風祭文庫・アスリート変身の館






「龍神」
(後編)



原作・風祭玲

Vol.824





「早く…

 早く進んで!!!

 弟が…

 海人が…」

海に落とされた弟を案じながら姫子はアクセルを踏み続けた。

そのとき、

『力が欲しいか…』

そう話しかける声が彼女の脳裏に響くと、

「え?」

思いがけないその声に姫子は驚き顔を上げた。

すると、

フォォォン…

姫子の胸に掛かる湊神社のお守りが光り輝き、

『我を崇める巫女よ、

 我の問いに答えよ。

 力が欲しいか、

 力が欲しければくれてやる。

 我を解き放てばお前は無限の力を貸そう』

とそのお守りに描かれている竜が姫子に話しかけていたのであった。

「竜…

 まさか…」

光り輝くお守りを見つめながら姫子は驚くが、

「決まって…」

その問いに姫子はそういいかけたとき、

「ちゃーんすっ」

一瞬の隙を突いて”将軍様”の息子が運転席に飛び込んでくると、

姫子を運転席から押し出してハンドルを奪おうとした。

だが、

「ダメ、海人ぉぉぉぉ!!!!」

姫子は弟の名前を叫びながら、

「あたしに…

 力を!!!!」

と怒鳴りながら、

バキッ!

ヒールの踵をへし折る勢いで姫子はアクセルを踏み切ってしまうと、

ズズズズズズズンンンンン!!!!

半島を強い地震が襲った。

「うわぁぁぁぁぁ」

震度6弱はあるだろうか、

地の底から巻き起こる強い揺れは”はっぴぃランド”を容赦なく揺さぶり、

贅を尽くした別宅も大きく揺れた。

そして、次の瞬間、

ボワッ…

別宅の一角、

かつて竜神が住む池といわれながらも埋め立てられ、

本格的なオーガスタを遥にしのぐゴルフコースから陽炎が立ち昇りはじめると、

ズドォォォォォォン!

爆発するように天に向かって芝が伸び、

伸びる芝は細長く纏まると、

その頭の部分に赤く目が光り、

真っ直ぐはっぴぃランドに向かって飛んでいった。

「あーはっはっはっ、

 油断したけど、

 もぅこのクルマはぼくのものだもんね、

 よくもぼくの顔を踏みつけてくれたなぁ」

真ん丸に太り上がった顔を黒メガネに拭かせながら、

ハンドルを取り返した”将軍様”の息子は姫子に向かってそういうと、

「お前達っ、

 この女をボコボコにしちゃっていいよ」

と黒メガネに命令をした。

「しかし、お坊ちゃまっ、

 この方は」

息子の命令に世話役の黒メガネは驚くと、

「ぼくの命令が聞けないのぉっ」

と息子はかんしゃくを起こした。

すると、

「おいっ、

 お坊ちゃまがそう仰るのだ」

さらに説得をしようとする世話役の方を他の黒メガネが掴んで制止させると、

「このアマ…

 弟のところへ連れて行ってやる」

と言いながら姫子の胸倉を掴み上げ、

その顔に殴り掛かろうとしたとき、

ゴギャァァァァァァァァ!!!!

異様な叫び声が響き渡り、

フロントガラスに大量の芝が撒きついた。

と同時に、

ドゴォォォォォ!

ラッキードラゴン号が縋る戦闘員達と共に宙を舞うと、

「うわぁぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁ!!」

激しく回転する車内に息子や姫子の叫び声が響き渡り、

「何事だぁ!!」

追って黒メガネ達の怒号が追って響く。

ガラガラガラ!!!!!

ビィィィィィ!!!!!!

宙を舞うラッキードラゴン号に一筋の稲妻が落ち運転席に光が満ちあふれ、

その光の中、

ドクンッ!

ドクンッ!

