風祭文庫・アスリートの館






「チアガール」
(第7話:疑問)


作・風祭玲

Vol.459





数日後…

「じゃぁ、これが最後、

 用意はいい?」

ジムに静香の声が響き渡ると、

じっと麗子が見守る中

丈二は彼女達の前に立ち、

「はい、お願いします」

静香に向かって丈二は準備が出来たことを告げた。

「はーぃ」

丈二の返事に静香は大きく頷いてそう返事をすると、

カチッ!!

MDプレイヤーの再生ボタンを押した。

すると、スタジオ内のスピーカーから音楽が流れてくる。

そして、丈二はすぐにリズムをとりはじめると、

クッ

音楽のテンポに乗りながら右足を最初はひざの高さ、

さらに視線、

そして頭の高さまで上げると、

それに合わせるように体を大きくそらし、

頭を腰の位置にまで下げた。

これまでの特訓の成果だった。

驚異的な柔軟性を身に着けていた丈二はさらに体をそらすと、

丈二の頭を回転軸に上げた右足が大きく弧を描いて回り、

遅れて左足も右足の航跡を追いようにして回ると、

クルン!!

丈二は見事一回転をした。

「あら…」

その光景に麗子は最近まで流れていたとあるCMを思い出す。

「へぇぇ…

 すごいわねぇ」

幾度も回ってみせる丈二を見て麗子は関心をすると、

「この技、女子体操ではE難度の技なんですよ」

と静香は耳打ちをする。

すると、

「宮本さん、ありがとう」

麗子は静香にそう礼を言いい、

彼女の手をギュッと握り締めた。

そして、

「藤堂さん、

 もぅいいわっ」

と声を上げると、

「はいっ」

丈二はそう返事をして体の動きを止めると、

麗子は丈二に走りより、

「完璧よ、藤堂さん、
 
 フィールドであなたは一番注目を浴びるわ」

と褒めながら抱きしめる。

「はっはぁ…」

麗子の言葉に丈二は戸惑い気味に返事をすると、

「どうしたの?

 もっと堂々としなさい」

そんな丈二にハッパを掛けるように麗子は強い調子で言うと、

「はいっ」

それに突き動かされるようにして丈二はそう返事をすると正面の麗子を見た。

かつては麗子を見下ろしていた丈二だったが、

しかし、このクリニックに来てから丈二の身長は縮み、

麗子と同じ身長になってしまっていた。

しかし、彼の身に起きた変化があまりにもゆっくりだったために

丈二はそのときまでそのことを意識することはなかったが、

しかし、

「あれ?

 俺って羽村先生より身長低かったっけ」

麗子との比較で丈二は自分の背丈が麗子よりも小さくなっていることに気づいた。

「どうしたの?」

何かに気づいたような丈二の表情に麗子はそっと尋ねると、

「いえっ

 ちょっと目眩が…」

丈二はその場を取り繕うようにそう言うと額に手を当てる仕草をした。

「そう、

 大丈夫?」
 
「えぇ軽いものですから」

「駄目よ、自分の体を過信しては…

 今日はもぅいいわ、
 
 あがりなさい」

麗子は丈二の顎の下に手を置いて軽く持ち上げながらそう告げると、

「はっはい

 では失礼します」

そういい残して丈二はジムを後にした。



シャー…

自分の病室に戻った丈二は便器に腰掛け小用を足していた、

すでに丈二のペニスの萎縮は止まっていたが

しかし、ペニスとしての能力はすでに失い

クリトリスとして股間に開いた縦筋の中に埋没していた。

長引く入院生活と、時間が判らない環境に丈二は

かつて便器に向かって小水の流れを見せていたことなどすっかり忘れ、

物心ついたときからこのスタイルで用を足していたと思うようになっていたが

しかしさっき麗子との身長差に疑問を持ったときから、

丈二はいまの自分に疑問を持ってしまっていた。

「いったい、なんだ?
 
 いつの間に羽村先生があんなに大きくなっているんだ?

 それにいつまでたっても俺のこの胸は一向に小さくならないし…」
 
プルンと揺れる乳房を握り締めながら丈二はそう呟く、

そして、丈二のその疑問はやがてある考えへとまとまって行くと、

「よしっ!」

ある決意をするなり、

カラララ…

備え付けのトイレットペーパーを引き伸ばした。



「では、また夕方に来ますね」

「(ふわぁぁぁ…)

 はい」

昼食を片付けた看護婦は丈二がいつもと同じ大あくびをするのを見届けると、

そういい残して病室から出て行った。

そして、看護婦の姿が消えてなくなるのを丈二が見届けると、

「なんてな」

と舌を小さく出し、

チャラッ!

