風祭文庫・異性変身の館






「少年だった日」
(美芙由編)



原作・カギヤッコ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-206





「あれ、奈津美ちゃんに美芙由ちゃん

 二人そろって出かけるのかい?」

初夏を迎えたばかりの昼下がり、

土間より表に出ようとしていた

杉石美芙由と双子の姉である奈津美をおばが呼び止めた。

「う、うん」

「ちょっと散歩に出かけようと思ってね」

「久しぶりに来た事もあるし…ねっ」

少しドキリとした顔で二人はそう答えると、

「そうかい、

 この辺はまだそんなに物騒じゃないけど、

 でも、気をつけて行きなさいよ」

とおばは美芙由たちを見送る。

「もう、おばさんったら…」

「わたし達はもう子供じゃないんだから」

おばの言葉にそう言い返しながら、

少し嬉しそうに美芙由と奈津美は家を出た。



小さい頃

よく家族で遊びに来ていたおじ夫婦の家にひょっこりやって来たのは

美芙由と奈津美が社会人になって初めての五月の事だった。

お互いに違う職業に就き、

五月病やその他のトラブルをどうにかかわしながらも

慣れない仕事をこなしていた彼女達だが、

ふと思い立ったかのように土日を利用して

この小さな山村を訪れていたのであった。



「なんだか…」

「うん、寂しくなったような気がする…」

初夏と言うには少し熱い空気と

涼しげな風に包まれながら二人は連れ立って歩いてゆく。

サワサワ…

風に揺れる木々や手入れの行き届いた田畑は

小さい頃とそんなには変わらないものの、

しかし、小さい頃に比べるとおじ夫婦も相応に年を取り、

また村自体もどこか寂しさを増していた。

そんな一抹の寂しさを感じながら

美芙由と奈津美は静かに歩き、

「確か…」

「この辺だったわよね…」

二人そろって何かを探しながら川を遡る道を歩いていると

林の中へと続く小さな脇道が姿を見せる。

獣道とはいかないまでも当然舗装はされておらず、

本当に山道と言う感じの小さな道に、

「あっあれじゃない?」

「そっそうみたいね」

「うわぁぁ、

 ここはまだ変わっていないんだ…」

道を見つけた二人は驚きながらそうつぶやくと

そのまま脇道へと進んでいった。



サワサワサワ

サワサワサワ

森の木立は久方ぶりの侵入者に警戒してかざわめき

また、動物達も忙しく動き回る。

「あれ?」

「道に迷ったかしら?」

しばらく歩いているうちに美芙由と奈津美の足取りは迷い出し始めた。

小さい頃のかすかな記憶を頼りにしながら進んで来たものの、

12年の歳月は感覚を狂わし、

二人は目的の場所にたどり着けぬまま林の中を歩き続ける。

「まずいわよこれ…」

「どうしよう」

元来た道もわからない状態になり、

引き返すことも出来ぬまま、

美芙由と奈津美は不安にかられながら林を突き進んでいく、

すると、いくら歩いても変わらなかった林の風景に変化が起きた。

「あっ、あれ」

何かを見つけた美芙由が声を上げると、

「あ…やっと見つけた…」

続いて奈津美も声を上げる。

そう、二人の視線の先には

林の中にぽっかりと開いた小さな空間の中に

誇らしげに建つ小さな祠があった。



祠はこの辺りの土地神様を稲荷として祭ったもので、

12年前、

美芙由と奈津美が少年と共に掃除をしたあの祠であった。

「この祠ってこんなに小さかったっけ?」

「子供だったからねぇ」

前にかがみながら二人は祠を見るが、

しかし、あまり手入れがされていないためか、

壊れてこそいないがどこか煤けていた。

「全然手入れがされてないみたい」

「あのとき、あたし達がしたままなのかな…」

祠を見ながらそうつぶやくと

奈津美は祠にかかっていた枯葉を払い、

美芙由は中に安置されている白狐像の頭のほこりを軽く掃う。

気休め程度でしかないのは彼女達もわかってはいたが、

それでもどこか思う所があるのか

それとも何かつき動かすものがあったのか。

形だけでもきれいになった祠に

美芙由と奈津美は静かに手を合わせた。

そして、徐に立ち上がると、

「この祠があったと言う事は…」