ラッキードラゴン号の車内に鼓動を思わせる音が鳴り響くと、

さらに、

グニィ…

クルマの内装に血管が通い、

ピンク色をした肉が盛り上がってくる。

「なっなんだよぉ、

 気味が悪いよぉ」

運転席から最後尾に目掛けて車内の天井に白い背骨が凹凸を見せ、

アバラと思える骨が天井から降ってくると、

ギンッ!

ラッキードラゴン号に施されている竜の目に光が宿り、

ズシンッ!

芝を振りまきながらラッキードラゴン号は地上に落ちた。

「あっ開かないっ

 ドアが開かないよぉ」

生き物の内臓を思わせる車内でドアノブを息子は引っ張って見せるが、

車体と一体化してゆくドアはビクともせず、

その一方で、

「イッー!?」

ジュルッ!

落ちてきたラッキードラゴン号によじ登っていた戦闘員の体が車体に張り付き始めた。

ジュルルルルルル…

「ギィィ!!!」

悲鳴を上げながら一人また一人と戦闘員の体は溶け、

見る間に硬質化してゆくと、

一人一人がラッキードラゴン号を覆う鱗となっていく。

そして、

シュルルルルルル…

ラッキードラゴン号の心臓部に鎮座する出力100万馬力を誇る

小形核融合炉に向かって湧き上がる血肉が伸びると

バキンッ!

最終安全装置を取り込み破壊してしまった。

ドクンッ!

ドクンッ!

ドクドクドクドクドク…

不気味な鼓動が次第に早くなり、

「誰かっ

 あーけーてー!!!」

泣き叫びながら息子はドアをたたき続ける中、

「畜生!!」

ターンッ!

タンタンタンタン!!!

黒メガネ達が盛り上がってくる血肉にむけて拳銃を乱射し始めた。

大混乱の中、

「ふふふっ

 無駄よっ」

そんな彼らに向かって姫子は笑いながら声を上げると、

ズブズブズブ…

彼女の足元を飾るヒールが血肉と一体化し、

姫子の身体は血肉の中に溶けていく。

そして、

「これはバチよ、

 あなたたちが竜を粗末にしたバチ…

 あぁ、
 
 怒り狂う竜があたしに降り注いでくる」

そう言いながら姫子の身体が血肉の壁の中に消えていくと、

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

「助けてくれぇぇぇぇ!!!」

黒メガネ達も同じく溶け始め、

「いやだぁ、

 助けてくれぇ!!!

 パパぁぁぁぁぁ!!

 ふぐぅぅぅ!」

泣き叫ぶ息子はスピードを上げて盛り上がる血肉に押しつぶされ溶け込んでしまった。



贅の限りを尽くし、

核の直撃を受けても余裕でワンセグが見られるハイパーコーティングと

7つの威力と快適な空間とドライブを約束した夢のリムジン・ラッキードラゴン号は

ゴワァァァァ…

ゴワァァァァ…

まるで呼吸をするように車体を膨らませたり萎ませたりした後、

ギロッ!

これまで自分を蔑ろにしてきたリゾート施設・はっぴぃランドと、

その背後に聳える豪華な別宅をにらみ付けた。

しして、それらを睨みつけながら、

『我を蔑んだ人間どもに天罰を与える…』

という意識がラッキードラゴン号の心を支配したとき、

ゴワァァァォォォォギャァァァァァァ!!!!

ラッキードラゴン号は核によって太古の眠りを解かれた怪獣の如く雄叫びを上げ、

左右に12対の高性能タイヤから濛々と煙を噴き上げると、

ボンッ!

タイヤを吹き飛ばし、

ゴリゴリゴリ!!!!

