風祭文庫・アスリート変身の館






「水着の罠」



作・風祭玲


Vol.602





バシャ!

バシャ!

バシャ!

梅雨が明けたばかりの夏空の元、

空の中央に太陽を抱くその空を映し出す水面に水しぶきが上がり、

プールの中に折れ線グラフを描くようにして6名のスイマーが速さを競う。

そして、周囲から響く声の中、

大きく伸びたグラフの先端がプールの端をタッチをした時点で

この競い合いは終わりを告げた。



「岡田ぁ、

 お前、

 またタイムが落ちているぞ!!」

先頭のスイマーが到着してから二呼吸置いて

ようやくタッチすることが出来た岡田俊平に向かってその声が浴びせられると、

「くっ」

屈辱に満ちた表情で俊平は顔を上げ、

「おしっ!!(バシャッ!)」

堂々の1着で到着をし、

手応えを一人感じている三瓶勇輔を睨み付ける。

すると、

「なんだ、

 どうした返事は!!

 黙っていたんじゃ判らないだろう。

 そんなことじゃ

 今度の大会からのメンバーから外れて貰うことになるぞ」

注意への返事を返さない俊平に向かってコーチは怒鳴り声を上げるが、

「………」

肝心の俊平は何も言わずに水から上がると、

タオルを取るなりスタスタと更衣室へと行ってしまった。

「おい、岡田」

「よせ」

彼のその行動にほかの部員が追いかけようとするが、

スグにコーチが止めると、

「次ぃ!」

と声を上げた。



ガンッ

「くっそぉ」

翌日の放課後、

水泳部の更衣室に入った途端、

俊平は思いきりロッカーをけ飛ばしていた。

俊平自身、

いま自分が大会を控えてスランプに陥っていることは十分に判っていたし、

このところ、1年後輩の三瓶勇輔がメキメキと力を伸ばしてきていることも、

俊平にプレッシャーを与えていたのであった。

「駄目だ

 駄目だ

 駄目だ」

俊平は自分の頭をくしゃくしゃにしながらそう叫ぶと、

ガァァン!!

ひときわ大きくロッカーを蹴り上げた。

すると、

トン!

コロコロコロ…

ロッカーの上から何か転がる音が響き渡り、

カオンッ!

小さなな瓶が上から降ってくると、

ボトッ!

俊平の足下に落ち、転がり寄って来る。

「ん?

 なんだこれは…」

足下に転がってきた瓶を俊平は手に取ると、

クルリと瓶を一回転させる。

それは青い色をした薬の小瓶で

中に液体らしきものが入っていた。

そして、

「化学部…雪城…んー

 名前はかすれて読めないなぁ…」

俊平は瓶に貼ってあるラベルに

人の名前らしきものが記載されていることに気づくと、

それを読み上げてみるが、

「光・お仕置き用・超強力性転換薬」

とラベルの下に書いている効能を読み上げた途端、

「光・お仕置き用・超強力性転換薬…ってなんだこれは?」

俊平は驚きながら首を捻り

「ん?

 そう言えば…

 何年か前に卒業をした先輩にマッドな女子生徒が居た。

 って話を聞いたなぁ…

 確か、雪城ナントカって言う子で、

 仲の良い同じクラスの女の子や後輩の女の子を材料に

 人には言えない、いろんな人体実験をしたとか…

 と言うと、この薬もその人体実験に使った薬というわけか…

 ふーん、
 
 超強力性転換薬って言うからには
 
 やっぱり女を男にしたり、
 
 男を女にしたりする薬ってことだよなぁ…
 
 いったい、どんな実験をして…
 
 ん?
 
 待てよ、
 
 男が女になる。ということは、
 
 当然、身体は女と同じになるわけだよなぁ
 
 女にされてしまうと…
 
 タイムは女と同じ時間になる…そうか…
 
 …………チャーンス(ニヤ)…」

と薬瓶を片手にある企てを思いつくなりニヤリと笑う。

そして、

サッ!

サッ!

更衣室の中に自分以外誰もいないことと、

勇輔のバッグがいつものところに置いてあることに気づくと、

「悪く思うなよ」

と一言呟きながら

ジャーッ

俊平は勇輔のスポーツバックのチャックを開けた。

そして、その中よりいつも彼の股間を多う小さな布…

そう、濃紺地に黄色の斜線が入った競泳パンツを取り出すなり、

ポンッ!

と瓶のふたを開け、

その競泳パンツに向けて

自分の手に掛からないよう中の液体を垂らし始めた。

ポトポト

ポトポト

無色無臭の液体が瓶の口よりこぼれ落ち、

競泳パンツの上に黒い染みを作っていく。

「よしっ

 コレでいい…」

こぼれ落ちた液体を含み、

湿っぽくなってしまった勇輔の競泳パンツを指先でつまみながら

俊平はそう判断すると、

ササッ

性転換薬を含んだ競泳パンツを勇輔のバッグに戻した。

そして、俊平が勇輔のバッグを元あったところに戻し終わるのと同時に、

ガラッ!

