風祭文庫・アスリート変身の館






「チャンピオン」


作・風祭玲

Vol.1022





巨大なホールを埋め尽くす大勢の観客。

その観客達の視線の先では煌々とライトに照らし出された四角いリングがその存在を誇示し、

まもなく始まる世界チャンピオン対挑戦者の死闘を静かに待っている。

興奮と熱気のるつぼと化している試合会場の奥に世界チャンピオンと挑戦者の控え室があり、

挑戦者の控え室には試合を前に自信と緊張の双方が入り交じった顔を見せる挑戦者と、

彼をここまで鍛え上げてきたトレーナーやその支援者達が集まっているのに対し、

周囲を厳重に警護された世界チャンピオンの控え室には肝心のチャンピオンの姿はなく、

それどころかこの控え室にはトレーナー達の姿も全く見えない無人の部屋となっていた。

さて、その無人の控え室からさらに奥まったところに人目に付かない倉庫があるのだが、

「ちょっちょっと、

 なんですかっ、

 あなた達は!」

数人の男達の手によって一人のラウンドガールがその倉庫に連れ込まれると

有無も言わさず押し込められていく。

「やめてくださいっ

 人を呼びますよ」

倉庫に連れ込まれてもなおも気丈に振る舞うラウンドガールは、

前座ともいえるエキジビジョンマッチでのラウンドガールを勤め、

試合終了後、

更衣室にてハイレグのコスチュームから着替えようとした矢先、

この男達によって拉致され倉庫へと連れ込まれたのである。

「暴れるなっ、

 おとなしくしろ」

抵抗するラウンドガールに向かって男は威嚇するような声を上げて彼女を羽交い締めにすると、

「このぉ!

 はっ離せぇぇぇ」

彼女はありったけの力を使って暴れ始めた。

「おいっ、

 きちんと押さえろ」

「判っているが、

 いてて!!!」

ラウンドガールが履いているヒールの足を踏まれ、

さらに膝蹴りを食らった男は声を荒げると、

「はっはっはっ、

 なかなかの暴れ馬ですな」

と別の男の声が響いた。

「あっぼっボス!」

その声に男達は驚くと、

閉じられていたはずの倉庫のドアが開かれ、

廊下の明かりをバックにして葉巻を口にする一人の男が立っていた。

「何を手こずっているのです?

 試合開始のゴングまで時間がないのですよ」

プハァ〜っ

と煙を吐きながら男はそう尋ねると、

「はっはいっ」

ラウンドガールを連れ込んだ男達は緊張した声で返事をしてみせる。

すると男達は無理矢理ラウンドガールの口をこじ開け、

その中に何かを放り込むと、

グイッ!

っと喉奥へと押し込んで見せる。

そして、

「うぐっ、

 (ごくん)」

彼女がそれを飲み込んだのを確認すると、

「よしっ、後はチャンピオンに任せてこの場を早く離れるんだ」

男達はラウンドガールを突き飛ばされるようにして解放して素早く脱出して行った。

「ゲホゲホ

 あっあなた達、

 いっいま何を飲ませたの?」

得体の知れぬ物を飲まされたラウンドガールは喉を押さえながら立ち上がると、

閉じられたドアに向かって駆け寄ろうとするが、

ドクンッ!

突然、彼女の心臓が高鳴ると、

ドクン、

ドクン、

力強く鼓動を始め、

それと同時に、

「ぐはっ、

 あっ熱いっ

 熱いよぉ!!!」

まるで灼熱地獄の中に突き落とされたかのような熱さがラウンドガールに襲いかかった。

「ぐわぁぁぁぁ!!」

倉庫の中から悲鳴に似たラウンドガールの絶叫が響き渡り、

「誰かぁ〜

 誰か助げてぇぇ」

次第に濁りを増してくる声を上げながら

ドンドン

ドンドン

と倉庫のドアを叩き続ける。

しかし、

助けを呼ぶ彼女の声は他の誰にも届くことはなく、

倉庫に通じる通路はすでに体格の良い男達が立ちふさがれていて、

誰一人はいることが出来なくなっていた。

「熱いよぉ〜

 痛い…

 かっ体が痛い…

 ぐわぁぁ!!

