風祭文庫・アスリート変身の館






「キャプテン美咲」
(第3話:失踪)


作・風祭玲

Vol.504





「合宿ぅ…?」

放課後の科学部に雪村春子の驚く声が上がると、

「そうよ…」

驚く春子をよそに松ヶ瀬美咲はゆっくりと頷いて見せる。

「なんでまたぁ?」

春子は美咲にその訳を尋ねると、

「うん、

 春子のおかげであたしの新体操部も大分人が集まってきたけど、

 でも今の状態ではただの寄せ集め、

 全然部とはいえないわ、

 だから、ここで合宿を行って部として纏め上げたのよ」

と返事をして見せる。

しかし、

「ふぅぅん…

 要するに、味見をしたいわけね」

そんな美咲を見透かすように春子はそう指摘すると

「ちっ違うわよ!!」

美咲は思いっきり力を込めて否定をするが、

「うふっ、

 いいわよっ

 あたしも付き合ってあげるから、

 おレズの美咲がどんな合宿をするのか興味あるしぃ」

と、春子は笑みを浮かべながら美咲の肩を叩いて見せた。

「あっあのねぇ!!」

そんな春子に美咲はさらにトーンを上げると、

「判ってるって、

 判ってるって…」

春子は全然美咲の話に聞き耳を持たなかったのである。

「違うのよぉ!!

 あたしはただ合宿を…」

「で、いついくの?」

「だからぁ!」

「あっ予定はココに書いておいてね」

「もー、春子ぉぉぉぉ!!!」

………



そして、それから2週間が過ぎたある日の朝

「おーぃ、真田ぁ!!」

部員の名前を呼ぶ男子テニス部キャプテン・長田純也の声が合宿所に響き渡った。

「どうした?」

「どしたんです?

 キャプテン」

純也の声を聞きつけテニス部員達がゾロゾロと純也の周りに集まってくると、

「あぁ…

 真田の奴、知らないか?

 昨日、コートセットを片付けて言っていたのに、

 全然していないんだよ」

と純也は昨日の状態のままの何も準備がされていないコートを指差してみせる。

「あっ本当だ…」

「どうしちゃったんだろう」

「そういえば真田の奴、姿見かけないな…」

「え?

 でも、夕べは居ましたよ」

コートを眺めながら部員達は行方不明となっている真田義男の所在について口々に言うと、

「あんにゃーろ…

 早速バックレやがったなぁ」

純也は視線を横に向けつつそう呟いた。

すると、

「あっ、でも、

 真田先輩の荷物はありましたよ、

 今朝、僕が見ましたから」

と1年生が声を上げた。

「本当か?

 それ?」

1年のその声に純也は聞き返すと、

「えぇ…」

と返事をしながら1年は頷く、

「ということは…

 ?

 ??

 どこいったんだアイツは…」

姿を消した義男のことを純也は不思議に思っていた。



「いーち」

「にー」

「さーん」

程なくしてテニス部にとっての合宿の2日目が始まった。

整備されたコートのなかで純也たちが柔軟運動をしていると、

ピピーッ!!

「はいっ

 集合!!」

隣に立つ体育館の中に笛の音が響き渡り、

女性の声が追って響いた。

「おいっ

 新体操部の練習が始まったぞ」

「おーぉ、

 なかなか…」

柔軟運動をしながらテニス部員達は

大きく開け放たれた体育館の扉より覗く内部を見ながらニヤニヤしていると、

「おいっ

 そこっ

 いい加減にしていると怪我をするぞ!」

それに気づいた純也がすかさず注意をする。

そしてその後、

ふと、視線が体育館に向いてしまうと、

「!!」

新入り部員なのか恥ずかしそうに手具を持つレオタード姿の少女が、

先輩よりアドバイスを受けながら演技の手ほどきを受けている様子が目に飛び込んできた。

「どこも、新入りは大変だよなぁ」

そんな姿を見ながら純也はそう思っていると、

「キャプテーン!!

 何を見ているんですかぁ〜」

と純也の行為を指摘する声が響く。

「なっ」

その言葉に純也が驚くと、

「もぅ、人に注意して、

 自分だけはちゃっかり見ているんなんて、

 ズルイですよぉ」

追って非難する声が上がる。

「ちっちがうっ

 俺は、

 新入りの教育はどこも大変だなぁ…

 って思っていただけで、

 別にイヤらしいつもりは微塵もないぞ」

と純也はその言葉を打ち消すように怒鳴るが、

「なんですかぁ?

 なんだかんだ言いながらもしっかり見ているじゃないですか」

と逆に上げ足をとる言葉が上がった。

「違う!!

