風祭文庫・アスリートの館






「チョコ」


作・風祭玲

Vol.490





「おっはよぉ!!」

バレンタインデーが間近に迫ったある朝、

朝の冷気を吹き飛ばすかのようにバレー部室にあたしの声が響き渡る。

すると、

「はよー」

「おはよう」

あたしがあげたその声に中の女の子たちが一斉に返事をすると、

「はぁ、寒いねぇ」

白い息を吐きながらあたしは部室に入ると着ていたコートを脱ぎはじめた。

その途端、

「宍戸さん、遅いわよ

 早く着替えて」

すでにユニフォームへ着替え終わっていた2年の柴田キャプテンがあたしに向かってそう言い残し、

そして、入れ替わるように部室から出ていった。

「なによ、

 まだ朝練開始までに10分以上も時間があるじゃないのよ」

柴田キャプテンの言葉にあたしと同じ1年生の明美が文句を言うと、

「いっ良いのよ、

 それよりもキャプテン…あたしのこと宍戸さんて呼んでくれたのよ、

 嬉しいわ…」

あたしはキャプテンが言った言葉の内容よりも、

キャプテンがあたしの名前を言ってくれたことに感激をしていたのであったが、

「ホント、宍戸さんってキャプテンにゾッコンなのねぇ」

「あたしだったら、あんな事いわれたら根に持っちゃうなぁ」

「うん、そうねぇ」

そんなあたしとは裏腹に着替え中の部員達はそんなことを言いながら相槌を打っていた。



「はーぁ、

 あたしが男だったらキャプテンに絶対モーションかけるのになぁ」

ようやく着替え始めたあたしはふとそんなこと言うと、

「あーまた始まったよ、宍戸さんのプロポーズ」

「あはは、

 ムリムリ、

 キャプテン、あぁ見えても男には興味ないんだから」

とキャプテンは恋愛には一切興味が無いことを指摘してきた。

「判っているわよ、そんなこと…

 でも、恋愛なんかに興味を持たずにバレー打ち込むキャプテンの姿ってステキと思わない?」

その指摘にあたしはなおも言い返すと、

「それは、まぁそうは思うけど、

 でも、行き過ぎるとねぇ…」

「そうよねぇ…」

返ってきた言葉はどれもキャプテンを否定するものばかりだった。



「判ったわよ」

そんな言葉にあたしは強い調子で言い返したとき、

コトッ!

ロッカーに仕舞いこもうとしたコートのポケットからラッピングされた小さな箱が転がり落ちてきた。

すると、

「なに、なに、なに?」

隣で着替えをしていた由美が目ざとくそれを見つけるとすかさず拾い上げた。

「ん?

 あぁ、それ?

 なんか来る途中で配っていたのよ」

あたしはその箱が学校の途中で業者らしい人が配っていたことを告げると、

「へぇぇぇ

 中、何かなぁ…」

興味津々と言った目つきで由美は箱を眺めた。

すると、

「あぁ、中身はチョコだよ、

 バレンタインが近いから販促じゃないか?

 あたしのにはウィスキーボンボンが3つ入っていたわよ」

と言いながら友美は3つのウィスキーボンボンが入った箱を見せた。

「へぇぇ…」

友美が見せた箱を見ながら、あたしは由美から箱を取り上げると、

早速、包みを解いてみた。

そして、出てきたものを見て一瞬、凍りついた。

「どうしたの?」

「ねぇ、何が入っていたの?」

ジッと箱を見つめるあたしに他の女の子たちが寄ってきて、

そして、箱の中身を見た途端、

「うわっ」

「なによ…これ」

「露骨ぅ〜」

とそう言いながら皆が一斉に引いていく。

「ちょちょっとぉ〜」

潮が引いていくように引き下がったみんなの姿にあたしは冷や汗を流しながらそう言うと、

しかし、友美は引き下がらずに、

「ふぅぅん、

 ちょっと見せて」

とあたしから箱を取り上げ、

その中身をシゲシゲと見た後、

「これ、チョコだけどどうするの?」

と尋ねてきた。

「あっ」

友美のその言葉にあたしはハッとすると、

「もっもちろん、

 食べるに決まっているでしょう」

と返事をしながら友美から箱を奪い返し、

そして、その中に入っていたチョコを取り出した。



ザワッ!

