風祭文庫・アスリート変身の館






「救世主」



作・風祭玲

Vol.585





カシャン!!

放課後の体育館に平行棒の音が木霊し、

その直後、

タンッ!!

水色に白のストライプが入ったレオタード身に付けた少女が、

平行棒のそばの床に着地する。

「ふぅ…」

身に付けているレオタードに幾つもの汗染みを浮き上がらせ、

少女は大きく深呼吸をすると、

「さて、技の組み立てはこんなものかな…」

と自己満足をしながら置いてあるモップの柄に手をかけた。

そして、人の気配がいない体育館のモップを掛けながら、

「大会まであとすこしか…

 悔いのないようにしないとね…

 だって、あたしで最後なんだから…」

と呟きながら振り返り、主が消えた平行棒を見つめる。

そのとき、

「キャーッ!!

 水元くぅーん!!」

「中嶋くーん」

突然、体育館の中に女子の黄色い声援が響き渡ると、

その声援を受けながら、男子体操部の面々が体育館に入ってきた。

「あれ?

 どうしたの?」

突然入ってきた男子の姿を見て少女・中野千歳は驚くと、

「あぁ、中島か…

 悪い、

 急遽組立てを変えることになってさ…

 いまから練習なんだよ」

と先頭を歩く男子体操部キャプテン・東島剛が

驚かせたことを謝りながら右手を上げた。

「あっそうなの…

 ふーん、男子も大変なんだ…」

ぞろぞろと体育館に入ってくる揃いのユニフォーム姿の男子部員達を

千歳は醒めた視線で見送りながら嫌味半分に言うが、

しかしそのときには剛の姿は千歳の前にはなく、

「おらっ

 さっさとしろ!!

 時間がなくなるだろうが」

と準備を始めた下級生部員を叱り飛ばしていた。

「はぁ…」

そんな剛の姿に千歳はため息をつくと、

「じゃぁ、後はお願いね…」

と後のことを託して、練習場から去って行く。

しかし、去っていく千歳の姿を興味深そうな面持ちで見つめていた部員が

一人居たことには気づくことは無かった。



ガチャンッ!!

人気のない女子更衣室にロッカーを開ける音が響き渡り、

開け放たれたロッカーの前で、

「ふぅ…」

千歳は大きくため息をつきながら、

着ていたレオタードに手をかけゆっくりと摩り下ろすと、

プルン!!

膨らんだ果実をさらす。

「はぁ…

 1年の時には15人は居た女子体操部員もとうとうあたし1人か…」

レオタードを腰まで下ろした姿で千歳はそう呟くと、

トンッ

裸の背中をロッカーのドアにつける。

かつてこの高校の女子体操部は名門として名を馳せ、

そして、中学から器械体操をしてきた千歳がこの高校を選んだのも、

名門としての女子体操部にあこがれたからだった。

しかし、千歳が体操部に入ったときはすでに部としてのピークは過ぎ去り、

年を追うごとに部員は急速に減少、

千歳が3年になったときには僅か3年生が3人という小所帯の部になってしまっていた。

そして、残った3人も受験勉強を理由に去ってゆき、

今では千歳1人が全てを兼職する形で籍を置いていたのであった。

「はぁ…

 女子体操部もあたしで終わりかなぁ…

 あーぁ…」

多くの先輩を送り出したこの部が自分の代で幕引きをすることになる。

この寂しさを実感しつつ、

今の自分に何も出来ないもどかしさに千歳は悔しさを感じると、

ドンッ

意味もなくロッカーのドアを叩く。

すると、

「おっ荒れてますね…」

突然、更衣室に女性の声が響き渡った。

「(はっ)誰?」

その声に驚きながら千歳は声をあげると、

「いやぁ、ちょっとそばを通りかかったもので」

そう言いながら姿を見せたのは千歳との学校とは違う制服を着た少女だった。

「あなたは?」

「え?

 まぁ…名乗るほどのものではありませんが…」

千歳に向かって親しそうに少女は話し、

「ふふーん、

 ひょっとして体操部の人?」

と尋ねながら脱ぎかけのレオタードを指差した。

「あっ」

少女の指摘に千歳は慌ててレオタードを胸の上まで引き上げると、

「まっ恥ずかしがることないじゃない、

 女同士なんだから…」

と少女は気さくに言い、

「この学校の器械体操部といえば…

 名門だったよね…

 インターハイに国体、

 そして国際大会と大勢の選手を送って…」

思い出しながら少女は体操部の歴史を喋る。

すると、

「ふっ

 それももぅ終わりよ…

 女子体操部はあたしで終わり、

 もぅ未来はないわ」

と千歳は投げやりになりながら返事をした。

「なに?

 後輩達が居ないの?」

「……そうよっ

 猛練習についていけません。

 って音を上げてね、

 みんなやめちゃったわ、

 だから、あたしでお仕舞いなの」

「ふぅーん…

 でも、男子は大盛況の様子じゃない。

 まるで金魚の糞みたいにゾロゾロついて回ってさ」

「男子はね…

 この間のオリンピックで目立ったせいで、

 新入部員が大勢増えたわ、

 はぁっ

 何人かこっちで貰いたくなるくらいにね」

少女に男子との比較をされた千歳は機嫌を損ねながら返事をすると、

「(キラッ)」

その言葉を聞いた途端

一瞬、少女の目が光が走り、

「だったら、

 女子部に入れちゃったら?

