風祭文庫・アスリートの館






「契り」
(前編)


作・風祭玲

Vol.542





「見合って、

 見合って」

その言葉と共に行事の采配がおろされると、

グッ

ググッ

照明に照らし出された土俵の上では廻しを締めた巨体を折り曲げ、

髷が結われた頭2つ互いに突き出した力士二人が睨み付け合う。

「はっけよーぃ」

緊張感を引き締めるかのような掛け声と共に

ツンッ

互いに真下の仕切り線に片手を着き、

そして、もぅ片方の手をつけるタイミングを見計らう。

フゥ…

フゥ…

巨体の肩が息を整えるかのようにゆっくりと動き、

スゥゥゥーッ

大きく息を吸い込んだとき。

「残ったぁ!!」

行事の叫び声があがり、

采配が力士達の視界から消えた。

ダン!

それを合図に力士・薙乃海

いや睦美は爆発したかのごとく飛び出し、

迫ってくる相手力士の懐俯角に飛び込んで行く。



「睦美…

 実は頼みがあるんだ…」

それは2週間前程のことだった

結婚して5年の夫・亮一との営み後

タバコの煙を揺らせながら亮一はそう切り出してきた。

「え?

 なに?」

絶頂の余韻を味わいながらベッド上の睦美は聞き返すと、

「うん

 実はな…」

何か迷っているらしく亮一は口をにごらせる。

「なっなによっ

 言いたい事があったらハッキリ言ってよ」

亮一のそんな態度に起き上がった睦美は迫ると、

「うっうん、

 その頼みというのは…
 
 その…
 
 なっ
 
 お前に…
 
 相撲取りになってもらいたいんだ」

と亮一は睦美の反応を確かめるようにして告げた。

「はぁ?」

思いがけないその言葉に睦美は驚くと、

「実はな…

 今度のボーナス…
 
 あまり期待できそうにないんだ」

と亮一はすまなさそうに言う。

「えぇ!?」

「いやぁ、

 睦美も知っているだろう?
 
 今年の夏に俺の会社が合併したの」

「うっうん」

「マスコミは事業の拡大だとか持て囃したけど、

 でも、実際は赤字の押し付けられたようなものでな、
 
 向こうの会社…
 
 老舗というだけで内部はボロボロだったんだよ」

「そんな、

 それで、なんで亮一がこんな目に遭うの?」

「合併後、リストラだなんだかんだ結構大ナタを振るったんだけど、

 それでも、負債が解消できなかったらしくて」

「えぇっ!?」

「とにかくスマンっ」

顔をしかめる睦美に亮一は手を合わせる。

「じゃっじゃぁ…

 ローンどうするの?
 
 余分なお金そんないないよ」

手を合わせる亮一に向かって睦美はローンの支払いの事を尋ねると、

「うんっ、

 それでだ睦美っ
 
 お前に相撲取りになってもらってほしいんだ。
 
 ほらっ
 
 相撲って結構儲かるそうだし、
 
 なっ」

「はぁ!?」

と囁く亮一に睦美はあきれた顔をする。

すると、

「大丈夫だよ、

 場所が終わればちゃんと元には戻れると言うし、

 それに素性は明かさない事になってるそうだから」

「でっでも…」

「僕の頼み…

 聞いてくれるよね。

 なっ、頼むよ」

固辞する睦美に亮一は拝み始めると、

「もぅ…

 わかったわよっ」

胡坐をかきながら睦美は返事をした。

「あっありがとう

 それでこそ、僕の妻だ」

睦美のその返事に亮一は喜ぶと、

「でも、フンドシなんて恥ずかしいよ」

と睦美は呟く。

「そんな事無いよ、

 睦美の廻し姿、
 
 とっても似合っていると思うよ」

「やっやめてよ

 そんな事いわないでよ」

亮一の言葉に睦美は耳をふさぐが、

「なんで?」

と亮一はそのわけを尋ねる。

「だっだって

 お尻丸出しなんて恥ずかしいじゃない」

「別に恥ずかしがる事じゃないだろう?

 そのときには睦美は力士になっているんだから」

「それでもよっ」

睦美と亮一の話は夜遅くまで続き、

翌朝、

「じゃぁ、

 ここが申し込みをした相撲部屋だから、
 
 がんばってな」

の声と共に一枚の地図を渡して亮一は逃げるようにして家を出て行った。



「こっここ…ね」

亮一に渡された地図を頼りに

睦美は亮一が入門の申し込みをしたという相撲部屋に向かった。

『疾風部屋』

そう書かれた重厚な看板が掛かる建物の前に睦美は立ち尽くしていると、

「うしゃっ」

バシーン!!

「おらっ

 まだまだ」

「うしっ」

バシーン!!

