風祭文庫・アスリート変身の館






「晴れの日に」



原作・風祭玲

Vol.826





その日、志茂円(25)にとって人生で最良の日となるはずだった。

とある大安吉日の…

とある半島の南端に聳える”みんななかよし、はっぴぃランド”

少々小馬鹿にしたような名前を持つこの豪華リゾートは

この良き日に挙式をあげる多くのカップルで賑わっていた。



「綺麗よ、円」

「うん、とっても綺麗」

正装をした友人達取り囲まれて話しかけられた円は、

この日のために用意したウェディングドレスを身に纏い、

「みんなっ

 ありがとう」

嬉しさのあまりつい涙を流してしまっていた。

「あーぁ、

 泣かない泣かない」

「そうよ、折角のメイクが台無しになるじゃないの」

そんな彼女の姿を見ながら

友人である森下美紀と加藤小百合は目頭を抑えようとする円に注意した。

そして、

「それにしてもさ、

 よく当選したわね」

美紀は感心すると、

「うん、

 倍率、300倍だったんでしょう?」

小百合も同じく感心した表情で円を見た。

「…うっ運が良かったのよ」

友人達に向かって円は笑みを見せると、

「運ねぇ…」

腕を組みながら美紀達は考え込んだ。

「なっ何よっ」

考え込んで見せる美紀と小百合を見て円は不機嫌になると

「いやぁ、

 ここでこんなに幸運を使い果たしては…

 これから何が起こるか…」

と美紀は先のことを案じる台詞を口にする。

その途端、

「もごっ」

すぐにその口が塞がれ、

「こらぁっ、

 折角の日に変なことを言わないのっ」

と小百合が窘めた。

「あはは、

 ごめんごめん」

注意を受けた美紀は円に向かって手を合わせると、

「もっ、しっ知らないっ」

円はふくれっ面をしながらプィっと横を向いた。



この日、はっぴぃランドには招待されたカップル1000組の結婚式が行われようとしていた。

と言うのもこのはっぴぃランドを運営する企業グループの総帥の息子が、

近くに建つ別宅で結婚式をすることになり、

その祝賀を盛り上げるためのイベントでもあった。

「メアリぃー!!

 メアリぃーはどこだぁ!!!

 わたしのメアリぃーよ出てきておくれ」

「旦那様っ

 式場はそっちではりません。

 花嫁も花婿も待っておられます」

「旦那さまっ

 メアリー様はもぅこの世には…あっまずっ」

どこかの結婚式に出席するのか、

正装姿の徘徊老人を追って執事服を来た執事が廊下を駆け抜けていくと、

「ねぇねぇ、

 あの森の向こうにある別宅で結婚式をするんだって、

 偉い人が集まって盛大にやるそうよ」

「へぇぇぇ」

窓から見える森を指差し美紀と小百合は時間を潰していた。

そして、

「でもさっ、

 円ってあの問題は片付いたの?」

そう美紀があることを指摘すると、

指摘された小百合は急に表情を曇らせ、

「うっうん、それなんだけどさ」

と言葉を濁した。

「え?

 まさか、キチンと縁切りしてないとか言うんじゃないでしょうね」

それを聞いた美紀が飛び上がると、

「しーっ!

 誰かに聞かれたらどうするのよっ」

口に人差し指を立てながら友人は注意し、

「円の話ではゴメンナサイってしてきたって言っていたけど、

 でも、一成君は承知してないと思っているみたいなのよ」

と呟く。

「えーっ

 それって本当?」

話を聞いた美紀は再度驚くと、

「同じ苗字で成和と一成…

 全く、そんな二人の男性にフタマタかけるなんて

 あの子も困ったものだわ」

そう呟きながら困惑した顔になっていた。



やがて

志茂円と世話成和の挙式がチャペルで晴れ晴れしく執り行われ、

神父の前での指輪の交換となった。

神父から差し出された指輪を手に取り、

新郎である成和が円の指にはめようとしたそのとき、

バンッ

閉じられていたドアが開くと、

「やめて下さい

 やめて下さい」

必死に取り押さえる巫女装束の女性を引きずりながら、

「異議あり!!!!」

チャペルの中に男の声が響き渡った。

ザワッ

その声に列席者は一様に振り向くと、

「異議あり、

 異議あり、

 異議あり!」

はっぴぃランドの作業服を着た世話一成が押しかけ、

壇上の円を指差しながら、

「異議ありぃぃぃ!」

と声を張り上げる。

「なっなんなんだ、君は!!」

押しかけてきた一成に成和は声を荒げると、

「お前かっ

 成和と言う男はっ」

一成もまた声を荒げ、

「円は俺と結婚をするはずだったんだぞ」

と怒鳴った。

「え?」

彼のその言葉に皆は一斉に驚くと、

「ちょちょっと待って、なりかずさん。

 あたしはあなたとは結婚できないって言ったでしょう」

そう円は一成に向かって声を上げた。

すると、

「なに?