「確か、この近くに…」

「あった!」

立ち上がった二人が辺りを見渡すと、

ちょうど祠と向かい合う側から伸びる小さな細い道を見つける。

その道はちょうど少し大きな道と合流しており、

一方は本道につながる道である。

「やっぱり忘れちゃうものなのかな…」

「かもね」

全く見当違いの方向を歩いてしまっていた事に

美芙由と奈津美は気づいてため息をひとつつくと、

もう一方の方向へと歩き出した。

そして、

「わぁ…」

「キター!」

サワサワ…。

程なくして二人の目の前に広がったのは

少しゴツゴツした岩場と小さな浜辺にはさまれた小さな川原だった。

ここはあの日、美芙由達が出会った少年につれられてた

”秘密の場所”であった。

「ここは変わっていない…」

「うん」

そうつぶやきながら美芙由は川原を静かに歩く。

次の日にここで遊ぼう…

そう約束して少年と別れたのだが、

しかし、戻った美芙由達を待っていたのは、

急な帰京であった。

東京で留守番をしている祖母が倒れたとの知らせに、

一家はその日の晩のうちに発ったのだが、

急遽病院に搬送された祖母の病は大したことなく、

程なくして退院をしたのだが、

奈津美達がその村に再び来ることはこの日まで無かった。



「はぁ…」

美芙由は一人気ままに川べりを歩いていく、

小さい頃、おじの家の傍の川では無邪気に走っていたのだが、

だが、いまそれをするには既に彼女は大人になりすぎていた。

「そう言えば、あの時もそうだったわね…」

川辺に立ち辺りを見渡すうちに、

美芙由の脳裏に遠い昔の記憶が遡る。



あの夏の盛りの日、

村のワルガキ達が村の川ではしゃぎ回ったり

釣りをしたり、

さらには山奥の村のためか赤褌姿で飛び込んだりする子もいた。

彼らに姉と一緒に美芙由も誘われてしまったが、

さすがに男子達と一緒になって遊ぶわけにもいかず

そのまま顔を怒りで赤くしながら

日に焼けたワルガキ達の戯れを見ているだけだった。

そんなワルガキ達も

今ではおそらく遠くの大学や会社に勤めており、

村に残っている者達も田畑作業で顔を見る事はない。

「もうあの頃には戻れないんだ…」

そうため息をつきながら美芙由は改めて回りを見渡す。

おじの家の前を流れる川はその後行われた護岸工事で

姿を大きく変えてしまっているが、

ここでは川の流れも、木々の景色も変わらなかった。

けど、自分達だけはめまぐるしく変わって行く。

そんな寂しさが美芙由の心を沈ませるが、

初夏にしては暑過ぎる空気が思考をさえぎる。

「暑いわね…」

額の汗をハンカチで拭うがまだ暑さは収まらない。

寂しさの替わりにいらだちが彼女の心を占める。

ふと周りを見ると姉の奈津美の姿が見えなかった。

「あれ?

 奈津美?

 まっいいか、

 ふふっ、

 あたし一人か…やっちゃおうかな…?」

美芙由は顔を上げると辺りを見廻す。

当然の事ながら川の流れと岩と木々以外誰の気配もない。

「よし、やるか!」

決心をすると彼女はそっと背負っていたナップサックを下ろし、

靴下もろとも靴を脱いで岩陰に置く。

それだけに止まらず上着の裾に手をかけると一気に引き抜く。

プルン。

少し大きめの乳房が戒めを解かれ上下に揺れた。

そして、ズボンの裾に手をかけると

そのままショーツごとひき下ろした。

「ふぅ…やっちゃった」

文字通り一糸まとわぬ姿になった無芙由は

そのまま大きく大の字に体を広げる。

あの時のワルガキ達と同じ様に素っ裸でこの川原ではしゃぎ回りたい。

それが彼女たちがここに来た目的の一つである。

そそくさと脱いだ服をたたむと美芙由は静かに川の中に足を入れる。

ぽちゃり。

「きゃっ」

水の冷たさに思わず足を引っ込めるが、

しばしの後意を決して川の中に足を踏み入れる。

「ふぅ…」

川の冷たさにようやく体が慣れてきたのか

一心地つくと美芙由はそのまま川の中で泳ぎ出す。

ザバッ、

ザバッ、

ザバッ…

川の中であたかも人魚か水の精のごとく裸身を泳がせる美芙由。

その光景はまさに一つの風景画の様であったが、

彼女の心にはどこか物足りないものがあった。

ザバッ!

