風祭文庫・アスリートの館






「補充」


作・風祭玲

Vol.491





「そうなの

 じゃぁ仕方がないわねぇ…」

期末試験が終わり冬休みを間近に控えたある日、

窓から差し込む西日を背にして新体操部・顧問の指田の声が響き渡る。

「申し訳ございません」

指田利香子のその声にペコリと2つの頭が下がると、

「いいわっ

 あなた達にはハードルが高かったんだから」

その頭を宥めるかのように利香子は言い、

そして、聞こえない程度に

「でも、先生は期待していたんだけどね」

と呟くと、

「はいっ、この話はここまで、

 帰って良いわよ」

声を張り上げた。

「失礼します」

「失礼します」

程なくして退室する声が2つ響くと、

「先生…」

成り行きをジッと見ていた新体操部のキャプテンが利香子に声をかけてきた。

「ん?

 なぁに?」

その声に利香子は返事をすると、

「なぜ、引き止めないんです?

 彼女達で5人目ですよ、

 これ以上退部者が出たら新体操部は…」

とキャプテンは歯止めの掛からない退部者の続出に警告をした。

「判っています」

キャプテンのその声をさえぎるようにして利香子は返事をすると、

「でも、先生…」

キャプテンはなおも言おうとする。

とそのとき、

「まてぇこらぁ〜っ」

突然、部室の表で何かを追いかけるような女の子の声が上がると、

「なんですっ」

「どうしました?」

その声を聞いた利香子とキャプテンの二人は表へと飛び出す。

すると、

「待てぇ!!」

「こらぁ、今日という今日は!!」

ジャージ姿の新体操部員に追いかけられながら、

タッタッタッ!!!

学生服姿の一人の男子生徒が利香子達の前をすり抜け

脱兎の如く逃げ去って行く。

「あっ

 また、あの男子ぃ

 もぅ本当にしつっこいんだからぁ」

走り去っていく男子生徒の後姿を見ながらキャプテンはタメ息を吐くと、

「!」

ふと何かを思いついた利香子が、

「ねぇ、いまの子って

 この間も新体操部の練習を見ていたわよねぇ」

とキャプテンに尋ねた。

「え?

 えぇ…

 2年2組の男子なんですけどね」

利香子の質問にキャプテンはそう返事をすると、

「ふぅぅん…

 名前も判るの?」

「え?

 えぇまぁ…

 あっ、職員会議に掛けていただけるのですか?

 みんなが迷惑してるって言ってやってください」

語気を荒げながらキャプテンはそう言うと、

「うん?

 うぅん、そうね

 少し懲らしめてあげる必要があるわね…」

訳を尋ねるキャプテンに利香子はそう返事をした。

「2年2組の友田隆康って奴ですよ、

 チビのクセにイヤらしいんだから

 先生、ガツンとお願いします」

「そう、

 2年2組の友田隆康…か…」

キャプテンの言葉に利香子は意味深な言葉を呟いていた。



翌日…

サッカー部の練習が終わり、

更衣室へと引き上げていく部員の中に隆康の姿があった。

「よう、友田、

 聞いたぞ、

 昨日、また新体操部を覗きに行ったんだって?」

昨日の騒動を聞きつけた部員が隆康を小突きながらそう言うと、

「んなんじゃねぇーよ」

と隆康は言い返す。

「じゃぁ、なんだって言うんだよ」

「それは…

 まぁアレだ、

 後学の為…とでも言っておこうか」

「なぁにが後学だよ、

 どうせ、新体操女の尻でも眺めていたんだろう?」

「え?

 ばれたか」

「調子に乗るのも程ほどにしろよ、

 新体操部の女の子がまた辞めたらしくて、

 あそこのキャプテン、

 お前のせいだって、

 息巻いていたらしいぞ」

「あははは

 大丈夫

 大丈夫」

とそんな話を隆康は話しながら更衣室に入り、

そして、

ガチャッ!!

ロッカーを開けた途端、

「!!」

一瞬、隆康の目が凝固したのち、

バタン!!

