風祭文庫・アスリート変身の館






「翠の土俵」

作・風祭玲

Vol.036





……流れる音楽の中……

大勢の白鳥たちを従えて一羽の白鳥姫が舞台の上で大きく舞う。

白鳥姫の名は香山翠…

バレエ界に彗星のように現れた彼女はその技能・演技力ともに秀で、

まさに世界の若手バレリーナ達の頂点に君臨していた。


……物語は姫と王子の愛の力で悪魔を倒したところで幕がおり、

カーテンコールの拍手がやまない中、翠は静かに舞台を後にする。

「お疲れさまでした…」

スタッフ達にねぎらいの言葉をかけられて、

翠は自分の控え室へと向かって行くが、

しかし、彼女の表情は大舞台をやり遂げた安堵の表情ではなく、

どこか曇りがちの表情をしていた。

パタン…

ドアが乾いた音を立てて閉まると、

「ふぅ……」

翠はため息をつきながら壁にもたれかかるようにして肩を落とした。

そして、白鳥姫の姿をした自分が映し出されている鏡を見つめながら、

「今日の舞台……

 また今日も父さんは来てくれなかった…」

とポツリと呟いた。

翠の父、香山秀三は

彼女が外国でのバレエ留学を終えて帰国する直前、

突如消息を絶ち、それ以降行方不明になっていた。


翠がぼんやりと鏡を眺めていると

突如”コンコン”とドアがノックされた。

『だれ?…まさか、父さん?』

咄嗟にそう判断した翠は、

「父さん?…」

と尋ねながらドアを開けたが、

しかし、彼女の視界には廊下で待っているであろう秀三の姿はなく、

無人の廊下がむなしく入ってきた。

『居ない…』

無尽の廊下を眺めながら翠がそう呟くと同時に、

「香山翠さんですね」

と言う落ち着いたしかし、冷たい響きのある男の声が響いた。

突然響いたその声に翠はドキッとすると、

ガサ…

扉の陰から大きな花束を持った赤いシャツを着た男が姿を現した。

翠は咄嗟に笑顔を作ると、

「えっと、あのぅ…こういうのはお断りしているんですが…」

と丁寧に断りの台詞を告げると、

男は

「香山翠さんですねっ」

とまるで念を押すように聞き返してきた。

その様子に翠は怪訝そうな顔をしながら、

「はい…そうですが…」

と男に真意を探るような言葉遣いで答えると、

それを聞いた男は一瞬冷たい笑みを作り、

「いやぁ…

 あなたの舞台は実に感激しました。

 さて、実はですね、翠さん、あなたとちょっと…

 そのご相談したいことがあるのですが、

 私と一緒に来ていただけませんか?」

と告げると、男は翠に向かって手をさしのべた。

それを見た翠は本能的に身の危険を感じると、

「あのぅ…いまこんな格好ですので、

 そう言うことは後にしていただけませんか?」

と告げながらドアを締めようとしたが、

しかし、

グッ!!

扉はまるで何かに引っかかったかのごとく微動だにもしなかった。

『あっ…』

そのとき翠はドアが別の人物いによっておさえられているコトに気づいた。

驚く翠を見下ろしながら赤シャツの男は、

「別にあなたがどのような格好でも私にはいっこうに構いませんよ

 ご同行…していただけますね」

と念を押すように告げた。

しかし、翠は赤シャツの男を睨み付けると、

「人を呼びますよ」

と小声ながらも凄みのある声で言うと、

それを聞いた赤シャツの男は

「仕方がないですねぇ、大事なお話なんですが…」

と言うと、合図を送る仕草をした。

その途端、

バン!!

翠が引いていたドアがもの凄い力で開け放たれると、

飛び出してきた人物か持っていたタオルのようなものが

翠の顔に押し当てられた、

「ウグゥ…」

翠は必死になって藻掻いたが、

しかし、タオルに薬品がしみこませてあったのか、

彼女の意識はすーっと抜けていき、

そのまま赤シャツにもたれ掛かってしまった。

タバコの臭いが翠を包み込む。

そして、薄れていく意識のなかで赤シャツの

「おい、お連れしろっ」

と言う声が翠にとって最後の言葉だった。



●

どれくらい時間がたっただろうか、

ハッと翠が目を覚ますと、

彼女は薄暗い一室でチュチュ姿のまま両手両足を縛られた格好でイスに座らされていた。

「どこ?」

翠は辺りを見回したが部屋の中には自分が座っているイス以外のものはなく、

ここが何処なのかを知る術は無かった。

しばらくして、

ガチャッ!!

