風祭文庫・アスリート変身の館






「疑惑の顛末」


作・風祭玲

Vol.940





「男の子になりたいの」

放課後の学園。

その学園の最深部に居を構える黒魔術研究同好会にその声が響き渡ると、

「それはそれは…」

「また奇特な…」

緊張感が無くすっかりダレ切ってしまっている部室に詰めている

2年の日向咲(ひなた・さき)と

同じく2年の飛翔舞(ひしょう・まい)の退屈そうな返事が返ってきた。

「あっ、

 その言い方は信じてませんね」

そんな2人を指さしてこの部屋を訪れていた野上綺羅は声を上げると、

「だってね」

「うん」

咲と舞は顔を見合わせ、

そして互いに頷いてみせたのち、

「男の子になりたい。

 なんてお願いする女の子がこの世にいるわけ無いでしょう」

と言い切ってみせたのであった。

その途端、

バンッ!

「ココにいるわよっ!」

2人の前に置かれている机に

ドンッ!

と上履きを履いている片足が勢い良く乗せられ、

綺羅は自分を指さし啖呵を切って見せた。

「はいはいはい」

「わかりましたわかりました」

そんな綺羅を見上げながら2人は返事をするものの、

しかし彼女達の目は話半分に聞いていることを物語っていた。

「もぅ、あたしは本気なのに…」

なかなか協力的にならない2人を見下ろしつつ綺羅は腕を組んでみせると、

「ちょっとぉ、2人とも…

 一応彼女はお客さんなのだから、

 最低限、事情でも聞いてみたらどうなの?」

横でずっと成り行きを見ていた安堂加代が口を挟んできた。

「安堂さぁん」

彼女の言葉にまさに地獄で仏にあったような声を上げて綺羅は加代に抱きつくと、

「あのぅ、

 あたしは変な趣味を持っていませんので」

と加代はやんわりと返してみせる。



「えぇ!

 あのイケメンってホモだったのぉ!」

それから程なくして咲と舞、そして加代を合わせた声が響き渡ると、

コクリ…

椅子に座る綺羅は頷いて見せる。

「うわぁぁぁ…

 ショックぅ!

 タイプだったのにぃ」

「水泳部以外の女子からも猛アタックを受けているのに、

 全く交際情報が出てこないので不思議に思っていたけど、

 そう言うカラクリだったのかぁ」

咲と舞は共に額に手を乗せる仕草をして見せる。

ところが、

「水泳部の人気イケメン選手はホモだった。か、

 新聞部の増子さんにでも売りに行けば特ダネ・スクープで感謝されるけど、

 でも、証拠はあるの?」

と加代が確証について触れると、

「それならこれが…」

そう返事をしながら綺羅は一枚のブルーレイ・ソフトを提出したのであった。

「なになに?

 現役スイマー出演。

 ”先輩っ、俺を愛してくれるなら、

  ケツ(ピー)ンコにチン(ピー)をぶち込んでください。”

 ってこれって、ホモビデオじゃない!」

ビデオを受け取った咲はそのタイトルを読み上げ気色ばんだ声を上げると、

あわてふためきながら部の備品であるPS3を立ち上げなり、

スグにそのソフトを読み込ませようとする。

すると、

「やめなさいって」

彼女の行為を加代が止めさせるが、

「でもぉ!」

咲は物欲しそうな目で加代を見つめた後、

「隙あり」

ピッ!

彼女の隙を見てすかさず再生ボタンを押した。

すると、

『はぁ…』

50インチの大型液晶TVに喘ぐ声をあげながら、

競泳パンツ姿の男性が腰を突き上げるシーンが映し出される。

「うわぁぁぁぁ…」

思わず画面に釘付けになってしまう咲に対して、

「うーん、

 彼、違うわね。

 咲、ちょっとコマを飛ばして」

舞はすかさず画面の男性が問題となっているイケメン部員でないことを指摘すると、

「え?

 そっそぉ?」

慌てて口の涎を拭いつつ、

ピッ!

ピッ!

