風祭文庫・アスリート変身の館






「オイルの秘密」



原作・風祭玲

Vol.938





それは夏休みも近い夕方のことだった。

「ねぇ志波くんっ、

 新体操部の小鳥遊裕子って娘、知っている?」

まだ昼間の熱気が篭るフットサル部の部室で

部活で使った用具を一緒になって整備していたマネージャの倉橋直子が

不意に顔を上げると僕に向かって尋ねてきた。

「小鳥遊って僕のクラスに居る新体操部の小鳥遊か?」

その質問に汗を拭きつつ僕はそう聞き返すと、

直子はその小鳥遊裕子が部員の勧誘を行っていることを話しはじめ、

「それでね。

 あたしのところにも小鳥遊さんが

 ”新体操をやらない?”

 って勧誘に来たのよ」

と裕子が直子の所にも勧誘に来たことを言う。

「ふーん、

 新体操部がねぇ」

彼女の話を聞いた僕は頭を掻きながら返事をし、

「しっかし、意外だなぁ

 新体操部が部員不足だなんて…

 ウチなんかとは違って希望者が殺到していたと思ったけど」

そう続けると、

「部員が居付かないんだって、

 ほらっ、

 新体操って一見派手だけど、

 でも、そこにたどり着くまでが生半可ではないでしょう。

 みんなレオタードに憧れて入部はしてみるものの、

 でも、延々と続く地味な柔軟運動や基礎体力作りにみんな音を上げちゃうんだって」

と直子は事情を話すが、

「それを言ったらウチも同じだよ」

話を聞いていた僕はそう返す。

すると、

「あはっ、

 もっともフットサルなんて好き者か、

 サッカー部と間違えて入っちゃいました。

 なんて、人じゃないと普通やらないものよね」

僕の言葉に直子は笑って見せると、

「おいっ倉橋っ

 それってフットサルはまっとうな人間はしないってことか?」

曲がりなりにもフットサル部のキャプテンを務める僕は不機嫌そうに返した。

「もぅっ

 誰もそんなこと言ってないって、

 被害妄想すぎだぞ」

ムスッとしている僕を見ながら直子は笑うと、

「はぁ…」

僕は小さくため息をついてみせる。

と、そのとき、

「おーぃ、

 志波ぁ」

の声と共に部のメンバーである角田隆が部室に入ってくるなり声を掛けてきた。

「ん?

 角田か。

 何だよ、

 ここを手伝ってくれるのか?」

奴の声に僕はいやみ半分に嫌味半分に尋ねると、

「あのな、僕は先週当番をしたばかりだよ」

と隆は真顔で僕に言い、

「あのさっ、

 今度の日曜の海水浴。

 何処で聞きつけたのかしらないけど、

 小鳥遊も参加したいってさ」

夏休み初日の日曜日に僕達が計画をしている海水浴に

さっき噂話をしたばかりの新体操部の裕子が

参加を申し込んできたことを伝えてきたのであった。

「えぇ?

 小鳥遊って…

 だって、この海水浴のメンバーは男ばかりだよ。

 そのこと判っているのかな?」

話を聞いた僕は驚きながら聞き返すと、

「うん、

 僕もそのことを念を押したんだけど、

 それでも良いって言うからさっ

 そこまで言われると断れないだろう」

と隆は言う。

「ふーん、

 まぁ、知ってて行きたいのなら拒否はしないけど…

 でも、どういう風の吹き回しだ?」

それを聞いた僕はキョトンとしながら聞き返すと、

「さぁ?

 僕たちと遊びたくなったんじゃないのぉ?」

と隆は肩を窄めながら引き上げてみせる。

「でも、それっておかしいわ、

 新体操部って大会が近いって聞くし…

 それに、部員集めもままならないから、

 遊んでいる余裕なんて無いはずだけど」

そのことを聞いた直子は小首を傾げると、

「そういえば倉橋、

 お前は参加しないのか?」

と僕は直子に話を振ってみせる。

すると、

「だぁかぁらぁ、

 この間、言ったでしょう?

