風祭文庫・異性変身の館






「禁断の接吻」



原作・nao(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-295





「お前さん。

 本当に何も覚えちゃいないのかい?」

「申し訳ありません。

 何も思い出せないのです」

「ふむ、

 何も思い出せないとな」

「はい、

 おとっつぁんの名も…

 おっかさんの名も…

 あのぅここは一体どこなのでしょうか?

 そして、いつなのでしょうか?

 昨日から着の身着のままとすれば冬なのかもしれません。

 しかし、さっきから鳴いているこの虫の声は一体…

 教えてください。

 いまは一体何月の何日なのですかっ!」

ミーンミンミンミン

響き渡る蝉時ぐれの中、

真冬用の分厚い布地で出来たドレスを土で汚し、

起き上がった明らかにお姫様と思える少女は

自分の周りを心配そうに取り囲んでいた小柄の採掘人達に掴み掛かかると、

3人ほどまとめて締め上げてみせる。

「えぇいっ、

 落ち着けっ!」

「通りすがりの労働者である

 わしらの首を締め上げても真実には辿り着けないぞ」

「苦しいぃぃ!!」

3倍はあろうかと思えるお姫様と採掘人との体格差のためか、

採掘人たちはいとも簡単に持ち上げられてしまうと、

3人とも足をバタバタさせて必死に少女の手の中から逃れようとする。

しかし、

「あたしは一体誰なのでしょうか?

 どうしたらいいんですか?」

藁にも縋ろうとしているのか、

少女は締め上げる手の力をさらに込めて問いかける。

「親分っ

 これは間違いなく”記憶喪失”って奴ですよ」

「早合点するなっヤス。

 まだそうと決まったわけではない」

そんな少女の足元で逃れることが出来た採掘人たちがヒソヒソ話を始めだす、

とその時、採掘人達が仲間内では”無愛想”とあだ名される男が、

「なぁ、あまり問い詰めないで、

 今はそっとしてやろうじゃねえか」

口を差し挟むと、

「この人、悪い人には見えないよ」

今度は”無愛想”の息子も少女を庇い出した。

「そーかなぁ」

「どう見てもこれって犯罪行為にしか見えないんだけど」

まるで使徒と対峙する人型決戦兵器のごとく聳え立ち、

仲間を締め上げ続けている少女を仰ぎ見ながら採掘人たちは考えるポーズをしてみせる。

すると、

「ごるぁ!

 考える真似をする暇があるなら、

 さっさと助けないかっ!」

と頭の上から締め上げられている採掘人の怒鳴り声が響き渡ったのであった。



「気持ちは落ち着いたかい?