チョコが箱から出た途端、一斉にざわめきが起こる。

「なによっ

 ただのチョコじゃない」

そのざわめきに抗するようにあたしは言い放つと、

シゲシゲとチョコを眺める。

そう、そのチョコとは…

女性の性器を精密に模写をしたチョコだった。

「なんか…切羽詰った女が藁に縋るようにして作った感じがするチョコだね」

そのチョコを眺めながら友美はふとそんなことを漏らすと、

「べっべつにあたしは切羽なんて詰っては居ないわよ」

あたしはそう言い返しながら、

「えいっ(コリッ)」

と食べてしまった。

その瞬間、

「うわっ」

それを見ていた女の子達から一斉にざわめきが巻き起こる。



キーンコーン…

「ふぅ…」

1時間目の授業を聞きながらあたしは朝貰ったチョコのことを思いだしていた。

「まったく…

 いくらなんでも、あんなチョコを貰ったら男の人でも引くわよねぇ」

黒板に書かれていていく英文を眺めながらあたしはそんなことを考えていると、

トクン…

心臓が小さく高鳴った。

「え?」

トクン…

トクン…トクン…

次第に高鳴ってくる心臓にあたしは戸惑うと、

ジワッ…

まるで染み出してくるかのごとく肌から汗が噴出してきた。

「え?

 え?

 ちょっと、

 どうなっているの?」

突然の体調の急変に戸惑いから驚きへと変わっていくと、

「うっ

 はぁ…

 ハァハァ…

 ハァハァ…」

次第に胸の苦しさを覚えると、呼吸が荒くなり始めた。

「どっどうしたんだろう

 あたし…」

そう思いながらジッと黒板を見つめていると、

「よーし、では

 宍戸、P56から読んでみろ」

と先生があたしをさした。

「あっはい」

先生の声にあたしは慌てて立ち上がるが、

しかし、

グラッ!!

体のバランスを崩してしまうと机に手を付いてしまった。

「ん?

 どうした?

 宍崎、具合が悪いのか?」

それを見た先生があたしに声をかけると、

「え?

 なっ何でもありません」

先生の声にあたしはそう返事をするが、

「おっおいっ

 顔も赤いぞ…」

先生はあたしの顔が赤らんでいることを指摘し、

「保健委員!!」

と声を上げた。

「………」

しかし、先生のあげた声に保健委員は返事をせずに

代わって、

「先生、保健委員の吉野さんは風邪で休みです」

と言う声が響いた。

「なんだ?

 保健委員が風邪で休みか、仕方が無いなぁ…

 よし、清水、

 お前、宍崎を保健室まで連れて行ってやれ」

欠席の吉野さんに代わり、

あたしの隣に座っている敬子に先生はそう言うと、

「はいっ

 いこ、宍戸さん」

敬子は優しくあたしに声をかけ、

そして二人で保健室へと向かっていった。



ガラッ!

「先生!」

保健室のドアを開けるのと同時に敬子は声を上げるが、

しかし、保健室は無人でいつもならここに居るはずの勝沼先生の姿は無かった。

「あれ?

 誰も居ないのかなぁ…」

そう言いながら敬子は勝沼先生が座っている机を見ると、

そこには小さな空箱が置いてあり、

小さなチョコのかけらが箱についていた。

「あっ、

 先生もあのチョコ食べたんだ

 でも、ウィスキーボンボンじゃないみたいね」

空箱を見ながら敬子はそう言うが、

「そっそう…」

熱でフラフラのあたしはそう返事をするだけで精一杯だった。



「じゃぁ

 先生を呼んでくるから、

 宍戸さんはここに寝ていてね」

あたしを空いているベッドに寝かせると、

そう言い残して保健室から飛び出していった。

「ハァハァ

 ハァハァ」

ベッドに寝かされてもあたしの体調は一向によくならず、

熱と虚脱感はさらに拍車をかけてきた。

「くはぁ…」

流れ落ちる汗を感じながら、あたしは口を大きく開け、

まるで窒息しかけた金魚の如く息をする。

すると、

グッググ…

あたしの中からなにかが持ち上がるように盛り上がり始めた。

「あっ

 あぁ、

 なに?

 なにが…」

あたしの手や足がパンパンに張り、膨れていく、

その感じは筋肉トレーニングをした翌日以降に感じる筋肉の張りにも似た感じだったが、

しかし、いまあたしを襲っているのはそれの激しいものだった。

ムリムリムリ…

「くぅぅ…

 脚が…

 手が…

 あぁ体が重い…

 うっうぅ!!」

あたしはうなされ、そして、それを感じながらも、

しかし、一本の指すら動かすことが出来なかった。

そして、

ムリムリムリ

グググググ…

モリッ!!

