風祭文庫・アスリート変身の館






「因果の行方」



作・風祭玲


Vol.672





ピッ!

真夏の空に笛の音が響き渡ると、

タッ

飛び込み台で構えていた選手達が

一斉に眼下の水に向かって飛び込んでいく、

「きゃぁぁ!!」

「頑張ってぇ!!」

「キャプテーン!!」

同時に周囲から一斉に歓声が上がると、

バシャッ

バシャッ

バシャッ

その声援に包まれながら女子水泳部キャプテン・青木渚は

一直線に前へと進んで行った。

「よしっ、

 身体が軽いっ

 今日は行ける!!」

数回のターンを行い、頭一つ前に出た渚は

水の確かな手応えを感じつつ最後のターンを行い、

一気に前へと躍り出た。

「キャプテーン!!」

「頑張って!!」

そんな渚をボルテージを上げた声援が後押しをする。

「あと少し」

「もうちょい」

「もぅちょっと」

段々迫ってくるゴールの壁に渚の全神経が集中し、

そして、

タンッ!

一番にその壁にタッチした。

「やった」

その瞬間、渚は一位でゴールしたことを確信すると、

「やったぁ!」

ガッツポーズをしながら大きく飛び上がった。



「よくやったな、青木」

「てへへ」

「すごいです、キャプテン!!」

「まぁね」

女子水泳部の監督はもちろん、

部員達からの祝福に得意満面となりながら、

「えへへへ…」

渚は県大会優勝の賞状を高く掲げた。

だが、

「渚ったら…」

そんな渚の姿を影から見ている1人の少女がいた。

佐々木和(ささき・ほのか)

…渚と同じ学年で同じ女子水泳部の彼女だったが、

 だが、大会出場を賭けた部内の勝負に敗れ、

 今大会ではずっと控えの選手のまま、

 この夏を終えようとしていたのであった。

「もぅ…

 何で渚が優勝なのよっ

 本当はあたしが優勝のはずなのよっ」

大地主の家に生まれ、

成績優秀・ウンチク女王を称号に持つ彼女が、

手八丁口八丁で生徒会を掌握し、

さらには各部活のキャプテンを兼任することで、

事実上、学園を支配していたのであったが、

だが、

ポッと出てきた1人の少女・渚に水泳部のキャプテンの追われると、

それを切っ掛けにまるで坂道を転げるかのように転落をし始め、

キャプテンとして支配していた各部活からの退部要請に、

生徒会からの追放、

さらには手懐けていた幼なじみの彼氏までもが去り、

そして、この大会の選手からも外されてしまったことに、

憎悪に似た感情を渚にぶつけていたのであった。

「ぐぅぅぅ!!

 あたしから何もかも奪い取った忌々しい女めっ

 どうしてくれようか」

指を噛みながら和は復讐心をメラメラと燃え上がらせる。

そして、

「キィィィ!!

 あの首をこの手で思いっきり掻き切ってやりたい…」

と殺意すら覚えていたのであった。

「てへへ…」

一方、和がそんな感情を抱いているともつゆ知らず、

その時の渚は有頂天になっていた。



カタン

ガサガサ

ごそごそ…

新月の闇夜…

「えっと、確かここに…」

口に小型懐中電灯をくわえた和は、

築100年はゆうに越すであろう、

巨大な蔵の中をあるものを必死になって探し回っていた。

くーん…

「しっ!

 あっち行ってなさい」

足下に寄ってくる愛犬のレトリバーを払いのけながら、

かつて一揆で押しかけてきた農民達を捕らえ

虐待したと言う地下牢に潜り込み、

「うーん…、

 確かここに…」

と頭を蜘蛛の巣だらけにして、

和は探しまくった。

そして、その甲斐あって

「あっコレかしら?」

ようやく見つけたのは

”サワルナ、キケン”

と墨で書かれた紙が貼られている

巨大な球形の物体の横に置かれた小さな箱であった。



トタトタトタ

箱を手に入れた和が早速自分の部屋に向かっていくが、

「そう言えばアレって…

 どこかで見たような…」

と箱の横にあった球形の物体にどこか見覚えのあることを呟いた。

とそのとき、

「おや、どうしたのかい?

 和」

と足音に気づいた祖母の早苗が声をかけてきた。

「おっおばあちゃま」

予想外の祖母の出現に和は慌てて箱を隠すと、

「ちょっと、捜し物をしていたの」

そう返事をして素早く部屋に入ろうとした。

ところが、

「おやっ」

早苗が何かに気づくと、

「え?(ギクっ)」

和の背中に冷たいモノが流れ落ちる。

だが、祖母は笑みを浮かべながら、

「おやおや、

 頭が蜘蛛の巣だらけですよ」

と指摘した。

「え?