車体の左右から鱗に覆われた手を足を伸ばして行くと、

ズズズズズ…

最後尾から長い尾が伸びていく。



「さっきの地震の震源はどこかね?」

「大きな地震でしたね」

「ところでまだ挙式は始まらないのかね」

リゾート施設に近接している完成したばかりの別宅で、

政財界の重鎮達がなかなか始まらない挙式に痺れを切らすと、

「まぁまぁ、

 まもなくですよ」

この結婚式のもう一人の主役である”将軍様”は上機嫌で彼らを宥め、

「おいっ、

 息子とは連絡が取れないのか」

と問いただした。

「はっただいまっ」

”将軍様”直々の指示に黒メガネたちは身を震わせながらラッキードラゴン号を呼び出すが、

だが、幾ら問いかけてもラッキードラゴン号からの返事は返らず、

「何があったんだ?」

「はっぴぃランドに居るはずだ、

 お迎えに行って来い」

音信不通の息子たちを出迎えに黒メガネ達が出発しようとしたその時、

ガラガラガラガラ!!!!!

天空から無数の稲光が輝き、

はっぴぃランドの奥に向かって伸びて行く。

「何だ、あれは!」

「はっぴぃランドの駐車場だ」

それを見た者たちは口々に声を上げるが、

だが、

ゴワァァァァァァ!!!

落雷があった所より得体の知れない怪物がゆっくりと頭を擡げ始めると、

皆、一様に言葉を失ってしまった。

一方で、

「ん?

 なんだね、あれは?」

「さぁ、

 何かのアトラクションでは?」

姿を見せた怪物を興味深そうに見ながら、

政財界の重鎮達は一斉に窓の傍に寄っていくが、

彼らはこれから始まろうとする惨劇を目撃することになるのであった。



「ちぃ!」

黒メガネ達の手によってクルマごと海に落とされた海人だが、

クルマのチューンの際に水密性を高めていたお陰で、

クルマは沈まず、波間に漂いながら海上を浮いていた。

だが、潮に乗ってクルマは次第に海岸から離れていく様子に焦りを感じながら

「何か手は無いか」

とクルマの後部へと向かって行く、

そして、駐車場では

バキバキバキバキ!!!

全身の鱗を輝かせ、

爬虫類の如く身を起こしたラッキードラゴン号は

見る見るその姿を巨大な白竜へと姿を変えていくと、

バキッ!

運転席の下が大きく切り裂かれ、巨大な口が開く。

「こんなことがあっていいのか…」

「戦闘員…

 みな飲み込まれてしまいました」

「ラッキードラゴン号が…

 りっ竜になった?」

ラッキードラゴン号の変身を外から見ていた黒メガネ達は

目の前に立ち上がる白竜の姿に恐れおののくと、

カァァァァァァァァァ!!!!

開いた白竜の口に光が集積し始め、

やがて、光は高温プラズマ球へと成長する。

シュルルルルル…

光を咥える口の両脇からは左右に1対の髭が生え、

見開かれた目が真っ赤に染まってくと、

ボッ!

白竜の口からプラズマ球の初弾が放たれた。

放たれたプラズマ球は一直線に海へと向かい。

この晴れの日のために姿を見せていた

私設海軍所有の原子力空母の近くに着弾する。

カッ!

閃光と共にきのこ雲が持ち上がり、

衝撃を受けて大きく傾いた空母の原子炉が暴走し核爆発を起こすと、

追って次の閃光が輝いた。

「どわぁぁぁ!!」

発生した衝撃波と小規模の津波は海人のクルマをがけ下の岸へと運び、

一方で駐車場を埋め尽くすクルマは衝撃波によって一斉に舞い上ると、

競馬場に舞うハズレ馬券の如くヒラヒラと空中を舞踊る。

しかし、これだけでは白竜の怒りを沈めるには至らなかった。

ゴワァァァァァァ!!!!!

ベキベキベキベキ!!

白竜と化したラッキードラゴン号はさらにその姿を竜の姿に近づけ、

メキッ!

右腕に竜玉が握り締められると、

バベルの塔の如く聳え立つドライブインと

並んで建つ高級ホテル&結婚式場に向けてその照準を合わせる。

そして、

コワァァァァァァァ!!!!