モリモリモリ!!!

盛り上がる”それ”がある一線を超えたとき、

あたしの身体は一気に膨張を始めだした。

「はっ

 はっ

 はっ

 あっあぁ…

 いやっ

 体が…あっあぁぁ!!」

ムクムクムク!!

急激に膨れ上がるのを感じながらあたしは首を左右に振り、

さらに激しく襲い始めたその苦しさから逃れようとしたが、

あたしはただ翻弄され続けていた。

そして、

ムクムクムク!!

ピリッピリッ

着ていた制服が身体にピッチリと張り付き、

バリッ!!

ビリビリビリ!!

ついに爆発するかのごとく引き裂けてしまうと、

ヒヤッ!

体中の肌が冷気を感じた。

「あぁ…

 まさか、裸になってしまったの?

 そんな

 そんな

 どっどうしよう」

苦しみの中にもかかわらずあたしは全裸のままベッドに寝かされていることを心配すると、

ムギュゥゥゥゥ…

あたしの股間、

そう、ちょうど女の子のもっとも大事なところに力が集まりはじめた。

「うっくぅぅぅぅ!!」

まるで、あたしの大事なところを押しつぶして仕舞うかのようなその力にあたしは必死で耐える。

すると、

ムクッ

ムクムクッ!!

あたしのアソコが膨れ始めた。

「あっ

 なに?
 
 アソコがいやっ」

膨れていくアソコにあたしは手の伸ばすと、

ムリムリムリ!!

まるでキノコが伸びていくようにあたしのアソコから肉の棒が延びていた。

「え?

 なっなにこれぇ!?」

感触から肉の棒はあたしのアソコにあるクリトリスであることは判っていたが、

しかし、その大きさがまるで違い、

その大きさから

一瞬、男の人のオチンチンのことがあたしの頭の中をよぎった。

「まっまさか…

 男の人のオチンチン?」

片手で肉棒を掴みながらあたしはそう思っていると、

シュッ

あたしの手がその肉棒を扱いてしまった。

その途端、

ゾクゥ!!!

「あっ!!」

あたしの身体に言いようも無い快感が走り抜けると、

シュッシュッシュッ!!

あたしは反射的にその肉棒を扱き続けた。

「あっ

 あひっ

 いっ

 いいよ、

 きっ気持ちいいよっ!

 あぁ!!」

ついさっきまで、あたしを襲っていた苦しみはすっかり消えうせ、

その一方で、さらに膨らみを増す肉棒を扱きながらあたしは身体をエビゾリにして悶えていた。

シュッシュッ

シュッシュッ

「くぅぅぅぅぅっ!!

 いっ

 いぃ…

 あぁぁ」

口をパクパクさせながらあたしは快感に身体をゆだねていると、

ジン…

苦しさや快感とは違う別の何かがあたしの股間に溜まり始めた。

「はぁ…

 あぁ…

 だっ出したい…

 あうぅぅぅ

 出し…

 出る。

 出るぅ

 うっうぅぅぅ!!」

まるで出口を求めて暴れる竜のごとく

それはあたしの股間で暴れる。

すると、

その竜を導くかのように、

シュッシュッシュッ

あたしの手の動きは早くなり、

「あっあっあっ」

あたしの爆発は間近に迫る。

そして、

「あっあぁぁぁぁ!!!」

あたしの声を同時に、

それは一気にあたしの肉棒の中を突き抜けると、

ビュッ!!!

ビュゥゥゥゥゥ!!!

あたしの肉棒は栗の香りに似た匂いを撒き散らしながら生暖かい粘液を高く吹き上げてしまった。



「はぁはぁはぁ」

虚脱感の中、あたしは呆然としていると、

ダランと下げている腕をゆっくりと上げ、

自分の視界に入れると、

「なに?

 これぇ」

まるで男の人のようなごつい腕と

その手先にベットリと付いている白濁した粘液の姿にあたしは驚いた。

そして、慌てて飛び起き壁に掛かる鏡に自分の姿を映し出したとき、

「いっいやぁぁぁぁ!!」

保健室にあたしの悲鳴が響き渡った。



「なっなんで…

 どうして?」

ペタン!!