食事後、看護婦から手渡された薬を手のひらの上でもてあそんだ。

「ふーん、ぜんぜん眠くないや、

 どうやら、この薬のどれかに睡眠薬が混じっていたようだな」

手のひらの上で転がる数個の薬を見ながら丈二はそう呟くと、

その中からピンク色をした薬を

ポーン!

っと壁に向かって投げつけた。

カッ!!

丈二の手から放り投げられた薬は乾いた音を立て

壁に弾かれ、床の上を転がっていく、

「さて、じゃぁ行きますか」

その様子を見届けた丈二はそう呟きながら起き上がると、

すばやく病室のドアに駆け寄り、

慎重にノブを回す。

すると、

カチャッ!

ドアは静かに開いた。



「誰もいませんね?」

人気がなく廊下を照らし出す灯りの列を眺めながら丈二は人の気配を探ると、

「よしっ!」

タッタッタッ!!

足音を立てないように静香とのレッスンで身につけた爪先立ちをしながら走って行く、

かつて筋肉の鎧で固められていた丈二の体はまるで風に吹かれる羽毛のごとく軽々と廊下を舞い、

そして、突破口を探しながら目星をつけたドアを次々と開いていく、

「ここも駄目か」

「ここは?」

「ちっ駄目だ」

そう文句を言いながら丈二はドアを開けるが、

けど、その音に気づいて飛び出してくる人影は皆無だった。

「むーん」

唸りながら丈二は絨毯敷きの廊下を歩き、

やがて行き着いたのは洗濯室だった。

「これは…」

ずらりと並んだ洗濯機の列に丈二は驚き、

その一方で、

「あれは…」

一台の洗濯機の上に置かれたバスケットを注目した。

それには汚れ物と思える様々な衣類が押し込まれ山を築いていた。

「……」

看護婦達が置いたのだろうか、

バスケットを見た丈二はそばによると、

その中から一着のジーンズとスウェットシャツを取り出すと、

いま着ているローブを脱ぎ捨てシャツに手を通した。

しかし、

「うっでかい…」

丈二が身に着けたシャツは明らかに丈二にとってサイズが大きく、

シャツの袖をめくり上げた丈二はジーンズに足を通した。

「よっ」

ジッパーを上げたジーンズは丈二のヒップを包み込むように引き締まるが、

「うっ苦しい…」

そのサイズはヒップではキツく、

ウェスト周りではゆるいものだった。

「まぁ仕方がないか」

コレを着ていた女性の汗の香りが軽く鼻を突くるのを我慢しながら丈二は洗濯室の奥へと向かうと、

「あった」

非常口のマークを頂いてクリニックの建物と外界を分け隔てるドアが姿を見せた。

カチャッ!!

恐る恐るドアを開けて丈二が顔を出すと、

フワッ!!

茜色の空とすがすがしい風が丈二の頬をなでる。

「え?

 朝?」

その様子に丈二はあっけに取られると、

「そんな…夕方前じゃないの?」

これまで自分が置かれていた環境で思っていた時間との差に驚き、

それと同時に麗子への不信感に一気に火をつけた。

「うんっ

 確かめないとな」

夜明けの空に惹かれるように丈二が一歩踏み出すと、

「あっ…」

その途端、自分が裸足であることに気がつくと、

「そういえばさっき…」

とドアのそばに靴箱があることを思い出し、

早速自分が履ける靴を探し始めた。

「これは…

 だめ、大きすぎる。
 
 うーんこれも駄目
 
 駄目
 
 駄目!」

靴に足を入れてはサイズが大きいことに気づき、

履いた靴を放り出す。

そして、

「おっ、

 これぴったりだ!」

ようやく自分のサイズに合う靴が出たが、

しかし、それは女物のブーツで

「ふぅ…」

丈二はため息混じりにブーツに足を入れるとジッパーを引き上げた。



タッタッタ!

夜明けの街中をクリニックから飛び出した丈二は髪を揺らしながら走りぬけていく、

まったく見覚えがない街…

丈二はいま自分がなんと言う街にいるのか見当がついていなかった。

「どこだ?