 あぁ…
 
 そうね、蜘蛛の巣だらけね」

早苗の指摘に和は慌てて蜘蛛の巣を取ると、

「じゃぁ、

 お休みなさい。
 
 おばあちゃま」

と言い残して自分の部屋へと入っていく、



「ふぅ…

 おばあちゃまったら、気づいているのかな…」

部屋に戻った和は胸を押さえながらそう呟くと、

カタン…

蔵から持ってきた箱を机の上に置き、

そして、淡く光り輝く紐を徐に解いて、

ふたを開けると、

パァァァ…

中から光り輝くバトンが姿を見せた。

「ふふっ、

 これだわ…

 おばあちゃまの魔導具……」

それを手に取り、和はニンマリと笑みを浮かべた。

そう、和の家系は隔世で魔術に長けた者が生まれる家系であった。

そして、祖母・早苗は少女時代、

遠くグァムからこの街の上空に襲来したB29の大編隊に

白と黒の稲妻を従えながら襲いかかり、

稲妻の力で機内に満載されている焼夷弾を誘爆させて、

瞬く間にB29を巨大な火の玉にしてしまうと、

乗務員に脱出させる暇を与えずに躊躇いなく蹴り落した。

こうして出撃機500、帰還機0と言う未曾有の大損害を連合軍に与えた早苗の功績は

”神風現る”と人々に言わしめたたのであった。

さらに連合軍を震撼させた事件が終戦間際に発生したのであった。

それは1945年8月13日、

3発目の原子爆弾を搭載したB29が、

"富士が見えた、ただ今より右に旋回する”との交信を最後に消息を絶ち、

戦後、まるでつなぎ目から剥がされかのように

粉々に解体された機体が多摩丘陵で発見されたのであった。

だが、肝心の原爆の姿は何処にもなく、

また、日本側にもこのB29を撃墜した記録は無かった。

3発目の原爆は何処に行ったのか、

未曾有のこの不祥事に慌てた連合軍は3発目の原爆の記録を抹消し、

そのような爆弾は無かったことにしてしまったが…



「おやおや…

 いけませんねぇ

 やっぱり原爆は身をもって体験しないといけませんかしら」

核保有を高らかに謳い、挑発的なアナウンスと共に

TVから流れる斜め上の国の軍事パレードの映像を見た早苗はそう呟くと、

チラリとさっき和が出てきた蔵を見据える。

その一方で、

「くふふふ…

 あたしもしっかり受け継いでいるはずよ。

 おばあちゃまの力を…

 見せてあげるわ、あたしの恐ろしさを…

 渚ぁ…見てらっしゃい。

 明日であなたはこの世から消えて無くなるのよぉ

 くふっ
 
 くふっ
 
 くふふふふふふ…」

和の不気味な笑い声はその夜、

いつまでも続いていたのであった。



ピピーッ!

女子水泳部に休日は無い。

無論、夏休み中でも…

ピッ!

タンッ!

バシャッ!

昨日の大会で優勝したにもかかわらず渚は泳いでいた。

「キャプテーン

 少し休んだらどうです?」

水から上がった渚に部員達がそう声をかけるが、

「休むってぇ?

 あたしが?」

大会の時と同じハイレグの白アシを光らせながら、

渚は返事をする。

「はぁ、渚に何を言っても無駄よね」

「ほんとほんとほんと」

そんな渚に同じクラスの友人が諦めに似たことを言うと、

「へへーん、

 なんて言ったってあたし、
 
 泳ぐことが大好きだから!」

渚はそう返事をするなり、

「よーしっ

 もぅ一泳ぎするかっ」

と威勢良く声を上げた。

だが…

「ぐふふふふ…

 もぅ一泳ぎするですってぇ…
 
 いいわ、

 いいわよ渚ぁ

 その泳ぎがあなたの最後の泳ぎになるのよ」

ザンッ!

まるでアニメから飛び出してきたような

フリルをあしらった服を身につけ、

目に大きな隈を作り、

蔵から持ってきたバトンを手にした和が

物陰から渚達を見上げそう呟く。



「うひひっ

 今日であの小生意気な奴の顔を見るのが終わると思うと、
 
 晴れ晴れしいわ…」

真上から照りつける直射日光に当てられたのか、

フラフラとしながら和はそう言うものの、

しかし、その顔色は明らかに土気色であり、

体長は最悪の状態を指していた。

「はぁはぁ

 夕べ、アレコレ考えて寝なかったのがまずかったみたいね。

 とにかく魔法を…

 えっと、なんだっけ…
 
 たしか…」

フラフラしながら和は手にしたバトンを掲げ、

そして、呪文を書き記したアンチョコを片手に、

バトンを振り回し始めた。

「うふっ

 うふふふ…

 さようなら、渚…
 
 あっだめっ

 気を失っては…

 もうすぐ、

 もぅすぐよ、あたしに光が…
 
 もっと、あたしに光を…
 
 あぁ、あたしはNo1よ」

そう思いながら和は呪文を高らかに謳い、

そのまま意識を失ってしまったのであった。



ビクッ!