 つーの!!」

「いいっすよ、

 いいっすよ、

 男ですから、

 みんな仲良く、覗きましょうよ」

「お前らぁぁぁぁ!!!」

思うように弁明が出来ず、

純也は頭に血を上らせたとき、

「え?」

体育館の中よりその純也を見つめる視線があった。

そして、それに気づいた純也が視線を向けると、

さっき、手具の手ほどきを受けていた新体操部の少女がジッと純也を見つめていたのであった。

「なんだ?

 でも、

 誰かに似ているような…」

シニョンにひっ詰めた頭…

小さな顔…

膨らんだ胸…

括れたウェスト…

張り出しているヒップ…

露になっている健康そうな腿…

新体操少女の見事な肉体美を赤に黒のストライプが入ったレオタードで誇張している彼女の姿に

純也は誰かに似ているような錯覚に囚われ、

「誰だっけ?

 どこか会った様な」

などと思っていると、

「へぇ

 彼女がキャプテンの好みですかぁ

 俺はあの右横の娘が好みだなぁ」

「キャプテンも隅に置けませんね」

いつの間にか部員達が純也の周囲に群がり

そして、全員で体育館を覗き込んでいた。

「お前らなぁぁ〜!!!」

練習そっちのけのその状態についに純也がキレてしまうと、

「あっでも…

 あの子、真田先輩に似ていますね…」

と言う声が上がった。

「あっそっか…」

その声に純也は少女が真田義男に似ていることに気づき改めて少女を見ようとしたが、

しかし、少女の姿はそこにはなく、

「あっあれ?」

慌ててキョロキョロするものの再び見つけることは出来なかった。



夕刻、

「よーし、

 今日の練習はコレで終わりだ」

今日1日、たっぷりと練習をこなしたことに満足しながら純也はそう宣言をすると、

「お疲れ様です」

「お疲れ!!」

猛練習でヘトヘトになった部員達は声を搾り出すように返事する。

そして、

「じゃぁ、

 今日の当番の岬、高津、

 お前達でコートの片づけを頼むぞ」

純也は事前に決めていた予定にしたがって

1年生の2人にコートの整備を言い残すと合宿所へと帰っていった。

しかし、コートの片づけをしていたはずの2人は合宿所へ戻っては来なかった。

翌朝、

「きゃっキャプテン!!

 1年の岬と高津の2名がいません」

「なに?」

昨日の状態のまま放置されていたコートを前にして立ち尽くしていた純也に、

岬・高津の2人が行方不明になっていることが告げられた。

「一体どうなっているんだ、

 夕べ、点呼を取ったのか」

「いや、それが、

 うっかり…」

「何だそれは?」

「はぁ、練習で疲れたてていたもので…」

「ったくぅ、

 義男と言い、

 この二人と言い、

 おーぃ、みんなで探すんだ!!」

さすがに3人もの失踪者を出したことに純也は腰を上げるとその捜索を部員達に命じた。

けど、いくら探しても3人の消息を知る手がかりはどこにもなかった。

「ったくぅ、

 どこに消えてしまったんだ?」

そんな思いで純也が体育館を見ると、

「あれ?」

体育館の中で新体操の練習をする少女達の人数が増えていることに気づいた。

「ひぃ

 ふぅ

 みぃ…

 ??

 昨日より増えている???」

レオタード姿の少女の数が2名増えていることに純也は首を傾げていると、

「キャプテン、

 何を見ているのですか?」

と言う声が響いた。

「ん?

 あぁ、大間か

 なぁ、

 体育館の新体操部の数が増えているんだけど、

 なんでかなぁ…」

と純也は同じ3年の大間勝に尋ねた。

「キャプテ〜ン!!

 もぅしっかりしてくださいよ、

 新体操部の部員が増えたことなんて関係ないでしょう?

 それよりも、3人の行方不明者をだして、

 どうするんですか?」

勝は未だに姿を見つけられない行方不明者のことを指摘する。

「うっ

 うん、そうだったな…」

勝の言葉に純也は頷くものの、

しかし、彼の関心はなぜか人数が増えた新体操部の不思議へと向けられていた。

そして、

「え?