 その日はお姉ちゃんの応援に行かないとならないんだから」

直子は体操の大会に出場をする姉の応援に行かなくてはならないことを強調して見せた。

「そっかぁ」

それを聞いた僕は頭を掻きながら残念そうな顔をして見せると、

「なによっ、

 そんなにあたしの水着姿を見たかったの?」

と直子は意地悪そうに尋ねてくるが、

「だれがだっ」

その言葉に僕は怒鳴り返すと、

「手、さっきから遊んでいるわよ」

そんな僕の言葉を無視して直子はボール磨きの手が止まっていることを指摘をした。



「あっいたいた、

 おまたせぇ」

日曜日の朝。

駅前に集合していた僕達に向かって小鳥遊裕子が声を掛けながら駆け寄ってくると、

「おっおうっ」

男ばかりの集団に飛び込んできた少女の姿に皆は体を硬くする。

「なによっ、

 そんな、よそよそしい態度をしないでしょっ」

そんな僕達を見透かすように裕子は僕の腹を肘打ちしてくると、

「いやっ

 なぁ」

と僕は隆を見つめ、

「あはは、

 小鳥遊さんって新体操のイメージがあるからね。

 みんな緊張しているんですよ」

そう理由を話す。

すると、

「もぅ…

 あたしはそんな特別な存在じゃないって」

新体操で鍛えてきたスレンダーな体を

ショートパンツとTシャツで包んだ裕子は笑って見せると

「さっ行こうか」

の言葉と共にまるで引率者のごとく改札口へと向かっていった。



電車に乗ること2時間弱。

ちょうど電車に乗り疲れたころ、

僕たちは目的地の駅に降り立った。

「うーん、

 潮の香りがする」

大きく背を伸ばしながら裕子はそう呟くと、

「いくぞぉ」

の声と共に僕たちは一気に海へと向かって行ったのだが、

しかし、そんな僕たちの目の前に立ちはだかったのは…

【遊泳禁止!】

の赤看板であった。

「せっかくここまで来てこれかぁ?」

看板に向かって僕は声を上げると、

「うーん、

 まさか、台風の影響がこんな形で来るだなんて…」

と看板を見ながら隆は頷いてみせる。

「台風ってそんなに接近しているの?

 こんなに天気が良いのに」

若干雲が流れる青空を指差して隣に立つ隆に尋ねると、

「天気予報じゃぁ、

 台風はこのはるか沖合いを北東へ向かって離れていくみたいだけど、

 うねりや波は容赦なく届くからねぇ…」

と澄ました顔で言う。

「そんなぁ…」

海水浴場に来ておきながら泳ぐことが出来ないという現実に

僕はガックリと膝を付いてうなだれてしまうと、

「ねぇ…

 砂浜で日光浴をするぐらいなら良いんだよね」

裕子はそう言いだし、

頭に被った大きな麦藁帽子を揺らしながら

自ら進んで閑散としている砂浜を歩き始た。

「あっ

 おいっ」

「あぁっ、小鳥遊さんっ」

「ちょっと待ってください」

裕子に向かって僕は声を上げるが、

しかし裕子は僕たちに構わずズンズンと先を行き、

やがて人目につきにくい岩場ちかくまで着たとき、

「あっ」

探し物を見つけたような素振りを見せながら岩場に向かって走り出した。

そして、

「ねぇ、

 ここなんかいいんじゃない?」

と僕たちに向かって手を振って見せると、

「仕方が無いか」

「せっかく来たんだしな」

荒れる海と裕子を見ながら僕たちは頷き合い、

彼女の元へと向かうと、

さっさとシートを広げて水着に着替えようとするが、

「あっ」

裕子の存在に気づくと、

皆の視線は彼女へ向けられた。

「ん?