翠の目の前で閉じられていたドアが開くと

あの赤シャツの男が部屋に入ってきた。

赤シャツは目を覚ました翠を見るなり、

「おや、眠り姫がようやく起きてくれましたか、寝心地はいかがでしたかな」

と白々しく翠のご機嫌をとった。

「ここはどこよ!!、あたしを早く帰しなさいっ」

と翠は食って掛かるように赤シャツに怒鳴ったが、

しかし、赤シャツは何も言わずそのまま翠の前に立つと、

グッ!!

っと翠の顎を上げて、

「実はですねぇ…

 あなたのお父さんのコトで少々…ご相談をしたいのですが…」

と切り出した。

翠は赤シャツのその言葉にドキっとすると、

「父さんのこと?」

と聞き返した。

赤シャツは翠の心境の変化をすかさず読みとり、

「はい…そうです。

 あなたのお父さんのことですよ

 ……私の話を聞いていただけるようになっていただけましたか?」

と訊ねると、

コクリ…

翠は静かにうなずいた。

「そうでなくては…」

赤シャツはそう言いながら一歩翠から下がると、

「さて…実はですね。

 あなたのお父さんが我々に…

 ちょっとお金を借りていましてね…

 まぁ、それが滞り無く返済されてもらえれば何も問題ないのですが…

 実はここんところ返済が思うようにいかなくなったのか…

 その、滞るようになりましてね…

 それで、私たちとしても困っているんですよ」

と赤シャツは説明をし始めた。

「そんな…、

 父さんがあなた方の様な人たちに借金するはずがないわ」

赤シャツ話を聞いた翠はすかさず言い返すと、

「ふむっ

 なんと健気な…

 お父さんを信じていらっしゃるのですね」

そう言いながら赤シャツは胸元から一枚の紙を取り出すなり、

「なんでも、お嬢さんの留学の費用にするとかで、

 この通り借りて行かれたのですが…」

と言って翠の目の前にその紙を突き出した。

「そんな…」

それを見せられた翠はハッとした。

数年前、翠が外国にバレエ留学することになったとき、

その多額の費用に彼女は父親に、

「お金がかかるようなら諦める」

と言ったが、

「せっかくのチャンスを潰すことはない、金の工面なら大丈夫だ」

と言って心配する翠をなだめたことがあった。

結局、翠はバレエ留学をしたおかげで今の評価を得られる様になったのだが、

しかし、赤シャツが翠に見せた紙に書かれ額はあまりにものの大金だった。

「そんなに借りるわけがありません、これは何かの間違いです」

翠はなおも赤シャツに食い下がったが、

「嘘かどうかは、ここにかかれているお父さんのサインを見てください」

と赤シャツはそう言なり

紙の下の方に書かれている父親のサインを、

翠の顔面に押し当てるかのようにして見せつけた。

「うっ…」

確かに、書かれていたサインは翠の父のモノだった。

赤シャツはさらに話を続け、

「そこで、先日ようやく見つけたお父さんと

 このお金の事についてご相談したところ…

 このお金はあなたに肩代わりして貰うことになりましてね…

 それで、こうしてお越し頂いた訳なんですよ、翠さん」

と翠に告げた。

「ちっ父に会ったんですか…」

赤シャツの言葉に翠が聞き返すと、

「えぇ、お元気そうでしたよ…」

契約書をしまいながら赤シャツは答える。

「父に会わせてくださいっ」

「さぁそれは、あなた次第ですよ、

 払っていただけますか?」

「払うって…あたしにはそんなお金払えません…」

そう翠が呟くと、

「それなら…私たちの方であなたが働ける場所を用意しますよ」

「働ける?」

「そうです、お金は働いて返すのが筋ですからね…」

その言葉を聞いた翠はソープに売り飛ばされるのではを警戒したが、