更衣室のドアが開き、

「岡田先輩っ

 来ていたのですか」

と室内に俊平が居ることに驚きながら勇輔が更衣室に入ってきた。

「え?(ドキ!)

 あっあぁ…」

あまりにものタイミングの良さに俊平は

思わず飛び上がりそうになったが、

それを必死で堪えながら平静さを装うと、

「今日も暑くなりそうだな」

とはぐらかした。

「え?

 そうですねっ
 
 梅雨も明けましたからね
 
 いよいよ本番ですよ」

俊平の言葉に勇輔は相づちを打ちながら、

更衣室に置いてあったあの自分のバッグを取り出し、

「あの、

 さっき、コーチから聞いたんですけど、

 今日、今度の大会に出るメンバーを選抜するそうです」

と勇輔は水泳部コーチより

今日、大会に出場する選手の選抜が行われることを告げる。

「へぇ、そうか、今日なのか」

勇輔の言葉に俊平はわざとらしく演技をしながら返事をすると、

自分のバッグの中をまさぐり始めた勇輔の手の動きを注視する。

そして、あの競泳パンツを取り出すのを見るなり、

「(ニヤ…)」

俊平の顔に笑みが浮かび上がるが、

「あれ?

 なんだこれ、
 
 濡れている…」

と勇輔は自分の競泳パンツが湿っていることに気づき声を上げた。

「(しまった)

 どっどうした?」

せっかくの計画が破綻する…

そう焦りを感じながら俊平は理由を尋ねると、

「困ったなぁ…

 昨日使った競パンを持って来ちゃいました」

と勇輔は手にしている競泳パンツが昨日穿いたものと勘違いしたらしく、

苦笑いをしながら手にしている競泳パンツを掲げて見せた。

「そっそうか、

 ほっ他のはないのか?」

「あぁ、持ってきてないんですよ、

 参ったなぁ…」

「そうか、

 どっどうする?」

「仕方がないです、

 これを穿きます。
 
 どうせ濡れるんですし」

緊張しながら一言一句喋る俊平に対して、

謀をされていることに気づいていない勇輔は

あきらめの表情をしながら制服を脱いでゆくと、

ススッ

キュッ!

性転換薬が染みこまされている競泳パンツを引き上げた。

「(やったぁ!!!)」

それを見た俊平は喜びの表情を思わず出してしまうと、

「あれ?

 先輩、何が嬉しそうなことがありました」

と勇輔はすかさず指摘する。

「え?

 いやっ
 
 まっそうだな…

 まぁ、お互いにがんばろうや」

勇輔の指摘に俊平は慌てながらサッサと着替えると、

「じゃっ

 先行くよ」

と言い残して更衣室から飛び出し、

プールサイドへと向かって行った。



ピピーッ!!

程なくしてプールサイドに笛の音が響き渡ると、

「よーしっ

 今日、今度の大会の選抜を行うからな」

と水泳部コーチの声が響き渡り、

早速、全部員が参加しての”選抜”が開始された。


ピッ!

ザザザザーン…

笛の音と共にスタート台に立つ水泳部員達は一斉に飛び込み、

己の持つ力を全て出して勝負に挑む。

そして、そんな部員達の姿を俊平は応援しながらも、

勇輔からつかず離れずの位置に居て、

彼の変化を見守っていた。

「本当に性転換するのか?」

最初は半信半疑だった俊平だったが、

ピクッ!

「ん?」

露わになっている勇輔の乳首が小さく動き、

そして、その周囲が膨れ始めていることに気づくと、

「(おっおいっ、マジかよ)」

と思わず驚いてしまった。

そして、

乳首の周りを掻き始めだした勇輔に向かって、

「ん?

 どうした?」

と平静さを装いながら尋ねると、

「あぁ…

 さっきから急に…
 
 なんかムズ痒くなってしまって…

 虫にでも刺されたかな?」

そう言いながら、

爪先で小さな膨らみを作り始めた胸を引っ掻いていた。

「(ふふっ

  マジで女になるのか…勇輔の奴)」

そんな姿を横目で見ながら俊平はほくそ笑んでいると、

「次っ!!

 岡田、三瓶、島田、工藤、迫川!」

とコーチは俊平や勇輔の名前を呼んだ。



「三瓶クンっ

 がんばって!」

スタート台に立つ勇輔に向かって1年はおろか、

3年の女子部員からも応援の声があがると、

ニコっ

それに応えるように勇輔は笑みを浮かべる。

「(ふふっ

  そうやって、愛想を振りまいているのもここまでだよ
  
  泳ぎ終わったらお前はあそこでキャーキャー騒ぐ側になって居るんだからな)」

そんな勇輔の姿を見ながら俊平はそう思っていると、

ピッ!

