風祭文庫・アスリートの館






「神隠し」



作・風祭玲


Vol.493





ガラッ!

「おはよー」

朝、遅刻ギリギリで教室のドアを開けると同時に教室内向けてあたしは声を上げるが、

教室内は騒然としていて、

誰もあたしの挨拶に返事をするものは居なかった。

「どうしたの?」

総立ちになっているクラスメイトの姿にあたしは驚きながら尋ねると、

「あっ早苗っ」

あたしの声が聞こえたのか、友人の近藤美穂があたしを見つけると、

ヅカヅカヅカ!!

と傍によってきた。

「あっ美穂…

 一体、なんなの?

 この騒ぎは」

騒然とする教室を見渡しながらあたしは訳を尋ねると、

「早苗っ

 あなた無事だったの?」

と美穂はあたしに向かって怒鳴った。

「へ?」

美穂の言葉にあたしはキョトンとすると、

「もぅ、

 ケータイに電話をしても出ないし、

 メールは不着になるし、

 心配していたのよ」

と美穂は安心したようなセリフを言う、

「え?

 電話してくれたの?

 あたしのケータイは全然鳴らなかったけど…」

美穂の言葉にあたしはそう返事をしながら自分のケータイを出してみた。

そして、画面を見るのと同時に、

「あっ!

 電池切れていた…」

と何も表示されていない画面を見ながらポソッと呟いた。

「もぅ!!

 ちゃんと充電しなさいよ」

そんなあたしの言葉に美穂は思いっきり怒鳴ると、

「となると、

 マジで行方不明なのは嶋田さんだけね…」

と他の子が囁く。

「へ?

 それって?

 なに?」

「もぅ、なに暢気なことを言っているのよっ

 嶋田さんが行方不明になっているのよ」

その言葉に聞き返したあたしに美穂は呆れながら言う。

「え?」

美穂の言葉にあたしはびっくりすると、

「バレー部の朝練で早朝家を出たそうなんだけど、

 でも、部活には来ていないんだって」

と美穂はあたしに説明をしてくれた。

「えっ…

 それってまさか…」

美穂のその言葉にあたしはあることを思い出して、指摘しようとすると、

「うん…

 間違いなく神隠しね」

と美穂は断定した。

あたしの名前は大和田早苗、この高校に通う2年生なんだけど、

最近、この街で朝夕に問わず登下校途中の高校生や大学生の女性が姿を消してしまうという、

神隠し事件が続発しているんです。

「ねぇ、

 島田さんが神隠しにあったとすると、

 コレで何人目?」

席に着いたあたしはそう美穂に尋ねると、

「あなた…

 クラスメイトが行方不明だというのによくそんなに落ち着いていられるわね」

と美穂は文句を言いながらも、

「えっと、確か、10人目よ」

指折り数えてあたしに教えてくれた。

「そっか、10人か…」

美穂の言葉にあたしは頭の後ろで手を組みながらそう返事をすると、

「それがなんなのよ?」

と美穂はあたしに尋ねた。

「え?

 あっいやっ

 随分と女の子が居なくなったんだなぁ…ってね」

美穂の質問にあたしはそう返事をすると、

「はぁ?…」

美穂は呆気に取られたような顔をした後、

「アンタって人わぁ〜」

その直後、怒鳴り声が部屋に響き渡っていった。



「なんか…

 みんな集団で帰っているのね」

放課後、帰宅途中のあたしは

3・4人のグループに分かれて帰る女子生徒達の姿を見ながらそう呟くと、

「ホームルームで何を聞いていたの?」

と隣を歩く美穂はジロリとあたしを睨みつけながらそう返事をする。

「え?

 あぁ、危ないからグループで帰りなさい。ってことでしょう?

 それぐらい聞いているわよ、

 ただ、みんなその言いつけを守っているなぁ…

 って思ったことを言ったまでよ」

美穂の指摘にあたしはそう返事をすると、

ザッザッ

通りの向こうから裸に黒廻しを締め頭に髷を結った姿の力士達が列を組んで走ってきた。

「うわっ

 美穂美穂っ

 見て、お相撲さんよ」

走ってきた力士たちを指差しながらあたしは声を上げると、

「こらっ

 みっともないでしょう」

と美穂は小言を言う。

ザッザッ

ザッザッ

走ってくる力士達は皆無言であたし達の真横をすり抜けていくと、

「!」

その際、何かに気づいたのか美穂は振り返り力士達の後姿を眺めた。

「どうしたの?」

振り返った美穂にあたしは訳を尋ねると、

「え?