と慌てて戸を閉めた。

「ん?

 どうした?」

隆康のその様子に気づいた部員が声をかけると、

「え?

 いやぁ

 なんでもないよ

 あはははは」

隆康は誤魔化すかのように笑い声を上げ、

いつもと同じように振舞いながらも緊張した面持ちでロッカーのドアを開けた。

すると、

キラッ!!

まるで隆康を待っていたかのように中で下がっている”それ”は部屋の明かりを受け光った。

「うっ」

風を受け微かに揺れる”それ”の存在に隆康は生唾を飲み込み、

そして、震える手を伸ばすと、ゆっくりと触る。

サラ…

薄手の生地の感触が軽く隆康の肌に触れると、

「ひっ!」

その感触に隆康は慌てて手を引っ込めた。

「こっこれは…」

バクバク

と高鳴る心臓の音を聞きながら隆康は冷や汗を流していると、

「さっきから

 なぁにやっているんだよ、お前は」

そんな隆康の姿を横で見ていた部員が声を上げると、

ビクン!!

その声に隆康の身体は飛び上がり、

「え?

 あっあはは
 
 なんでもないよ

 ホント

 なんでもないんだから」

と言い訳をしながら、

ロッカーの中に下がっている”それ”を素早く自分のカバンの中へと詰め込み、

そして、着替えはじめた。

「あぁん?

 あっ

 なんだ、お前!

 チンポ、お勃てやがって、

 男の着替えを見てコーフンするなよなぁ」

遅れて着替えを始め出した隆康の股間が盛り上がっていることに、

その部員は気づくなり指摘をすると、

「え?

 あははは、

 そんなことないよ、

 なっなんでだろうね

 ホント困った奴だコイツは」

隆康は作り笑いをしながら股間を叩く。

「?

 変な奴…」

そんな隆康の姿に部員はそう呟いていた。



「う〜ん」

夜、夕食をそこそこに済ませて自分の部屋に閉じこもった隆康は、

床に置いた”それ”を目の前にして考え込んでいた。

「…一体誰だ…

 これを俺のロッカーに置いたのは…

 部活に行く前には確かに無かった…

 そして、部活から戻ってくると、あったということは…

 部活の間、誰かが俺のロッカーに仕込んだということか…

 でも、一体誰が?

 俺を陥れるため?

 それとも…?」

隆康は首を捻りながら、

”それ”が自分のロッカーに置かれている理由を探る。

そして、チラリと”それ”を見てみると、

キラ

”それ”は部屋の明かりを受け微かに光った。

ゴクリ!!

その様子に隆康は生唾を飲み込むと、

震える手で手に取り、

クン…

思わず匂いを嗅いでしまった。

すると、

汗臭い隆康のバッグに詰められていたにもかかわらず

”それ”は甘い匂いを放ち、

その香りが隆康の鼻を魅惑的にかき回した。

ビクン!!

その香りに隆康の股間は敏感に反応し、

硬い肉棒をその股間から聳え立たせる。

「ぷはぁ

 はぁはぁ」

10分近く嗅いだ後、隆康は”それ”から鼻を離すが、

しかし、彼の呼吸は乱れ、

また、片手はいつの間にか股間の肉棒を扱いていた。

「ハァハァ

 ハァハァ…

 へへっ

 誰だかは知らないけど…

 これを俺のロッカーに忍ばせるだなんて…」

肉棒を扱きながら隆康はそう呟く、

そして、再び匂いを嗅ぎ始めると、

ゴロン…

床の上に寝転びながら激しく股間を扱いた。

「うっ

 あっ!

 あぁぁ!!」

最初の一発目はすぐに出されたが、

しかし、精力旺盛な隆康の股間は硬さを失わず、

再び彼の腕は動き始めた。

そして、数回射精をした後、

フラフラと立ち上がった隆康は

突然着ていた服を脱ぎ始めると、

”それ”に足を通した。

スルルルルル…

”それ”は脛毛は生える隆康の脚を通り抜け、

そして、肉棒が起立する股間を飲み込むと、

瞬く間に彼の下半身を覆い尽くした。

しかし、隆康はそこで止めることはせずに、

さらに上半身へと引き上げていくと、

見る見る彼の胸元までを青地に白と赤のストライプ模様が埋め尽くした。

「ハァハァ

 ハァハァ」

荒い息をする隆康はさらに自分の両腕を”それ”の両側から突き出している袖に通し

そそのまま一気に引き上げると、

ピチッ!!

