風祭文庫・アスリートの館






「盗撮」


作・風祭玲

Vol.471





ピピーッ!!

夕闇の迫る体育館に笛の音が鳴り響くと、

「はいっ、

 集合!!!」

追ってジャージ姿の女性・新体操部コーチの友田由美子の声が響き渡った。

すると、その声を合図にして体育館内で練習をしていた新体操部員達が一斉に練習をやめると、

トタトタトタ

足音を響かせ由美子の周りに集合して行く、

そして由美子は自分の周囲にレオタード姿の新体操部員の少女達全員が集まったのを確認すると、

「はいっ

 今日の練習はこれで終わりにします。

 各自、練習の時に感じた自分の至らない点などをイメージトレーニングして明日の練習に生かすこと、

 それと、県大会まであと2週間を切りました。

 大会に出場する子は演舞の組み立てや流し方などを詰めて置くように」

と締めくくりの言葉を言い、

そして、目線でキャプテンに合図を送ると、

「気をつけ!!」

新体操部のキャプテンが声を張り上げ、

「礼!!」

と言う声と共に

「ありがとうございました」

体育館内に少女達の声が響き渡った。



「ねぇねぇ

 今日どこ寄っていく?」

「そーねー」

練習を終えた新体操部員達は緊張から解き放たれたためか

明るい表情で雑談をしながら更衣室兼部室へと向かっていく、

すると、

『!!

 来た!』

その部室より覗く目がレオタード姿の新体操部員達が近づいてくるのを確認するなりそう呟くと、

サッ!!

と隠れた。

2呼吸ほどの間を置いて

ガラッ!!

部室のドアが開かれると、

「はぁ疲れた」

と言う声と共に、

「なに、オバンみたいなことを言って」

「いいじゃないのよ」

「それにしても友田コーチの熱血もほどほどにして欲しいよね」

「うんうん」

などと話ながら新体操部員たちが一斉に部室へとなだれ込み、

それぞれ自分の私物が置いてあるところへと向かって行くと、

ガチャッ!!

バサッ!!

「シャワーお先!」

「あっずるい!」

という按配にシャワーを浴びる者、

順番待ちをするもの、

おしゃべりをするものとそれぞれに別れていく、

そんな中、

「ねぇ、知ってる?」

レオタードに手を掛けた一人の少女・西島美由紀が隣で着替えている橋倉夏子に声を掛けると、

「なによ」

ロッカーから着替えが入ったバックを取り出しながら夏子は返事をした。

夏子の返事を聞いた美由紀が

「あのさ、男子の間に盗撮写真が出回っているって話…」

と切り出すと、

「え?

 なにそれ?」

バッグを持った夏子の手が止まる。

「知らないの?」

「うっうん」

「2組の子から聞いたんだけどさ、

 男子達の間に女子部室の盗撮写真が売買されているらしいのよ」

「うっそぉ!!」

美由紀のその話に夏子が声を上げると、

「あっそれ知ってる」

反対側でタオルを出していた河合美佐が話に乗ってきた。

そして、たちまちのうちに部室内の女子がその話題で盛り上がってしまうと、

『ちっ、

 まずいな…』

彼女達を背後から見つめるロッカーから男の声が漏れた。



「でさぁ、

 盗撮された子って気づかなかったんだってぇ」

「うっそぉ」

「先生たちも色々調べているらしいんだけど、

 敵も去るもの、絶対に尻尾をつかませないんだってぇ」

「やだぁ」

得意顔で美由紀が盗撮について話をしていると、

「ねぇ

 ひょっとしてこの中にいるんじゃないの?」

と部の中で一番気の弱そうな、木之元恵理子が声を上げた。

「え?」

恵理子のその声に皆が一斉に固まると、

「まさか…」

という表情で周囲を見る。

そして、

「ねぇ、調べてみようか」

と夏子が提案したとき、

ガタン!!

ロッカーの一つから物音が響き渡った。



『しまった!!』

身を捩った瞬間、ついひじがロッカーのドアに当ててしまったことに、

ロッカーの中から覗いていた男は後悔するが、

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

響き渡ったその物音に新体操部員達が一斉に悲鳴を上げると、

ドダダダダダ!!

皆慌てるように逃げ出し、

そして、部室の一角に集まってしまった。

「ねぇ

 いっいま、音したよね」

「うっうん」

「まさか、盗撮犯?」

「かっかも…」

音がしたロッカーの方を見つめながらそんな話をしていると、

ズイッ!!

一人の少女・国定涼子が塊の中から抜け出すと、

ゆっくりと音がしたロッカーへと向かっていった。

「あっ、国定さん、

 だめよ」

向かっていく少女に美由紀たちが声を掛けるが、

「大丈夫よ」

日頃から”度胸が据わっている”とコーチから褒められている涼子は自信たっぷりに返事をすると、

一歩

また一歩と音が響いたロッカーへと近づき、

そして、一つのロッカーのノブに手を掛けると、

ガチャッ!

