風祭文庫・アスリートの館






「新入部員」



作・風祭玲


Vol.167





「うりゃぁ!!」

バシッ

「も一つ!!」

バシッ

稽古場に体と体がぶつかる音がこだまする。

「おらっ、どうしたどうした!!」

「くっ」

廻し姿の華奢な体をした男が賢明に体格の良い相手を押していく、

「おらおら、脇が空いてるぞ」

その声がするのと同時に彼は投げ飛ばされ土俵の上を転がっていった。



「ねぇ…香津美ったら…

 いつまで見ているのよっ」

「もぅちょっと…」

その稽古場の外からジャージ姿の女子生徒2人が

中をのぞき込みながら話をしていると、

「おらっ、高瀬っ、

 彼女が来ているぞ
 
 気合いを入れろ気合いを!!」
 
二人の存在に気づいた声が彼に浴びせられる。

「先輩…彼女たちと俺とは関係ないッスよ

 第一先輩を見に来て居るんじゃないですか?」

高瀬と呼ばれた彼は再び起きあがりながら言うと、

「コラッ、ギャラリーのことなんか放っておけ」

相撲部顧問の石田の声が稽古場に響いた。


「なに…

 香津美の趣味ってあぁいう子なの?」

「え?、そんなんじゃないわよ」

「じゃぁなんで、毎日のようにして相撲部の稽古なんて覗いているのよ」

「そっそれは…」

香津美はそこまで言うと言葉か詰まってしまった。

「あっやっぱり図星なんだ…

 ふぅぅぅん、香津美の理想の人ってあぁ言う人なのか」
 
彼女はそう言うとまるで品定めするような目つきで彼を見始める。

「それにしても黒い廻しなんて面白いわね」

「もぅ…恭子ったら…練習に戻るわよ」

香津美はそう言うとさっさと相撲部の稽古場から離れていった。

「あっコラっ」

恭子は香津美が先に歩き出したのを見るなり

慌てて彼女の後を追いかけていった。

「あたしが見ていたのは………」

そう思うと香津美はチラリと稽古場に視線を移し、

「あの廻し…締めてみたいなぁ…」

と呟いた。

「え?、何か言った?」

それを聞いた恭子が聞き返すと

「何でもない」

と言うと香津美は走り出した。



「はぁ…先輩ったら、キツイんだから」

すっかり夜の帳がおりた頃、

部活が終わり制服に着替えた香津美と恭子は校庭を歩いていた。

「あっ、相撲部の稽古は終わったみたいだよ」

灯りが消えている稽古場を指さして恭子が言うと、

「いいの?、彼を迎えに行かないで…」

と言いながら香津美の脇をつついた。

「え?」

すると、恭子の言葉に合わせて香津美の脳裏にふとある考えがよぎると

「あっ、ごめん…

 あたし忘れ物をしていた。

 先に帰ってて…」

と言うなり、香津美はダッと来た道を引き返していった。

「全く…そうならそうとハッキリ言えばいいのに」

恭子は香津美の後ろ姿を眺めながらそう呟くと、

「さぁて、あたしもオトコ引っかけなきゃね」

くぅぅぅぅぅ〜

っと背伸びをすると、夜の闇に消えていった。


タッタッタッ…

香津美は稽古場へと走っていく

やがて稽古場の戸の前に立つと、それに手を掛けた。

カラ…

人気の居なくなった稽古場の戸が軽い音をたてて開く、

「…誰もいませんねぇ…」

香津美は首だけ出すと左右を確かめると、

慎重に稽古場へ入って行った。

部員達が流した汗の臭いが彼女の鼻を突く、

「恭子には悪いけど、

 相撲部員達の廻し姿を見ていました。
 
 なんてこと死んでも言えないよねぇ」
 
などと言いながら香津美は土俵の脇に立つと

月明かりが差し込む稽古場をグルリと眺めた。

「あっ」

彼女の目にさっきまで相撲部員達の腰に締められていた廻しが

壁に掛けられている様子が入ってきた。

ゴクン…