 えぇ…

 なんか…」

と美穂は振り返りながら返事をする。

「?」

そんな美穂の姿にあたしは首を傾げていると、

「ねぇ

 あのお相撲さんたちって…

 西脇部屋の人たちだよね」

と聞き返してきた。

「え?

 そっそうかな?

 うん、そうだよ

 多分…」

突然の質問に若干確信をもてないような返事をあたしはすると、

「だよねぇ…

 でもさぁ、

 西脇部屋って弟子が居なくって困っているって話…

 だったよね」

と美穂は西脇部屋の噂話をした。

「うんっ

 そうそう、

 男子たちも声を掛けられたって言っていたもん」

「へぇ…

 じゃぁその甲斐あって集まったんだ…」

「9人…居たね」

視界から消えていったお相撲さんの姿にあたしたちはそんな話をしていた。



西脇部屋とは、先日引退した横綱が開いた相撲部屋で、

この街に鳴り物入りで開かれたものの、

しかし、いろんなゴタゴタがあって数人の弟子しかいない。という噂だった。

ところがその弟子の数がここに来て急に増え、

街の人たちは皆、親方の人徳の賜物と評していた。

けど、あたしには女の子の神隠しと、西脇部屋の弟子の急増が

同じタイミングになっていることが気になっていた。

「ねぇ」

力士達を見送った後、あたし達は再び歩き始めるが、

ふとあることを思い立ったあたしは美穂に声をかけた。

「なに?」

歩きながら美穂は返事をすると、

「あのさっ

 もしも、もしもだよ

 あのお相撲さん達が神隠しにあった女の子達だったらどうする?」

とあたしは美穂に尋ねた。

「はぁ?」

あたしの言葉に美穂は呆気に取られたような顔をすると、

「ばっかじゃないの?」

と開口一番、あたしに罵声が浴びせられた。

「そんなに言わなくても…」

美穂の罵声にあたしは言い返すが、

「あのね、

 あのお相撲さん達のどこが女の子だというのよ、

 全然違うじゃないっ

 もぅ、そんなくだらないことを真面目な顔して言わないでよ」

と語気を荒げながら怒鳴った。

「う〜っ」

美穂の剣幕にあたしは言い返せなくなると、

「早苗…

 あまり変なことを言うと、

 みんなからバカにされるわよ」

美穂はとどめの一発をあたしに浴びせた。



このあと、あたしと美穂は

「じゃっバイバイ」

「また明日ね」

と言って別れたが、

しかし、翌日、あたしは美穂に会うことが無かった。

「おはよー

 ん?

 どうしたの?

 みんな…」

翌朝、教室に入ってきたあたしは昨日同様に騒然としている教室の様子に驚きながら尋ねた。

すると、

「あっ大和田さん!!

 たっ大変よ、

 近藤さんが神隠しにあったのよ」

とクラスメイトがあたしに告げた。

「え?

 美穂が…

 神隠しに…」

その言葉にあたしはキョトンとすると、

バッ!!

慌ててケータイを取り出してみた。

しかし、充電をされ時計が表示されているあたしのケータイには着信の通知は入っていなかった。

すると、クラスメイトはあたしのケータイを覗き込み、

「早苗のケータイにも美穂からのメールは入っていないのね」

と呟いた。

「美穂…

 一体どこに行っちゃったの…」

ケータイの画面を見つめながらあたしはそう呟くが、

しかし、その日一日、美穂からの連絡は入ってこなかった。

そして、夜…

自宅の机に向かいながらあたしは美穂のことを考えていると、

ピロリン…

あたしのケータイからメールの着信音が響いた。

「美穂?」

その音にあたしは自分のケータイを開くと、

美穂からのメールが1通着信していた。

「美穂からだ…」

画面に表示されたメールの名前にあたしは急いで内容を読んでみると、

『ニシワキ』

としか記されていなかった。

「ニシワキ?