思いっきり開いた。

その途端、

「きゃっ!」

部室に新体操部員達の悲鳴が小さく上がる。

しかし、

「ん?

 あっあれ?」

涼子が開け放ったロッカーには人影はなく、

何もない内部がポカンと口をあけていた。

「どうしたの?」

「いないわ」

「うそっ」

「だって音がしたよ」

「うんっ判っている、

 きっと隣よ」

無人のロッカーを見下ろしながら涼子はそう返事をすると、

隣にあるロッカーのノブに手を掛けると

ガチャッ!!

と開けた。

しかし、ここもまた無人だった。

ガチャッ

ガチャッ

ガチャッ

涼子は次々をロッカーを開けていくが

しかし、どれにも盗撮犯の姿はなかった。

『ふぅ…』

次第に離れていくドアを開けていく音に、

ロッカーの中に隠れていた男はホッと息をつく、

しかし、その彼の頭の上にある網棚が彼が隠れたときの衝撃で外れかかり、

少しずつ落ちかけていた。



「くっそう…」

見つけ次第半殺しにしてやろうと意気込んでいただけに、

この予想外の結果に涼子は唇をかみ締めると、

振り向きながら

「いないわ」

と悔しそうに報告をしたとき、

ガタン!!

涼子が最初にあけたロッカーの反対側のロッカーから物音が響き渡った。

「あっ」

「そこよ!!」

涼子がロッカーのドアを開けている間に他の部員達も落ち着きを取り戻したのか、

驚く者は誰も居ず、それどころか皆が一斉に動くと音が響いたロッカーの前へと群がっていく、

『まっずいっ』

頭の上から落ちてきた網棚を足で押さえながら男は目の前の扉に新体操部員達が群がってきたのを見ると、

力一杯目の前のドアを引いた。

その一方で、

ガシッ!!

彼が隠れ居るロッカーのノブに新体操部員達のたくさんの手が掛かると、

「動かないわ!」

ドアノブを動かし開けようとした者が声を上げると、

「やっぱり居るのよ」

「こっちの方が人数が多いんだから、

 力任せに開けちゃえ!」

と涼子が嗾ける。

すると、

「いくわよ

 せーのっ!!」

の掛け声と共に

バン!!

ついにロッカーのドアが開かれてしまった。

その途端、

ダッ!!

ロッカーが開け放たれるのと同時に人影が飛び出すと、

ドンッ!!

次々と目の前にいる新体操部員達を押し倒し、

部室のドアに向かって走って行く、

「あっ

 盗撮犯よ」

「逃がすなっ」

押し倒された美由紀たちが声を上げると、

「あたしに任せて!!

 待て!!」

すぐに立ち上がった涼子がラグビーのタックル宜しく飛びつくと、

他の面々も次々と飛びついていった。

「離せ!」

「逃がすか!!」

ガシガシ!!

何度も蹴りを食らわされても涼子やあとから飛びついた夏子は決して離さなさず。

その甲斐あってようやく取り押さえると、

「あっあんたは!!」

盗撮犯の顔を見た美由紀と夏子は声を上げた。

「なに知っているの?」

「うっうん、

 こいつ、

 あたしのクラスの滝沢だわ」

と美由紀は驚いた。



「で、なんでこんなことをしたの?」

それから約10数分後…

新体操のリボンやロープでぐるぐる巻きにされた滝沢邦彦にレオタード姿の新体操部員から質問が浴びせられた。

「………」

その質問に邦彦は返事をしないでいると、

「まったく…

 ケータイのデジカメで撮っていたのね」

と邦彦から取り上げたケータイを操作しながら美由紀はそう言う。

「で、どうする?」

成り行きを見ていた涼子が美由紀に邦彦の始末を尋ねると、

「どうすってねぇ」

「このまま先生に突き出すのも、

 なんか口惜しいし…」

「そうねぇ」

このまま邦彦を教師に引き渡すことに皆が納得しない表情をしているのを見て、

美由紀は思案顔になると、

「そうだ」

新体操部員の実夏が声を上げた。

「どうしたの?」

実夏の声に涼子が尋ねると、

「ねぇ、同じ目に合わせてやろうよ」

「同じ目?」

「そう、

 こいつにレオタードを着せてみんなで見てやろうよ」

「えぇ?」

「それはいいけど、

 誰のを着せるの?

 あたしのはイヤよ」

「うん

 あたしもイヤだわ」

実夏のその提案に同調はすれども、

自分のレオタードを提供することに皆拒否した。

すると、言いだしっぺの実夏が

「あっそうだ、

 誰のだかわからないのが一着あったよね」

と提案した。

「あぁあれ?」

「昔の先輩が忘れていったやつでしょう?」

「汚いわよ」

彼女の提案に新体操部全員からそんな声が上がる。

すると、

「こいつにはそれで十分よ」

と返事をした実夏はあくまでやる気満々だった。

「まぁ…

 実夏がそこまで言うなら止めないけど」

「うっうん」

実夏の意気込みに皆はそう言うと、

「はいっ

 決まりね」

実夏は自分の意見が通ったと判断をし、

そして、押さえつけられている邦彦に向かって

「うふふっ

 いまから楽しいことをしましょうね」

と笑みを浮かべながらそう告げると、

トタタタ…

一旦立ち去り、

再び戻ってきたときには彼女の手には一着の古びたレオタードがあった。

「うふっ

 ねぇ君、

 いまからコレに着替えるのよ」

と実夏が邦彦に向かってやさしく言った途端、

「え?」

レオタードを見えつけられた邦彦の表情が凍りつく。

ニコッ

その表情に実夏は微笑むと、

「よしっ、やっちゃえ!!」

誰かが上げた声と共に

うわっ!

