風祭文庫・アスリート変身の館






「キャプテン美咲」
(第2話:繭玉)


作・風祭玲

Vol.503





「体操部の木下ぁ?」

放課後の科学部室に部長を務める雪村春子のやや驚いたような声が響き渡ると、

「そー…」

その声に元新体操部・キャプテン・松ヶ瀬美咲が大きく頷いて見せる。

「木下って…

 う〜ん、聞いたことがないなぁ…」

空手部の五十嵐隼人が春子の判断によって女性化リストから外され、

それによって開いた穴を誰で埋めるのか、

急遽開催された対策会議の席で美咲の口から出てきたその名前に

春子は思わず考え込んでしまうと、

「あれぇ?

 そんなに影が薄かったっけ?

 彼?」

と美咲は逆に春子の反応に驚いていたのであった。

「う〜ん…」

思い出そうと考え込んでしまった美咲は己の脳細胞をフル活用し

インプットしてある全校生徒のデータベースへのアクセスと検索を実行をする。

そして、考え込むこと約5分

ポンッ!

ようやくヒットした春子は手を叩くと、

「あーっ

 2年3組の木下和也!!」

と声を上げて見せる。

「そんなに考え込むことかなぁ?」

春子の口からなかなか答えが出てこなかったことを美咲は指摘すると、

「いやぁ…面目ない。

 確かに木下って奴、体操部にいたわ。

 でも、彼って美咲が欲しがるほどの人材だったっけ?」

と春子は美咲が和也を欲しがる理由を尋ねると、

「あっそうか、

 春子って木下君のことをあまり知らなかったんだっけ」

美咲は和也が最近まで無名であったことを思い出し、

「うん」

美咲のその言葉に春子は頷いて見せる。

「まっ簡単に言ってしまえば器械体操部のホープって所かしら」

「ホぉープぅ?」

「そう、

 ほらっ

 この学校の器械体操部が強いってことは春子も知っているでしょう?」

「まぁねっ

 確かこの間の県大会でも上位入賞をしていたわよねぇ」

「そうそう、

 その体操部員の中でも特に木下は急成長をしていてね、

 次のキャプテンになること間違いなし。

 っていわれているのよ」

「へー…

 そうなんだ…」

和也に関する美咲の説明に春子は感心しながら頷いて見せると、

「ただねぇ…

 一つ欠点があるのよねぇ」

とそんな春子を見ながら美咲は表情を曇らせる。

「欠点って?

 なにか問題があるの?」

美咲の言葉に春子はすかさずワケを尋ねると、

「新体操を見下しているのよ、

 木下は…」

と美咲は答える。

「見下す?」

「うん…

 新体操は体操なんかじゃない。

 あんなのは体の柔軟性をただアピールしているだけにしかすぎない。

 なぁんて言うのよ」

「なにそれぇ?」

「春子も呆れるでしょう?」

「そりゃぁそうよ、

 美咲がどれだけ新体操に心血を注いでいる言うのよ。

 なんか頭にくるわねぇ…そいつ」

美咲の説明に春子はそう言いながら頭の血を上らせると、

ガシッ!!

彼女の手を握り締めるなり、

「わかったわっ、美咲っ。

 そいつ徹底的に女にしてやってその鼻っ柱をへし折ってやりましょう」

瞳に炎を燃やし春子はそう宣言をしてみせる。

「いやっ

 なっなにも、春子がそこまですることは…」

「いぃえっ

 してやるのよっ、

 その木下って奴を女にね…

 そして、新体操ってどんなものか骨身に染み込ませてやりましょう」

いつになく積極的な春子の姿に美咲は戸惑うが、

しかし、春子はそんなことはお構いなしに燃え上がっていたのであった。



シュタッタッタッタッ!!

その日の夕暮れ…

夜の帳が下り始めた体育館で木下和也は一人居残って鞍馬の練習を繰り返していた。

タッタッタッタッ

すでに他の部員たちは皆帰宅し、

和也以外誰一人として居ない体育館に置かれた鞍馬の上で彼は華麗に舞い、

そして、

タン!!

キッチリとフニッシュを決めると、

「よしっ」

求めていた手応えを感じつつ

「ふぅぅ…」

っと大きく深呼吸をする。

その一方で、

「ふぅーん、

 彼がその木村君なわけね…」

緊張感が支配していた体育館の空気が緩むのを感じながらジャージ姿の春子はそう呟くと、

「うっうん…」

彼女のその言葉に後ろにいる美咲は静に頷いた。

「なーる…

 ふふ…

 お誂え向きにたった一人での居残り練習。

 ふふ、小生意気な男を女にするだなんて、

 腕が鳴るわぁ〜」

ペロリ…

獲物を見据える魔女のごとく舌舐めずりをしながら春子はそう呟くと、

「じゃぁ、

 例の物を…」

と言いながら美咲に向けて手を差し出した。

「あっはいっ

 コレで良いの?」

春子の言葉に美咲は持っていた新体操で使う手具のボールを手渡すと、

「ふふ…木下君…

 これが君を新体操の世界へ誘ってくれる魔法のボール…

 きっと、君をこのボールが似合う新体操選手にしてくれるわ」

っと手渡されたボールを眺めながら春子は笑みを浮かべ、

そして軽くキスをして見せると、

テン

テン

とボールを床に向けて突きはじめ、

そして幾度か床に突いたのち、

「そぉれっ」

そう掛け声を小さく上げ、

テン!!