隆康の身体を新体操部のレオタードが覆い尽くした。

「あぁぁぁ…

 これを、新体操部の子達は着ているのか」

いつも眺める対象だった新体操部のレオタードをいま自分が身に着けていることに隆康は興奮し、

そして、股間を盛り上げている肉棒を扱きはじめた。

「あっ

 あっ

 あぁ…

 いっ

 いぃ!!」

誰が着ていたのか判らない…

でも、新体操部の女の子が着ていたことは明らかなレオタードに包まれ、

隆康はそのレオタード越しに肉棒を扱く。

「はっ

 はうっ

 はっ

 あっあぁ…」

隆康はレオタードの股の横より肉棒を突き出し扱き続けた。

そして、さらに射精を繰り返し、ようやく収まったのは明け方近くだった。



「おきなさーぃ」

部屋の外から響く母親の声に起こされた隆康はレオタード姿の自分の姿を見ると

「しちゃった…」

と一言呟き、

そして身に着けていたレオタードを脱ごうと襟元に手を掛けたとき、

ピタッ

あることを思い立つと彼の手は止まり、

「これを着たまま、学校に行こう…」

と呟くと、レオタードの上からYシャツを着始めた。



「ん?

 どうした?

 顔が赤いけど」

部室で隆康の顔を見た部員達は一応にそう尋ねてくる。

「え?

 そう?

 だっ大丈夫だけど…」

その声に隆康はそう返事をすると、

「(…おっ俺…

  いま、レオタードを着ているんだよ)」

と自分の身体を覆うレオタードの感触を感じながら心の中で呟いた。

「そうか?」

どこか焦点が定まっていない隆康の目を見ながら部員達は

やや距離を置いて隆康を見ていた。

そして、

「で、まだ着替えないのか?」

なかなか着替えようとしない隆康に尋ねると、

「あっ

 悪い…
 
 おっ俺…
 
 体の調子が悪いから、
 
 今日は引き上げるわ」

と言い残すとそのままサッカー部の部室から出て行ってしまった。

「おっおいっ

 友田」

部員達の呼び止める声を背中で聞きながら隆康はそのまま体育館へと向かうと、

その日は練習が休みなのか、

いつもなら練習をしている新体操部員の姿はどこにも無かった。

「え?

 居ないの…か」

ガランとしている体育館の様子を見た隆康はガッカリした。

と、そのとき、

「あら」

まるでそのときを見計らうかのように人気の無い体育館に利香子の声が響き渡った。

「!!」

響いたその声に隆康は驚きながら振り返ると、

「えっと、

 2年の友田隆康君ね」

と利香子は隆康を指差した。

「えっ

 はっはいっ」

その言葉に隆康は素直に返事をすると、

「今日の練習は休みよ、

 たまには女の子達を休ませないとね」

と利香子は言う、

「はっはぁ」

その言葉に隆康は力の無い返事をすると、

「ねぇ、

 実は新体操部のレオタードが1着無くなっているんだけど、

 友田君…知らないかしら…」

と利香子は尋ねた。

「え?」

「あら、聞こえなかった?

 新体操部のレオタードが1着無くなっているのよ、

 友田君なら知っているわよね」

隆康の顎に右手を添えながら利香子はそう尋ねると、

「しっ知らない…

 おっ俺はなにも…」

利香子のその言葉に隆康の顔から見る見る血の気が引いて行き、

身体を震わせながら隆康は返事をした。

「あら、どうしたの?