 円、いまなんて…」

それを聞いた成和はショックを受け、

「だから、なりがずさんとは結婚できないって…

 あっ間違えた…」

そう言い換えて円は慌てて口を塞ぎ、

「うーん、

 そうだ、世話さんとは結婚できません」

と言い切る。

だが、

ザワザワザワ

それを聞かされた列席者が一斉にざわめくと、

「そんなぁ、

 円ぁぁぁ」

成和は見る見る泣き顔になっていく。

「あぁぁぁぁ…

 二人とも…世話さんだった…

 だからぁ!

 えっとぉ、

 一成があっちで、

 成和がこっちで、

 あぁ、じゃなかったぁ、

 こっちが一成で

 むこうが成和…」

新婦である円は頭を抱えながら成和と一成の名前を呟き続け、

そんな円の姿を見ながら

「……そういえばさ」

成和が話しかけると、

「円ってよく僕の名前を間違えていたけど、

 こういうことだったのか」

と指摘した。

その途端、

「違うのっ、

 なり…

 じゃなかった

 かず…

 あぁ紛らわしいぃ」

癇癪を起こしてしまったのか円は声を上げると、

「あの子…

 人の名前を覚えるのが思いっきり苦手だったのよねぇ」

美紀は呆れながら呟く。

「そうねぇ…

 あたし達の名前をキチンと覚えてくれるのにどれくらい掛かったっけ?」

「円に初めて会ったのは中学1年の春だけど、

 女子大に通っていた時も名前間違えていたよね」

「うん、顔と名前が一致できない。って聞いたんだけど、

 この場に来てコレって…もぅ致命的じゃない?」

「はぁ、

 苗字が同じ、

 他人の空似の上に、

 名前の漢字をひっくり返すと同じになる男性二人から同時にお付き合いを求められて、

 頭の中で二人の区別できないままズルズルと来てしまった結果がこれかぁ…

 円には酷だったみたいね」

壇上の修羅場を見ながら美紀と小百合は小さく頷いた。

すると突然、

「あっ判ったぁ

 太くて硬くて長持ちするけどお金が無いのが一成さんで、

 フニャフニャですぐに果ててしまうけどお金持ちが成和さん」

と円は声をあげると、

「あの馬鹿…それでしか判断出来ないのかよ」

「信じられない…この場でそれを言うか?」

美紀と小百合は顔を赤らめた。

その途端、

「円ぁぁぁぁぁ!!!」

二人の男が怒鳴り声を上げるが、

ゴォォォォォ…

唸るような地鳴りがすると、

ズズズズズンンン!!

激しい揺れが式場を襲った。

「地震だ!」

「大きいぞぉ!」

至る所から悲鳴と怒号が響き渡り、

「きゃっ!」

地震の揺れに足を取られた円はその場に尻餅を付いてしまうと、

「円っ」

「大丈夫か」

そんな彼女を見た成和と一成が同時に助けようとして飛び出すなり、

「邪魔だっ」

「お前こそ邪魔だ!」

円を奪い合うようにして掴み合い、

殴り合いをはじめだす。

「あぁ、喧嘩はやめて、

 成和さん…じゃなかった。

 一成さん…じゃなかった。

 あぁっもぅ!

 面倒くさぁぁぁぃ!!!」

喧嘩をする二人を同時に突き飛ばして、

円は声を上げたとき、

「怪獣だぁ!!!!!!」

叫び声が響き渡った。

「へ?」

「怪獣?」

その声を聞いて係員がドアを開けるが、

すぐに、

バタンと閉じてしまうと、

「ひぃぃぃ!!!」

大きな声で悲鳴を上げながら、

アタフタと反対側へと逃げ出して行く。

「?」

彼のその行動を不審に思った列席者が思い切って閉じられたドアを開けると、

廊下越しの窓には巨大な竜の姿があり、

大きく開いた口をこっちに向けているのが見て取れた。

その途端、

「きゃぁぁぁぁ!!!!!」

チャペルの中に悲鳴が上がり、

「うわぁぁぁぁぁl!!!!」

たちまち逃げ惑う人で大混乱に陥った。

「円ぁ」

「円こっちだぁ」

「一成さん…

 じゃなかった、成和さん…

 じゃなかった」

二人の男に手を引かれる円はまた名前で混乱してしまうと、

その直後、

カカカッ!

閃光がチャペルを襲い、

バキバキバキ!!!

ドォォォォォン!!

同時に猛烈な爆風が円達を襲った。

「きゃぁぁぁぁ…」

一体、何が起きたのかは円には判らなかった。

爆風と共にチャペルは激しく揺さぶられながら回転し、

美紀達はもちろん、

席への列席者も次々と外へ吸い出されていく、

そんな中、

円は正面に掲げられていた十字架にしがみついていると、

「うげっ」

「うごっ」

成和と一成の二人も十字架の左右の柄に引っかかり、

そこから垂れ下がった。

そして、

バシャーーーン!!!

どこかに落ちたのか、

水の音が響き渡ると、

チャペルは天地がさかさまになり、

海水と思える塩辛い水が流れ込み始めた。

「成和さぁん!!