 娘さん」

夜の帳が下りたころ、

採掘人たちが暮らす村にその声が響き渡ると、

「はい」

少女は窮屈な部屋の中で小さく返事をしてみせる。

「まっまぁ…

 そのなんだ、

 この家の寸法は俺達に合わせてあるので、

 お前さんにはちょっと窮屈かもしれないけど、

 でも、雨露は凌げることは出来る。

 それにこのご時勢だ、

 命があるだけでもめっけもんと思わないとな」

「はい」

「お前さんが崖から落ちてきたのを見た奴の話だと、

 モヒカン頭に追いかけられていたんだって?」

「よく覚えていません」

「そうか、よほど怖い目にあったんだろう、

 あいつら人の命を紙くず同然と思っているからな」

「まぁでもここなら奴らも入ってはこないだろう」

「娘さん、ゆっくりしていきなよ」

と相変わらず記憶を失っている少女を思い採掘人たちは部屋を出ていった。



「彼女があの妃の回し者なんて思えないよな」

「あぁ、あの妃のせいで国王も変わっちまったなぁ」

「うん、それは認めよう」

「異議なし」

部屋を後にした採掘人たちが居間に戻ると、

”先生”と”顎鬚”と呼ばれる男が”無愛想”と共に酒を飲み出した。

”先生”と”無愛想”の二人は元々は鉱山の採掘人ではなく貴族であり、

先生は若くして王室の教育係を務めた程の教養の持ち主である。

かつて大陸の片隅にあるこの王国が巨大生物兵器を投入した”炎の7日間”と呼ばれる戦災を受けた時は、

皆は知恵を絞り、難民の救済や国土の復興に汗を流したのだが、

しかし、復興が一段落したころ、

炎の7日間で王妃を失った国王が新しい王妃を迎えた途端、

国王は政治を疎かにするようになり、

それに呼応するかのように不気味な改造バイクに跨る”モヒカン頭”と呼ばれる

不埒物が国を荒らし始めたのである。

二人は国王を諌め、モヒカン頭の退治を言上しようとしたが、

しかし、逆にありもしない罪で追放されてしまうと、

”顎鬚”に助けられて彼が住むこの村へ逃れたのであった。



「あの娘さん、

 前のお妃様に似ていなかったか?」

不意に”無愛想”がそう呟くと、

「確かにそうだな」

「まさか王女様?」

「おいおい、

 王女様なんて居ないぞ」

「でも…」

「隠し子か?」

「なに馬鹿なことを言っているんだ。

 それよりも王子の行方が心配だよ」

と皆は半年前から姿を消している王子の身上を案じて見せる。

国王と前の王妃との間に生まれた王子の行方が分からなくなり、

皆はそのことを心配していたのであった。

「ご無事だと良いのだが」

酒を飲みつつ”先生”は王子の身を案じるが、

しかし、彼らがいくら心配しても姿を消した王子の行方など判る筈がなかった。



翌朝、採掘人達が目を覚ますと、

少女が小屋の掃除をしていて、

「娘さん、わざわざそんな事しなくても」

「いいえ、お泊め下さったせめてものお礼です」

「なかなかの働き者だな」

「そうだな」

と採掘人たちは少女の申し出を快く受けたのであった。

しかも、少女は掃除だけでなく彼らの朝食まで用意したのだが、

そのことを言い出せずに居ると、

「オシンコ、味噌汁、納豆のみとはさびしい食事だなぁ」

「これでビーフがあれば」

「ちょっと飯をぉ」

「人の味噌汁に箸を突っ込むなっ!」

「っと今朝の当番は誰だっけ?」

「あっ、忘れていた!」

「ぬわにぃ!

 全員で決めた朝食当番を忘れるとは万死に値する!

 連行しろ!

 人民法廷を開いて処罰を決する」

「いやだぁ、解剖はいやだぁ」

「馬鹿な奴…

 ってことは」

「この朝食を作ったのは誰だ?」

その時になってようやく採掘人たちは朝食を作った人物について問い尋ねると、

「お口に合わなかったみたいでごっごめんなさいっ

 朝食はあたしが作りました」

少女は皆に向って頭を下げてみせた。

「え?」

その声に皆は一斉に振り返ると、

「あっお、お嬢さん。

 ちょ、朝食まで作って…頂いたのですか」

仲間内では”うっかり”と呼ばれる若者が少女にお礼を言おうとする。

すると、

「むっ、この米は新潟産のコシヒカリをかまどで炊いたものだな。

 味噌汁の味噌は、北海道産の大豆を使い、

 納豆は清流・那珂川の水をふんだんに使った水戸産。

 オシンコの白菜は…なるほど一見すると質素だが、

 どれも確かな産地の物を使っている。

 しかし、この下味はなんだ…

 己っ、この雄山を試そうというのかっ

 えぇいっ、女将を呼べ!」

稀代の食通である某陶芸家のごとく採掘人の一人が声をあげた。

「また雄山ゴッコが始まったよ」

「ほっとけって」

「おら、さっさと食べろ。

 やることは山ほどあるんだから」

「あっあぁ」

仲間に指図されるまま’うっかり’は席に着こうとすると、

スッ

いきなり椅子を引かれてしまうや、

ドタンッ

”うっかり”は盛大に床に尻もちをついてしまったのであった。

「どんくさいなぁ」

「お前はいつもこうだよ」

「先に出掛けるぞ」

そんな”うっかり”に皆は罵声を浴びせると、

何とか自力で立ち上がった”うっかり”は食事を取り急いで仲間の後を追おうとする。

すると、少女は呼び止め。

「あのぅ、これってイジメじゃないんですか?」

と小声で尋ねてみせる。

すると、

「いえ大したことはありません」

「本当ですか?