咲は早送りボタンを押して見せる。

すると、

パッ

パッ

パッ

とTVの画面は次々と変わり、

やがてある場面で止まってしまうと、

『原田先輩!』

と男性を呼び止める声が響き渡り、

『あの、

 まだ水泳部の今後についての返事を貰っていませんが』

と別の男性が話しかけるシーンが映し出される。

「うーん、

 画像が小さくてよく判らない。

 やっぱりそうなのかなぁ…」

その画面を見ながら咲は

登場してきた別の男性が該当者であるかどうかを判断しようとするが、

だが、画面は大きく引かれていくために判断は出来ず、

「うーん」

と小首を捻だけだった。

さらに、

『お前のようなチャラチャラした奴がうろつかれるとこっちが迷惑なんだよ』

『だから、それだどーしたってぇ?』

と男性達がつかみあうシーンや、

『憲二、やめろぉ!』

『せっ先輩、好きです、

 おっ俺…

 先輩のが…』

と画面に大写しで競泳パンツ姿の男と男が絡み合うシーンが映し出されたときには、

「そこっ」

「早く押し倒せ!」

「ケツをこっちに見せるな」

「顔だ、顔!」

4人は本来の目的などそっちのけで食い入るように画面を見つめ、

声を張り上げ合う。

そして、

「結局判らずじまいか」

「舞ぃ、どう思う」

「判断できないわね、

 他人のそら似…ということも」

エンディング画面を横目で見つつ舞達はそう言い合い

そして、リモコンを持っていた咲が停止ボタンを押すと、

「畏まりました。

 とりあえず状況はよぉく判りました」

真相はハッキリと判断できなかったものの、

咲と舞は改めて綺羅に向かって頭を下げると、

「こういう場合、

 とりあえず男の身体になって相手の反応を見るのが良いかと思います。

 私たちの方で作業を行いますので、

 野上さんはそのままそこでお待ちください」

そう指示をすると、

コクリ、

2人は頷き合い、

そして徐に手を握り合うと、

高々と空いている手を挙げ、

「でゅあるすぴりちゅある、ぱわぁ!!」

と声を揃えて張り上げたのであった。

その途端、

バッ!

バッ!

女子の制服が2着、

天井に向けて高く舞い上がり、

その下ではいつの間に着替えたのか、

魔女を思わせる黒詰めの装束姿になった2人が立っていた。

「ほぇぇぇぇぇ…」

あまりにものの変わり身の速さに綺羅は呆気にとられていると、

「種も仕掛けもあるんですけどね、

 でも、早変わりはこれからですよ」

と加代が耳元で囁く。

すると、

パタパタパタパタ

教室の壁が日めくりカレンダーの如く動き始め、

次第に部屋の明かりが暗く落とされていくと、

ぼっ!

部室は怪しげに燃え上がる炎が揺らめく黒魔術の部屋になってしまう。

「はぇぇぇ」

どの様な仕掛けでこうなるのか質問をしたかったが、

綺羅はそれを飲み込んでしまうと、

「では」

「始めましょうか」

「今回の依頼人は2年生」

「野上綺羅ぃ」

「依頼内容は」

「ホモの道に嵌ってしまった先輩を振り向かせる男の子になりたい」

「です。以上!」

燃えさかる炎に向かって2人は声を揃え、

そして何かの願掛けをするかのように呪文を唱えはじめた。



それから1時間後、

「お疲れ様でしたぁ」

加代に送られて綺羅は黒魔術研究室から出てくると、

「明日の朝には変身は終わっていると思いますので…」

と加代は付け加えるが、

「はぁ…」

魔術に付き合わされていた綺羅は何が何だか判らなくなっていたのであった。

そして、廊下を歩くこと5分、

丁度廊下の角を曲がったところで、

ドンッ!