 一成さぁん。

 あぁっ

 もぅ本当に面倒くさい」

円はやけくそ気味に二人の名前を呼びながら二人を抱えあげると、

タイタニックの如く深海へと潜っていくチャペルから脱出を図るものの、

しかし、一体どれくらい飛ばされたのだろうか、

ゴワァァァァ〜っ

円が顔を出した海上は嵐の真っ只中であり、

波高数メートルの大波の前では全くの無力であった。

「そんなぁ」

意識を失ったままの二人を抱きしめながら円は天を仰ぎ見るものの、

ピンチ真っ只中の円に手を差し伸べるものの姿は何所にもなかった。

さらに、雪崩打つように襲い掛かる大波は円を翻弄し泳ぐことすらままならず、

「きゃん!」

円は幾度も水面にたたきつけられた。

そして、ついに意識を失いかけたとき、

円は薄れゆく意識の中でどこからともなく響いてくる声を聞いたのであった。

『…お前はまだ生きていたいか…』

「だっ誰?」

『…もっと力が欲しいか…』

「誰なのよっ」

『…力が欲しければくれてやる…

 …お前はまだ生きていたいのか…』

円の問いかけには一切に答えずに問いかけてくる声に、

「欲しいに決まっているでしょう!」

思わず円はそう返事をすると、

『…よかろう、力をくれてやる、

  お前に生きる術を与えよう。

  ただし、そのかわり同じような目に遭った人間に生を与えるという宿命を得るぞ…』

と声は尋ねると、

「判ったからさっさとしてぇ」

海面に顔を出した円は声を思いっきり張り上げた。

すると、

カカッ!

天空より稲光が光り輝くと、

バシーン!

その閃光は円を直撃する。

すると、

円が着ていたウェディングドレスは解けるようにその装飾を失い、

さらに萎縮してゆくと、

ピタッ!

円の股間を隠すだけの小さな存在へと姿を変えた。

「ひゃんっ!

 え?

 なにこれ?」

いきなり姿を消し、

まるで下着の如く姿に変わったドレスに円は驚くが、

しかし、それは始まりにしか過ぎなかった。

ムリムリムリ!!!

ドレスの変化が終わって一息つく暇もなく、

いきなり円の胸が盛り上がっていくと、

乳房は胸板に飲み込まれ、

お腹には腹筋が溝を刻んでいく、

さらに、手足が太くなっていくと、

モリッ

モリッ

ツルリとした円の股間が膨らみ始め、

まるではみ出さんが如く見事なイチモツが姿を見せた。

その一方で長く伸びた髪が短髪へと変わっていくと、

白い肌が赤銅色へと変わり、

ザバッ!

海の中から救命用のボードが飛び出すと、

円の逞しい肉体を海中から引き上げた。

「こっこれは」

自分の身体に起こった変化に円は驚いていると、

『さぁ、

 その姿ならお前はこの嵐を乗り切ることができる、

 行くがよい』

と言う声が響き、

ズドォ!

円の頭の上を光る玉が飛んでいくと、

やがてそれは竜の姿に変わっていくと何処とも無く消えていったのであった。



それから程なくして、

とある海岸に赤銅色の肌に競泳パンツ一枚のライフセーバーが

遭難者2名を救命ボードに乗せて海から上がってくると、

「よっこらしょっ」

っと砂浜に二人を寝かせ、

その脇に腰を下ろした。

「はぁ…

 やっと着いたぁ…」

日に焼けた屈強の肉体と、

腰にピッチリ張り付く競泳パンツをモッコリと膨らませて、

ライフセーバーはずっと泳ぎ続けていた疲れを癒すが、

ずぶ濡れの二人の姿を見ているうちに、

ムクッ

突然、円の股間が膨らんでくると、

「成和さんも…

 一成さんも…

 おいしそうなお尻しているじゃない」

そう呟きながら、

シュッシュッ

シュッシュッ

膨らむ競泳パンツを扱き始めた。



「うっうーん」

「うん?」

どれくらい気絶していただろうか

ようやくふたりが気がつき、

辺りをキョロキョロと見回し始めると、

「ハッハッ

 あっ気がついた?

 ハッハッハッ」

息を切らしながら円が声を掛ける。

「え?」

「円さん?」

掛けられた声に反応して成和と一成は円の方を振り向くが、

だが、

「なっ」

「なっ」

「なんだぁ、それは!!!」

顔こそは円の面影が残っていたが、

赤銅色の肌、

ムキムキマッチョな肉体、

そしてなにより競泳パンツをずり下げた股間から逞しいシンボルを起立させて、

それを扱いて見せる男の姿があり、

「お前達がなかなか目を覚ましてくれないから、

 もぅ…

 こんなに出ちまったぜ」

と言うと、

「うっ!」

声を殺しっ

ビュビュビュッ

そのシンボルの先から白濁した粘液を吹き上げた。

「うわぁぁぁ!!!」

それを見た二人は声を揃って悲鳴を上げると、

「ちょっとぉ!

 その悲鳴って何よっ」

と円は怒鳴り声を上げる。

そして、

「もぅ、結婚なんて面倒臭くなっちゃった。

 それよりもさっ、

 あななたちをオンナにしてあ・げ・る」

ビクンッ!

射精しても硬さをさらに増すイチモツを握り締めながら

円はそう言うと二人に迫って行った。



おわり