 一人や二人スカウトしても向こうは文句は言わないでしょう?」

と囁く。

「はぁ?

 何を言っているの?

 向こうは男子よ、

 男子の体操部員を女子体操部にスカウトしてどうするって言うのよ」

少女の言葉に千歳は呆れながら言い返すと、

「なーに、簡単よ、

 女の子にしてしまえばいいのよっ

 男子の体操部員をこっちに連れ込んで

 女の子にしてしまうのよ。

 ふふっ

 男なんてスケベだからあなたがそのレオタードで誘惑すれば

 直ぐに釣れるわよ」

「ちょっと待ってよ、

 男の子を女の子にしろだなんて簡単に言わないでよ、

 第一、そんなことできるわけ…」

少女に向かって千歳が怒鳴り返したとき、

スッ

少女はスカートのポケットより小さなビンを取り出し、

「この液体をふりかけなさい。

 あっと言う間に女の子になるわよ、

 ふふっ

 しかも、一度女の子になってしまうと、

 二度と元には戻らないからね」

と囁く。

「うそっ」

少女のその言葉に千歳は言葉を詰まらせると、

「ふふっ

 信じる。信じない。はあなた次第。

 そうねぇ…

 めぼしい男の子に無理やりレオタードを着させて、

 振りかけてあげるのもいいかも…

 この薬、即効性があるから、

 レオタードに覆われた自分の体が女性化していくのを

 怯えながら見ることになるわ、

 あはっ

 ちょっと悪趣味かな?」

と少女は笑いながら言い、

「じゃっ、

 あたしはこれで失礼するわ」

と言い残して更衣室から去っていった。



「あっちょっと!」

スカートを翻して去っていく少女を

千歳は追いかけて呼び止めようとするが、

しかし、レオタード姿のまま表に飛び出すわけにも行かず、

更衣室のドアまで出ると立ち止まってしまった。

『…この液体をふりかけなさい。

 あっと言う間に女の子になるわよ…』

少女より手渡されたビンを見つめながら

千歳はその言葉を思い出していると、

「そんな馬鹿なこと…」

と呟き、そのままビンをゴミ箱に放り込もうとした。

ところが、

「ん?」

何かに見つめられているようなそんな視線を感じると、

「だれ?」

反射的に胸と股間を隠しながら声をあげる。

しかし、

その声に返事をするものは無く、

「気のせいかしら?」

千歳は結論付けて自分のロッカーに戻ろうとしたとき、

ガタン!!

ドタ!!

カラカラカラ!!!

何者かが蹴躓いてひっくり返る音が響き渡った。

「!!」

その音に千歳が振り返ると、

「あっ」

女子更衣室の前の廊下で白いトレーニングパンツ姿の男子体操部員が一人倒れ、

千歳の姿を見るなり慌てて逃げようとした。

「待ちなさいっ!!」

倒れたときに足を打ってしまったのか、

男子体操部員は思うように走れず。

たちまち、千歳につかまってしまうと、

「ごっごめんなさいっ

 もぅ二度としませんからみんなに言わないでください」

と必死に請い始めた。

「どうせ、あたしの着替えを覗いていたんでしょう。

 この痴漢!!

 いいわ、東島君に言いつけてやるわ」

男子部員の言葉に千歳は怒鳴り返すと、

「お願いです。

 許してください」

部員は泣きながら縋る。

「うるさいっ

 なによっ

 着替え覗いていたくせに女みたいに泣き出さないの!!」

そんな部員に向かって千歳は怒鳴っていると、

『…めぼしい男の子に無理やりレオタードを着させて、

 振りかけてあげるのもいいかも…

 この薬、即効性があるから、

 レオタードに覆われた自分の体が女性化していくのを

 怯えながら見ることになるわ…』

とあの時の少女の声がフィールドバックする。

そして、

「そうだわ…こいつを実験台に…」

千歳の中に悪戯心が芽生えると、

「ちょっとこっちに来なさい!!」

そう怒鳴りながら千歳は男子部員を引きずり、

無理やり更衣室の中へと押し込んでしまった。

「なっなにを…」

カチャッ!!