 本当に怪我はありませんか」

「い、いえ、大丈夫です。

 本当に大丈夫です」

と”うっかり”は尋ねられたことが恥ずかしいのか赤面しながら返事をするが、

「顔が赤くなっていますが、

 具合でも悪いのですか?」

「な、何ともありませんよ」

なおも質問を浴びせる少女から逃れるように”うっかり”はそう言って小屋を後にした。



少女は次第に村の人々とも打ち解けていき、

「あの娘さんはよそ者だが働き者で助かるよ」

「まるで天使みたいだよ」

「これで税金が安くなればもっと良いのに」

「本当だよ」

とうわさし始める。

そう国王は妃の言いなりになって色々と口実を設けては税金を搾り取るようになり、

人々の生活は決して楽なものではなかった。

さぁて、場面は変わってここは”とあるお城の中”。

少女が村人と打ち解けていく様子を水晶玉で見ていた女・王妃は、

「ちっ!

 あの小娘め、

 生きていたか」

と舌打ちをして悔しそうに呟くと、

『だから兵隊なんかに任せないで、

 君の手でさっさと殺せば良かったのさ。

 どうするんだ?』

その妃の背後より唸るようなどす黒い声が響き渡る。

「少しは使えるかと思ったのに、

 えぇいっ、

  モヒカン頭共をことごとく粛清しなさい」

悔しさをぶつけるようにして妃は声を上げると、

「はっ!」

その命を受けてたちまち衛兵たちが飛び出していく。

『くっくっく、

 八つ当たりか?』

その様子を見ていた頭から一本の角を伸ばしている悪魔は笑って見せると、

「いいえ、

 モヒカン頭たちはわが国を荒らしまわっている極悪人。

 それらを退治するのはわたし達の役目です」

と妃は言い切ってみせる。

『ほぉ〜』

それを聞いた悪魔はパタパタと背中の羽を羽ばたかせて妃の前に出るなり、

『さすがは国民から慕われている王の妃。

 考えていることは常にお国のためですか』

と節くれだった指で妃を指差し指摘してみせる。

「えぇ、そうですとも」

その指摘に妃は頷くと、

『ふんっ、

 国を愛する愛国者の妃が悪魔と契約をしている魔女と知ったら、

 この国の国民はどう思うかなぁ』

妃と比べて幼児くらいの背丈しかない悪魔は聞き返した。

「うるさいわねぇっ、

 あなたは契約に従えば良いのよ。

 言っておきますけど、

 あたしがここから居なくなったら困るのはあなたなんでしょう」

と妃は言い返すと、

「作戦変更!

 巨大な竜ですらイチコロのこの毒薬で忌々しい小娘を始末してやる」

そう言うや王妃は毒薬の入った小瓶を眺めてみせる。



その日の午後、

「ふんふんふーん」

鼻歌交じりに少女が小屋の掃除をしていると、

「く、苦しい〜」

と助けを呼ぶ声が聞こえてきた。

「この声は」

それに気がついた少女は小屋から出ると、

近くの道端で黒いローブを羽織った老女が胸を抑えながら苦しんでいる様子が目に飛び込んだ。

そして、

「お婆さん。

 どうしましたか?」

慌てて少女が駆け寄った途端、

お婆さんはいきなり菱形をしたナイフの様なものを振りかざしたのであった。

「キャッ!

 何をするのですか?」

「フフフ、

 スイッチオーバー!!」

悲鳴を上げる少女を見下ろしながら

お婆さんは握りこぶしを合わせてそれを捩る仕草をしてみせると、

ズオッ

たちまちお婆さんはボンテージ風衣装を身に纏う妃へと姿を変えて見せる。

「あなたは!!」

正体を現した妃を見て少女は声を上げるものの、

「えっと誰でしたっけ?」

と逆に問い尋ねた。

「なっ、忘れた振りをして油断させる気か、

 まぁいい、

 私はねぇ、お前の息の根を止めに来たのさ」

少女に向って妃はそう言うと、

ポンッ

猛毒が入った小瓶の蓋を開け、

手にしたリンゴにドボドボと振りかけてみせる。

そして、猛毒が降り掛かったリンゴを空高く放り投げるや、

「ナケワメーケよっ、

 我に仕えよ!」

の声と共に手にしていた菱形のカードをリンゴに向けて飛ばしたのであった。

やがて、

『どーくりんごぉ!!!!』

ドスンッ!