 引き裂かれるぅぅぅ」

倉庫の中でラウンドガールが喉をかきむしり七転八倒するが、

ミシッ

ミシミシミシッ!

スレンダーな彼女の四肢に太い筋が走っていくと、

メリメリメリ

その筋に沿って筋肉が張り出していく。

そして、

ボコボコ…

張り出す筋肉がくっつきあい成長して行くにつれてラウンドガールの洗練されたスタイルが崩れ、

豊かな乳房と取って代わるように胸板が膨らんでいくと見事な逆三角形を描き、

さらに腹が六つ割れ、腹筋が盛り上がると、

「ふぐぅぅぅぅう!!!」

ラウンドガールは体に力を込め始めた。

すると、

グッググググググ…

彼女の股間からたくましい膨らみが盛り上がり、

着ているコスチュームの股間を押し上げていく。

「ふぅふぅ

 ふぅふぅ」

股間をモッコリと膨らまし、

ラウンドガールは自然とファイティングポーズを取ってみせる。

そして、

「うぉぉぉぉぉ!!!!っ」

彼女が声を張り上げて倉庫の壁に向けて強烈な右ストレートを浴びせるのと同時に、

ビキビキビキ!!!!

彼女の体の筋肉は一斉に躍動し、

バチンッ!

身につけていたコスチュームをはじけ飛ばす。

「ぐふぅ

 ぐふぅ

 ぐふぅ」

ウェイトを絞り込み、無駄なく筋肉を発達させた見事なボクサー体型と化したラウンドガールは

変化した肉体を上下に動かして深い呼吸をしてみせていると、

フッ

その前に青白い光を伴った一人の人影が沸き上がり、

『何というすばらしい体だ…

 とっても動かし甲斐がありそうだね。

 その体、

 この試合で使わせてもらうよ』

と囁きながら迫っていくと、

『ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!!』

倉庫の中から獣を思わせる悲鳴が響き渡っていく。



『待たせたね』

倉庫に通じる通路の奥から野太い男の声が響くと、

「!!っ、

 あっチャンピオンっ

 ”着替え”は終わりましたか?」

声に気づいた男達は通路の奥から進み出てきた男に向かって頭を下げる。

『ふふっ、

 なかなか良い素体だね。

 僕のと相性はピッタリだ』

ボクサーパンツを光らせる男は労をねぎらうようにテーピングされた手で男達の肩を叩くと、

「はっ、ありがとうございます」

その声に男達は深々と頭を下げ、

と同時に、

「”着替え”は終わったか、

 チャンピオン」

と男に話しかける声が響いた。

『あっぼっボス…

 準備はOKです』

その声に向かって男は白い歯を見せると、

「では一つよろしく頼むよ、

 計量やスパークリング時に使った体とは違ってその体は撃たれ強いだろう。

 今夜の挑戦者はボクシングの天才を自負している様だが、

 なぁに、ただの子供だ。

 チャンピオンの実力を見せてくれたまえ」

と声は話しかけ、

『判ってますよ。

 みんなハッピーになるように叩きつぶします』

それに応えるように男は笑って見せた。



カーン!

鳴り響いたゴングの音と共に

ウォォォッ!

会場の熱気はピークに達する。

そして、チャンピオンと負けず劣らず鍛え上げた肉体を持つ挑戦者は

先制攻撃とばかりに果敢に拳を放ってくるが、

『ふふっ

 弱い…弱すぎる』

チャンピオンにとっては赤子も同然であった。

しかしTV中継もされている手前、

チャンピオンはスグには片づけず挑戦者にある程度の花を持たせる。

そして頃合いを見計らった後、

『時間だね…

 お休み…坊や』

挑戦者に向かってチャンピオンはそう呟くと、

ドガッ

ドガドガドガ!