 ここは?」

道路を照らし出す葬列を思い起こさせる蛍光灯の下を歩きながら丈二はそう思いながら歩いていくと、

道のところどころに行方不明となっている少女の情報を求める看板がかかっていた。

「なんか、やばそうなところじゃないか?」

その看板を横目で見ながら丈二が交通量がある国道に出ると、

タタンタタン…

タタンタタン…

国道をまた区高架橋を乗客がまばらな電車が加速しながら走り抜けていく様子が目に入った。

「そうだ、電車」

それを見た丈二は電車が走り出してきたところに向かって走り出すと、

やがて目の前に駅が姿を見せてくる。

「ここ…」

はじめてみる駅名を眺めながら丈二はそう呟くと、

「あのぅすみません!

 ○○線××駅にはそうどうやって行けばいいのですか?」

窓口に座る駅員に向かって丈二は合宿所の最寄り駅までの経路を尋ねた。

すると、駅員は丈二に向かって路線図を示しながら

やさしくそして丁寧に乗り換える駅と電車の行き先を教え始めた。

「あっありがとうございます」

説明を聞いた丈二はそう返事をしたとき、

「そうだ、お金!!」

そのときになって初めて所持金の事に気がついた。

そして、

「えっえぇーと…」

慌てながら丈二はジーンズのポケットをまさぐると、

カサっ!!

一つのポケットから折りたたまれた財布の感覚が丈二の指先に伝わってきた。

恐らくシーンズの本来の持ち主がポケットに財布を入れたまま忘れていったのであろう、

「ラッキー!」

早速丈二は財布を取り出し、

そして、その中から一枚の紙幣を手に取ると笑みを浮かべ、

「悪いけど、ちょっと借りるね」

と本来の持ち主に心の中で詫びながら、券売機に紙幣を差し込んだ。



タタンタタン!!

タタンタタン!!

丈二が電車の乗客になったのはそれから少し経っての事だった。

「ふぅ…

 駅員の話では1時間半ってところか
 
 それにしても、夕方と思っていたのに朝だったとは変なの
 
 一体どうなっているの?」

座席に座った丈二はクリニックの中と現実の世界の間に出来ていた時差に首を傾げると、

ふと、いくつモノ視線を感じた。

「ん?

 なに?」

その視線の先を追ってみると、

丈二は車内に乗車していた幾人もの男性達からの注目を浴びていた。

「なっなんだ?」

意味も無く、周囲から見られていることに丈二は半分腹を立て、

男性のうちの1人を睨み返すと、

「!!」

サッ!

その男性は慌てて視線を持っていた新聞に落とした。

「もぅ

 あたしに文句があるならはっきり言ってよね」

視線が逸れたことに丈二は文句を言うと、

隣に座ったサラリーマンが持つ朝刊に目が行った。

そして、その日付を見た途端、

「えぇ!!」

丈二は思わず叫んでしまった。

「なっなにかね」

突然の叫びにサラリーマンは慌てると、

「あっあのぅ

 その新聞は今日のですか?」

驚きながらも丈二は彼が持つ新聞の発売日を尋ねると、

「あっあぁそうだよ、今朝の朝刊だよ」

とサラリーマンは返事をする。

「そんな…

 あたしがクリニックに来て2ヶ月も過ぎて居ただなんて…」

丈二は自分の体感よりも現実の時間がはるかに早いスピードで過ぎていたことにショックを受けた。

しかし、通勤ラッシュはそんな丈二に容赦なく襲い掛かっててきた。

丈二が座れたのはこの電車だけで、

乗換駅で乗り換えた列車からは座ることは出来ず、

丈二は仕方なくつり革につかまって目的地へと向かって行った。

タタンタタン!!

タタンタタン!!