いきなり笛の音が響き渡った。

「え?

 あっ!」

その音に俊平が慌てたとき、

スタート台に立つ他の者達は

ザン!!

と水飛沫を上げプールの中に消えていた後だった。

「畜生!!」

ザブン!!

出遅れたことを悔やみながらワンテンポ遅れ俊平は飛び込むが、

しかし、その差を縮めることは容易ではなかった。

ザッ

ザッ

ザッ

そんな俊平の事情など知ることもなく、

勇輔は先頭を切って泳ぎ続けるが、

しかし、

ムリッ

ムリムリムリ…

そんな彼を容赦なく競泳パンツに染みこまされた薬は侵して行き、

プルンッ

2度目のターンの時、

両胸からたわわに実った乳房が飛び出すと、

キュッ!

ウェストが括れ、

ヒップが張り出していく、

そして、テントを作っていた股間からその陰が消え失せてしまうと、

次のターンの時には一直線に走る縦筋が競泳パンツに浮かび上がった。

「うっ

 なっなんだ…
 
 急に水の抵抗が…」

女性化が進行し、筋力が失われるにつれて、

勇輔のスピードはみるみる落ち、急ブレーキが掛かる。

そして、そんな彼の横を次々と他の者が追い抜いて行き、

やがて、一番最後の俊平が追いついたとき、

「(勇輔の奴、すっかり女になってやんの…)」

女性化し、筋力が落ちて喘ぎながら泳ぐ彼の姿を

俊平はあざ笑いながら追い抜きにかかるが、

その直後、

「(あれ?

  他の奴も遅くなっているじゃないか)」

と先を泳ぐ者達のスピードが落ちていることに気づいた。

「(ふふっ

  何かは知らないけど、
  
  これはラッキーだ)」

事情がわからない俊平はスピードを落とさず、

次々と追い抜き、次のターンの時にはなんと先頭に立ってしまった。

「(やったぁ!)」

苦戦する者達を追い抜き俊平が先頭を泳ぎ始めると、

ムリムリムリ!!!

今度は俊平にも異変が襲いかかってきた。

しかし、

「(ふふっ

  俺が一番だ、
  
  そうだ、俺が一番は早いんだぁ!!)」

先頭を泳ぐ俊平は嬉しさのあまりそれに気づくことなく、

タン!

先陣を切ってゴールの壁を叩くのと同時に、

「やったぁ!

 気持ちいい!!」

と叫びながら、

プルン!!!

大きく膨らんだ乳房を周囲に晒しながら飛び上がると、

「え?」

その時になってようやく俊平は自分の身体に起きた異変に気づき、

その直後、

「いや〜〜ん」

プールの中に艶めかしい少女の声が響き渡った。



「なぁ、聞いたか?」

「聞いた聞いた、

 真夏の怪事…
 
 水泳部謎の集団性転換事件」

「あぁ、泳いでいた男子部員がいきなり女になっちまったんだろう」

「怖ぇーなぁ」

「病気とか呪いとかいろいろ言われているけど、

 原因はさっぱりわからないとか」

「あぁ、プールの中でいったい何が起きたのか」

「うむ、謎が謎を呼ぶとはこのことだな…」

「で、女になってしまった部員はどうして居るんだ?

 病院送りか?」

「いやっ、

 ほらっあそこにいるよ、

 骨太でゴッツイ女が…」



「くっそぉ…

 彼奴の競パンに染みこませた性転換薬がしみ出していたのか…」

膨らんだ胸を夏服のセーラー服に押し込め、

膝上丈のプリーツ・スカートを揺らしながら俊平は歩いていくが、

しかし、その姿は女子生徒と言うにはほど遠く、

どう見ても女装をした男にしか見えなかった。

すると、

「おはようございます、

 先輩」

の声が響き、

その声に俊平が振り返ると、

「(ニコッ)」

彼、いや彼女の後ろには身長は高いものの、

出るところは出て、

引っ込むところは引っ込んだ同じ制服姿の少女が立っていた。

「なんだ、三瓶か…」

あまりにも落差のある二人並んでいると、

「やだぁ、

 オカマよ、オカマ」

「知らないの、

 ほらっ、性転換をしたっていう水泳部員よ」

「うわぁ気持ち悪い…」

「女になるにもあれではなぁ…」

と周囲を行き交う同じ学校の生徒からそんな声が漏れる。

「うっ」

その声に恥ずかしさを感じたのか、

思わず俯いてしまった俊平にさらに突き刺るように声が響き、

そしてついに、

「うっうっうっ

 もぅいやぁぁ!!」

その声に負けてしまったのか、

俊平は涙を流しながら逃げだしてしまった。

「くっそう、

 こんなコトになるのなら、
 
 あんなコトをしなければよかったぁ」

と言う悔やみの言葉と共に…



おわり