邦彦に向けて一斉に手が伸びてきた。

「うわぁぁぁぁ!!

 やめろぉぉ!!」

部室内に邦彦の絶叫が上がるが、

しかし、その声を聞きつけて助けに来るものなど居なかった。

多勢に無勢、あっという間に剥かれてしまうと、

「やめろ」

邦彦は暴れるが、

「おらっ」

「暴れるな!」

「なんだ、お前、チンコ小さいな」

などと乱暴な言葉と共に押さえつけられると、

足を持ち上げられ、

スルリ…

とレオタードが邦彦の股間を覆っていく、

「あぁ…」

自分の股間を覆ってくるレオタードの感覚に邦彦は声を上げると、

ムクッ!

縮こまっていた邦彦のペニスがムクムクと勃起してしまった。

するとそれを見た新体操部員達が一斉に

「やだぁ」

「コイツ、チンコ勃てているぞ」

「変態!!」

となじる声を上げ、

「へぇ、そんなにレオタードが好きなの」

と美由紀が告げると、

グィ

っとレオタードを引き上げた。

「あぁ…」

一気に胸元まで覆ったレオタードに邦彦はあえぎ声を上げると、

「さぁ、腕をだしな」

と命令調で美由紀が告げると、

「うぅ…」

邦彦は声を殺しながらその声に従うと、

スル

ピチッ

スル

ピチッ

邦彦の両腕にレオタードが通され、

ピチッ!

邦彦の体をレオタードが覆ってしまった。

こうして、ほぼ無抵抗で邦彦がレオタードを着せられるのと同時に、

クスクスと笑いながら新体操部員が一斉に引いていくと、

後にはレオタード姿にされてしまった邦彦が股間を押さえながら蹲っていた。

「さて、どうかしら?

 レオタードの着心地は?」

顔を真っ赤にして俯く邦彦に実夏が勝ち誇ったように尋ねるが、

「………」

その声に邦彦は何も答えられなかった。

すると、

「やだぁ」

「顔を赤くしているわよ」

「うれしいのね」

などと新体操部員達の間から笑い声が上がると、

一人の手がレオタードで露になっている邦彦の尻に伸びると、

サワッ

っと触る。

「あっいやっ」

その感覚に邦彦が思わず声を上げると、

「やだぁ、いまの聞いた?」

「きゃはははは」

新体操部員から一斉に笑い声が上がり、

それをきっかけに一斉に手が伸びると次々と邦彦の身体に触りはじめだした。

「いやっ

 やめて!!」

「へへ

 覚悟をし」

「そうよ、

 あたし達を盗撮していたんだから、

 これくらいはガマンしなさい」

悲鳴をあげる邦彦に新体操部員達は次々と言い放つ、

そして、

「そうだ、こいつに新体操させてみようよ」

一人が声を上げると、

「あっそれいいわね」

「うん」

部員達は皆頷き、

「ほらっ」

「さっさと表に出る」

と嫌がる邦彦を体育館内に引っ張り出していくと、

「きゃははは」

「そうだ、おらっ足を上げるんだよ」

と邦彦に無理やり新体操を強制した。



とそのとき、邦彦のおぼつかない新体操を見ていた美由紀に有る考えが浮かぶと、

「ねぇ…

 こいつ、先生に突き出すより、

 あたし達のおもちゃにしない?」

と提案をした。

「え?」

美由紀の提案に部員達が一斉に驚くと、

「新体操部の雑用係になってもらうのよ、

 この格好のままでね」

と悪戯っぽく言う、

「まさか」

「いくらなんでも…」

美由紀の提案に皆は躊躇うが、

しかし、

「あっでも、それ面白そうね」

と夏子が美由紀の話に乗ると、

「そっそうね」

「うん、面白そう」

と次々と声が上がり、

そして、

「じゃぁ、決を採るね、

 滝沢君の新体操部入部に反対の人」

美由紀が決を取る声をあげるが、

その声には上がる手はなく、

「じゃぁ

 賛成の人!」

と声を張り上げると、

サッ!!

全員の手が上がった。

「ふむ」

それを見た美由紀は邦彦を見下ろすと、

「という訳、

 たったいまからあなたは新体操部の部員に決まったわ、

 さぁ、これからその格好でみんなのために働くのよ」

と告げた。

「え?

 えぇ!!」

「うふっ」

驚く邦彦に美由紀や夏子はにこやかに微笑みかけた。



おわり