泳ぐのを止めた美芙由は近くの岩場に手をかけると

そのままよじ登り、腰を下ろす。

「ふぅ…」

心地よい泳ぎ疲れに加え森の中で、

しかも生まれたままの姿で泳ぐ感覚は決して悪いものではない。

しかし…

「やっぱり違うのよね…」

小さくため息をつきながら美芙由はそのままの姿勢で肩を落とすと、

「わたしは女で、

 しかももう大人…

 あの時みたいに無邪気にはしゃぐなんてできないんだ…」

寂しそうに呟き大きなため息をつく。

「せめてこの一瞬でもいいから

 あの時に戻って一緒にはしゃぎたいな…」

と心の思いを口にしたとき、

美芙由は後に誰かがいる気配を感じると、

「誰?」

そう尋ねながら振り向いた先には一人の少年が立っていた。

年の頃は10歳位か、

イガグリ頭にいかにもワンパクそうな顔立ち。

そして、小麦色に日焼けした体には、

浮き上がるようにしっかり赤い締め込みが締められている。

そう、絣の着物は着ていないものの

まさしく12年前、

美芙由たちとここで遊ぶ約束をして果たせなかった少年であった。

「あっ」

あの時と同じ姿の少年を見つめ、

美芙由が小さく声を上げるが、

「きゃっ」

その直後、美芙由は思わず体を丸めてしまった。

「やっやだぁ、

 どうしよう」

一糸纏わぬ自分の姿に美芙由は顔を真っ赤にしていると、

その姿を少年は興味深そうに見つめる。

「な、何よ、見ないでよ…」

顔を赤くしながらなおも美芙由は身を縮めた。

しかし、少年はそのまま近付くと、

「お姉ちゃん、

 そのカッコで一緒に遊びたいんでしょ?」

と笑顔を浮かべる。

完全に見透かされてしまった事で

美芙由の感情は頂点に達してしまう。

「ち、違うわ!

 わたしは只少し熱いから水浴びしてただけなの!

 早くどこか行ってよ!

 恥ずかしいわ!」

思わず美芙由はそう怒鳴ってしまうが

「いいよ、

 お姉ちゃんの願い、

 僕が叶えてあげる」

と言うとそのまま美芙由の背中に近付き、

ムニュッ。

背後からその柔らかいふくらみを優しく、

そしてしっかりとつかんだ。

「キャッ!」

少年の行為に美芙由は一瞬仰け反り

慌てて左腕で胸を押えたまま右腕で少年を追い払おうとするが、

少年はそれをヒラリとかわすと、

ドッパン!

川の中へと飛び込む。

「こらぁ!」

少年を追って美芙由は川に向かって怒鳴ると、

次の瞬間、

バシャーンッ!

