風祭文庫・アスリートの館






「パートタイム」


作・風祭玲

Vol.535





チチッ

チチチッ

秋も深まり木々が色づきだしたとある朝…

「ふんふんふん」

庭坂祐子は鼻歌交じりで朝食の支度をしていた。

銀行勤めの夫・友之と結婚してはや5年、

未だ子供には恵まれないモノの、

しかし、祐子にとっては充実した日々を過ごしていた。



ジリリリリ…

朝食の支度をほぼ終えた頃を見計らうように

寝室より目覚まし時計のベルが鳴る。

そして、一呼吸間を開けて、

のそっ

祐子の夫・友之がパジャマ姿のままで起きてくると、

「おはよー…」

あくび混じりに朝の挨拶をする。

「あっ

 おはよう、友之さん」

起きていた夫に祐子はいつもの元気さを振りまきながら返事をすると、

「………」

友之は少しの間、祐子の顔を見ると、

「うっうん…」

なにやらばつの悪そうな表情をしたのち、洗面所へと向かっていった。

ピクッ

夫のその表情に祐子はある直感が働き

そして、

「何かあたしに言うことがあるの?」

と洗面所から戻ってきた友之に聞き返した。

「え?」

祐子のその言葉に友之は少し臆すると、

はぁ…

小さくため息をついた後、

「うん…実は…」

と口を濁らせながらテーブルの席にき、

「………

 実はな…」

そう話しかけながら両手を組む、

「なっなんなのよっ

 なにか悪いことなの?」

そんな友之の態度に祐子は聞き返すと、

「はぁ…」

友之は一度ため息をつき、

「今日発表になると思うんだけど、

 俺の銀行が水菱と合併されることが決まったんだよ」

と呟いた。

「え?」

友之のその言葉に祐子は目を丸くして驚くと、

「あっ

 だからといって、
 
 俺がリストラされるわけじゃないど…
 
 ただなぁ…
 
 今度のボーナス…
 
 ほとんど期待できないと思って欲しいんだよ」

と友之は視線をそらしながら告げた。

「そっそうなの…」

友之のその説明に祐子は少しホッとしつつも、

しかし、不安そうな表情で返事をすると、

「うん…

 まぁな…」

友之は口数少なくうなずいた。

そして、少し間を開けた後、

「あっ

 でも、この家のローンの支払い、

 どうするの?」

と祐子は友之に8月に入居したばかりのこの家のローンについて尋ねた。

「うん、

 一応、低利の融資が受けられるそうなので、
 
 それを利用しようと思っている」

祐子の質問に友之は今回のボーナス分での支払いを

別のローンを組むことで乗り切ろうとしていることを告げると、

「それはダメよ」

と祐子は即座に否定した。

「え?

 でっでも…
 
 どうするんだよっ
 
 頭金で貯金は無いぞ」

祐子の言葉に友之は驚きながら聞き返すと、

「うっうん…

 大丈夫、友之さん…

 あたし、ある程度貯金があるから…それを充てればいいわ」

「え?」

その返事に友之は驚いた顔をしながら祐子を見ると、

「うふっ

 大丈夫っ

 心配しないで

 あっそれよりも時間…大丈夫?」

話をその話題から逸らすかのように祐子は話を変えると、

「うっうん、

 あっそうだ、
 
 それでな…
 
 ほらっ、明日からの出張、

 まぁ今度のこともあって、

 いろいろ調整することがあってな、
 
 2週間ほど家をあけることになりそうだ…」

と友之は明日からの出張が長期のであることを告げる。

「そっそうなの…」

友之のその言葉に祐子はやや明るい顔をしながら、

ピッ

TVのリモコンを押すと、

『…さて、今度の日曜日から始まる大相撲・九州場所ですが…』

とまもなく始まる九州場所についてスポーツコーナーのキャスターの声が響き。

「ふぅぅぅん…」

そのキャスターの声を横で聞きながら友之はパンを囓る。



「じゃぁ行ってくる」

スーツに着替え、

そして、書類が入った鞄を手に玄関に友之が立つと、

「いってらっしゃいっ、友之さん」

祐子は笑みを浮かべいつものように友之を送り出した。



バタン!!