ボールを和也目掛けて放り投げたのであった。



「ふぅ…

 技の組み合わせはコレでよしっと」

和也が流れ落ちる汗を拭きながら一息入れていると

テン!!

彼の足元に何かが当たった。

「ん?

 なんだ?」

足に当たった感触に和也は下を向くと、

コロッ

彼の足元にバレーボールより一回り小さいカラーボールが転がっていく、

「なんだこれは?」

ボールを不思議そうに見ながら和也がそれを拾い上げた時、

「あっすみませーん」

と声を上げながら春子が和也に向かって駆け寄って行ったのであった。

「ん?

 君のか?

 このボール」

拾い上げたボールを掲げて和也が尋ねると、

「えぇ

 友達と手具を片付けていたら転がってしまって」

と春子は説明をする。

「手具?」

春子の口から出たその言葉の意味を和也が尋ねると、

「はいっ

 新体操で使う手具ですよ、

 そのボール…」

そう説明をしながら春子は和也を見る。

「新体操…?」

その言葉を聞いた途端、

和也は不機嫌な表情をすると、

「止めとけ、止めとけ

 新体操だなんて、

 あんなもん、ただの見世物だよ」

と春子に忠告をする。

「え?

 なんでです?」

和也のその言葉に対して春子は聞き返すと、

「なんでって?

 そりゃぁ決まっているだろう?

 体操って言うのは己の体が持っている限界を極める競技なんだぜ、

 それに対して新体操ってなんだありゃぁ、

 ただ、体の柔軟性を見せ付け合っているだけの事じゃないか、

 あんなもん、体操の振りをしているだけ、

 そんなのをするのなら、

 器械体操をしたほうが良いよ、

 なんなら俺が女子体操部の部長に話を通してやろうか?」

と春子に向かって言う。

「随分と新体操をバカにするんですね」

和也のその言葉に春子はそう反論をすると、

「別にバカになんかしてはいないよ、

 ただ、俺にとって新体操はこの器械体操と比べて部活動をするほどの価値はない。

 って言っただけさっ、

 まぁ新体操をするもしないも君次第だけどね」

春子の反論に和也はそう返す。

「へぇ…

 あなたの自信も大したものですね、

 でも、ただの食わず嫌い…

 って言うこともありません?」

「なに?」

春子のその返事に和也の表情が引きつると、

「(うふっ)一度、ボールを持って演技をしてみるのも良いかもしれませんね」

それを見た春子は笑みを浮かべながら、

カチッ!!

手にしていたスイッチを力一杯押し込んだ。

その途端、

シュルリ!!

和也が手にしていたボールの至る所から一斉に糸が吹き出し、

みるみる和也の体に絡まり始めだしたのであった。

「うわっ

 なっなんだよ、これぇ!!」

自分の体にまとわりついてくる糸に和也は悲鳴をあげて引きちぎろうとするが、

しかし、いくら力任せに引っ張ってもからみつく糸を切ることが出来なかった。

「ちょちょっと、

 一体コレは…」

両腕の自由を奪われ、

さらに脚の自由を奪い始めた糸に和也は叫びながら春子の方を見ると、

「木下和也君、

 新体操のすばらしさが判らないあなたには新体操部員になって貰って、

 とくと新体操のすばらしさを味わって貰いますわ」

と声を上げる。

「えぇ?