ムギュー…

「苦しい…」

スーツ姿のサラリーマンや学生達の圧力で丈二の体は

まるでプレス機に掛けられたかのように押しつぶされる。

「ぐへぇぇ…

 息が
 
 息が…」

男性達に挟まれ、丈二はまるで窒息した金魚のごとく新鮮な空気を求めるが、

しかし、空調機から噴出す風は丈二の顔の手前でかき消され丈二に届くことはなかった。

「なんでだぁ」

丈二の悲痛な叫びが響いたとき、

サワッ

丈二のヒップに人の手が触ると軽くなで始めた。

「!!!」

言いようもない悪寒が丈二の背筋を一気に貫いていく、

「まっまさか…痴漢?」

その二文字が丈二の頭の中を駆け抜けていくと、

サワサワサワ…

丈二のヒップをなでる手は次第に大胆に動き始め、

やがて、股間へと移動していった。

「やっやめて!!」

自分の股間をまさぐり始めた手を丈二は力ずくで排除しようとするが、

しかし、

グイッ

手は丈二が履いているジーンズのジッパーを引き下げると、

下着を押し下げその中へと入り込んできた。

ウネウネ…

丈二の性器の周りを指が這い回り、

そして縦溝の中に指が差し込まれると、

クニ…

指は丈二の縦溝を左右に広げ、その上についているかつてのペニスを弄り始める。

「うっ

 くっ」

悪寒と快感が混じった感覚に丈二は顔を真っ赤にしてこらえると、

「おいっお前感じているんだろう」

突然男の声が降ってきた。

「え?」

その声に丈二は驚くのと同時に、

チリチリ…

丈二の体が絶頂へと向かい始めたことを知らせる快感がクリトリスをなったペニスに走った。

「あっ」

その反応に丈二は思わず身をくねらせると、

ヌッ

それを待っていたかのように

スウェットシャツ越しに丈二の乳房に手が当てられると、

ゆっくりと揉み始めた。

ビクン!!

「うっくっ」

痛いくらいに勃っている乳首を抓られて丈二が体をそらすと、

「お前、相当な淫乱女だな…

 オマンコがグチャグチャになっているぞ」

と声は丈二に告げる。

「ちっ違う、

 あたしは…おと…
 
 うっくぅぅぅぅ」

丈二はそれを否定しようとしたが、

しかし、男の指技によて次第に絶頂へと追い詰められていった。

「へへ、

 そうだ?
 
 感じるんだろう?
 
 いいんだぜ、イッてもよぉ」

声は言葉荒く丈二に告げると、

グィッ

っと乳首を抓り上げた。

その瞬間、

ピリッ!!

丈二の視界に火花が飛ぶと、

ズズン!!

これまでに盛り上がるように感じたことがない快感が一気に突き上げ、

丈二を絶頂の彼方へと押し上げていった。

キィッ

プシュッ!!

それと同時に終点の駅に着いたのか電車が止まり、ドアが開くと、

ザッザッザ…

車内の詰め込まれていた乗客たちが一斉に電車から降り始め、

やがて、床の上でガックリと腰を落としている丈二一人が車内に取り残されていた。

すると、

「お客さん、

 この電車は回送になりますよ」

車内の見回りをしていた車掌が丈二に気づいて声を掛けると、

「(はっ)あっ

 はいっ」

その車掌に恥ずかしいところを見られたと思った丈二は慌てて衣服を治して電車から飛び降り、

そして、そのまま男子トイレに駆け込もうとすると、

「ちょっと、

 アンタ、ここは男子トイレだよ!

 女は向こう!」

という声とともに清掃員姿の中年の女性にムンズと腕を掴まれ、

そのまま隣の女子トイレへと放り込まれてしまった。

「え?

 あっ

 いや
 
 ちょっと
 
 あのう…ちっ違うんです」

洗面台に向かうOLなどから向けられた視線に丈二は必死で言い訳をし、

そして、飛び出そうとしたとき、

「え?」

鏡に映る自分の姿を見て思わずギョッとした。

そして、

「なっなによっ!」

化粧直しをしているOLを押しのけるように丈二は鏡に自分の姿を映し出すと

「だっだれ?

 この女は…
 
 え?
 
