風祭文庫・アスリートの館






「聡の決心」


作・風祭玲

Vol.051





シュッ、タタン

流れる音楽とともに、レオタード姿の少女が華麗に舞い、

腕から伸びた二つのリボンがまるで生き物のようにうねる。

タッ…タタ…

リボンはさまざまな形にその姿を変え、

やがて、音楽が終わるのと同時に少女は綺麗にフィニッシュを決めた。


「はぁ…」

僕は彼女の美しさに思わずため息を吐く、

「すごいなぁ、ホント」

横で一緒に見ていた高志も彼女の演技に魅了されていた。

すでに体育館の周囲には彼女目当ての沢山のギャラリーで埋まっていた。

「さすがだな…」

「まあな」

「コレだけのギャラリーを呼び集める彼女の実力ってヤツは…」

「そうだよなぁ」

高志が彼女のすごさを口にすると、

「で、今日やるのか?」

と尋ねてきた。

「あぁ…」

僕はそう返事をすると、

「けど…呆気なく玉砕かもよ」

と言いながら高志はコーチから諸注意を受けている彼女を指差した。

「…………」

僕は思わず下を向く、

「千住美香、

 クラスは2年3組、
 
 新体操部のホープ、
 
 今度のインハイでの優勝間違いなし」

高志が彼女のデータを次々と言ったあとで、

「高嶺の花かもよ」

と付け足した。

「そんなこと…やってみなくては判らないよ」

と僕は反論するものの、

「しっかし、素直に”付き合ってくれ”と言って、

 ハイと答えてくれる女かなぁ」

と高志は首を横に傾けた。

「やめろよ…」

そう言いながら顔を上げた僕が睨むと、

「あっスマンスマン

 それでは、幸運を祈る。
 
 グッドラック!!」

と言いながら高志は僕に敬礼をすると体育館から出て行った。

僕は彼の後姿を見送ると再び彼女を眺めた。



彼女と出会ったのは…

そう、あれは春の入学直後のクラブ紹介のときだった。

新体操部の模擬演技で華麗舞う彼女の姿に、

僕の心はすっかり魅了されてしまった。

それからは毎日のように

僕はこうして新体操部の練習は欠かさず眺めに来ている。

そして、今日、僕は彼女にこの胸のうちを告白しようと心に決めていた。

日が落ち、あたりがようやく薄暗くなったころ、

「お疲れさまでしたぁ〜」

と言う声の後、新体操部員は次々と帰り支度をはじめだしていた。

しかし、千住先輩だけはそんな彼女たちを横目に黙々と練習を続けていた。

やがて…

「千住さん、今日はコレまでにしましょう」

というコーチのひと声で彼女は練習を終え、

ジャージを羽織ると掛けてあったタオルを手に取り体育館を後にした。

「今がチャンスだ!!」

僕はその場を離れると近道して新体操部の部室の前で彼女の到着を待った。

やがて、スタスタという足音とともに彼女が現れると。

「あっ、あのぅ、千住先輩!!」

僕は搾り出すように声を出した。

「なあに?」

千住先輩は僕の声に返事をした。

僕は彼女の前に一通の手紙を差し出し、

「じっ実は、これを読んでください」

と叫んだ。

「?」

彼女がそれを受け取ると、

「失礼しました」

と言ってそこからを離れようとしたとき。

「ちょっと、待って…」

千住先輩が僕を呼び止めた。

ピタ!!

すると、僕の身体は金縛りにあったように身体の動きを止めた。

千住先輩は受け取った手紙を開くと目を通し始めた。

僕は今にでも逃げ出したかったけど、

身体が動かずじっと彼女の姿を見ていた。

やがて、読み終わると紙を再び折り畳むと僕に返した。


「あなたの好意は判りました。

 でも…残念だけどあなたとはつき合えません」

と言いながら僕に頭を下げた。

「そっそんなぁ…!!」

ガラガラ…

と音を立てながら僕の恋心が崩れていく。

「あっ、あのぅ、部活のじゃまはしません、

 傍にいるだけでいいんです!!」

と崩れたモノを立て直しながら言ったが、

先輩は首を横に振ると、

「ごめんなさい、あなたとはつき合えないの…」

と言う。

「ぼっ、僕のどこに問題があるのでしょうか?、

 教えてください」

なおも食い下がると、

「それは……

 あなたが男の子だから…」

と彼女が呟いた。

「え?」

僕が聞き返すと、

「美香、そこで何をしているの?」

と言う声とともに

もぅ一人のレオタード姿の女性が部室から出てきた。

3年の小早川先輩だ。

小早川先輩は僕の姿をみると、

「ん?、まさか美香に告白?、

 ずいぶんと大胆ねぇ…」

と笑いながら言うと、

「やめなさい、美香には恋人が既にいるんだから…

 あなたがいくら迫ったとしても無駄よ」

と彼女は僕に言った。

「そんなぁ」

僕は千住先輩を見つめると、

「千住先輩…

 本当に既に付き合っている人がいるんですか?」

と尋ねた。

コクン…

千住先輩は黙って頷いた。

すると、小早川先輩が、

「うふふふふ…

 美香が好きなヒトを教えて上げようか」

と笑いながら僕に言うと、

「やめてください」

千住先輩が声を上げた。

「美香…恥ずかしがることはないのよ、

 ハッキリ伝えないと、
 
 いつまで経ってもアナタの周りを彷徨くわよ…」
 
と小早川先輩が千住先輩に言うと、

僕の方を向いて

「いーぃ?