稽古場と思える一角より、

何かを叩きつける音ともに男達の声が響き渡る。

ゴクリ…

内部より伝わってくる気迫に睦美は生唾を飲み込むと、

「やっ

 やっぱ…やめよう…
 
 お相撲なんてあたしには無理よ…」

その音に臆した睦美が回れ右をして立ち去ろうとしたとき、

「あのぅ…

 何か用ですか?」

と言う声が後ろから睦美に掛けられた。

「え?(ドキッ)」

背後から響いたその声に睦美は身の縮む思いをしながら振り返ると、

ドスーン!!

睦美の背後には漆紺の廻しを締めた筋肉の小山のような裸体が聳え立っていた。

「いっ」

汗と砂の匂いを漂わせながら聳え立つ裸体に睦美は目を丸くすると、

「先ほどからそこに立たれて、

 うちの部屋を覗かれていたようですが、

 なにか?」

「え?

 はっはい…」

頭の上の方から声が降ってくる声に

睦美は返事をしながら顔を向けると

そこには

「どうも…」

バラけた髷を結った力士の顔が睦美を見つめていた。

「あっ

 あっはいっ
 
 あっあの…
 
 はっ疾風親方はいらっしゃいますか?」

力士に見つめられながら睦美は思わず親方へのアポを求めると、

「あっ

 親方ですね。
 
 いま部屋の事務室に居ます。

 どうぞこちらに」

力士はそう返事をし、睦美を疾風部屋へと案内をした。



「しっ失礼します…」

力士に先導され、

若干怯えながら睦美が疾風部屋の敷居をまたぐと、

「うわっ」

これまでにTVなどで見てきた相撲部屋の世界が睦美の目の前に現れる。

「はぁぁ…TVで見たのとおんなじだ」

部屋の空気に圧倒されながら睦美は歩いていくと、

「あの、

 ひょっとして…

 あなた入門者ですか?」

と前を歩く力士は睦美に尋ねてきた。

「え?」

力士の言葉に睦美は驚くと、

「見れば判りますよ」

と力士は睦美に言う。

「そっそうですかっ

 あの、主人に言われたもので」

力士の指摘に睦美は総返事をすると、

「うふっ

 人に言われたから…
 
 で、相撲を取るのでは勝てませんよ、
 
 相撲を取るからには、
 
 絶対に勝つっ!
 
 という気迫が無くては…」

「絶対に勝つ。

 ですか」

「えぇ、

 そうですよ、
 
 じゃないとキツイですよ」

考え込む睦美に向かって力士はアドバイスをする。

「あっあなた…は」

そのアドバイスに何かを感じた睦美が思わず力士に声をかけると、

「はいっ

 わたくしもあなた同様、
 
 元は女性でした」

と振り返りながら力士は笑みを浮かべ返事をする。

「うそっ!」

力士のその言葉に睦美は目を丸くし、

「それだけの身体になるには

 相当長く相撲を?」

と力士の巨体を指差すと、

「いいえっ

 仮に猛稽古してもわたしの身体はここまで大きくはなれませんし、
 
 それに、元に戻るときも大変ですから…」

力士はそう返事をすると軽くはにかんだ。

「そっそうなんですか…

 でも、どうやって…」

力士の言葉に納得をしながらも睦美が疑問をぶつけると、

「それは…」

と力士は返答としようとしたとき、

「ん?

 どうした、焔風?
 
 お客さんか?」

の声と共に疾風部屋の事務室より一人の男性が顔を出した。

「あっ

 え?
 
 ええと、はじめまして、
 
 主人…じゃなかった
 
 三角亮一より話があったと思いますが、
 
 亮一の妻の睦美です」

男性に向かって睦美はそう紹介すると、

頭を思いっきり下げる。

「え?

 あっあぁ…
 
 三角さんの奥さんか、
 
 あぁ、話は聞いているよ、
 
 まぁ入りたまえ」

睦美の言葉に男性はそういうと事務室へと招き入れると、

「では失礼します」

睦美が事務室に入るのと同時に力士はそう返事をし、

ノッシノッシと去っていく。

「はははっ

 いきなり焔風に会ったのでは驚いたろう
 
 あぁ、わたしがこの疾風部屋を取り仕切っている、
 
 藤堂波邦だ」

事務室に入った睦美に男性、波邦は自己紹介をすると、

「あっどうも」

睦美は慌てて頭を下げる。

「ん?