「うわっ」

「きゃっ」

綺羅はジャージ姿の男性と出会い頭にぶつかってしまうと、

「あっ」

自分にぶつかった相手がホモ疑惑の湧く

イケメン水泳部員の久保丈二であることに気づいたのであった。

「くっ久保先輩!」

思いがけない丈二とのアクシデントに綺羅は顔を赤くするが、

「いったぁ、

 まったく、このところついてないなぁ」

と丈二は怒るどころか顔を曇らせぼやいてみせる。

「だっ大丈夫ですか」

そんな丈二の姿を見て心配そうに綺羅は話しかけると、

「あっありがとう」

丈二は笑みを浮かべて見せるが、

「あっ」

綺羅の脳裏にビデオの一場面が綺羅の脳裏を走ると、

「先輩は男の人が好きなんですか?」

と単刀直入に尋ねてしまったのであった。



「え?」

瞬く間に辺りを重い空気が支配し、

2人は向かい合ったまま黙ってしまう。

「いやそれは…」

その空気を押しのけるようにして丈二は何か言い訳をしようとすると、

「先輩が男の人が好きなのは判っています。

 でも、だからって男の人と寝ないでください」

と綺羅は丈二に向かって声を荒げてみせる。

「うっ」

そんな綺羅の姿を見た丈二は声を詰まらせてしまうと、

「君は知っていたんだ」

と小声で呟き、

「うん、

 そうなんだ」

と続いて返事をしてみせる。

「先輩…?」

丈二の言葉に半ばショックを受けながらも綺羅は彼を見ると、

「君は知って居るみたいだから言うけどね、

 おっ俺、男に抱かれたいという願望があるんだ」

と丈二は胸の内を告白し始める。

そして、そうなった原因が丈二が水泳部に入部したての時、

先輩たちから強引に教えられた男性の味であること

インターネットで競泳水着姿のスイマーの画像を見ては

自分の股間を覆う競泳水着越しにオナニーをしていること、

そして、ある時偶然見つけたゲイものを取りそろえたAVサイトに填り、

そのサイトに掲載してあった

”モデル募集!イケメン君大歓迎”

と記された募集に応じてしまい、

モデルとして採用されたことなどを話ていく。

そして、

「やめよう、

 やめよう。

 と思っていたけど、

 でも、一度填ってしまった以上、

 簡単に抜け出せなくて」

と丈二は綺羅に告白し

最初はオナニーのみだったがそれらがすこぶる評判がよく…

つい乗せられて「現役スイマーの企画」に出てしまったために周囲から気づかれてしまい、

次第に白い目で見られるようになったことを告げたのであった。

「はぁ…

 墓穴とはいえ、浅はかなことをしたな」

すべてを告白した後、

丈二は呟くと、

ヌッ!

いきなり丈二を黒い影が覆うや否や、

「おいっ、

 今更そんなことを悔やむなんて、

 いっそこれの下で骨になる覚悟があるか?」

と笑みを浮かべながら

綺羅は近くの倉庫に折りたたまれ置かれていたレスリングのマットを担ぎ上げ

身体を震わせながら丈二に迫っていったのであった。

「うわぁぁぁ!!!

 きっ君はウェイト・リフティングをしていたのか!」

それを見た丈二はは悲鳴を上げながら指差すと、

「だぁかぁらぁ?

 やってしまったのは悔やんでも仕方がないでしょう」

と綺羅は丈二に話しかける。

すると、

ミシッ

ミシミシミシ…

咲と舞に掛けられた黒魔術が効き始めてきたのか、

沙羅の身体は急速に男性化し始め、

ムキッ!

マットを担ぎ上げている腕が太くなっていくと、

モリッ!

その下の胸筋が盛り上がり始めた。

「きっ君は…

 そっそれ…」

目の前で男性化していく綺羅を見ながら丈二は驚くと、

「ちっ!

 こんなところで変身をするだなんて、

 見られたくなかったな」

悔しそうに沙羅は舌打ちをしてそう呟きつつ、

バリバリバリ!!

丈二の目の前で制服を引き裂いてしまったのであった。



翌朝。

「うーん」

体育館の中で広げられているレスリングマットの上では、

レスリングの吊パンを身につけ、

股間から猛々しく肉棒を突き上げる厳つい男となった綺羅と、

水泳部の競泳パンツ姿の丈二が抱き合い、

そして硬くくっつきあう二人の股間からは

ネットリと濡れる白い粘液が滴り落ちていたのであった。

「丈二…お前は俺の女だ、判ったな。

 さぁ、俺のチンポをしゃぶるんだ」

「はい」


おわり