「ひっ!」

文字通り飛び出すように水面から現れた少年が

その勢いで美芙由の太ももをつかみ、

そのまま足の間に顔を埋めた。

「ち、ちょっと、

 いたずらにも程が…あんっ!」

イガグリ頭をつかんで引き離そうとした瞬間、

少年は美芙由の“女性”に文字通りかぶりつく。

ハムハム…

チュバチュバ…

「ああっ、

 あんっ、

 やめて、

 やめてよ…」

口全体を使って揉み上げる様にくわえる少年の行為に感じながらも

必死で抵抗しようとするが、

抵抗すればするほど少年の年不相応な行為のペースはさらに上がる。

あたかもそこを通じて奈津美の中から何かを吸い出そうとするかの様に

少年は美芙由の“女性”をくわえている。

「やめて、

 いや…あん…あぁん…」

他者との性的行為は未経験である美芙由にとって

その行為はまさに未知の感覚であった。

しかもそれが年端も行かぬ少年によるものである。

いつしか美芙由はその行為に身をゆだねていた。

「あんっ、

 ああっ、

 いい…もっと、

 もっと吸って…

 吸い出して…」

岩にまたがり、

どこか恍惚とした目で空を見上げる。

「ああ…

 何だか頭がボーっとしてきた…」

連続的な快感状態で感覚が少し麻痺しているのか、

美芙由は自分の体に異変が起き始めている事に気がついていなかった。

ムチュムチュ…

ハムハム…

チュバチュバ…

「ああ…

 吸われる…

 わたしが…

 吸われちゃう…」

ピクピク…

ググググ…

少年が口を動かすたびに少しずつ美芙由の体が縮んで行く。

水面に膝まで沈んでいた足が少しずつ水面から上がり、

足先が着くか着かないかになる。

上半身が縮んで行くのに合わせて

それを支える両腕も肩から指に至るまで

ゆっくりと変化を支えるように小さくなる。

「あん…

 ああ…

 ああ…」

ピクッ、

シュルルル…。

先ほど少年につかまれた胸の膨らみが

まるで空気の抜けた風船の様に小さくなってゆく。

ものの数分で美芙由の体は以前の半分まで小さくなっていたが、

それは身長だけではない。

彼女の外見上の年齢は既に何年もの時を遡り、

かつてここで遊んでいた時と変わらぬ位の年の

少女の姿になっていた。

あたかも少年に時を吸い取られたかの様に…。

「あぁ、

 気持ちいい、

 気持ちいいよ…」

口から漏れる声もどこか幼くなっている。

やっている行為を除けば

二人はどう見ても幼い少年と少女の姿になっている。

しかし、少年はさらに行為を進める。

ザラッ…。

セミロングの髪が抜け落ち、

その下から短く刈り込んだ少年の髪が現われる。

上目遣いでそれを見た少年は、

“そろそろ仕上げだね…”

と内心つぶやくと、

それまでのゆっくりとした動きから一気に搾り取るように息を吸う。

ズルッ、

ズルルルルル…。

「えっ、

 いやっ、何?」

今までとは違い強引に何かを吸い出そうとする感覚に

一瞬美芙由の意識が戻る。

「えっ、あれ?

 なんで体が動かないの?」

体が縮んでいる事を認識できず両手が空を切る。

それに構わず少年はさらに行為を続ける。

「あ、いや、

 ああ、

 うあぁぁぁっ!」

ズボッ!

美芙由の中から何かを引き出しきった少年はそこでようやく口を放す。

そしてその場所―美芙由の股間には小さな塊ができていた。

美芙由は苦痛と恍惚の抜けない目でそれを見、

そして手にする。

縮んでいた塊を三つの方向に広げ、

玉状の二つの塊、

小さな棒状の塊をつまむ。

「これって…おちんちん?

 わたしのおちんちん?」

そう、それはまだ幼いものではあったが

美芙由の言う通りのものであった。

「わたしにおちんちん…

 わたし…

 男の子になっちゃった…

 わたし…男…」

朦朧とした声でつぶやきながら美芙由はそれを握り、

そして、一気に引っ張る。

ピクッ!

「ひっ!」

その瞬間、美芙由の意識がはじけ飛んだ。



「…お…」

「つお…」

誰かが自分を呼ぶ声がする。

「んん…

 誰…誰なの…?」

夏の日差し共に誰かに呼ばれる声に美芙由の意識が戻る。

「ここは…」

うっすらと目を開け周囲を見回すと、

美芙由の目の前にはあの少年が覗き込んでいた。

「君は…」

少年を見つめながら美芙由は問い尋ねると、

ワラワラワラ

たちまち3・4人の日に焼けた肌をした小学生位の少年が集まって来た。

そして、

「何やってんだよ光男。

 そんなに自分のちんちんが珍しいのかよ」

と覗き込む少年が何か変なものを見ているような目で見てくる。

「え?」

その言葉に美芙由は自分を見ると

裸なのは自分だけで

目の前の少年はもちろん他の少年達も半ズボンにランニングシャツ、

頭には麦藁帽子と言う正統派の夏遊びの衣装をしていた。

「あ…

 あれ…

 僕…あ、そうだ!」

美芙由―光男の脳裏に記憶が甦る。

そうだ、僕は夏休みでみんなで川に遊びに来たんだ…

「ごめん、

 一人で先に来てたんだけど、

 熱かったからちょっと一泳ぎしていたら、

 そしたらおちんちんが縮こまっちゃって、

 おかしいな〜と思って眺めてたんだ。」

と光男はまるでおもちゃをいじっていたような顔をして笑う。

「は?

