雄太は必死に支え、 「堪えろぉぉぉ」 なおもそう言い聞かせながら ジリジリ と手を力士の後ろ廻しを取りに行く、 ググッ そんな雄太の手の動きを知ってか力士は脇を締めて封じようとするが、 ガシッ 力士よりも一足早く雄太は廻しを取った。 「よしっ とったぁ! しかも腰はこっちが低い!!」 劣勢の中の優位を雄太は感じ取ると、 「くぅぅぅ」 全身の力を込めて力士を持ち上げたとき、 フワッ 向こうが力を抜いたのか、 一瞬、力士の体が浮くと、 雄太は思いっきり太い脚を払った。 すると、 「おぉっ」 ズシンッ 観客の驚きの声と共に雄太の目の前に力士は転がり、 と同時に勝ち名乗りを受ける。 だが… 「ん?」 勝負の最後、 雄太は力士がわざと崩したように感じると、 「…あいつ、 わざと俺に負けたのか?」 と土俵から去っていく力士を睨みつけ、 「おいっ、 ちょっと待て!」 声を張り上げながら力士を追いかけていった。 ススス… 雄太の声が届かないのか、 力士は人ごみの中を巧みに通り抜け、 そのまま神社の奥の院へと向かっていく、 「一体、 何所に行こうって言うんだ? 更衣室とは反対だろう」 力士が向かっていく方向に雄太は疑問を持つが、 力士はさらに進み、 やがて、この神社のご神体である泉の傍へと向かっていった。 そして、懇々と清水が湧き出す泉のほとりに着くと同時に、 シュルリ… いきなり力士が締めていた廻しが解けると、 羽衣の如くその体にまとわりつき、 また、屈強の巨体が見る見る萎んでいくと、 腰がくびれ、 胸が突き出していく、 そして、結い上げていた髷が解け、 長い髪が舞い降りるように伸びると、 瞬く間に力士は羽衣を揺らす裸体の女性へと姿を変えた。 「うそぉ! 女だったってぇ」 ついいましがた自分と対戦をしていた力士が女性であることに 雄太はショックを受けると、 クルリ… 女性は振り返り、 『ふふっ、 お前、なかなか強い闘気を持っているではないか、 気に入ったぞ、 どうだ、お前のその気を少し私に分けてくれぬか』 女性… いや、少女は羽衣を纏うだけの全裸状態であるにもかかわらず、 雄太の傍へと近づいてきた。 「うっ、 なっ何者なんだよっ お前っ そんな、裸で恥ずかしくは無いのか」 恥じらいもせずに近づいてくる少女に向かって雄太は怒鳴るが、 『ふふっ、 この姿は陸の上を移動するのに便利だからしているのに過ぎない、 なぜなら、わたしはこの社の主だからな』 雄太の首に手を絡め、 少女はそう囁くと雄太に口付けをしようとした。 「うわっ 俺に触るな」 少女のその行為に驚いた優太は、 慌てて突き飛ばすと即座に身を引いた。 だが、 『あら、 素直じゃないのね。 でも、そうさせる強い心… わたしは好きだ』 なおも悠然と少女はそう言うと、 さらに迫ってきた。 「よっ寄るなぁ! 来るなぁ!」 雄太は必死になって逃げ惑うが、 だが、元々狭い神社の奥、 しかも唯一の逃走口を少女に押さえられているために、 ついに泉の淵にまで追い詰められてしまった。 『ふふふふ…』 「くぅ… 男なら思いっきりぶちかましてやるのに…」 笑みを浮かべる少女を見据えながら雄太が臍をかんでいると、 「雄太っ なにやってんのっ」 と久美子の声が響き渡った。 「あっ」 『!!っ』 響き渡ったその声に雄太・少女共に振り返ると、 「きゃっ!」 ほぼ、裸体の少女の姿を見るなり久美子は悲鳴を上げ視線を逸らす、 「あっ 俺は何もしてないからなっ」 誤解を恐れてか、 雄太は潔癖であることを口にするが、 「雄太っ あんたって人は、 女の子になんて事をするのっ、 この変態!!!」 と怒鳴り声を上げながら、 久美子は少女を押しのけ、 雄太の横面を叩こうとした。 だが、 『お前も面白い奴だ』 押しのけられた少女は空中を横滑りしながら久美子の前に立つと、 『ちょっとした座興を思いついた』 と言うなり、 ヒタッ 久美子が着ているワンピースに手を添えた。 すると、 シュワッ! 瞬く間に久美子のワンピースは下着もろとも霧消してしまうと、 「きゃっ!」 