赤シャツから続いて出てきた言葉は、

「…そこで、あなたには相撲を取って貰いますよ、翠さん」

というものだった。

「え?」

翠は赤シャツのその言葉に一瞬キョトンとした。

彼女の表情を見た赤シャツは

「…大相撲は知ってますよね…」

「はぁ…」

「実は我々には大相撲とは別に裏相撲と言うのを主催してまして、

 そこでぜひ、翠さんに裏相撲の力士として土俵に上がって貰おうと思いましてね」

と赤シャツは畳みかけるように翠に説明をした。

「そんな…あたしが相撲なんて…そんなの無理です。

 第一相撲は男の人がするものでしょう…

 女の私が出来るわけがありません」

と強い口調で翠は言うと、

赤シャツはちょっと困ったような顔をした後、

「いや、

 裏相撲に出てもらうかどうかは、むろんあなたの自由意志です。

 ただ、そうなった場合代わりの人に出てもらわなければならないのですが…」

と言った。

翠は赤シャツの顔を見ると

「あたしの代わり?」

と言うと、赤シャツは考える素振りをしながら、

「そう、あなたの代わりです。

 そうですね、あたなに妹さんが一人いるそうですが、

 その人にでも出ていただきましょうか」

と告げた。

その言葉にハッとした翠はすかさず

「志穂には関係ないわ」

と怒鳴ると、赤シャツは一瞬、

ニヤリ

と笑うと、

「じゃぁ、あなたが出場してくださるわけですね」

と翠に訪ねた。

その言葉に翠は

『元をただせばすべて私から起きたことと…』

思うと、

コクリ…

小さく頷いた。

そして、

「あたしが…出ますから、妹には手を出さないで」

と赤シャツに懇願した。

「おぉ…これは話が早い、それでは早速これにサインをお願いしますよ」

赤シャツはそう翠の手を縛っていた縄を解くなり

目の前に1枚の紙とペンを差し出した。

それは、裏相撲の入門契約書だった。

じっと紙を見つめている翠に赤シャツは

「さっ、サインを」

と言って促すと、翠は渋々その紙にサインをした。

彼女がサインを書き終わると、

赤シャツは丁寧にその紙を自分の懐にしまい、

そしてドアの外にいる人物を呼んだ。

「よう、どいつだい、裏相撲に出たいというモノ好きは…」

と言う声と共に厳つい小山のような男が部屋に入ってきた。

すると、赤シャツは翠に

「紹介しよう、この方がこれから君が所属する事になる相撲部屋の親方だ」

と説明をした。

親方と呼ばれた男は部屋の真ん中で赤シャツと共にいる

白銀のチュチュを身に着けたバレリーナ姿をしている翠を見つけると、

「ん?まさか、このねーちゃんか?」

と尋ねた。

「あぁ、そうだ

 今日から裏相撲に出ていただくことになった、香山翠さんだ」

赤シャツはそう翠のことを親方に紹介すると、

親方は翠に近づくなり、

「こんな華奢な身体では、相撲は取れねーぞ」

と一言言い放つと、

赤シャツは親方の側にくるなりひそひそ話で

「なぁ…俺をおまえとの仲だろう、

 こいつを相撲がとれる身体にしてくれればいいんだよ」

と告げた。

「しかしなぁ…女じゃなねぇーか

 いくら俺でも、女を土俵に上げる気はしないぞ」

と親方は眉をひそめながらそう赤シャツに言うと

「裏相撲には女が土俵に登ってはいけない、なんて規則は無いだろう…」

「まぁ、そう言えばそうだが…」

「とにかく、頼むよ…」

翠は赤シャツと親方とのやりとりを聞いている内に

自分の身にこれから起こる事の恐怖を感じるようになってきた。

やがて赤シャツと親方との話がまとまったのか、

「それでは翠さん、土俵での活躍を期待してますよ」

と赤シャツは翠にそう告げると部屋から出ていった。



●

ガシャン!!