 おっ俺を新体操部員にって、

 俺は男だよ、

 男が新体操なんて出来るわけ無いだろう」

シュルシュル…

と伸び続ける糸に体を巻かれながら和也は悲鳴を上げると、

「大丈夫、

 安心して、

 その糸の束縛が解けたとき、

 木下君は新体操部員になっているから…」

と春子は勝ち誇った表情でそう告げた。

「言っている意味がわからねぇよ

 おっ俺は男だよ!!」

「ふふ、

 大丈夫って言っているでしょう」

「だっ大丈夫って…

 うっうわぁぁぁぁぁ!!!」

シュルシュルシュル…

悲鳴を上げながら和也の体が糸の中へと没してしまうが、

しかし、糸はさらに巻き続け、

やがてミイラを思わせる人型の繭玉を作り上げてしまうと、

ゴロン

っと体育館の床の上に転がってしまったのであった。



「ふふ…

 さぁその繭の中で女の子に変身するのよ」

足下に転がる繭玉を眺めながら春子はそう呟いていると、

「ちょちょっと、

 今度のコレって何なのよ」

ようやく飛び出してきた美咲は春子に尋ねる。

「あぁ…

 前回のスプレーの改良型よ、

 今回は小生意気な奴の精神改造もしなくっちゃならないから、

 繭玉の中に閉じこめてたっぷりと改造してやるわ、

 身も…心もね」

と美咲の質問に春子は笑みを浮かべて答えると、

「そっそう…」

頬に冷や汗を流しながら美咲は返事をする。

「さぁて、

 約1時間ってとこかなぁ…」

体育館の壁に掛かっている時計を見ながら春子は和也の変身完了時間を推測すると、

「ねぇ…美咲、

 それまでの間、新体操の練習でもしてたら?

 あまり練習をしていないんでしょう?」

と美咲に新体操の練習を勧めて見せる。



シュルリ…

シュパン…

和也の姿が消えた体育館にレオタード姿の美咲が操るリボンが舞い始め、

そして、一時間近くが過ぎた頃、

ムクッ!!

これまで動きがなかった繭玉がかすかに動いた。

「!!」

その途端、美咲の舞を眺めていた春子が気づくと、

「美咲っ!」

と声を上げる。

「え?」

突然響いた春子の声に美咲が慌てて駆け寄ると、

ムクッ

ムクッ

繭玉は次第に動きを増し、

そして、

ビシッ!!

っと表面の縦方向に亀裂が入ると、

ビシビシビシ!!!

一気に十字型に繭玉が裂け、

ズルリ…ドサッ!!

その中より髪を長く伸ばした裸の女性が転がり落ちたのである。

「うわっ」

膨らむところは膨らみ

括れているところは括れている女性の肉体に美咲は思わず驚くと、

「ふふ…

 完璧ね…」

春子は自分の成果に微笑んで見せる。

「はっ春子ぉ、

 これって、

 まさか、木下君?」

未だに気を失っている裸の女性を指さしながら美咲が尋ねると、

「木下以外に誰がいると思っているの?」

と美咲は聞き返した。

「そっそれは…」

春子のその言葉に美咲は言葉を詰まらせると、

「レオタード着用で出してあげることも出来たんだけど、

 それではつまらないから裸で出してあげたのよ、

 さぁて、

 ここからは美咲、

 あなたの出番よ、

 いまからコイツをたたき起こすから、

 ふふ…

 ちゃぁんとレオタードを着せてあげるのよ」

と指示を出す。

「え?

 レオタードを…」

春子のその言葉に美咲は驚くと、

「そんなに驚くことはないじゃない、

 コイツに新体操部員になったことをたたき込む儀式なんだからさ」

驚く美咲に春子はそう言うと、

小さな瓶を取り出し、

キュポッ!!

っとその栓を抜いた。

そして、栓を抜かれた瓶を倒れたままの女性の鼻に近づけると、

「うっ!!」

その強烈な匂いに女性は気が付き、

ハッ

と目を開ける。

「気が付いた?」

目を開けた女性に春子は優しく話しかけると、

しばらくの間、女性は朦朧としていた表情をしていたが、

しかし、スグに表情が元に戻ると

「……おっお前は!!」

と叫びながら春子をドンッと突き飛ばすが、

「痛いじゃない!!」

突き飛ばされた弾みで尻餅をついた春子が声を上げると、

ユラリ…

女性はゆっくりと立ち上がって、

「お前、俺に何をした!!」

とトーンの高い声で春子に怒鳴ったのであった。

ところが、

「!!!」

自分の口から出たその声色に驚いてみせると、

「え?

 え?

 えぇ?

 ゴホン

 ゴホン

 なっなに?

 この声…

 声が変…だ…」

女性は自分の喉を押さえながら幾度も咳払いをしたのち、

声の異変に驚いたのであった。

「もぅ、

 いきなりつき飛ばすこと無いじゃない」

痛む腰を押さえ、文句を言いながら春子が起きあがると、

「お前…

 俺に何をした!!」

と女性は春子に突っかかってくる。

しかし春子は狼狽えることなく、

「何をしたって?

 それはこういうコトをしたのよ」

と言いながら、

キュッ!!

女性の左右の胸で揺れている膨らみの頂点を抓り上げた。

「きゃっ!!」

まるで電撃で打たれたかのようなその感覚に

女性は悲鳴を上げながら春子の手を払いのけると、

「!!!!

 うわぁぁぁぁ!!!