チャンピオンのパワーが炸裂、

衝撃的な展開に観客の誰もが声を出せない中、

挑戦者はチャンピオンの足下に跪くように崩れ落ちてしまったのであった。



「ご苦労だったな。

 お前はもぅ用済みだ」

その声と共に雨が降りしきる深夜のゴミ集積所に意識がもうろうとしている男が放り出されると、

手に填めたボクシンググローブと穿いているボクシングパンツ・シューズが

集積場を照らし出す明かりを受けてむなしく光る。

「ふふっ、

 まさか天下のチャンピオンがこうして体を乗り継いでいるなんて、

 誰も思いもしないだろう」

パンパンと手を叩きながら放り出した男は自慢げに話すと、

「しかし、よくこの事がバレないなぁ…」

作業を手伝っていた別の男がふと質問をする。

「なぁに、チャンピオンの魂が抜けたコイツは只の抜け殻さ、

 女の魂なんてチャンピオンが入り込んだ時点で押しつぶしてしまって、

 使い物にならない只の肉の固まりだよ」

「でっでも…」

「あはは…大丈夫だって、

 こうしておけばそのうち得体の知れない化け物が寄って集ってコイツを食い散らし、

 夜明け前には骨も残らず消えてしまうんだよ。

 そっここは何もいなかったのさ」

と男は話すと、

「さっ、

 長居は無用だ」

の声を残して立ち去って行く。

「うっううっ…」

男達が去った後、

投げ出された大男からうめき声が上がると、

「誰か…

 たっ助けて…」

と弱々しく助けを呼ぶ声が響く。

だが、

キッ

キキッ

去っていった男達が言ったとおり、

助けを呼ぶ大男の周囲にこの世の物とは思えない生き物が姿を見せると、

つい数時間前にチャンピオンベルトを巻き、

無数に光るフラッシュの中、拳を突き上げていた男に食らいつこうとする。

とその時、

『ムンツ!』

突然、掛け声が響くと、

『ギャンッ!』

食らいつこうとした生き物は何かの力によってはじき飛ばされ四散してしまったのであった。

『まったく…使い捨てとはいい気なものだ。

 これ以上あいつらを野放しにするわけには行かなくなったようだな。

 とにかく天界に気付かれしゃしゃり出てくる前に片づけるとするか』

トレードマークの長い顎をさすりながら姿を見せた男はそう呟くと

『…鍵屋か、俺だ。

 仕事のことで話がある』

取り出したケータイに向かって話しかけたのであった。



『さぁ、

 いらっしゃいませぇ

 いらっしゃいませぇ

 人間、どんな方にも秘めた思いがございますう。

 この業屋、そんな皆様の秘めた思いを現実にするためにこの地にやって参りました。

 さぁさぁさぁ、

 そこの奥さん、如何ですか?

 そちらの旦那さん、如何ですか?

 秘めた思いのフレンドリーショップ・業屋はこちらでございますぅ』

昨夜の雨が上がり晴れ渡った街に威勢の良い声が響き渡ると、

”業屋”と大きく書かれた看板の下では和装姿の老人が呼び込みをしていた。

『さぁさぁさぁ

 いらっしゃいませぇ

 業屋はこちらです』

街ゆく人たちに向かって老人は盛大に唾を飛ばしながら呼び込んでいると、

『業ちゃぁん』

と老人を呼び止める声が響く。

『おぉ、白蛇堂殿ではありませんか。

 いろいろな商品が入荷しておりますが、

 いかがです?』

揉み手をしながら老人・業屋は話しかけると、

ペシッ

その額が叩かれるや、

『同業者相手にナニ商売をしているのよ』

金髪碧眼の白蛇堂は皮肉を言ってみせる。

『白蛇堂さまぁ…

 そう言わないで、

 少しでも業屋の売り上げアップに協力してくださいよぉ』

そんな白蛇堂に向かって業屋はしなを作ってみせると、

『きっ気持ち悪いわねぇ、

 それより兄貴はいるの?』

シッシッ

と追い払う仕草を見せながら白蛇堂はいつも業屋と連んでいる彼女の兄について尋ねる。

『はて?

 本日はまだお見えになっていませんが、

 大分お忙しい方ですので…』

その問いに業屋は小首を傾げてみせると、

『そっかぁ…

 じゃぁ仕方がないわね』

白蛇堂は頭を軽く掻いてみせる。

『何かご用件でも?』

『ん?