 美香が愛しているのは……
 
 この”わたし”なのよ」

っと小早川先輩は自分を指さして僕にそう言った。


「……えっ?」

僕は最初その意味が分からなかった。

そんな様子を見た小早川先輩が

「美香はねぇ…男を愛することが出来ないの、

 だから、ボク…諦めなさい」

と付け加えた。

「男を愛せない?

 それって…」

硬直している僕の目の前で、

小早川先輩は千住先輩を後ろからそっと抱きしめるとおもむろにキスをした。

「なっ…」

僕はは目のまで起きている事実が信じられなかった。

すると千住先輩の股間にみるみるシミが現れ、

小早川先輩はそっと自分の手をその上に置くと、

撫でるように彼女の局部をもてあそび始めた。


長いキスが終わると、千住先輩の口から喘ぎ声がこぼれ始めた。

そして、

「せっ先輩っ、愛してます」

と言うと、レオタードをずり下ろしてポロリと自分の乳房を出した。

「やめてくれ!!」

僕はいても堪らずは叫び声を上げた。

「…わかったでしょう?、

 これが私なの、だからあなたとは…」

と言ったところで、

小早川先輩の手が彼女の乳房をもてあそび始めた。

「ああぁっ、あっ」

千住先輩は再び喘ぎ声を上げた。

「というわけなの、

 残念だけど、美香のことは忘れてね」

と言う小早川先輩の声がしたと同時に

僕はその場から逃げ出していた。



「そんなぁ、千住先輩があんな姿を…」

僕は感情が赴くまま走りつづけた。


どこをどう走ったのかは判らない、

気がついたときには

駅の近所の繁華街の隅にある小さな公園のベンチに腰掛けていた。

しばらくの間繁華街のネオンをボンヤリと眺めていると、

「隣、よろしいかな?」

と言う声がした。

「え?」

っと振り向くと腰の曲がった爺さんが大きな荷物を背負い立っていた。

「あっ、どうぞ」

僕が少し端に寄って場所を空けると、

「すまんのぅ」

と言いながら、

「どっこいしょ」

と言って座った。

「いやぁ、久しぶりにこっちに来たら

 街の様子がすっかり変わっちまって、
 
 道に迷ってしまいましたわ、わははは」

と爺さんは笑いながら僕に話しかけてきた。

「はぁ、そうですかぁ」

僕は適当に答えると

「そうだ、あんた、外山神社ってお社は知らんか?」

と尋ねてきた。

「外山神社ですか?、

 それならあのでっかい赤いネオンの看板がある裏側ですよ」

と繁華街の奥でひときわ輝く大きなネオンを指さして言った。

「なんだぁ、もぅちょっと奥だったのか」

爺さんは驚きの声を上げた。

「ありがとよ、これでやっと帰れるわ

 いやぁ最近の若いのは冷たいって言うけど、
 
 あんたは違うなぁ」

と爺さんは僕を誉めた、そして、

「どこいしょ」

と腰を上げると、

「そうだ、お礼にあんたにこれを差しあげよう」

と言うと包みの中からピンポン玉ほどのビー玉を出して僕に渡した。

「なんですかこれ?」

僕が怪訝そうに訊ねると、

爺さんは人差し指を立てると、

「一つだけ、どんな願いを叶えてくれる、魔法のビー玉だ」

と真顔で言った。

「魔法のビー玉?」

僕がシゲシゲとそれを眺めながら言うと、

「あぁ、そうだ、まぁ信じる信じないはあんた次第だがな」

と言う爺さんの言葉に、

「なんでも一つだけ願いを叶えてくれる魔法のビー玉…」

そう思いながら僕はしばらくそれを眺めたのち、

「ねぇ、爺さん?」

と言いいながら顔を上げると、

いつの間にか爺さんの姿はなかった。



「ただいまぁ…」

僕は家に帰ると、

トントントン

と自分の部屋に駆け上がっていった。

バタン!!