 なにバカ言っていないで早く服を着ろよ、

 釣りしようぜ。」

少年はそう言うと手にしていた釣竿をかざす。

光男は慌てて岩から降りると岩陰に隠していた半ズボン、

そしてランニングシャツを身につけると釣竿を手に飛び出した。



「おっ、釣れた釣れた〜」

「ちぇっ、また餌取られた…」

釣れたり釣れなかったり。

子供達の釣りはしばらく続いていたが、

あまりの暑さに耐えかねた様で、

「あ〜、もうガマンできないや。

 みんな、泳ごうぜ!」

一人がそう言い出すと誰ともなく釣竿を岸辺に転がし、

ガバッ!

バサッ!

文字通り服を脱ぎ捨てると一同揃って川に飛び込む。

もちろん光男も釣りより泳ぐのが好きらしく

一気に服を脱ぎ捨てるとそのまま川に飛び込んだ。

バシャン!

バシャン!

「わははは…」

「きゃはは…」

日に焼けた肌をさらしてまるで河童のようにはしゃぎ回る子供達。

その光景はにぎやかそのものである。

「ほらほら、潜水艦だぞ〜」

浅瀬で一人が背を反らしながら浮上する潜水艦のまねをする。

「いやっほう!」

別の一人が少し高い岩から水面目がけてドボンと飛び落ちる。

「それっ!」

光男も浅瀬で他の少年にふざけて飛びかかる。

本当に理屈も何もない、

ワルガキ同士のふざけあいがそこにあった。

「あんた達、何やってんのよ!」

不意に彼らを呼ぶ声がする。

少年達と同じ学校に通う女子らしい。

「何って泳いでるんだよな〜」

「ああ、そうだそうだ」

みんな口々に答える。

「何ならお前らも一緒に泳ごうよ〜」

岩場に立っていた光男はそう言って胸を張り腰を前に出す。

当然見えるべきものが見える訳で…

「キャッ、

 あなた、何やってんのよ!」

怒鳴っていた女の子が顔を真っ赤にしてどなり、

別の女の子は恥ずかしそうに両手で顔をふさいでさらに目を背けた。

その途端。

「おいっ光男っ

 お前、すっ裸で何をやっているんだよっ」

と声が響いた。

「え?」

その声が響いたほうを光男が向くと、

あの少年が光男の脇に立ち、

「下帯ぐらい締めておけ」

そう小声で言うなり光男に赤褌を投げつけた。

と同時に、

「あはは」

「あはは」

「すっ裸で何やってんだよ」

悪ガキたちが一斉に光男を指差して笑い始める。

「なつなにを…

 お前らだって」

笑い声に光男は言い返そうとするが、

光男を笑う少年達の腰には皆、赤褌が締められていたのであった。

「あっ…

 いっいけねっ」

それを見た光男は誤魔化すように小さく笑い

慌てて赤褌を締めようとするが、

「あっあれ?」

なぜか上手に締めることが出来ずにマゴマゴする。

「なにやってんだよっ、

 一人じゃ締められないのか」

そんな光男の姿に少年は呆れた顔をすると、

「僕に貸してみろ、

 見本を見せてやる」

というなり、光男から赤褌を奪い、

「ここを胸のところで持て」

と赤褌の端を持たせると、

捻りながらそのまま股間を通して背中に出す。

そして腰の横を一周させると、

股間から出てきている縦褌と絡め、

一気に締め上げた。

「ひっ」

股間を二つに裂くような感覚に光男は小さく声を上げてしまうが、

「よしっ」

ピシャンッ!

少年のその声と共に光男の尻が叩かれると、

「ひゃんっ」

叩かれた勢いか、

光男は川の中へ落ちるように飛び込んだ。

「やりやがったなぁ」

川の中から光男が怒鳴ると、

ドボーン!