 ここんところ姿を見ていないので、

 元気にして居るのかな…と思ってね

 邪魔したわ』

そう返事をして立ち去ろうとすると、

『ん?』

業屋の店頭に立つ一人の人影が目に入った。

『うわっ、

 なにあれ?』

鍛え上げた見事な逆三角形の肉体に手に填めているグローブ、

日の光を受けて光るボクサーパンツを穿いた男をの姿に白蛇堂の視線は釘付けになっていると、

『白蛇堂殿っ、

 ちょっとお待ちください。

 とっておきの商品が入荷しています』

店の奥から出てきた業屋は白蛇堂を引き留めようと何か商品を持ってくるなり、

『これなんて如何です?』

そう囁きながら曰くありげな小瓶を差し出してみせる。

『なにこれ?』

男から小瓶に視線を移した白蛇堂はそれを手に取って自分の目線の高さまで上げてみせると、

『超強力性転換薬・乙女の涙Aでございます。

 この中に入っている錠剤を1粒飲めば、

 どんなマッチョで毛深いゴリラ野郎でもたちまち清楚な乙女に変身してしまうという優れものです。

 どうです?

 白蛇堂さまなら同業者価格で格安にお譲りしますが』

揉み手をしながら業屋は囁く。

しかし、

『うーん、

 一粒飲んで憧れの女の子にへんしーん!ってか?

 いまはもぅ流行らないわね、そう言うのって…』

シャカシャカと錠剤が入っている瓶を軽く振りながら白蛇堂は受け流すと、

「そっそれって本当ですかっ」

野太い男の声が響き渡った。

『ひっ!』

予期もせずに響き渡ったその声に業屋飛び上がると、

ノソッ!

店の前にいたあの男が目の前に迫り、

大きく見開かれた眼で二人を見つめてみせる。

『あっあのぅ…なにか?』

男を見上げながら業屋は恐る恐る話しかけると、

「あの…

 そっその薬を売ってください。

 お願いです。

 あたし、女の子に戻りたいんです」

大粒の涙を流しながらボクサースタイルの男は懇願し、

『何か曰くありげね、

 店の奥で話を聞こうか』

大男の涙を見た白蛇堂はそう話しかけると、

「はい」

男は素直に頷いてみせる。



『なるほどねぇ…

 あなたはラウンドガールで試合の直前、突然男達に拉致され、

 倉庫の中で変な薬を飲まされたと』

『で、その中で苦しみながらボクサーに変身させられてしまい、

 チャンピオンと名乗る幽霊のような男に体を乗っ取られ』

『試合で対戦相手を叩きつぶした…』

『しかし、試合終了後に男が出ていった途端、

 動けなくなり』

『そのまま、捨てられた…か』

大きな体を小さく丸めながらお茶を啜る大男より事の子細を聞いた白蛇堂と業屋は頷いてみせると、

『こんな話、聞いたことがある?

 業ちゃん?』

『はぁ、私にとっては初耳ですなぁ』

白蛇堂の質問に業屋は湯気が立つ湯飲みを啜る。

『ここまで極端な姿にしてしまう性転換と体の乗っ取りなんて、

 一介の人間達が出来る仕業じゃないわ』

子細を推理しながら白蛇堂が呟くと、

『白蛇堂殿…まさか…』

それを聞いた業屋は意味深な視線を彼女に向けた。

その途端、

『しっ失礼ねっ、

 確かにあたしは人間の業につけ込む商売はしているけど、

 でも道を外すようなことはしないわよ』

白蛇堂は顔を真っ赤にして怒鳴ると、

『そうだ…』

何か思いついたのか携帯電話を取り出すやどこかに掛ける。

そして、

『もぅ…またぁ留守電?』

苛立つようにして電話を切ると、

『どこに掛けたのです?』

と業屋は問い尋ねる。

『鍵屋よ、か・ぎ・やっ

 この手の情報なら心当たりがあると思ったのに…

 もぅ、最近ずっと留守電なのよっ』

白蛇堂はプッと膨れながら腕を組んでみせる。

『ほっほっほっ、

 鍵屋殿といえば…

 先だってその使いと申します女性が色々と買って行かれましたなぁ…

 いやいや、なかなかお美しいお方でありましたが』

業屋は先日彼の店を訪れた鍵屋の使いと言う女性について話すと、

『へぇ…鍵屋に女性ねぇ…

 そんな甲斐性があいつにあったなんて知らなかったわ…』

その話を聞いた白蛇堂は呆れてみせる。

すると、

「あのぅ…」

二人に向かって男が話しかけてきた。

『オホン!