更衣室のドアを閉め、鍵をかけた千歳に部員は怯えながら訳を尋ねると、

「ふふっ

 いい事思いついたわ」

千歳はそう言いながら空いているロッカーより、

辞めていった女子部員が残していったレオタードを1着取り出すと、

男子部員に向かって放り投げ、

「さぁ、それに着替えるのよっ

 着替えをみられる恥ずかしさ、

 それを体験してもらおうじゃないの」

と凄む。

「そっそんなぁ!!」

千歳の言葉に男子生徒はすくみ上がると、

「はいっさっさとする。

 着替え終わったらみんなにお披露目するんだからね」

と告げ、

急かすように部員の肩を押した。

「うっ」

千歳の行動に部員は萎縮してしまうと、

「判りましたぁ…」

まるで蚊の鳴くような声をあげ、

着ていたユニフォームを脱ぎ始める。



そして、千歳より押し付けられたレオタードを身に付けると、

「あっあの…」

体の線が露にされて恥ずかしいのか、

手で股間を隠しモジモジする。

「へぇぇ…

 可愛いじゃないの…」

そんな部員を千歳は侮蔑したような視線でみると、

「さっこっちに来なさい!」

と命令した。

「はっはいっ」

千歳の言葉に男子部員は相変わらず股間を隠しながら近寄ると、

「なに隠しているのよ、

 男の子なら堂々としなさいよ」

と注意する。

しかし、

「でっでも…」

部員はそれを拒むと、

「もぅさっさとその手をどかしなさい!!」

と苛立った千歳は部員に向かって指図をし、

「うっ」

千歳の指示に男子部員は体をこわばらせながら手をどかした。

すると、

ビンッ!!

部員の股間より勢いよく勃起したペニスが、

レオタードにテントを作っている様子が目に飛び込んできた。

「なっなにこれ?」

最初それをみたとき、千歳は物珍しそうに眺めるが、

しかし、その正体を知ったとき、

「ふんっ

 レオタードを着させれてこんなになるなんて

 変態っ」

と呟いて見せた。

すると、

ビンッ!

その言葉を受けて萎えるどころか、

逆にさらにペニスが成長してしまうと、

「うわっ」

男性の意外な生理に千歳は飛び上がるくらいに驚いて見せ、

「すっすみません!!」

心とは逆に反応するペニスに男子部員は謝ると、

「ふふっ

 やっぱりあなたにはお仕置きが必要ね…」

千歳はそう呟くや否や

あの少女から貰ったビンを取り出し、

シュッ

シュッ

シュッ

っと三吹き、部員に向かって吹きかけた。

「(あの子の話ではこれで十分だろうけど、

  本当に女の子になるのかしら)」

実例が無いだけに千歳は半信半疑になっていると、

「あっあっあぁぁぁ!!」

何かに驚いたのか男子部員が自分の両腕を見ながら悲鳴をあげた。

「え?」

その悲鳴に千歳は驚き、凝視する。

すると、

シュルルルルルル…

掲げる男子部員の両腕が見る見る小さく細くなっていくと、

ググググ!!!

腰周りに括れ、身体のラインが曲線を描き始める。

「うそっ!」

胸が膨らみ、

肩幅が狭くなっていく男子の姿に千歳は目を釘付けにしていると、

シュシュシュ…

ムリムリムリ!!

彼女の目の前で男子部員は胸を膨らませ、

腰をくびらせる女子選手へと姿を変えていった。

「あっあっあぁぁ!!

 やだ、

 そんな、

 おチンチンが

 小さく…

 あっダメ…

 中に…

 中に潜り込んでくる」

声色を変えながら部員が股間を抑え、

そして、

「あぁ…

 そんな

 なくなっちゃったぁ!!」

ふっくらと縦筋を刻む股間を千歳に見せるように悲鳴をあげた。

「いやだ、

 いやだ、

 助けて!!

 あっあぁ…

 おっぱいが膨らんで…

 あぁ…

 いやぁぁぁぁ!!

 女の子になっちゃうぅぅぅ」

「すごい…

 本当に女の子になっていくわ…」

あの少女の言った通りに

目の前の男子部員がレオタードが似合う女子部員へと

変身していく姿に千歳は目を見張ちながら、

「うふっ

 ねぇ、女の子になった気分はどう?」

股間に溝を刻み、

バストを膨らました男子部員に尋ねた。

「そんな…

 おっお願いです。

 僕を…男に…

 男に戻してください」

少女のような声をあげながら男子部員が縋りつくと、

「判った?

 女の子の恥ずかしさが?

 ふふっ

 罰として君は今日から女子体操部員、

 そのレオタードを着て練習をするのよ、

 いいこと!」

と言い渡す。

「そんなぁ!」

その命令に男子部員は泣き顔になるが、

「(これさえあれば…

  女子体操部を昔のように立て直すことが出来る…

  そうだ、今度はアイツをこっちに引き入れちゃいましょう)」

千歳は女の子にした男子部員には目もくれずに、

ジッとビンを見つめながら呟いていた。



「あっモシモシ、

 あぁ春子?

 ちょっと聞いて、

 いまさっ、朝、言っていた学校にいるんだけど、

 この学校の女子体操部が部員がいなくて困っていね、

 部員はなんとたったの一人なんだって、

 さすがにそれをみたときにさ、

 あなたから貰った薬を思い出して、

 その子にあげちゃったんだけど、

 いいでしょう?

 え?

 あぁ、早速一人を女の子にしたみたいよ、

 すごいね…あなたの薬って…

 え?あたしぃ?

 あはは、ウチの部は今のところ間に合っているから必要ないわ、

 あっ、電車が来たから電話切るね、

 じゃっ明日!!」



おわり