その音共にドアが閉まり友之の姿が消えると、

途端、祐子の表情はキツくなり、

食事の片づけ、掃除など家事をこなし、

一通り片づいたところで、

「さ・て・と…」

と呟きながら祐子は髪を頭の後で纏め、

徐に自分のクローゼットを開けた。

そして、

ガサガサと音をあげる紙袋を取り出すと、

その中から丁寧に風呂敷に包まれた包みを取り出し開け広げる。

すると、中から出てきたのは”祐乃海”という文字が染め上げられた大きめの着流しと、

幅12cmどの蜷局を巻く漆紺の布束であった。

「………

 ふぅ…」

それらをしばらく眺めた後、

祐子はため息を一つ吐き、

「仕方がないよね…

 あたしが頑張らないと…」

と呟くと、

ササッ

再びそれらを風呂敷で包み、

それを手に彼女は自宅を出て行った。



「よう、来る頃だと思ったよ…」

「は・はい…」

顔を赤くして立ちすくむ祐子に

元・大関の工藤辰巳は笑みを浮かべる。

自宅を出てから1時間、

電車と地下鉄を乗り継いで祐子が向かったのは

相撲部屋・武蔵野部屋であった。

「はぁ…

 で、あの、
 
 その…」

現役時代、土俵の鬼とまで言われた辰巳に

祐子は口に右手の握り拳を当てながら口を籠もらせると、

「なっなんだよ、

 今場所も出てくれるんだろう。

 さっさと着替えろよ、

 若い衆は先に場所入りさせたので、
 
 稽古にはならないと思うが、
 
 でも、残っている連中と軽く一汗流せよ」

そんな祐子に辰巳はそう言い背中を見せる。

「はっはいっ

 お世話になります」

その背中に向かって祐子は頭を下げると、

「おいおいっ

 いまさらそんなこと言いっこは無しだ、

 いまの大相撲を支えているのは

 お前さん達のようなパートタイマーばかりだからな
 
 あっそうだ、
 
 毎回のことだと思うけど、
 
 場所中、2週間近く家を空けることになるが、
 
 その点は大丈夫か?」

と振り返った辰巳は思い出したように聞き返すと、

「えっえぇ

 主人は明日から長期の出張ですので、
 
 大丈夫です」

と祐子は返事をする。

「そうか、

 じゃぁ大丈夫だな」

その返事に辰巳は安心したような表情をすると祐子の前から去って行った。



「…さて」

辰巳との会話で少し気が楽になったのか、

祐子の表情に明るさが戻ると、

パンッ

そんな自分を奮い立たせるのか祐子は自分の頬を叩き、

稽古場の横に作られている脱衣所へと向かっていく、

そして、その中で稽古は着ていた服と下着を脱ぐと、

脱衣所に置かれた鏡に祐子の裸体が映し出される。

色白の肌に艶やかに伸びた髪と小さめのなで肩、

小振りながらも存在感のある乳房と、

その先にちょこんと乗っかっている乳首。

そして、新婚の頃とさほど変わらない括れたウェストと

ぷっくりと膨れているヒップ…

在籍していた大学のミス・女王にまで選出されたスタイルは

結婚後5年が過ぎても未だ健在だった。

そんな自分の姿を祐子はチラリと見ただけで、

スグに持ってきていたバッグから赤と青の錠剤が入った瓶を取り出すと、

その中から青い錠剤を一粒取り出した。

「………」

しばらくの間、手にした錠剤を祐子は見つめると、

はむっ

祐子は目を瞑り勢いを付けて一息に飲み込んだ。

ゴクリ…

喉が動き、ゆっくりと下へと移動していくと、

「うっ」

祐子は次に来るモノの備えて体を強ばらせる。

そして、それから数分後…

ドクン!!

最初の一撃が祐子を襲った。

「くっ」

両手を壁に付き祐子はそれに耐える。

ドクン!

ドクン!

ドクン!