赤シャツが出て行き扉が閉まると、

部屋に残ったのは翠と相撲部屋の親方の2人だけになった。

「やれやれ…」

親方は頭を掻きながらそう独り言を言うと

ジロリ…

翠を見下ろすなり、

「俺が”裏相撲・剣山部屋”の親方をしている、

 これからは俺のことは「親方」と呼ぶように」

と言うと、翠の困惑している様子を見るなり、

「その様子じゃぁ…裏相撲のことは全く知らないようだなっ、

 いいか、よく聴けよ

 裏相撲ってぇのは表の大相撲と同じ日程で1場所15日1年に6場所開かれる。

 これに出場する者は、それぞれの裏相撲部屋に力士として入門し

 その部屋から出場する事になっている。

 でだ、各取り組みにはそれぞれ出る力士の力量に合わせて賞金が掛けられ、

 勝てばもらえるが、負ければ同じ額が罰金として取られる。

 また当然だが1場所で1番の成績を収めた力士には優勝として多額に賞金が出る。

 というわけだ」

と簡単な説明した。

「まっこういう”裏”のものは”表”で食いっぱぐれたあぶれモノが

 賞金目当てで相撲を取るところだから、

 ねぇちゃんのようなのが土俵に上がるのは無理だと思うんだがねぇ、

 まっ俺がねぇちゃんを立派な力士にしてやるしかないか…

 …どっちにせよそんな格好じゃぁ相撲は取れないな。

 おいっ、このねぇちゃんに廻しを締めてやれ」

親方は翠を眺めながらそう言ってドアの外に指示すると、

外から廻し姿の屈強の力士達がドスドスと入ってくるなり。

翠の身体をむんずをつかみ上げた。

「いやぁ、何をするの!!」

男たちの行動に翠は悲鳴を上げたが、

しかし、そんな翠を助けに来る者はなく、

翠は着ている白鳥姫の衣装をまるでむしり取るように脱がされていった。

「やっ、やめてぇ!!…」

翠の絶叫が部屋に響いたが、

足が縛られたままの上に両手を男達に押さえられているために、

翠は男達のなすがままだった。


ビリビリ…

チュチュが無惨にむしり取られ、

さらにバレエ・タイツとアンダーウェアがトゥシューズと共に脱がされた。

そして、翠の下半身は何も隠すものがなくなっていた。

翠は恥ずかしさのあまり横を向いたが、

男達は動じることもなく翠の股間に黒染めの廻しを締め始めた。

シュルシュル…

と黒くて太い布の帯が翠の身体に幾重も巻き付けられていき、

最後にグィと力強く腰に締められると、

「うっ」

翠は股間を締め付けてくる感覚に顔を赤くしてうめき声を上げた。

こうして、翠の体に廻しが締められると

男達はスグに翠から離れた。

翠は脱がれたチュチュやタイツで胸を隠すと親方を睨み付けた。

その様子を見た親方は翠に、

「おいっ

 いいか、

 これからはその廻しがお前が着ることができる唯一の服だから丁寧に扱えよ、

 まっ、昇進すれば着れる物は増えていくがな」

と言うと、

「おっと、一つ忘れてた…その頭で相撲を取られたんでは痛くてしょうがない」

とオデットの髪飾りが付いたままの翠の頭を指さして言うと、

「おい、ねぇちゃんに髷を結ってやれ」

と力士達に指示した。

「いや…髪は許して…」

と翠は頭を押さえて懇願したが。

男達によって髪飾りが取られるとお団子に巻き上げていた翠の髪が外された。

サワー…

黒く光る髪の毛が翠の肩から背中にかけて大きく広がる。

すると、男達はその髪をつかむと頭の上へとグッと持ち上げ、

ヘアピンのように紐で髪を結ぐと、

余分な部分をばっさりと切り落としてしまった。

目の前にバサっと落ちてきた自分の髪を見て翠は泣き出した。

しかし、親方はそんな翠に同情することなく、

「いつまで、泣いている。

 さっさと”部屋”に来るんだ」

と言うなり外へと出て行ってしまった。

翠は男達に担がれるようにして部屋を出た。

似たような景色の廊下をぐるぐると周りやっと広いところに出たと思ったら、

そこは地下の駐車場だった。

親方はその一角に止めてある車に乗り込むと男達と一緒に翠も車に押し込まれた。

車はすぐに走り出したが、

しかし、翠が乗り込んだ部分の窓には目隠しがされているので

どこを走っているのか翠には判らなかった。

汗くさい廻し姿の男達に取り囲まれた翠は

自分の腰に締められた廻しとむしり取られたチュチュを眺めながら