久美子はいきなり裸体にされたことに気づき、 悲鳴を上げる。 だが、少女は動じることなく、 そのまま自らが纏っていた羽衣を久美子に纏わせると 『・・・・・』 小さく念呪を唱えた。 すると、 シュルル… 久美子に纏わされた衣が見る見る姿を変え、 そして、露になっている股間に纏わり付くと、 ギュッ! 漆紺の廻しとなって締め上げる。 「あっ あんっ」 股間を締める廻しの感覚に久美子が思わず声を漏らすが、 スグに 「うぐっ!」 目を剥き、 苦しみ始めると、 グッグググググ ムクムクムクムク! その華奢な体が盛り上がりはじめ、 胸板は分厚く、 腕は太く、 脚は強靭に変化し、 そして、 シュル 頭に髷が結い上げられてしまうと、 「ふんっ、 どすこいっ!」 久美子は幕内力士のような姿になって雄太の前に立ちはだかった。 「くっ久美…」 幼馴染の変身に雄太は呆気に取られていると、 『ふふふ… 逞しいだろう、 この力士に勝てたなら、 見逃してあげるわ』 と少女は告げ、 『さぁ、 思いっきり相撲を取ってきなさい』 とその体をピシャリと叩いた。 「そんな… そんな、さっきの奴でさえぎりぎりだったのに、 こんな奴に俺が勝てるなんて…」 闘気を放ちながら迫ってくる力士を凝視しながら、 雄太は青くなるが、 「ふんっ」 力士は大きく高く片足を上げると、 ズシン! ズシン! と四股を踏み、 そして、顔を叩いて気合を入れると、 「どせいっ!」 と雄太に向かって襲い掛かってきた。 「うわぁぁぁ!」 迫ってくる力士に雄太は思わず逃げ出すと、 『もぅ… 真面目にやってよ それじゃぁ相撲にならないじゃない』 少女は飽きれた口調で文句を言い、 そして、 スッ 小さく手を振った。 すると、 ボコッ ボコッ 逃げ惑う雄太の周囲に円形の得俵が土の中から突き出し、 瞬く間に土俵を作り上げた。 「うっこれは…」 土俵の中に自分が居ることを雄太が気づくと、 『土俵から出たら当然負けよ、 彼女を元の姿に戻したければ勝ちなさい』 と少女は告げる。 「くっそぉ!!」 少女のその言葉に雄太は歯軋りし、 そして、久美子が変身した力士を見据えると、 「待ってろ、 お前を助けてやる」 ついに覚悟を決めたのか、 雄太は2・3回四股を踏んで見せ構えた。 『さぁ、 はっけよーぃ』 これから始まろうとしている闘いにウキウキしているのか 少女は嬉しそうに声を張り上げると、 「ふんっ」 仕切り線をはさんで力士は前傾姿勢になる。 「くっ」 その姿に雄太も腰を落とすと、 『のこったぁ!』 少女の声が高らかに響いた。 「だぁ!!」 その声と同時に雄太は飛び出すが、 だが、雄太はセオリーにしている真正面から向かわずに 力士の横に取り付くと、 その脚を取りにいく 『あらあら、 どうしたの?』 それ見た少女はちょっと残念そうに意味を尋ねると、 「くっ、 真正面から立ち向かってもダメだろう、 だからこうして横から…」 と雄太はその意味を告げるが、 「むんっ」 力士は体制を崩されること無く、 軽く腰を振ると、 「うわっ」 あっという間に雄太は振り払われ、 尻餅をつきそうになった。 だが、 「っと」 持ち前の粘りで体勢を立て直し、 再度取り付こうとするが、 バシィィーン!! 力士が放った張り手に吹き飛ばされると、 そのまま土俵外へと放り出されてしまった。 「うわっ」 勝負になることも無く、 放り出された雄太は転がっていくと、 『はいっ あなたの負けっ』 と少女の声が響く。 「くそぉ! まだだ」 久方ぶりに味わう敗北に、 雄太は歯軋りをしながら立ち上がり再勝負を申し出ると、 『ふふっ、 いいわ、その意気よ、 でも、負けたぶんのハンデは付けさせてもらうわ』 少女はそう言うと、 「うぉぉぉっ」 グッググググ 力士は声を張り上げ、 その肉体がさらに膨れ、 強靭なものへと変化し始めた。 「うっうそだろう?」 一回り大きくなった力士の姿に雄太は肝を潰すと、 『あなたが負けるごとに 彼女はドンドン強くなっていくわ、 だけどあんまり強くなってしまうと、 女の子だったときの記憶をも無くしてしまって 一生、力士のままになってしまうかもよ』 と少女は悪戯っぽく言う。 