 あっあたしなの?」

丈二は鏡に映っている女性がわが身であることが信じられなかった。

「変な奴…」

洗面台に向かっていたOL達はそういい残して立ち去り、

程なくして洗面台には鏡を凝視する丈二1人が取り残されていた。

「そんな…

 ウソでしょう。
 
 あたしが…
 
 クォーターバックのあたしが、女に…
 
 悪い冗談…
 
 ねぇ
 
 ねぇ…
 
 ちょっと
 
 ウソだと言ってよ
 
 ねぇ」

鏡に映る自分を指差し丈二はそういうが、

しかし、彼の言葉を否定する声は返ってこなかった。

「………」

無言のまま丈二は鏡を見つめていると、

「そんな…

 あたし…
 
 本当に女の子になっちゃったの?」

その開いた口から発せられた悲痛な叫びがトイレの中に響き渡った。



ガー…

ガラス張りの自動ドアが開き

コツッ

磨き上げられた床に丈二が履いたブーツの影が映ると、

その上を丈二は受付のカウンターへと歩いて行く。

あの後、女子トイレから飛び出した丈二だったが、

しかし、目的地であるアメフト部の合宿所に行かないわけには行かず、

周囲の視線を気にしながら、

ほんの2ヶ月前まで男として過ごしていた合宿所へ向かっていった。

しかし、そこで知らされた事実に丈二は衝撃を受けた。

あの事故のあった日、

クリニックへと搬送された丈二はそのまま入院し治療を受けたが、

けど、彼のその体は2度とアメフトが出来ない体になってしまい。

それを理由に丈二はアメフト部を退部と同時に大学も退学した。

というものであった。

「そんな…」

目の前にいる女性が丈二本人であることに気がつかないのか

アメフト部員たちは競い合うようにして説明をすると、

「ねぇ…君、どこの学部?

 うち、マネージャを募集しているんだけどさぁ…」

と丈二に誘いを掛けてくる。

「いえ…」

彼らの誘いを丈二は力のない声で断るとアメフト部の合宿所から出て行った。

サク

サク

夕日を背中に受け丈二は歩きなれた道を歩いていく、

しかし、その影は男性のものではなく、

髪の長い女性の姿を道に投げ下ろしていた。



「いらっしゃいませ、

 ご予約の方ですか?」

フロントの前に立った丈二に清潔そうに髪を整えたフロントマンはやさしく話しかける。

「あっ

 いっいえ…
 
 予約はしていないんですが…
 
 シっシングル空いていますか…?」

丈二は自分の声を絞りながらそうたずねると、

「あいにく、シングルは満室ですが、

 ツインならまだ空き部屋がございますが…」

とフロントマンは丈二に告げる。

「あっそれでいいです」

フロントマンの言葉に丈二は顔をあげツインの宿泊を希望すると、

「畏まりました」

フロントマンはそう返事をするとテキパキとキーを叩き、

そして、宿泊カードを取り出すと、

「では、こちらにお名前と住所を…」

と丈二に告げた。

「あっはいっ」

フロントマンに言われるまま丈二はペンを執りカードに記入していく、

しかし、苗字を書いたところでペンの動きがふと止まった。

「………」

丈二はカードを見つめると、

その視線を自分の胸へと移動させていく、

するとそこにはスエットシャツを正面へと突き出している左右2つの膨らみと、

肩から流れる長い髪が視界の中に入った。

「女…の体…」

丈二の口からその言葉が漏れると、

カッ

止まっていたペンが動き苗字に続いて名前を記入していった。

そこには丈二の本名ではなく、

ふと思いついた”恵美”という女性の名前が記されていた。

無論この欄に丈二の本名を書くことは出来るのだが、

けど、それを書くと正面にいるフロントマンに不審に思われることは確実だった。

無用な詮索を受けたくない。

そういった思いが丈二に偽りの名前を書かせていた。

「はいっ」

書き終わったカードをフロントマンに手渡すと、

「ん?」

それを見た彼の表情が一瞬変わった。

「え?」

その様子に丈二はドキリとすると、

トクントクン

丈二の心臓は次第に高鳴っていくと、

ジワッ

いつの間にか手が湿っていった。

しかし、

「ふむ」

フロントマンは丈二の方をチラリと眺めた後、

「いやっ、

 失礼」

慌てるようにして笑顔を作ると、

「では534号室です」

と言いながらキーを手渡した。

「なっなに?」

フロントマンの意味深な様子に丈二は訝しがりながら、

エレベータのところへと向かいボタンを押す。

そしてエレベータが来るまでの間、閉じたドアを見つめていると、

「あっ」

その口から小さく声が漏れる。

そう、ドアに映っていた自分の姿は服装も手伝いどう見ても高校生の少女のような姿だった。



チャッ!!

バタム!!