 あたしのこと?」

僕たちの視線に気づいた裕子は自分を指差し、

「じゃぁこうしようか?」

そう言いながら背中を向けると、

「やれやれ」

そんな彼女の後ろ姿を見ながら僕たちはまた顔を合わせ、

「じゃ遠慮なく」

と言いつつ着替え始める。

そして、海に入ることの無い水着に着替えて砂浜に寝転がっていると、

「ねぇ、オイル塗ってあげようか」

と裕子が話しかけてきたのであった。



「え?

 いいよぉ、

 僕たちで塗るから」

思いがけない彼女の申し出を僕は拒否をするが、

「いいからいいから、

 ここまで連れてきてもらったお礼よ
 
 さっそこに寝て」

と裕子は笑顔で促す。

「うっうん」

本音ではイヤでもなかった僕はそのまま寝転んで見せると、

ピシャッ!

陽を受けて熱を帯びていた僕の背中に冷たいオイルの感触が走り、

「あっ」

ピクッ!

その感覚に僕の体が小さく動くと、

「あら?

 冷たかった?

 でも直ぐに慣れるわよ」

それに気づいた裕子は指摘する。

「そっそう?」

彼女の言葉に僕は返事をすると、

「あーっ、

 つぎっ

 僕も頼む」

と隆が声を上げ、

「僕も…」

「俺も…」

それにつられるようにして皆が声を上げた。

そんな注文にもかかわらず裕子は笑顔で応えると、

「はいはい

 順番よぉ!」

と言いながら僕の背中にオイルを広げていった。

「なぁ…」

塗られながら僕は裕子に声を掛けると、

「ウチのマネージャから聞いたんだけど、

 新体操部って部員が居ないのか?」

と直子から聞いた事を尋ねてみた。

すると、

「あっ、

 そっちまで知れ渡っていた?」

それを聞いた裕子はバツが悪そうな声を上げると、

「新体操の練習って結構きついんだってな、

 いやぁ、

 練習をしながら部員の勧誘をするなんて、

 小鳥遊も大変だなぁってね」

そう僕は彼女を称えてみせる。

「うふっ、

 ありがとう。

 でも、同情してくれるなら…

 …新体操部に入ってくれると嬉しいんだけどね」

と裕子は返事をすると、

「男で新体操かぁ、

 それは無理だなぁ」

その言葉に僕は返すが、

「でも、もぅ直ぐ部員は増えるわよ。

 はいっ、

 終わり!」

そう言い残して裕子は俺を終えると、

皆の背中にオイルを塗りはじめる。

「もう直ぐって、

 何かあてがあるのか?」

彼女の言葉を聞いて僕は小首をひねっていると、

チクチク

と僕の胸の周りがムズ痒くなり始めた。

「ん?

 なんだ?」

体をゆすりながら僕は胸の痒みを散らそうとするが、

しかし、痒みは弱くなるどころか返って強くなり、

それどころか熱を帯びたように敏感になっていく。

そして、その頂点にある乳首がシートに強くこすれたとき、

ビクッ!

「うんっ」

乳首に走った刺激に僕はつい声を出してしまったのであった。

「どうしたの?」

僕の声を聞いて裕子は尋ねてくると、

「いやっ

 なんでも…ない」

モゾモゾと体を動かしながら僕は返事をしてみせる。

しかし、そんなムズ痒さと格闘しながらふと横を見ると、

僕の隣でオイルを塗られた隆たちもまた同じように体を揺らし、

顔を赤らめて居る姿が目に入ってきた。

それからしばらくして、

「うーっ、

 ムズムズしてたまらない、

 虫にでも刺されたのかな?」

と言いながらたまらずに隆が起き上がると、

プクッ!