の声と共に少女の前に手と足が生えた巨大なリンゴの怪物が降り立つと、

「この小生意気な小娘を始末してしまいなさい」

と怪物の肩に乗った妃は命じる。

「ひっひぃ!」

『どーくりんごぉ〜』

ドスンドスンドスンッ!

妃の命令に従い、

怪物は逃げる少女を追いかけ始める。

しかし、少女の足に速さでは逃げ切れることなど出来るはずなく、

ついに崖っぷちに追い詰められてしまうと、

「とうとう追い詰めたよ、

 諦めるんだね」

と妃は声を上げる。

しかし、

キッ!

少女は諦めるどころか妃を見据えながら、

懐から変身アイテムである”りんくるん”を取り出すと、

「チェインジ!

 ぷりきゅあっ

 ビートアップ!」

と掛け声をあげる。

すると少女の体は光に包まれ、

やがて、

「ピンクのハートは愛あるシルシっ、

 ぱぁんっ

 もぎたてフレーッシュっ、

 きゅあぴーち!」

の声と共に少女は伝説の戦士へと変身をしたのであった。

「なにっ!

 変身をしただとぉ、

 ナケワメーケよ何をしているっ

 さっさと始末てしまいなさい」

それを見た妃は怪物に攻撃を命じ、

『どーくりんごぉぉぉ!』

それに従って怪物は少女に襲い掛かるが、

「はっ」

ドガンッ!

「ほっ」

ドゴンッ!

「でやぁぁぁ!!」

ズゴォォォン!

なんと少女は素手で襲い掛かる怪物を叩きのめしてしまったのである。

「おっおのれぇぇぇ!」

怪物ともどもズタボロにされた妃はなおも攻撃しようとすると、

シュタッ!

少女は怪物の鼻先に立ち、

りんくるんに鍵妖精を差し込んだ。

すると、

すぽぉぉん!

なんと、りんくるんよりきゅあすてぃっくが飛び出したのである。

「届けっ愛のメロディ!

 きゅあすてぃっく・ぴーちろっどぉ!

 悪いの悪いの飛んで行けっ、

 ぷりきゅあ・らぶさんしゃいん・ふれーっしゅ!!!」

の掛け声と共に必殺技を放ってみせる。

その必殺技の直撃を受けた毒リンゴ怪物は、

『しゅわしゅわぁぁぁぁぁ!!!』

の声と共に浄化されてしまうと、

「ちぃっ

 覚えてらっしゃいっ」

の捨て台詞を残して妃は姿を掻き消してしまったのであった。

「ふぅ」

戦いが終わって少女が変身を解いた途端、

ガサッ

その背後の藪が大きく揺れるのと同時に、

「おらぁ!

 死にさらせぇぇ!!!」

バッ!

姿を消したはずの妃が飛び出してくると、

ギラリ

と輝く短刀を腰に当てて構えてながら少女に向って突進してきた。

「え?」

虚を突かれた形になった少女はただ呆然としていると、

「危ないっ!」

の声と共に妃の前に人影が割り込むや、

すかさず取り出したドリルで妃が持つ短刀を弾き飛ばした。

しかし、

ドンッ

「キャァァァァ」

短刀を失っても妃の勢いは変わらず、

人影もろとも少女を突き飛ばしてしまうと、

人影と少女は崖上より谷底へとまっさかまさに落ちて行ったのであった。

「はぁはぁ

 あはははは!!!