「あたし、どうなっちゃうのかなぁ」

と呟いていた。

どれくらい走っただろうか、

やがて車が止まると、翠はすぐに車から降ろされた。

そしてつれて行かれた所は、相撲の稽古場だった。

稽古場に入ると、親方は稽古をしている者を集めると翠を紹介した。

集まってきた男達はどれも大柄で筋肉の塊と言う感じだったが、

しかし、みんな傷だらけの身体をしていた。

翠はこれから兄弟子となる男達に無理やり頭を下げさせられたが、

けど、彼らはそんな翠には何も興味を示さないですぐにその場から離れると、

稽古を始めたのが翠にとって拍子抜けだった。

翠に割り当てられたスペースに唯一持ち込むことが私物、

チュチュとタイツ・トゥシューズを置くと、

目の前に鏡があるのに気づいた。

翠は鏡の前に立つと鏡で自分の体を眺めた。


鏡には見慣れたチュチュ姿のバレリーナではなく

顔はまだ舞台化粧のままだが、

頭には髷を結い、

そして、腰には黒い廻しを締めたアンバランスな半裸の女の体が映っていた。

翠はしばらくの間自分の廻し姿をじっと見つめていたが、

親方の呼び声に舞台化粧を落とすことなく稽古場へと走っていった。



稽古場に戻ってきた翠に親方は、

「お前はもぅ”女”と言う生き物ではない。

 この世界は勝ったものだけが生きていけることが出来る。いいなっ」

と告げると

早速、翠に相撲の基礎である四股とすり足・鉄砲等を教え

それからすぐに兄弟子達とぶつかり稽古を始めさせた。

ほんの少しまえまでバレリーナだった翠には

まるで、小山のような兄弟子達を動かすことはできず、

たちまち投げ飛ばされた。

数番勝負をしただけで、

翠は汗まみれ砂まみれになり濃厚な舞台化粧もその汗で落ちて行く、

また、稽古が終わると翠は普通の相撲部屋同様、

新参者として兄弟子達の小間使いとして走り回っていた。

が、胸をさらけ出している翠に手を出す兄弟子達はなぜかいなかった。

その一方で、

翠の服装は、親方の言うとおり朝から晩まで寝るときも廻し1本ですごし、

廻しを取るときはトイレか入浴の時だけと言う生活が始まった。


●

翠の入門からひと月ほど立ったある日、

赤シャツがふらりと相撲部屋に姿を現すと、

廻し姿で稽古している翠の姿を見つけ

「いやぁ、頑張っているようですねぇ……

 廻し姿もなかなかセクシーですよ」

とにやけながら笑う。

彼のその態度を見たとき翠は忘れていた差恥心を思い出し、

ハッ

慌ててさらけ出している胸と股間を隠すと、

「おらぁ(バシッ!)

 何を恥ずかしがっている!!

 稽古をしないか!!」

その途端、竹刀が鳴り響く音共に親方の怒鳴り声が響き渡った。

「はっはいっ!」

まるで雷を思わせるその音に翠は飛び上がると、

バシッ!

バシッ!

テッポウ柱に向かってテッポウを打ち始める。

「ふむ」

その様子に赤シャツは大きく頷いて親方の所へと向かうと、

「どうだ、使えそうか?」

翠を指差し尋ねた。

しかし、赤シャツの質問に親方は首を横に振ると、

「ダメだね…あんな身体では満足な相撲はとれないぞ、

 第一、身長が足りなければ体重なんてぜんぜん話にはならない。

 悪いことは言わねよ、

 ”お水”かなんかをさせてあげなよ、

 よくみれば可愛い娘じゃねぇか」

と言いながら、翠の華奢な体を見つめた。

「ふむっ」

親方の答えに赤シャツはしばし考えた後、

「この間会ったときより筋肉はついてきたと思ったけど、

 やっぱりダメですか」

と淡々とした口調で言うと、

「あぁ、

 あんなんじゃぁ、

 裏相撲に出しても俺が恥を掻くだけだ」

と親方は返事をする。

すると、

「まだ、女であることに未練があるか…」

何かを決めたような口調で赤シャツは言うと

ゴソッ

背広のポケットから一つ袋を取り出し親方に手渡す。

「これは?」

手渡された袋を持ち上げながら親方が尋ねると、

「あぁ

 この中身のものをあいつに付けてやってくれ、

 付け方は、お前なら知っているだろう?

 あっという間に相撲が取れるガタイになるぜ」

と赤シャツは親方に告げ、

ニヤリと笑う。


「!!っ

 こっコイツは…」

袋を開けた途端

親方は驚き、そして赤シャツを睨み付けると、

「本当にいいのかぃ?