ドアを閉めたのち、

「はぁ〜っ」

大きなため息を吐き出すと、

鞄を放り出しベッドの上にそのまま倒れ込んだ。

「はぁ、憧れだった先輩があんな趣味だったなんて、ショックだな」

僕はあの千住先輩の姿を思い出していた。

そして、ポケットからじいさんに貰ったビー玉を取り出すと、

それをじっと眺めていた。

「本当に願いが叶うのなら、これで先輩を…」

と思うと思わず首を振り、

「いや先輩のことは忘れよう…」

と心に誓った。

しかし、ビー玉の不思議な輝きを見ているうちに

「いまの先輩はあんな趣味をしているけど、

 でも、先輩にも理想の人がちゃんといるはず…」

と思うと、

「だから、僕が先輩の理想の人になれば…

 そうだ、願いが決まったぞ!!」

そう決心すると僕はビー玉を目線の高さまで持っていくと

「僕の願いは千住先輩の理想の人になること!!」

とビー玉に話しかけた。

その瞬間、ビー玉はまぶしい光を発し僕を包み込んだ。



タタン

次の日の放課後、

新体操部の少女が演技を演じている体育館には

その様子をいつも見に来ていた少年の姿はなかった。

彼がいつも立っていた場所をふと見上げてると、

「美香、いつものあの子…来ていないね」

と言う声がした。

「え?」

振り向くといつの間にかあたしのすぐ後ろに小早川先輩が立っていた。

「しょうがないですよ、あれを見せられればみんな逃げ出します」

あたしははそう言うと湧き上がってきた罪悪感から逃れようとして、

自分の肩で先輩の背中をトンとついた。



部活後、先輩は用事があるというので先に帰ったので、

あたしが一人で着替えを始めようとしたとき、

カチャ…

部室のドアが開いた。

「?、誰?、」

あたしは更衣室から顔を出すと、

ドアのところにジャージ姿の彼がいた。

「なに、また来たの」

あたしは呆れた口調で彼に言うと、

「何度来ても一緒よ、

 それにココは新体操部の更衣室よ、
 
 男子のあなたがドアを勝手に開けてはダメでしょう」

と言って、彼を追い出そうとしたとき、

彼の身体が昨日より小柄にまた妙に女っぽくなっていることに気づいた。

「?」

わたしは彼の様子に妙な感覚を持ったとき、

「先輩…」

ずっと黙っていた彼がようやく声を発した。

そして彼の声が昨日とは違い女の子のように変わっていることに気づいた。

「あなた…その声…どうしたの?」

あたしが訊ねると、

「先輩…、僕、先輩好みの人になってきました」

と彼が言う、

「あたし好みの?」

わたしは彼の台詞の意味が良くわからなかった。

「見てください、僕の身体を…」

と言うと、彼女は着ていたジャージを脱ぎ始めた。

そして、ジャージを脱ぎ終わった彼の姿を見て驚愕した。

「え?…なっなに?」

ジャージの下からは、赤い光沢を放つ新体操のレオタードが姿を現し、

そして顔は昨日までの少年のままだが、

身体は小さく引き締まり、

手足は細く、

そして胸には2つの膨らみが膨らんでいた。

「あっあなたは、女?」

あたしは信じられない気持ちで彼に尋ねた。

彼はあたしに一歩近づくと

「先輩、責任をとってください」

と言った。

「え?」

「僕…いや、あたし…、

 先輩好みのヒトになりたくて、この姿になりました。

 だから、責任をとってください」

再び一歩近づいた。

あたしは一歩下がると、

「責任をとれって?」

と訊ねると、

「あたしとつき合ってください、

 そして愛してください」

と彼は言うとまた一歩近づいた。

あたしが一歩下がろうとしたとき、

「先輩、逃げないでください

 見てください、
 
 あたしの身体は小早川先輩よりも女らしいし、胸も大きいです」

と言うと、自分の手を胸へと持っていった。

そして、胸を揉み始めると股間にシミが現れ、見る見る広がっていった。

ゴクン…

あたしは生唾を飲み込んだ。

「先輩、好きです」

彼はそう言うとレオタードを脱ぎ捨てると自分の裸体をさらけ出した。

「…………」

あたしは何も言わず彼の裸体を眺めた。

そしてしばらくすると、無性に彼を抱きしめたくなってきた。

そんなわたしの様子を見た彼は、

「先輩、我慢しなくてもいいんですよ…」

と囁いた。

あたしはその言葉を待っていたかのように彼の前に跪くと

そっと、彼の陰裂に舌をはわせた。

ピチャピチャ…

わたしと彼しかいない部室の中を淫乱な音が支配した。

「あぁ先輩…気持ちいいです…」

「あなたのあそこ…おいしい」

やがてあたしは彼のクリトリスを攻め始めると、

「はぁ、はぁ、だめぇ、いっちゃう…」

そう言うと、彼は絶頂の階段を駆け上っていった。

「あぁぁ〜っ」

絶頂に達すると、彼の陰裂から大量の愛液があふれ出した。

そして倒れるようにあたしに寄りかかった。

「はぁ、先輩…」

彼がそっとわたしを見ると、

「可愛いわよ…」

あたしは囁くと彼の乳首にそっとキスをした。

「先輩…」

「聡…」

あたしは彼の名前をはじめて呼ぶと、

着ているレオタードを脱ぎ捨てると、そっと抱き寄せた。

あたしの腕の中で彼はまるで捕らえられた小鳥のようにじっとしていた。

「聡、もぅ離さないわ

 さぁ、今度は貴方の番よ」

と言うと私は彼を抱きしめそして更衣室の奥へと連れ込んで行った。



その夜は、僕にとって忘れられない夜となった。

そして僕はもぅ先輩にとって無くてはならない存在になる事が出来た。

もぅずっと先輩と一緒。



おわり