第二弾となる光の集積が始まりだした時、

「怪獣だぁ!」

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

「逃げろぉぉぉ!!!」

「助けてぇぇぇ!!」

白竜を見て逃げ出す人々でたちまち地上は大混乱に陥り、

パニックから暴徒と化した人々は動けるクルマを捜し求め奪い合いが始まった。

だが、

そんな人々をあざ笑うかのように

カッ!

白竜の口から第二弾が放たれると、

直撃を受けたドライブインの中央部が見る間に溶け落ち、

次の瞬間、

全世界の名産を惜しまなくかき集めたドライブインは基底部もろとも蒸発してしまうと、

そこから生まれた熱線と衝撃波は隣接するホテル&結婚式場、

さらには世界の神々が汗を流すスーパー銭湯、

そして、おとぎ話のお城がシンボルの巨大遊園地を木っ端微塵に粉砕する。

「何事だぁ!」

「NKからの核攻撃だ!」

「防衛省は何をしている」

衝撃波によって窓ガラスが粉砕された別宅では

招待された政財界の重鎮や、芸能人、スポーツ選手たちが右往左往し、

「みなさん、落ち着いてください。

 この建物は水爆を爆発しても大丈夫です」

と”将軍様”は声を張り上げる。

そして、

「スグに私設軍、全軍出撃っ、

 国防軍の指揮権を接収した後、

 あの化け物を退治しろっ」

と黒メガネに命じた。

ギュォォォォォン!

大都市に隣接する私設基地からは攻撃機が飛び上がり、

さらに私設機甲師団が大都市名物となっている渋滞中のクルマを押しつぶし、

鉄道線路を破壊しながら半島へと急行する。

そして、

「攻撃開始!!!」

黒メガネ隊も合流し

隊長のゲチと共に陸海空から一斉に白竜に向けて攻撃が始まった。

夥しいミサイルと、

雨のように浴びせられる砲弾で白竜の姿は見えなくなるが、

だが、

カカッ!

ズドォォォォォン!!!

ゴワァァァァァァ!!!!

そんな猛攻撃を受けて居るにもかかわらず、

白竜はスキーヤーで賑う雪山や

ピチピチのギャルで埋まるビーチにも容赦なくプラズマ球を落とし、

あたり一体を荒涼とした大地へと代えて行った。

まさに地獄絵。

まさに修羅場。

投入された大量の戦力は白竜の前には全くの無力であり、

戦車隊は菓子箱のオマケの如く白竜に潰され、

航空隊は白竜が巻き起こした突風に煽られと、

近所の湖に火の消えたノズルを突き立てる。

そして、艦船は…大都市の高層ビルに突き刺さり、

その無様な姿をさらけ出したのであった。

まさに”役立たず”の墓標を築きあげていく私設軍の惨敗ぶりを見せつけらる中、

プルルルルルルル…

”将軍様”の系列企業が運営するコールセンターに

苦情と損害賠償を求める電話が鳴り始めた。

「このぉ!!!