祐子の心臓は爆発してしまうくらいの勢いで脈を打ち、

ジワッ…

祐子の白い肌には玉のような汗が浮かび始めた。

ドクン!

ドクン!

ズシンッ!!

「うがっ!!」

最初の一撃の数倍の大きさの第2波が来ると、

祐子の口から思わず声が漏れる。

しかし、この声を聞きつけてくる者は誰もなかった。

そして、

ミシミシミシっ

「ぐげぇぇぇぇ…」

間髪置かずにやってきた体を八つ裂きにされるかのような激痛に

ボタボタボタ!!!

祐子は滝のような汗を吹き出しながら必死に耐える。

すると、

メリッ

メリッ

壁に手をつく祐子の腕が見る見る骨太になっていくと、

それに合わせて筋肉が膨れ、大きさを増してくる。

また、腕の変化と同じように彼女の両足もまた

骨が太くなり、腿、ふくら脛が太さを増していった。

「うごぉ

 うごぉ…」

目を剥き、

開け広げられた口からはよだれを垂らしながら祐子は変化に耐えていると、

ピクッ

ムリッ

ムリムリムリ!!

柔らかな陰毛に覆われた局部より小さな肉棒が伸び、

追って太くなっていく。

そして、男性のペニス並みに勃起した肉棒をブルンブルンと左右に振りながら

「うっうっうっ」

体を小刻みに震わせていると、

メキメキメキメキ!!

筋肉質の手足に対してアンバランスさを醸し出してた祐子の身体に幾つもの筋が走り、

ムリムリムリ!!!

その筋に従って筋肉が膨れあがり、

祐子のプロポーションを破壊し始めた。

そして、

「うっ

 うっ
 
(ドクン)

 うがぁぁぁぁぁ!!!」

最後の衝撃が祐子を襲ったとき

祐子は男特有の汗の臭いをまき散らしながら”破裂”していった。



ポタポタ…

滴る汗で出来た汗だまりが脱衣所の床を黒く染めていくと、

ふぅふぅ…

その上では筋肉が盛り上がった厳つい肩を上下に揺らしながら、

祐子は荒い息をしていた。

そして、

「うっ」

小さなうめき声と共に身体に込めた力を抜くと、

ドサッ

祐子はそのまま汗だまりのの上に座り込んでしまう。

はぁはぁ

はぁはぁ
 
はぁはぁ

荒い息を徐々に整えながら座り込んだ祐子は

そっと自分の姿を映し出す鏡の方を振り向くと、

そこには、太い首、

盛り上がった肩、

胸板で張りつめた胸、

脂肪が付きながらも

その中央部はしっかりと割れている腹部。

そして筋肉の陰影が刻まれている太い手足と、

股間から起立している肉棒・ペニス…



そう、誰が見ても相撲取り…力士と呼ぶべき肉体を持った”男”を映し出していた。

「(はぁはぁ)

 あたし…

 またなっちゃったんだ…」

自分の姿を見ながら立ち上がった祐子は

ドスッ

ドスッ

っと足音をたてながら鏡に向かうと、

そっと、そこに映し出されている自分の裸体と手を重ねる。

そして、その手を下へと滑らせていくと、

股間で勃起している肉棒を掴むと、

シュッ

シュッ

っと扱き始めた。

「(くはぁ)

 あぁ…
 
 いっいい…
 
 あぁ、
 
 このチンポの感触…
 
 あんっ
 
 あたし…
 
 男に…
 
 お相撲さんに…
 
 あぁ、
 
 なっちゃったのよ」

シュッシュッ

シュッシュッ

出来上がったばかりのペニスを祐子は激しく扱きながら、

女の肉体から男の…力士の肉体へと変身した自分の姿に興奮していた。

「あぁ…

 ゆっ友之さぁん、
 
 あたし、またお相撲さんになっちゃったのっ
 
 みっ見てぇ
 
 あたし、チンポをしごいているの、
 
 もっもうすぐ出すわ…
 
 あぁ…
 
 あたし、濃いを出しちゃうの、
 
 良いでしょう…
 
 あっあなたぁ!!」

体の奥からこみ上げてきた熱い体液を感じながら祐子は叫び声を上げると、

ブシュッ!!