 顔が青いけど」

隆康の表情の変化を見落とすことなくさりげなく利香子は尋ねると。

「なっなんでもありません」

と隆康は語気を強めて怒鳴った。

しかし、隆康の返事を聞いた利香子は緩めることなく、

「そうかしら」

と呟き、

「でも、あなたの身体は良く知っているでしょう?」

利香子はそう言いながら隆康の胸元のボタンをはずすと、

バッ!!!

っとその胸を開いて見せた。

「あっ

 ダメッ!!

その瞬間、隆康の声が響いたが、

しかし、時遅く

キラッ

隆康の身体を覆う様にして輝く新体操部のレオタードが白日の下に晒された。

「あっあっあっ…」

見られたくないモノを見られた。

そのショックに追い討ちをかけるように、

「あらあら、

 やっぱり友田君が着ていたのね」

と利香子の声が響いた。

「あっいやっ

 これは…」

レオタード姿の上半身を晒しながら隆康は言い訳をしようとすると、

「言い訳なんて…

 見苦しいわよ」

利香子はそう呟くと、まるで獲物を狙う蛇のような視線で隆康に言う。

「ちっ違う、

 これはその…

 昨日、ロッカーに入っていたんです。

 だから…」

「だから?」

「だから…」

「うふっ

 それで着ちゃったのね、

 で、着ているうちに新体操をしたくなってここに来たと」

「そっそんな訳では」

自分の心を見透かしたような利香子の言葉に隆康は声を詰まらせると、

「さぁて、どうしようかなぁ…」

そんな隆康を見下ろしながら利香子は考える素振りを見せ、

「ふふ、

 このまま、職員室に突き出そうか、

 君には色々あることだしぃ」

と告げる。

「そっそれだけは…」

「あら、止めて欲しいの?

 でも…」

「お願いです。

 何でも言うことを聞きますから…」

「このことは不問にして欲しいと」

「うっ」

自分が言おうとしたことを利香子に先回りされ、

隆康が声を詰まらせると、

「ふふ…

 いいわっ

 見逃してあげる…」

そんな隆康を見下すように利香子は言い、

「え?」

その言葉に隆康は利香子を見つめると、

「ただし」

利香子は付け足し、

「今日からあなたは新体操部の部員よ」

と告げた。

「しっ新体操部の部員ですか?」

予想もしなかった言葉に隆康は驚きの声を上げるが、

「そうよっ」

と利香子はあっさりと言う。

「そっそんなぁ」

「いや?」

「だって、俺は男…」

「あら、男の子のつもりなの?あなたは?

 そのレオタードはなに?

 それは女の子が着るためのものよ、

 それを着ているあなたは女の子でしょう?」

自分の提案を嫌がり始めた隆康に利香子は強く言うと、

「………」

その迫力に押され隆康は黙ってしまう。

「いい子ね…

 さぁて、まずは体の整形からしましょうね、

 とてもそんな身体を晒すわけには行かないから、

 あたしの知り合いに新しい整形方法を考えた医者がいるのよ、

 そいつに掛かれば2週間で君は女の子になれるわ」

気負いする隆康を追い詰めるようにして利香子はそう言うと、

「………」

もはや隆康は何も言い返せなかった。




そして、冬休みが開けたある日…

「先生、

 新入部員ですか?」

白い太ももを晒すレオタード姿の見知らぬ少女を前にして新体操部員が利香子に尋ねると、

「えぇ、そうよ、

 紹介するわ

 今日から新体操部の一員となる友田康子さんよ」

と少女を紹介し、

「さっあなたからも」

と促した。

「あっはいっ」

利香子のその言葉に少女は身を固くすると、

「あっあのっ

 友田康子です。

 宜しくお願いします」

そう挨拶をして頭を下げた。



「ふふっ

 そうよっ

 それでいいのよ…

 さぁ、これであなたは晴れて新体操部員よ、

 隆康君…」

顔を赤らめながら挨拶をする隆康の姿を見ながら利香子はそう呟き、

そして、

「さぁて、

 次のターゲットは誰が良いかしら…
 
 辞めた女の子の補充って大変よねぇ…」

と言いながら体育館の隅へと視線を走らせた。



おわり