 西脇ってあの相撲部屋の?」

ケータイを眺めながらあたしはそう思うと、

「あっ」

昨日、美穂に言ったあの言葉を思い出し、

「やっぱり、西脇部屋には秘密がある」

と思うや否や、

あたしは夜の街に飛び出していっていた。



「えっと、確かこの角を曲がった先ね…」

自転車を漕ぎながらあたしは西脇部屋へと通じる路地に入ると、

その先に稽古場から明かりが漏れる西脇部屋があたしの目に飛び込んできた。

「あそこね」

じっと見据えながらあたしは自転車を道の脇に止め、

そして、ゆっくりと歩いていく、

すると、

「うぉりゃぁ!」

バシーン!!

「もぅ一丁!!」

ドスン!!

「まだまだ」

と西脇部屋から力士達が挙げる稽古の音が響き渡ってくるのが聞こえてきた。

「うわぁぁ、

 夜なのに、みんな稽古熱心ね…」

響き渡る稽古の音にあたしは感心すると、

少し開かれた窓から稽古場の中を覗き込んでみた。

すると、

「おらぁ、脇を締めろっ、脇っ」

と竹刀を片手に白い廻しを締めた元横綱である親方がハッパをかけると、

「うぃっす」

その声に応えるように土俵で四つに組んでいる力士と、

土俵を取り囲む力士達が返事をする。

「うわぁぁ…

 すごい迫力ぅ」

間近で行われている稽古の様子にあたしは関心をしていると、

「親方!!」

と言う声が響くのと同時に、

二人の力士に担がれるようにして一人の力士が稽古場へと入ってきた。

「おうっ」

入ってきた力士に親方はそう返事をすると、

担がれてきた力士は親方の前に降ろされ、

「ほぅ、すっかりフンドシ担ぎらしくなったじゃないか」

と親方は持っていた竹刀で力士の顔を上げ、そう告げる。

「フンドシ担ぎ?」

親方の言った言葉をあたしは復唱していると、

「おっお願いです」

髷を結い、黒廻しを締め、

そして、学校の男子よりも遥かに体格が良く、

まるで動く山の様に見える力士は親方の足に縋ると訴えた。

「え?

 女の子?」

男というより女の子を思わせるその声色にあたしはびっくりすると、

「お願いです。

 あっあたしを、

 家に帰してください!」

と力士は続ける。

「…え?

 家にってどういうこと?」

力士の言葉にあたしはマジマジと見ると、

「あっ」

親方に言い寄る力士の顔に見覚えがあった。

顔つきは力士らしく変わっているものの、

しかし、その表情などからあたしの脳裏にある名前が浮かび上がり、

思わず

「嶋田さん…」

と口走った。

そう、姿形は変わっているものの、

でも、そこに居るのは間違いなく嶋田さん、その人だった。

「なんで…

 どうして、島田さんがお相撲さんに…」

髷を結い、廻しを締めた嶋田さんの姿にあたしは愕然としていると、

「おいっ」

親方は竹刀で嶋田さんの頬を突き、

「俺を倒せばここから出してやる」

と言うなり

「どけっ」

土俵で稽古をしている力士達をどかせると、

ノッシ

ノッシ

と土俵の中へと進み、

「ふんっ」

ズシン!!

四股を踏み、そして、

「さぁ、こいっ!!」

と怒鳴ると構えた。



土俵の真ん中で構える親方の姿を島田さんは唖然と見ていると、

「おいっ」

そんな島田さんを他の弟子達が足で突付く、

「え?」

弟子達の突付きに島田さんが振り返ると、

「なに、ボサッとしている。

 親方が相撲を取ってくれるんだ

 さっさと行かないか」

弟子は嶋田さんにそういうなり、

キツメの蹴りを彼女の大きな身体に入れた。

「あっ」

その蹴りに押し出されるようにして、

島田さんが立ち上がると、

土俵の中へと入り、

「おっお願いします」

と親方に頭を下げた。

「いいか、俺をこの土俵から押し出せばお前は自由だ、

 身体も元の姿に戻してやる。

 さぁ、死ぬ気で掛かって来い」

土俵に入ってきた島田さんに向かって親方はそう言うと
 
バシン

っと腰に締めた廻しを叩いた。



しかし、島田さんと親方との勝負は呆気なくつき、

「おらっどうした!!」

と意気を上げる親方に対して、

「うぐぅぅぅ」

島田さんは体中を砂まみれになって転がっていた。

そして、

「いいかっ

 俺を倒すまで、お前は相撲取り・フンドシ担ぎだからなっ

 そのことを肝に命じておけ」

そう嶋田さん向かって怒鳴ると、

ノッシ

ノッシ

と土俵から降り、

「おいっ

 昨日入った新入りはどんな調子だ?」

と他の力士達に尋ねた。

「え?