駆け込むようにして部屋に入った丈二は落ち着くまもなく、

バッ

着ていた服をすべて脱ぎ捨てると、

バスルームへ飛び込みそにある鏡に改めて自分の姿を映し出した。

「うっ…」

久方ぶりに見る自分の全身像に丈二は驚き、

そして思わず引いた。

あの女子トイレの鏡で自分が女性に近い姿に変身していたことは認識していたが、

けど、鏡にはっきりと映る自分の姿に丈二は驚愕していた。

鏡に映る丈二の姿は紛れもなく女子高校生を思わせ、

体を覆う肌は以前とはまるで違い、

ほとんど無毛の絹のような滑らかな肌に、

長くほっそりとした優美な腕と狭い肩、

握れば壊れてしまいそうな繊細そうな手とそれに続く細い指。

鍛え上げ盛り上がっていた筋肉が溶けてしまったかのように消えうせた胸には

呼吸をするだけでプルンと揺れる突き出した乳房に、

その頂点で硬く引き締まりピンク色に染まる乳首が隆起していた。

そしてその下には狭いウェストと腹筋の盛り上がりが消え平たくなった腹と、

横に大きく広がったヒップに長い脚と小さな足先…

丈二の肉体はまさしく思春期まっただ中の少女へと変貌を遂げていた。

「おっ女の体……」

鏡に映るわが身に丈二は細い手を這わし、

片手を持ち上げると恥ずかしげに膨れる乳房に当て、

そしてもぅ片手をかつて丈二のシンボルが聳え立っていた股間へと持っていく、

しかし、

その指先から伝わってきた感触は男の肉体では得られないものであり、

やわらかい乳房の感覚とともに股間に這わせた指からは、

滑らかで肉付きが良く、ピンク色の粘膜に覆われたかつてのペニスが軽く触れた。

「うっ」

指が触れたとたん、軽い電気ショックを受けたような衝撃を丈二は受けると、

スッ

すぐに指はペニスから離れ、

その下でピンク色のヒダを口から僅かに出している縦筋へと向かわせると、

二本の指を使いその口を左右に押し広げて見せた。

すると、

ニュチャッ…

丈二の縦の口は軽い弾力を持って左右に開き、

ピンク色に染まるその内側をさらけ出す。

ずっと昔…

興味本位で丈二が開いた家庭向けの医学書にあった女性の性器のイラストと

ほぼ同じものが鏡に映し出される。

「こっこれが…クリトリスで…
 
 これがオシッコの穴
 
 そしてこれが……の穴…」

喉をカラカラに乾かしながら丈二はピンク色のヒダを一枚一枚寄せ自分の性器を探求する。

もはや、どこにも男の証はなく、

丈二は男であったことを証明するものはすべて消え失せていた。

「女…

 女…
 
 女…」

ふと気がつけば丈二の口からその言葉が漏れていた。

そして、

「いやっ

 女になんてなりたくない…
 
 いやぁ
 
 いやよっ」

丈二は泣くような声を上げると、

「伸びて!

 伸びてよぉ!」

ヒステリックに叫びながらクリトリスと化してしまったかつてのペニスを引き伸ばした。

すると、丈二のクリトリスは見る見る充血していくと

真っ赤になって勃起してきたが、

けど、その長さはかつての雄姿とははるかに違い、

ほんの1cmも満たない程度に大きくなっただけだった。

と同時に…

チリ…

チリチリ

小さく勃起したクリトリスは丈二に女の快感を求め始め、

そして、程なくして

「あっ

 うっ」

クチュクチュ!!

クチュクチュ!!

丈二は沸き起こってきた女の快感におぼれてしまうと、

股間に入れた指を激しく動かしながら喘ぎ始めた。

「あっあぁ…

 ちっチンポ…
 
 チンポがほしい…
 
 入れて、お願いだから」
 
女の性欲に飲まれ丈二は口から男の肉体を求める声を上げながら、

ベッドへとたどり着くと激しく股間を諌めた。

クチョクチョクチョ!!

「おぉ

 うっ
 
 くぅぅ」

部屋の中に淫靡な音が響き渡り、

その中心で丈二は体をくねらせる。

もはや丈二は一匹のメスになっていた。



「うぅっ

 くはぁ」

クチョクチョクチョ!!

どれくらいオナニーをし続けていたか記憶にない。

「あうぅぅ…

 おっ俺は…女なん…だ
 
 女になっちゃたんだ」

女になってしまった…

その実感が丈二の股間よりおびただしい粘液を吐き出させ、

さらに激しいオナニーへと丈二を導いていった。

そして、丈二の意思ではオナニーをやめることが出来なくなる寸前、

リーン…!!