 俺たちを舐めるなぁぁぁぁぁ」

”将軍様”の親衛部隊と評され、

数々の優遇を受けてきた黒メガネ隊は必殺兵器・スーパーXを使い

果敢にも白竜に立ち向かうが、

体に触れることすら許されず

大空へと吹き飛ばされてしまうと、

パウダースノーを思わせる赤茶けた砂地に墜落した。

そして、スーパーXから降り立った彼らの前を、

星条旗を誇らしげに掲げる探査車がゆっくりとした速度で走り、

見上げた黒メガネには青い夕焼けと、

太陽系随一の巨星と少し間を開けて輝く望郷の星が映し出されていたのであった。

もはや彼らに故郷へ帰る術はないのである。



”地上の楽園”と歌人に詠まれたリゾート施設・はっぴぃランドを廃墟にし、

さらにご自慢の私設軍をも壊滅しても白竜の怒りは収まることはなかった。

そして、電話が鳴り始めた”将軍様”コールセンターには、

被害を受けた人々から慰謝料の請求、

損害賠償その他もろもろの訴訟を訴える電話がひっきりなしに掛かり、

ついに回線がパンクしてしまうが、

だが、電話繋がらなくなたことがさらに被害者達は怒りの炎を燃え上がらせ、

たちどころにいくつもの原告団を結成されると、

謝罪と賠償を求める訴訟は急ピッチに膨れ上がっていく。

一方、白竜の攻撃から逃れようとする観光客は難民なって北へと逃げ始めるが、

その道中にある街では略奪やにわか強盗団による襲撃が相次ぎ、

半島一体は無政府状態へと陥っていった。

そして、白竜はその者達の頭上にも容赦なくプラズマ球を落とし殲滅していくのである。

『ぐふふふふ

 みよっ、

 人間がゴミのようだ…

 我を蔑ろにし、

 我を踏みつけた罰を思い知るが良い』

怒り心頭の白竜はなおも攻撃を続けていると、

キラッ!

上空に光るものが打ち上げられ、

カッ!

ズドォォォォォン!

巨大な閃光が白竜を飲み込んだ。

「よしっ!

 N2の直撃を食らったぞ!!

 あれを喰らっては生きてはいまい!」

崩れ落ちた窓枠を叩きながら国防大臣が喜ぶと、

「さすがは国防軍っ

 どこかの軍隊モドキとは違うわっ」

と気勢を上げる。

だが、

「誰がこんな命令を出したぁ!!!!」

怒り心頭の”将軍様”が駆けつけるなり、

国防大臣の胸元を掴み上げると、

「国防軍は我々の指揮権の下で行動するのだ、

 勝手な振る舞いは許さんっ」

と食ってかかるが、

「やかましいわっ

 こんなことになった原因は貴様の無秩序な開発が原因だろうがっ」

国防大臣は言い返す。

「なんだとぉ!」

彼のその言葉に”将軍様”の口が歪むと、

「私はコレにて失礼する。

 国民の生命と財産を守るのが私の使命。

 これから国防軍の指揮を執らないとならないのでな」

と国防大臣は返事をし、

”将軍様”に背を向けた。

その途端、

タァン!!!

銃声が響き渡ると、

ドサッ!

国防大臣はその場に倒れてしまった。

「だっ大臣っ!」

それを見たSP達が慌てて駆け寄ろうとするが、

パチンッ!

”将軍様”は指を鳴らし、

シャコンッ!

黒メガネ達は直ぐに銃を構えるとSP達に向かって一斉射撃を始めだす。

「ふっ、

 国民だとぉ…

 くだらない。

 国民などと言う者はこの世には存在しない。
 
 存在するのは我が僕だけだ

 この身の程知らずが」

葉巻からユラユラと煙を上げながらそう言うが、

ダダダダン!

別方向から銃声が響き渡ると、

「うわぁぁ」

「国防軍の特殊部隊だ」

叫び声を上げながら次々と黒メガネ達が倒れて行く。

「なにぃ!」

予想以外の事に”将軍様”の顔が怒り心頭になると、

「何をしている、

 撃ち返せ!!!!」

そう声を張り上げ、

ズダダダダン!!!

バリバリバリ!!!

たちまち豪華な調度品で溢れかえる別宅の中は戦場と化し、

逃げまどう政財界の重鎮達やスポーツ選手、

花柳界や芸能人達はその凶弾に倒れていった。



ゴゴゴゴゴゴゴ…

ふしゅるるるるるるる…

燃え盛る陽炎の中から白竜がゆっくりと見せると、

「なにっ!

 直撃だぞ、

 奴は不死身か」

半島から離れた大都市に聳える防衛軍大本営では

参謀部に詰めていた参謀達が驚きのあまりその腰を上げかけた。

そして、

「えぇぃ、

 何をしておるっ、

 もっと打ち込め!」

と命令をしたとき、

ダンッ!!