 それにしても…

 無理矢理姿形を変えられた上に体が盗まれた…なんて物騒ですなぁ』

咳払いをしつつ業屋は袖に手を入れて頷いてみせる。

『確かに災難だわねぇ…

 でも、よくここまで無事にたどり着けたわね。

 その…男達の話ではあなたは死んでしまていたんでしょう?』

男の話を思い出しながら白蛇堂は指摘すると、

「はぁ…

 身体が動かなくてこのまま死んじゃうのかなぁ…と思っていたところ、

 通りがかった人に助けられまして…

 それでここを教えてもらったのです」

と二人に話す。

『へぇ…業屋の出店場所を予め知っているなんて徒者ではないわね…』

それを聞いた白蛇堂は感心してみせると、

「最近流行の”通りすがりのナントカ”だって言ってまして、

 こう…顎の長い方でした」

と言いながら白蛇堂に向かって大男は顎をさすってみせる。

『兄貴だわ…

 兄貴が裏で動いているの?

 このあたしを除け者にして…』

そのことを聞いた途端、白蛇堂はそう呟くと、

『こう言うのって面白くないわね…

 そうだ、ねぇ業ちゃぁん。

 その薬譲ってあげたら?』

なにかを思いついた白蛇堂は業屋に話しかけると、

『えぇ…

 でも、これは売り物ですので…

 タダというわけには…』

白蛇堂の申し出に業屋は驚き小瓶を隠してみせると、

『あら、そんな活けずなことをする訳?

 ここに困っている人がいるんだから、

 一粒ぐらい融通してあげても天の女神様は怒ったりはしませんよっ』

『あぁちょっとぉ!』

嫌がる業屋から白蛇堂は小瓶を取り上げると、

『こんな胡散臭いやつだけど、

 この薬の効能は大丈夫、あたしが保証するわ。

 一粒飲めば元に戻れるはずよ』

と言いながら小瓶の栓を開けると大男の手のひらの上に一粒薬を落として見せた。

しばらくの間、男は自分の手のひらの上に乗る薬を眺めた後、

ゴクリッ

意を決して飲み込んでみせる。

すると、

「うぐっ!」

白蛇堂と業屋が見守る中、

男は高鳴りだした胸を押さえながら蹲ってしまうと、

シュワァァァァァァ!!