 こんな物を付けたら…

 あっあんな可愛い娘が…もったいないぞ」

そう問いただすが、

「ふんっ、

 構わないさ、

 私の仕事は貸したお金を返してもらうこと…

 例えアイツがどんな身体になったとしても関係はないさ」

とあたかも他人事のように答えた。

「しっしかし………」

「いいじゃないか、この部屋に有望な力士が生まれるんだ、

 そのための投資だよ」

渋る親方に赤シャツはそう言い残すと

相撲部屋から出て行ってしまった。



そして、その晩

「なっ何をするんですかっ」

翠の叫び声が稽古が終わったばかりの稽古場に響き渡る。

「うるせーっ

 ジッとしていろ」

兄弟子達に手足を押さえられている翠に向かって親方は怒鳴ると、

「おいっ」

周囲を取り囲む力士の1人に指示を出す。

「うすっ」

親方の声に力士はそう返事をするなり、

翠の股間に締められている廻しを解き始めた。

「やっやめて…」

廻しを外され股間を晒されることを翠は拒否しようとするが、

しかし、

シュルッ

瞬く間に翠の汗を吸い込んできた廻しが外され、

翠の女の証が周囲に晒される。

「うっ」

大きく股を広げた体勢のまま翠は俯くと、

「悪いがお前さんにはこれを付けて貰うよ」

と親方はそう言い、

あの赤シャツから渡された物を翠に見せた。

「そっそれは…」

それを見た途端、翠の表情が硬くなると、

「ふふっ

 どうだ良くできているだろう、

 見てのとおり、作り物の男のチンポだ。

 ちゃんと袋もついているし、

 このように剥けもする」

顔を強ばらせる翠に向かって親方は手にしている物の説明をし、

さらに

クイッ

っと皮を被る先端を剥いて見せた。

「いやっ」

あまりにも生々しく、

グロテスクな姿の男性器を見せつけられ、

翠は顔を背けるが、

「ふふっ

 こいつをお前のマンコに付けてやるよ、

 一度付けたら最後、

 手術をしない限り取れないと言うことだから、

 どんなに激しい稽古をしても大丈夫だ」

翠の強引に向かせて親方はそう告げると、

開かれている股間に手を潜り込ませ、

閉じている翠のクレパスを指で大きく開いた。

「あぁ…」

女性にとってもっとも大事なところを、

親方の太い指が容赦なく開き、、

そして、汚れを知らないピンク色をしたヒダをかき分けると、

ヌプッ

作り物の男性器から伸びる2本の管のうちの

太い方を膣に、

そして、細い方を尿道へと差し込んだ。

「うっ

 あっ」

身体の中に侵入してくる異物の感覚に

翠は思わず声を上げてしまうと、

「こらっ、

 力を抜け、

 入らねぇーだろ」

顔をゆがませ力み続ける翠の頭を親方の手が叩いた。

しかし、

「でっでも…

 あんっ」

遡ってくる管の感覚に翠の身体は反射的に力んでしまい。

翠自身ではどうすることも出来なかった。

「ちっ仕方がな…」

そんな翠を見て親方は舌打ちをすると、

力任せに管を押し込む。

そして、

ヌプッ

ヌポッ

管の先端が翠の子宮と膀胱へ入ってしまうと、

「よしっ

 入った」

それを手で感じ取った親方は

ピッ

素早く何かを切り、

モコッ!