部屋の電話が鳴り響いた。

「!!」

鳴り響く電話に丈二が気がつくと、

粘液で濡れた手を伸ばし、

そして、受話器を奪い取るようにしてとると、

「はっはいっ…」

荒い息を殺しながら丈二は返事をする。

すると、

「あっお客様、

 そろそろチェックアウトのお時間ですが…」

とフロントマンの声が丈二の耳に響いた。

「え?」

その声に丈二は慌てて時計を見ると、

すると。時計の針は左に傾いたVサインの形になり、

チェックアウトの時間が迫っていることを無言で告げていた。

「あっあのぅ…

 すみません、
 
 もぅ一泊お願いします」

片手を股間で蠢かせながら丈二はそう言うと、

「はぁ…

 では、2泊ということにですね」

丈二の返事にフロントマンは聞き返し、

「はい、お願いします」

その言葉に丈二はそう返事をして受話器を置いた。

「ふぅ…」

掛かってきた電話によって丈二はオナニーの底なし沼から這い出ることが出来たが、

しかし、彼、いや彼女の肉体は涎を流しながら男を求め続けていた。

「うっ

 くっ」
 
油断すれば襲い掛かってくるオナニーの衝動を抑えながら、

丈二は立ち上がるとシャワー室に飛び込むと、

粘液まみれになってしまった体を洗い始めた。

体を洗うことによって己の体内の中で蠢くメスを洗い流そうとした。

しかし、丈二の体からメスは洗い流れることはなかった。

それどころか、ソープの香りによてますます貪欲さを増し、

いま男性の姿を見かければたちまち襲い掛かってしまいそうな衝動に駆られていた。



バスローブを身にまとい股間を押さえながら丈二がシャワー室から出てくると、

そのままベッドの上に倒れ込むとその欲望を諌めるかのように股間に挟んだ手を動かし始める。

「くはぁはぁ

 あぁ
 
 また…くる」

丈二は瀬戸際に立っていた。

もしこのままオナニーの快感に浸って行っては

こんどこそ戻っては来られなかった。

「いっそ、このまま…」

その考えが頭の中を過ぎるが、

「だめ!!」

ブンブン

すぐにそれを否定すると、

股間から引き剥がすように右手を伸ばすと受話器をとり、

ある番号を打ち込んだ。

「もぅ…ここしか」

呼び出し音を聞きながら丈二はそうつぶやくと、

「はい、もしもし」

電話から聞きなれた声が響き渡った。

「あっ羽村先生…

 おっ…
 
 あたしです。
 
 藤堂です」

受話器にしがみつくようにして丈二は話しかけると、

「あら、おはよう、

 外の空気はどう?」

っと麗子は意地悪っぽく話しかけてくる。

すると

「せっ先生、

 あたし、なにか悪いことをしましたか?
 
 なんで、女の子にしたんです?」

堰切るようにして丈二は麗子を責め立てると、

「さぁ、

 自分の胸に聞いてみなさい」

と麗子は突っぱねたようにそう告げると電話を切ってしまった。

「あっ待って!」

切れた電話に丈二は話しかけると再びボタンを押す。

「はい?」

「あっさっきはごめんなさい」

再び掛けられた麗子の声に丈二はすぐに謝ると、

「そう、目上の人への言葉遣い、気をつけるのね

 で、なんの用なの?
 
 愚痴なら聞かないわよ
 
 まったく勝手に抜け出して、こっちは大変だったんだからね」

電話口のから聞こえる麗子の声は怒るというより妙に明るかったが、

しかし、丈二はそんなことには構わずに、

「はっ羽村先生

 助けて…
 
 とっ止まらないの…」

と訴えた。

「止まらないって何が?」

「何がって、

 そんな意地悪なことを言わないで
 
 指止まらないの
 
 体が燃えてしかたがないの、
 
 男のチンポが欲しくて堪らないのよ、
 
 お願い、
 
 このままじゃぁあたし、
 
 おかしくなってしまいそうなの」

股間の指をモゾモゾと動かしながら、

丈二は涙をながしながら訴え続けた。

「そう…

 それは大変ねぇ…
 
 いいわ、いまあなたがいるところ教えて、
 
 迎えに行ってあげるから」

まるでこのときを待っていたかのように麗子は丈二に告げると、

「あっはい、

 ××駅前の○○と言うホテルです」

丈二は受話器に向かって怒鳴った途端、

ビクッ!!

これまで抑えつけててメスが丈二に襲い掛かってきた。

「はっ早く来て!!」

その声を残して丈二は受話器を置くと、

「いやぁぁぁぁ!!」

悲鳴を上げながらオナニーを始めだしてしまった。

すっかりメスに支配され丈二の意思では止めることが出来ない地獄のオナニーだった。



つづく