いきなりドアが蹴破られると、

”将軍様”配下の黒メガネ達が参謀部に飛び込み

「将軍様、万歳っ!」

と叫びながら、参謀達に向かって銃を乱射し始めた。

たちまち参謀部は阿鼻叫喚と化し、

「ちっ、

 将軍様に刃向かった罰だ!」

と捨てセリフを残し黒メガネ達は

建物を破壊するための高性能爆弾をセットして投げて去ろうとするが、

ガシャンッ!

入ってきたドアがいきなり閉じられてしまうと、

「なにっ」

「誰だ鍵を掛けたのは!!」

顔を青くしながら悲鳴を上げた。

それから一呼吸置いて

「出してくれぇぇぇぇぇ!!!」

と叫ぶ黒メガネ達の絶叫と共に

地響きを立てながら参謀部の建物は崩壊して行く。

人間達の醜い欲の争いが徐々に広がりを見せている中、

シュルルルルル

白竜に向けてさらに数発のN2が打ち上げられた。

だが、

ギロッ!

白竜の目が素早く動き、

丁度沖合いを航行している100万トンの超大型タンカーと

LPGを満載したタンカーを見つけるや否や、

クンッ!

その尻尾の先を動かす。

すると、

ザザザザ…

それぞれのタンカーを包む海水が動き

ズゴォォォォォ!!!

巨大なタンカー二隻はもの凄いスピードで空中を飛び、

白竜に向かってくるN2めがけて突っ込んで行く、

そして、その後方から白竜はプラズマ球を打ち込むと、

半島の上空で巨大な閃光が輝き、

瞬時に地上の空気は燃え尽きた。

地球を揺らす衝撃波とそれから生まれた莫大な熱が半島を覆い尽し、

銃撃戦が繰り広げられていた豪華な別宅は瞬時にして蒸発、

その場に居た者達は影も残すことなく消え去ってしまうと、

衝撃波が大都市に向かって襲いかかり、

電話が鳴り響いていたコールセンターはピタリと鳴り止んだ。

そして、その直後、コールセンターは砂の城の如く建物は崩れ落ちて行く。

甚大な被害は国防軍の指揮系統を麻痺させ、

ついに人間からの組織だった抵抗はなくなったのである。



シュワァァァァァァァ…

ゴハァァァァァァ…

一面の溶岩の海の中で不気味に聳え立つ白竜は笑みを浮かべると、

『フッハハハハハハハハ…』

笑い声を上げ、

『思い知ったか人間どもめっ』

とその赤い目を衝撃波が襲い煙を噴き上げる大都市へ向ける。

その途端、

『もうやめて、

 やめてください』

姫子の声が白竜の頭の中を響くと、

『海人っ

 海人ぉ』

姫子の声は弟を捜し始めた。

だが、

幾ら彼女が呼んでもその声に返事をする声は返って来なかった。

そして、白竜の足下で溶けかかっているクルマの車体の存在が判ったとき、

『……なんて事をしてくれたのよっ!!!』

と姫子の声は白竜をせめ始めた。

『何を言い出す、

 力が欲しいといったのはお前の方だ』

思わぬ内側からの抗議に白竜は言い返すと、

『弟を帰せ!!!

 弟を帰せ!!!
 
 弟を帰せ!!!』

そう言いながら泣き叫ぶ姫子の声は次第に大きくなり、

ビシッ!

ビシビシッ!!

白竜の身体に亀裂が入っていく。

そして、

ビシィ!