 ははは…
 
 まぁそんな硬くならなくてもいい」

恐縮をしている睦美に波邦はそう言うと、

「さて、

 三角さんから話は聞いていると思うけど、
 
 奥さん、
 
 あなたはこの疾風部屋の力士になって相撲を取ってもらう事になるけど、

 それは構わないかな?」

と睦美に力士になる覚悟があるか尋ねた。

「………」

「いや、

 まぁ一応、あなたの意見を聞かないとね
 
 後で問題がこじれると厄介だから」

俯く睦美に波邦はそう理由を言うと、

サッ

睦美の前に入門申込書を提示し、

「覚悟があるなら、

 これを書いてくれ」

と言うと、視線を睦美から離す。

「………」

差し出された申込書を睦美はしばらく見つめた後、

「(そうよ、

  迷っている場合じゃないわ)」

と決意したのち、そこにサインをすると、

「おっお願いします」

と言いながら睦美は頭を下げた。

「よーしっ

 じゃぁ、君はたった今からわが疾風部屋の力士だ」

サインをした睦美の肩を叩きながら波邦は豪快に笑うと、

「さて、

 じゃあ、変身をしてもらおうか、
 
 相撲取りとして恥ずかしくない身体に…」

と囁く、

「(ビクッ)はっはいっ」

波邦の言葉に睦美は身体を固くすると、

「あはは、

 硬くなる事は無い、
 
 さっき、君を案内した焔風も先週までは普通の女性だったんだから」

と笑い飛ばした。

「そっそうですかっ」

「あぁ…

 ただし、一度力士になると、
 
 最低、2週間。
 
 まぁ場所が終わるまでは戻れないから、

 その辺の覚悟はして欲しい」

「はっはい」

「じゃぁ、

 これがそのクスリだ、
 
 変身の際に大汗をかくから薬を飲んだら浴室に行ってくれ。
 
 あっそうそう、服は全部脱いでな…
 
 下着つけていたりすると、破ってしまうからな」

と説明をしながら波邦は睦美に青い錠剤を一粒手渡すと、

「はっはぁ」

睦美は手のひらの上で転がる錠剤を見つめていた。



サッ

パサッ…

波邦に言われるまま浴室に続く脱衣所に入った睦美は着ていた服を脱いでいく、

もし、焔風のような姿になってしまったら、

最低2週間はこの服に袖を通せない。

「あんな姿になるのか…あたし…」

焔風のような姿になった自分の姿を思い浮かべながら睦美は服を脱ぎ、

全裸となる。

そして、

ゴクリ…

波邦より手渡された薬を水と共に飲み干し、

そして、間もなく始まる変身に備えて浴室の戸をあけようとしたとき、

いまの姿を映し出す鏡に睦美が気がついた。

「あっ」

亮一と結婚して以降、

あまり見なかった自分の裸体に睦美は見つめていると、

トクン

トクン

クスリが利き始めたのか睦美の心臓の鼓動が大きくなってきた。

「くはぁ

 はぁ
 
 はぁ」

次第に高くなる鼓動と、

締め付けてくるような息苦しさに

「あぁ…

 変身が始まったんだわ」

それが力士への変身の始まりであることに睦美は気がつくと、

ピシャン!!

浴室のドアを閉めた。

そして、

「ふぐぅぅぅぅぅ!!!

 くはぁ
 
 はぁ
 
 はぁ
 
 うぐぅぅぅぅ!!!」

絶え間なく襲ってくる苦痛と、

ムリッ

メリメリメリメリ!!!

睦美の身体を食い破るかのように盛り上がってくる筋肉、

そして、

バキッ!!

ゴキゴキゴキ

次第に太さと大きさを増してくる骨格、

滝のような汗を撒き散らしながら睦美は耐え、

その姿は確実に力士へと変身していった。



「ふぅ

 ふぅ
 
 ふぅ
 
 ぐはぁ!
 
 うぐぅぅぅぅ」

ビクンっ

ムリムリムリ!!