 千葉と轟、鷲尾、佐久間の4人が戻ってこない?」

その日の夕刻、男子テニス部は新に4名の行方不明者を出してしまったのであった。

「キャプテン…」

「うっうん」

もはやこの問題はただの失踪ではなく事件へと変貌していた。

それを確信した純也は、

「大間っ

 悪いが駐在所まで行って来てくれないか、

 ここは携帯の電波は通じないし、

 この合宿所には固定電話がない。

 それに、

 なにか良からぬ輩の犯行なら、

 あの新体操部の女の子達も心配だ」

と言うと、

「うんっ

 判った」

純也の頼みに勝は頷き、

「林と須賀

 お前も一緒に来い」

と1年の林と2年の須賀に声をかけて合宿所をあとにした。

だが…

「まさか…大間たちも…」

夜が白みだした早朝、

一睡もせずに勝の帰りを待っていた純也は昨日麓にある駐在所へと向かっていった3人が

またしても姿を消してしまったことを悟った。

「なんで…

 一体、犯人の目的はなんだ?

 映画みたいに虐殺か?

 それとも、某国の拉致事件?

 それとも…」

純也は一人でモンモンとしながら考え込んでいると、

ガタン!!!

「そうだ、

 新体操部は!!

 新体操部は大丈夫なのか!?」

と近くで合宿を行っている新体操部のことを思い出すなり、

慌てて合宿所を飛び出してしまうと、

「うちでこんなに行方不明者を出しているんだ、

 新体操部だって…」

心の奥底から湧き出るような不安を抱えながら純也は新体操部の合宿所へと向かう

そして、新体操部の合宿所に到着したとき、

「え?」

純也は予想外な光景を目撃した。

「いーち」

「にぃーぃ」

「さぁーん」

「いっ痛い!!」

「もっとやさしくして」

「甘えないの、

 あたし達は新体操部員なのよ

 コレくらいで音を上げちゃぁダメよ」

と叫びながら髪をシニョンに結い上げたレオタード姿の少女たちが

合宿所の庭先で柔軟運動に汗を流していたのである。

「え?

 こんな朝早くから…」

まだ6時前の早朝から練習をしている新体操部員の姿に純也は呆気に取られるが、

「そっそうだ…

 こんなことをしている場合では…」

と意を決すると、

「すみません」

と練習をしている少女達に声をかけた。

ところが、

「はい?」

純也がかけた声に少女達は一斉に彼の方を向くと、

「あっ!!!」

っと驚いたような声を挙げ、

恥ずかしそうに俯いてしまった。

「?」

彼女達の予想外の行動に純也は驚くと同時に

入ってはいけないところに踏み込んでしまったのでは?

と思いつつ、

「あっあのぅ…

 キャプテンか、引率の先生は居ませんか?

 ちょっと話をしたいことがありまして」

と新体操部の合宿所にやってきたのが正当な理由であることを告げた。

すると、

タッ!!

柔軟運動をしていた少女の一人が意を決したような表情をすると純也の傍に駆け寄ってくるなり、

「ここに来てはダメ…

 スグにみんなを連れて帰って、

 いまなら大丈夫よ」

と囁いたのであった。

「え?

 帰れってどういう?」

少女からの言葉に純也は驚くと、

ジッ

レオタード姿の少女は見上げる視線で純也を見つめ、

「いいから…

 早く逃げて、

 じゃないと、

 みんな、女の子に…

 新体操部員にされちゃうのよ!!」

と真剣な表情で訴える。

「はぁ?」

あまりにもものの突拍子のなさに純也は唖然とすると、

「そっそうよ」

「お願い、キャプテン、

 みんなを連れて逃げて」

と他の少女達も駆け寄ってくるなり次々とそう訴えた。

「え?

 えぇ?

 キャプテン?

 ちょっとちょとまってよ、

 俺は君達のキャプテンなんかじゃないよ」

少女達の言葉に純也はそう返事をすると、

「キャプテンが見ても判らないくらいに

 あたし達、女の子になっちゃっているんですか?

 あっあたしです。

 1年の千葉です。

 昨日までテニス部員だった千葉です」

と訴えながらその少女は泣き出してしまった。

「え?

 えぇ!!!」

さめざめと泣く少女のその姿に純也は驚くと、

「キャプテン、

 あたし達も千葉さんと同じように女の子にされてしまったんです。

 みんな…

 テニス部部員だったんです」

と次々と訴える。

「何だってぇ

 じゃぁ、

 君達は…

 みんな消えたウチの部員?」

少女達の訴えに純也は聞き返すと、

「はい…」

少女達は皆一応にうなずいたのであった。

「え?