それと同時に管の先端が大きく開くと、

作り物の男性器は翠の体内奥深くにアンカーを打ち込み、

そして、外れなくなってしまった。

「あっ

 あぁ…

 いやぁ…」

子宮と膀胱の中で何かが膨らんだその感覚に翠は声を上げるが、

しかし、親方はそんな声に耳を傾けることなく、

黙々と作業を続け、

グイッ

男性器の上で空いている穴を翠のクリトリスにかぶせると、

グリィ…

そこを支点にして男性器をクレパスの中に潜り込ませ、

そして、クレパスを開かせていた指を離した。

すると、

ニュルン

翠のクレパスは付けられた男性器を外側からくわえ込み、

しっかりと男性器を固定してしまった。

「あぁぁぁ…」

自分の股間に出現した肉棒の姿に翠は恐れおののくと、

「ふふっ、

 このチンコはな

 ちゃんとション便も出れば、

 おっ勃つことも出来る。

 いいか、たったいま、

 お前は男になったんだ。

 もぅ女なんかではない、

 チンコをつけた一人前の男だ。

 それを肝に銘じて稽古に励むんだな」

呆然としている翠に向かって親方はそう言うと、

「わははは」

笑い声を上げながら兄弟子達と共に去っていった。



「そんなぁ…」

稽古場に1人残された翠は親方達が去った後、

あわててトイレに駆け込み、

付けられたばかりの男性器を引っ張ってみるが、

グリッ

グリィ…

翠の体内奥深くにアンカーを打っている男性器は

決して外れることはなかった。

「いやよ、

 取れてよ、

 あたしは女よ、

 戻してよ、

 女に戻してよ!!」

と翠は泣きながら男性器を引っ張り続けていた。



そして次の日、

「やだ、出ない

 出ないってば」

「うるせーっ

 男なら座って小便をするなっ

 立ってしろ」

と兄弟子達に怒鳴られながら

男性用便器の前に立たされた翠は

着流しの裾を大きく開かされ、

そして、飛び出したあの男性器を無理矢理持たされる。

「腹に力を入れろ」

兄弟子からのその命令に、

「うっ」

翠は下腹部に力を入れると、

押された膀胱より尿が管を通り、

そして、

ジョロロロロロロロ…

便器に向けた男性器の先端より黄ばんだ色をした尿が噴きだした。

「ふふふっ

 ちゃんとに立ちションしているじゃないか」

笑いながら翠の立ちションを指摘する声に

「うぅっ」

翠は顔を真っ赤しながらも

立ってする小便の感覚に次第に飲まれていく。

また、その頃を境にして翠の体に異変が始まった。

ぐるるる〜っ

稽古中にこれまでに感じたことの無い空腹感を感じるようになると、

ガツガツガツ!!!

翠はまるで気が狂ったようにチャンコを食べ始めた。

「あぁ…

 なっなに…

 食べても食べてもおなかが空く」

幾杯も大盛りのチャンコを翠は平らげ、

底なし沼となった食欲を満たす日々が続いたと思うと、

モリモリモリ…

ググググググ…

今度はまるで膨れ上がるように身体が膨れ始めだした。

「なっなにコレ?

 やっやだ

 体が大きく…

 そっそれにふっ太っていくぅ!!」

バレエの激しい運動もあってやせ気味ながらも

女性の平均的な体格だった翠の身体だったが、

まず、身長が伸びていくと、

その後より体が膨れ始めたのだった。

モリモリ

モリモリ

「やだやだやだ、やめてぇ!!」

大きく、太くなっていく自分の体を目の当たりにして翠は泣き叫ぶが、

しかし、そんな翠にお構いなく体の変化は続き、

瞬く間に身長は180cmを越えてしまうと、190cmへと近づき、

また、体重はいとも簡単に以前の2倍の重量を越えてしまった。

「あっ熱い…

 体が…

 筋肉が熱い…

 いやっ

 あぁ

 ちっカが沸いてくるぅぅぅ」

さらに、翠の体が膨れていくに従って、

体中に力がみなぎるようになり、

翠は自分の体が作り変えられていく恐怖を感じながらも

襲い掛かる空腹を癒すためにチャンコを黙々と口に運んでいった。

そう、赤シャツが親方に手渡したのはただの作り物の男性器ではなかった。

男性器の睾丸には男性ホルモンを主体とした筋力増強剤が仕込まれて、

その薬によって翠の身体は力士へと変身していたのであった。

こうして翠の体重は瞬く間に150kgを越えると180kgへと迫り、

膨れていく体を締めることが出来ず、交換した廻しは5本をゆうに越えていた。

その一方で翠を襲う異変は収まることなくさらに別の方へと進み始めていた。

自分の汗や尿の匂いがきつくなり始めのであった。

翠は自分の身体に起きている現象に不安を感じながらも稽古を続けた。

いや、続けたのではない、

翠の心の中に沸き始めた闘争心が彼女を稽古に駆り出していたのだった。

ドセイッ

バシン!!

ウオッ

バシン!!

日に日に筋肉が盛り上がっていく体を諌めるかのように、

翠は闘争心を燃やし、その稽古は激しさを増していった。



そして、ついに裏相撲の”場所”が始まった。

「だめだ、お前はまだ出せない」

親方の一言で翠は”場所”には出してもらえなかったが、

しかし、傷だらけで戻ってくる兄弟子達の様子を見て、

翠は裏相撲の凄さを実感すると同時に、

土俵の上で荒くれ男たちを投げ飛ばしたい。

という闘争心が彼女の心を満たし始めていた。

やがて、2週間に及んだ場所が終わろうとした頃

翠はある一線を越えようとしはじめていた。

それはある朝、

土俵脇で寝込んでいた翠が寝返りを打った弾みに

ジーン

強烈な刺激が翠の下半身を襲った。

「なに?」

あまりにもの刺激に翠は飛び起きるなり

その発信源である股間に手を持っていくと、

ジーン…

また刺激が起きた。

「……うぅぅぅぅ…」

あまりにもの快感に翠はしばらくの間蹲り

そして、ようやく収まったことを見計らい、

翠は締めていた廻しをずらして自分の股間を眺めて見ると、

すると、

ピンッ!