全身から湯気を思わせる汗を拭きだし、

グッ

ググググググ…

その体を小さくしていく。

「くはぁっ

 はっ

 はっ

 はっ

 うぐぅぅぅぅ」

歯を食いしばり男は身体の変化に耐えていると、

ジュルジュルジュル…

盛り上がっていた筋肉が解けるように萎縮していくと、

逆三角形を描いていた胸板から乳房が飛び出し入れ替わるように膨らんでいく。

さらに、張りつめていた筋が消えていくと、

漆黒色に染まっていた肌が白味を取り戻して行く。

また、突き出していた股間の盛り上がりも萎縮しながら消えていくと、

ズルッ

両手に填めていたボクシンググローブが独りでに解け、

中から細い手が顔を覗かせる。

こうして男は女性の肉体を取り戻し、

「あはっ、

 おっ女の子に戻っている…

 よかった。

 本当に良かった」

変身前の姿に戻ったことを喜んでいると、

『業ちゃぁん。

 彼女に着る服を用意してあげては如何かな、

 当然、お代は兄貴に請求して良いから』

と業屋に提案と言う名の命令をする。

『えぇ!、

 そうは言われましても…

 あの方から取り立てる事なんて出来ないことは判っているはずなのに』

白蛇堂の提案を断れない業屋は渋々店に戻っていくと、

「本当にありがとうございます。

 今日、彼と結婚式の打ち合わせがあるんです。

 あの姿のままだったらどうしようって思っていたところなんです」

とラウンドガールは白蛇堂に幾度も頭を下げて礼を言う。

『そうだったの…よかったね。

 あと、あいつの薬の特徴で効き目が安定するまで、

 新月の夜に男に戻っちゃうこともあるかも知れないけど、

 朝には戻っているから安心しいいわよ』

彼女に向かってそう告ると、

『さて、鍵屋がダメだとなると、

 玉屋に話を持っていくか、

 兄貴を出し抜きたいからね』

そう呟きながら白蛇堂は業屋から出ていった。



それからしばらく経ったある夜。

「やめてください」

一人のラウンドガールが倉庫に連れ込まれると、

「おいっ、

 さっさと飲ませろ」

「おうっ」

誰もいないことを確認した男達は連れ込んだ女性にあの薬を無理矢理飲ませ、

そして、

「チャンピオンっ、

 また今宵も頼みます」

と闇に向かって声を上げながらラウンドガールを突き飛ばすが、

「…………」

どういう訳か彼らが望んでいた変化が突き飛ばした彼女の身には起こらなかったのであった。

「おいっ、どういうことだ?

 時間がないぞ」

「おっかしーなっ」

変化が起こらないラウンドガールの姿を見て男達に焦りの色が見せると、

『まっまだか…』

と闇の奥から男達をせかす声が鳴り響いた。

「あっ

 お待ちくださいチャンピオンっ、

 今すぐ用意しますので」

「おいっもぅ一回飲ませろ」

「判っているって」

その声にせかされつつ男達がラウンドガールの体に触れようとしたとき、

ドスツ!

「うぐっ!」

ランドガールに迫った男の腹に錫杖の杖先がめり込んだ。

「どうしたっ」

それ見て別の男が驚くと、

スッ!

めり込んだ錫杖が音もなく離れていくと、

ドカッ!

驚く男の脳天を直撃する。

そして、

『やれやれ、

 僕としてはこんな乱暴な事はしたくはないのですがね。

 あななた達は少々お痛をしすぎましたね』

と相次いで倒れ落ちる男達に向かってラウンドガールは起きあがると、

『こんな薬、僕には何の効果もありません。

 それよりもあなた方がお飲みになっては如何ですか?

 元々はあなた方の物ですし』

と囁きながら飲まされたはずの薬を取り出すと、

口を開けている男の一人にその薬を放り込んだ。

そして、

チャッ!

改めて鍵状の錫杖を構え直すと、

キッ!

闇の奥でうごめく影を睨みつけ、

『チャンピオンっ、

 冥界から取り寄せた資料に寄りますと

 試合中に不慮の事故にて亡くなったあなたはその未練を断ち切るため許可を貰い現世に戻った。

 とありますが、

 そのあなたが、人間の体を次々と乗り換えて試合に出ているとはどういう了見ですかっ。

 あなたの身勝手な行為の為にどれだけの方が被害に遭われたと思っているのです。

 あなたをこの場で封印し冥界にて審判を仰いでもらいます』

と声を上げると、

『ぼっぼくを…

 とらえるだとぉ…
 
 そっそんなことをはゆっゆるさない…』

ラウンドガールの口上に腹が立ったのか、

影は沸き立っていく。

すると、

バァン!

閉じられていた倉庫のドアが大きく開かれ、

「その通りだ。

 チャンピオンは”元”ではないっ、

 いまも立派な現役のチャンプだ。

 我々の事業の邪魔をする者は誰であっても排除するっ」

の声と共に、

ジャキッ!

葉巻の煙を揺らす男の左右から幾丁もの銃口がラウンドガールに向けられた。

『おやおや、

 この僕を本気で怒らせるつもりですか…』

銃口を向けられてもラウンドガールは臆することなく睨みつけていると、

その背後から

メリメリメリィィィ

『ぐぉぉぉぉぉ…』

先ほど薬を飲まされた男が巨大な肉塊となって立ち上がっていく、

すると、

「ほぉ、

 あいつらに飲ませたか。

 面白いっ

 チャンピオンっ、

 その体を思う存分使うが良いっ、

 壊してもかまわないぞ。

 その女はお前を闇の中へと葬ろうとしているのだ」

と声を上げるや、

ブワッ

蠢いていた影はたちまち肉塊に取り憑き融合していくと、

『ぐぉぉぉぉぉっ!!!

 あいむっあっ

 ちゃんぴおーーーーん!』

の声と共にラウンドガールに襲いかかる。

だが、

『ふんっ!』

ラウンドガールは怯むことなくチャンピオンの動きを見切ると、

チャンピオンが繰り出す拳をよけつつ、

スッ!