 なんだこれぇ!!!」

ようやく自分の胸で揺れている乳房の存在に気が付いたのか悲鳴を上げた。

そしてそれから数秒後…

「なっないっ

 俺のチンポが…

 うわぁぁぁ!!

 無くなっているぅぅぅぅ!!」

と股間の異変にも気づくいて見せると、

「おっ俺…

 女に…

 されちゃった…」

乳房を股間を手で隠しながら

呆然とした表情で座り込んでしまったのであった。

「ふふ…

 どうかしら?

 木下和也君…

 いやっ

 いまは木下和子さん。

 って呼んだ方が良いかしら…」

座り込む女性=和也に向かって春子は尋ねると、

「そんな…

 そんな…

 おっ俺…

 女に…

 そんなぁ…」

女性にされたショックからからか和也は同じフレーズを幾度か繰り返し、

そして、数回の目となるフレーズの後、

キッ!!

春子の方を睨み付けると、

「なんで俺を女にしたぁ!!」

と怒鳴りながら春子に飛びかかる。

しかし、

「ふんっ」

春子は鼻で笑いながら飛びかかってきた和也を押しのけ、

「新体操を侮辱したからよ

 あなたにはいまから新体操部員となって貰って、

 今度の大会に出て貰うわ、

 もし、大会で優勝すれば、

 男に戻してあげても良いんだけど…」

と持ちかけると、

「え?」

春子の口から出たその言葉に和也は顔を上げ、

「ほっ本当に男に戻ることは出来るんだな?」

と念を押したのであった。

「えぇ、

 あたしは嘘は言わないわ」

その言葉に春子は胸を叩いてみせると、

「………、

 判ったよ、

 新体操をすれば良いんでしょう、

 ふんっ

 新体操なんて簡単じゃない」

春子からの言質に和也は徐々に女言葉を喋り始めながらそう言い、

「そう、そう言ってくれると心強いわ、

 じゃぁ、

 新体操部員になった証拠として、

 新体操部のレオタードを着て貰おうかしら」

と指示をする。

「え?」

春子のその言葉に和也は顔を強ばらせると、

「さぁ、コレを着て」

と言いながらレオタード姿の美咲が新体操部のレオタードを差し出して見せる。

ゴクリ…

目の前に差し出されたストライプ模様のレオタードに和也は生唾を飲み込むと、

「それを着るのよ」

と春子は命令をする。

「………

 わっ判っているわよ」

春子の言葉に和也はそう返事をすると、

バッ!!

美咲の手からレオタードをひったくり、

そして、

「ふんっ

 レオタードなんて、

 別に珍しくもなんともないわ」

と強がりを言いながら一気に脚を通すと、

勢いに任せて引き上げて見せた。

しかし、

「あっ…」

体を包み込んでくるその触覚に次第に和也は感じてしまうと、

まるで力が抜けたかのようにして、

その場に座り込んでしまったのであった。

コクリ…

それを見た春子の目線での合図に美咲は頷いて返事をすると、

「どうしたの?」

と囁きながら和也の背後よりまだ露わになっている肩に手を置く。

ビクッ!!

いきなり触れたその感覚に和也は体を強ばらせると、

「大丈夫、

 女の子になったばかりでまだ肌の敏感さに慣れてないだけ、

 女の子の肌って敏感なの…

 そんなに勢いよくレオタードを着てはダメよ」

と囁きながら和也の手を取り、

ゆっくりとレオタードの袖に通させた。

そして、

ピチッ!!

っと新体操部のレオタードが和也の体を覆い尽くすのを見ながら、

「ほらっ、見て、

 木下さん…

 あなたは立派な新体操部員よ…」

と優しく告げながら和也を立たせ、

閉じたガラス戸に映っているレオタード姿の新体操選手を見せる。

「……

 こっこれが、あたし…」

そう呟きながらまるで吸い寄せられるようにガラス戸に和也が向かうと、

「えぇ…

 これがいまのあなた…

 綺麗よ、きっと演舞場でも映えるわ…」

美咲は和也に向かって囁き、

そして、和也の胸と股間に手を忍ばせた。

「あっ!!」

敏感な部分で蠢き始めたその感覚に和也が驚くと、

「大丈夫…

 女の子同士、仲良くしましょうね」

驚く和也に美咲は笑みを浮かべなから、

そっと和也の首筋にキスをして見せる。



「あっあぁ…」

「うふっ、

 可愛いわぁ」

「だっダメです、

 そんなところ…

 いっいやっ」

「やれやれ…」

体育館の床の上で絡み合うレオタード姿の二人の女性に背を向けながら春子は大きくため息をつくと、

腕を頭の後で組みながら

「さぁて、次は何を作ろうかしら…

 この間のスプレーをもぅ少し弄ろうかしら…」

と言いながら去って行くのであった。



つづく