そのスグ横に少年が飛び込んできた。

そして、

「悔しかったら捕まえてみろ」

光男を挑発するかのように少年はk仕掛けてくると、

「てめー」

「こっちだぁ」

光男と少年の追いかけっこが始まった。

そしてワルガキ達はそのまま水遊びはさらに続いたが

しかし、楽しい時間は早く過ぎ、

いつの間にか夕暮れ時になっていた。

「みんな、もう帰ろうぜ」

一人がそう言い出すと

みんな名残惜しそうに川から上がり、

散らかっていた服を拾いながら身につけて行く。

「光男、先に行ってるぞー」

そう行ってみんなが引き上げたあと、

まだ名残惜しそうに泳いでいた光男はゆっくりと川から上がり、

岸まで辿りつくが、

「…う…少し泳ぎ疲れた…」

そう言うとそのまま岩にもたれそのまま眠りについてしまった。

茜色の景色の中、

すやすやと寝息を立てる光男の前にあのワルガキ達の一人が現れる。

「…お姉ちゃん、

 願いがかなって良かったね。

 僕も久しぶりに思いっきり遊べたよ」

そう告げると少年はそっと光男の股間を締めている赤褌を解き、

その中ら出てきたモノをくわえ、

フゥー…

フゥー…

と風船を膨らませるように息を吹く。

そうするうちに、

ピクッ、

ムクムクッ…

「う、ううん…」

光男の体がどんどん大きくなり、

両手足はスラリと長く、

腰は細く、

そして胸は大きく膨らんで行く。

ファサッ…

短く刈込まれた髪が一気に肩まで伸びる。

「あんっ…」

少年が口を放した時、

そこには小さな塊の代わりに

うっすらとしたベールがかかった。

裸で眠る一人の女性の姿があった。

「ありがとう、

 お姉ちゃん」

少年はそれを見届けると、

満足した顔で林の中に消えて行った…。



「う、ううん…」

美芙由はゆっくりと目を開ける。

「あれ?

 確か変な男の子がアソコをくわえ込んで、

 そのまま男の子になったような…

 そして…」

女そのものの胸と股間を

そっとなでながら奈津美は記憶を辿ろうとする。

だがしかし、確かな様でおぼろげな記憶しか浮かばない。

「夢だったのかな…」

そうつぶやきながら回りを見渡すと、

きちんとたたんでいたはずの服とナップサックがあちこちに散らばっている。

「あれれ?

 きちんとたたんだはずなのに…」

首をかしげながら美芙由あわてて拾おうとした時、

自分の肌の異変がある気がついた。

「え?」

彼女の肌は初夏の日差しを浴びたにしては

るで丸一日夏の日差しに裸をさらしていたようにこんがりと焼け、

さらに腰から股間にかけて

T字型をした白い肌が美芙由の目に映った。

「これって夢…

 じゃないわよね?」

そうつぶやいた時、

あの記憶がありありと甦り。

「うふっ」

思い出した途端、美芙由から笑みが漏れた。

そして鼻歌混じりで服を身につけると川原を歩き始める。

やがて、奈津美の姿を見つけると、

「あっいたいた」

と声を上げ、

「美芙由っ、

 何所に行っていたのよ」

と怒る奈津美に

「それは、こっちの台詞よっ

 もぅ、奈津美ったらどこか行っちゃうんだもん」

と美芙由はふくれっ面をしてみせた。

二人はそのまま元来た道をまっすぐ進み、林を出て行った。

もし美芙由たちが祠に目を向けていたなら

そこには全身びっしょりと濡れた像が見えたはずなのだが、

今の美芙由にはそれを感じる事もなかった。



「どうしたの杉石さん、

 妙に元気がいいけど…」

「ええ、わたしはいつでも元気いっぱいですよ。」

休み明けの職場。

いつになくはつらつな美芙由に上司が首をかしげる。

あの初夏の日の出来事は

彼女の心の中でいつまでも活力の一つとして輝き続けるだろう。

「さよなら、

 そしてよろしく“少年だった日”…なんてね」

そんな呟きを彼女以外の誰も聞く事はなかった…。



おわり



この作品はにカギヤッコさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。