彼の胸の乳首が赤く腫れ、

まるで女の乳首のような姿になっていたのであった。

「あはっ、

 何だそれは!」

隆の胸を指差し起き上がった僕は笑って見せると、

「うるせーっ、

 急に腫れだしたんだよ」

と隆は怒鳴り、

「なんだよっ、

 角田も乳首大きくなっているじゃないか」

と僕の胸を指摘する。

「えぇ?」

それを聞いた僕は慌てて自分の胸を見ると、

確かに隆の指摘どおり、

僕の乳首は腫れあがりピンク色に染まっていたのであった。

すると、

「あぁ、俺もだ」

「僕も…」

僕と隆のやり取りを聞いて他のみんなも同じように体を起こし、

同じように乳首が腫れていることに気づくと、

「うーん、

 何かは知らないけど、

 ここに居たらまずいみたいだな」

と僕たちは話し合い。

そして、裕子を見ると、

「早いけど、

 帰ろうか」

そう話したのであった。

そして、帰りの駅で電車を待つ間に僕たちはトイレに行ったとき、

「なんだ、志波っ、

 お前のチンコ、ちいせぇなぁ」

と僕を覗き込みながら角田が指摘すると、

「お前のだって小亀じゃないかよ」

負けじと僕も言い返す。

こうして海水浴にならない海水浴を終えた僕たちは帰ってきたが、

「あれぇ?

 まだ小さいままだ…」

風呂に入っても縮こまったままのイチモツの姿に僕は首をひねると、

「参ったなぁ…

 こんなんじゃ角田たちに何を言われるか」

言いながらイチモツを縮こまったままの引っ張り、

そして湯船から出て体を洗い始めたとき、

「あれぇ?

 胸が…膨らんでいる…

 それに心なしか筋肉が減っているような」

とピンク色に膨らんでいる乳首を頂点にして、

その周囲が膨らんでいることと、

これまで鍛え上げてきた体の筋肉が減っていることに気づいたのであった。

「どうなっているんだ?

 これぇ」

そう言いながらプックリと膨らむ胸の左右の膨らみを手で持ち上げると、

ゆっくりと手を回し、

膨らんだままの乳首を軽く摘んで見た。

その途端、

ビクンッ!

言いようも無い快感が摘んだ乳首から発せられ、

僕の体の中を駆け回り、

「あんっ!」

ついそんな声を僕は上げてしまった。

そして、駆け回る快感が収まるのを待って、

「はぁはぁはぁ、

 なにいまの…

 とっても気持ち良かった…」

と呟きながら、

モゾ…

膨らみを持ち上げる手で再度乳首を抓ってみた。

すると、またしても快感が走り、

僕はその快感に翻弄され続けていたのであった。



「あぁ、すっかりのぼせちゃった…」

心なしか大きくなっている胸の膨らみをプルンと揺らし、

風呂から上がった僕は下着姿のまま部屋へと戻るが、

ズーン…

昼間の疲れが出てきたのか、

急激に体がだるくなり、

やっとの思いで部屋のドアを開けると、

「駄目だ…

 体が重くて…

 もぅなにもやる気が起きない…」

の言葉と共に、

バタンッ

ベッドに倒れ込むとそのまま寝てしまい

そして、翌朝。

「くしょっ!」

クシャミの音が部屋に響き渡ると、

「やべっ、

 風呂から出たまま寝てしまったぁ」

クシャミと共に目が覚めた僕は慌てて飛び起きる。

だが、

ユサッ

起き上がったのと同時に揺れる胸に気づくと、

「え?

 なにこれぇ!」

もはや女性の乳房と言って良いほどに成長している胸の存在に気づいたのであった。

「なんだ、

 何でおっぱいが…」

ハッキリと自分の胸から突き出しているのがわかる乳房を見下ろし、

僕は唖然としていると、

「まさか!」

大事なことに気づくや否や、

バッ!