3枚のカードを意味ありげに掲げて見せると、

『チャンピオンとは己より強い者、

 そして昨日の己自身と戦い勝ちぬいた者の得る称号。

 弱肉強食を盾にした弱い者いじめに溺れるだけならただのお山の大将にも劣ります!』

と言うやカードを別に取り出したコミューンにその1枚をスラッシュする。

すると、

『あたっくらいどぉっ

 ぎゃっ・ぎゃらくてぃかぁ・まぐなむぅぅ』

と機械的な叫び声が響き、

ドゴッ

チャンピオンのレバーに重い一発が食らわされたのであった。

『うごわぁぁ…』

腹を突き抜け背骨を粉砕するその一発を浴びてチャンピオンの動きが止まると、

『あたっくらいどぉっ

 すっ・すこるぴおん・くらーっしゅっ!』

の叫び声と共に、

グワンッ!

今度は強烈なアッパーがチャンピオンの顎を砕き、

さらに、

『あたっくらいどぉ

 こっ国電ぱぁぁんちっ!』

三度叫び声が響くや、

シャタタタタタタ

チャンピオンの足下にレールが引かれ、

パォォォン!!!

煌々とライトを輝かせる華代ライナーが飛び出してくると、

ドォォンッ!

チャンピオンを跳ね飛ばして消えていったのであった。

ひゅるるるる…

ずしんっ!

立て続けに3発も浴びたチャンピオンは床にたたきつけられるが、

だが、

『うごわぁ!』

うめき声を上げながら立ち上がると

『あっあいむあ…

 ちゃんぴーおぉぉぉん…

 あっあいむあ…

 ちゃんぴーおぉぉぉん…

 あいむあ…

 ちゃんぴおぉぉぉん…』

まるで電池が切れていく玩具のようにチャンピオンは動きを鈍らせ、

ついに

カーン!

誰が鳴らしたのかゴングの音が響くと、

ドォッ!

ついに倒れ込んでしまい、

『………』

白目を剥いて沈黙をしてしまったのであった。

『おやおや、

 真っ白に燃え尽きてしまいましたか、

 あなたの犠牲になった方のことを思えば

 たった3発のパンチでは全然足りせんが』

ラウンドガールはそう言いながら葉巻を吸う男へと視線を向けると、

「ばかな…

 一介のラウンドガールが…

 チャンピオンを瞬殺だとぉ!

 貴様何者だ!」

と問い尋ねる。

すると、

『僕ですか?

 通りすがりのラウンドガールだ。

 覚えておけっ!』

男達を指さして彼女は声を上げる。

「うっうぐっ

 通りすがりのラウンドガールだとぉ…

 うぐぐぐ…ならばぁ…

 なっなぁ…俺と組まないか、

 へへっ、

 お嬢さんよ、良い拳を持っているじゃないか。

 悪いようにはしないって…

 お嬢さんの願い事は何でも叶えてやる。

 いや、あのお方に気に入っていただければ何でも叶えてくれる。

 お嬢さんなら気に入られるって、

 おっ俺が保証するからさ」

突然正反対の猫なで声で囁き始めた。

しかし、

『いま言ったあのお方の見当は付いていますっ

 それよりも…僕をお嬢さんと呼ぶのではありません!』

不機嫌そうにラウンドガールはそう言うや、

ザッ

手にした錫杖を大きく振り上げ、

『鍵屋封印術っ

 闇の牢獄っ!』

と声を上げ、

ドンッ!

力強く錫杖を振り下ろした。

すると、

ガシャッ!

男達の背後に鉄の格子牢が姿を見せるや、

ジャキンッ!

施錠が開くと、

ゴワァァァ!!

「うわぁぁぁぁ!!!」

男達のみならず倒れているチャンピオンをも取り込み、

そのまま静かに錠を下ろし空間の中へと聞いていく。

『はぁ…

 あなた方は裁きを受けて貰います。

 さて、これでよろしいでしょうか?』

すべてを終えたラウンドガールは背後に向かって話しかけると、

『通りすがりのラウンドガール…か、

 覚えておこう』

彼女の背後から顎長の男が浮きい出てくるなり頷いてみせる。

『そんな言葉、覚えなくても良いですよ…』

顎長の男を横目で見ながらラウンドガールは口をとがらせてみせると、

『まぁいい。

 こいつらの背後にいるのは…どうせあの狐姫だろう。

 段々やることがエスカレートして居るみたいだが、

 そろそろ潮時ではないか?