 これで邪魔者はすべていなくなった。

 うふっ、幸せゲットだよ」

崖上に立つ妃は喜びの声を上げながら煙の様に消えてしまった。



「うっうーん」

がけ下に転落したのは少女と”うっかり”と呼ばれていた若者であった。

幸い”うっかり”は途中木に引っかかったらしくほぼ無傷で目を覚ますと、

その傍には少女はぐったりとなって倒れていた。

「何てぇ事だ」

それを見た”うっかり”は少女を救えなかった事を後悔したが、

「うっ、

 近くで見るとより綺麗な子じゃないか」

少女の美しさに目を奪われてしまうと、

”うっかり”の心の中にこの少女を自分のものにしたいという欲望が芽生えたのであった。

「へへっ、

 死んだばっかりなら変態じゃないよね」

鼻息荒く”うっかり”は少女の服を脱がすと、

露になった裸体を舐めるように眺め、

「大きな胸、

 くびれた腰、

 丸みを帯びたお尻、

 うほぉっ

 なかなか良い体しているな。

 こんなに綺麗な体なのに死んじゃったって勿体無い。

 僕が綺麗にしてあげるよ」

囁きながら”うっかり”は少女の上に圧し掛かると、

そっと唇を重ね合わせる。

すると

「うっ!」

突然、若者の体に激痛が走り、

「た、助けてくれぇ!!」

その苦しみに”うっかり”はもがき始めた。

「うんっ?」

すると、その悲鳴を聞いて少女が息を吹き返すと、

「崖の上では助けてもらったけど、

 でも何も知らずに僕の唇を奪うとは君は何て間抜けなんだ」

と少女は冷めた視線で”うっかり”見る。

「え?

 僕?

 え?

 えぇ?」

少女の口調が変わっている事に気づいた若者は、

「あ、頭を打っておかしくなったんですか?」

と聞き返すと、

「いいや、僕は君のおかげで呪いが解けて記憶が戻ったのさ」

と少女は返事をするや、

バッ

自分の胸を見せ付けてみせる。

すると、いつの間にか少女の胸は真っ平らになり、

さらに筋肉が鎧の様に硬く引き締まっているではないか。

「あ、あなたはいったい誰なのですか?」

「僕の事よりも自分の心配をするべきだよ」

その指摘に”うっかり”は自分の胸が膨らみ始めている事に気付くと、

「わ、私、お、女になっているの?」

「そうだよ、僕はこの国の王子だったけど、

 継母に呪いを掛けられ、

 女にされた上に記憶を奪われてしまった」

「じゃあ、あなたが行方不明になっているという王子なのですね」

「そうだ、君のおかげで呪いが解けたけど、

 君は僕の呪いを解いた代償として女にならなくてはいけない」

「そんな」

それを聞かされた”うっかり”の目から涙が溢れるが、

しかし、そのときには

プルン

と”うっかり”の胸には乳房が震え、

さらに股間には縦溝が刻まれつつあったのである。

すると、

「声がしたのはこっちだぞ」

若者の悲鳴を聞いてか”顎鬚”と”先生”、”無愛想”の三人が駆けつけてくると、

「こんな所で何をしている?」

そう尋ねながら”顎髭”は王子と女になった若者に近づいてきた。

「顎髭さん。

 私、女になってしまったの」

「はぁ?

 冗談もいい加減にしろ」

「しっ信じて下さい」

”先生”と”無愛想”は必死で訴える”うっかり”を見て首をひねると、

改めて王子の顔を見るなり、

「王子ではありませんか」

「よくご無事で」

とその足元に傅いてみせる。

「うん、ご苦労!」

素っ裸のまま王子は満足そうに頷いてみせると、

「あのぅ王子、

 粗末なものですが、

 そのお姿と言うわけには行きません。

 これで我慢してください」

そう言って”先生”は自分の上着を王子に着させる。

「お前達こそ

 あれから苦労しただろう」

「ありがたき幸せ。

 王子、俺達の小屋へ案内しますよ」

”先生”の案内で王子が小屋に戻ると、

王子は採掘人達に事の経緯を説明した。

「あの”うっかり”が女になったなんて信じられん」

「王子、今までの無礼をお許しください」

「いや、こちらこそお前達に世話になったよ」

と皆は軽率な行動で女になってしまった”うっかり”を笑い合ったのであった。



その後、王子は村人達と手を組んで妃を倒すために兵を挙げると、

呼応する国民が王子の下に集まり、

城はたちまち反乱軍によって包囲されてしまったのであった。

「何で王子が生きているのよ?」

「お前がヘマをするからだよ」

「主に向ってその口の利き方はなに?」

「お前との契約は終わりだ」

「なんですってぇ」

退路を断たれた妃と悪魔はいがみ合いはじめる。

すると、

「お妃様ぁ、

 大変ですっ、

 モヒカン達が軍団となって我々に戦いを挑んできました」

と妃に命じられてモヒカンの粛清に向ったはずの衛兵が悲鳴を上げて駆け込んでくると、

バババババ!!