鏡を前にして座り込んでしまったあたしの股間から

ムリッ

先端に亀の頭に似た丸みを持った肉棒が聳え立つ。

そして、あたしの身体も…

6つに綺麗に盛り上がり割れている腹筋、

左右二つに別れ胸から肩をカバーする胸筋、

そして、力強く腕や脚を覆い尽くしている…それぞれの筋肉と、

それらの筋肉を覆う薄い皮膚とその皮膚から伸びる濃い体毛…

そう、あたしはマッチョな男に変身していたのであった。

「なっなんでよ、

 なんで、男になっているのよ」

男になった理由を求めてあたしは自分の腕を見ていると、

「あなたもこのチョコ食べたでしょう」

と勝沼先生の声が響き渡った。

「え?」

その声にあたしが振り向くと、

ムキッ!!

あたしと同じ身体を持った勝沼先生があの女性の局所をかたちどったチョコをあたしに見せた。

「あっ

 それは!!」

そのチョコを見た途端、

あたしはチョコを指差し声を上げると、

「そう、これでこの学校で8人目の犠牲者が出たわけね」

先生はそう言いながらあたしを見た。

「ぎっ犠牲者ですか?」

「そうよ、

 あなたの様に男の人に変身してしまう女の子が出ているのよ、

 そして、その子たちはみなこのチョコを食べているわ、

 ほんと、食いしん坊が多いんだから」

「え?

 え?

 じゃぁ、あたしがこんな身体になったのはそのチョコのせいなんですか?」

「えぇ、そうよ、

 なんでも、このチョコには強力な性転換の薬が混ぜられていたそうよ」

「そんな」

先生の言葉にあたしは呆然としていると、

コンコン!!

保健室のドアが叩かれ、

「先生、呼びましたか?」

と言う声と共に柴田キャプテンが顔を出した。

「あっきゃっキャプテン!!」

キャプテンの顔にあたしは慌てて露になっている股間を両手で隠すと、

「アハハ

 そうか、宍戸、お前も男になっちゃったか、

 いやぁ、俺もだよ、

 ホラッ!!」

キャプテンはあたしの変身にさほど驚くことなく、着ているジャージを脱ぐと、

ムキッ

っと筋肉が盛り上がる逞しい自分の身体を見せる。

「そんな…キャプテンもですかぁ?」

「あぁ、あのチョコを食べたらこんな身体になっちまったよ」

キャプテンは臆することなくあたしに説明をすると、

「あぁ、一言言っておくけど、

 人によっては時間が経つごとに精神も男の子になっちゃうから、

 気をつけてね、

 じゃぁあたしは他に男の子になた女の子が居ないか見てくるから…」

そう言い残して先生はムキムキの身体にジャージを身に着けると去っていく。

「そんなぁ」

男になってしまったキャプテンと共に保健室に残されたあたしは呆然としていると、

タン

あたしの肩にキャプテンの手が載せられ、

「なぁ、宍戸、

 おっ俺、前からお前のことスキだったんだよ」

とあたしに言い寄ってきた。

「え?

 きゃっキャプテン、

 そんな、あっあたし、

 おっ女の子じゃないんですよ」

キャプテンの思いがけない言葉にあたしは驚くと、

「いいじゃないかよ、

 俺も女だったんだよ、

 もぅ女も男も関係ないだろう、

 なぁ」

驚くあたしにキャプテンは自分の手をあたしの胸に這わせながら唇を寄せてきた。

「だっダメです。

 キャプテン!」

「好きだ、宍戸…」

「あっあぁ…」

唇をキャプテンに奪われたあたしはそのまま押し倒されてしまったが、

しかし、そこから先の記憶はあまリ定かではない。

でも、そのときにあたしの”処女”が奪われたのは確かだった。



それから1週間が過ぎたバレンタインデーの前日…

チョコを片手に俺はキャプテンの所へと向かっていった。

結局、この学校での被害者は柴田先生を含めて12人だったが

しかし、チョコを配っていた業者は捕まらず、

1週間たっても俺達が元の女の子に戻る手立ては見つからないままだった。

でも、そんなことは俺にとってどうでも良くなっていた。

なぜって、キャプテンの愛を俺はしっかりと受け止めていたからだ。

今日、このチョコをキャプテンに渡し、

そして、キャプテンの処女を俺は頂くつもりだ。

きっとキャプテンは喜んでくれるだろう。

そう思いながら俺はキャプテンが待つバレー部のドアを開けた。



おわり