股間より生えた太い肉棒を勃起させる睦美の肉体は

身長は190cmを越え、

また体重も100kg近くの巨体となり、

その身体からは男の汗が噴出し続けていた。

「はぁはぁ

 はぁはぁ
 
 うぐっ」

変身が完了しつつある現在でも睦美の苦痛は続き、

浴室の中でその身を横たえていた。

そのとき、

ヌッ

脱衣所に人影が姿を見せると、

カララ…

脱衣所と浴室を隔てる戸が開く、

そして、

ヒタッ

砂がこびり付いた足が浴室に入ってくると、

身を横たえる睦美を見下ろすように廻し姿の焔風が入ってきた。

「そう、

 もぅ変身は終わってしまったのね」

筋肉が太く発達し、

男の巨体を横たえる睦美の姿を見ながら焔風はそう呟くと、

擦り傷が残る膝を曲げ、

そして、テーピングがされている手を伸ばすと

睦美の勃起している肉棒を握り締めた。

「うぐっ

 だっ誰」

出来上がったばかりの敏感な部分を握り締められて

睦美は気がつくと、

「あ・た・しよ」

っと焔風は睦美に声をかけ、

そして、ゆっくりと手を上下に動かし始めた。

「あっ

 あっ
 
 あぁ…
 
 なっ何をしているの?」

ビンビンと伝わってくる感覚に睦美は驚き、

身体を起こそうとする。

すると、

「ふふっ

 ダメよ、
 
 まだ起きちゃぁ、
 
 お相撲さんに変身したばっかりなんだから」

と焔風はやさしく睦美に告げ、筋肉で盛り上がる胸板を押さえた。

シュッシュッ

シュッシュッ

「あっ

 あぁ…なっ何をしているの?」

股間から絶え間なく響く快感に睦美は訴えると、

「うふふっ

 どうかしら?
 
 男のひとりエッチ…
 
 あなたってとっても敏感なんですね」

と焔風は指摘し、

徐々に激しく扱きはじめだした。

「あっあぁ

 やだ、
 
 やめて、
 
 お願い!」

手の動きにあわせて響く快感に睦美は身体を震わせながら、

焔風の行為をやめさせようとするが、

「だ・め・よ

 溜まっているものはちゃんと抜かないとね
 
 ほら、男の人ってこういう所は大切だから」

と焔風は告げる。

「あっあぁ、

 やめて、
 
 でっ出ちゃう
 
 何かがでちゃよぉ」

執拗に続く快感に睦美は身体の奥から湧き上がってきた欲求に身をこわばらせた。

「さぁ、

 出しなさい。
 
 出すのです。
 
 それを出す事であなたは本当の力士になるのです」

身体をこわばらせ始めた睦美に焔風はそう命じながら、

一層、激しく攻め始めた。

「あぁ

 いやっ
 
 いやっ
 
 やめて、
 
 あぁ
 
 うわぁぁ!!
 
 出ちゃう
 
 出ちゃう」

激しく攻める焔風の手淫に睦美は首を振り、

目を見開いて訴えるが、

「さぁ、

 出しなさいっ
 
 出して、身も心も力士になりなさい」

焔風はそう命じながら

ギュッ!!

睦美の肉棒を力強く握り締めた。

その瞬間、

「あっ」

睦美の頭の中に火花が飛ぶと、

ビクン!!

睦美の体内で作られた粘液は一気に肉棒の中を通過し、

ビュッ!!!

その頂点より噴水のごとく吹き上げてしまった。

「あっ

 あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ビュッ

ビュッ

ビュッ

幾度も白い放物線を描き、

睦美は射精をしてしまうと、

ペロッ

焔風は手についた睦美の精液を舐めつつ、

「あぁ、濃いわぁ、
 
 あなた、立派な力士になれるわよ」

と言いながら、睦美の足の間に自分の巨体を割り込ませ、

ぬぷっ

精液を吹き上げる睦美の肉棒を口に含んだ。

そして、精液を飲み込みながら、

「(うふふ…

  可愛がりのありそうな子なこと)」

と思いながら髷が結われた頭を上下に動かし始めた。

「あっあぁ…

 やだ…
 
 暖かいのが…
 
 あっ
 
 あたしのに
 
 絡みついて

 あっあぁぁ!!!」

初めて味わうフェラの感覚に睦美は叫び声をあげると、

2度目となる射精をしてしまった。



「はい、終わりです」

その言葉を残して床山が離れていくと、

「これがあたし…」

廻しを締め、髷を結い上げた睦美は

鏡に映る力士となった自分の姿を呆然と見つめていた。

すると、

「うん、格好良いよ

 とっても強く見える」

そんな睦美に焔風はそう話しかけると、

「そっそうかな?」

髷を結う睦美は顔を赤くした。

「えぇ、

 とってもよく似合いますよ」

睦美に身体を密着させ焔風はそういうと、

「さて、

 お前にシコ名を言い渡す」

とじっと様子を見ていた親方の波邦が声を挙げた。

「あっ」

波邦のその言葉に睦美は緊張すると、

スッ

波邦は一枚の紙を睦美に差出す。

そして、

「睦乃風…」

紙を受け取った睦美はそれに書かれている文面を読み上げると、

「そうだ、

 今日からお前は力士・睦乃風だ」

と波邦は睦美に向かって告げる。

「はっはい」

その言葉に睦美は返事をすると、

「うわぁぁ、

 とても強そうな名前ね」

焔風は喜びながら睦美の手を取った。

「はっはぁ

 ありがとうございます」

自分に言い渡されたシコ名に睦美、いや睦乃風は恐縮すると、

「はっはっはっ

 しっかりと精進しろよ」

と波邦は笑い声を残して二人も前から去っていった。



つづく