大急ぎで股間に手を入れ、

指先をパンツの中に潜り込ませる。

そして、その指先に感じたのは…

スーッっ

と股間を縦に裂け開いている肌の割れ目と、

ヌルッ…

っと指先に走った粘膜の感覚であった。

「あんっ!」

指先が粘膜に触れた途端に走った刺激に僕は小さく声を上げてしまうが、

「じゃなくて!」

急いでパンツを取り去り、

そして自分の股間を朝日に晒してみると、

そこには小さな突起を頭に抱く縦に開く割れ目があり、

昨日までは確かにあった男のイチモツは何処にも無かったのであった。

「………」

衝撃の光景に僕は声を出すことが出来なかった。

そして、じっと股間を見つめたまま、

「(女の子になっちゃった?)」

と心の中で呟くと、

ペタンと床の上に座り込み、

バッ!

バババッ!

布団やら下着やら制服など周囲にあった布地のものをありったけ股間に押し込むと、

「これは夢だ…

 いきなり女になっちゃいました。なんて…

 あはは、

 そんな漫画みたいなことあるわけ…」

と否定をしてみせるものの、

しかし、いくら頭で否定していても僕のイチモツは帰ってこなかったのである。



「おはよーっ、

 ん?

 どうしたの?

 元気なさそうだけど」

僕の発案で夏休み中でもフットサル部の練習は行うことになっていて、

それに参加するため部恐々と部室に顔を出した途端、

すでにそこに居た直子が元気良く声を掛けてきた。

「げっ、

 直子っ!

 いっいや、

 なんでもない」

直子の姿を見た僕は咄嗟に胸を隠し返事をしてみせると、

「?

 やだぁ、

 なんて声を出すのよぉ、

 それじゃぁまるで女の子じゃない」

僕の声を聞いた直子は笑って見せる。

「え?

 そっそんなに声がおかしい?」

彼女の指摘に僕は顔を蒼くすると、

「どうしたの?

 胸なんて隠して?

 あっ判った。

 海水浴で悪戯されたんでしょう。

 大方、ビキニの日焼け跡でもつけられたんじゃないかな」

笑いながら直子が指摘する。

その途端、

「そんなんじゃないよ」

と僕は言い返すが、

「?

 しかし、本当に志波君なの?

 なんか雰囲気違うけど…」

僕の顔を直子は覗き込みながら尋ねてきた。

「え?」

その指摘に僕の心臓は高鳴り、

「なっ何を言うんだよ」

と笑って見せ、

「とっところでみんなは?」

姿が見えない隆たちのことを聞き返す。

「うん、それなんだけどね、

 なんか角田君たち来てないのよ」

と直子はいまこの部屋に二人しか居ないことを言う。

「そっそう」

直子に背を向けた僕は小さく頷くと、

「じゃぁ、今日の練習は中止にしよう」

そう言い残すなりさっさと部室から出て行ってしまったのであった。



「これからどうする?」

また成長したのか突き出す胸を揺らせながら僕は校内を歩いていくが、

急にもよおして来ると、

「トイレ…」

と近くのトイレに駆け込もうとした。

そして、

「あっ、

 どっちに行けば…」

と男子・女子の前で立ち止まるものの、

「えぇいっ、

 体は女でも心は男と」

自分に言い聞かせ、

僕は男子トイレへと向かっていく、

そして小便器の前に立った途端。

「あっあっあぁぁぁ…」

イチモツの無い体から出た小水は前へと飛ばずに

あたりに撒き散らすように噴出してしまったのであった。

「あちゃぁぁぁ…」

まさに悲劇としかいえなかったが、

せめてもの救いは夏休みで誰も居ないことであり、

もし、この場に男子達が居たらと思うと背中に冷たいものが走っていく。

「はぁ、

 何でこんなことに…」

そうぼやきながら僕は後始末をし、

練習のために持ってきていたユニフォームに着替えると、

ガックリとうなだれながらトイレから出た。

やがて、体育館の傍に来たとき、

「イチ」

「ニィ」

「イチ」

「ニィ」

と裕子の声が響き、

その声にあわせて他の人たちの声が追って響いてきたのであった。

「え?