「そんな…」 それを聞いた雄太はショックを受けるが、 キッ! そんな少女をにらみ付けるとスグに視線を戻し、 何も言わず土俵の中へと入っていった。 『がんばってねぇ はいっ はっけよーぃ』 応援というより皮肉に聞こえる声援を受けながら、 雄太は腰を落とすと、 目の前に腰を落とした力士を見据えた。 「ちくしょう… 久美子っ まってろぉ」 そんな言葉を呟きながら 『のこったぁ』 少女の上げた声と共に力士に向かって飛び込んでいく、 だが、 バシーン! ドスーン! ベシッ! 幾度も挑戦しても雄太は勝つことが出来ず、 それに合わせるようにして、 久美子の体が強靭に… そして巨体へと変化して行く。 「ふぅ ふぅ」 体重200Kgはゆうに超しているだろうか、 文字通り小山のような巨漢の力士と化してしまった久美子の姿を見て 雄太はついにその場に座り込んでしまった。 「無理だよ、 こんなのを倒すなんて…」 絶望に駆られながら雄太は臍を噛んでいると、 「ゆっゆうた…」 と力士から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。 「え?」 その声に雄太は顔を上げると、 「だっ大丈夫… 雄太はお相撲が つっ強いんでしょう だから… 諦めないで、 相手が誰であっても 倒して…」 と力士は… いや、久美子は優しい視線を投げなけながらそう雄太に話しかける。 『あら… 元の意識が出てきちゃった。 もぅダメじゃない出てきては…』 それに気づいた少女は パチン と指を鳴らすと、 「あっ いやっ 消えちゃう… あたしが うぐっ ふぅ ふぅ」 力士の表情がたちまち消え、 「ふんっ」 ズシーン ズシーン それを振り払うかのように四股を踏み始めた。 「ちくしょう… よくも久美子を…」 少女の情け容赦ない行動に雄太は心底から怒ると、 『さぁ、 お相撲を続けよう。 言っとくけど、 今度負けたら、 彼女は戻らないわよ』 と少女は次の勝負が最後であることを告げた。 「望むところだっ」 その声に雄太は気持ちを奮い立たせると、 立ち上がり、 「さぁこいっ」 と土俵の中から怒鳴った。 『そう来なくっちゃ』 闘志満々の雄太の姿に少女は微笑むと、 『はっけよーぃ』 と声を張り上げる。 「変な作戦ではだめだ… こうなったら正面から行くしかない」 後が無い勝負に腰を落とした雄太は自分の力が一番出る、 正面から挑むことを決心する。 『のこったぁ』 その声が響くと同時に、 「ふんっ」 雄太は一直線に飛び出すと、 真上から襲い掛かる張り手を巧みに避けつつ、 力士の懐へと飛び込んでいく。 そして、 ガシッ これまで満足に掴むことさえ出来なかった廻しを掴むことに成功すると、 廻しに喰らい付いた。 「くうぅぅぅ」 全身の力を込めてそ優太は力士を持ち上げようとするが、 「うわっ おっ重い」 200kgを越す巨体を持ち上げたことが無い雄太にとって その感覚は想像を絶するものであった。 だが、 「久美子をぉ 戻すんだぁ」 雄太は負けずになおも持ち上げようとすると、 ググッ 力士の廻しが小さく上へと動く、 すると、 トッ 一瞬、力士の脚が小さく動いた。 と同時に、 グッ ググググッ 覆いかぶさるようにその巨体が雄太に圧し掛かってくる。 「ぐわぁぁぁ! 潰されるぅぅ」 さらに掛かってきた荷重に雄太は悲鳴を上げるが、 だが、掴んだ廻しは離さず、 さらに持ち上げた。 すると、 グラッ 小山のような巨体が横へと動き、 その動きに雄太はとっさに足をかけた。 フッ! 一瞬、力士の体が大きく動き、 その直後、 ドスン! 崩れるように力士は土俵上に転がってしまうと、 『勝負あり!』 それを見届けた少女の声が響き、 シュワァァァァ… 土俵に転がる力士の体から水が噴出すると、 その巨体が見る見る縮み始めだした。 そして、 「うっ うぐっ」 力士が縮みきったとき、 そこには廻しを締めた姿の久美子が倒れていたのであった。 