身体を引き裂くように大きな亀裂が入ると、

『…ごめんなさい』

姫子のすすり泣く声が響いた。



『よかろう…』

姫子のすすり泣く声が響く中、

白竜はそう呟くと、

『お前のその気持ちに免じて一つだけ願いを叶えてやろう。

 ただし、その望みを叶えるにはお前もそれ相応の負担をせねばならん

 さぁ願いと何をするのかを言え』

と話しかけた。

『え?』

その声に姫子の声は驚くが、

すぐに、

『みんなを、

 みんなを元に戻してください。

 そして、そのためには…

 あたし、困っている人を助けます』

と姫子は返事をした。

その途端、

シュワァァァァァァ!!!!!

白竜の身体から蒸気が立ち上りはじめ、

立ち上る蒸気は雲を作り、

命を失った大地に雨を降らせ始める。

すると、

ピクッ

「あっあれ?」

「何やっていたんだ?」

白竜の攻撃によって消え去った人々や生き物が姿を見せ、

溶け掛かっているクルマの脇では、

「姉ちゃん?」

海人は目の前に聳える白竜を見上げていた。

「海人ぉ!」

そんな海人に巫女装束姿の姫子が駆け寄ってくると、

「あれ?

 姉ちゃん…」

海人は焦点の合わない視線で姉・姫子を見つめ声をかけた。

そして、二人はヒシッと抱き合うと、

『望は叶えた。

 ではさらばだ、

 また会おう!』

聳え立つ白竜はその声を響かせながら、

光の塊と化し、

パァァァン!

7つの小さな光に分裂するとそのうち6個が四方八方へと飛び散り、

一つの星を宿す玉が姫子と海人の手元に残った。



こうして、全ては安寧に終わりを告げ、

白竜が降らせた雨によって全ての人々、

無論”将軍様”もその息子も蘇ったのだが、

しかし、この二人を待っていたのは莫大な訴訟であり、

彼らがかき集め気づきあげた財産は瞬く間に底を付いてしまったのであった。

その結果、跡地だけ残っていたはっぴぃランドや別宅の敷地は湊神社へと返され、

さらに小さいながらも新しい社が建て直された。

こうして湊神社の再建と時を併せて

破壊尽くされた半島の海岸には遠浅の砂浜が姿を見せると、

半島は海のレジャースポットへと様変わりして行く。

だが、その頃から姫子の様子に異変が生じるようになった。

ドクンッ!

「うっ」

巫女装束姿で神社の境内を掃除していた姫子がその箒を手から離すと、

その場に両手を付いた。

そして。

「うっ

 うふんっ

 あぁぁん…」

悶え苦しみながら喉仏を盛り上げていくと、

ジワジワジワ

色白の肌が見る間に赤銅色に染まり、

さらに、

メリゴリ

モリモリモリ!!!

厳つく筋肉を盛り上げていくと、

白襦袢の襟に手を掻け

「うっ!」

堪える声と共にそれを押し下げた。

すると、

白襦袢の下には横に広がる逞しい胸板があり、

さらにその胸板の下には割れて盛り上がる腹筋が顔を覗かせた。

「はっはっはっ」

息を整えながら姫子は来ていた巫女装束を脱ぎ捨てると、

グンッ!

盛り上がるイチモツを収めた鱗柄の競泳パンツが光を浴びる。

「海人ぉ、

 時間だからちょっと行ってくる」

セパレートタイプの水中眼鏡を手に掻け、

救命用ボードを掲げた姫子は社務所に居る海人に声をかけると、

「いってらっしゃい…」

半ば呆れ返りながら彼は筋骨逞しいライフセーバーとなった姉を送り出すと、

「竜を力を授けられたライフセーバーか…

 そりゃぁ、どんな奴で助けられる気も知れないけど、

 でも、白竜様っ

 あまり文句は言いませんが…

 なんで”野郎”なんですか?

 あんな姿じゃぁ…

 波打ち際の出会いは無さそうですよぉ…」

ご神体である星を宿す玉に向かって溜息混じりに文句を言うが、

しかし、その文句も彼女、いや、彼の神懸かりの活躍に次第に消えていったのであった。



おわり