 男を女にするだなんて…

 そんなこと…」

目の前に居るレオタード姿の少女たちが

自分の部に居た部員だったと言う衝撃の事実に純也は愕然としていると、

「ふふ…

 科学の勝利…

 ってトコかしら…」

と言う言葉と共に二人の女性が姿を見せた。

「あっ」

彼女達の姿に少女達は一斉に驚くと、

「はじめまして…

 でもないか、

 男子テニス部・キャプテン・長田純也さん」

と後に控えていた女性が余裕な素振りを見せながら挨拶をする。

「あなたは…

 新体操部の松ヶ瀬美咲さん

 確か、新体操部を辞めたと聞きましたが…」

挨拶をしてきた女性が新体操部を辞めた美咲であることを指摘した。

「えぇ…

 そうですわ?

 図られましてね、

 でも、それで負けるあたしではありません。

 あたしのやり方に文句があって追い出すのなら、

 その反対もありかな…ってね」

「やり方?」

「えぇ…

 追い出されるのはあたしではなくて向こう…

 そう、あたしがあたしの新体操部を作り、

 それで向こうを負かせてしまえばいい。

 ってことに気がつきましてね。

 でも、部員はなかなか集まらないのが悩みの種、

 そんなとき、たまたま合宿であなた方に会い、

 そこであなた方にあたし達の仲間になってもらおうと

 一人一人、レオタードが似合う女の子になってもらいました」

「なっなんだって
 
 そんなこと、勝手に…」

美咲が話す理由に純也は驚愕すると、

ズイッ

挨拶以来ずっと黙っていた女性が純也の前に迫り、

「そうっ

 そのとき活躍したのがわたくしこと科学部・部長・雪村春子が発明した、

 トランス・カートリッジ弾よ」

と叫びながら誇らしげに隠し持っていたバズーガ砲のようなものを掲げて見せる。

「なっなんですか、それは!!!」

突然出てきた武器に純也が腰を抜かすと、

「ふふ…

 そんなに驚かなくても…」

女性はそう囁きながら砲身にキスをした後、

カシャツ!!

っと砲口を純也に向け、

「なっなっなっ」

自分に向けられた砲口に純也は腰を抜かしながら指を指していると、

「ふふっ

 あっという間に済むわ…

 大丈夫、

 コレはあたしの師匠が作ったバニーカートリッジ弾をあたしなりにアレンジしたもの…

 痛くもなく、

 苦しくもなく女の子になれるの、

 どぅ?

 すばらしい発明でしょう?

 ふふふふふ…」

笑みを浮かべながら春子は照準に目を当てると、

「うわぁぁぁぁ!!

 助けてくれぇぇぇ」

耐え切れなくなってしまった純也は持ち前のダッシュで飛び出してしまった。

しかし、

「遅い!!!

 あたしのトランス・カートリッジ弾から逃れる術はないわ、

 さぁ女の子におなりなさい!」

と叫ぶや否や、

カチッ!!

引き金を引いた。

その途端、

シュボッン!!!

砲口より白い軌跡を残しながらトランス・カートリッジ弾が発射され、

逃げる純也へ一直線に向かって行く。

そして、その数秒後…

ボンッ!!

「いやぁぁぁぁぁぁん!!!」

小さな爆発音と共に少女を思わせる悲鳴が響き渡ったのであった。



「いーち」

「にーぃ」

「さーん」

体育館の中に少女達の声が響き渡る。

「はーぃ、

 柔軟は新体操の基礎です。

 決して疎かに出来ません」

レオタード姿で柔軟運動をしている新体操部員達の間を通りながら美咲が声を張り上げると、

「はーぃ」

周囲から一斉に返事が返ってくる。

そして、響き渡るその声に美咲は満足そうに頷き、

柔軟運動をしている一人の少女の傍に立つと、

「ねぇ、どうかしら、

 女の子になった感覚は?」

と尋ねて見せる。

すると、

「はっはいっ

 とても恥ずかしいです」

股を大開きにしながら少女はそう返事をすると、

「ふふ、

 大丈夫よ、

 長田さん…

 女の子はその恥ずかしさを乗り越えて新体操選手のなるのよ、

 レオタード姿になるのはその第一歩…

 大丈夫、

 あなたならきっとなれるわ、

 だって、レオタードを着られたんですもの…」

と笑みで答え、

そして、少し離れたところでその様子を見ていた春子を呼び寄せると、

「ねぇ

 今夜、一気にやっちゃってよ」

と囁いた。

「ん?

 判ったわ、

 ちょうど拡散トランス砲の威力も確認したかったし、

 今夜、残りを一気にやっちゃうわね」

美咲の依頼を受けた春子は笑みを浮かべながら、

カチャッ

2連の砲口を持つ武器を掲げて見せたのである。



「ところでさ、

 そろそろあたしが手を下すんじゃなくて、

 美咲がやってみたらどう?

 もぅ自信ついているでしょう」



つづく