香津美は惹かれるようにして廻しの傍によると、

「あっコレ…高瀬クンの廻しだ…」

と廻しの先に書いてある”高瀬”の文字を読みとるなり

香津美は恐る恐るそれにさわった。

シト…

猛稽古の汗の為か香津美がさわった廻しは湿っていて重量を感じた。

「うわぁぁぁ…オトコの汗…」

そう思いながら、

彼女は昼間それを締めて稽古をしていた高瀬の姿を思い出していた。

そして廻しから立ち上る臭気とともに

香津美の鼓動は徐々に高まっていっていた。

トクン…

「高瀬…」

トクン…

「…クンの…」

トクン…

「…これ…締めてみたい」

そう言う思いが徐々に高まっていくと、

グッ

香津美は何かを決意すると、

スル…

自分が着ていたセーラー服を脱ぎ始めた。

そして下着まで脱ぎ終わって全裸になると、

彼が締めていた廻しを手に取ると、

見よう見まねで自分の股間に通すと腰に廻しはじめた。

ヒヤッ

っとした感触が彼女の腰を覆っていく、

「ここを…

 こうして…
 
 こうか…」

グイ

っと締め上げると、
 
ギュッ!!

っと言う音を立てて廻しは彼女の腰を締め付けた。

「あっ」

思わず口から声が漏れる。

「高瀬クンのがあたしの腰に…」

そう思うと香津美の心臓は大きく鼓動する。

ポン

腰に締めた廻しをまるで確認するようにして叩くと、

香津美は整備された土俵の上に足を踏み入れた。

ヒヤ…

足の裏に土俵の冷たい感触が走る。

香津美は土俵の中央部に行くと、

グッ

と腰を落とすと片足を高く上げて四股を踏み始めた。

そして、それが終わると、

頭の中で昼間のシチュエーションを妄想しながら

稽古のまねごとを始めだした。

やがて彼女から流れ出た汗が廻しに染み込み始めたころ、

「ふぅ…」

香津美は土俵上に座り込むと、

「はぁ…高瀬クンと稽古をしたい…

 彼の体に思いっきりぶつかってみたい…」

と空高く昇った月を見ながら呟いた。

すると、

『お前の願い…叶えてやろう…』

と言う声が彼女の耳に入ってきた。

「え?」

突然の声に香津美は思わずキョロキョロしていると、

キュッ!!

腰に締めた廻しがきつく彼女の腰を締め上げた。

「!!…」

それに驚いて香津美は慌てて締めた廻しを外そうとしたが、

ギシッ

締めた廻しはきつく彼女の腰を締め外れなくなっていた。

「え?、

 あれ?

 そんな…

 どっどうしよう…

 この廻し外れなくなっちゃった…」

なおも香津美は廻しを外そうと悪戦苦闘するが

きつく締め上げられた廻しは頑として外れなかった。

すると、

ムクっ…

ムクっ…

体の筋肉が盛り上がり始めていることに気づいた。

「やだ…

 かっ身体が…」

そう言いながら香津美が立ち上がると、

ビシビシビシ…

と言う音とともに彼女の体中の筋が張り出し、

グリッ

胸板が乳房を飲み込んで大きく盛り上がった。

「いっいやぁぁぁ…」

大きく張り出した胸を見た香津美は悲鳴をあげたが、

その悲鳴を聞きつけて駆けつけてくる者は誰も居なかった。

「助けてぇ…高瀬クン…」

しかし、その願いもむなしく…

グググググ…

月が照らし出す香津美のシルエットは大きく変化していった。



翌朝…

「ふわっ…」

「おいっ高瀬…暢気に欠伸なんかするなっ」

「さっ稽古だ、稽古だ!!」

などとと言いながら、

ガラ…

朝稽古のために勢いよく戸を開けて稽古場に入ってきた

相撲部員達の前に

「あの…」

と言いながら一人の廻し姿の男が立った。

「ん?、なんだぁ…お前は…」

「あっ…あのぅ…

 あたし…相撲がしたいんです。
 
 お願いします」
 
その男は頬を紅く染めながらそう言った。



おわり