風祭文庫・アスリート変身の館






「真樹夫の願望」



作・風祭玲


Vol.603





『真夏の怪事!』

『高校水泳部員・集団性転換!』

『顧問の目の前で次々と女性に』

『プールの水からは原因物質は検出されず』

『首を捻る関係者達』

『衝撃!その瞬間を私は見ていました』

「………」

朝の教室で衝撃的なゴシップが並ぶ週刊誌を井下真樹夫は捲っていると、

「あっ三瓶さーん」

と女子の声が教室に響き渡る。

「え?」

その声に真樹夫は顔を上げると、ちょうど教室の前のドアから

夏服のセーラー服に身を包んだ男子生徒を思わせる

短髪の少女が教室に入ってくるところだった。

「三瓶…」

その姿に真樹夫は雑誌を閉じ、

そして、少女の名前を呟くと、

「退院したんだ」

「女の子になっちゃったってホントだったんだ」

「うん、かわいいよ」

と先週まで男子だった彼女の周りにクラスの女子達が集まり話しかけてくる。

「うっうん、

 大丈夫だよ、

 心配掛けてごめんね」

その言葉に彼女(?)はややハスキーな声を上げて返事をすると、

「いいよ、別に」

「でも、大変だったんじゃない?」

「ところで、スカート馴れた?

 まだ、履き慣れてないみたいだけど」

「え?

 まっまぁ…」

彼女たちの指摘に膝上丈までしかないスカートを恥ずかしそうに手で押さえながら、

優子となったかつての勇輔は返事をする。

そして、女子達の囲みを抜けると、

今度は遠巻きにしていた男子達がよって来るなり、

「よぅ、どうだ?

 女になった感想は?」

「うわっ

 胸デカイ…」

「はぁ…

 マジで女になったんだなぁ」

と今度は男子達が口々に話し開けてきた。

「女の子になっちゃったか…」

そんな優子の姿を集団には加わらずに真樹夫は呟き、

そして、

シュッ

シュッ

いつの間にか股間で勃起しているイチモツをズボンの上から扱いていた。



ピッ!

バシャン!!

あの事件以降、閉鎖されていたプールだったが、

しかし、保健所や各関係機関の調査の結果、

問題なしであることが証明されたため、

再び水飛沫が上がり、いつもの状態に戻っていた。

ピッ!

スタート台に紺地に黄色のストライプ模様が入る競泳水着が横一列に並ぶと、

ピッ!

笛の合図で一斉に水の中へと飛び込む。

程なくして、

そのスタート台に女子の競泳水着に身を包んだ優子が

同じように女性に性転換した元・男子部員達と共に立つと、

追って水の中へと飛び込んでいった。

「…(トクン)…

 いいなぁ…」

「…(トクン)…

 女子の水着が着られて…」

プールを泳ぐ優子達を放課後の教室の窓から真樹夫は眺め、

そして、無意識のうちにまた股間を扱いていると、

「あれ?

 井下君?」

誰もいない教室にクラス委員の甲高い声が響き渡った。

「!!っ」

その声に真樹夫は慌てて振り返と、

「どうしたの?

 おっかない顔をして…」

真樹夫の形相に委員は驚きながら尋ねてきた。

「いっいや

 別に…
 
 何でもない…」

クラス委員が自分がしていた行為に気づいていないことを悟った真樹夫は

言葉短めにそう返事をすると鞄を取るなり教室から出て行ってしまった。

「変な奴…

 まぁ元々からだけど…」

そんな真樹夫の後ろ姿を見送りながらクラス員はそう呟き、

そして、さっきまで真樹夫が居た窓際によると、

「はぁ…

 夏休みまであと少しか…」

と西に傾いた日差しを見上げた。



ザワザワ…

あれから1時間後、

真樹夫は駅前にあるスポーツショップの売り場に立ち、

スピーディでカラフルな女子用の競泳水着がずらりと並ぶ壁を一人見上げていた。

オリンピックの金メダル効果だろうか、

あの夏以来、

毎年夏になるとスポーツショップの壁には女性用競泳水着がよく並ぶようになっていた。

そして、股間を覆うだけの男子用の水着にはない

包み込まれるような、身体の線を誇張する女子用の競泳水着のその魅力に

真樹夫は惹かれていたのであった。

「………」

水着を見上げながら真樹夫は1時間前に見たあの光景を思い出していた。

「……こんな…

 水着を着て…
 
 みんなの前で泳いでも誰からも何も言われない…
 
 三瓶くんがうらやましい…」

視線で一つ一つの水着を追いかけながら真樹夫は呟いていると、

スッ

理性で押さえていたはずの手が勝手に動き、

そのうちの一着に手を掛けてしまった。

その時、

「お決まりですか」

と真樹夫の後ろから声が掛けられると、

「え?」

その声に真樹夫は驚き振り返った。

すると、自分の真後ろにはそのスポーツショップの女子店員が立ち、

ニッコリとほほえみながら真樹夫を見ていた。

「え?