「え?」

その直後、

渚は一瞬、自分が着ている白アシが動いたことに驚くが

「気のせいか?」

と思いスタート台へと向かい、

そして、

バシャーン!!

渚の飛び込む音が響き渡った。

バシャッ

バシャッ

バシャッ

「くーっ

 今日も絶好調!!

 やっぱ気持ちいいわ…」

水を得た魚のように渚は泳ぎ始めた。

そして、丁度プールの真ん中に来たとき、

ビリッ!

泳ぐ渚の身体を電撃のようなモノが走った。

「きゃっ!」

突然のことに渚は悲鳴を上げ、

そして、その場で止まってしまうと、

「あれ?」

「どうかしたのかな?」

渚の泳ぎを見ていた部員達の目が一斉に渚へと向けられた。

「なっなに?

 いまの…
 
 なんか電撃に打たれたような」

ピリピリ

と痺れが残る自分の体を渚は見ていると、

シュルッ

シュルシュル…

渚が身につけていた白アシが縮み始めた。

「え?

 うそっ」

身につけている水着が縮んで行く…

あり得ない出来事に渚は驚くが、

だが、

プチッ!

シュルルルルン!!

肩ひもが切れるのを合図にして、

白アシは一気に縮んでしまい。

プルン!

日に焼けていない渚の白い乳房が表に飛び出してしまった。

「いやぁぁ!」

それを見た渚は慌てて胸を隠すが、

シュルシュル

シュルシュル

白アシはさらに縮み、

ついには男子用の競泳パンツと同じ形になってしまった。

「いやいやっ

 なんで…
 
 どうして…」

白アシが競泳パンツになってしまった事に渚はパニックに陥りながら、

露出した胸を押さえ立ちすくんでしまうが、

渚の変化はそれだけにとどまらず、

シュルルン…

手で押さえた乳房が急速に萎んでしまうと、

その弾力を失い、

それとは対照的に体中の筋肉が大きく発達をしはじめた。

「うぐげぇっ

 なっな゛に゛」

突き出てくる喉仏を押さえながら、

渚は身体の変化に耐える。

とその時、

急に股がムズムズしてくると、

クリストスが渚の割れ目から飛びだし、

キノコのように伸びはじめ、

競泳パンツとなった白アシを下から持ち上げ始めた。

「ひぃぃぃ!」

膨らんでくる股間に渚は悲鳴を上げるが、

その間にも手足が伸び、

さらに盛り上がった体中の筋肉が鎧のように硬く引き締まっていく、

胸のふくらみは既に筋肉に飲み込まれるように消え、

白アシの中のクリストスはペニスに変化し、

睾丸も飛び出てしまった。

「ねぇねぇ、

 キャプテンの身体…なんか、男の人みたくなってない?」

プールの中の渚の変化を見ていた部員からそんな声が漏れ始める。

そして、皆が注目する中、渚は男になってしまったのであった。

そして、そのことを知ることが出来なかった和は…

「せっ先生!

 誰かが倒れています!!」

意識を失い倒れている姿を登校してきた生徒に見つけられると、

そのまま救急車に乗せられ歯込まれていったのであった。



「きゃぁぁぁ!

 青木さぁぁん!!」

新学期、

恥ずかしそうに男子の制服を着る渚を女子生徒が追いかけていく、

「やめろ、

 来るなよ」

そんな彼女達を渚は追い払おうとするが、

「あのっ

 これを…」

「あぁん、

 あたしのも受け取ってぇ」

「青木さん、

 男の人になってあたし嬉しい」

「ねぇ、付き合ってぇ」

渚の事情に構わず女子生徒達はもてはやす。

そして、

「え?

 停学ですか?」

進路指導室に呼び出された和に向かって、

学年主任からある処分が伝えられたのであった。

「なっ納得がいきません!

 何でです!」

手入れの行き届いた長い髪を振り乱しながら和は問いただすと、

「それは、君の胸に聞いてみなさい」

と同席している数学教師が指摘する。

「え?」

彼の指摘に和は驚くと、

「期末テスト、

 カンニングしたね」

と徐に告げたのであった。

「なんですってぇ」

「ふふっ

 証拠は挙がっているのだよ。

 夏休み中、
 
 君の机を調べさせて貰ったところ、

 机の表面にびっしりと書き込みがしてあったよ、
 
 無論、特殊なメガネで見ないと見えない文字でね

 普段、メガネをかけない君が

 テストの時だけメガネをかけるのでおかしいとは思っていたのだよ」

「まったく、夏休み中、

 変な格好をして学校に来て警察沙汰を起こすし、

 君は我が校の恥だよ」

「くぅぅっ」

女子生徒に追われる渚が逃げまどう中、

和は悔し涙を流し続けていたのであった。



おわり