天井に向かってそびえるペニスの先より、

熱い精液を激しく、そして高く吹き上げてしまった。

はぁはぁ

はぁはぁ

吹き上げた精液の感触を味わい祐子は味わっていると、

「よろしいでしょうか…」

と脱衣所の外から男性の声が響いた。

「(ハッ)え?

 あっはいっ」

その声に祐子は驚き、

そして慌てて自らが吹き上げた精液を拭き取っていると、

「お久しぶりです、

 祐乃海…」

と言うこと場と共に床山が姿を見せた。

「茂さんっ!!」

「相変わらずいいお身体で」

「そっそんな…」

床山の言葉に祐子は身体に似合わず顔を赤らめると、

「さて、

 髪を整えましょう、
 
 それでは相撲は出来ませんから…」

と髪を後で括ったままの祐子の髪を指さした。

「あっはいっ」

床山の指摘に祐子は裸のまま正座すると、

「では…」

の言葉と共に祐子の後に付いた床山は祐子の髪を引っ張ると長さを整え

ヌリッ!!

その髪に蝋を練り込んだ鬢付け油を塗り手際よく髷を結っていく。

そして、

「はい、どうぞ」

の言葉と共に床山が離れると、

そこには力士の証である髷を結う祐子の顔があった。

「あっありがとう…」

脱衣所の証明に輝く髷を見ながら祐子は礼を言うと、

「親方が稽古場で待っています」

床山はそう告げ脱衣所から去っていく、

「はっはいっ」

その言葉に背中を押されるようにして祐子は立ち上がると、

持ってきた風呂敷包みを解き、

そして、あの蜷局を巻く漆紺の布束を取り出すと、

それの一端を身体に押し当て、そのまま股間に巻き始めた。

シュル

シュル

布束が奏でる音を聞きながら祐子はそれを巻き、

そして、

グイッ!!!

力一杯に締め上げると、

ギュッ!!

祐子股間には使い込まれ色落ちした”廻し”が締め込まれ、

それと同時に祐子は力士・祐乃海へと変身をした。

「うっしっ」

パァァン!!

力士へと変身した祐子は以前の倍近くに腫れた手で自分の顔を叩くと、

「おっしっ」

気合いを込め、

ノッシ

ノッシ

っと稽古場へと向かっていく。



バシッ

「オッシっ押せぇ」

「うっしっ」

「おらおらっ」

「せいっ!」

身体と身体がぶつかる音に、

鬢付け油の香りと飛び散る汗、

遠征で弟子の数が減ったとはいえ稽古場は男の汗で蒸せ返っていた。

「そこっ、

 もっと押せっ」

桟敷で現役時代を彷彿させる声を辰巳が張り上げていると、

のそっ

脱衣所の方より廻し姿の力士が姿を見せ、

「親方、

 遅くなりました」

と辰巳に告げながら頭を下げる。

「ん?

 祐乃海か
 
 遅いぞっ」

コツン!!

辰巳はそう言いながら

手にしていた竹刀で髷が結われた祐乃海の頭を軽く叩くと、

「はいっ」

祐乃海はそう返し、

そして、土俵の横で四股を踏み始める。




ワーワーワー…

それから数日後、

真上から照らし出される照明の元、

土俵に登った祐乃海は清めの塩を一握り掴むと、

バッ!!

土俵に向けて投げ放つ、

初日の対戦相手は先場所優勝を飾った力士である。

「はっけよいっ」

仕切り線に付いた二人に向かって行事のかけ声がかかると、

グッ!!

祐乃海は体中の力を蓄え、

これからの一戦に爆発させるべく筋肉を膨らませた。

そして、

「(待ってて…お金、いっぱい取ってくるからっ)」

心の中で祐乃海…いや祐子はそう叫ぶと、

「残った!!」

行事のその叫び声を合図に飛び出していく。

パートタイマー力士・祐子の出陣であった。



おわり