 新体操部に新入部員が入ったのか?」

それを聞いた僕は声に惹かれるように体育館へと向かい、

開かれていた扉から中を覗くと、

「はーぃ、

 次はぁ…」

頭をシニョンに結い上げ、

練習用のレオタードを着た裕子が

同じレオタードを身に付け、

床の上で柔軟運動をしている部員達に向かって声を掛けているのが目に入った。

「へぇぇ…

 確かに部員が増えているな」

体育館の中を眺めながら僕は昨日彼女が言った言葉を思い出していると、

「あっ」

裕子は覗いている僕に気が付いたのか、

「志波さぁん」

と声を掛けながら駆け寄ってきた。

そして、僕の傍に来るなり、

「志波さんも新体操部に入ってくれるんでしょう?

 はいっこれ、

 志波さんのレオタードよ」

と話しかけながら、僕に光沢を放つレオタードを差し出して見せる。

「え?」

思いがけない彼女の言葉に僕は驚くと、

「どうしたの?

 ほら、みんなは既に新体操部に入ってくれたわよ」

僕を見ながら裕子はそう言いながら、

「ねぇ、みんなっ」

と後ろに向かって声を掛けた。

すると、

「よっよぉ…」

「あっ」

「いやっ」

「ってちょっと」

と今日、顔を見てなかった隆たちが恥ずかしそうに立ち上がり、

レオタードに包まれた体を僕に見せのであった。



「おっお前ら…

 なんて格好をしているんだ…

 それにその体は…」

新体操部のレオタードに包まれた隆たちの体は

胸には形の良いオッパイが膨らみ、

くびれた腰、

そして股間にはクッキリと縦溝が刻まれ、

肌を出す太ももはまさに女のものであった。

すると、

「なんか知らないけどさぁ、

 朝起きたらチンポがなくなっちゃっていて、

 代わりにクパァと開く観音開きになっていたんだよ。

 しかも、ご丁寧にこんなオッパイまで膨らんじゃってさ」

と僕に向かって隆は屈託なく言い、

「おっおいっ

 じゃぁみんなも…」

それを聞いた僕は驚きながらみんなに向かって聞き返すと、

「いやぁ、どうしようかと思ったけど、

 小鳥遊に相談したら、

 新体操部にこないかって誘われてな、

 みんなして新体操部に入ったわけなんだよ」

そう隆は事情を説明してみせる。

「そんなぁ…」

それを聞いた僕はショックを受けると、

「志波も新体操部に入れよ。

 こんなにオッパイ膨らましちゃって、

 あそこもすでに観音開きになっているんだろう。

 なぁ、レオタードって結構気持ち良いよぉ、

 この体でさ、

 あとは髪伸ばせば誰が見てももぅ女。

 あたし達、女の子として生きていくしかないのよ」

と隆は徐々に女言葉にしながら囁きかけてくる。

「だっ誰が!」

絡みつくような隆と突き飛ばし、

「僕は男だ。

 誰が新体操なんて!」

そう怒鳴って見せると、

「みんなっ、

 志波君にレオタードを着させちゃいましょう」

突然、裕子の声が響くと、

「はいっ!」

その声にあわせる様にしてみんなの手が一斉に僕に襲い掛かり、

瞬く間にユニフォームが脱がされてしまうと、

「やっやめろぉ!」

と叫ぶ僕の体に、

スッ!

ピチッ!

っとレオタードが身に着けられてしまったのであった。

「あぁぁ…」

ぴっちりと僕の体を覆うレオタードを見て僕は声を上げていると、

「うふっ、

 新体操のレオタードを着てしまった以上、

 志波君は新体操部員よ。

 さぁ、このボールを持って、

 あたし達と練習をしましょう」

そう言いながら裕子は僕に向かって新体操のボールを差し出されると、

「そっ、

 そんなぁ〜」

レオタードを着られ、

新体操部員となった僕の声が空しく響いていったのであった。



「それにしても、

 あの性転換オイルって効果抜群ね。

 これで新体操部も安泰ね」



おわり