 新入り?」

親方のその言葉にあたしは聞き耳を立てると、

「えぇ

 奥の土俵で鍛えているところです。

 昼間打った薬が効いたきたみたいで、

 顔を除けばすっかり力士らしくなりましたよ、

 いま、相撲の型を教え込んでいるところですので

 明日には相撲が取れるようになります」

と力士は説明をした。

「顔以外力士らしくって、

 まっまさか、美穂が?」

その言葉にあたしは震えだすと、それを抑えるようにしてそっとその場を離れた。

そして、部屋の明かりが消えた頃を見計らって

西脇部屋のなかに忍び込んだ。

ムワッ

さっきまでこの土俵で汗を流した力士達の汗の臭いを嗅ぎながら、

あたしは奥へと向かっていく。

みんな寝静まっているのか建物の中はシンと静まり返り、

その中を慎重に進んでいくと、

バシンッ

バシンッ

と何かを叩く音が聞こえてきた。

「誰か起きているんだ」

その音にあたしは逸る胸を押さえつつ、進んでいくと

目の前にもぅ一つの稽古場が姿を見せ、

そして、格子が填められている窓よりさしこんでくる月明かりを背に受けて

一人の力士が黙々と土俵の脇に立つ柱を叩いていた。

ごくり…

廻しを締め、背中中砂まみれの力士の後姿に

あたしは島田さんのことを思い出し、生唾を飲み込んだ。

「まさか…

 美穂…」

この力士が嶋田さんと同じあの親方に変身させられた美穂ではないかと思いながら

あたしは中へと進んでいくと、

バシンッ!!

柱を叩いていた力士は体を止めると、

「誰?」

と言いながら振り返った。

振り返った力士の顔を月が照らし出し、

あたしの目からはっきりと力士の顔が見えた。

「!!

 みっ美穂…」

間違いなく目の前の力士は美穂だった。

髪は頭の上で髷として結われ、

また、首から下の身体は女の子ではなく、

大きく膨れ上がった力士の体…

でも、頬に砂が付いているその顔は間違いなく美穂のままだった。

「さっ早苗っ!!」

美穂はあたしの姿を見た途端、口に手を当て驚いた素振りをした。

「美穂…

 本当に美穂なのね」

廻し姿の美穂に向かってあたしはそう言うと、

「なんで…

 なんで…早苗がここに…」

美穂はあたしがここに居ることが信じられない様子だった。

「美穂、探したよ…」

驚く美穂にあたしはそう言いながら一歩踏み出そうとすると、

「だめ来ては」

とあたしを制止させた。

「なんで?」

「ダメっ

 土俵に入ってはダメ、

 誰も見つからないで来たんでしょう?

 だったらすぐに引き返して、

 じゃないと…早苗も…」

美穂はそう言うと口をにごらせた。

「ねぇ、美穂、

 帰ろう」

そんな美穂にあたしはそう呼びかけると、

「だめよ、

 帰れない」

と美穂は返事をした。

「なんで?」

「見て判らない?

 あたし、お相撲さんなのよ、

 こんな身体で相撲と取る力士なのよ」

「そんなの関係ないじゃない、

 美穂は美穂だよ」

「違うわ、

 あたし、もぅ美穂じゃないのよ、

 廻しを締め明日になれば四股名が付けられる力士よ」

「美穂…」

「お願い、

 今すぐここから出て行って、

 そして、このことは忘れるのよ」

美穂はそう言うとあたしの傍により、

大きな手で、あたしを押し出し始めた。

「みっ美穂っ!!」

そのことにあたしは驚くと、

「おととい…

 早苗が言った事は本当だったわ…

 あたし、興味半分でこの部屋の傍を通ったときに、

 連れ込まれたのよ」

とあたしを押しながらこの部屋に連れ込まれたときのことを言う

「そんな、警察に行こう」

「ダメよ、

 街の人たちはここの親方のことを信じ込んでいるし、

 それに親方は強いのよ

 親方を相撲で倒せない限りあたしはここから出ることは出来ないの」

「そんな、美穂もあの親方を闘う気なの?」

美穂の意外な言葉にあたしは尋ねると、

「そうよ、

 親方は強いわ、

 でも、強い力士と勝負をすること自体あたしはイヤじゃないわ

 ううん、

 イヤと言うより闘志がわいてくるの、

 なんかこう、

 あの人と勝負をして打ち負かせたいって」

「美穂…あなた…」

「なんでかなぁ…

 廻しを締めているとそんな気分になってくるのよ、

 ねぇ、早苗も廻しを締めてみない?