 天界の女神が出てくると厄介なことになるぞ』

と一連の事件の背後にいる者を指摘しつつ問い尋ねる。

『判っていますっ

 あの人達が出てくると余計混乱しますから。

 ただ封じるには準備が足りませんし、

 この身体もナントカしなくてはなりません』

『そうか?

 俺はその身体でも十分渡り合えると思うけどな。

 いや、返って好都合だと思うぞ。

 男の姿ではあの姫様の側なんてそう簡単に寄れ…』

ラウンドガールの返事を聞いた顎長の男はそう言い掛けたところで、

『そう言う問題ではありませんっ』

と話を遮り、

『とにかく今回の件は取引ですので、

 私が元に戻れる方法を必ず見つけてください。

 Rっ

 帰りますよ』

これ以上の問答は無用と感じたラウンドガールはそう声を上げると、

『あいっ

 あいあいあいっ』

どこに隠れれたいたのか学生服姿の少年が姿を見せるや、

立ち去っていくラウンドガールの後を追っていく。

『全く忙しいヤツだ…』

そんな二人を顎長の男は小さく笑いながら見送ると、

『さて、ここから先は白蛇堂にでも任せるか…

 チマチマしたことは俺には似合わん』

その言葉と共に姿を消したのであった。



こうして事件は一件落着したのだが、

それからひと月近くが過ぎたある新月の夜。

「うわぁぁぁ!!!」

愛の営みが行われようとしていた部屋に突如悲鳴が響き渡ると、

「はぁはぁはぁ…

 あっあなたぁ〜何で逃げるの…」

股間から起立する肉棒を扱きつつ新妻は顔を青くする夫に迫っていた。

「なっなっなっ

 なんだそれは!」

震える指で夫は新妻の股間を指さすと、

「あはんっ、

 筋肉が疼いてきたわ、

 あはっ、

 あんっ

 もっもぅ我慢できないっ」

身もだえるように新妻は声を上げ、

シュッシュッシュッ

さらに激しくそそり立つ肉棒を扱いてみせる。

すると、

ビシッ!

メリメリメリィ〜っ

股間から四肢に向かって筋が走るとそれに沿って筋肉が盛り上がり、

腹は六つに割れ、

上体は逆三角形を作っていく。

そして、扱かれる肉棒の先からガマン汁が溢れ出てくると、

「あはぁんっ、

 出る出る出る…でるぅぅぅ!!!」

の声と共に

ビシュッ!

シュッシュッシュシュッ!

新妻は夫の前で射精をしてしまったのであった。

「そっそんなぁ…

 いっ一体、どうなっているんだぁぁ!!」

肉棒の先より精液をしたたらせる新妻の姿に夫は頭を抱えて逃げだそうとするが、

「はっはっはっ

 にっ逃がさないよ」

新妻は抜群の瞬発力で飛び出すや瞬く間に夫を捕まえ、

そして、その上に覆い被さるや勃起させた肉棒で

ヌプツ!

彼の秘穴を貫いたのであった。

「ぐわぁぁ、

 痛ぇぇぇ!!

 やめてくれぇ!!

 けっケツが

 ケツが裂けるぅぅぅ…!!!」

秘穴を犯され悲鳴を上げる夫は悲鳴を上げるが、

しかし、

「ほっほっほっ」

身も心もすっかり男性化してしまった妻は構うことなく腰を振り、

『あっ、

 いいっ、

 おっ男の身体ってクセになっちゃう。

 あぁぁっ、

 でるっ

 でるっ

 でるるるるるぅぅぅ!!!』

とあえぎ声を上げると、

ブチュゥゥゥゥ!!!

夫の体内へと精を注いだのであった。

こうして新婚初夜に処女を奪われた夫は新月の夜になると、

新妻に貫かれるようになったのである。

めでたし、めでたし。



おわり