「いやっほう!」

の声と共に奇怪なバイクに跨るモヒカン達が秘密の通路よりなだれ込み、

気勢を上げながら城の中を破壊しはじめた。

「おーのーれぇぇぇ」

キッ!

妃はモヒカン達を睨み付けながら腕を伸ばし

逃げようとする悪魔の襟首を掴み上げると、

『なにをするっ』

「うるさいっ、

 こうなったらみんな粛清してくれる!」

の声と共に

「合体っ」

『うぎゃぁぁぁ!』

なんと妃は悪魔と合体をしたのであった。



「うおぉぉぉ!!」

「妃を倒せ!」

程なくして王子を先頭に反乱軍が城に突入してくるが、

しかし、城の大広間で彼らを待ち受けていたのは、

モヒカン頭たちの惨たらしい死体の山であった。

「なんだこれは…」

「憎たらしいモヒカンだけど、

 こうなると」

「うげぇ」

体の中から爆発したとしか思えないモヒカン達の姿を見せ付けられて、

反乱軍の士気はたちまち下がっていくと、

「ふふふふふ…

 待っていたぞ」

の声とともに、

ズンッ!

マッチョな男が皆の前に降り立ってみせる。

「何だこいつは!」

見上げるほどの背丈の男の登場に皆は凍りつくと、

「我こそは王なりっ」

と男は声を上げ、

目にも留まらぬ速さで反乱軍に襲い掛かるや、

次々と秘孔を打ち抜いていくと、

「ひでぶっ!」

反乱軍の兵士達は自爆し始める。

「ひっひぃぃぃ!」

「あっ悪魔だぁ」

それを見た者は雪崩打って逃げ出すが、

しかし、城から脱出できた者の姿は無く、

皆血飛沫となって消滅してしまったのであった。

「ぐふふふふ、

 さぁ王子、

 残るは貴様だ」

「お前は…妃か」

二人っきりになった広間で男と王子は対峙すると、

「ははははは、

 妃?

 そんなのは知らんっ、

 我こそ、この世界の王だ!!」

男は声を上げ、

メキメキメキ

その体を膨らませていく。

「ならば、

 よかろうっ

 うぉぉぉぉぉっ!!!」

その声を受けて王子も体を膨らませて上着を吹き飛ばして見せると、

王子の体に刻まれた7つの傷がくっきりと姿をみせる。

「行くぞ」

「望むところだ」

「うぉぉぉぉぉっ」

「あたたたたたっ

 あたぁ!」

血に濡れた大広間での妃と王子の壮絶な戦いは3日3晩続き、

ついに

「おわたぁぁ!!」

王子が放った渾身の一撃が妃の秘孔を貫いたとき、

「ふっふっ

 ふわはっはっはっ!!!」

妃は笑い声を上げながら悪魔共々消滅したのであった。

こうして全ては安寧のうちに解決し、

王妃の魔法が解けて正気に戻った国王は自分のしてきた行いを悔い、

王位を息子である王子に譲ったのである。

国王になった王子は”先生”と”無愛想”に貴族としての地位を与えようとしたが、

二人はそれを断って先生は村の子供に学問を教えるようになり、

無愛想は”顎髭”と共に雑貨屋を始めた。

さて、女になってしまった”うっかり”はというと、

「こんな私が王妃になって大丈夫だったのですか?」

「今の生活に不満があるのか?」

「いいえ、ただ私の様な者が王妃になるのは身分不相応だと思って…」

国王が王妃を抱き締めると、

「気にする事はないよ」

「で、でも」

「君を王妃にしたのは国王である以前に一人の男として君が好きだからだよ、

 愛しているよ」

国王はそう言って王妃と唇を重ね合わせたのであった。



おわり