 きっと早苗にも判ると思うわ」

突然立ち止まった美穂はあたしにそう言うと

ギュッ

っと肩を掴み上げる。

「みっ美穂っ

 なにを…」

ミシッ

肩の痛みを堪えながらあたしが声を上げると、

「ねぇ

 早苗もお相撲さんになろう?

 そして、あたしと一緒に相撲を取ろうよ」

と美穂はあたしに告げる。

「やっやめてよ、

 美穂っ

 あたし、お相撲さんなんかになりたくないわ」

美穂の手を振り解こうとして身体を捩りながらあたしは訴えるが、

「ふふ…

 大丈夫よ、

 親方にお願いすれば

 すぐにあたしみたいな身体になれるわ、

 ねぇ、二人で横綱を目指しましょうよ」

とあたしの話には耳を貸さずに美穂は言い続ける。

「美穂っ

 正気に戻って、

 あたし…お相撲さんになんてなりたくないの、

 だから、手を離して…」

あたしの肩を握り続ける美穂にそう言うと、

パッ

いきなり部屋に明かりがともされ、

ドタドタドタ

たちまちあたしの周りに力士達が取り囲んだ。

「え?

 え?」

突然の事にあたしは驚くと、

「はははは、

 横綱を目指すか、

 頼もしいのぅ

 どうやら、すっかり力士になり切ってしまったみたいだな西近藤は」

と言う声と共に西脇部屋の親方が姿を見せた。

「あなたは」

「はっはっは

 どうだい?

 この西近藤と一緒に横綱を目指すつもりはないか」

驚くあたしに親方はそう言うと、

「だっ誰がっ

 美穂を元に戻しなさいよ、

 この人でなし」

親方を睨みつけながらあたしは吼えた。

しかし、

「はっはっはっ

 元気があってよろしい」

親方はあたしの声を褒めた後、

「おいっ

 例の奴を」

と力士達に命令すると、

「はいっ」

その声に答えて島田さんが一歩前に出てくるなり、

あたしに近づいてきた。

「嶋田さん」

あたしに近づいてきた嶋田さんを見ながらあたしは声を上げると、

「さぁ、腕をだして」

と島田さんはあたしに言う。

「え?

 なにを…」

島田さんの言葉の意味が判らないで居ると、

ピュッ!!

何時の間にか彼女の大きな手には注射器が握られ、

「さぁ、大和田さんもあたし達を同じお相撲さんになろうね」

と言いながらあたしの腕に注射器を突き立てた。

「いやぁぁぁぁ!!!」

夜が更ける西脇部屋にあたしの悲鳴が上がる。



「あっあっあぁぁ」

注射された後、

あたしは自由にされたが、

しかし、あたしは逃げ出すことが出来なかった。

「あっ

 熱い…

 熱いよぉ」

まるで身体を焼かれるかのような暑さにあたしは着ていた服を破り捨てると転げまわり

そして、時間の経過と共にあたしの体は膨れて行く。

「はっはっはっ

 どうだ?

 相撲取りになっていく感想は、

 これで我が西脇部屋の力士はちょうど15人となるわけだな」

変身していくあたしを見下ろしながら親方はそう言うと、

「うがぁぁぁぁぁ!!」

ムリムリムリ!!!

その親方の目の前であたしは力士へと変身していった。



それから数年後…

「見合って見合って」

行司の声をバックで聞きながら、

あたしは目の前で握った手を土俵に付けようとする相手を睨みつけていた。

その日は千秋楽、

14勝全勝で白星を重ねてきたあたしの相手は相撲に君臨する横綱…

「コイツを倒せば俺は女に戻れる…」

横綱を睨みつけながらあたしはそう思うと、

ダンッ!!

合図を送るように下ろした拳を土俵に着け飛び掛っていった。



おわり