「久美子ぉ」 元に戻った久美子の姿に雄太は慌てて駆け寄ると、 『やったじゃないっ』 と少女は言う。 「!!っ てめぇ! よくも俺達を小馬鹿にしてくれたな 覚悟しろぉ」 少女の声に雄太は振り返り、 スグに殴りかかろうとするが、 「やめなさい」 それを制するように久美子の声が響いた。 「なにっ」 思いがけないその声に雄太が振り返ると、 パシーン! 久美子の平手が雄太の頬を叩いた。 「なっ何するんだよ」 頬を押せながら雄太が怒鳴り返すと、 「この人はこの神社の神様よっ 雄太っ 相撲の強さであんたがあんまり調子に乗っているから 忠告をしに来てくれたのよ」 と久美子は雄太に言う。 「え? 神様?」 久美子の言葉に雄太はキョトンとすると、 「あなたまさか、 この豊玉姫神社の神様知らないで相撲をしていたの? この神社の神様は豊玉姫、 またの名前をあの竜宮の乙姫様であり、 水の神様なの。 そして相撲は地と水を鎮め 五穀豊穣を願う神技から来ているのっ」 と説明をするが、 「? ?」 そのような細かいことは雄太にとって理解を超えるものであった。 すると、 『いいのですよ、 ちょっとわたしの悪戯が度を過ぎていたのかもしれませんね、 でも、雄太さん。 相撲に強いのは良いのですが、 あまり調子に乗らないで下さい。 世の中には強い人はいくらでも居るのですからね』 さっきまでとは打って変わって、 少女は優しい表情でそう告げると、 『さて、 戻りますとしますか』 と言うなり、 シュルッ! その姿をあるものへと変えると、 ザバッ!! 水の音を立てながら泉の中へ飛び込んでいった。 「………見たか、今の…」 少女が消えた後、 雄太が恐る恐る久美子に尋ねると、 「そうねぇ… 水の神様なんだから… 人魚でも不思議はないわね」 と呟くが、 ジッと自分を見つめる雄太の視線を感じると、 「なっなによ…」 と言い返す。 「いや、 お前いつまで廻しを締めているのかな…」 そんな久美子に雄太は顔を赤くしながら、 久美子が廻しを締めたままの姿で居ることを指摘すると、 「!!っ 雄太のバカァ!!」 久美子の叫び声と共に、 パチーン!! 頬を叩く音が響き渡っていった。 Ps。 「よーしっ、 今日の稽古はここまで、 おいっ、 野島っ さらに相撲に粘りが出てきたな」 夕方、その日の稽古の終わりを相撲部監督が告げると それと同時に雄太をほめる。 「いやぁ、 ちょっと稽古をね」 そのほめ言葉に雄太は頭を掻きながら返事をすると、 「まぁ、いいっ 稽古は積めばつむほど強くなる。 おいっ、 他の者も野島のようにしっかりを稽古をしないとだめだぞ」 雄太の言葉に監督は大きくうなづきながらそう言うと、 「また今日も居残り稽古か、 まっ稽古熱心もいいが、 体を壊すなよ」 と言い残して、 引き上げていくほかの部員と共に稽古場から出て行った。 そして、 一人残った雄太は黙々と四股ふみ、テッポウを繰り返していると、 ガラッ 閉じられていたドアが開き、 制服姿の久美子が稽古場に入ってきた。 「ようっ 待っていたよ」 久美子に姿を見た雄太はタオルで体を拭きながら話しかけると、 「もぅ… スケベそうな顔をしないでよ」 顔を赤らめながら久美子はそう言い返し、 稽古場の隅で制服を脱ぎ始めた。 そして、スカートを取ると、 腰に締められた廻しが姿を見せると、 「乙姫様に締められた廻し、 何度解いても出てくるんだな…」 と感心した表情で言う。 「もぅ… 困っちゃう… この廻しが勝手に締められると、 体があんなになっちゃうし…」 制服を脱ぎ廻し一本になった久美子がそう文句を言った途端、 ムクムクムク! いきなり体が大きく膨れ始め、 そして、頭に髷が結われると、 「ふんっ どすこーぃ」 瞬く間に久美子は巨漢の力士へと変身してしまった。 「やれやれ、 乙姫との勝負はまだまだ続くのか、 はぁ今夜もお前を倒すまでは帰れそうもないな」 目の前に立ちはだかる力士を見上げながら雄太はため息をつくと、 「よーしっ、 土俵に上れ、 勝負だ!」 と声を張り上げた。 おわり