あの作り物の男性器が固く、

そして長くなっていたのであった。

「えっなに?」

翠は大きく脹れた手で男性器を突っつくと、

ジーン…

作り物のはずの男性器から刺激を感じた。

「あうっ」

いままで体験すらしたことのない感覚に、

シュッ

シュッ

思わず翠は指の先でその男性器を扱き始めると、

「あっ

 あぁっ

 なに、

 気持ちいい…」

男性器を扱く感覚に翠は身体を預けるが、

しかし、今の段階ではまだ指先撫でて諫める程度であった。

こうして、翠は身体の膨張していく苦しみのほかに

男性器の刺激と言う別の悩みに悩まされるようになったが、

けど、翠は稽古をやめることはなかった。

心の中に芽生えてしまった闘争心が翠を突き動かし、

常に稽古をしていないと居られない。

そんな姿に変えてしまったのであった。

こうして翠は日に日に男として力士として成長し、

ついには鍛え上げた筋肉の鎧の上に

脂肪を身にまとった見事な力士の姿へと変貌していた。

そして、この肉体の力フルに発揮して、

翠は兄弟子達を次々と這い蹲らせるほどに成長したのであった。

「どせい!!」

ビターン!!

「次っ!」

屈強の兄弟子達を次々と倒していく翠の姿に

「うむ」

親方は大きくうなづくと

「よしっ!

 次の場所からでろ!」

と翠に、次の”場所”に翠を出場させることを告げると

それと同時に”しこ名”を言い渡した。

「翠山ですか…」

「そうだ」

翠が親方からつけて貰ったしこ名は「翠山」と名だった。



「父さん…あたし…とうとうお相撲さんになっちゃったよ」

その夜、翠は小山のようになった肉体を小さくして

ほんの数ヶ月前までそれを身につけ舞台に出ていたチュチュと

横に置いてある鏡に映っている力士と化した自分の身体を見比べていた。

「…父さん…あたし…お相撲さんなんかにはなりたくなかった…

 でも…もぅ…あたしは…お相撲さんなの…

 こうして廻しを締めて相撲を取ることしか出来ない体になっちゃったのよ」

と呟いていると、

ビン…

突然廻しの中であの男性器がムクムクと勃ってきた。

「うっ……ん……」

翠は顔を赤くしながら最初のうちは廻しを押さえてしのいだが、

しかし、翠を襲う感覚はどんどん強くなると、

ついに耐え切れなくなった翠は廻しの両脇から直接手を入れ

いきり立つ男性器を慰めはじめた。

シュッシュッ!!

シュッシュッ!!

翠の手は勃起する男性器を器用に上下に扱く、

しかし彼女の行為は返って逆効果となり

男性器からの感覚はいっそう強くなって翠を攻めてきた。

「…ん………んん」

翠は息を殺して悶えながらゴロリと横になると慰め続けた。

ハアハアハア…

翠の息はどんどんと荒くなっていく、

「あぁ…

 なんなの?この感覚は…

 あぁん、ジンジンしてきたぁ」

男性器をしごき続ける翠の手に、

ネットリとした液体が絡みつき始めた。

先走り…

いつの間にか男性器の先端に開いている口から、

盛んにその半透明の液体を流し始めていた。

そして、ついに…

「クゥゥ…出ちゃう!!

 あぁ…何かが出ちゃう。

 あぁん!!」

シュッ…

頂点に達した翠は男性器から粘液を噴き上げてしまったのであった。

そう翠は”射精”をしたのであった。

「(ハァハァ)………そんな…あたし…男になったちゃったの…」

翠はベットリと手に付いた白濁した精液を眺めながら、

自分が女ではなくなったことを実感した。



●

その年では3回目となる裏場所初日、

翠は軽く稽古を付けてもらうと他の兄弟子達とともに車に乗せられると、

場所が開かれる所へとつれて行かれた。

車の中では髷を決め、廻しを締め、下がりをつけた力士達がじっと床を眺めていた。

どれくらい走っただろうか、

車が止まると親方が「降りろ」と力士達に言った。

翠は降りて周囲を眺めると驚いた、

広大な森の中に忽然とあの国技館が立っていた。

「こっこれは…」

翠が驚きの声を上げると。

「これは裏場所専用の国技館だ、

 なにもかもすべてあの両国のヤツ同じに作ってある」

と親方は説明をする。

翠は再び建物を見ると

「そう…ここが、私の新しい舞台…」

そう決心すると、

翠はノッシノッシと体中の筋肉を張らせながら建物の中へと入っていった。



おわり