 あっ
 
 いやっ
 
 その…
 
 こっこれをください」

その時の場の勢いだろうか、

真樹夫は喉をカラカラにして手にしていた競泳水着を差し出しながらそう言ってしまうと、

「はいっ」

店員は表情を変えずに返事をする。



「ありがとうございました」

店員の声に送られながら真樹夫はスポーツショップから飛び出すと、

「どうしよう、
 
 水着、買っちゃったよ」

と呟きながら逃げるようにして走り去り、

そして気がついたときには、

真樹夫は学校の正門前に立っていた。

「ハァハァ

 ハァハァ
 
 どっどうしよう…」

胸の動悸を押さえながら真樹夫はそう呟いていると、

パシャッ!

どこからか水の音が響き渡り、

それが真樹夫の耳に届いた。

「…!!っ」

すると、その音に背中を押させるようにして真樹夫は決心をすると

校門を抜け、ある場所へと向かっていく。

やがて、真樹夫の前に姿を見せたのはあの水泳部の部室だった。

ガラ…

女子更衣室の鍵は掛かっていなかった

誘われるように真樹夫はドアを開け、

日が落ちすっかり暗くなった部室へと入って行く。

フワッ

更衣室内に立ちこめている湿った塩素の臭いと

甘い少女達の汗の臭いが混ざった中を真樹夫は歩き、

そして、目に付いたロッカーの前に置いてあるベンチに自分の荷物を置いた。

「ハァハァ

 ハァハァ」

荒い息をしながら、

しばし立っていたが

しかし、

ゴクリ…

真樹夫は生唾を飲み込むと、

シャツのボタンをはずし始めた。

そして、着ていた全ての衣類を過ぎ捨ててしまうと、

買ったばかりのあの競泳水着が入った包みを取り出し、

その包みを開けると、

キラッ

外の灯りを受け妖しく輝く水着が顔を出す。

「僕は…

 水泳部員…
 
 いまからこれをここで着るんだ…」

手にした競泳水着を見つめながら真樹夫はそう呟くと、

そっと、水着に足を通す。

ピタッと肌に張り付くような水着の感覚が下半身から上半身へと移動し、

そして、それが肩まで着たとき、

ゾクッ

と痺れる感覚が真樹夫の身体の中を突き抜けて行った。

「あぁ…

 僕は…

 女子の水泳部員だ…」

その感覚の中、真樹夫は自分自身を抱きしめながら、

女となり女子用の競泳水着を着た勇輔の姿を思い浮かべると、

そのまま、後ろのロッカーへと寄りかかる。

その時、

コトン!!

そのロッカーの上で何かが転がる音が響き渡ると、

パシャッ!!

いきなり真樹夫の頭の上から液体が降りかかってきた。

「うわっ!」

突然浴びせられた冷たい液体に感覚に真樹夫は尻餅をついてしまったが、

しかし、こぼれ落ちた液体は真樹夫の上半身を滑るように走り、

シュワァァァ…

見る見る蒸発してゆくと、

1分も経たないうちに全て消えてしまった。

「なっなんだ?」

蒸発後も残る

ピリッ

ピリッ

と痺れるような感覚が走る肌を見つめながら真樹夫は首をひねりながら、

クン…

肌の臭いを嗅いでみる。

しかし、肌からはアルコール臭もアンモニア臭もなく、

淡いバラの香りに似た臭いが微かに鼻腔を刺激する。

「香水?」

ここが女子更衣室であることを真樹夫は思い出すと、

掛かったこの液体は香水か…と判断するが、

しかし…

ボコン

突然、何かが飛び出したような音と共に

軽いショックが身体を走ると、

続いて

スーーー

と空気が入っていくような音が響き、

ムリムリムリ…

見る間に真樹夫の胸が重みを増しはじめてきた。

「んあ?」

そのことに真樹夫はびっくりしながら立ち上がると、

ユサッ!

水着に覆われた真樹夫の胸には女性のようなバストが盛り上がっていた。

「うっ

 うそっ」

視界に入る左右2つの膨らみに真樹夫は驚いていると、

「あっ」

いつの間にか股間から男のシンボルが消え失せ、

股間は縦に溝を刻んだなだらかな曲線を描いていた。

「そんな…

 本当に…女の子に…」

股間の縦溝を指先でなで回しながら

自分が水着姿の女性へと変身してしまったことに真樹夫は驚くが、

それよりも自分も性転換してしまったと言う事実に

「おっ女の子!!」

真樹夫は嬉しさのあまりそう叫ぶと、

イソイソと更衣室から飛び出し、

水着姿のままそのままプールへと向かっていく、

そして、月明かりに光る水面に女性化した自分の姿を映し出すと、

「……」

そこに映し出される自分の姿を抱きしめるかのように

真樹夫は水の中へと飛び込んでいってしまった。



そして、翌日…

「誰?」

「新入部員らしいよ」

「女子?」

「うん…だけど何処のクラスなのかな?」

「さぁ?」

水泳部員達に混じって水しぶきをあげる水着姿の真樹夫を余所に、

ガチャガチャ

女子更衣室で見付かった謎の液体が入った小瓶を納めた箱が持ち出され、

そのまま、どこかへと運び去られて行った。



おわり